地球の章・その16 魔法と科学と
新日本警察エリミナーレ、面白いですよ。
宜しければ検索して見て下さい。
‥‥ということで。
――ピッピッピッピッ
腕のブレスレットが呼び出し音を鳴らしている。
「ふぁ‥‥そっちの方がエリミナーレに‥‥合ってるわよ」
ちょいと待て。
怒られるから止めなさい。
まったく、別の創造神様の世界の事を魔力で受信しない事。
「ふぁ‥‥何だ今の夢は?」
ぼーっとベットで体を起こすと、マチュアは寝ぼけ眼で応答した。
――ピッ
『おはようございます。起きてますか?』
「三笠さんかぁ。おはようございます。何かありました?」
『朝一のファックスで、オタカラトミー社から緊急で相談したいとありましたが、どうしますか?』
「はう‥‥今は八時かぁ‥‥こっちから連絡するから番号教えてください‥‥」
『では‥‥です。担当は萩原という方ですので、よろしくお願いします』
「はいはい‥‥ではでは‥‥」
――ピッピッ
ブレスレットから反応が消えると、とりあえずシャワーを浴びて一息いれる。
体から活性化すると、マチュアはオタカラトミーに電話を入れた。
――プルルルルルッ‥‥ガチャッ
『はい、オタカラトミーカード開発部です』
「異世界大使館のマチュアと申します。萩原さんをお願いします」
『少々お待ちください‥‥』
保留音が静かに流れる。
やがてそれが止まると、担当が電話に出た。
『お待たせしました。ファックスを入れて早々のお返事誠に申し訳ありません』
「いえ、うちの三笠執務官から急ぎと伺いました。どのようなご用件でしょうか?」
『マチュアさんの開発したVRシステムについて、可能なら当社のカードゲームである『デュエルファイターズ』に反映できないものかと思いまして」
「成程。どこの情報ですか?」
『先日、カードゲームメーカー合同の打ち合わせがあったのですが、それでMINACO本社で打ち合わせをする時、ロビーで待っていた弊社の営業がマチュアさんのVRシステムを見たという事で』
あの場に居たとは思っていなかった。
派手にやってこの状態を作ってしまった模様。
「まず誤解を招きたくないので説明しますが、私はVRシステムを開発してはいません。魔術によって似たようなものは作りましたが、残念ですが現在はMINACOとの商談中ですので」
そうあっさりと断るマチュア。
しかし、オタカラトミーもなかなか引かない。
『当社では、MINACOよりも良い条件を提示する事が出来ますが』
「では、MINACOとの話し合いが付かなかったら、その時は改めて連絡しますので。それで宜しいですか?」
『で、では、MINACOとの話し合いがついてしまったら、こちらの条件については聞かないと?』
「そうですね。誠に申し訳ありませんが、これが異世界カリス・マレスの交渉のルールでして。誰かが商談に入ったら、それが終わるまでは口出しや横槍は入れない。破談になったり、商談がまとまってから、次の話をする事が出来るので」
それがカリス・マレスのルール。
自由競争である日本のルールに縛られる気は無い。
『そうでしたか。では、こちらは連絡をお待ちするしかないという事ですね?』
「はい。もしお話が以上でしたらこれで失礼しますが、宜しいですか?」
『ええ。それでは連絡をお待ちして居ます』
「では失礼します」
――ガチャッ
電話を置いて一息いれる。
「まあ、他よりもいい条件といってもねぇ。MINACOとの交渉が終わらないとルール違反なのよ」
そのルールがこの地球にはない事を、マチュアは理解している。
けれども、マチュアがカリス・マレスのルールを無視する訳にはいかない。
「さてと。朝食取ったらリサーチ行きますかぁ」
レストランで軽く朝食を取ると、マチュアは早速チェックアウトして目的地へと向かう事にした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
秋葉原にある国内最大のカードショップ『カードパニック』。
マチュアはキンデュエの流行りのデッキ構築を知るために、朝早くからここにやって来た。
「はてさて?何か並んでるぞ?」
