地球の章・その19権利の行使と報道の不自由
契約を結ばずにMINACO本社から出てきたマチュア。
近くのベンチに腰掛けてクリアパットを開くと、何かを調べているような素振りを見せる。
「今頃、侃侃諤諤だろうなぁ」
意識をレクスに向けてどんな話をしているか聞いてみると。
どの役員もお互いに文句を言い合っているだけである。
意地でもマジックリアリティを占有したいらしく、特許庁に申請するかとまで話し始めている。
「何だろうなぁ。夢と希望を売り物なメーカーが、夢も希望もない事話してるよ。後から出してきた契約書なら問題ないから、それが来る事を祈りますか‥‥」
ならばと、マチュアは箒を取り出して乗ると、のんびりと霞ヶ関へと飛んでいった。
‥‥‥
‥‥
‥
目の前にあるのは巨大なビル群。
その一角にある『特許庁総合庁舎』にマチュアはやって来た。
箒を手に、堂々とロビーに入る。
「はてさて、総合受付は‥‥そこか」
傍にある総合受付に向かうと、マチュアは発券機から一枚引き抜いて、のんびりと椅子に座った。
「25番の方、どうぞ」
やがてマチュアの番になると、呼び出されたカウンターの席に座った。
「あ、え、えーっと。ここは特許庁でして、議会や議員会館ではありませんが?」
動揺して訳のわからない事を話し始める。
「いや、えーっと。ちょっと質問なのですが」
そう話して、マチュアは空間から『魔力を注いで輝く魔法のランタン』を取り出す。
「魔法物品の特許って、申請しなくてはなりませんか?」
こんな質問は前代未聞。
流石の担当者も頭を抱えるレベルである。
「い、今担当を変わりますので、少々お待ちください」
すぐさま席を立って後ろの事務室に向かう。
すると、いかにもという感じの壮年の男性が、マチュアの前に座った。
「お話を伺います。魔法の物品に関する特許ですよね?」
「はい。これはどのように申請すればいいのですか?」
「実はですね。過去にもそのような事例がありまして‥‥結果から申しますと、魔法の物品についての特許は受け付けていないというのが正解です」
予想外の返答。
「それはまた、どうしてですか?」
「申請書がこのようにあるのですが、これに基づいて申請していただいても、その発明や物品がなぜそのような動作をするのか、仕組みをしっかり記載してなくてはなりません。魔法となりますと、そこの部分が全て『魔法だから』になりまして‥‥」
「つまりは?」
「審査官が理解できないのですよ。そのようなものは全て受付をしていません。例外は医薬品で、結果を伴うための臨床データが揃っていれば、効果が得られると証明されるので特許出願できますよ」
「例えばですが。このランタン、材質などは市販品、魔術師の初期魔法である『光球』を付与してある、点滅条件は魔力の注入、効果時間は継続。これでは駄目ですか?」
「はい。付与から後が全て駄目ですね。審査官は理解できません。まあ、魔法に関する特許は受け付けないという大前提がありますので、ご安心くださいとしか言えませんので」
成程納得の返答。
ならば安心して、他社にマジックリアリティを売り出しに行ける。
そもそもマチュアしか作れないのだから、やれるものならやってみろという所である。
「有難うございました。大変勉強になります」
「いつでもいらして下さい。まだ私達の世界に魔法の物品は馴染みのないもの、そのうち特許に関してもルールが変わるのも知れませんので」
「はい。それでは」
丁寧に頭を下げると、マチュアは特許庁を後にする。
「ここまで離れると聞こえなくなるかぁ。解除と」
パチンと指を鳴らしてリンクを切断すると、マチュアはレクスを消した。
「はぁ。いきなり予定が空いたぞ?どうする私‥‥」
手にした箒を浮かべて横座りすると、スーツと高度を上げる。
本来なら最初の契約を終えてからオタカラトミーに向かう筈であったのに、全てが帳消しになってしまった。
「この世界は、私たちカリス・マレスの人々には住みづらい世界だよなぁ。契約やら法律やら。もっと簡単に生きられないのかなぁ‥‥」
元地球人であるマチュアにとっても、この地球は住みづらい。
それでも生きている人達がいるのだから、環境に慣れるというのは大変なのだと痛感する。
すると、ブレスレットに通信が届く。
――ピッ
『三笠です。サンニチテレビから、例の『朝まで生討論』の企画が送られましたが。椎名議員も出るそうですよ』
