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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と
205/701

地球の章・その23 花見、時々亡命

 雪も解け。

 札幌にも桜が咲く季節がやってきた。

 もっとも、そのタイミングはゴールデンウィーク。

 花見の季節になると、札幌市民はあちこちの桜の名所でジンギスカンを楽しむ。

 一年中どこでもジンギスカンである。

 その桜の恩恵は、マチュアのいる異世界大使館にも与えられていた。

 元々は自然公園の中の敷地、桜などはそのまま残してあるので、花見のシーズンになると大使館開放日を設けてご近所サービスを行っていた。


 大使館の入り口両サイドには、魔法鎧メイガスアーマー・ゼロツーがズラリと並んでいる。

 その数、実に12騎。

 当然ながら機体はロックしてあるので動かないし、夜にはセキュリティの関係でマチュアの影の中に収納してしまう。


 開放された中庭では、大勢の家族連れがジンギスカンを楽しみ、魔法鎧メイガスアーマーの前で記念撮影をして楽しんでいる。

 一騎は胸部ハッチも開放してあるので、中に入って撮影している人もいた。

 屋台は出してないが、領事部でドリンクの販売は行っている。

 そんな光景を、報道関係者は敷地の外から眺めている。


「マチュアさーん。撮影許可くださいよぉ〜」

 恨めしそうな声が柵の外から聞こえて来る。

「おや、誰かと思ったらKHKの進藤君ではないか。今日はダメだよ、一般の人も酒飲んでるんだから混乱すると危ない」

「はあ。他局も入れてないから仕方ないかぁ」

「そうだそうだ。いつもKHKばかり美味しい汁を吸いやがって、たまにはお前もここで見てろや」

「外から写すのは止める権限がないから仕方ないけど、人にはモザイク入れろよ?」

「はいはい‥‥とほほ」

 そんな会話をしていると、ふと、盛り上がっている人達の中にHTN局の藤村ディレクターと高橋冬華アナウンサーの姿があるのに他局も気がついた。


「マ、マチュアさん?なんであそこに藤やんとトーカちゃんがいるのかな?」

「あの二人は豊平区の住民だろうが。カメラもマイクも何もない、普通に花見を楽しんでいるだけ。今日はご近所開放日なのよ」

 それならいいのか。

 ならばと、進藤たち報道陣も守衛室に向かって歩いていく。


「あの、花見に参加したいのですが」

「カメラや取材道具は出さないこと。スマホの撮影は個人で楽しむなら問題なし。ユーチューブやネコネコ動画レベルなら許可ですが、無断でニュースに使ったら以後取材禁止です」