マチュアが店に着いた時は、まだショップは営業していない。
とりあえず入口近くに向かうと、開店時間が十一時になっている。
「ありゃあ。また時間間違ったかい‥‥仕方ないなぁ‥‥まだ2時間近くあるぞ?どうする?」
並んでる列の外で腕を組んで考える。
「こんな早朝にやってるカードショップはないし。仕方ないから、プラプラしてみますか」
導師のローブと杖という出で立ちで秋葉原を散策する。
朝早いためか大抵の店はまだ営業しておらず、ファーストフードに人が集まっているぐらいである。
散々テレビや報道で顔を晒しているので、今更マチュアを見て驚く人はいないだろうと高をくくっていたのだが
それが通用するのは普段から歩き回っている札幌のみ。
東京ではまだまだ、異世界から来た人間は珍しいのである。
「あ、あの〜、マチュアさんですよね?写真いいですか?」
三人組の女性が恐る恐るマチュアに声を掛ける。
「いいわよ。私が撮るのね?」
「違いますー、マチュアさんも一緒に写ってください」
「ほい。ではでは‥‥」
楽しそうに撮影する人達。
「あ、これは時間潰せるわぁ‥‥」
そんな事を呟いていると、その光景を見ていた人がまた撮影をお願いにくる。
5組ほどすると、一緒に写って欲しいというお願いは止まったものの、ソロで写真を撮っていく人が増えてきた。
途中でファーストフードに立ち寄って、店内でフライドポテトとコーラを頼む。
それをのんびりと食べながら、空間から取り出したクリアパットを起動すると、MINACOのホームページからキングオブデュエリストの公式に移動。
「お、やっぱりありますか‥‥どれどれ」
全てのカードの一覧を引っ張り出して、全てをクリアパットに保存する。
ついでにと、ルール質問ページも確認して、そこに書かれているゲームの質問も全て保存すると、自分のデッキを取り出してギミックを調べ始めた。
「ふむふむ。私のデッキは‥‥力押しではなくモンスターの召喚コストを無視して数を並べてからが勝負かぁ」
一枚ずつ確認しては、それをデッキケースに戻す。
エルフという外見でなければ、ただのカードゲーマーである。
あちこちでマチュアが何をしているのか覗き込んでは、ふむふむと納得したりプッと笑うものもいる。
「あ、あの、キンデュエやってるのですか?」
二人組の男性が、マチュアに声をかけてくる。
「ええ。最近始めたばかりでして。まだ人から教えてもらったりしている程度でして」
「へぇ。ならデッキ見てあげますか?」
横に座ると、マチュアの前にあるデッキケースに手を伸ばす。
だが、マチュアはデッキケースをすぐに回収すると、それを空間に放り投げた。
「では、私のデッキ構成はこのような感じですが」
クリアパットに、スラスターに収められているデッキを映し出す。
それを眺めながら、大人たちはウンウンと頷いている。
「なるほどねぇ。賢者シリーズのカードをコスト踏み倒して召喚し、召喚時の起動効果で相手にダイレクトにダメージを与えたり、カードを破壊する。なら、紅の賢者ではなく新緑の騎士パスカルを三枚の方が良いですよ」
ふむふむ。
意外と真面目に話をしてくる。
警戒したのは間違いだったかなと考える。
「そうなのですか?」
「ええ。天界の神殿が発動していれば、パスカルは賢者の二つ名を持つので、コスト踏み倒します。俺は三枚余ってるので、トレードだしますよ?」
「トレードですか、何と同価値なのかわからないもので」
そう話すと、奥に座った男性がニイッと笑う。
「パスカルがあれば紅の賢者も無限の回廊もいらないから、その二枚でパスカルを三枚だしますよ?使わないカード同士なら価値は同じでしょう?」
ははぁ。
狙いはマチュアの持つカードでもトップレアの『紅の賢者カーラル』とカード一枚を異次元に封じ込める『無限の回廊』。
この二枚でオークションでは最低5万は確実。
対するパスカルは只のレア。
三枚で五八〇円なり。
「折角ですが、お断りしますね。この二枚は気に入っていて、トレードに出したくないのですよ?」
「へぇ、なら、何と交換してくれますか?その二枚を探していたのですよ。条件はある程度譲歩しますので」
