地球の章・その18 天狼と滅びし世界と欲の皮
マチュアが国会で椎名議員と喧嘩をした数日後。
テレビのニュースでは、マチュアを非難するニュースと売国奴扱いを受けている椎名議員の話が盛り上がっている。
異世界との国交を考え直せという話を、あちこちの専門家が理論立てて説明しているが、全てこじつけ以外の何者でもない。
「おおお。これは凄いなぁ。ここまで意見が真っ二つになる国も初めて見たよ」
クリアパットで国会の中継を眺めているマチュア。
「まあ、椎名議員はあれですからねぇ。過去にも様々な事で売国奴扱いされている秦朝寄りの議員ですし」
「そうなの?」
「まあ。献金問題とかで、かなりやらかした実績がありますよ」
「へぇ。それで日本とカナンを切り離したいのか。アメリゴとカナンが手を組むのも嫌そうだったからなぁ」
「そんなものですよ。ですが、今の国会は自民党政権を切り崩したい野党が必死になって政治の妨害をしているのですから、たまったものではありませんよ」
ふと考える。
「それって、私達も上手く利用されただけじゃないですか」
「ええ。中継で見てましたけど、凄い事するなぁと思いましたよ」
三笠が炬燵で笑いながら呟く。
――ドタドタッ
すると、高嶋と古屋が大きな荷物をマチュアの元に運んで来た。
「小荷物届いてますが、どこに置きますか?」
「MINACO本社からですね」
「あ、ここでいいよ。すぐに仕事するから」
すぐさま梱包を解いて中の手紙を読むと、ウンウンと納得してテーブルの横に魔法陣を起動する。
小荷物の中に入っているバインダーを手に取ると、魔法陣の中心に置いて魔力を注いだ。
――ヒュゥゥゥンッ
すると、バインダーの中に入っているカードを魔力分解して読み取り始める。
「まさか、キンデュエですか?」
「そうだよ。第一弾から最新弾までの全てのカード。それを読み取っている所でねぇ」
「へぇ。こっちの見ていいですか?」
箱の中のバインダーを指差してマチュアに問いかける。
「構わないよ。全て魔力分解してデータとして取り込むから、見るなら今の内だよ」
――パラパラ
軽く見ていた高嶋と古屋。
すると、あるバインダーで手が止まる。
「ま、マチュアさん、これもですか?」
「全てだよ。一枚も例外はない」
きっぱりと告げるマチュア。
「それがとうかしたの?」
「このバインダー、全て箔押しサイン付きなんですよ。これ一冊で100万は超えるんですよ?」
「キンデュエファン垂涎のカードバインダーですよ。何枚か欲しいぐらいです」
そう力説する二人。
「気持ちは理解できる。だが‼︎」
すかさず箔押しサイン付きカードの収められているバインダーを魔法陣に放り込むと、すぐさまカードを魔力分解する。
「うわぁ‥‥本当にやっちゃったよ」
「箔押しサイン付きカードなんて、デッキに組む人いないから読み取らなくても」
「例外は認めない。という事だよ諸君」
バインダーを魔法陣から回収すると、それを空間に収納する。
魔力分解しても、読み取り終わったら元に戻るのでバインダーの中にはカードが残っている。
まあ、こうしてマチュアがしまっておけば、悪さを考える事はないだろう。
次々とバインダーを読み取っては空間収納を繰り返していると、事務室の扉をコンコンと叩く音がした。
――ガチャッ
「よう、マチュア、ちょいとツラ貸せや」
聖騎士装備のストームがひょいと顔を出したのである。
「おや、ツラ貸せとは校舎裏?」
「天狼が呼んでるんだよ。エーリュシオンの森林でな」
「やっべ、無理しすぎたかな?まあ、ちょいと行って来ますわ。三笠さん、後はお願いします」
「大丈夫ですよ。マチュアさんの手を煩わすような仕事はありませんので」
実に良く出来た執務官である。
聞き分けのいいツヴァイという所でしょう。
「よし、それじゃあ行きますか」
ストームと一緒に転移門に入ると、中でエーリュシオンに繋がる扉を形成。
「相変わらず手際がいいなぁ」
「こればっかりだからね。ストームは今はあれか?うちの子達の研修か?」
「ああ。今はハートマンとディードの個別研修で時間が空いたんだよ。そうしたら、天狼の声が聞こえてなぁ」
