表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と
206/701

地球の章・その24 冒険者VS特殊部隊

 ルシアからの亡命者であるウラジミール・パルセニフ。

 彼の亡命を受け入れたまではいいが、ここから先はルシアとの喧嘩も視野に入れる必要が出てくる。


 面会室で待機しているウラジミールの元に向かうと、マチュアは椅子に座る事なく手を差し伸べる。

「では、カナンに向かいますか。私は貴方の持つ知識には興味があります。けれど、人を殺す知識ではなく、人を生かす知識の方です。カナンで貴方の知識を役立ててください」

「信用してくれるのですか?私の言葉を」

「ええ。疑う必要がどこにあるのですか?ではこちらへどうぞ」

 階段を下りてロビーにある転移門ゲートの前に立つ。

 そしてマチュアが扉を開くと、ウラジミールの手を引いて中に入っていく。

「こ、これは一体‥‥」

「貴方の国のアカデミーが、喉から手が出る程欲している魔法ですよ。まあ、これが作れるのは私だけなので、どうする事も出来ませんけれどね」

 のんびりと白亜の空間を歩く二人。

 ウラジミールは初めて見る光景に、自分が亡命者であるという立場を忘れて嬉しそうに見ている。

 やがてもう一つの扉が見えてくると、そこからカナンに入っていく。


――ヒュンッ

「ようこそ異世界へ、おかえりなさい」

 転移門ゲート前でお出迎えする職員。

「そちらの方は?」

「後ほど説明しますが、まずは検疫です、こちらへどうぞ」

 そのまま隣の部屋に入ると、二人まとめて浄化魔法で浄化する。

 そして手荷物検査の部屋で機械類を全て外してもらうと、マチュアとウラジミールはギルドロビーに出た。

「な、何が何だかさっぱり」

「まあそんなものですよ。さて、このカードに血を一滴下さい。異世界渡航旅券パスカードを登録しないと、この世界での身分証明が出来ませんので」

「は、はい。でもどうやって」

 すぐさま職員が銀の針を用意して、マチュアに手渡した。

「マチュアさま、これで」

「ほいあんがと。ではこれでお願いします」


――チクッ‥‥ポタッ

 ウラジミールが血を垂らすと、異世界渡航旅券パスカードにフウンと文字が浮かび上がる。

 さらにマチュアは彼の魂の護符(プレートを生成すると、それも手渡した。

「‥‥本人に間違いはないですね。さてと、一人護衛をつけましょう」

 腕を組んで考えると、マチュアはブレスレットに向かって叫ぶ。


――ピッ

「エミリア、緊急要請です。40秒で異世界ギルドに来なさい」

『どんな無茶ですか。馬でも20分かかりますよ』

「箒で10分。まあ、急ぎで来て下さいな」

『了解です』

――ピッピッ


「さてと。ツヴァイ、この方はルシア連邦のウラジミールさん。科学アカデミーの方で、カナンに亡命して来た」

「‥‥また揉め事を。亡命者の受け入れには文句はありませんよ。何で仲違いしているルシアから受けるかなぁ」

「困った人には?」

「手を差し伸べる。はい了解です。ウラジミールさんこちらへ、異世界の知識は無いようですので、それについてご説明します」

 カウンターから応接間に向かうツヴァイ。

「彼女は信用していいのかね?」

「私の信じる部下の一人です。絶対に私を裏切ることはありません。ですので、ウラジミールさんを裏切る事もありません」

 そう説明すると、ホッとした表情で頭を下げる。

「では、色々とありがとうございました。このご恩はいつか必ず」

「ええ。もしカナンでの生活で困った事がありましたら、いつでもここに来て下さい。後程護衛を一人つけますので」

「ありがとう‥‥」

 ウラジミールは涙を浮かべながら、応接間に向かった。


「さて、そういう事ですので、フィリップさん、彼の身柄についてはお願いします」

「国賓ですか?」

「客人ですね。私はあの人をここに連れて来て、カナンは受け入れた。ここからはあの人が何をするのか、何が出来るのかですよ」

 カウンター席に座り、エミリアの到着を待つ。

 しばらくして、馬に乗ってエミリアが走ってくる。

「はぁはぁはぁ。エミリア着きました」

「そんじゃあ、こちらについて来て。貴方の任務は要人警備よ」

――カチャツ

 応接間に入るマチュアとエミリア。

