地球の章・その 22カナンでの日常
赤城達のダンジョン研修も無事に終わり、今度は男性陣がカナンに出発した。
マチュアはここ数日の間、ずっとロビーに深淵の書庫を展開して、キングオブデュエルの最後の調整に入っている。
外交関係も一段落したので、マチュアはここに作業を集中させていた。
「マチュアさん、3時です、おやつタイムですよ」
十六夜が深淵の書庫の中にいるマチュアに話しかける。
「今日はナンジャラホイ?」
「三笠さんの奥様からの差し入れの、特製おはぎですよ」
「‥‥粒あん?こしあん?」
「どっちもありますよ」
ニィッと笑うと、深淵の書庫を自動運転に切り替えて出てくる。
「どっちも大好物だ。では行きますか」
ニコニコとしながら事務室に入って行く。
既に炬燵の上には、焙じ茶とおはぎが置いてある。
「お先にいただいてますよ」
「いえいえ、美味しいものはすぐに食べないと。では、三笠さんの奥様に感謝して‥‥頂きます」
――パクっ‥‥モグモグ
口の中に広がる優しい甘さ。
ゆっくりと味わい、そして喉に送り出す。
「うん。美味しい。どれ今度は粒あんを‥‥」
――モグモグ‥‥
程よい小豆の硬さと、甘さのバランス。
口の中を小豆が程よく転がっていく。
それがまた何とも味わい深い。
五味ではなく六味。
それをマチュアは堪能していた。
「三笠さん、美味しいです」
「それは重畳。喜んで頂けると嬉しいですね。そう伝えておきますよ」
「じゃあこのお礼は‥‥異世界渡航旅券でよい?」
――ブッ
その言葉には三笠も吹き出す。
「恐ろしい公私混同ですね。バレると不味いのでは?」
「ここはカナン、責任者は私。カナンのルールでやらせて貰う。嬉しい事やめでたい事があったら、全力で返す。なので、これをどうぞ」
懐から、封筒に入った三枚の異世界渡航旅券を取り出して手渡す。
今までのカードとは違う、新しいデザインのカードである。
「新しいカードですね。新シリーズですか?」
「これはツアーカードです。最大五名まで登録可能。使用時には登録者が一人でもいれば使用可能で、何名でも同行可です」
「名前から察するに、ツアー会社に販売ですね?」
「ええ。使用時には、同行者一人につきチャージを1ポイント使います。三笠さんの家なら、家族が登録しておけば、誰でも使えますよ。これは無制限ではなく50回の回数券です」
そう説明すると、マチュアは赤城達にも一枚ずつ異世界渡航回数券をプレゼントした。
「わ、私達にもですか?」
「うひゃあ。友達からいつも責められていたんですよ。どうにか登録できないかって‥‥」
「これで両親も連れて行けますね。ありがとうございます」
「‥‥サバゲーのチームを連れて行って、これで本当のサバイバルが‥‥」
各々が頭を下げるが、マチュアは更に続ける。
「使ってみて感想を教えてください。まだ試験段階なので、『誰でも』行けてしまうのが問題なんですよ。なので。今後の事もあるので意見を色々とお願いします」
「はっはっ。やはり仕事用ですよね」
三笠も笑うが、マチュアに頭を下げた。
「それでは週末にでも行ってみますよ。千歳空港は遠くて大変ですけど」
「へ?ここからでいいじゃん。もしくは赤煉瓦庁舎前」
「まあ、仕事ですからねぇ。ではありがたく」
そう告げてから財布にしまう三笠。
それに習って、皆は自分の仕事用ショルダーバッグに放り込んだ。
「さてと。吉成さんは観光会社にアンケートファックスを出すので、その文面の作成。異世界観光についてのアンケートね。やりたいかやりたくないかとか、いろんな質問を例としてあげてみてください」
「はい、至急始めます」
「今の仕事終わってからでいいよ〜。今の高畑さんは‥‥査察団の添乗員か。十六夜さんと赤城さんは何してるの?」
「私は総務省からの質問に関する返答を」
パソコンでパチパチと作業する赤城。
「私はテレビ局からの問い合わせの調整ですね。手が足りませんよ」
うむ。
それは理解している。
「人員早く追加しないとなぁ。一般募集の申し込みは何件?」
「明日が締め切りで、現在は一万二千ちょいですねぇ」