 淡々と説明する小泊一佐と、横で警戒している金町三曹と大越二曹。

「はいはい、身分証はこれで」

 内容を確認すると、小泊一佐は頭を左右に振る。

「進藤さんは札幌市民ではないのですか」

「ええ、俺は江別だから‥‥って、駄目なのかよ」

「同行者が札幌市民なら問題はありませんよ。どなたかいらっしゃいますか?」

 そう問いかけている最中に、他社は次々と正門に入っていく。

「俺らは市民でね、まあ頑張れや」

「うち、近所なんすよ。それでは」

 殆どの記者や報道関係者が中庭に入っていくと、マチュアが記者達を呼んでいた。


「ここ空いてますからね。食材は全て持ち込み、ドリンクだけはそこで販売しています。それではどうぞ、お楽しみください‥‥尚」

 ニコニコと笑っていたマチュアの表情が氷のように冷たくなる。

「隠しカメラ回したり、無許可映像流したら今後は取材インタビュー全て禁止しますので。それだけはご理解ください」

「マチュアさん、参加している人に話し聞くのは駄目?」

「マイク回したり録音機材を動かしたら取材。駄弁るのならお好きにどうぞ。それと‥‥何か食べる物買って来たら?」

 それもそうだ。

 ならばと記者達がお金を出し合い、何人かは買い出しに出た。

「カセットコンロはありますか?」

「ないけど火の用意はしてあげるよ。使い捨てのジンギスカン鍋は買って来てね」

 そう説明すると、赤城が記者たちの座っている場所に小さい穴を掘った。

 そして右手を空間に差し出すと、そこから一冊の魔導書を取り出す。

「炎よ、汝の力、ひとときの間、貸し与えたまえ」

――ボウウッ

 穴の中に焚き火が起きると、更にページをめくる。

「かのものに永劫の刻を与えたまえ‥‥」

 すると炎が輝き、ゆらゆらとたゆたう。


「え、あ、えええええ???」

 その姿に記者達は驚く。

 すると赤城も丁寧に頭を下げた。

「異世界大使館所属、アメリゴ大使一等書記官の赤城です。海外の、特にアメリゴに関する件は私の担当ですので」

 それだけを告げて、赤城は近くでバーベキューを焼いているマチュアの元に走っていく。

 すると記者の一人が、大声でマチュアに問いかけた。

「あ、あの、マチュアさん、大使館の職員って、魔法使えるの?」

「へ?うちの子達は全員冒険者だよ?ランクBからCの、ダンジョンにも籠れる実力者揃いだけど何か?」

 ノッキングバードの焼き鳥を次々と焼くと、十六夜や高畑達が彼方此方あちこちに配って歩いている。

「はい、記者さんもどうぞ」

 高畑が焼き鳥の盛り合わせを持っていくと。

「君も魔法を使えるのかな?」

「いえいえ、私は魔術師ではありませんので」


――ヒュンッ

 すぐさま目の前に幽玄騎士を召喚すると、騎士の礼をする高畑。

「アメリゴ大使一等書記官の高畑みのりです。クラスは幽玄騎士、どうぞお見知り置きを」

 ニッコリと笑うと、すぐにマチュアの所に戻ってまた焼き鳥を配布する。

「おーい、ジンギスカン鍋と材料買って来たぞ‥‥」

 大量の食材を買って戻って来た記者達。

 その中に、ようやく入れてもらった進藤の姿もあった。

「‥‥焚き火の準備とは早いなぁ」

「これ、魔法だよ」

「流石はマチュアさんだな」

「い、いや、ここの職員が普通に魔法使ってたんだ‥‥あの子も、あの子は騎士だったな?」

 その光景を思い出して突然慌てる一行。

「しまった‼︎スマホで撮影すればよかった‼︎」

 そりゃそうだ。

 あまりの出来事に、撮影するのさえ忘れていたのである。

「あの、ビールお持ちしますか?」

 通りすがりの吉成が、ビールの箱を持って記者たちに問いかける。

「いえいえ、そこで売ってますから買いますよ‥‥」

「ではでは、ごゆっくり」

 軽く会釈して、吉成はドリンク売り場にビールの箱を三箱持っていく。

「あの子は普通の子なんだなぁ」

 そう呟きながら、吉成を見る記者。

「そのようですね。可愛いなぁ。ビールの箱を‥‥三箱?」

 大体27kgと言うところであろう。

 それを両手で軽々と運んでいく吉成。

 聖戦士は筋力がブーストできるので、今の彼女ならバーベルカールでも50kgは軽い。

 ちなみに女性の平均は大体12kg程度、自分の体重の1/4が上げられれば良いライン。


「まてまて、俺でもあれは無理だぞ?」

「30kgか、俺は何とかなるが、軽々と持って行くとはなぁ」

 しみじみと呟く一行。

 やがてジンギスカンの程よい匂いが辺りに広がると、記者たちは仕事を忘れて飲み始めた。


「楽しんでますか?」

 マチュアからホットドックを配るように言われた十六夜が、記者達の元にやって来る。

「あ、ホットドックですか、頂きますよ」

 ひょいと受け取って齧り付く記者。

「貴方も大使館職員ですよね?冒険者?」

「そうですわ。取材ならお断りですよ?」

「この状況で取材は無理ですよぉ〜。貴方は何が出来るのかな?」

――スッ

 いきなり十六夜の姿が目の前から消えると、記者の後ろに立っている。

「私は暗殺者でして、このまま、貴方を殺す事が出来ますわ」

 クスクスと耳元で笑う十六夜。

 その動きには、記者の誰も目が追いついていなかった。


 気がつくと既に夕方。

 マチュアと赤城は『光球ライト』の魔法で庭全体を明るくする。

 花見の途中で、噂を聞きつけてやってきた綿菓子やお好み焼きといった屋台にも特別に許可を出した。 

 そして大使館正門が閉じる終了時間の21時まで、楽しい時間は続いていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「疲れたぁ〜」