「失礼します。ウラジミールさん、こちらはエミリアといいます。貴方の身の回りの世話と警備を担当します」

「エミリアと申します。よろしくお願いします」

 丁寧に挨拶をするエミリア。

 するとウラジミールもエミリアと握手を交わす。

「マチュア様、彼の住処はどうしますか?」

「馴染み亭の部屋を一つ使うように連絡する。エミリアはその隣で住み込みでお願いね」

「メイド仕事は慣れてますから。では、後ほど馴染み亭に案内しますね」

 そう話して、エミリアも椅子に座る。

「ウラジミールさん、暫くはここに遊びに来たりエミリアから話を聞いて、この世界を知ってください。当面はカナンから出る事は出来ませんが、いずれは自由に世界を旅しても構いませんので。では、後はツヴァイとエミリアにお願いします」

 マチュアはそう話してから、頭を下げる。

「こちらこそ、殺されたりルシアに送り返されても文句はなかったのに。異世界は私を何も言わずに受け入れてくれた、ありがとう」

 マチュアの手を握り、ウラジミールは涙を流しながら頭を下げる。

「では、たまに遊びに来ますので」

 そう話してから、マチュアは応接間から出た。


「さてと、それじゃあ喧嘩の準備が」

 そう呟きながら、マチュアはギルドの執務室に向かう。

 そして部屋の中でブレスレットに話しかけた。


――ピッ

「ウォルフラム、私だけど、ポイポイ貸して」

『どうしましたか?』

「とある国と喧嘩になるかもしれない。喧嘩を売られたら買う事にする。軍事国家の精鋭部隊が相手になるかもしれないから、うちの職員では心もとない」

『ポイポイ、斑目の二人を送ります。ギルド経由で大使館ですね?』

「そ、という事ですのでよろしくお願いします」

『では急ぎ送りますので』

――ピッピッ


「さて、どれぐらいで来る事やら」

 そう呟きながら執務室を出ると。

「ポイポイいたっぽいよ」

「むしろ好都合ですなぁ‥‥」

 カウンターでポイポイと斑目が立っている。

 これにはマチュアも驚いている。

「いくらなんでも早過ぎじゃないかい?」

「今宵は、ポイポイ殿と銀富士まで食事に行こうと思っていましたからなぁ。では参りますか、とっとと終わらせて飲みに行きましょう」

 もう飲むことしか考えていない。

「はいはい。それじゃあ行きますかねぇ」

 そう呟きながら、マチュアはポイポイ達とともに大使館に戻っていった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 大使館に戻ったマチュア達。

 取り敢えずポイポイと斑目は、厨房から軽くつまむものを取ってくるとロビーにあるソファーでまったりとしている。

 マチュアは事務室に入るが、どうやら空気が重い。

「無事に送り届けましたが、何、この空気?」

「まあ、予想通りですよ。ルシア連邦大使館から正式な抗議がありまして。ウラジミール氏はルシア連邦の要人であり、国連難民高等弁務官事務所を通して正式に引き渡しを要求するとの事です」

「へぇ。三笠さんの予測通りだね?」

「ええ。空気が重いのは皆さんがこのような事態に慣れていないだけですから」

 納得の状況。

 三笠はいつも通りにニコニコとしている。

「ノン・ルフールマンの原則に基づいて、ウラジミール氏の引き渡しは拒否すると伝えてください」

 堂々と喧嘩するマチュア。


 亡命者、難民は迫害の待つ国に送還してはならないと言うのが『ノン・ルフールマン』の原則。

 これも国連難民高等弁務官事務所の宣言にある。


「では早速‥‥」

 手元の文書をすぐに送る三笠。

 既にマチュアの手は理解している。

「さーてと、今日は残業禁止、定時でみんな帰ってね」

「何かあるのですか?」

「ルシアの特殊部隊が大使館襲撃やりかねないからねぇ。昼間にやると外の守衛が動いてすぐに自衛隊がくるでしょう。なら、人気のない時に仕掛けてくるでしょ?」

 あっさりと説明するマチュアだが。

「それですと、今日亡命が決まったのですから、特殊部隊がルシアから来るまでは時間がありますよ?」

 十六夜がそう話すと。

「ルシアは、ウラジミール氏が日本にいると思って日本国政府には問い合わせしたらしいよ。つまり、特殊部隊がもう日本にいてもおかしくはないのよ?なら、こっちもカナンの流儀でやらせて貰う」

