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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と
195/701

地球の章・その14近所付き合いと駐在防衛騎士


 二回目のカナン査察団がやって来て、少しだけ忙しい異世界大使館。

 今回からは、ラグナ・マリアの各国から代表団を順に派遣してくる。

 そして先日、ミスト連邦王都の代表団がやって来ていた。

 護衛任務は幻影騎士団でなくカナン魔導騎士団に一任する事になり、マチュアと高畑、赤城は数日前までカナン王城で護衛騎士としての講習会を行っていた。

 備品のブレスレットと指輪についても異世界ギルドからの貸し出しとなり、今はマチュアも大使館でのんびりとしている。


――モグモグ

 炬燵の中でお汁粉を食べながら、目の前の魔晶石に魔力を注ぎ込む。

「炬燵に入ってドテラを着て、モグモグとお汁粉を食べる。ここが会社なら大変な事ですよ?」

「その会社の会長室で、会長がやってるのなら文句はあるまい。みんなの分も厨房に作ってあるよ?」

「休憩時間に頂きましょう。さて、こちらをどうぞ」

 三笠が炬燵に入りながらマチュアのクリアパットにデータを送る。

 映像データではあるが、大使館を監視している車があちこちにある。

 こっそりとカメラを回していたり、出入りしている人間を調べているのは明らかである。

「へぇ。せっかくなので、少しサービスしますか。ゼロツーで遊んでくるわ」

「程々にどうぞ。では私は各種メーカー宛の手紙でも作りますので」

 そう告げられると、マチュアは大使館から外に出る。

 まだ雪が多く積もっている三月半ば、北海道はまだ冬である。


 除雪されている歩道を歩いて守衛室に向かうと。

「おや、今日は高町二曹かい。今から魔法鎧メイガスアーマーで遊ぶのでよろしく」

「わざわざ連絡しなくても問題ありませんよ。軍事演習でもするのですか?」

「雪かきとカマクラ作りだよ。子供達が集まってくるだろうからさ」

「ご安心を。入れないので大丈夫ですよ」

「いや、入りたがったら通してあげて。子供のみ夕方4時まで大使館開放。すいませんがお願いしますね」

 そのマチュアの言葉に、やれやれと笑う高町二曹。

「‥‥相変わらず自由ですねぇ。ではそのようにします。保護者が来た場合は?」

「身元確認して入館許可。台帳に名前と連絡先書いて貰えば良いや」

 それだけを告げると、マチュアは正面横の庭で魔法鎧メイガスアーマーを召喚する。


――プシュゥ

 コクピットハッチを開いて乗り込むと、すぐさまハッチを閉じる。

「さて。それじゃあ始めますか」

 ゼロツーの足元に魔法陣が広がると、その中から巨大な雪かき用ショベルが姿を現した。

「チャラララッチャチャーン、雪かきジョンバー‼︎」

 右手に構えたジョンバをくるりと回すと、マチュアはゼロワンで雪かきを始めた。


 ‥‥‥

 ‥‥

 ‥


 三十分後。

 大使館庭にいくつものカマクラが完成した。

 近所の子供達が守衛の許可を貰って入って来たのである。

 カマクラを作るのにゼロツーを使って四角い塊を作ると、子供達が貸し出したスコップで黙々と削る。

 途中で魔法により表面を固めると、あっという間に4つのカマクラが出来上がっていた。


――プシュゥ

「暑いわ。空調悪いしなぁ」

 コクピットハッチを開いて外の空気を取り込むマチュア。

「エルフさん、私も乗りたい」

「マチュアさんだよ。エルフは種族名。私はハイエルフだし‥‥分からないか」

「名前はマチュアさんですね。私はロボットは操縦できないのかな」

「難しいなぁ。子供の魔力じゃあきついだろうな」

