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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と
203/701

地球の章・その21観光客と地球産冒険者

総合PV数が150,000PVに達しました。

これまで読んでいただいた皆様ありがとうございます。

まさかここまでいくとは思っていなかったので驚きです。


 バチカン市国で法王との謁見も終え、マチュアは久しぶりの休暇を取ってカナンにいた。

 いつもの馴染み亭で、いつもの指定席。

 そこに座って、やっぱり大量の図面を開いている。


「あ、あの、マム・マチュアさんですよね?」

 ベランダ席の横にある入り口手前で、観光客らしい三人組がマチュアに声を掛けていた。

「ほいはい。日本から?」

「はい。やっと来る事が出来ました」

「さっき着いたばかりでして、どこに入ったら良いか分からなくて」

「観光のガイドブックとか、オススメのお店とかありますか?」

 うはぁ。

 そんなもの用意していない。

 観光ガイドはギルドでやっているが、それは当たり前の観光ルート、個人で見て回るのに適切なガイドではない。

「ありゃ、そんなの用意してないわ。どんなものが見たいのかな?」

 そう問いかけながら、奥にある店員を一人呼ぶ。

「冒険者の一日みたいのが体験したいです」

「登録と、後は簡単な依頼とか」

「美味しいものも食べたいですねぇ」

 その用件をサラサラっとメモすると、まずはウェイトレスに一言。

「この、お嬢さんたちにランチを。ここは私の奢りでね。すぐにギルドから一人寄越してもらいますので、少し待っていてね」

 そう話すと、ウェイトレスが三人を店内に案内する。

「はい、ありがとうございます」

 丁寧な挨拶ののち、奥の席に着く三人。

「さてと‥‥とりあえずはツヴァイに連絡でもとりますか」


――ピッピッ

「マチュアです。観光ガイド要員一名馴染み亭に寄越して」

『そりゃまた突然な‥‥あ、ポイポイで良いですか?』

「なんでポイポイさんがそこにいるのか、そこから説明しろ」

『変装してギルドの登録に来たロットを捕獲しに来ました』

「二人ともこっちに。後、フィリップさんに話して、カナンの観光ガイドブックみたいの作る準備。観光案内所も作らないと駄目だあ‥‥なのでよろしく」

『まとめて振りやがりましたね‥‥まあ、やっておきます』

「よろしくね、ツヴァイ」

――ピッピッ


「さて、ロットは少しお灸を据えるかぁ‥‥」

 ゴキゴキッと拳を鳴らしていると、しばらくしてポイポイとロットが箒に跨って飛んでくる。

 なお、ロットは箒を持っていないので、ポイポイの後ろに乗っている。

「マチュアさん、ポイポイ来たっぽいよ」

「はいありがとさん。これ指示書、あそこの三人を観光案内してね」

「はーい。では行ってくるっぽい‥‥」

 シュタタタタッと駆け足で向かうポイポイ。

 その後ろをついていこうとしたロットの影を、マチュアは足で踏んで縫い留めた。

――ゲシッ

「ま、マチュアさま‥‥いつのまにそんな芸当を」

「影縫いは元々至近距離で足で踏むんだよ。飛び道具使うのは応用技。で、ロット、ここで何してる?」

「お、おいらは今日は休みだよ。だから異世界に行ってマチュアさまのお手伝いをしようと考えて‥‥」

 ほほう。

「それで、ギルドの登録は?」

「幻影騎士団はフリーパスかと思ったんだ。でも受付で止められて‥‥ツヴァイさんから駄目だって言われたから、付け髭と帽子で変装したら、ポイポイさんに見つかった」

「ロット、異世界に関心を持つのは良い。けれど、好奇心では駄目。あんた幻影騎士団でしょ?まずは任務ありき。もっと精進しなさい」

