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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と
193/701

地球の章・その12相手を見て喧嘩しましょう

 

 赤城がハイエース事案に巻き込まれる少し前。


 マチュアとパルテノ、シルヴィー、ギルドマスターズ、そして護衛のゼクスは、貉小路を一丁目から散策していた。

「あれ?パルテノ様、ここ昨日も来ましたよね?」

「デラ・マンチャの手前まではね。でも、シルヴィー達は初めてですし‥‥」

 そんな話をしていると、シルヴィーとマーシャル、カニンガムは大手靴屋に入っていった。

「ルートは昨日と同じかあ。仕方ないから行きますか?」

「ええ。私は昨日買いましたけど、あの方達は買ってませんからねぇ」

 そう告げてパルテノが店内に入っていくが。


――ピッ

『マチュア様、敵性反応5。すぐ横の街道に止まっている車から3、店の外から2です』

『はいはい。来る事ぐらい予測していたわよ。動いたらすぐに潰して。殺さない程度に』

『了解です‥‥敵性反応のようなもの更に2追加』

『もう、面倒だなあ‥‥って、ようなものってなんだ?』

『反応が微妙過ぎて‥‥』

――ピッピッ


 ゼクスを外に残して、マチュアは店内に入る。

 そしてパルテノとシルヴィーのもとに近寄ると大陸語で一言。

『私たち狙われています。気をつけて』

――コクリ

 パルテノとシルヴィーは静かに頷く。

 そしてカニンガム達の方に近づくと。

『ひょっとして、ワシら狙われてる?』

『外から妙な気配を感じますねぇ』

 流石は元冒険者のギルドマスターズ。

 なのでマチュアも一言。

『ええ。もし襲われたら、殺さない程度に反撃を』

『相手がワイバーンでも、まだ一人でなんとでもなるわ』

『そうですねぇ。カニンガムとパーティーを組んでいた時代を思い出しますよ』

『全くだ。ワシとマーシャル、レックス、ケルビム‥‥懐かしいのう』

 おっさん達ょっと待て。

 何だその編成はと、マチュアも耳を疑った。

『ふぁ‥‥任せますわ。私は先にやってきますわ』

 そのまんま外に出て、ゼクスにタッチする。

 ゼクスは店内に、そしてマチュアは無詠唱で雷撃無力化と麻痺抵抗、耐毒抵抗を上昇させる。

 そして外のベンチに座って店内を眺めていると、二人の男がマチュアの背後に近寄った。

――バジッ

 すぐさまマチュアの背中にスタンガンを押し付けたが、それは既に対策済み。

「はう‥‥ってなると思った?」

 振り向きながら立ち上がると、男達の体に拘束の矢を叩き込む。

――ガクッ

 力なく崩れる男達をベンチに座らせると、マチュアは買い物が終わるのをのんびりと見ている。


『あと五人。そこの二人が敵‥‥かなぁ』

 近くのベンチに座って店内を見ている二人組。

 なんだろう、どう見ても某国のエージェントとか諜報員という感じではない。

 むしろ、シルヴィーに恋い焦がれまくって攫いに来たファン?

「あの〜、シルヴィーに何か御用?」

 その二人を見ながら、マチュアが声を掛ける。

「ぼ、僕達はシルヴィーちゃんを見に来たんです」

「何もしません。記念撮影をしたいんです」

 あ、敵性の反応が違うパターンだ。

 命の危険よりも貞操の危険か。

「ごめんなさい。遠くから撮影する分には構いませんけれど、記念撮影は遠慮してもらっているのよ」

 ニッコリと笑う。

 すると。

「では、マチュアさん、記念撮影良いですか?」


――はぁ?

 なんで私?

「は、はい?」

 思わず声がうわずる。

「僕達、異世界ファンクラブの会員なんです。カリス・マレスから来た方々と知り合いになって、色々と教えて欲しいなと思いまして」

 背の高い方がマチュアの前に立って頭を下げると、一枚の名刺を取り出した。

 それを受け取ると、マチュアはコクコクと頷く。

「私設ファンクラブですか、成程ねぇ‥‥」

「で、では記念撮影をお願いします」

「良いわよ、私なら一枚だけね?」

 そう告げると、もう一人のちょっと小太りで優しそうな顔の男性が自撮り棒とスマホをセットする。

 そして一枚、三人で写っている写真を撮ると、マチュアに頭を下げた。

「礼儀正しいのは良いけれど、ルールは守ってね」

 そう告げて敵性反応を見る。

 うむ、もう反応しない。

 異世界地球では、邪な感情も拗らせると敵性反応になるのだろうか?