申し込みは全てインターネット。
そこのデータを全て精査しなくてはならない。
「‥‥目眩してきた」
「まあ、そうなりますね。異世界大使館の給料が高いと思っている方が大勢いますので」
「そうね。外国語ができてパソコン使える人を選抜してください。それが第一次予選です」
その説明でかなりの人数が絞れる筈とマチュアは睨んだ。
「後はどうしますか?」
「二次予選は魔力。最低でも赤く輝かないとダメね。面接会場で調べるからいいわ」
「あ〜。最悪はそこで決定するのですね?」
「そういう事。欲しいのは即戦力なのよ。さて、作業の続きしてくるので、何かあったら声かけてくださいな」
そう話してロビーに出ると。
マチュアの放置した深淵の書庫の周りに人が集まっている。
「領事部の方々?何かありましたか?」
「は、はい、人も居ないのに魔法陣が起動しているので、何か出てくるのかなーと」
ちょうど休憩時間らしい。各々が手にジュースやお茶、保存庫のケーキやシュークリームを持っている。
「あ〜、政治部は知っていても領事部は知らないかぁ。これは深淵の書庫っていって、私が調べ物をするときに使う魔法陣ね」
「クリアパッドみたいなものですか?」
「あれは、これの廉価版よ。そかそか、領事部は全員持ってるのか」
「ええ。魂の護符と異世界渡航旅券を読み込んでデータを表示するのに使いますので。とても重宝してますよ」
ふむふむ。
確か、全員に魂の護符とのリンクをしてあったなぁ、と思い出した。
「それは良かった。そのうち領事部にも、異世界渡航旅券の正式配布してあげるね」
――ウワァァァァァ
全員が喜びの声をあげる。
勤務上、政治部は必須だが領事部は異世界に行く事はない。
なので欲しがっていると、一ノ瀬部長からは頼まれていた。
「では、今配布するかな。政治部みたいに無制限ではないけど、30回の回数券型のやつをあげよう。使い切ったらまた申請してね」
そう説明して、全員に30回使用可能な異世界渡航旅券を発行した。
「そこのIDナンバーをちゃんと登録するのよ。それは自分達で出来るでしょう?」
「はい。あ、あの、これで仕事が終わってからカナンに行ったりとかしていいのですか?」
「会話は可能かしら?」
「語学研修は終えてます」
「なら良いわよ。魂の護符を発行してもらうなり、冒険者になるなりご自由にどうぞ。但し異世界は全て自己責任。なので、不安なら政治部のベテラン冒険者に護衛をお願いしてね」
それだけを説明すると、マチュアは深淵の書庫の中に入って作業状況を確認した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
勤務時間も定時に終わり、今日は政治部と領事部共にカナンに遊びに行く事となったらしい。
三笠も一ノ瀬部長と一緒にいっぱいだけ飲みに行くらしく、途中で土方知事も加わるらしい。
「マチュアさんは遊びに行かないのですか?」
「うーん。まあ、後は明日でいいか」
作業中の道具や機械を全て空間に放り込むと、マチュアも転移門を潜っていく。
「お疲れ様でしたー、そしておかえりなさい」
転移門の先はいつものカナン。
検疫だけ受けて、職員用の扉から出る。
そうしないと機械類は全て吹き飛ぶ仕様である。
因みに前半は大使館員に、最後はマチュアに向けた挨拶らしい。
「おや、マチュア様は今日は早いのですね?」
「面倒臭いからやめて帰ってきた。こっちも後30分でしょ?」
そうツヴァイに問いかけると、他の職員もコクコクと頷いている。
「あ、あの、マチュア様。大使館員だけが出入り自由なのに、私達は異世界に出入り出来ないのはちょっと寂しいです」
「????」
その質問にマチュアは首を捻る。
「あっれ?フィリップさん、許可出していなかったんだ」
「日本語の読み書き会話が出来た順番に出そうと思ってました」
成程理解。
ならば。
「えーっと、地球の言葉の使い方ちゃんと出来る人」
それには全員が手を挙げる。
「読み書きもできる人」
これも全員可能。
「まあ、それならいいか。異世界ギルド員も全員許可、但し、最初は引率者と一緒ね。慣れるまでは単独では行かない事」