 あうあう。

 まさかのマチュア直々の説教。

「でも、おいらだってちゃんと仕事が出来るって‥‥任務だってきちんとこなしてみせる、実力だってあるんだ」

 グツと拳を握って力説するロット。

 すると、ロットの背後からポン、とロットの頭を叩く人物が現れる。

「よし。なら任務だ。ウィル大陸南方、ワグナルド共和国が先日、西方大陸と戦争に突入した。その情報収集任務だ」

 ロットの背後でニィィィッと悪い笑みを浮かべるストーム。

「ありゃ、話には聞いていたけどとうとう開戦かぁ」

「ああ、ラグナ・マリアまでは到達しないが、一応はウィル大陸の話だ、幻影騎士団で情報収集だけでもと思ったのだが、気がついたら会議で俺が行く事になった」

 その手法でマチュアもバイアスに潜入調査で向かう事になったのは内緒。

「という事だ、ロット、今回は潜入調査、絶対に目立つ事はするなよ」

「す、ストームさま、そんなのおいらには荷が重いよ」

「まあ俺も一緒だ、この程度の任務を一人でこなさないようじゃあ、俺が地球行きを認めない。今回はいい機会だ、ロットの実力を見せてみろ」

「けと、敵がいないと誰と戦って良いのか」

「調査任務。うちの騎士団は全員出来る任務だ。これを出来るかどうかで今後は決まる。もし駄目と判断したら、サブ騎士団で再訓練な。準備が出来たらサムソンに来い」

「ふぁい‥‥」

 トボトボと歩いて行くロット。

「全く、いつまでも子供だなぁ」

「無理もないわ。という事でしばらく留守にするから、何かあったら助けてくれ」

「あんたに何かある時はこの星が崩壊する時だわ。まあ、後は任せて行ってらっしゃい」

 手をヒラヒラとするマチュア。

「それじゃあ、行ってくるわ」

 ニイッと笑いながらストームが馴染み亭から出て行くと。


――トボトボトボトボ

 店の前をボロボロの一行が歩いている。

「お、お腹すいたよぉ〜」

「あと少しの辛抱。宿まで戻ったらご飯無料なんだから‥‥」

「限界。もう歩けないですよ」

「まさかこんな事になるとは思ってもいませんわ‥‥」

 以上、赤城、吉成、高畑、十六夜のチーム・アーシアンでした。

「‥‥何してるの?」

 ベランダ席でキョトンと一行を見ているマチュア。

「はぁ‥‥マチュアさんの声まで聞こえ始めた」

「幻聴がする‥‥」

 そんな事を呟きながら、全員がマチュアの方を向く。

 すると。

「ま、マチュアさーん」

「ご飯奢ってくださいよぉ〜」

「もう二日も食べていないのですぅぅぅ」

「もう駄目」

 うむ。

 これはダンジョンでフルボッコになったパターンと見た。

「隣の席まで歩いてきなさい。メアリー、ここに四人分食事を持ってきて。少し多めで、後、保存庫から干し肉と堅パンも人数分お願い‥‥して、何があったの?」

 這々の体で何とか席までやって来ると、四人はまずは水で喉を潤す。


「ダンジョン研修で、いきなり予定外の襲撃にあったのですよ。それも人間のパーティーに」

「相手が人間だと、関連施設で身につけたスキルを使ったら殺しちゃうので防戦一方になりました」

「後は敵わないと思ったので逃走したのですが、吉成さんが魔法の罠を踏んじゃって、気が付いたら森の中でした」

 ちょうど運ばれてきた食事を堪能し始める一行。

 暫くは話にもならないだろうと、マチュアは通信用水晶球(トーキングオーブ)でハートマンに連絡を取る。


――ピッピッ

「はーい、ハートマン。マチュアです。ダンジョン研修の一行がカナンにいるのですが、何があったの?」

『ハートマンです。研修も順調でしたが、私たちが安全確認をした直後に、ダンジョンに盗賊団が住み着いたらしく。しかもまだ未踏破エリアが確認されてしまい、内部では混乱状態になりました』