――ガチャッ
扉を超えた先は、鬱蒼と茂った森林。
その木漏れ日の中で、巨大な狼の姿をした天狼がうたた寝をしていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「天狼様や、いきなりの呼び出しとはどうしたね?」
マチュアとストームも神威開放して亜神モードになる。
『やあ、久しぶりだね。異世界地球の様子はどうだね?』
「順調に喧嘩してますよ。もうね、チートステータスやチートスキルではどうしようもないレベルが多過ぎてねぇ。加減が難しいのと、人の心や環境はどうこう出来るものではなくてね」
マチュアがやれやれと言う表情で呟くと、天狼は嬉しそうに頷いている。
『ウィルは?』
今度はストームに問いかける。
「西方の中観大陸からの進軍がなぁ。あのままだとウィル南方のいくつかの王国と戦争になる‥‥んだが、手を出せなくてなぁ」
近年になってやってきた異国の軍勢。
ラグナ・マリアとは関係のない所の戦争ゆえ、ストームの指示で警戒はしているが手を出さないようにしている。
実際、ストームが出張ると三日で殲滅してしまうので、今はアドバイザーとしてしか動いていない。
「何だ?また戦争か?」
「ああ。中観大陸の蘇陽天國っていったかなぁ。そこが巨大な帆船で進軍してきている。まあ、ラグナ・マリアは無関係だから今は見ているだけだがな」
「へぇ。なんか大変だな‥‥と、天狼様、私達の状況はそのようになっていますが、どうなさりました?」
――コン‥‥
ふと気づくと、天狼の足元に扉が開く。
その向こうは一面荒れ果てた大地。
生きとし生けるものがいない世界。
「ありゃ‥‥これは何処の世界?」
「滅びし4つの世界の一つ。カルアドという星です。時期が来たらここに新たな命を落とし、世界の再生を試みたい」
「ああ、やっとそこまでたどり着きましたか」
「人が住まない世界か。生き物はいないのか?」
『わずかの動植物は、海洋にある島に封じてある。カリス・マレスの民と地球の民が移住してくれると、世界は再生を開始する』
これが創造神の『異世界再生計画』。
魂の修練が失敗した場合、最悪その世界は終焉を迎える。
そして一つの世界が終わりを迎えると、残る7つの世界から転生した魂によって世界は再生される。
だが、その根幹たる人間が全て滅んでしまったため、魂の再生が行われなくなってしまったのである。
真央と善は、異世界カリス・マレスに魂の修練者として選ばれ、送り出された。
もし魂の修練が失敗していたら、地球が神の加護を失い、滅びの道を歩んでいたのである。
だが、送り出された先が滅びの道を歩んでしまったら?
魂の修練者によって滅ぼされた場合、送り先の世界と元々いた世界の二つが滅んでしまう。
こうして4つの世界が滅んだらしい。
現在、創造神によって見守られている世界は4つ。
ストームとマチュアとして転移したカリス・マレス
ストームの向かった軍事世界バルクフェルデス
マチュアが大使を務める地球
真央と善の地球(天狼曰くルーンスペースと言う)
これらは滅びの道から逃れる事が出来たが、滅びし4つの世界の魂が徐々に集まり始め、飽和する可能性もある。
それが起こらないように、マチュアが創造神に提案したのが『異世界移住計画』である。
「天狼様や、地球の民はまだまだ無理だよ。今、魔法を覚え始めたばかりだからね」
「カリス・マレスもだ。ベネリの反乱でかなりの人間が減っている。そこでまた新しい世界なんて話になったら、ラグナ・マリアが滅ぶわ」
笑いながら説明するマチュアとストーム。
『二つの世界をカルアドに接触させるタイミングは任せる。二人にはこの扉の鍵を渡しておくので。これが今日の仕事ですよ』
――スッ
30cm程の銀色の鍵。
それがマチュアとストームの目の前に現れる。
それを手にすると、二人の魂と融合した。
「カルアドを滅ぼした元凶はなんだ?」
「そうそう、そこ。それ大事だよ?」
『悪魔だな。貴公らにわかりやすく説明すると、世界を滅ぼすのは魔王の仕事。勇者は負けて、魔王率いる魔族によって人間は根絶やしにされた。そのあとは悲惨なものだ‥‥』
