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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と
210/701

日常の章・その3 強さとは?

 7月になり、異世界大使館でもクーラーをつける季節がやって来た。

 異世界地球の北海道の七月の平均気温は26度。

 これから後半になると32度を越す。

 大使館のあった場所は自然公園の中。

 周囲には様々な植物が生い茂り、人工の森が作られている。


「はぁ。極楽極楽」

 大使館の中庭で、マチュアは水着姿で水浴びをしている。

 ウッドデッキを作り、日除けの屋根まで設置する徹底ぶりであるが、問題はその水着である。

「あ、あの、マチュアさん?恥ずかしくないのですか?」

 事務室の中から、赤城が問いかける。

 その横で高畑や吉成もうんうんと頷いているが。

「はて?隠すところは隠しているから問題ないと思うが。何か問題でも?」

 異世界カリス・マレスには水着など存在しない。

 せいぜいサラシのような布を巻きつける程度である。


 地球で転移する前の真央は男性であるが、北方大陸で魂から分解され、再構築した時点でなにもかも女性になっているのである。

 思考はまだまだ真央とマチュアのハイブリッドであるため、男前だったり女っぽかったりと忙しい。


「三笠さん以外の男性陣が鼻の下伸ばしているんですよ?」

「万が一間違いが起きたらどうするのですか?」

 さすがは大使館の道徳担当の高畑・吉成組。

 だが、マチュアはあっさりと一言。

「ちょん切る」

「ち、ちょん‥‥」

「魔法で縦に真っ二つにして、傷口塞いで再生出来なくする。人工のふたなりにしてやる」

 お、おう。

 創造神でさえ股間を押さえそう。

 その言葉で、高嶋や古屋は股間を押さえつつ窓から離れていく。

「マチュアさん、午後からは涼しくなりますから、事務室で仕事してくださいね」

 三笠が窓から声を掛けるが。


「ローブは羽織る。ここで仕事してはダメかな?」

 バンバンとウッドデッキを叩く。

「う〜ん。それなら」

「なんでオッケー出すんですか?少しはマチュアさんを締めてくださいよ」

「大使館内の風紀が乱れます」

 赤城、吉成がすぐさま三笠に叫ぶのだが。

「ここカナンなので、仕事さえしてあれば‥‥というルールですよ。ほら」

 三笠が窓の外を指差すと、水着に着替えた十六夜もドリンクと書類を手にウッドデッキに座った。


「い、十六夜さん‼︎貴女まで。恥ずかしくないのですか?」

「え?柵の周囲に、中を見えにくくする不可視の結界が張ってあるってマチュアさんが教えてくれたけど?」

 わがままな身体つきを披露する十六夜。

「けれど、高嶋さんや古屋さんが」

「すけべな目で見たら、股間を火遁の術で爆破する」

 はう。

 それは嫌です。

「オアシスかと思ったら‥‥地雷原だ」

「夏だから、目の保養は許してくださいよ。去年は見れなかった生エルフの水着シーン‥‥」

 うん。

 気持ちはわかるが、相手が悪い。


「‥‥三笠さん、良いのですか?」

「ルールが緩いのが異世界大使館ですよ。制服はありますが着なきゃ駄目という規定はない。決まっているのは勤務時間、そもそも領事部の子なんて、浴衣着てくる人や甚兵衛に着替えて仕事している部長もいますからねぇ」

 ズズズとアイスコーヒー片手に説明する三笠も、服装はかりゆしウェア。

「でも、急な来客は?」

 そう話していると、正門にリムジンがやってくる。

――シュン

 それに気づいたマチュアと十六夜は、すぐさま仕事着に換装した。

 当然三笠もである。


「あ、なんかまじめに怒っていたのがバカらしくなって来た」

「私、明日浴衣を登録してこよっと」

 そう呟きながら、来客用にアイスコーヒーを取りに行く赤城。

 やがてリムジンは正面玄関前に止まり、中からは一人の女性が現れた。

 すでにマチュアは入り口に回っており、その女性の前で軽く頭を下げる。

「ようこそゲルマニア大使。私が異世界大使館のマチュアです」

「はじめまして。本日はお話を聞かせてもらいに来ましたわ」

「ではこちらへどうぞ‥‥」

 丁寧な挨拶のち、マチュアは第一面会室で査察団関係の打ち合わせを始める。

 地球からは日本、アメリゴ、ルシア連邦に続いて四番目の査察団。

 このまま順当に各国からの査察を受け入れて、カナンにも地球人アーシアンの存在になれてもらう。

 あとは、地球人アーシアンが何処まで異世界に順応するかが勝負である。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「‥‥頭固い。なんだあのおばはん」