「事故かぁ、それで盗賊団はどうしたの?」

『全て捕らえて、現在はダンジョン入り口で騎士団の到着待ちです』

「了解。後程カナンに来て」

――ピッピッ


「ありゃまあ。過保護にする気は無かったけど、これはまたとんでもない洗礼を受けたものだね」

 あっけにとられて、赤城達にそう話しかけるが。

「逃げる時にバッグも落としましたぁ」

「仕事用じゃない、普段使いのやつですけど、食料もお金も全て失いました」

「カナンまでは、途中で街道まで出てからはずっと歩いて来ました」

 ふむふむ。

 よく聞く初級冒険者のような感じである。

 なのでマチュアも笑いながら一言。

「いい体験したね。これで命のやり取りの意味がわかったでしょ?」

「あの盗賊は本気で殺しに来ましたよ‥‥」

「吉成さんと高畑さんがいたからなんとかなりましたけど」

「ふむふむ。前衛が二人、盗賊系一人、術師一人か。いいバランスだよ。その調子で後三日かな?」

 残り日数を指折り数える。

「ストーム教官から、一週間の訓練延期を言い渡されてます。なので後10日です」

「早く食べてハートマン教官と合流しないと」

 少し急ぎ目に食事を摂りはじめる。

「まあ、ハートマン教官はこっちに向かっているから、後ほど合流しなさいな。しかし一週間延期ねぇ。実技?」

「はい。戦闘実技です。ストーム教官は任務で出かけたので、ターキーさんとズブロッカさん、斑目さんが実技訓練をつけてくれます」

 お、おう。

 加減のある優しいチームだ。

 まあ頑張れ。

「じゃあ頑張ってね。私は今日は休暇取ったので、ここでまったりしてるから」

「あの、日本、忙しいですか?」

「そこそこにはね。早く研修終えて戻りなさいな」

 マチュアがそう説明すると、四人は元気を取り戻したらしく力強く返事した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 赤城達一行がハートマンと合流して関連施設に向かってから。