「俺も乗りたいですよ」

「僕もー僕もー」

 子供達がゼロツーの周りに集まる。

「まあまで。少し待ちなさい。よいしょっと」

 ゼロツーを昇降ポーズにすると、マチュアは機体をロックする。

「ほら、順番に乗っていいよ。動かせないけど、それは我慢してね」

 少し離れたところに移ると、マチュアは三笠に連絡する。


――ピッ

「三笠さん、二人暇な人回して。テーブルと、確か紙の器あったよね?後割り箸と」

『豚汁とお汁粉、どちらを?』

「流石だね。どっちもお願いします」

『では、すぐに十六夜さんと吉成さんを回しますね。後、警備部から、大使館近くに不審車両二台、ずっとこちらを監視しているとの事です』

「放置。外の方には手を出せない。念の為にナンバーとかを控えておいて。ではよろしくー」

――ピッ


 しばらく子供の相手をしていると、正面入り口から高町二曹と一緒に数名の保護者がやってくる。

「あの、うちの子供達が勝手に入り込んでしまって」

「いやいや、今日はご近所開放日ですよ。さ、そちらにお汁粉と豚汁のコーナーもありますので‥‥何でケーキコーナーも作ったのかなあ?」

 お母さん達を連れて仮設のフードコーナーに案内すると、いつのまにかケーキコーナーも出来ていた。

「三笠さんが、賞味期限切れる前に出しなさいと。昨日もローレンス少将から新しいのが届いたばかりなのですよ?」

「お、おう。ではお持ち帰りも用意しますか。領事部から二人回して貰って。フードコーナーの拡張とお土産用のパッグの準備をお願いして」

 次々と指示を飛ばすマチュア。

 すると守衛室からも連絡がくる。


「報道が来てますが」

「何処?」

「HTNの藤村さんです。夕方トクオシの中継にと」

「入れてよし。あとの報道は断ってください」

「それと、KHKの進藤もいらしてますが‥‥」

 はぁ。

 なんか忙しくなって来た。

「進藤だけよし。後のカメラは入れるな。一人こっち来て、お汁粉と豚汁取りに来て頂戴。寒いからあったまるよー」

「了解です。ご馳走になります」

 一通りの連絡を入れると、藤村Dと高橋冬華アナウンサーがカメラマンを伴ってやって来た。

「本日は撮影許可を頂きましてありがとうございます」

「いえいえ、何処で聞いたんですか?」

 今のこの状態など、誰にも連絡はしていない。

 なのに、この機動力の高さは一体なんだろう。

「boyaitterに投稿がありまして。魔法鎧メイガスアーマーが動いているとね。近くに来ていたので顔を出したら市民開放日とは思わなかったですよ」

「市民ちがう。ご近所開放日にしたのよ」

「したと言いますと?」

魔法鎧メイガスアーマーで遊んでいて、ついでに近所の子供を招待してカマクラ作ってたのよ。そしたら面白くなって、お汁粉とかもあったから保護者もオッケーにして、気がついたらご近所開放日になった」

 カメラマンも準備を終えたらしいが。

「何処まで回して良いですか?」

「庭全体おっけ。職員はインタビューには応じないけど、勝手に撮って放送するならお好きに。藤村さんは事務室で取材申請許可書書いて来て」

「わかりました‥‥と、KHKは?」

 ふと気がつくと、進藤があちこちを撮影している。

「おーい進藤。先に藤村さんと事務室行って来て許可書を書いて来なさい。撮影はそれから、取材には応じない。おっけ?」

 そのマチュアの言葉に、指で輪を書く進藤。

 その後はテレビで見た人が次々とやって来たので、庭を全面開放してフード関係も増やす。

 夕方トクオシの中継の間、マチュアは庭のあちこちを駆けずり回っていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 