 ゴキゴキッと拳を鳴らす。

「な、なら、私達も」

「それはだーめ。危険なことは本業冒険者の仕事よ。今日はカナンの宿に泊まって頂戴、領事部にも、話は通しておいてください」

 後半は三笠向け。

 すぐさま三笠は領事部に状況に説明しに向かう。

「でも、マチュアさん一人なんて危険すぎますよ?」

「まさかぁ。一人でなんて戦わないわよ、ロビーに助っ人が二人いるわよ。屈強無比な仲間がね」

 その言葉に、一同はそーっとロビーを見る。

 そこにほ、軽く晩酌している斑目と、プリンを食べながらアニメを見ているポイポイの姿があった。

「斑目教官とポイ師匠がいるぅ」

「あ、あの、マチュアさん、皆殺しはしないでくださいね?」

 突然マチュアを宥めに入る一同。

「ん〜。どうだろ?ここカナンだから‥‥」

 笑いながら呟くと、三笠も領事部から戻ってきた。

「話はつきましたよ。まあ、後数時間ですから、それまではいつも通りで。さあ、仕事に戻りますよ?」

 そう三笠に促されて、一同は仕事に戻った。


 ‥‥‥

 ‥‥

 ‥


――ピッピッ

 マチュアの机の内線が鳴り響く。

「はい、マチュアですが?」

『守衛室の白川です。ルシア連邦大使館の大使がいらしてますが』

「通していいよ‥‥ちょいと来客。ポイポイさん達に、宿直室に隠れてもらって」

「はいはい。ルシア連邦大使館ですね?」

「‥‥私、時折三笠さんが怖くなるんですけど」

「ルシアと喧嘩するのに、手の内を隠すのは当たり前ですよね?」

「あ〜はいはい。二番面会室使います」

 そう説明してから、マチュアは玄関まで出て行く。

 すると、黒塗りのリムジンが目の前に止まると、中からルシア連邦大使が出てきた。

「ようこそ。カナン魔導連邦のマチュアです」

「駐日ルシア連邦の全権大使を務めるツェーザリです。色々とお話しを伺いたい」

「ではこちらで」

 丁寧に挨拶すると、マチュアは第二面会室に通した。

 少し広めで、いくつかの大使が集まって話し合いをする部屋である。


 室内に通されて二人とも席に座ると、ツェーザリは早速話を切り出した。

「ウラジミール氏の身柄を渡して頂きたい。彼は亡命者ではなく政治的犯罪者であると認識している」

「残念ですが、既にここにはいません。カナンに送り届けました」

 そう告げると、ツェーザリの眉がピクッと動く。

「本来、異世界カリス・マレスは国連憲章では認められていない国家、そのような国に対して、私たちが正式な手続きをする必要はないのです。私たちが優しく話しているうちに引き渡しなさい。明日まで返事を待ちましょう」

 椅子に深く座り、両手を組んで告げて来るツェーザリ。

 ならばマチュアも加減はいらない。

「全くその通りです。我が異世界カリス・マレスは国連憲章では国として認められていません。ですが、先日、私が国連本部で話をした時、国として認知されたと思いましたが?」

「名目的には。ですが、貴方達は法によって守られてはいません。逆に私たちは国連という法の番人によって護られています。私たちに対しての武力行使は、国連安保理に対して牙を剥くと同じ」

「つまり?」

「正式にこの地に国連軍を派遣する事も可能です。そうなった場合、日本は貴方達を見捨てるでしょうねぇ。この国にとって、軍隊が足を踏み入れるのは禁忌でしょうから」

 全く表情を変えずに話すのが不気味である。

 だが、ここまではマチュアも予想通り。

「国と認められていない存在が、国連憲章を守って抵抗する。国際的には、どちらが味方になりますか?私達は法を守っています。そこに力ずくに来るというのは、立場が悪くなるのはルシアですよね?」