 話し合いを終えて、マチュアはゲルマニア大使を見送って事務室に戻ってくる。

 開口一発が、この台詞である。

「打ち合わせでマチュアさんが怒っているのは珍しいですなぁ。何があったのですか?」

「査察団の人数と機械類の持ち込み。向こうの言い分は査察団は20名で機械類の持ち込みは制限なし、異世界からはサンプルの持ち出しも制限するなとさ。期間も一ヶ月とは大したものだわ」

 吉成がソーッと持ってきたパンプキンパイとシナモンティーで怒りを少しずつ鎮める。


「あ、これ美味しいわ。何処のやつ?」

「え?カナンの馴染み亭ですよ?」

「はぁ?いつのまにこんなの作っていたんだ?」

「シルヴィー女王の手作りパンプパイって売ってましたよ?」

 何だろ?

 いつのまにかシルヴィーの料理の腕が上がっている。

 それは実に喜ばしい。

「やるなぁ。教えた甲斐がありましたよ」

「今度、私達にも教えてくださいよ?スィーツの作り方」

「是非。マチュアさん世界スィーツコンテストにカナン代表で参加したらどうですか?」

 赤城と高畑が楽しそうに勧めてくるが。


 ぶっちゃけると、スィーツは趣味のレベル。

 和洋中どれもできるマチュアが作っているから、そこそこの出来ではある。

 だが、相手がパティシエとなると話は別である。


「絶対に嫌。私は酒場の料理人で‥‥パテシエ?本業の人には勝てる筈がないわよ」

 ブンブンと頭を左右に振る。

「それは残念ですねぇ。私もマチュアさんが大会に出るのを見てみたかったですよ」

「三笠さんまで言いますかぁ。もう勘弁してくださいよ‥‥」

「まあ、冗談ですよ。それで、ゲルマニアの件はどうするのですか?」

「他国と同じ条件を説明して、一度検討してくださいと説明した。まあ、呑むか止めるかの二択しか無いけどね?」

「それで宜しいかと。防衛省から、富士総合火力演習の参加についての注意書きが届きましたよ。それと」

 ずらり並んだ入場チケット。

 その数なんと十五枚。

 オークションでは一枚三万円も付くことがある。

「はぁ。行ける人にあげよう。土日の連休シフトの人な」

 すぐさまスケジュールを確認する一行。

「八月のスケジュールって、シフトはどうなってますか?」

「ホワイトボードを見なさい。7、8月のシフトは書いてあるでしょ?」

 ちなみに8月最終の土日は、土屋と高嶋が1日ずつ担当している。


「あ、あれ?だれか代わってくれない?」

「嫌ですよ。お盆の連休に休みを取りたいから、月末は出るって話してたの二人ですよ?」

「そうそう。二人で東京行くんですよね?年に二回のお祭りに」

 他の人も行きたかったらしいが、どうやら二人が強引にねじ込んだらしい。

「三笠さん‥‥どうにかなりませんか?」

「9月は頑張りますので」

 そう縋るように頼み込むのだが。

「マチュアさん、うちの家族で四枚良いですか?」

「どうぞどうぞ」

 スッ、と四枚を受け取る三笠。

「高嶋君達は読みが甘いですよ。去年から話は出ていたじゃないですか」

 ニコニコと笑う三笠。

 その言葉は二人に深く深く突き刺さる。

「さて、当日の担当は誰がつきますか?」

 残った職員に三笠が問いかけるが、誰も返事がない。

「三笠さん、当日はうちの騎士団で向かうよ。せっかくだし、カナンの本気を見せてあげるさ。みんな帰省でしょ?」

「そうなんですよ。行きたいのも山々ですし」

「私もお婆さんの墓参りに行かないとならなくて」

「私はアメリゴ旅行です。有給申請してましたし」

「私はサバゲーの大会が‥‥」

 あら、皆さんお忙しい。

「申し訳ありませんね。お一人で宜しいですか?」

「せっかくの休みだから、みんな羽伸ばしておいで。私は一度演習場で訓練して来るわ」