 放送も終わり、大使館の庭はいつものように閉鎖される。

 HTNも進藤も挨拶を終えて帰ると、マチュアは炬燵に潜り込む。

 既に職員は殆ど帰宅し、広い大使館にはマチュアのみ。

 明日は土曜日なので、職員達もシフト勤務以外は休みである。


「はぁ。冬季活動のデータでもまとめますかねぇ」

 炬燵から出てロビーにむかう。

 そこに熱球を作り出して中空に固定すると、風を生み出して暖房にする。

 やがてロビーにゼロツーを引っ張り出すと、コクピットハッチを開いてマチュアのクリアパットと接続した。

「さてさて、断熱処理やら耐寒処理が甘いかぁ。関節も凍りつくと動きが鈍るからなぁ〜」

 疲弊した部分を外して別のに付け替える。

 そんな作業をしていると、いつのまにか厨房で物音がする。


――ガチャガチャ

「ん?誰だあ?」

 泥棒にしては物音が大きすぎる。

 動物にしては鳴き声がない。

 ロビーにある転移門ゲートから、マチュアに気付かれずに、背後を回って厨房に入り込むことなど、冒険者以外存在しない。

 そーっと厨房に近づいて扉を開くと、ポイポイさんと十六夜、赤城の三人が食事を取っていた。

 保存庫からクリームシチューとライス、フレッシュジュースを取り出して、ミニミニパーティーをしているところである。


「誰かと思ったら‥‥何してるの?」

「ムグムグ‥‥ひはほひひゃんほね」

「カナンでポイポイさんに稽古つけて貰ってたのですよ。ちゃんと三笠さんに館内使用許可も貰ってますけど」

「ありゃそうなの?なら何もこっそりと通らなくても」

 呆れた声のマチュアだが。

「ゴクッ‥‥隠蔽と沈黙のスキル効果を発揮したっぽいよ。マチュアさんに見つからなかったからセーフ」

「あ〜成程ね。で、ポイポイはどうやって来たの?」

「この前ギルドで発行して貰った異世界渡航旅券パスカード。これでいつでも来れるっぽいよ。ロットは一緒に来たいってギルド前で駄々捏ねてたけど知らないっぽい」

――プッ

 思わず笑うマチュア。

「その光景が見て取れるわぁ。それで、少しは強くなったかな?」

「まあ、暗殺者としてのスキルはある程度覚えましたけど」

「なら、少し見てあげますか?」

――シュンッ

 久しぶりの忍者モード。

 しかもエンジではなくマチュアでの忍者である。

 服装はチュニックにズボンを装備した。

「危ないから武器はこれで」

 そう話しながら、厨房にあるシャモジとお玉を手渡す。

「はぁ。マチュアさんは?」

「フライ返しと灰汁取りお玉で。それじゃあ、いつでもかかって来て」

 クルッとフライ返しと灰汁取りを逆手に構える。

 すると、十六夜の姿が突如消えた。

「隠蔽‥‥じゃないわね」

 マチュアの足元の陰から十六夜が飛び出す。

「貰いましたっ」

――シュン、カキッ

 すかさずシャモジで切りかかるが、マチュアはそれをあっさりと受け流す。

 そして十六夜の足元を水面蹴りで掬い上げるが、十六夜はすぐさま別の影に飛び込んだ。

「これはポイポイさん直伝の影跳びかぁ。欠点は知ってるかな?」

 そう呟くと、マチュアは掌に光球を生み出した。

 あちこちの影が消滅し、その一つから十六夜が飛び出す。

「こ、こんな事あるの?」

「あるよぉ。この光球は魔法じゃなくて忍術ね。術式をもっと教わりなさい」

 そう説明しながら、瞬時に十六夜の背後に回って首筋にフライ返しを突きつける。

「まあまあかな。C+って所ね。その調子で頑張りなさい」

「ハアハア‥‥息が切れますわ」

「それだけ無駄な動きが多いのよ。暗殺者が姿を現したら駄目。攻撃を相手に気取られないでね、こんな感じに」

――スッ

 マチュアの姿と気配が消える。

 すると、警戒していたポイポイの首元に灰汁取りがツン、と突きつけられた。

「ふわ、エンジより早いっぽい」

「よく言うわ。私のお腹に当ててある箸を下げてくださいな」

 ふと十六夜と赤城がマチュアの方を見ると、ポイポイの握ってた箸もマチュアの腹部に突き付けられている。

「マチュアさんの方が早かったから、マチュアさんの勝ちっぽい。まだまだ修行が足りないっぽいなぁ」

「でも、ニンジャマスターの称号を貰っただけの事はあるわね。その内抜かれそうよ」

「そのニンジャマスターを簡単に凌駕しないで欲しいっぽい」

――プッ

 赤城と十六夜も同時に笑う。

 その後はマチュアを交えて戦い方や様々なスキルについての話が朝まで続けられた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 日曜早朝。