「‥‥言いたい事はそれだけですか?では私たちは明日まで待ちますので」

「断る」

 きっぱりと告げるマチュア。

「‥‥今、なんと?」

「カナン魔導連邦は、亡命者を放逐する事はしない。ノン・ルフールマンを宣言する以上、人道的には私達は間違っていない事が証明される」

「残念です。ではまた改めて伺いますので‥‥」

 それだけを告げると、ツェーザリは護衛と共に大使館を後にした。


‥‥‥

‥‥


「まあ、交渉決裂だわなぁ‥‥」

 呑気に呟きながら、マチュアは事務室に戻って来た。

「終わったよ。計画通りに全員カナンに避難だね」

「まあ、そうなる事も予想してますので。では少し早いですが、皆さん今日は仕事おしまいで。後はマチュアさんに任せて、カナンで楽しむ事にしましょう」

 パンパンと手を叩く三笠。

 すると全員が急いで荷物を片付ける。

「それじゃあマチュアさん、無理をしないでくださいね?」

「最悪逃げてもいいですから」

「殺さないようにお願いしますね‥‥」

「あの。掃除が面倒なので、やるなら一撃で」

 最後はやはり十六夜。

 暗殺者のクラスなので、マチュアがどうするのかも予測はついている。


「殺さんわ‼︎ 殺していいなら楽なんだよ? ルシアに極大範囲魔法落とすだけなんだから。殺さないのが難しいんだから」

 そう説明すると、全員がもう一度頭を下げる。

「気を付けてくださいね」

「任せなさい。じゃあまた明日ね〜」

 そう告げて全員を見送る。

 すると斑目とポイポイもロビーに集まって来る。

「月が満ちる頃かのう?」

「マチュアさん、作戦は?」

 その二人にマチュアは一言。

「サーチ&スタン。見つけ次第動けなくして。私はロビーで深淵の書庫アーカイブで敷地内全体監視するので」

 そう説明すると、マチュアは厨房からおにぎりと豚汁を取り出すと、守衛室にテクテクと歩いていく。


「わざわざ届けてくれなくてもよかったのですよ。ありがとうございます」

 金町三曹と月形二曹、それと白川一佐の三人が本日の守衛である。

「多分、今日明日にルシアの襲撃あるから。その時は『敷地から逃げたやつ』をお願いします。中でのどんぱちは手出し無用で」

 ニッコリと笑うマチュア。

 その言葉には、お茶を飲んでいた月形二曹が吹き出している。

「ま、マチュアさん、私達は」

 白川一佐が話し始めたのを、マチュアは手で止める。

「敷地内はいつも通りカナンです。きっと戦場になると思いますが、皆さんは法に倣ってくださいね」

 ぺこりと挨拶すると、マチュアは大使館に戻る。

 守衛室では、万が一を考えて増援の連絡も始めていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 静かな夜。

 ロビーでは、KHKの落語を見ながら笑っている斑目とポイポイ。

 マチュアは深淵の書庫アーカイブの中で、のんびりとどら焼きを食べている。

「さて、久しぶりに行きますか。ターゲットは、私と斑目とポイポイ。『神威祝福ゴッドブレス』、かーらーのー『状態異常耐性強化ステータス・レジストアップ』さらに『全体増幅アンプリフアイア』、そして『遅発型強回復ディレイド・ヒーリング』を時間差で四つ。保険に『自動発動型完全蘇生オートリザレクション』っっっっっ」


