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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と
200/701

幕間・クリスマスは突然に

まず。

この場を借りて、四季さんと十条楓さんに御免なさい。

これは幕間、本当にあったのか、それとも夢なのか、それは読んでいる皆さんがご自由に想像してください。

創造神としては、あったかも知れないしなかったかも知れない。

ゲストでやって来た二人も、本物ではなく神様の気まぐれでやって来た幻影なのかも知れない。

そう笑って許してくれると幸いです。

 話は昨年のクリスマス付近まで遡る。


 カナンではクリスマスという風習はなく、年が開けると新年祭が始まる。

 新年祭は世界を見守っている神々に感謝を捧げ、その年の安全を祈願するものである。


 だが、カナンではなく日本の異世界大使館では、そんな悠長なことを話している場合ではなかった。

「マチュアさん、12月24日に大使館ロビーで宴会しませんか?」

 そう話を切り出したのは、何を隠そう三笠執務官である。

「ふぁ?クルマルス?」

 とりあえず真央は知っているが、マチュアは知らない事にしておく。

「クルマスクではなくクリスマスですよ?クリスマスパーティー。折角ですので大使館も飾り付けて、美味しい食べ物とお酒、そしてプレゼント交換しましょう」

 吉成もノリノリである。

「そうですよ、三笠さんも家族を連れて来てくださいよ」

「職員の知り合いなら誰でも参加にして、楽しい抽選会もしましょう」

 なにやら盛り上がっているようで。

「そもそもクリスマスって何?」

 そう問いかけるマチュアに、十六夜がゴホンと咳払いをして一言。

「クリスマスとは、イエス・キリストの降誕を祝う祭です。毎年12月25日に祝われまして、24日はクリスマスイブといって家族や大切な人と楽しいパーティーをするのですよ」

 つまり、当日参加のメンバーは全員彼氏・彼女なしと。

「へぇ。ならいいわよ。街のあちこちに電飾が光っているのもそうなのね?」

「ええ。大使館もライトアップしましょうよ」

「面白そうね。なら、当日は庭でパーティーしましょう。結界を張って熱球と風操作で暖かくして。正面玄関も開放して、食べ物と飲み物を大量にね」

「ではケーキも作りましょう。マチュアさん、ケーキ作れます?」

 赤城が問いかけるが、マチュアは顔をひきつらせる。

「ケーキは分からないわぁ。誰か作れる?」

「では、私と十六夜さんで作りますよ。高畑さんと吉成さんはチキンの用意をお願いします」

「オッケーですわ。最高のケーキを作りましょうね」

 などなど、皆で盛り上がっている中で、高畑と古屋はスマホを睨みつけて浮かない顔である。


「寒そうだ渋い顔してどうしたの?」

「い、いや、この前ナンパした二人組にクリスマスパーティーをやりませんかってメールしまして、今は返事待ちなんですよ」

「頼みます。どうかオッケー出してください」

 そんな感じて神様に念じている二人。

ーーピッピッ

 古屋のスマホが鳴る。

 急ぎ返事を確認すると、二人は拳を天に掲げた。

「来たぁぁぁぁぁぁ」

「マチュアさん、俺たちは当日欠席です‼︎今からレストラン予約しないと」

「こうしちゃいられない。ではお先に失礼します」

 すでに定時は過ぎているので、帰宅しても問題はない。

「ありゃ、二人は参加しないのか。まあいいか。なら、みんなで盛り上がりましょうか」

 そここらは話はトントン拍子で進む。

 気がつくと、クリスマス当日になってしまっていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 大使館正面庭。