ふむふむと全員が頭を縦に振る。
「でも、異世界に詳しい引率者がいませんよ。桜木さんが研修に出ていまして」
――ソーッ
「そうね。なら、そこでそーっと逃げようとしているツヴァイにお願いしなさいな」
話が振られるのを理解したツヴァイは、気づかれないようにそーっと入口から出ようとしていた。
「ツヴァイさん、引率、お願いします」
「‥‥嵌めましたね?」
「んにゃ。たまには地球で羽伸ばしてきなさいな‥‥って、フィリップさんも行く気満々だし」
「ええ。交代勤務の方は引き継ぎしてからですよ」
「はい」
今もカナンの街の中では地球人があちこちで観光している。
そのため、異世界ギルドは昼夜二交代制になっている。
何かあってもすぐに動けるようにである。
「マチュア様は地球に行かないのですか?」
「勤務地から今戻って来たばかりだよ。なのでツヴァイと遊んで来なさい」
「はぁ。では行ってきますよ。直接赤煉瓦庁舎前で?」
「それで良い。では宜しく〜」
手をヒラヒラとしながら、マチュアはギルドを後にする。
‥‥‥
‥‥
‥
箒に乗ってのんびりと王城へ飛んでいくと、マチュアは久しぶりに執務室に顔を出した。
――ガチャッ
「いよーう。みなさん元気なう?」
「これはマチュア様。ご無沙汰していますね?」
イングリットが丁寧に頭を下げる。
その向こうでは、大量の書簡を前に困り果てているクイーンがいた。
「どれ、手伝うかい?」
「いえいえ、これも私の仕事ですので」
そう呟いているクイーンの手元から、一枚の書簡を手に取る。
「ふむふむ‥‥治水工事と修理かぁ」
「人が増えてグランドカナンまで土地が増えると、どうしても必要になりますよ。マチュア様の提案で井戸の数も増やしましたけど、どうしても数が足りなくなりまして」
「確かになぁ。グランドカナン地区の井戸は追加掘削。ドワーフのおっさん方と精霊魔術師に水脈の有無を確認してから掘って貰って下さい。排水については河川をグランドカナンの中を走らせて城外へ‥‥後は?」
「子供達からの提案ですよ。読み書きを覚えたいと」
「はぁ。そういえば識字率低いよなぁ。何でだろう?」
腕を組んで考えるマチュア。
「基本的には、一般の生活では数字以外は使いませんね。けれど商人やギルドでは読み書きは必須ですし、冒険者訓練施設で初めて読み書きを学ぶ人は以外と多いですよ?」
言われて初めて納得する。
ならば是非という所であろう。
「七日に一度の学校でも作りますか。幸いなことに、カナン魔導騎士団は読み書き出来るでしょ?」
「マチュア様の騎士団選抜条件でしたから。では、王城ででもやりますか?」
「各地区の教会に協力を求めて。七日に一度の子供達の学校制度。希望するなら大人も参加させて‥‥けど、何で今頃になってこんな話が出て来たの?」
それが不思議である。
今までは必要に迫られた事はない。
「地球人がきて、子供に問いかけるらしいですよ、あれはなんて書いてあるのかって。それで答えられなくて恥ずかしい思いをした子供もいるそうです」
観光客が来るようになってからの弊害である。
「イングリット、至急、各地区の教会に協力要請、騎士団から数名派遣してあげて。それとアルバート商会に黒板とチョークを注文。羊皮紙、羽ペンは魔導商会に」
「は、はい‼︎」
すぐさま決断。
「は、早いですね。そんなに早く決断して良いのですか?」
「困ったなら後で考える。次は?」
「今の1番のネックは食料事情ですわ。地球人が来るようになって、各商会で食品を取り扱っているのはいいのですが、鮮度が命である生鮮食品の保存状態が良くないと」
「ふぅん‥‥生鮮食品を取り扱っている店舗には、室内温度を一定まで下げる魔法を付与した食品庫の設置を義務付ける事。その中で食品を保存する事、一定期間以上の保存は禁止、その前に加工する事‥‥」
次々と案を出していくと、横のイングリットの羽ペンを持っていた手が震え出した。
「ま、マチュア様、少々お待ちください」