魔法鎧メイガスアーマーもそろそろ量産だな。大使館に置いて時折動かさないと。でもまた椎名と喧嘩なんだよなぁ」

 右手の魔法陣は時間切れで消滅、魔法等関連法案についても椎名は異世界政策局と日夜喧嘩を続けている。

 国会関係は、余程の事がない限りはマチュアが出張る必要はないと椎名から直接連絡があったので、後は政策局に任せる事にした。

 そして、未だに魔法鎧メイガスアーマーや空飛ぶ絨毯、魔法の箒を売って欲しいという人からの連絡は後を絶たない。


「まあ、カナン騎士団にも配備したいから、少し真面目に考える‥‥か‥‥」

 ふと、マチュアに向かって走って来る女性に気がついた。

「私に用事だよなぁ。なんで休みなのに私の所に来るかなぁ‥‥ありゃ、冒険者ギルドの子か」

 そんな独り言を呟いていると、タッタッと冒険者ギルドの職員がマチュアの元にやって来た。

「ハァハァハァハァ。マチュアさんがいたのなら助かります。冒険者ギルドに地球人アーシアンの観光客が来ているのですが、冒険者登録で揉めまして」

「手続きは?」

「全て完了してますが、揉めてます」

「はいはい、今行きますよ」

 素早く箒に跨って飛び出すと、マチュアは装備を白銀の賢者モードに換装した。

 わずか数分でギルドに到着した時、入口すぐのロビーでは地球人と冒険者が何やら怒鳴りあっていた。


「たかだかEクラスの地球人が、ガタガタ文句言うんじゃねえよ。お前が受けられる任務はここのボードのみ、そっちは上級冒険者の依頼だ」

「だからそっちに同行させてくれれば良いんですよ。壁役をやってくれるだけ。貴方達は報酬がもらえますし、私は経験値がもらえる。それで良いじゃないですか?」

「何だその経験値って、お前は冒険者を理解しているのか?」

「カナンに来る前に、僕達はしっかりとした予習もしています。この世界に似た世界の資料がありましたので、それと照らし合わせて来ました」

「その通りです。私は魔法使いになるのにここに来たのに、何故適性が戦士なのかも理解出来ません」

「俺様はこの世界で勇者になる。職業を勇者にして貰おうか」

「金ならあるんだから、それで良いじゃないか」

 地球人は三人組の男女、こちらは‥‥馴染み亭常連ファイターのザックス。

 ちなみにザックスはAランク、好きな料理は焼きアプルのクレープ。


――シュタタタタッ

 箒から飛び降りて走り出すマチュア。

「ザックス、飛べっ‥‥横一閃・シバクゾオラっっっっ」

 暗黒騎士の剣術である横一閃を突っ込みハリセンで行っただけだが、魔力抵抗のない地球人にはめちゃくちゃ効果的である。

「ギルドの‥‥うわぁ、賢者マチュア殿でしたか、これは失礼」

 その場の冒険者も全員跪く。

 それにつられて、地球人も跪く。

「この場は幻影騎士団の賢者マチュアが預かる‼︎ 何があったか話してみよ」

 それならばと、職員の一人が一通りの説明を行った。


 自分の望んでいたクラスになれなかったので、転職する方法を訪ねた地球人一行。

 だが、転職には一通りの訓練と経験が必要。

 ならばと、ゲームで培った知識でレベルを上げようと考えたらしい。

 盾役のファイターに敵を引きつけてもらい、経験値の高いモンスターを倒して一気にレベルを上げようと考えたと言うのである。


「あ〜成程理解したわ。あのね、ここはゲームの中ではなく異世界。現実なのよ。経験は数字ではなく実践、ネクスト経験値は存在しない。ここまでおっけ?」

 何がおかしいか理解していない地球人と、ゲームを知らないカナンの人なら口論になるのは当たり前。

「あ、あれ、このカードはレベルとかはありますよね?」

 勇者希望の男性が冒険者カードを取り出す。

「Eランクの精霊魔術師かぁ‥‥地球人でそのクラスは珍しいわぁ‥‥」

「でも、俺は勇者になるんです。その為にこの世界に来たのですよ」

「うん、まあ‥‥勇者は、人に認められるもので、クラスじゃないなぁ。この世界で強くなって、人に認められるだけの事をやりなさい」

「私は魔法使いになりたいんです‼︎どうやったらなれますか」

 勇者の横から女性が出て来る。

「君のカードは?」

「これです。文字は読めませんが、Eランクの戦士と教えられました」

 ここでふと、マチュアは頭を捻る。

「まあ、転職なら冒険者関連施設で魔法関連の勉強をして、そっちに傾注していれば時間は掛かるけれどなれるよ‥‥それよりも、何で君たちカナンの言葉喋れるの?」


 それが不思議でならない。

 普通の観光客なら、ギルドで簡単なカナン語のテキストを借りる事が出来るのだが、この三人はかなり喋れている。


「僕たちは、異世界渡航旅券パスカードの申請が通った時点で勉強したのですよ。私達の世界にはインターネットというものがありまして、そこでカナン語を説明してくれるサイトがいくつもあります。」