 土曜日丸一日をかけて、マチュアはメモリーオーブに様々なデータを記憶させた。

 クリアパットで検索しては、それをオーブにインストールする。

 ずっとその作業を続けて、夕方過ぎに全てのデータを記憶させたのである。

 その後はアームレストと呼ばれる、ガントレットとクリアパットを複合した装備にオーブをセットし、細部の調整を行う。


 全ての調整を終えて炬燵で眠っているマチュア。

 すると、定時には日曜出勤の高嶋がやって来た。

「おはようございます‥‥って、日曜日なんて誰もいる筈が‥‥うわっ、マチュアさん寝てるのか‥‥」

 炬燵に突っ伏して眠っているので、背中に三笠さんのドテラを掛けてあげる。

「起こさないように‥‥しかし、なんでここで寝てるんだ?」


――スヤァ

 完全なる熟睡。

 ならばこのまま寝かせてあげるのが筋なのだが。

「ここは抱き抱えて仮眠室かな?いや、それは不純だ。しかし、このままでは風邪を引いてしまうからなぁ‥‥マチュアさん、風邪ひきますよ?」

 葛藤ののち、小声でマチュアに呼びかける。

――シーン

「うん、熟睡していますね。では抱き抱えて仮眠室に連れていきま‥‥」

 ふと視線を感じて振り向くと。

 事務室の扉が開いて、赤城と十六夜、ポイポイの三人が高嶋を見ていた。

「それ以上いけないっぽいよ」

「うわ、あんな小声で起きる筈ないじゃないですか?」

「さいって〜。高嶋のスケベっ」

 カナンから戻って来たばかりで、何が起こっているのか理解していない。


「あ、あのなぁ、おれはマチュアさんが風邪を引かないように仮眠室に連れて行ってあげようとしてだなぁ」

 真っ赤な顔で対抗する高嶋。

 すると

「ほうほう、それは済まなかったねぇ。ドテラ掛けてくれてありがとさん」

 パチッと目を開けると、居眠りから目覚めたマチュアが呟いた。

『あ、ま、マチュアさん、俺は下心など決して無かったですよ」

「うんうん。結界施してるから心配ないよ。邪な心があったら結界で弾かれていたから」

 寝ぼけた顔でそう呟きながら、炬燵から出て体を伸ばす。


――ファァァァァ

「マチュアさん、魔法の結界ってそういう事もあるのですか?」

「ぜ、是非伝授を」

 赤城と十六夜がマチュアの近くに来て懇願する。

「えーっと。敵性防御の魔法範囲を自分に切り替えるだけ。敵対意思、私に害をなすという意思なら弾くのでいいんだけどねぇ‥‥これ欠点があってね」

 ふむふむ。

 真剣な顔で話を聞く三人。

 いつのまにかポイポイさんもお汁粉片手に話に加わっている。

「ど、どんな欠点ですか?」

「好意や愛情には反応しないのよ。意味わかるよね?」

 ふと考える三人。

 そして赤城と十六夜は真っ赤になる。

「あ、あの、それってつまり‥‥」

「ふわわわわ。それは大変ですね」

「高嶋君は好意で私に接していたから反応しなかったのよ。もし少しでもやましい心があったら、多分結界に弾かれて壁に埋まってるよ」

 そんな話をしていると、高嶋が炬燵にお茶を4つ持ってくる。

「ほ、ほーら。俺がやましくないのは魔法でも証明しただろうが」