「へぇ。いつ?」
『今週末ですが、どうしますか?』
「‥‥右手の魔法陣については、まだ連絡がないのよね」
『ええ。すぐにでも来るかと思いましたが、予想外に粘りますね』
「まあ、まだ五日以上ありますからねぇ。のんびりと待ちますよ。テレビの件は詳細を送って欲しいと伝えてください」
『了解です。お帰りは今日ですか?』
「不明。まあ、私はスマホなんて持ってないから、向こうから詫び入れたくても連絡出来ないからなぁ」
『はぁ〜。相変わらずトラブルを。こちらに連絡が来たら、すぐに連絡しますので』
「はいはい。では後は任せますよ」
――ピッピッ
「はてさて。彼方此方面倒になって来たぞ‥‥どうするかなぁ」
ポーッと空に浮かぶ。
周囲では、だんだんとマチュアを撮影する人達で賑わい始める。
まあ何時もの事と、のんびりと撮影に身を講じているが、やはり今日はノリが良くない。
軽く手を振っているのが精一杯である。
「あ〜やめやめ、今日はのんびりしよう、よしそうしよう‼︎」
そう呟いて、マチュアは周りの人に手を振ると箒に飛び乗って車道に飛び出した。
後は高度を維持しながら、のんびりとドライブを続ける。
目的地は特に定まってはいないが、なんとなく腹も空いて来たので、腹ごなしをするべく彼方此方うろうろと飛んで行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
市街地から小道に入り、更に住宅地に抜ける。
ふと気がつくと、全く知らない土地にやって来ているのに気が付いた。
「‥‥どこだここ?」
キョロキョロと辺りを見渡すが、当然ながら土地勘のないマチュアには判らない。
「あの、すいません‥‥ハイエルフのマチュアさんですよね?」
ふと、後ろからマチュアを呼び止める声がする。
ゆっくりと振り向いた先には、中学生らしい制服を着た少女が立っていた。
「はいはい?何か御用かな?」
「い、いえ、キョロキョロしているので何か探しているのかなーと思いまして」
「何か‥‥美味しいご飯が食べられる所を探しています。地元の子?」
「はい。近くに大衆食堂がありますけど‥‥そういう所じゃ嫌ですよね?」
おっと。
これは渡りに船である。
「いやいや、寧ろ大歓迎。案内してもらえるともっと歓迎」
「帰り道ですから良いですよ」
「よし、なら後ろに乗って。飛んで行きましょ」
そう話すと、有無を言わさずにマチュアの後ろに座らせる。
「わわわ‥‥これ、バランスが難しいですよ」
「うん、しっかり掴まっててね‥‥この道をまっすぐ?」
「はい。信号二つ先です」
ならばと、のんびりと飛んでいく。
途中の信号で止まると、歩道を歩く人が気さくに手を振る。
子供達も羨ましそうにこちらを見ている。
異世界の存在に対して、恐れよりも好奇心が優っている。
そんなこんなで、気がつくと道路沿いにある大衆食堂にやってきた。
「ここですよ。この店のオススメのメニューはトンカツ定食、ボリュームがあって安いです」
箒から降りながら説明してくれる。
「へぇ。お腹すいてない?御礼に奢るわよ」
「お言葉に甘えたいのも山々ですが、試験期間なので帰って勉強しないとならないのですよ」
ふむふむ。
実に懐かしいフレーズである。
「あらら。じゃあ頑張ってね」
「はい。それでは失礼します‥‥元気出してくださいね?」
そう話してから走り去る少女。
それをのんびりと見送ってから、マチュアは食堂に入った。
「あっさりと見抜かれたかぁ。まあ、人の悪い所ばっかり見えてたからな‥‥」
ぽりぽりと頭を掻きながら、空いてる席に座る。
こんな下町の、それも大衆食堂に異世界のエルフがやってきたので、店員や客が驚いている。
「い、いらっしゃいませ。ご注文はどうしますか?私の言葉わかりますか?」
緊張しながら話しかけてくれる店員に、ニッコリと笑う。
「この世界の言葉は全てわかりますよ。近くの女の子がここは美味しいと教えてくれたので」
「え、エルフはお肉を食べないのですよね?そうなると野菜炒め定食がオススメですが」
「いえいえ、それはこの世界のエルフですね。私たちの世界では普通に食べますよ。ですので、トンカツ定食をお願いします」
「はい。少々お待ちください」
水の入ったピッチャーとグラスを置いて、店員も厨房に戻っていく。