 次々と魔法を増やしていくマチュア。

「相手はベネリやクロウカシスでもあるまいし。大人気ないのう」

 呆れた顔で呟く斑目。

「これで死なないっぽい」

「いいのいいの。明日はルシア連邦が世界中に恥をかく日だから。広範囲セイグリッド適性警報エネミーアラートと‥‥これで敷地内に奴らが侵入してもすぐにわかりますわぁ」

 深淵の書庫アーカイブを自動モードにすると、マチュアはソファーの上に転がってポテチの袋を開ける。

「これは何だ?」

「ポテチ。ジャガイモを薄く切ってあげた奴。カロリーに満ちている」

「こっちは何っぽい?」

「それはハワイのお土産マカダミアチョコ。やっぱりカロリーに満ちている」

 ふむふむと納得しながら、斑目とポイポイもヒョイヒョイと食べ始める。

「うむ、悪くない。これは土産に買って帰るとするか」

「ポイポイはこれが良いっぽいよ、キノコのチョコ」

「そんなものよりは、このタケノコの形のチョコの方が美味いだろうが」

「待て待て、カナンにキノコタケノコ論争を持ち帰るなよ‥‥」


――ピッピッ‥‥ピッピッ

 すると突然、魔法陣に反応が出た。

「斑目。そこの通路の奥、扉があるんだけど、その外に4、ポイポイさんは反対側、私の執務室の外に4。正面玄関左右に4ずつ。この真っ正面だね、それは私が引き受けるわ。

――シュンッ

 素早くローブ姿になると、マチュアは両手にアダマンナックルを装備する。

『念話モードに切り替え。斑目とポイポイの方は熱源反応あり、扉と窓を焼き切ったかな?』

『じゃあ行ってくるっぽい』

――スッ

 ポイポイは影に隠れる。

 そして斑目も、ロビーから通路の端をじっと睨みつけている。

『催涙弾か閃光弾が来るかも。レジストは上げてあるので、気にせずいける筈』

『了解。早速お出ましか‥‥』

 スッと腰を落として刀の柄に手を当てる斑目


『こちらポイポイ、ロビーに繋がる扉の前まで敵は侵入しているっぽい‥‥』

 ポイポイも両手にクナイを取り出すと、それをクルッと逆手に握った。

『正面扉が開くと同時に、一斉に来ると見た‥‥』

――ガン‼︎

 突然正面扉がひらくと、中に催涙弾が放り込まれた。

――カキィン

 それが床にぶつかる前に、マチュアはクナイを投げて外に弾く。

 そここら縮地で外に飛び出すと、すかさず6本の拘束の矢(バインドアロー)を生み出して放った‼︎

――シュパパパパパッ

 敵に向かってホーミングする拘束の矢(バインドアロー)