ふむ。
「現金で20万。これでは?」
「にっ‥‥ヤホオクても10万しないでしょう?せいぜい5万がいいとこ」
ハッとして慌てて口をふさぐが時遅し。
「なら、今のオークションの相場を見てみますね」
――ガタッ
そうマチュアが告げると、男達は何も言わず立ち去っていく。
「詰めが甘いなぁ。ケリーならもっと粘るぞ?儲けを考えての仕入れ相場をしっかり調べないと」
頭を掻きながら呟くと、近くのカップルが吹き出している。
やがて時間もいい感じになったので、マチュアはカードパニックへと向かっていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
デュエルスペースは80席以上、建物の4フロア分のスペースを持つ、国内最大のトレカショップ。
一階で入店受付をしなくては入れないぐらい、盗難などの対策は完璧な模様。
「いらっしゃいませ。入店カードはお持ちですか?なければ無料でお作りしますよ」
綺麗なコスプレをした女性がカウンターの中で話しかけてくる。
「では、カードの発行をお願いします」
「何か身分証明はございますか?」
「身分証明‥‥これかな?」
普通に外交官カードを取り出して提示すると、店員が奥に確認に向かう。
しばらくして、店員が笑いながら戻ってくると。
「では、今からカードを作りますので、こちらに必要事項をお書きください」
ふむふむ。
住所年齢性別職業と‥‥魂の護符では、マチュアの年齢は525歳。
それを全て書き込むと、マチュアは一言。
「種族を書き込む欄がないのですが」
「備考欄にお願いします」
動揺する事なく説明してくれる。
なので。
「備考欄はここか‥‥種族はハイエルフと。これで良いかしら?」
「はい?それでは発行まで五分ほど掛かりますので、出来たらお呼びしますね。ではどうぞ。次の方‥‥」
ニコニコと次の受付をする店員。
邪魔してはならないと思い、マチュアは店内を見て回った。
キンデュエのコーナーでは、紅の賢者カーラルの買い取りが3万5千円と表示されているが、箔押しサイン付きの買い取りは書いていない。
「ふぅん、まあ、気にしないでリサーチリサーチと」
フリーデュエルスペースでデュエルをしている人たちを見て歩く。
デュエル中の人たちはマチュアの事など気づかないでいるが、カードを調べたりデッキを構築している人、とりあえずダベっている人たちはマチュアを見て驚いている。
「え、エルフのマチュアさんですか?」
一組の男性達が勇気を絞ってマチュアに話しかける。
ならば。
「ええ。そうですか?」
「おい、本物だぞ。どうする」
「どうするもこうするもないわ、行けよ」
「おう、俺に任せろ‥‥あの、ここへは何をしに来たのですか?」
恐る恐る問いかけてくるので、マチュアはデッキケースを空間から取り出して一言。
「デュエルです‼︎」
「な、なら、俺達とやりませんか?」
「わからない事あったら教えますよ」
そう説明してくるので、ならばとマチュアも近くの席に座った。
「まだ始めて間も無くてですねぇ」
左手にだけデュエルレストを装備すると、そこにスラスターをセットする。
「外見からハマりましたかぁ。それはオタカラトミーで売ってるデュエルレストですね?わかりますわかります」
そう納得しているのならよし。
さっきの例もあるので、本物のカードなど出したくはない。
――シュコッ
デュエルレストをアドバンスモードというカード排出機能だけを起動して、カードを引き抜く。
――ヒュゥ
対戦者が口笛を鳴らす。
「しっかり改造してますねぇ。では先行ジャンケンで‥‥」
しばし、デュエルを楽しむ。
そして今はやりのカードや、国内で人気のデッキに関して色々と聞いてみる。
聞いたカードは全てクリアパットでチェックし、またデュエルを続ける。
すると。
「マチュアさんって、魔法使えますよね?このパックの中身とか見えますか?」
さっき購入したらしい最新弾のカードパックを見せてくる。
「さて、そんな事考えた事もないわねぇ。どれどれ」
簡単な魔法陣を組み込むと、マチュアは『透視』を発動する。
すると、外の袋が透けて、真っ暗な空間が見える。
