地球の章・その15 VRとMR
異世界大使館近くの叢雲トーイ。
様々なおもちゃやTCGを販売しているその店の一階で、マチュアは
常連の子供達にカードゲームについて教えて貰っていた。
「今流行っているのはキンデュエかデュエファの二つかな。マジックは日本語版もあるけどルールが複雑で。後は最近になって売れ始めたアスラfantasyって言うゲームがあるよ」
「ほう。とりあえずキンデュエとデュエファを買いますか。完成したデッキは売ってるの?」
「それじゃあね‥‥」
と、子供達に教えられてデッキをいくつか買う。
それを持って二階に上がると、フリースペースでデッキの構築とルールを教えて貰う。
「ちょいと待ってね。メモリーオーブ起動、クリアパットに接続して‥‥よし教えて頂戴」
音声と映像を録画すると、早速ルールを守って楽しいデュエル。
当然ながら、構築デッキだけではマチュアは子供達には勝てない。
「ふむ?勝てないぞ?」
「これはそれほど強くないよ。一階でパック買うか中古カード買わないとね」
真央の時代にもあったので、それぐらいの知識はある。
だが、真央の世界は遊戯王でありデュエルマスターズであり、MTGである。
この地球のTCGはルールもカードも違う。
ならば子供達に従おう。
「どれ買ったら強いか教えて頂戴」
「ならまた一階だね」
慌ててカードをバッグに放り込むと、マチュアは一階に駆け下りる。
「このパックは買わなきゃダメ。でも欲しいカードが当たるまで買うと高いから、シングルのこれを三枚、こっちも三枚。後、これとこれも‥‥」
「へぇ。なら店員さん、この子達の話してるの三枚ずつくださいな」
そうカウンターに声を掛けると、店員がショーケースからカードを取り出す。
それをカゴに入れると、店員は次々とマチュアの指差すカードを取り出していく。
「ではお会計をお願いします」
「では少々お待ちください‥‥全部で158,250円です」
「こ、このカードしまうでっかい箱と、デッキを入れるやつ、あと‥‥プレイマットもくださいな」
そんなこんなで大量に買い込むと、また二階に上がってデッキ構築。
ふむふむと一通り教えてもらって、少しは勝てるようになったものの、力任せのゴリ押しで勝っているだけ。
カードとデッキのギミックを完全に理解してない。
「むぅ。よし、これはこれで。次はキンデュエを教えて?」
「それは僕達では分からないから、あのお兄さんに教えて貰うといいよ。クロム兄さん、マチュアさんにキンデュエ教えてあげて」
少し離れたテーブルでカードを整理している人に話しかける子供達。
「ん?マチュアさんて誰?」
「あのハイエルフの人。僕たちはキンデュエのルール知らないから」
コクコクと頷くクロムと呼ばれた人。
すると、カードをカバンにしまってマチュアの元にやってくる。
「初めまして。クロムウェル・西山といいます。キンデュエですよね?」
「ええ。全く分からないので、教えてくれますか?」
「デッキは?何かお持ちですか?」
そう問われたので、マチュアはさっき買ってきたスタートデッキを見せる。
すると、それを見てクロムウェルは自分のバッグからカードを取り出すと、何枚か入れ替え始めた。
「これでワンチャン強くはなりますよ。入れ替えたカードは差し上げますので」
「ワンチャン?」
「あ、えーっと。ワンチャンスです。可能性あるかもって言うことですね。この構築デッキでは、しっかりとしたギミックの使い方をマスターしないと勝てないのですが、さっき入れたカードを使いこなせれば、勝てる見込みは見えてくるって言うことです」
自分のデッキをシャッフルしながら、マチュアにルールを説明しはじめる。
これも録画して後から見直す事にしたマチュア。
1時間程やって見てわかったのは、ルールの複雑さ。
そして構築デッキでは勝てないと言うこと。
「へぇ。このデッキで足りないカードって!下に売ってますか?」
「シングル販売もありますが高いので。パックで買ったほうがワンチャン引くかもしれませんよ。余ったカードは売ればいいだけですから」
こっちはパックで買えということか。
人によって違うものだとマチュアも感心する。
そしてまたしても一階でシングルカードとパックを三箱購入して二階に戻り、次々とパックを開いていく。
欲しいカードのうち二枚は揃ったが一枚は手に入らない。