店内据付の大型テレビをのんびりと見ていると、ちょうどバラエティ番組で異世界についての討論をしている所である。
『先日、マチュアさんが椎名議員に対して魔法を使いましたよね?あれを私達が独自に調べたのですが、どうやら呪いの類である事が判明しまして‥‥』
『その呪いとは?』
『あの数字はカウントダウンでして、数字が減るたびに衰弱して、最後は死に至るそうです。最近、椎名議員が表に出ないのは、既に体を動かす事も出来ないらしいですよ』
『それは明らかに違反ですよね。そんな横暴を国は法律で認めてしまったのですよね?』
『ええ。大した調査もせずにね。あの報告書だって明らかな捏造、そんなに簡単に資源なんか見つかる筈はないというのが専門家の意見です』
『ではここで一旦CMをどうぞ‥‥』
「独自の調査ねぇ‥‥それに専門家かぁ。ちょっと話をしてみたいですなぁ」
叩ける所を見かけると叩く。
どうせ後で謝ればどうとでもなると思っているのであろう。
――コトッ
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」
「あら、ありがとうございます」
目の前に置かれたトンカツ定食に、マチュアは目をパチクリさせる。
やや大きめの茶碗一杯のご飯と、豆腐とわかめの味噌汁。
口直しの漬物は柴漬けと沢庵。
山盛りキャベツの前にあるトンカツは、一体どれぐらいの重さなのだろう。
肉厚が軽く3cmはある。
「あれ?私大盛り頼みましたか?」
「うちはそれが普通なんですよ。大衆食堂ヨシズミは、成長期の子供と頑張る大人の為の食堂ですから」
そう笑う店員と、カウンター奥でガッツポーズを取っている店主。
「いいなぁ。こういうの好きですよ」
早速トンカツにかじりつく。
サクッとした歯ざわりとジューシィな肉の感触。
脂身が甘く、それでしつこさも感じない。
やや濃い味付けの味噌汁は、肉体労働者には嬉しい塩分である。
しかもキャベツとライスはお代わり自由。
ハフハフモグモグと夢中になって食べていると、気が付くと全て平らげてしまっていた。
「ふぁぁぁ。満腹で満足だぁ。魔力が回復するような気がする」
そんなに早く回復する訳ではない。
まあ、それぐらい美味しかったという事である。
満足そうに呟いていると、店内の客も店員も、マチュアを不思議そうに見ている。
「???何か私についてます?」
「いえ‥‥最近よくテレビで見るのですが、マチュアさんって、そんなに怖くない人だなぁと」
「テレビのコメンテーターの話だと、頭の固い、地球の文化を理解しない蛮族とか色々言ってるので」
「へぇ?例えば誰?」
「この人達ですよ。ほら、今もそんな話ししてますよね?」
ちょうどテレビでは、異世界から来る人々の危険性についての討論が行われている所であった。
文化文明を知らないとか、金銭価値がわからないとか、言いたい放題である。
しかも、まるで自分達が見てきたかのような話をしているのだから堪らない。
「おお、何かめちゃくちゃなこと話してるなぁ。この番組、最後にフィクションですとかつかないの?」
「つかないですよ。この人達の話って、嘘ですか?」
そう問われて、もう一度番組内のフリップなどをじっと見る。
「う〜ん。殆ど嘘だなぁ。一部は個人差があるし宗教的な部分もあるから嘘ではないが、真実でもないなぁ」
「でしたらクレームつけた方がいですよ?この番組、炎上商法みたいなやり方で視聴率稼いでますから」
「そんなことしたら、ますますつけあがるだろうなぁ‥‥」
頭を捻るマチュア。
いつもならいい案が浮かぶのだが、どうも今日は何も思いつかない。
「うん、放送には放送かな?お会計お願いします」
「はい。880円です。それと‥‥サイン貰って良いですか?」
そっと色紙を取り出して、マチュアに渡す店員。
「構わないわよ。それじゃあ」
指先に魔力を込めて、サラサラっと名前をなぞる。
魔法陣を書く要領で名前を書き上げると、それを永続化しただけ。
ほんのりと赤く輝く色紙の出来上がりである。
「はい。これで良いかしら?」
「はい、ありがとうございます。お釣り百二十円です」
――チャリーン
懐にお釣りを忍ばせると、マチュアは軽く背伸びをしてから店を出る。
すると。
――ザワザワザワザワッ
店の外には大勢の人が集まっている。
「本物のエルフさんだ」
「ここで何してるのですか〜」
「サイン下さーい」
「記念撮影いいですか〜」