 手元のクリアパットを操作して、防衛省に連絡を入れるマチュア。

「訓練というと?」

「自衛隊と合流して、うちの魔法鎧メイガスアーマーが実戦に耐えうるかテストして来るのよ。ここからだと、島松駐屯地の隣の演習場かな?」


――キンコーンキンコーン

 お昼休みのチャイムが鳴る。

「ではお昼入ります」

 赤城たちは仕事を止めて厨房に向かう。

 三笠は奥さん手作りの愛妻弁当を取り出してからお茶を入れに向かう。

 領事部も昼休みなので、少し時間をずらさないと厨房は大混雑。


「あれ?マチュアさんお昼は?」

「あるよ。ターキーサンドとワイルドボアの唐揚げ。マルムの実のサラダ」

 空間から大きめのバスケットを取り出すと、それをぶら下げて外のウッドデッキに向かう。

 領事部の人も何人かいたので、そこに混ざって楽しい昼休みである。


 午後からはいつも通りの仕事。

 書類の精査と外交。

 ほぼ毎日、何処かの大使がマチュアの元を訪れる。

 それは自国の現状を淡々と説明し、『だから』異世界に行きたいと進言する。

 それ自体は決して悪い事では無い。

 追い詰められた現在から、新しい未来を手に入れる一つの方法であるから。

 だが、その力を手に入れる為の門番は

 とても気まぐれで自分勝手であった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



――キンコーンキンコーン

 夕方。

 就業時間終了のチャイムが鳴る。

「あ、マチュアさん、これ今週の週刊ステップですよ。サドンデス特集もやってますから目を通しておいてください。

 高嶋がキンデュエの連載誌を机に置いて行く。

 本日発売の最新号である。

「へぇ。世界大会レポートと来年の大会への布石かぁ」

 カラーページを次々とめくると

 時折撮影した覚えのない写真が出てくる。

 世界大会の時の取材写真ではなく、明らかに後から撮影したものである。

 写っているデュエルレストの形式から見ても、明らかに衣笠にプレゼントしたものである。

「へぇ。そこそこに使いこなしているなぁ。でも、個人で使えって行ったのに‥‥」

 写真では、デュエルレストをフルに使ってカードを召喚し、記念撮影みたいな事もやっている。

「まあ、軽いお仕置きだな‥‥衣笠さんのはNo.15と16か。オーナー権限の書き換え。衣笠をロックして使用不可にすると‥‥リンクは残してあげよう、これならすぐに戻せるからなぁ」

 すぐさまクリアパッドで深淵の書庫アーカイブを起動し、全て処理する。

――ピッ

 モニターでは、衣笠の権限がロストしたマークが表示された。


「さてと。約束違反はどうするかなぁ‥‥」

 暫し考えるマチュアだが、突然マチュアの机の上の電話が鳴り響く。

――プルルルルル‥‥プルルルルル‥‥カチャツ

「はい。異世界大使館政治部ですが」

『私、MINACOホールディングス開発部の衣笠と申しますが。マチュアさんお願いします』

「はいはーい。マチュアですが」

『先程開発部で研究していたデュエルレストが突然消滅しまして‥‥なにか心当たりありますか?』

「リンクを切って私が回収しましたが、何か?」

『‥‥週刊誌の件ですよね?』

「ええ。個人と開発部で使っていいとはいいましたが、雑誌掲載は禁止していた筈ですよね?」

『あれはですね‥‥私も騙された方でして、開発部の取材に来た方とは掲載しないという約束だったのですよ。けれどこんな形で裏切られてしまって』

「ふむふむ。それでも約束は約束ですので。また使いたかったら、レンタル契約なら受け付けますと上の方にお伝えください。もしくは‥‥チャレンジ編集が侘びを入れれば考えますので。宜しいですか?」