静かに話をする天狼。
すると、天狼の横にローブを纏った女性が姿を表す。
「ありゃ、精霊王様まで」
「いつも精霊の加護をありがとうな」
ストームは禁呪レベルの精霊魔術を行使するので頭を下げる。
マチュアも中級までは使えるのだが、上位精霊とは契約していないので無理である。
『先程の話の続きです。人が滅び魔族しかいない世界、六人の魔王はそれぞれの覇権を掛けて争い。そして最後にはお互いの命を滅ぼしました。生き残った魔族も糧となる人間がいないので滅び、知性を持つ生命体は存在しなくなったのです』
「あ、アホかぁ?」
「完全に暴走したのか」
『ああ。人が滅ぶことで、世界を管理していた神の半分が消滅した。魔族を管理していた神もな。今、カルアドを見ている神は大地母神のみだ』
『人が大地に踏み込むと、人を加護する神が再生します。信仰心があれば、神はいつでも目覚めるのですから』
「へぇ。自分たち以外の神様でもか。地球の神は多神で色々いるが、カルアドの神様とは違うだろう?」
ストームが精霊王に問いかけると。
『原点は創造神で一つです。その世界の神は、新しくやって来た人々がどう思っても、カルアドの神なのです』
「名前や姿かたちは関係ないという事ですか」
『マチュアさんは察しがいい。その一点です』
ふむふむ。マチュアは腕を組んでしばし思考する。
「神様ズ、私とストームが踏み込んだら、神さま復活しないのかい?」
その問いかけには、ストームもウンウンと頷くが。
『二人は亜神。ゆえに信仰を受ける対象となります。マチュアがカルアドに踏み込むと『秩序の女神マチュア』に、ストームは『武神ストーム』となってしまいます』
――ブッ
精霊王の言葉に吹き出す二人。
「いやいや、私はそんなの似合わんて」
「武神かぁ。悪くはないが、そうなると俺たちはカルアドに縛られるだろう?」
『それは御安心を。お二人は創造神から授かりしギフトに護られているので世界に縛られる事はなくなりますが、カルアドでは本物の神様になってしまいます。今は人がいないので、そういった事は起こりませんけどね』
いずれにしても、人を移住させる所から始めないとならない。
しかし、異世界地球もカリス・マレスも、まだ人が移住するレベルではないのも事実。
「あの、神様や、まだ結構かかりますよ?」
「カリス・マレスもな。大きな戦争が始まるかもしれないし、俺自身まだやり残した事もある」
『急ぎませんよ。人の進化には時間がかかります』
『それ故に、亜神となった二人に創造神は託したのですから』
「はいはい。わかってますよ。今暫くは好き勝手してますので」
「同上。因みに残りの3つの世界はどうなってる?」
『さあ。我々でも、その世界を見る事は出来ない。カルアドが見えたのは創造神のお告げだからな』
天狼がそう説明してくれると、マチュア達の横に扉が開いた。
『今日の用件はそこまでです。鍵をどう使うかは任せるので、好きに使ってみてください』
精霊王が楽しそうに告げると、マチュアとストームもやれやれという表情でこの場を後にした。
「そんじゃあ、またな」
「ああ。マチュアもたまにはカナンに帰れよ?」
「あの、ストームさんや。私は出張以外は毎日カナンから通っているのだが」
笑いながらマチュアが突っ込む。
「そうかそうか。最近マチュアの料理食べてないからなぁ」
「今度持ってくよ。そんじゃ、またな」
「応さ」
適当な挨拶だが、これもいつもの二人。
ストームは白亜の空間をサムソン側へ、マチュアは地球へと歩いていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「ありゃ、夕方だわ」
転移門を超えて帰ってきたら、既に日本は夕方である。
急ぎ事務室に戻ると、勤務時間を終えた高嶋と古屋が、MINACOから届けられた荷物を整理している。
「おや、何か面白いものでもあったかな?」
「お帰りなさい。大会のプロモーションカードが大量に入ってまして。これはどうするのですか?」
「読み込むにしても、かなりダブってますよ?」