「はいはい。まあ悪かったわよ」

「ごめんねぇ、それなのにお茶まで貰って」

「モグモグ‥‥」

 炬燵でのんびりする四人。


「あの、その炬燵は上司専用では?」

 自分の机に戻り、送られていたファックスを確認する高嶋が、炬燵の一同に問いかけるが。

「日曜日だからいいんでない?」

 というマチュアの一言で全て解決した。

「そう言えば、今朝方届けられたのですが、これはどうしたら良いのですか?」

 ポンポンと小包を叩く高嶋。

「何処から?」

「総務省ですね。何でしょう?」

 どれどれと、マチュアが高嶋の所まで行って小包を開く。

 中からは小さな箱が出て来た。

 それを開くと、写真付きの外交官カードが出てくる。

「え、これかぁ。査察団の今日のスケジュールは?」

「11時から観光、その前はホテルでまったりしてますよ。異世界政策局の通訳とガイド待ちですね」

「なら届けて来て。今日の護衛隊長は?」

「ジョセフィーヌさんですね」

 ふむふむとリストを見て、該当する騎士のカードを取り出す。

 それを高嶋に手渡すと、残りは金庫に保管した。

「これ宜しく。リンク方法はジョセフィーヌが知ってるわ」

「はい‥‥駐在防衛騎士?これってどういう立場なのですか?」

 記された身分を見て頭を捻る。

「異世界から来た、防衛武力を行使する為の武具装備を認められた外交官だよ。その権力範囲は特務全権大使にも含まれるっていうやつで、棚の異世界等関連法に新しく追記されているよ」


 これを所持すれば、暴漢などに襲われた場合でも魔法や武力の行使を認められる。

 ちなみにカナンの魂の護符(プレートを所持する大使館職員も、公務上の行使はこれで許される。

 先日の秦朝の諜報員による襲撃後に追加された追加条項であり、正当防衛による戦闘武力の行使が認められた。


「ふぁ。こわ‥‥」

「まあね。これはポイポイさんのか。幻影騎士団のもあるね、ポイポイさんこれ取り込んで」

――シュルルルルッ

 ブーメランのようにポイポイにカードを飛ばすと、ポイポイはそれを受け取って取り込む。

「これでよし。外に遊びに行くときは、誰かと一緒なら遊びに行ってもいいからね」

「わかったっぽい。今日もポイポイは任務なしだから、みんなで遊びに行ってくるっぽい」

「何ですと‼︎」

 ポイポイの言葉に高嶋がすぐに反応する。

「では、俺も勤務後に合流していいですか?」

「構わないっぽいよ」

 ニッコリと微笑むポイポイ。


――ジーン

 すると、高嶋も両拳を握って感動している。

「シルヴィーさんとカレンさんを諦めて紆余曲折、やっと俺にも春が来る。ポイポイさんは彼氏や好きな人はいますか?」

 ぐいっと前に出る高嶋。

 紆余曲折していたのかぁ。そうかぁ。

「ん〜。彼氏とかいないっぽい。好きな人はマチュアさん。後、みんな好きっぽいよ」

 あ〜。

 ロリエッタの民だからね〜。

 種族的にみんな好きだよね〜。

――ジーン

「ほら、俺にも春が来た」

「あ、高嶋、ポイポイは人族じゃなくてロリエッタの民だからな?念のため」

 は?