 男達を見送ると、街道のハイエースに手を振るマチュア。

 そしてベンチの男達の襟首を掴むと、ハイエースまでズルズルと引きずっていく。

――ドン

 後部ドアの横に二人をおいておく。

 中を確認したいところだが、窓の中はスモークで見えない。わざわざ見るためにフロント側へ回るのも面倒だし。

 だが、車も動く気配はない。

「中にいるのはわかっているんだけどねぇ。アジア系だから西の大国?とりあえず持って帰ってね」

 そう日本語で話すと、マチュアは靴屋に戻ろうとする。

 やがてハイエースの扉が開くと、男達を回収して何処かに走り去っていく。


「マチュア〜靴を買ったぞ?編み上げのブーツぢゃ」

 楽しそうに走ってくるシルヴィー。

 そして今まで履いていた靴の袋をマチュアに手渡す。

「あのねぇ。これどうするのよ」

「ポイッて預かってたもれ」

「自分で持ちなさいよ。はい、空間拡張型収納バッグあげるから」

「おおう。幻影騎士団のやつぢゃな。有難い」

 いそいそと自分の荷物も纏めて放り込むシルヴィー。

「それで、こっちは終わったのですか?」

「まあ、終わったかな?」

 そうマチュアが話していると。


――ピッ

 マチュアのブレスレットから赤城の声がする。

『どうしたの?』

『正体不明の男達に攫われ掛けました。今は皆無事です』

『攫われかけた?カレンとシャルロッテは大丈夫なのね?』

『い、いえ、攫われかけたのは私で‥‥今はススキノ交番が現場検証に来てます。後で三笠執務官が来ますので、そちらと合流します』

『はぁ。そっちで来たかぁ‥‥職員狙ってくるとはねぇ。了解、今のみんなは?』

『ターキーさんが警護してます。私もターキーさんに助けられました』

『ふむふむ。なら二人呼んで、そっちに任せて』

『はい。では失礼します』

――ピッピッ


 通信が切れる。

「成程。本格的に来たのか、何処なのか。全くわからないわねぇ」

「まあ、こっちはワシやこいつもいる。このまま続けようじゃないか」

 ドン、と自分の胸を叩くカニンガム。

「戦力はゼクスと元聖騎士のカニンガムさん、精霊術師のマーシャルさん、えーっと高位司祭のパルテノさん‥‥私。シルヴィー以外はなんとかなるのか」

 ポン、と手を叩くマチュア。

「わ、妾も戦えるぞ?」

「はぁ。パルテノ様、シルヴィー戦えるの?」

「セシールからスタイファーの古代魔法語を学んでますね。ゴーレム召喚ができます」

「‥‥実戦経験がないという所で駄目。シルヴィーは皆に守ってもらいなさい」

「ぐぬぬ‥‥」

 そう話していると、一行は再び散策を始める。

 ストームにも軽く連絡を入れるが連絡がつかず、高畑に何かあったか連絡したが、今試合中とのことで連絡がつかないだけであった。

 なので襲われる危険があるとだけ伝えておくと、再び散策を続ける事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 ハンバーガーを食べ終えて、ストームと高畑は次の道場へと向かう。