すぐに読み込みを再開できるように準備してある。
下心も二割ほど感じるが、これはこれで楽で良い。
「ありがとさんよ。ダブっているなら持って行って構わないよ」
――グッ
拳を握る二人。
「なら、遠慮なく貰いますので」
「あざっす」
自分たちのデッキケースを取り出すと、早速デッキの構築を始める。
ならば。
「勤務時間終わったから、ちょいと二人に頼みがあるのだが」
そう話しかけると、マチュアは空間からデュエルレストを一式取り出す。
「うわ、とうとうこれまで買ったのですか?」
「自作改良?」
「まさか。実物だよ。使い方説明するからな」
「は?実物?」
「ま、まさか、本当に作ったのですか?俺の企画書のやつ‥‥」
「そりゃあもう。では、使い方を説明しよう」
淡々と使い方を説明するマチュア。
そののち二人にデュエルレストを渡すと一言。
「ロビーでデュエルでもして来なさい。メモリーオーブも起動してね、データを取りたいので」
ポン、とメモリーオーブを取り出して手渡す。
「わ、わ、わかりました‼︎」
「それじゃあテストプレイ行ってきます‥‥あの、これって自撮りとかは」
「ダメに決まっているだろうが。純粋に遊んで来なさい」
マチュアが叫ぶと、二人はロビーに飛び出した。
しばらくは二人の声が聞こえていたが、慣れてくると黙々とデュエルに没頭し始めた。
マチュアも残りのデータの読み取りを再開し、どうにか21時前には全てのカードデータの読み取りを完了した。
「ふぁ。やっと終わったわ‥‥って、ロビーは静かだなぁ」
様子を見るのと空腹を紛らわすためにロビーに出ると、高嶋と古屋がぐったりと座っているのが見えた。
「‥‥お前ら、飯食ったのか?」
「いえ、もう楽しくて楽しくて」
「最高です。実体化しないのは仕様ですか?」
「まだ全てのカードデータをインストールした訳じゃないからなぁ。後、気が付いた事は?」
「アームレストが重い‥‥三戦目までは腕が上がってたかも知れないけど、最後は腕が上がらないですよ」
ふむふむ。
「子供達にはきついですよ。この重量は」
「基本的な材質は鉄だからなぁ。プラスチックなんて魔法で生成出来ないんだよ」
「なら、市販のオモチャにこのシステムを付与するとか?」
古屋の大胆な意見。
「そうなると耐久性がなぁ。難しい所だわ」
「召喚する映像データは、場所によって大きさを変えられたらいいですね。この端末を小さくして、テーブルでもちょこんと召喚できるサイズにすると、価格によっては全国の店舗で対応できますよ」
目の付け所はいい。
流石はゲーマーだと感心してしまう。
「明日はその辺りを改造するかぁ。お疲れさん、もう帰っていいよ」
「飯食ったら帰ります。これ、ありがとうございました」
「テストプレイならいくらでも手伝いますので。では失礼します」
食堂までは一緒に向かうと、マチュアも食事を取ってからカナンへと帰って行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌朝6時。
異世界ギルドで、マチュアはフィリップとツヴァイの二人と打ち合わせをしている。
「二人ですか?」
「そ。カナンから二人、大使館勤務してもらう。シフトではなく正式な書記官としてね」
その問いかけには、ツヴァイとフィリップも考える。
「今すぐというのなら、メアリーとかのようにマチュア様のことを理解している人の方が適切でしょうが、王城勤務から変更するのはちょっと」
「それに、今のギルドでこの子は大丈夫と自信を持って送り出せる人材となりますと。日本の風習から全てを教えなくてはなりませんねぇ」
その二人の意見はごもっとも。
「知識のスフィアで教えたら?」
そうマチュアは二人に意見するが。
「教えられるのと出来るのは違いますよ。何と言いますか、大使館勤務となりますと、教えられた事を淡々とこなすのではなく、しっかりと応用を利かせる人が必要ですよ。今から育てるとなると時間が掛かりますなぁ」
むう。
いきなり頓挫した。
「そっかぁ。取り敢えず二人は欲しいんだよ。時間掛かってもいいから、鍛えてくれないか?」