それでもデッキを構築して、マチュアはまた暫く教えを乞う事にした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日。
朝一番でロビーで作業をするマチュア。
空間からざまざまな材料を取り出し、次々と魔法を増やしていく。
それらをオーブにデータとして残し、また別の材料に魔力を注ぐ。
職員が出勤する時間まで、黙々とその作業をする。
三笠から今日のスケジュールを確認すると、急ぎ以外は任せると告げて更に作業を開始。
夕方には叢雲トーイズでカードを購入しては、また戻って作業を開始。
そんな事を三日ほど続けると、木曜日の夕方には、どうにか形にできた。
「はあ〜作業終了だあょ。私にアップルパイとハーブティーをください‥‥」
ヨロヨロと炬燵に入る。
目の前では、三笠が海外宛の書類を作成している。
吉成がティーセットを二つ持ってくると、三笠とマチュアに差し出した。
「これはどうも。マチュアさんは作業おしまいですか?」
「ここからはテストだよ‥‥明日からちょっと東京行ってくる」
「ほうほう。どちらまで」
「MINAKOホールディングス。トレカの開発部に話を聞きに行ってくる。電話電話と‥‥」
「あ、いいですよ。古屋くん、MINAKOホールディングスのアポ取ってください。明日の午後会えるかどうか」
「はい、少々お待ちください‥‥」
すぐに古屋が電話を取る。
「私の次の仕事は?」
「そうですねぇ。バチカン市国からの招待ですね。同行者一名はどうしますか?」
「さて‥‥来週末に私とバチカン市国行きたい人」
そう問いかけると、一番早かったのはベネット・桜木。
「あ、下げます。僕来週末はカナンでした」
「はいさ。なら次は?」
「タッチの差で赤城さんですね」
「なら赤城さんは私とバチカン市国。手続きお願いします」
これで人員配置も完了。
「アポ取れました。明日の午後三時です。本社でお願いしますと言う事です。担当は山代という方がいますので」
「了解です」
炬燵でぬくぬくとアップルパイを食べる。
「東京出張なら同行しますよ?」
「なら是非俺も行きます。国内の広報ですよね?」
高嶋と古屋が手を挙げるが。
「わざわざ東京に連れてくわけないでしょ?私一人で十分よ」
という事です。
二人の意見は却下されました。
「そうですかぁ‥‥残念ダァ」
「MINAKOはキンデュエの本社ですからねぇ。この前発売になった最新弾のカード、貰えたらいいなぁって‥‥」
下心見え見えだなぁ。
そんか話をしていると、マチュアが空間からカードを取り出す。
「これか?最新弾でもっとも手に入りにくいレアカード。『永遠の回廊』と『紅の賢者・カーラル、サイン入り箔押し』だろ?』
――ガタガタッ
まさかマチュアが持っているとは思わなかったらしい。
いきなり席から飛び立つと、マチュアの元に駆けつける。
「これですよ。永遠の回廊はカートンに一枚の希少カード。カーラルなんてカートンでも一枚あるかないか、しかもサイン入り箔押しなんで、ネットオークションで10万以上するんですよ‥‥トレード出来ます?」
「3万なら買います‼︎」
必死な二人。
だが、現実は残酷である。
「仕事に戻れ。これは私がデッキに入れる奴だ」
「こ、コレクターは未使用を望むのに‥‥どうして使うのですか?」
「まさかサイン入り箔押しをデッキに入れてくるとは思うまい。それに、サインとか興味ない。はい、仕事仕事」
パンパンと手を叩くマチュア。
止むを得ず二人も仕事に戻ると、またいつもの日常に戻って行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
東京・港区にあるMINAKOホールディングス本社。
三十分早く辿り着いてしまった為、マチュアは近所の本屋でキンデュエの元になったマンガの最新刊を購入してからMINAKOに向かう。
「さてと、受付はあそこか‥‥すいません、三時に面会をお願いした異世界大使館のマチュアと申しますが、担当の山代さんをお願いします」
魂の護符と大使館の名刺を提示すると、受付はすぐに山代に連絡を入れる。
すると、すぐに山代はやってきた。
綺麗な禿頭に顎髭。
色つきのメガネが迫力を増している。
「初めまして、大使館のマチュアさんが来るとは思っていませんでした。てっきり高嶋くんがくるものかと」
「いえいえ。本人は来たがっていましたけれどね」
「成程。では、いつものようにお土産はありませんな」
はぁ?