「魔法使いになりたいのですが、どうすればいいですか〜」
などなど。
しまいにはどっかのテレビ局までやってきている始末である。
「うはぁ。待て待て、何処で拡散した?」
そう問いかけると。
「boyaitterで見ました。このあたりを散策していたのですよね?」
どうやらマチュアを見かけた人がSNSで呟いたらしい。
あれよあれよと広がって、気がつくと大勢の人がマチュア。探して街の中を走り回っていたらしい。
「あら〜どうしたらいいのやら」
こうなると逃げるに逃げられない。
すると。
――パッ
突然マチュアに向けられていたテレビカメラの放送ランプが光った。
女子アナがなにかを話しながらマチュアに近づいて来る。
「こんにちは。フジミ放送の田辺です。今、お昼のパイレーツという番組の中継をしていまして。異世界からいらしたマチュアさんですよね?」
ニコニコと笑いながらマチュアにマイクを向けてくる。
(へぇ。そういうやり方ですか)
有無を言わさずに番組に巻き込むつもりなのだろう。
ならばこちらも考えがある。
「ええ。仕事の打ち合わせが早く終わりまして。この後すぐに出掛けないとならないので、インタビューには応じられないのですよ?」
ニッコリと笑うマチュア。
「そこをなんとかお願いしますよ。この後は国会ですか?」
「いえ、偏向報道してくれる放送局にちょっとお話をしに。フジミ放送本社までね‥‥」
指先に魔力を込めて、空間にクルクルと魔法陣を作る。
「へ?偏向報道ですか?」
「ええ。先程までお昼ご飯食べながら見てたのですよ。フジミ放送のFSSニュースアワー。色々と学者さんや教授たちが嘘八百並べてくれたので、BPOを通して正式に訴えたくて」
困った表情でそう告げると、突然カメラが中継を止めた。
「あら?もう宜しいのですか?」
アナウンサーに話しかけると、正面のカメラマンの横にいる責任者らしい人が慌ててマチュアの前にくる。
「あ、あのですね、カメラの前でそのような事を言うのはどうかと思いますよ。私たちは放送倫理を守って報道しているのですから」
「へぇ。根拠も何もなく私達を叩きまくった事は倫理に反しないのですね。あ、私も急ぎますので、これで失礼しますね」
そう説明すると、マチュアは近くのアーケード街へと歩いて行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
本気でテレビ局に向かう気は無い。
アーケード街のシャッターが降りている、今は営業していない商店の前に立つと、マチュアは魔法で見えない椅子を作り出して座った。
「さてと‥‥」
周囲には、マチュアが何かをするのかとワクワクしている人たちがいる。
「申し訳ないけど、boyaitterで発信してくれるかしら?ハイエルフのマチュアさんが一問一答を街角でやってるって」
「は、はい‼︎」
あちこちでスマホをいじり始める。
その光景をマチュアはうんうんと頷いて見ている。
「スマホ、持ってないのですか?」
「住民票ないのよ。日本に住んでないからね。何処かの携帯メーカーがプレゼントしてくれるのを期待するわ」
――クスクス
いつもの口調で戯けると、やはり笑い声も聞こえてくる。
「写メ撮っていいですか?」
「どうぞどうぞ。お好きなだけ」
「あ、あの、テレビで見た空飛ぶ絨毯を見たいのですが」
「ほう、ちょっと待っててね」
――スルルッ
空間から空飛ぶ絨毯を取り出すと、取り敢えず広げて飛び乗る。
「1mぐらいかな?ここで固定‥‥と」
高さ1mの所に絨毯を固定すると、マチュアはそこから飛び降りて椅子に座り直した。
「記念撮影ならご自由に。喧嘩しないで順番に並んでね」
そう説明すると、すぐさま絨毯の前に列が出来る。
後は勝手に撮ってくれスタイル。
「異世界に行きたいのですが、いつ行けますか?」
その質問には、真面目に答える。
「申請はしたかしら?」
「はい。ですが1回目の申請は不許可になりまして。再審査待ちなのですよ」
ほうほう。
なら都合がいいので、ここで解説。
「1回目の申請が不許可になった場合は健康面か年齢制限、保護者の同意などが挙げられます。犯罪歴はあってもなくても構わないけれど、執行猶予や保護観察もダメ」
ふむふむと、あちこちで真面目にメモを取る。