「わかりました。しかし、相も変わらず忙しそうですねぇ」
「まあね。まだ序の口だよ‥それじゃあ」
そう話してから、マチュアは転移門で大使館へと向かう。
「さっきの条件を満たした存在、心当たりがあるんだけどなぁ」
ツヴァイも腕を組んで唸るように呟く。
「うちの娘ですか?」
「そ。カレンなら全部の条件満たしているんだよ。後はシスターズの暇なやつ‥‥暇ではないんだけど、後一年は領主様だからなあ」
ドライの話をするツヴァイ。
「まあ、いずれにしても、新しい人材の育成は必要ですよ。では今日あたりから始めますか」
フィリップがツヴァイとの会議を終えると、カウンター業務をしている職員に説明を始めた。
‥‥‥
‥‥
‥
「‥‥決裁通したのかぁ」
朝一で大使館にやってきたマチュア。
厨房の保存庫からターキーサンドとクラムチャウダーを取り出して炬燵にやってきたのだが、そこでファックスが入っているのを見て確認していた。
差出人はMINACO本社の山代。
決裁が降りたので、正式な契約を交わしたいと先にファックスで送って来たらしい。
「さてと。独占欲があるかないか‥‥そこだなぁ」
マチュアの作成したのはキングオブデュエルのシステムではなく、魔法による映像化。
マジック・リアリティとでも言う代物である。
なので、どのメーカーのどのカードゲームでも対応は可能。
特許出願したいぐらいである。
「交渉の順番は、何処だったかなぁ‥‥」
ふと預かった名刺を取り出して並べる。
そして色々と思い出すと、ぽん、と手を叩いた。
「オタカラトミーか。デュエルファイターズだな。まあ、交渉は同じだし、手間がかかるけどいいかぁ」
昨日二人から聞いた改良点。
それの調整を炬燵の中で始める。
皆の出勤時間の朝9時までには、全ての調整を完了する。
「おはようございます。あれ?マチュアさん出張終わりですか?」
「まさかぁ。これからまた東京だあよ。MINACO本社で契約書を交わさないとならないのでね」
「連絡入れますか?」
「十時にMINACO本社。集現社ともライセンス契約しないとならないから、書類まとめておくように連絡しておいて」
「了解しました」
すぐさま先方に連絡を入れる古屋。
マチュアも急ぎ出かけ支度を始める。
「緊急時には連絡を入れますので。テレビの生討論とか、出る気はありませんよね?」
三笠がファックスを手にして問いかけるが。
「別に構わないよ。何処の局かにもよるけどね。国連で正式に認められた異世界とカナンに対して、何を討論したいのか聞きたいけどね」
それだけを伝えて、マチュアは転移門で一路東京へと向かった。
‥‥‥
‥‥
‥
「‥‥」
時間は午前十時。
場所はMINACO本社5階会議室。
マチュアの目の前には、山代を始めとした五人の役員が座っている。
静かに用意された契約書を確認するが、マチュアは途中で読むのをやめて契約書をテーブルの上に置いた。
「誠に申し訳ありませんが、この内容では同意できませんね?」
淡々と話す。
ここまで漕ぎ着けるのにはかなり手間が掛かったのだろうが、マチュアはどうしても納得がいかない。
「どこか問題がありましたか?」
「今回のシステムの要であるマジックリアリティ。これをキングオブデュエル以外には使わないと言う部分です。システムの使用に関する優先的決定権をMINACOが持つこと、著作権やライセンスも集現社とMINACOの二社のみというのも納得がいきません」
「ですが、このシステムについては、どうしても他社には持って行って欲しくはありません。優先的ではなく占有したいのです」
「優先的決定権は、我が社のイベントの際にはという意味です」
「では、著作権に関する部分は?これは私が作ったものです。権利は私が持っているのですが、これにサインすると、私が勝手に使用しても罰金ものですよね?」
「あくまでも名目上ですよ」
「ですが、書いてある以上は法的に認められます。以上の観点から、この契約は見送らせて頂きますので」
スッと席を立つマチュア。
「し、少々お待ちください。今別室で打ち合わせをしてきますので」
役員たち五名全員が一旦部屋から出る。