「お土産ですか?」
「ええ。打ち合わせの後はデュエルで楽しんでいましたので。賄賂とかそう言う類ではありませんよ?」
成程ねぇ。
「午前中が打ち合わせの時は?」
「開発チームと話をしていましたよ。ユーザー視点から色々と助言がもらえるので、こちらとしても助かりますし。大会のプロモーションカードとか、余っているものも差し上げましたしね」
難しい判定だが、マチュアはセーフと判断。
日本ならこれは癒着だ賄賂だと騒ぐかもしれないが、カナンではこの程度よく見る光景である。
「では、ミーティングルームに向かいますか。本日いらっしゃった件についても、まだ伺っていませんので」
「ミーティングルームは広いですか?」
「ええ、そこそこには」
「『サドンデス』のバトルシステムが稼働するほどのスペースは?」
そのマチュアの言葉に、山代もようやくピン、と来た。
「集現社と大使館の高嶋くんとの合同の打ち合わせの場では、ゴーレムを使ったシステムを見せてもらいました。今年春の世界大会で、あのゴーレムシステムを用意出来ますかと打診はしましたが‥‥」
そう話すと、マチュアはロビーの真ん中に向かう。
そして完成したばかりの『MRアームレスト』を装備すると、すぐさま魔力を注いでアームレストを変形させた。
カードデッキを収めた『スラスター』と呼ばれているボックスをアームレストに固定すると、マチュアは左腕のスラスターに指を添える。
「バーチャルエリア形成‥‥デュエルスタート』
――シュシュシュッ
素早く五枚のカードを引き抜くと、それを右手に構える。
ロビーで打ち合わせをしていた人や、山代はその光景をじっと見ている。
すると。
「私のターン‥‥ドローっ」
――シュン
素早く一枚引き抜くと、すぐに手元の魔法カードを構える。
『エリアカード、天界の神殿を発動‼︎」
そう叫んでカードを目の前に飛ばすと、カードが輝いてマチュアの背後に神殿を生み出す。
「天界の神殿の効果発動‥‥手元にある、名前に賢者を含むカードを召喚ルールを無視して召喚できる‥‥出でよ‼︎ 紅の賢者・カーラルっ‼︎」
その叫びと同時に、手元のカーラルのカードも目の前に飛ばす。
すると、カードから魔法陣が形成されて、そこから真紅のローブに身を包んだ、聡明そうなエルフの賢者カーラルが姿を現した。
だが。
「現時点ではここまでですね。バトルシステムも組み込んでますので戦えますが、相手がいないので今はなしで」
「確かに凄いです‥‥これは、世界大会に貸し出してくれますか?」
「全てのカードデーターをまだ読み込ませていません。こればかりは、近所のショップで買うことはできませんし、デジタルデータを魔法処理するのは時間が掛かりまして‥‥」
アームレストの魔力をカットして全てを消す。
「さて、異世界大使館からのデモンストレーションはここまで。ここからはビジネスの話といたしましょう」
「そうですね。ではこちらへ」
そのままマチュアは山代とともにミーティングルームにむかった。
急ぎ開発部からも責任者がやってくると、日本お決まりの名刺交換。
「早速ですが、先程のシステムを見せて欲しいのですよ。後、宜しければ私達が使ってみたいのですが」
開発部責任者の衣笠が、マチュアにそう提示した。
「ではでは、ちょっと待ってくださいね」
空間から二つのMRアームレストを取り出し、スラスターからマチュアのデッキを外す。
それを二人の目の前に並べると、使い方を説明した。
「成程ねぇ。では私のデッキも使ってみますか?」
「かなり登録しているカードが少ないので、未登録のカードはカードが実体化します」
「へぇ。それは凄いですねぇ」
――カシュッ
デッキをスラスターにセットすると、それをアームレストに固定する。
「あ、このアームレストの形も原作遵守なんですね?」
「アニメはシリーズ変わるとよくわからないですし、何より私達が来てまだ一年ですが、アニメではシリーズ二回も変わってまして‥‥何が何だかわからないのですよ」
「さて、右手をスラスターに伸ばして‥‥何も出ない?」
空間をパッパッと掴む山代。
「起動してませんから。音声でも動きますが、スラスターの反対側に赤い宝石があるので、それを右手のアームレストの人差し指で押してください」
「こうですか?」
――ポチッ
すると、宝石が真っ赤に輝いた。