「そこで必死になって勉強して、ここで生きていく為に家財道具や貯金全てを下ろして来たんだ」

「もう現実世界になんて戻りたくないの。このカナンの人間になるのよ」

 ああ。

 マチュアはやれやれと言う表情で三人を見下ろした。

「おめでとう。君達が異世界で厨二病を拗らせた第一号だよ‥‥あのねぇ。まず冒険者の仕組みから簡単に説明するからついて来なさい」


 そのまま隣の酒場に移ると、まずはエールを4つ注文する。

 その他つまめそうな食べ物を注文すると、淡々と冒険者についての説明をする。

 一つ一つの質問にも丁寧に答えるマチュア。

 判った事は、この三人は本気でこの世界で冒険者として生きていこうと決意して来たらしい。


「それで、この世界での生活費は?」

「貯金おろして来ました。金貨でなら、三人で二百十枚あります」

「お、おう‥‥それで装備を揃えて、まずは関連施設に行って、技術を学んでかぁ‥‥一年ぐらいは暮らせるかな」

 指折り数えて説明する。

「あなたはこの世界の冒険者としてはかなり強いのですよね?」

「先程、皆さんを一言で黙らせた実力、なかなかありませんよ」

「そうですねぇ。貴方を私達のライバルとして認めましょう。今後も共に切磋琢磨していきましょう。色々と助言ありがとうございました」

 丁寧に頭を下げる一行だが、周囲の冒険者は凍りついている。

「お、おう‥‥ライバルかぁ。なら、早い所鍛えて私に追いついてもらいますかねぇ‥‥でも、一週間で貴方達は帰らないとならないでしょ?」

「戻りません。このままカナンにいます」

 ふむ。

 腕を組んでじっと三人を見る。


「貴方達の持っている異世界渡航旅券パスカードは、一週間で帰還しなくてはならない。帰還期限を過ぎてしまったら、一週間後には異世界渡航旅券パスカードは効力を失います」

「失っても問題はないですよ?」

「失うと、貴方達はこのカナンに住む人になりますが、その際は居を構えて住民として登録するか、冒険者として生活するかを選択しなくてはなりません。それに、何かあっても、日本大使館は貴方達を助ける事はありません」

 淡々と説明するマチュア。

「万が一の生活の保障も、保険もこの世界にはないのです。その事を踏まえて、もう一度考えてみてください。異世界ギルド指定の宿ではなく、街の宿で生活すると、この世界がどれだけ厳しいか理解出来ますよ‥‥あまりお勧めはしませんけどね」

 そのマチュアの言葉を真剣に聞いている三人。

 自分達も本気だからこそ、この世界の人の言葉には耳を傾けている。

 真面目な姿勢は嫌いではない。

「それじゃあね、私からはこれだけ‥‥また何処かで会える機会があったら、その時はね」

 立ち上がって金貨を取り出すと、ウェイトレスに三枚手渡す。

「この子達がここで食事をする時は、そこから引いといて。足りない分だけ請求してあげて」

「は、はい。それじゃあご苦労様でした」

 その言葉を聞いて、マチュアも冒険者ギルドを後にした。


「か、かっこいい。あの人も冒険者なんだ‥‥しかも私の憧れていた魔法使い。カッコいいなぁ」

「あの人と一緒に冒険したら、きっと見聞も広がるんじゃないか?」

「そうだ、それで色々と教えてもらおう」

 ガタッと立ち上がってマチュアを追いかけようとしたが、それは近くの冒険者達が引き止めた。

「いやいや、それはやめておけ。トリックスターのマチュアならいざ知らず、あの方はダメだ」

「そうそう。マチュア様はそんな簡単に冒険なんてしないからな」

 あちこちでウンウンと頷く冒険者達。

「その、マチュア様って何者なんですか?」

「地球人なら知らんだろうなぁ。サムソンの剣聖ストームと並ぶ今の時代の勇者の一人、白銀の賢者マチュア様だ。このカナンの女王でもあるお方だよ」

「そうそう。お前達よかったなあ。マチュア様から直接話が聞けたなんてよ」


――サ――ーッ

 三人の顔から血の気が引いていく。

「こ、この国の女王?」

「勇者の相棒?」

「あぁぁ。テレビで見た、あの人だ。ミナセ女王、マチュア・ミナセって言うのかぁ‥‥」

 改めて全身が震える。

「ど、どうする?」

「もう帰る所はないが、取り敢えずは残りの時間でこの世界を知ろう」

「本格的に冒険者になるのは、それからでも構わない。まずは知識だ」

「そうね。冒険者関連施設で学べばいいのよ‥‥あの、すいません。冒険者関連施設ってどこにありますか?」

 近くを通りかかった猫族のウェイトレスに問いかける。

「この建物の裏に行くとありますよ。話は聞きましたよ、Eランクはスタート地点です、頑張ってくださいね」

「はい。では行きましょう。そこで色々と教えて貰えばいいのですよ」

 女性が立ち上がると、それに男達も続いた。

 なお、この直後にハートマン教官と合流した赤城達一行とこの三人組は出逢う事になる。

 その後どうなったかは、後のお楽しみである。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 いつものチュニックに戻して、再度馴染み亭に戻るマチュア。