「あ、なるほど、中が密閉されて真っ暗なので読み取れませんねぇ」
「エルフの暗視とかでもダメですか?」
「完全密閉で光も入らないとなると無理よ。これは最新弾?」
「本日発売ですよ」
――ガタン
ならば、買わないという選択肢はない。
「では買ってきますね」
スタスタと一つ下の階で最新弾を三箱買うと、また戻ってくる。
そして先程まで座っていた席に座ると、いそいそと箱を開ける。
「1番当たりはどれかしら?」
「このボックスアートの機械王と、竜王があたりです。マチュアさんに必要な賢者のカードも入ってますよ?」
「へぇ、では早速開けましょうかな」
一つ一つパックを開けると、中を確認せずに入っているカードの束を取り出す。
一箱に20パック、一パック五枚。
トータルで300枚のカードを積み重ねると、そこから一枚一枚吟味していく。
「へぇ。SRが混ざってますね。いいんじゃないですか?」
「SR?スーパーレア?」
「そうそう。そのカードはマチュアさんのデッキには入りませんが、良いカードですよ。あ、ボックスアートもあるじゃないですか?」
派手に驚かないところを見ると、そこそこには当たるらしい。
こうして安心してみているのなら、警戒する必要はないだろう。
結果としては、六十パックからSRが二十枚、レアが二十枚、あとはコモンとアンコモンという量産型のようなレアリティで固まっていた。
「ほほう。これは‥‥いいのかな?」
「うーん、微妙ですね。いいと言えば良いのですが、マチュアさんのデッキには入らないんですよねぇ。欲しいのがちょうど抜けているっていうんですか」
「ああ、なるほどね。シングル買いした方がいいのかな?」
「大会で勝つのなら。紅の賢者を外して新緑の騎士か、このパックの大賢者セレンと賢者の書、一枚だけ当たった神の啓示があと二枚。シングルで集まると一万円ぐらい掛かりますね」
淡々と説明してくれるので、マチュアもコクコクと頷く。
「まあ、今日はいいか。さて、遊びましょうか?」
そう皆に話した時、マチュアの近くにやってくる人達がいた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
カードショップには不釣り合いなスーツ姿の三名が、マチュアの元にやってきた。
「異世界大使館のマチュアさんですよね?はじめまして、新世紀社の大貫と言います。少しお時間頂けるでしょうか?」
スッと名刺を差し出されたので、マチュアもピッと指先に名刺を出す。
「これはご丁寧に。異世界大使館のマチュアです。どういったご用件でしょうか?」
「MINACO本社で行ったデモンストレーションについて、我が社も交渉のテーブルに着きたいのですが」
ふと後ろを見ると、階段の降り口に結構な数の営業マンが待機している。
「やれやれ。場所を変えましょう。ここではみんなの邪魔になりますので」
荷物を空間に放り込むと、マチュアは色々と説明してくれた人たちに頭を下げる。
「仕事が入ったので、またね。今日はありがとうね」
手をヒラヒラとしながらマチュアはビルから出ていく。
そして近所の適当なファーストフードに入ると、ドリンクとポテトを注文する。
「あれ?何も食べないの?」
「こういった所での交渉など初めてでして。取り敢えずコーヒーだけ」
新世紀社の大貫はコーヒーを頼む。
マチュアはそのまま空いている席に移動すると、オレンジジュースを一口。
――ゴクッ
「ぷはー。喉が生き返る。それで、どんな用件ですか?」
「MINACO本社で見せたデモンストレーションについてです。我が社もマジック・ザ・キャッスルというカードゲームを販売していまして。そのほかにも色々なTCGを扱っていまして、是非ともマチュアさんのVRシステムを我が社で採用したいのです」
淡々と説明するが、マチュアの答えは一つだけ。
「では、MINACO本社での交渉が締結しなかった場合にまた考えましょう。ではお次の方」
「い、いえ、条件を出してください。あのシステムは是非とも我が社が占有したいのですよ」
「それは無理ですねぇ。開発費とかはそんなにかかりませんけど、基本レンタルです。それも管理は私しか出来ません」