「それで問題ないです。片方で起動すると、対になる方も起動します」
「そこでデュエルスタートですね。成程‥‥おう‼︎」
すぐさまスラスターに手をかざすと、五枚のカードが排出される。
「これは紙ではない?」
「ええ。スラスターの中のカードデーターを中に組み込まれている魔法陣が読み取り、ランダムに五枚のカードを魔力で作り出して排出します。なので、何処に投げても本物はスラスターの中にありますよ」
「成程‥‥」
――シュン
素早く一枚のカードを目の前に投げると、それが魔法陣になって小さな竜を召喚した。
「あ、出ましたねぇ。白亜の狩竜‥‥弱いですけどね」
「外見イメージはカードイラストと設定資料集、漫画単行本、アニメの設定集から集めまして。足りない部分は勝手に補完しました。全てのカードの立体図があれば良いのですがねぇ」
「ふむふむ。これは‥‥面白いですね」
「今はスイッチを押しての起動ですので、デモモードで何体でもいくらでも呼び出せます。バトルは‥‥例の掛け声でバトルモードが起動します。後は‥‥漫画通りで」
つまり叫べと。
羞恥心を捨てろとマチュアは説明する。
もっとも、この手の開発をしているものはノリも最高。
すぐさまお互いが間合いを取ると、同時に叫んだ‼︎
「「デュエルスタートっ‼︎」」
その直後、山代のアームレストが輝く。
「これは?」
「ランダムに先行が決まりますので。山代さん先行です」
そう説明すると、早速ノリノリの二人はバトルを開始した。
‥‥‥
‥‥
‥
三十分の死闘の末、勝利したのは開発の衣笠。
そこで一旦バトルは終了。
「さて、結論から言います。これの貸し出しをお願いしたいのと同時に、改良もお願いしたいのですが」
山代の意見。
「では、どのように‥‥と言いたいですが、音ですよね?SEが全くありませんから」
「ええ。カードデザインからここまで実体化したのは凄いですが、アニメ作画とマンガ作画、カード作画がごっちゃでして。このあたりの修正は可能ですか?」
「フィギュアがあれぼそこから読み取れますが、イラストは全て三面図を用意してください。SEはCD音源を用意していただければ、それなりには調整出来ます」
そのまま打ち合わせを続ける。
細かい部分は大体なんとかなる。
そこで問題のレンタル料である。
「世界大会の日程は三日間。全ての試合で使用する場合、一試合のレンタル料はどれぐらいになりますか?」
簡単な日程表と試合数を提示する。
「一日百万円、三日で三百万‥‥」
「おう!」
マチュアの言葉に山代は絶句するが。
「と言いたいところですが、一日50万で12時間契約、現地メンテナンスと管理は私が行います。これでは?」
「こちらではイラストの書き起こしや発注で一ヶ月は掛かります。そちらでの調整はどれぐらいですか?」
「最低一週間は見てください。その後、こちらで全てのカードデーターを映し出しますので、都度調整ですが」
「カードの種類は現在までのものと大会前日に発売されるカードで合わせて8000種類。禁止カードが125種類なので、7875種類のカードデータを用意する必要があるのか‥‥全てを一ヶ月で書き起こすとなると、1時間に十枚、六分で一枚か」
「大会は事前にデッキを登録するタイプだから。一か月前でだいたいわかる。一人五十枚使うとして、参加者四十八名。カードは最大でも2400枚」
衣笠が電卓を弾きながら計算する。
どうやら登録期日と枚数を考えているらしい。
「ここにダブることも考慮すると、最低1000枚か。一ヶ月後の四月二十五日が登録締め切り、六月十日が世界大会。一ヶ月でイラストをあげるとして、マチュアさんの登録が終わるのが六月一日なら、最後の調整は間に合います」
そう説明すると。
「今の流行りのデッキはリサーチできるから、そのカードは今の内に仕上げる事も出来ますね。その分だけ時間は短縮できます。問題は決済を通せるかどうかですねぇ」
「私としても今回の件はテストケース。こちらから提示する企画書はありません。今見ていただいたもので判断して、後日返答をいただければと思います。それでは、次に向かわなくてはならないので本日はこれで」
そう説明すると、マチュアは静かに席を立つ。
「この後は、別メーカーでデモンストレーションですか?」
そう問いかける山代に、マチュアは一言。