『では、そう上には伝えます。失礼しました』

――ガチャッ


 かなり落ち込んだ声。

 必死に頭を下げているのがわかるので、マチュアも事務的に話してはいるものの、衣笠の気持ちは理解した。

 だからこその集現社謝れである。

「これでどう動くのか見ものですなぁ」

 すぐさま連絡が来るとは思っていない。

 あとは自動音声対応に切り替えると、マチュアはカナンに帰って行った。


 ‥‥…

 ‥‥

 …


「のんびりとした空気は最高だ‥‥」

 馴染み亭ベランダ席でボーツとしていても仕方ないので、マチュアは久し振りに冒険者ギルドに遊びに来た。

 いつものように壁に掛けてある大量の依頼を眺める。

 入口側にある初心者用依頼の掲示板には、登録したばかりの地球人アーシアンが、通訳できるギルド員から説明を受けている所である。

「私はこっちかな?」

 奥の掲示板に近寄るに連れて、冒険者の数は減っている。

 最後の方など、十人もいない。


「おや、駄目ックスターのマチュアか。久しぶりの冒険か?」

「喧しいわ。駄目ックスターでもA認定うけたわ」

 すかさずギルドカードを取り出して、ライトゴールドに輝くギルドカードを見せる。

 トリックスターとしてはA認定に外見は変化している。

 但し、本当はSSSなのは変わらない。

「へぇ、強くなったなぁ〜」

「トリックスターはな、どんなクラスのスキルも覚えられるんだぜ。今や治療師も裸足で逃げ出すレベルだ」

 嘘ではない。

「まあ、適当な依頼でもこなすんだな」

「そうするよ。さて‥‥食べられる肉はどれかな〜」

 討伐任務の中から、食べられそうな肉を探す。

「ドラゴン退治でも構わんぞ‥‥そろそろ肉が乏しくなって来たからなぁ‥‥」

 中々物騒なことを話しながら、依頼票を見ていると。


『急務、グランドドラゴンの討伐をお願いしたい』


 そんな出だしの依頼がある。

「近くの洞窟に住み着いたグランドドラゴン退治かぁ。カナンから片道三日、往復六日ねぇ‥‥」

 箒で飛ばせば一時間ちょい。

 なら行けなくはない。

――バリッ

 貼り付けてある羊皮紙を剥がしてカウンターに向かう。

「これ受けるわさ」

「はい。ギルドカードをお願いします‥‥Aランクのトリックスターのマチュア様ですね?これはAパーティ指定ですが、お一人で大丈夫ですか?失敗すると違約金は膨大ですよ?」

 マチュアの見た事ない受付が心配そうに尋ねる。

「う〜ん。時間もないし、グランドドラゴン食べたいからなぁ。受けるわよ」

「では、たしかに依頼の発注は完了です。宜しくお願いします」

 依頼票の控えを受け取ると、マチュアは鼻歌交じりでギルドを後にする。

 後は箒に乗って一気にグランドカナンまで向かうと、そこから外に出て後は一直線。

 久しぶりのカナンの空を堪能してからは、最高速で依頼のあった村まで飛んで行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「お、おう。冒険者がいっぱいいるわ」

 森林の中を伐採して作ったのであろう、簡易的な木製の城塞に囲まれた村に入ると、中はそこそこの人数の冒険者たちで溢れていた。

「お、お嬢さんもグランドドラゴン退治かな?」

 入り口近くにいた50前後の自警団が、キョロキョロとしているマチュアに声を掛ける。

「まあ、そんな所ですね。ここにいる人達はみんなそうですか?」

「彼らは村の守護で雇われた冒険者だよ。ドラゴン以外にも、このあたりは魔障が不安定な場所がいくつもあってね。モンスターが自然湧きするんだよ」


 大気中の魔障が不安定に澱んで溜まると、魔障溜まりという霧の空間が生まれる。

 これは自然発生すると、何処かからモンスターを呼び出してしまうという厄介な代物である。

 魔族の住まう地メレスとも繋がるらしいが、あちらからこちらの一方通行のみであり、こちらからメレスに向かう事は出来ない。


「ほう。厄介な事この上ないなぁ。で、グランドドラゴンは何処にいるの?」

「この先の丘陵地帯だよ。彼方此方あちこちに鍾乳洞があって、その中でも最大の所に住み着いたらしくてねぇ」

「成程。どれぐらい?」

「馬で半日だな。今から行くのはオススメしないよ」

「では、ちょいと行ってきます」

 実に話を聞かないハイエルフである。

 ヒョイと箒に跨ると、自警団に手を振って村から出て行く。

 さらに高度を上げると、丘陵地帯にたどり着いた。


「ここだよなぁ‥‥」

 丘陵地帯のあちこちにポッカリと開いた口。

 周囲の草むらは掘り返され踏み固められている、

「グランドドラゴンは、五大竜に属さない陸竜だから殺してもクロウカシスやラグナロクには怒られないと。そして地面を泳ぐアースダイブの能力で!獲物の下までやって来ると」