「ありゃ失礼。室温低下の付与はアハツェンが出来るので彼に管理させて。不定期に抜き打ちで食品庫の検査、基準を満たしていない店舗は罰金制度。商人ギルドにも連携を頼んでくださいな」
そんな感じで、残っていた書簡を全て処理するマチュア。
クイーンだけだったら、まだ一つ目さえどうするか彼方此方に相談しているのであろう。
「はぁ‥‥やっぱりマチュア様の執務能力はおかしいですわ」
「褒め言葉と受け取っておこう。さて、ここからは私から頼み事。グランドカナン地区でサウスカナンとの境目あたりに大きめの建物を建てておいて欲しいのよ」
「それはまた、何に使うのですか?」
「地球の大使館が集まった建物を作りたい。具体的には‥‥」
一つ一つの提案していくマチュア。
それをイングリットにメモさせると、後で建築ギルドに行って発注するように指示を出す。
「実際に、異世界からやって来る観光客で都市が潤っているのも事実です。それを監視するのにも、向こうの人々の協力は必要でしょう」
「そういう事。さてと、後一つだが、アハツェン、王城まで至急頼む」
――シュンッ
すぐさまマチュアの足元に転移して来るアハツェン。
「お呼びですか?」
「これの量産化をお願いします。カナン配備の、騎士団の最新装備です」
――シュンッ‥‥
足元の影から魔法鎧ゼロツーを執務室を壊さないように横にして呼び出す。
流石のクイーンもイングリットも、そしてアハツェンさえも後方に後ずさりする。
「こ、これは‥‥」
「はい、設計図と操縦マニュアルと登録方法。クィーンとアハツェンに命じます。二人には、魂の護符とアイテムをリンクする権限の代行を許可します」
フッ、と、クィーンとアハツェンの身体が一瞬光った。
「こ、この能力は?」
「私の亜神としての力の一つ。二人には使用許可しますね。使い方はその知識のスフィアに入っているから」
そう告げられて、二人はスフィアを取り込む。
そしてマチュアは二人の目の前で、魔法鎧に乗り込んでみせた。
「こ、これは‥‥ドラゴンとも対等に渡り合えるのでは?」
「カナン魔導騎士なら行けるでしょ?これはまだ幻影騎士団にも配備していない正式装備、他に持っているのは‥‥カリス・マレスでは私とシルヴィーとストーム、そしてカレンの四人だけ」
「何でカレンさんがお持ちなのか判らないですねぇ」
「嫁入り道具?」
そのイングリットの言葉にはマチュアも吹き出す。
「何でや?」
「これ位つけないと、夫婦喧嘩は成立しませんよね?あの家庭は」
あー。
確かに。
剣聖VS魔法鎧二騎の夫婦喧嘩。
「まあ、いいや。アハツェン、量産して魔導騎士のエースクラスに配備、魂の護符と同化して取り込ませろ」
「ご命令のままに。では失礼します」
一礼してスッと消えるアハツェン。
「ふう。久し振りに仕事したので帰るね」
そんなあっさりと告げるマチュア。
「やはりマチュア様が執務しないと溜まりますよ」
「仕事溜めすぎない事。後でまとめてやろうなんて考えない。それで良い?」
「は、はい」
「それじゃあまた来るね。肩肘張りすぎないで、もっと気楽に行きましょう‥‥じゃあまたね」
そう告げて、マチュアは王城から外に出る。
そこで魔法鎧を召喚すると、それに乗って起動テストがわりに町の中を歩き回った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
――ガシィン、ガシィン‥‥
重厚な音が響き渡る。
街道の真ん中をのんびりと歩き回ると、遠くから子供達が恐る恐る見ていた。
「お、大きな鎧騎士が歩いている‥‥」
「まさか最新型の?」
こっそりとついて来る子供達もいたが、後方から走ってきた魔導騎士団に引き離された。
――ガシャガシャッ
あっという間に周囲を取り囲まれる。
正面では、ファイズが楯と剣を構えて立っている。
「貴様何者だ?その鎧を外して顔を見せろ!!」
――プシュゥ
胸部ハッチを開くマチュア。
そして正面のファイズに一言。
「何か用事か?」
あっさりと言い放つマチュア。
突然胸元の装甲が開いて、中からマチュアが出てきたのだから、騎士団もどうしていいかわからない。