「この先のカードショップでキンデュエの大会がありまして。私、公式戦は初めて参加するのでワクワクしているのですよ」
――プッ
思わず吹き出す山代。
「プロモーションでしたらお渡ししますよ?」
「それよりも、開発から過去に発売したカードをサンプルとしてお渡し出来ますが、お持ちしますか?カードデーターだけでも先に入力出来れば、後は早いのではないですか?」
そう切り出す衣笠に、マチュアはコクリと頷いた。
「では、異世界大使館に送って頂けると。契約前ですが、それはサービスで設定しておきますわ」
そう話してから、マチュアは山代と衣笠に見送られてMINACO本社を後にした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「むぅ‥‥」
MINACO本社近くのトレカショップに向かったマチュア。
すぐさま大会参加をお願いして、フリースペースでデッキの調整をする。
いきなりリアルエルフが参加したとあって、店内は騒然としていた。
boyaitterでマチュアの参加を誰かが書いたらしく、店には大勢の人が集まってきた。
急遽大会参加者以外は入店禁止となり、店内は静かに大会の準備が始まった。
――コツコツ
「あの、マチュアさん、少しいいですか?」
ふと、一人の店員がマチュアに声を掛ける。
「はぁ、まさか参加できない?地球人限定大会?」
――プッ
そのマチュアの言葉にあちこちから笑い声が聞こえるが。
「いえ、大会は別に問題はないのですが」
店員の後ろについていくと、店の入り口で明らかに報道記者が立っている。
「取材許可をお願いしたいのですが。異世界からデュエル参戦、どうしていきなりですか?」
丁寧に頭を下げてから問いかけてくる記者。
「あ、なるほど。どこの人?」
「富士見新聞ですが」
「なるほどなぁ。私もうオフなので取材受けたくないのよ。質問はさっきの?」
「そうですが」
「大使館の近所におもちゃ屋さんがあって、大使館に遊びにきた子供達にトレカを教えてもらってね。興味があったので、MINACO本社に見学をお願いして、今ここだけど?」
あっさりと答える。
だが、それだけとは思わないのがプロの記者。
「まさかとは思いますが、漫画原作のように、バーチャルリアリティで映像化するとか?今の技術では不可能ですが、魔法ならなんとかなると?」
「それは答えたくないというか、バーチャルなんとかは技術でしょ?私は魔術と技術を融合することは出来ないわよ?だからバーチャルリアリティについてはハズレ。これでいいかな?」
「最後に一つお願いします。今日の大会、優勝できますか?」
いきなり素っ頓狂な質問。
「異世界から来て、魔法が使えるからって優勝できたら世話ないわよ。札幌でさえ、まだ勝率一割なんですから」
「取材ではなく質問に答えてくれてありがとうございました。健闘を祈ります」
「あら、ありがとう。名刺頂けるかしら?」
そのマチュアの言葉で名刺を差し出す。
「富士見新聞東京本社・文化部の安井です」
「ふぅん。東京本社の文化部ね‥‥公開質問会に来てた方かな?」
ふと顔と名前を思い出した。
「はい。先日はお世話になりました」
「店に迷惑かけないで、参加者の写真は本人の了承を得ること。後は店と相談して。私の取材ではなく大会の取材なら私は何も言わないから」
手をヒラヒラとするマチュア。
するとカウンターから店長らしい人が呼んでいる。
「取材ですか、うちは宣伝になるので構いませんよ。後、マチュアさんにお願いがありまして‥‥」
「何かしら?」
そう問いかけると、店長は一枚のカードを取り出した。
「このカードにサインを下さい」
手渡されたカードはキンデュエの古いカード。
「カード名がエルフの賢者‥‥成程ね」
何処と無くデザインがマチュアのローブ姿に似ている。
ならばと、サラサラっとサインをすると、店名を書いて手渡した。
「もう一枚、これは大会優勝者に渡したいので‥‥」
「はいはい。これも仕事と。どうぞ?」
にこやかにカードを差し出す。
それで席に戻ると、マチュアはのんびりとデッキの調整を開始。
なお、大会結果は残念ながら一回戦敗退。
最後に優勝者にカードを手渡すと、マチュアは箒に跨って予約してあるホテルへと飛んで行った。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