ならばとマチュアは魔法陣を描いて、闇の精霊レクスを呼び出すと、それを役員の影に飛ばした。
(感覚器官のリンク‥‥よし、聞こえる)
「さて、どんな話をするのやら‥‥」
のんびりと腕を組んで、マチュアは別室の会議に耳を傾けた。
「話が違うではないですか?こんな契約書だとわかっていたら連絡なんてしなかったですよ?」
「山代くんは開発関係の人間だからな。あのシステムは他社に取られる訳にはいかない。どのメーカーも垂涎のシステム、今までは夢の世界だったものが現実になるのだよ」
「それに、改良を重ねると、全国規模であのシステムを展開することができる。ライセンス契約は、あのシステムを使うもの全ての権利を押さえるためだ」
「異世界の、それも人間でない者に契約の云々が理解出来るとは思わなかったが‥‥予想外だ」
「我が社としても、今後の漫画作品のバックアップに使えると思いましたが。意外としたたかですねぇ」
「それでどうする?」
「所詮はこちらの文明を知らない女、サインさえさせてしまえば、後から書類を変更しても文句は言えまい」
「私はどうしても納得しかねますね。そんな騙す行為など」
「頭を使いたまえ。イニシアチブをとってこその商談だよ?万が一のために用意した契約書があるから、それで誤魔化すさ。さて、戻るとしましょう」
「山代くんは発言しないように。それが今後も我が社に残るための選択だよ」
「‥‥黒いなぁ。凄いわ。契約社会の日本ならではの手だねぇ」
そんな事を呟いていると、再び会議室に役員たちが戻ってくる。
「先程は失礼を。これが今しがた作成した、我が社の妥協点です。これで宜しければサインをお願いします」
スッと差し出された新しい契約書。
その内容をじっくりと見ると、今回のイベントのための契約書であると納得する。
「まあ、この内容なら異存ありませんね。では、私もこの世界の方法に習って契約しましょう」
サラサラと必要事項にサインをすると、マチュアは空間に指先で魔法陣を生み出す。
それを指先で契約書に押し付けると、契約書自体が静かに輝いた。
その光景を、役員たちは驚いた表情て見ている、
「な、何をしたのですか?」
「え?判子なんて持ってないので、魔法で割り印を。これでこの契約書は魔法によって保護されました。解約も改変も不可能です。では、ここにサインをお願いしますね」
役員たちが書くべき場所をトントンと指差す。
「サインをしたら、契約は成立するのですよね?」
「ええ。その上で、もし契約が不履行になった場合は当然罰則も発動します。カナンでの契約とは厳粛なものですから」
――ゴクッ
息を飲む音が室内に響く。
「お早めにお願いしますね。ここの契約が終わったら、次はオタカラトミーとの契約に向かわなくてはならないので」
「デュエルファイターズにも、このシステムを提供するのですか?」
「ええ。こちらの契約が成立しないと、次の契約は行えないものでして‥‥さあ、どうぞ」
そこで役員たちの手が止まる。
「ち、ちょっと待ってほしい。この内容では、我々にはあまり益を感じない。もう一度考えたいので、これは下げさせてもらっていいか?」
ひとりの役員が慌てて告げる。
「あら、構いませんよ。ではこの契約書は破棄で宜しいのですね?」
「ああ。こちらで責任を持って破棄させてもらうのでご安心を」
――パチン
すぐさまマチュアは指を鳴らす。
すると、契約書が青い炎に包まれて消滅した。
「な、何をするんだ‼︎」
「効力を失った契約書を破棄しただけですが?」
「あ、ああ、そうですね。では、改めて話し合いを行い、また連絡しますので」
そう告げる役員たちに、マチュアは一言。
「残りの期限は四日です。それまでに契約がなされなかったら、オタカラトミーとの契約に入りますので。では失礼します」
丁寧に頭を下げるマチュア。
後は長居は無用、とっとと退散するに限る。
ゆっくりとMINACO本社を後にすると、近くのベンチに座ってのんびりとした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