「お疲れ様でした。でも楽しかったですね」

「記者席の人が目を丸くしていましたわ。私が暗殺者って聞いた時には」

「そうそう、何かこう、今までとは目線が違いましたねぇ」

 ロビーにどっかりと座って一休みしている一同。

 ちなみに男性陣はまだダンジョン研修、予定よりも10日程延長されている。

「まあ、明日は午前中は半休取っていいからね。午後は二人だけ出て来たらいいから。明後日も半休で残り二人が出勤で」

 変則的休日設定。

 異世界大使館には良くある休暇である。

 ロビーにあるテレビでは、相変わらず異世界の特集が組まれ、戻って来た観光客にインタビューしている映像が映っていた。

 そんな中。

 画面の中には明らかに異質な三人が映っている。

 鎧甲冑に身を包んだ女性と、ローブ姿の細身の男性、そして軽装鎧の剣士がいた。

「あら、ヒロさんたちですねぇ」

「本当だ。まさかと思ったら本当に専業冒険者やってたんだ」

 十六夜と赤城がテレビを見て話している。

「何々、ヒロって‥‥あ、あの三人か」

 以前、冒険者ギルドに来ていた勘違い地球人アーシアン

 彼らがテレビに映っていたのである。


『貴方達はカナンの方ですか?』

『いえ、地球人アーシアンですよ。カナンには仕事で向かってます』

『ええ。これが証明ですよ』

 その女性の言葉で、三人が冒険者ギルドカードを提示した。

『仕事と言いますと、まさか冒険者ですか?』

『はい。俺達は専業冒険者です、ちゃんとカナンで冒険者関連施設も卒業しました』

『一度の渡航で大体依頼が一つか二つ、調子のいい時は金貨で二十枚稼げるので、日本円で20万ですか。渡航費用とかを差し引いても、週給で10万近くは稼ぎますよ』

『は、はぁ‥‥それは凄いですねぇ。武器とかは持ってないのですね?』

『ええ、全て預けてあります。では、急ぎますのでこれで』


 軽く会釈するも、三人はその場から立ち去った。

「‥‥何だろう、何か間違ったかなぁ」

「山田さん達は、領事部でもお得意様ですよ。毎週、赤煉瓦の政策局に渡航申請更新に来ますから」

 領事部の女性が笑いながら告げている。

「へぇ。そう言う職業もありなのかぁ」

 マチュアは逆に感心してしまった。

 異世界に通勤する、ギルドや大使館の人間なら当たり前の話であるが、普通の人が仕事で勤務すると言うのは初めてである。

「ちなみにですね、レザーアーマーの軽装剣士が山田さん、精霊魔術師が和泉さん、戦士の女性が山本さんです」

「ふぁん。まあ、人様の趣味にどうこう言う気は無いが。あの精神は気に入った。これ、三人の名義で登録して」

 ブランクのツアーカードを三枚取り出して、領事部の子に手渡す。

「はぁ。新しいやっですよね?名目は?」

「女王陛下から、地球人アーシアンの冒険者に贈り物さ。あの三人の姿に共感する人もいるし否定する人もいる。けど、ああやって自分の意思を貫く姿勢は凄いと思いますって」

「恐らく明日の午前中には申請に来ますので、その時に発行しておきますね」

 三枚のブランクカードを事務室に持っていく職員。

 その姿を見て、高畑が一言。

「あら、陛下はお優しいことで」

 クスクスと笑うが、すぐさまマチュアと赤城が空中に突っ込みハリセンを取り出して高畑の頭を叩く。


――スパスパァァォァン

「いいのよ、テストケースの一つだよ」

「どこで誰が聞いてるかわからないので、マチュアさんを陛下呼びは禁止です」

 その突っ込みに頭を抱える高畑。

「ふ、二人がかりとはあんまりダァ。それになんで赤城さんがそれ持っているのよ」

「私がプレゼントした。いるかな?」

 空間からツッコミハリセンを取り出すと、目の前に並べる。

「欲しいです、お願いします」

「わ、わたしも」

「私もお願いしますわ」

 うんうん。ならばと登録方法を説明する。

 簡単に登録できるように改造してあるので、魂の護符(プレートでハリセンを軽く叩けばオッケーである。


「あんまり多用しないように。精神安定の効果があるのだけれど、まあ、使い方は任せるよ‥‥さて、一息おしまい‥片付けを再開しますか」

 腕をゴキゴキと鳴らしながら、マチュアは中庭に出て行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 とある日の長閑な昼下がり。