「ま、マチュア様、それ、なんですか?」
そう問われると、マチュアもヒョイと飛び降りる。
「カナン魔導騎士団エースに新しく配備される新兵装・魔法鎧だ。これさえあれば、ドラゴンとも互角に戦える‥‥筈」
最後は小さく呟く。
「あ、あのですねぇ。そんなもので徘徊しないで下さいよ」
「そんなものとはなんだ、これはな、私がつけてもストームと互角に戦える兵器だぞ」
その一言で、彼方此方の野次馬が驚いている。
すると。
「マチュアさん、それ、鎧騎士?」
そーっと子供たちが近づいてきて問い掛ける。
「自分で乗って戦える、選ばれし騎士団用の鎧だよ」
「うわぁ‥‥騎士団に入らないと貰えないの?」
「その通りだ。頑張って騎士になれよ」
子供達とマチュアが話しているので、大人たちもゆっくりと近づいてくる。
「あ、あの、ライネック商会と申しますが、それは販売するのですか?」
「これはマチュアさん、スティングレイ商会です。販売の際はぜひ我が商会に」
すると。
「おや?誰かと思ったらマチュアかよ。これは商品か?」
いくつもの商会が集まって来る中、ガストガル商会のケリーが姿を現した。
「あれ? ケリーはまだカナンにいたの? とっととファナ・スタシアに帰らないと怒られるんじゃない?」
「実はな。サウスカナンにうちの商会の支店出したんだわ。地球からの荷受に必要でな。それで、これは売るのか?」
「売らないあげない。おっけ?」
「ならいいわ。それじゃあ急ぐのでな」
あっさりと挨拶をして帰るケリー。
その姿を見て、他の商会も諦めて帰っていった。
「ま、ま、マチュアさん、乗りたい乗りたい」
ピョンピョンと飛び跳ねる子供達だが、こればかりは無理。
そもそもコクピットが狭いのである。
「流石に狭いからなぁ‥‥腕とかでいいなら」
「それでもいいよ」
という事で、マチュアは胸部ハッチを開いたまま、子供達を両腕に乗せてのんびりと町の中を歩き始めた。
「騎士一人だけついてきて、聞かれたら騎士団の新装備とだけ説明、よろしくお願いします」
「私が付きますよ。騎士団、巡回警備に戻ってよし」
そうファイズが指示をすると、騎士たちは各区画へと戻っていった。
そしてマチュアも、馴染み亭までの道のりを、のんびりと歩いて帰ったのである。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
どっぷりと日が暮れる。
馴染み亭は今日も大盛況。
マチュア大使の店という事もあり、観光客も何人かはここで酒を飲んでいるらしい。
そして今日は、大使館女性組と領事部の職員も楽しそうに飲んでいた。
――ガクッ
「あら、ゼロツーですわ。マチュアさんですか?」
「そうよ。今遊んできた所なんだけど‥‥他でも飲めばいいのに」
「ここは安心安全。何かあっても守ってくれる方がいっぱいいますから」
「向かいと隣も安心だよ。後、冒険者ギルド前の店はエールが美味しい。三笠さん達のお気に入りの店だし」
「何と。では今度奢って貰いましょう」
「はいはい好きにして。ジェイク、晩御飯をくださいな」
「かしこまりました、少々お待ちください」
ジェイクと入れ違いにジョセフィーヌがシードルを持って来る。
「店長、出入り業者が試して欲しいと言うので持ってきました」
持ってきたのはりんごの香りの高い発泡酒。
地球で言うシードルなのだが、カリス・マレスでも呼び方は同じらしい。
「新商品ね‥‥どれどれ‥‥」
――ゴクゴクッ‥‥
一気にシードルを喉に流し込む。
程よい甘さとりんごの味わいが口いっぱいに広がっていく。
男性には物足りないが、女性向けなら全く問題はない。
「契約。すぐに発注して冷蔵室で冷やしておいて、これは冷やして美味しいものだから」
「かしこまりましたぁ」
すぐさまジェイクの元に向かうジョセフィーヌ。
そして赤城達にもサービスで振る舞うように話をすると、マチュアはのんびりと晩御飯兼晩酌をのんびりと楽しんでいた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