 正門を抜けて、真っ直ぐ正面の入り口の左右に広がる場所が、通称・中庭と呼ばれている左右の庭である。

 右側には大人用の酒類が所狭しと並べられ、大勢の職員や関係者が集まっている。

 そして左側は子供用に食べやすい料理やお菓子が所狭しと並んでいた。

「さて、皆さんグラスは渡りましたか?」

 シャンパングラスを片手に、高畑が大声で叫ぶ。


ーーオッケー‼︎


 一斉に聞こえる返事に、子供達も驚くが。

 すぐに子供達もジュースの入ったコップを構えた。

「それでは、メリー・クリスマス‼︎」

 マチュアの号令で全員が叫ぶ。


「「「「メリー・クリスマス‼︎」」」」


 そこからは楽しい立食パーティー。

 各々勝手に食べたいものを食べ、飲みたいものを飲む。

 一階フロアではカラオケ大会も始まり、大使館は大宴会場となっていた。

「よお、クリスマスパーティーと聞いてやって来た。差し入れだ」

「うむ。差し入れぢゃ」

「と言うわけで、お邪魔しますわ」

 転移門ゲートを超えてストームとシルヴィー、カレンの三人も遊びに来た。

 両手に大量の料理や酒を携えて。

「あら、シルヴィーさん、ようこそ。こちらで飲みましょう?」

「カレンさんもどうぞどうぞ」

 すぐさまストームから引き剥がされるシルヴィーとカレン。

「あら、私はストームと」

「妾もぢゃ、ストーム、助けてたもれ‼︎」

 あっさりと連れ去られる二人。

「あまり飲みすぎるなよ。さて、クリスマスパーティーとは、もっと早く教えてくれれば色々と用意したのだかなあ」

「何をだ?」

「プレゼントのミスリルアーマーとか、オーダーメイドで作ってやったのに」

 ビール片手にマチュアにつぶやく。

 なら話は早い。

「よし、なら後でやる抽選会でそれを出品しよう」

「マジか?」

「うむ。シルヴィーじゃないからマジの意味ぐらいわかるぞ、まじだ……と、それじゃぁまたな、ホストなので忙しいのよ」

 正門にやって来た客を迎えに行くマチュア。

 どうやら近所の人たちも聞きつけて来たらしい。

 宴会なら楽しい方がいいと、マチュアは正門も開放した。

「受付はお願いします。交代で休憩してください、料理がなくなる前にね」

 そう守衛の白川一佐と金町三曹、月形二曹に話しかける。

「ありがとうございます。では遠慮なく、金町三曹、三十分の休憩を命じる。酒は飲むなよ」

「はっ‼︎金町三曹、休憩に入ります」

 駆け足で中庭に向かう金町三曹。

 その頃のストームは、領事部の女性職員に質問攻めにされている。


「ふむふむ。ではでは、私もそろそろ仕掛けを用意するか」

 そーっと大使館の二階に向かうと、そこで影からツヴァイを呼び出す。

 いつもの外見ではなく、マチュアがわざわざ作った新しいアバターである。

「……赤い帽子と赤い服、この体格……私、今日はサンタですか?」

 やれやれと笑うツヴァイ。

「そ。そこで、この日のために用意した空飛ぶソリと、ゴーレムホース改良型空飛ぶトナカイも用意しました。これが新品のラージザック、中にはプレゼントも一杯入ってます」

 次々と説明しては空間に放り込む。

「プレゼントって?」

「駅前のジャンボキメラで買った」

 キメラちゃうわ、ジャンボカメラ。

「……馬鹿ですか?」

「そうだよ、こういうのは盛り上がったもの勝ちでしょ?」

 笑いながら話しているマチュアと、釣られて笑うツヴァイ。

「タイミングは私の自由で?」

「ええ。影の中から上空に転移、そこでソリとトナカイ引っ張りだして来てくれればいいよ」

 コクコクと頷くと、ツヴァイは影に戻って行く。

 そしてマチュアはパーティーに戻っていった。


 ………

 ……

 …


「さて、それでは大抽選会を、始めましょう‼︎」

 参加者全員に何かしら当たる抽選会。

 ビンゴカードが配布され、シルヴィーがガラガラと抽選を開始した。

「まず最初は36ぢゃ、ビンゴはいないか‼︎」

ーードッ

 会場が大笑いする。

 なんだろう、この宴会の盛り上げの上手い女王は。

 次々と数字を読み上げて、八つ目でいきなりビンゴが出た。

「おめでとう‼︎一等はこれだよ‼︎異世界カナンに家族で行っておいで。異世界渡航旅券、家族分だぁ‼︎」

ーーウォォォォォ

 会場が絶叫に包まれる。

「どちらの方かな?近所?」

 そう問いかけられて、ビンゴカードを手にしている女性に問いかける。


「い、いえ、六宮市にいたはずなんですけれど……」

「はて、郊外かな?お名前は?」

「あ、天月沙羅です……ありがとうございます」

 マチュアから目録を受け取り、天月はどうしてここにいるのか分からず後ろに下がって行く。

 つい頬をつねってしまうが、痛みがあるような無いような複雑な感覚である。


 再びビンゴが続けられる。

「次は5番ぢゃ‼︎誰かおらぬか?」

ーースッ

 高校生らしい男性が手をあげた。

「おめでとー。次の商品は……これか、商店街の酒屋さんから、エナジードリンクワンケースだ‼︎」

 いきなりエナジードリンクの入った箱を手渡されて、水奈 亮は戸惑っている。

 ここは一体何処なんだ?


(なんで俺はクリスマスパーティーに参加して、おまけにビンゴに当たってプレゼントまで貰っているんだ?)


 そして目の前のマチュアを見て驚く。

 生エルフである。

 ファンタジーで定番のエルフが、ビンゴの景品にエナジードリンクを渡してくれた。


(悪い夢だ……早く醒めてくれ……)


 そう自分に問いかけながら、亮も後ろに下がっていった。

 やがて抽選会も終わった頃、誰かが空を見上げていた。

「は、はぁ?サンタクロース?」


 ゆっくりとソリに乗って、空を駆けて来るサンタクロース。

 それが大使館に回りながらやってくる。

「ほほう、流石はマチュアさんですなぁ」

「魔法使いの真骨頂ですよね?」

 高畑と赤城が笑っているが、その横にマチュアはいる。

「え?私ここにいるけど?」

ーーザワッ

 その言葉に全員が空を眺める。

 そして袋の口を開くと、中から大量のプレゼントを空中に放り投げた。

 それはまるで、重力を感じないかのようにゆっくりと、羽根が舞うように大使館の敷地に降り注いだ。


(ツ、ツヴァイ‼︎それはプレゼントが壊れる、何考えているんだ)


 慌てて念話でツヴァイに話しかけると。

『マチュアさま、私はまだ影の中ですが……そろそろ出ますので』

(え?お前、今、プレゼント投げただろ?)

『そんなことしたら壊れますよ。私だって馬鹿じゃありませんよ、ちゃんと着地して手渡ししますので』

(……いや、それならいいわ……アバターを戻して影から出てきな。ツヴァイもパーティーに参加するといいよ)


 そうツヴァイに告げると、マチュアは空を駆けて行くサンタに手を振って叫んだ。


 本物のサンタクロースに、『奇跡をありがとう』と。


雪が静かに降り始める。

来年も、きっといい事がある。

気がつくと天月と水奈の姿もない。

マチュアはそこでようやく理解した。

本物の神様の、マチュアたちへの奇跡のプレゼントと。


merry Christmas……。

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