 もうすぐ男性チームが研修を終えて一皮剝けて帰ってくる。

 いつものようにデュエルシステムの入力と調整を終えると、マチュアはのんびりとコタツに入ってお茶を飲んでいる。

「あ、あの、マチュアさん?そろそろ炬燵をしまいませんか?」

 おやつのどら焼きを持ってきた赤城がマチュアに提案する。

「まだ寒いよ?カナンは暖かかったのに、どうしてここは寒いんだろうねぇ」

 こら、元道民。

 そう突っ込みたいのもあるのだが、今いる地球は元々マチュアがいた地球よりも環境破壊が進んでいる。

 札幌の平均気温も、マチュアの世界よりも三〜五度ほど寒い。

 マチュアは、皿に置かれたどら焼きをモソモソと食べる。

「おう、今日のおやつは札幌ドラですか。塩キャラメル味のどら焼きは良いよなぁ」

 パクッと一口。

 程よい塩味とキャラメルの香ばしさと甘さ、それを受け止めるパンケーキ生地のどら焼きの皮が三位一体となって口の中に溢れる。

 札幌ドラは近所の和菓子屋、マチュアもよく歩いて買い物に行く。

「まあ、気持ちはわかりますが。外を見てくださいよ、いい天気じゃ無いですか‥‥え?」

 赤城が窓の外を眺めると、ちょうど大使館内の自販機に納品に来たトラックが見えた。

 守衛室で許可をもらい、正門がゆっくりと開く。

 すると、その横から、ひとりの男性がスクーターに乗って飛び込んで来たのである。


――ガシヤァァァァッ

 バイクは正門にある防御柵にぶつかる。

 その反動で男は前に放り出されると、金町三曹にぶつかって、そのまま敷地内に倒れた。

『ссыльный、ссыльный‼︎』

 必死な形相で大使館に向かって叫ぶ。

 だが、金町三曹は銃を抜いて男に構えた。

「‥‥ストーップ」

 赤城の声と一緒にマチュアも窓からその光景を見ていた。

 なので、ルシア語で何を叫んでいたのかは理解した。

「マチュアさん、不法侵入です。引き渡して頂ければこちらで処理しますが」

「待て待て」

 窓から外に飛び出すと、マチュアは男に近づいて問い掛ける。

「Вы ищете убежище?」

『Пожалуйста, помогите мне.Я хочу изгнать』

 マチュアの言葉に、男は涙を浮かべながら頭を下げる。


「金町三曹、ルシアからの亡命希望者です」

「そ、それは‥‥どうしますか?」

 その問いかけに、マチュアは足元を指差す。

「カナンだからねぇ。金町三曹は上に報告しておいて、こっちはこっちで話を聞いてみるから」

「了解です‥‥」

 マチュアは助けを求めている男性の手を取ると、翻訳指輪をつける。

「私はあなたの言葉がわかるけど、周りはわからないから。後で返してくださいね?」

「あ、あなたの言葉が分かる。私の言葉もわかりますか?」

 男性の言葉に、マチュアはコクリと頷く。

「まずは話を聞きましょう。こちらへどうぞ」

 そう告げてから、マチュアは男性を大使館内の謁見室に案内した。

 そしてそこで休んでいるように告げると、マチュアは一度政治部事務室に戻る。


「三笠さんえらいこっちゃ、ルシアからの亡命希望者だ」

「‥‥また厄介な。よりにもよってルシアですか」

「受け入れるとどうなる?」

「ルシアと正面から喧嘩になりかねませんね。突き返すのが得策ですが‥‥カナンの流儀は?」

「助けを乞う者には手を差し伸べる。話を聞いてくるので、蒲生さんに話聞いてみて。赤城さん、ティーセットお願いします」

 それだけを告げて、マチュアは謁見室に戻った。


「さて、取り敢えずここからの話は録音させていただきます。初めましてミスター。私はマチュア、異世界大使館の責任者です」

「わ、私はウラジミール・パルセニフといいます。ルシア科学アカデミーで生物兵器の研究をしていました」

 ああ。

 映画や小説でよく見るパターンだ。

 きっととんでもない開発をして、逃げて来たのでしょう。

 しかし、ルシアからよくぞここまで来たものだ。

「ルシアからここまで、よく逃げて来ましたね?」

「陸路で欧州を抜けて、中東から逃し屋の力で船に乗りました。私はカナンに亡命を希望します」

「まあ、この場合はあれですか?ルシアの科学アカデミーで人類の1/3を死滅することができる生物兵器の理論ができたので、それを兵器化する前に人道的見地を振り返り、恐怖のあまり全てのデータを破壊して逃げて来たという所ですか?」