――ゴゴゴゴゴ

 足元に振動が近寄ってくる。

 そしてマチュアの足元が隆起すると、マチュアは上空に跳ねあげられた。

――バシイッ

「尻尾で獲物を空中に跳ね上げ、落ちて来て身動きが取れなくなったものを食べる‥‥」

 上空で魔法陣を展開すると、魔法鎧メイガスアーマー・ゼロツーを召喚する。

 そこから素早く乗り込むと、装甲に魔力を流し込む。

――ドゴォォォォォッ

 両足で力一杯着地すると、すぐさま機体の損傷を確認。

「落下ダメージは軽微、まずまずだなぁ」

――ズズズズズッ

 ゆっくりと地面から土色の鱗が浮かび上がると、体長およそ30mのグランドドラゴンが姿を現した。

――ガシィッ

 すぐさま背中の両手剣を引き抜くと、そこに闘気を流し込む。

「暗黒騎士の剣術テストだな。こいつに乗って何処まで使えるか‥‥掛かって来なさい」

 クイクイッと右手を突き出して挑発すると、グランドドラゴンは真っ直ぐにマチュアに向かって突進してくる。

「何のっ‼︎」

 タイミングはドンピシャ。

 駆け抜けてくるグランドドラゴンの頭部に力一杯両手剣を叩き込むと、一撃でグランドドラゴンの頭は真っ二つに割れた。

 飛び散る脳漿と大量の血飛沫。

 それがゼロツーの身体を赤と白のマーブルに彩る。

「‥‥こわ、ここまで強くなるかなぁ。これは洒落にならんぞ」

 コクピットの中でクリアパッドを引きずり出すと、機体の実戦データを見る。

「‥‥乗り手の魔力で機体の出力が変わるのはわかってたけど、リミッターをつけないと死人どころじゃないな」

 受けたダメージと与えた威力から算出する。

 弾き出された結果を見て、マチュアは息を呑む。

――ゴクッ

「こ。これは地球人アーシアンに売るとしたら最低スペックに仕上げよう。これはまずい、不味すぎる」

 クリアパッドを戻してからグランドドラゴンに近寄ると、マチュアは機体でドラゴンに触れる。

「えーと、チェスト起動、指定対象の収納‥‥」

――スッ

 綺麗にグランドドラゴンの死体が消滅すると、マチュアはいそいそと箒に乗って村まで戻って行った。


 ‥‥…

 ‥‥

 …


「‥‥あの、終わったのでサイン下さい」

 村に戻ったマチュアは、依頼人である村長の家に向かう。

 その前にグランドドラゴンの死体を取り出すと、茫然と見ている村長に一言告げた。

 流石に彼方此方あちこちにいた冒険者たちも集まって来て、グランドドラゴンを検分している。

「村長、間違いない。この頭の傷は鍾乳洞に住み着いた奴だ」

「そうか、なら、これで任務はおしまいです。ありがとうございました」

 マチュアの手を握ってしみじみと告げる村長。

 後はギルドに戻って報告のみ。

「よろしければ、村に留まって頂けませんか?貴方のような冒険者にも村を守って貰いたいのです」

「え、えーっと。その時は依頼ください。では、急ぎますので失礼します」

 深々と頭を下げてから、グランドドラゴンの死体をチェストに放り込む。

 後は村から出てカナンの馴染み亭に転移するだけである。



「あら、マチュアさん如何なさいました?明日の出発にしたのですか?」

 数時間前に依頼を受けた時にいた受付嬢が、テクテクと歩いてきたマチュアに話しかけた。

「はい、依頼完了。ちゃんと村長のサインももらって来たから。報酬くださいな」

 そう説明しながら報告書を提出すると、受付嬢がそれを手に奥に歩いて行く。

 数分のち、受付嬢は大きめの金貨袋を持ってきた。

「ギルドマスターが問題ないというので、報酬をお支払いしますね。あの村には転移門ゲートはないのに、何か裏技があるのですね?」

「ええ。ちょっとしたコツよ」

「グランドドラゴンはどうしますか?もし証拠に牙とか持って来たのでしたら買い取りますよ?」

「いや、自分で食べる奴だから、自分で解体するね。では失礼しまーす」

 金貨袋をバックパックに放り込むと、マチュアはそそくさとギルドを後にする。

 そして馴染み亭に戻ると、何処でグランドドラゴンを解体するか考え始めた。


「ボルケイドの時は島で解体したから良かったけど、これはどこでしたものかなぁ」

 ベランダ席でシードルを飲みながら考える。

 王都では無理、第二区画もグランドカナンも人目につくからダメ。

 地球などとんでもない。

「‥‥王都郊外?血の匂いでモンスターが、寄って来るぞどうする?」

 暫く考えても何もいい案が思いつかない。


 ならばここは諦めて、マチュアはサウスカナンの銭湯で疲れを癒して眠る事にした。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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