「おや、店長もう用事は終わったのですか?」

 オレンジジュースを持ってきたメアリーがマチュアに話しかけた。

「まあ、いつか来るかもという懸念事項が今日来ただけよ。まだまだやる事多いわ‥‥私は指示しかしないけど」

「良いのではないですか?上に立つ者はそれでいいと思いますよ?」

「でもねぇ。下に手本を見せるのも必要とは思わない?上がどれだけ出来るのか示さないと‥‥」

――チョロチョロ

 さっきから視界に入る謎の少女‥‥というか、シルヴィーがいた。

 厨房でシルヴィーがウロウロしているのに、マチュアは気がついた。

「ありゃ?シルヴィーは何しているの?仕事の邪魔なら持って帰るよ」

「持って帰るって‥‥シルヴィー様は修業だそうですよ?」

「修業?なんの?」

「さぁ?今は二人について料理の勉強だそうです」

 首を捻るマチュアとメアリー。

 ならばと、マチュアも立ち上がって厨房に入る。


「ごほん。この新入りは何をしているのかな?」

「やぁマチュア。妾は料理の修業ぢゃ」

「だそうですよ」

 料理長のキャリコがシルヴィーのフォローをしている。

 横ではフランキが淡々とオーダーをこなしていた。

「そかそか。なら、私も働きますか」

――シュンッ

 素早くコックコートに着替えると、すぐさまオーダーの確認をする。

「ストーブ前に入ります。キャリコはシルヴィーとコール場、 フランキは私の前でセカンド、 さて楽しいパーティでも始めますか‼︎」

「「はい‼︎」」

「は、はいなのぢゃ」

 次々と飛んでくるオーダーをこなして行くマチュア。

 その動きに、シルヴィーも翻弄されてしまう。

 王都ラグナで見た出店の時といい、今の調理といい、本当に不思議な光景なのだろう。

 そしてそれは、店内から厨房を眺めている赤城達もそう感じていた。


「‥‥美味しいんですよねぇ」

「異世界の料理なのに、どうしてこう、地球人の舌に合わせられるのかなぁ」

「さっき常連さんに聞いたら、開店からずっとこの味ですって。本当にどうしてこんな味が出せるんだろう‥‥赤城さん、さっきからどしたの?」

 高畑達がおしゃべりしている間、赤城はずっと厨房を見ていた。

 そして時折マチュアが見せる癖や、手のひらをヒラヒラとさせる仕草を見ていると、いつのまにか涙が溢れている。

「ちょ、ど、どうしたの?」

「いや‥‥なんか感動して‥‥何でだろ、マチュアさんが知っている人にダブるんですよ」

「うんうん、気のせいだね。その人は異世界の人?」

「いえ、もう亡くなって、会えないんですけど‥‥」

「まあ、マチュアさんの年齢が500歳超えてるのは知っているから転生とかではないなぁ。他人の空似じゃない?」

「ですよね。でも、なんだろう‥‥厨房にいるマチュアさんが、普段よりも生き生きしているように見えるんですよ」

 ふむふむ。

 そう皆んなも頭を縦に振っていると、ジェイクがワインを持ってやってくる。

 そして四人にサービスすると一言。

「マチュアさんは冒険者になる前は世界を股にかけた料理人だったそうですよ。色々な国の料理や調味料、食材に詳しいのはそういう理由です。それに‥‥」

 一拍置くジェイク。


「「「「それに?」」」」


「冒険者になったのは、食材集めの為だそうです。お食べになりますか?とっておきを」

「是非お願いします」

 その高畑の言葉で、ジェイクもニッコリと微笑む。

「マチュア様、オーダー入りました。ドラゴンステーキを四人前です、サーロインとヒレの部分をハーフでお願いします」

「はぁ?どこの王侯貴族様ですか?」

 厨房から身を乗り出すマチュア。

 すると、赤城達と視線が合わさった。

「‥‥成程。では特別に作りますか」

「わ、妾も食べたいぞ」

「はいはい。キャリコはサラダと付け合わせの準備、フランキはソースを用意して‥‥」

 空間からドラゴンの肉塊を取り出すと、マチュアはすぐさまドラゴンステーキを調理し始めた‥‥。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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