 そのマチュアの問いに驚くウラジミール。

「何故、何故あなたはそれを知っているのですか?魔法ですか‥‥」

「お約束っていうやつですよ。さて、そうなると厄介ですねぇ」

 さてどうしたものか。

 よりにもよって、こんな危険な亡命を目の当たりにするとは思ってもいなかった。

「そのデータは全て存在しない、あなたの頭の中にだけ存在してるで間違ってはいませんね?」

「ああ。それであっている」

 ふう。

 困った事になったと、マチュアも頭を掻く。

「あなたに迷惑がかかったのは謝罪する。けれど、科学アカデミーはこの生物兵器を小規模で試験導入するように通達して来た。もし使われたとなると、それは大変な事になる」

――コンコン

 突然のノックに、ウラジミールはビクッと体を震わせる。

「三笠です。マチュアさんにお電話が届いてます」

「今行きますよ。ちょいと失礼、すぐ戻りますので」

 そう話してから、マチュアは廊下で待っていた三笠に問いかける。

「届いてますという事は日本政府だな?」

「ええ。蒲生さんです」

「まあ想像はつくけどね」

 階段を降りて普段は使われないマチュアの執務室に入ると、電話を受け取った。


――カチッ

『よう、話は聞いたが、ウラジミール氏はそこにいるんだな?』

「蒲生副総理も随分とお早い事で。彼を外務省に引き渡せですか?」

『まさか。ルシア政府が日本に対して引き渡しを要求した。奴さん達は日本に亡命したと思っているが、まさかカナンにいるとは思ってないようだな』

「それで日本は知らず存ぜずで通すと。まあ、それはそれで結構ですよ。カナンは彼を受け入れて異世界に亡命させますが」

『マジかよ。奴さんの頭の中のデータが欲しい。ここは取引と行かないか?』

「人類を死滅させることの出来る兵器のデータですよ?お、こ、と、わ、り、します」

『なんだ、あれが完成していたのか』

「‥‥嵌めました?」

『嬢ちゃん、もっと駆け引きを覚えろよ。日本国としては、ウラジミールがカナンに向かったことは伝えるぞ。そこから先はそっちの話し合いだ。多分ルシア大使館から引き渡しの連絡が行くと思うが、後はそっちでやってくれ』

「はいはい。アドバイスはありますか?」

『今日中にカナンに送って、ルシア大使館に先手入れとけ。それであっちはもう手も出せないだろうからな』

「確か、日本国には過去にルシアから亡命した戦闘機のパイロットの件がありましたよね‥‥その時の記録、ください」

『あの件か。全て終わってから記録は全て破棄していて残ってないぞ』

「またまた御冗談を。当時の幕僚の方が、記録の廃棄命令は違法として拒否して残っているじゃないですか」

『‥‥随分と詳しいな』

「今ネットで検索したばかりですよ」

『あー、わかったわかった。後でファックス入れとくわ。それじゃあな』

――ガチャッ


 電話を終えると、マチュアは事務室に向かう。

「三笠さん、カナン大使館はルシア科学アカデミーのウラジミール氏の亡命を受け入れます。なのでこれからカナン行って来ます」

 そのマチュアの言葉には、一同騒然とする。

「ぼ、亡命受け入れですか‥‥」

「また記者がうるさく言いますよ」

「どうしよう、ルシアに命狙われるかも」

「お茶入れて来ますね〜」

 などなど。

 十六夜はのんびりとお茶入れに向かったが、他はやはり動揺している模様。

「まず、この件で職員が狙われる可能性はあるかも知れないけど。相手は人間、冒険者レベルならみんなの方が上よ。気にする事はないわ」

 そう説明すると、何故かみんな落ち着く。

「まあ、サイクロプスよりは弱いかな?」

「ワイバーンよりは強いかも」

「銃弾を弾く装備が欲しいですねぇ」

 うん、あんたたち異世界に毒されすぎ。

「三笠さん、札幌のルシア大使館に一報入れてください。カナンはウラジミール氏の亡命を受け入れ、無事にカナン王都に送りましたと」

「はいはい。北海道は過去の事例がありますからねぇ。あの時の資料も探しておきますよ」

「では行って来ますね」

 そう説明してから、マチュアは二階に上がっていった。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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