「専属の開発スタッフをサポートにつけます。それでは?」
「そのスタッフ、魔法使えます?」
その問いかけで絶句する。
「ま、魔法ですか‥‥」
「ええ、魔法です。あれは科学技術ではなく純粋に魔法。なので開発スタッフが魔法を使えないと話にもなりません。しかも、必要なのは錬金術です」
「では、交渉のテーブルには着けないという事ですね?」
コクコクと頷くマチュア。
「交渉は順番ですので。これで宜しいですか?」
「それがルールなら、一旦引くことにします。また後日、改めて連絡をしますので」
「それでは‥‥」
時間にして十分程度。
それが次々と来るのだから面倒臭い。
どれもこれもカードメーカーやイベント代行などで、あのシステムを独占したいらしい。
「ふう。最後かぁ‥‥どちら様ですか?」
そう問いかけると、最後に席に着いた男性は名刺を差し出して来る。
「菱井インダストリーの見川と申します。魔法鎧の技術について、我が社で研究している強化外骨格のシステムに取り入れたいのですが」
――ブホッ
突然オレンジジュースを吹き出すマチュア。
「軍事兵器ですか?」
「いずれはそういう道があるかもしれませんね。現在はまだ開発研究段階でして。北海道の三笠執務官からはお断りの手紙は来たのですが、やはり諦めきれなくて」
「それで直接ですか。では、この件はお断りします。魔法鎧はカナン独自の技術、外部に出す予定はありません」
「しかし、魔法技術は私達の世界でもこれから始まる分野、その先駆けを私たちがお手伝いしたいのですよ」
話は分かるが、やはり欲しいのは魔法技術。
「そちらの技術者に魔法が理解できますか?」
「マチュアさんと提携が組めるのなら、研修でも何でもさせますよ?」
そう来たか。
ならばとマチュアは一言。
「私は弟子が既にいまして、新しく他人に魔法を教える気は無いのですよ。今はまだ、個人が魔法を覚える時期、システムや会社が魔法を占有する時期ではありません」
きっぱりと説明すると、相手もやはり腕を組んでしまう。
「そうですか‥‥いや、しかし‥‥うーん」
「と言う事ですよ。お時間を割いて交渉に来てくれたのに申し訳ありませんが、今日の所はこの辺でお願いします」
ニッコリと笑うマチュア。
すると、見川も頭を下げて席を立った。
「もうこんな時間かぁ‥‥」
すでに時間は夕方五時。
仕事の時間はこれで終了。
最後のポテトを口に放り込むと、マチュアはファーストフード店を後にした。
‥‥‥
‥‥
‥
空飛ぶ箒を取り出して横坐りすると、高度3mまで上昇する。
「腹ごなしもしたいし。でも時間早いし。今からデュエルするのもなんか疲れたからなぁ」
腕を組んで色々と考えていると、またあちこちから人が集まって来る。
「マチュアさんだ。写メとっていいですか?」
「ん?かまわないけどローブの中はとらないでね」
裾を直して返事を返すと、あちこちで写メを撮る音が聞こえて来る。
やがて。
「あの〜インスタ映えする写メ撮りたいので、箒に跨らせてくださ〜い」
とんでもない注文する声まで聞こえて来る。
――ブホッ
思わず咳き込んでしまう。
「い、インスタ映えって、どうするの?」
「横に座らせて欲しいのですよ。お願いしますー」
「横に座る程度なら、まあ、構わないわよ」
――スーッ
ゆっくりと高度を下げると、女子高生らしい制服の子を横に座らせる。
――グラグラッ
実は横坐りは意外とテクニックがいる。
「うわわわ。バランスがぁ〜」
「まあ、そうなるわね。背筋を伸ばして、両手で箒を掴みなさい」
すると、さっきまでの不安定さが嘘のように安定する。
「はい、早く撮ってね。私もお腹減ったので、ご飯食べに行きたいのよ」
――ガシャッ
すぐさま彼女の友達が撮り終えると、マチュアは乗っていた子を歩道に下ろしてゆっくりと飛び始めた。
明日は札幌に帰りたいし。
でも、秦朝の諜報員の話も聞きたいし‥‥。
そんなことを考えながら、フラフラとレストランを探し始めた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