「学生の許可が取れていないのは、おそらく時期的な事なのよね。受験を控えている年齢も通りづらいかも。ここは私の管轄じゃないからどうとも言えないのよ。再審査待ちなら、もう少し待っててね」
「はい‼︎」
疑問が解消したのか元気な声が帰ってくる。
「ま、マチュアさん、インタビューお願いしたいのですが」
はるか後ろでテレビ局か叫んでいる。
「お、こ、と、わ、り。私はここで、この人達と遊んでるの。邪魔しないで下さいますか?正式な取材の申請でしたら大使館を通していただけますか?」
そう話すと、マチュアは素早く外交官カードを見せる。
「今日、生中継で使いたいのですよ。お願いしますよ」
カメラの横で軽く頭を下げる責任者。
「だ、か、ら、取材申請をファックスで送りなさいよ。なんで私が口頭で許可しないとならないの?」
ニコニコと笑うマチュアと、困り果てている報道関係者。
「さて、あと質問なんでしたっけ?」
「魔法使いになりたいのですよ。どうやったらなれますか?」
そう問いかけられると、マチュアは人差し指を目の前に出す。
「私もみなさんも、身体の中に魔力回路と呼んでいる魔力の流れる道があります。気脈とか、チャクラとか色々と呼び方は違いますが、まあ似たようなものです」
すると、指先がほんのりと輝く。
「魔力が指先に集まるイメージ。これを続けてください。血の巡りにも魔力が流れています。指先の血管に魔力が集まる。理解してくるとほんのりと温かさを感じます。そこが第一歩」
説明をしながら、近くで指先を見ている人の前を歩く。
集まり始めている人の指先を、マチュアはチョン、と人差し指でつつくと。
――フウンッ
突かれた人の指先がほんのりと輝く。
「う、うわ、出来た、これが魔力だ‼︎」
「私にまで来た、魔力が来たぁ」
あちこちから魔力が溢れ出す。
すると不思議なもので、出ていなかった人にも少しずつ見えて来るようになる。
集団心理と言うほどではなく、魔力の連鎖解放である。
冒険者関連施設でもよく起こる、魔法使いの訓練課程で発生するもの。
故に、マチュアもうんうんと嬉しそうである。
「そこからは更に高度な訓練。なのでここでは教えない。けれど、今言った事を毎日でも少しずつ頑張ってくださいね」
コクコクと頷く人々。
「あ、あの、空飛ぶ絨毯はどうやったら手に入りますか?」
「魔法の箒も売ってないのですか?異世界で買えますか?」
あちこちから飛び交う質問。
「これは売ってないなぁ。売る予定もないけど、今日みたいに私が暇していたら、こうやって記念撮影ぐらいは出来るので」
「魔法少女みたいに変身できますか?」
はぁ?
その質問は初めてだよ。
しかも子供じゃなくて大きいお兄さんの質問って。
「こういう変身?」
――シュンッ
一瞬でローブ姿からチュニックに変わる。
「うーん。もう少しその、ロマンと言いますか‥‥」
「そのロマンを説明してくださいな?」
「魔法少女・キュアクリアンみたいな、そんな変身は出来ますか?」
むむむ。
それが何かわからない。
「あ、あ、えーっと。ごめんなさい元ネタがわからないから何とも言えない。けど出来ないとも言わない」
「出来るのですか‼︎変身ステッキで華麗に変身‼︎」
落ち着け兄さん。
周りがドン引きだよ。
「まあ待て。それは子供用になら考える。兄さんは少し落ち着きなさい」
再びどっと笑い声が起きる。
そんな事をしていると、遠くから警官が近づいてくるのが見えた。
「あ、怖い人が来たので今日はここまでね。また何処かで話ししていると思うので、その時にまたお会いしましょう」
丁寧に挨拶をすると、警官たちは後ろの報道関係者に事情を聞いている。
そしてマチュアの近くまで来るが、マチュアが絨毯を畳んで箒に跨ると、そこで足を止めてしまう。
「あ、あれ、状況を確認しないのですか?」
報道関係者が警官にそう問いかけているが、警官も困ってしまう。
「まあ、そんな所でしょうね。そこの警官さん、お一人こちらにどうぞ。通報したのはどなたか聴いてますか?」
「そこのフジミ放送の方です。許可なしに街頭演説をしていると」
「へぇ。フジミ放送、本気で私に喧嘩売るのね。まあ、今日はもういいわ、私も勝手にここでやってたので悪いと思いますし。では失礼しますね」
警官に事情を説明してから頭を下げると、マチュアはその場からのんびりと飛び立った。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