 それはアーマージャケットを簡単に貫通すると、六人全ての運動神経を麻痺させた。

「そこかぁ?」

 正面扉の中に隠れた二人は、影に隠れながら銃を抜く。

 だが。

「広範囲・防音結界と‥‥」

 マチュアはすぐさま敷地内に音が外に漏れない結界を生み出す。

――Brooooooom

 サブマシンガンがマチュアに向けて斉射されたが、打ち出された弾丸は全てマチュアの手前で停止した。

「SR-2M‥‥スペツナズで間違いなしか」

 再び縮地で右扉の横に飛ぶと、素早くボディブローを叩き込む。

「ふん‥‥」

 そこから左扉の影の兵士に向かって拳を構えると、相手もナイフを引き抜いて切りかかって来る。

――キンガキン‥‥

 金属音が室内に響くと、マチュアは素早く間合いを外し、相手の足元の影を魔法の矢で射抜いた。

 これで身動きが取れなくなると、マチュアは左右の二人にも拘束の矢(バインドアロー)を叩き込む。

「これで八人と。ポイポイさーん、斑目さーん、終わった?」

 そーっと問いかけると。

――ニュウッ

 影の中からポイポイが出て来る。

「四人確保ー。ロープだと不安なので、拘束してほしいっぽい」

 ぴょんと影から飛び出すと、ズルズルと影から兵士を引きずり出した。

 それをまとめて拘束魔法で動けなくすると、斑目の元に向かう。


「ふん。面白くも何ともないのう」

 壁際に兵士たちを並べている斑目。

「あ‥‥ら、一瞬?」

「突然撃ち込んできたから、衝撃波で弾き飛ばして、後は間合いを詰めて峰打ちでおしまいじゃな。まあ、息遣いや体捌きならBランク冒険者という所であろうなぁ」

 ならばと、この四人も拘束してロビーに連れて行くと、全員を壁にもたれ掛けさせる。

「メモリーオーブでこいつらを録画して‥‥装備は全部外して、一箇所に固めておいて。今の所、他に来る様子はないから、取り敢えず守衛室に連絡するわ」

「なら、こいつらは見張っていよう」

「少しでも対抗したら、また眠らせるっぽい」

 それじゃあと、マチュアは守衛室に向かう。


「お疲れ様です。こちらは異常ありませんが」

「終わったよ〜。装備から察するにスペツナズだよ。四人の四チーム、装備から察するに暗殺部隊かと」

「え、な、中を確認して良いですか?」

 驚いた白川一佐だが、どうもおかしい。

 どこか驚いた方向が違う。

「どうぞどうぞ。何ぼでも確認して上に報告してくださいな。でも引き渡しはしないからね」

「それはどうぞ、カナンの方でご自由に。では失礼します」

 白川一佐がマチュアの後ろについて大使館に入ると、壁際に十六人の兵士が並べられている。

 その光景を白川はカメラに録画すると、すぐさまどこかに連絡している。

「マチュアさん、この人達どうするっぽい?」

「どうしょうかなぁ。カナンに連れて帰ると拉致だ何だと騒ぐかもなぁ。ルシア連邦大使館に電話して聞いてみるわ」

 そう話してから、マチュアは事務室に入って行く。

 そして電話を掴むと、ルシア連邦大使館に電話した。


――プルルルルル‥‥ガチャッ

『ルシア連邦大使館です。こんな夜半にどのようなご用件ですか?』

「カナン大使館のマチュアですが、そちらのスペツナズ全員拘束してますが、これどうしますか‥‥」

――ガチャッ


 いきなり電話が切られる。

「つまり知らないと‥‥どれどれ」


――プルルルルル‥‥ガチャッ

『‥‥マチュアさんですか?』

「ええ。いきなり切られると困るんですがねぇ。どんな命令で私の国に潜入させたのか知りませんが、大使館の敷地内は不可侵ですよね?日本もそれは守ってますが。それを無視して特殊部隊を送り込んできたのはあれですか?宣戦布告と取っていいですか?今から魔法でルシアの首都攻撃していいですか?」

『ま。待ってくれ。スペツナズがそんなに早く動くとは聞いていない。指揮系統が別なんだ』

「でも、そちらの兵士ですよね。覚えおいてくださいね。殺す気になれば全員殺せましたので‥‥魔法で拘束していますが、幾らで買い取りますか」

 そう冗談交じりに話す。

 だが、向こうは正気を保つのが精一杯なのだろう。

 そんな馬鹿な、とか、あり得ない、などと、ブツブツと話している。

「明日の昼までにどうするか連絡ください。正午を過ぎても連絡がなければ、全員の素顔と装備をネットに公開します。ついでに、放送局も呼んで生中継で晒します。特殊部隊の失態、これはいいニュースですよね」

『待て、明日の昼までに連絡する』

「では、それまではお預かりしますので。彼らの正体が晒された挙句、異世界でモンスターの餌になるかどうかは貴方たち次第という事で」

――ガチャッ


 嬉しそうにロビーに戻るマチュア。

「よーしよし、言ってやったぞ、あー胸がスーッとしたわ」

「なんか、マチュアさん嬉しそうっぽい」

「早くこいつらを処分しよう。拙者はまだ飲み足りないでござるよ」

「では、もう一度全員に拘束の矢(バインドアロー)を撃ち込んで‥‥」

 ぶすぶすと拘束の矢(バインドアロー)を撃ち込んで完全に身動きできなくすると、マチュアはポイポイと斑目、そして白川一佐とともに兵士たちを第二会議室に連れて行く。

 そこに布団を並べると、兵士たちを綺麗に並べていった。

「彼らはどうするのですか?」

「さっきルシア連邦大使館に電話した。明日の昼までに返事をよこせってね」

「ふう。晩酌の前の運動にもならなかったぞ。早く片付けて酒を飲むとしよう」

「ほーい。ポイポイは壊れた扉の修理して来るっぽい」

 斑目とポイポイが一階に走って行ったのを見てから、マチュアは白川一佐とゆっくりと向かう。


「幾ら相手がスペツナズとはいえ、自衛隊の、それも選ばれたエリートが気付かない筈はないですよね? 二つのチームは正面から来ましたよ?」

「‥‥0時から2時まで、カナン大使館内で何があっても動くな。これが幕僚からの命令です」

 拳を握りしめる白川一佐。

 ならば仕方ない。

「まあ、中で何があっても手出し無用と話したのも私ですからねぇ。白川一佐、厨房からおにぎりと豚汁持って行ってくださいな」

「ありがとうございます‥‥」

 それ以上の会話はない。

 白川一佐の立場もマチュアは理解している。

 だからこその保険である。

 法に倣う。

 この言葉が、白川一佐の耳にずっと残っていた。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 2シリーズ絶賛発売中 ▼▼▼  
表紙絵 表紙絵
  ▲▲▲ 2シリーズ絶賛発売中 ▲▲▲  
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