 マチュアの話に頭を捻る。

「ロリエッタって?」

「人間でいう、少女時代で外見の成長が止まる種族だよ。不老の民。異世界関連法の隣の、異世界についての資料その2って言うファイルあるでしょ」

 そもそも、高嶋と古屋はカナンでの勤務日数が大幅に少ない。

 日本滞在しての執務が大半だったのである。

「と言うことは、ポイポイさんは一生金髪美少女のままなのですか?」

「もっと早く不老化する子もいるっぽいよ。ポイポイは遅い方だけどね」

「つ、つまり結婚したら合法ロリ‥‥」

「とっとと届けてこい。今なら敵性防御遠慮なく発動するぞ」

「は、はいっ。高嶋三等書記、行ってきます」

 マチュアに怒られて慌てて外に飛び出す高嶋。

 それを見て、全員が苦笑した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 



――ガチャガチャ

 夕方、マチュアはロビーの魔法陣の中から取り出したアームレストを装備している。

 掌をグーパーと握り、指先の感触まで確認する。

 それを高嶋はのんびりと眺めている。

「‥‥暇なの?」

「日曜日は待機任務なので。緊急連絡以外は、ファックスの仕分けなどですよ?」

「あら、そうなの。私のシフトの時は、こうやってなんか作っているだけだから気づかなかったわ」

「まあ、漫画見たり動画見てもいいとは聞いてますけどね。事務室かロビーにさえ居ればいいと言われてますから‥‥それ、何ですか?」

「ん?新しい魔道具。完成したら教えてあげる」

 いそいそとアームレストを外すと、再び魔法陣を起動して処理を続ける。


――キンコーンキンコーン

 やがて夕方の鐘が鳴り響く。

「では、高嶋三等書記、本日の業務を終了します。領事部の夜勤に引き継ぎます」

「はいお疲れさん。明日は休みかな?」

「休日出勤ですので、火曜の午前まで休みです。でっは〜」

 すぐにブレスレットで赤城達に連絡を取る高嶋。

 その後は着替えて真っ直ぐにススキノらしい。

「異世界人の行きたいところはススキノと貉小路、デラ・マンチャと決まってるからなぁ。どうせチャレンジワンでしょ」

 そう独り言を呟きながら、マチュアも箒を手に外に出掛ける事にした。


 ‥‥‥

 ‥‥

 ‥


 異世界大使館から少し離れたところにある昔ながらのおもちゃ屋。

叢雲ムラクモトーイズ』と呼ばれ、昔から近所の子供達を始め、市内全域からお客がやって来る店である。

 近年はTCGに力を入れており、日曜祝日などは大勢の人で店内は溢れている。


――シュゥゥッ

 ゆっくりと叢雲トーイズ前で箒から降りると、マチュアは空間に箒を放り投げて店内に入る。

――カラーンカラーン

 扉についているカウベルが鳴り響くと、店内から元気のいい声が聞こえてきた。

「いらっしゃいませ〜」

 正面カウンターの女性が元気よくマチュアに声をかけて、そして凍りつく。

「あ、あれ、外交官のマチュアさんですか?」

「はいはい。取材でも何でもないですから。ただの買い物ですので」

 手をヒラヒラとしながら店内を散策する。

 二階がデュエルスペース、一階は様々なおもちゃの販売をしている。

「カードゲームは上かしら?」

「販売は一階です。左のスペースがカードコーナーですので、ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうね。では失礼して」

 左のスペースに向うと、壁際びっしりにトレカの収められたショーケースが並んでいる。

 棚によってはいくつものゲームがあるらしく、そこをのんびりとマチュアは見て回った。

「これがキングオブデュエリスト、こっちがデュエルファイターズ‥‥マジック&ウィズダムは英語か。ほうほうこっちはロリッコバトラーズ、可愛い女の子が戦うのか」

 あちこちを見ると、別の棚でカードを探していた人たちがマチュアを見ている。

 中には、ご近所開放日に遊びに来ていた子供達の姿もあった。

「マチュアさんこんにちは〜」

「お、こんちは。みんなもカードゲーム?」

「僕たちはデュエルファイターズだよ。これがそう」

 手元のカードケースからカードを取り出してマチュアに見せる。

「へぇ。これも漫画かアニメなの?」

「クルクルコミックで連載してるし、土曜日の朝にアニメも放送してるよ」

 ふむふむ。


 暫し子供達にカードゲームの楽しさを教えられるマチュアであった。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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