「大通りを突き抜けた方が早いかな?」

「そうですねぇ。まあ、急がないのでしたらそれもありですよ」

 そんな事をのんびりと話しつつ、高畑とストームは公園を歩いていた。


 木々が多い為、人気のない場所が彼方此方あちこちにある。

 そういう所を避けて通っていたが、気が付くと周囲を取り囲むように人が歩いていた。

「‥‥プロか。高畑さん身を守るすべは?」

「冒険者ランクC+です」


――ヒュ〜

 口笛を吹いて返事をすると、周囲にいた人々合計八名が一斉に襲い掛かってくる。

 手にはスタン警棒、顔がわからないようにマスクと眼鏡をつけている。

「ランスロットっ‼︎」

 高畑の声で幽玄騎士が高畑の前に姿を表すと、まず二人の男に向かって峰打ちを叩き込む。

――ビシビシッ

 それでまず二人が意識を失い戦線離脱。


「うおっ。スタンド使い?」

「違います。マチュアさんもそれ言ってましたけど、一体なんですか?」

 一定の間合いを取って牽制するランスロット。

 高畑も武器を構えて周囲を伺っているが、相手も中々手を出さずにいる。

「まあ、冒険者ランクとしてはD程度かぁ。お前たち、もっと鍛え直して来いよ」

――ドドッ‥‥ドタッ

 ストームは刃引きのロングソードだけを構えると、瞬時に二人ほど気絶させる。

 その動きは高畑はおろか襲撃者の目にも止まらなかった。

 やがて高畑の近くの襲撃者は彼女の左右に分かれる。

――ヒュン

 右手から一人が襲いかかると、もう一人はタイミングをずらして高畑本人を襲う。

「そんな攻撃っ‼︎」

 シムーブソードでスタン警棒を受け止めたが、その電圧が刀身を抜けて高畑の身体に走る。


――ビシッ‥‥ビクッ

「あ、あうあ‥‥」

 その衝撃で口が開き、その場に崩れる。

 意識が集中しないので、ランスロットも維持できず消えてしまう。

 すると、一人の男が高畑を抱えて走り出した。

「ちっ。あれはまずいよなぁ」

 素早くストームが追いかけるが、その行く手を二人の襲撃者が阻んだ。

「まあ。普通なら足止めだろうがなぁ」

――シュンッ

 そこから瞬歩で高畑を抱えていた男の横に回り込むと、横っ腹にボディブローを叩き込む。

――ドゴッ

 口から何か吐きながら、男はその場に崩れた。

 そして急ぎ高畑を抱き抱えると、ストームは周りを見渡す。

「残り三人か。やるのなら相手するが、どうするんだ?」

 そのストームの挑発で、男達は胸元のホルスターから銃を引き抜くとストームに向けた。

「こっちは女性を抱えて武器も握れない。そこで間合いは外からの飛び道具。50点やるよ」

――トン

 と軽く足を踏み鳴らす。

――ヒュッ

 すると襲撃者の足元が突然泥濘み、ズブズブと埋まっていく。

――パスッパスッ

 その状態でも男達はなんとか抜け出そうとしながらも、ストームに向かって引き金を引いたが。

――フッ

 打ち込んだ弾丸は全てストームの手前で止まった。

「まあ、異世界渡航旅券のあれか、飛び道具の加護。凄いな‥‥」

 どんどんと男達は地面に埋まる。

 そして頭を残して全身が埋まると、そこでぬかるみを解除して大地に戻す。

「敢闘賞だ。警察呼んでやるよ‥‥マチュア?」

 ブレスレットに向かってマチュアを呼びつける。


『なんだ?襲われたか?殺してないか?』

「襲われたが殺してないわ。場所は大通公園の10丁目かなあ。全部で八人に襲われた。高畑さんがスタン警棒でやられて身動き取れないんだが」

『麻痺と雷撃なので、麻痺解除でいける。公安にはこっちから連絡しておくから、後は任せろ』

「はいはいと。麻痺解除な」

 近くのベンチに高畑を横たわらせる。

 そして麻痺解除の詠唱を行うと高畑の額にそっと手を当てる。

――ブゥゥゥン

 徐々に感覚が戻り、高畑も言葉を喋れるようになる。

「さて。体動くか?言葉喋れるか?」

「ふぁい。のんとか‥‥すいません、れりけるはふ」

「まだダメだな。ここで休んでいろ」

「ふぁい」

 申し訳なさそうに横になっている高畑。

 やがて遠くからパトカーの音が聞こえてくると、ストームは倒れている連中を後ろ手に縛り上げた。


「マチュア大使から連絡を受けまして‥‥これですか?」

「ああ。これが俺の身分な、こっちは異世界大使館の高畑女史。ここは任せていいか?」

「はい。外交官に対しての襲撃ですので、後はこちらで処理します」

 淡々と説明するのはストーム。

 やがて埋まっている三人の元に公安が近づくと一言。

「秦朝半島の連中か。ストームさん、これ地面から出せますか?」

「まあ、ちょっと待ってろ」

 地面に手を当ててブツブツと詠唱すると、埋まっていた連中が地面から浮かび上がってくる。

 その様子を見ていた公安の面々も、浮かび上がった男達を拘束した。

「秦朝半島?なんだそこ?」

「日本の西方にある半島なんですけれどね。アメリゴや国連に対して強い敵対意思をもっている国でして。増えすぎた人口や資源問題など、多くの問題を抱えている国なんです。それでいて軍事国家並みの近代兵器も抱えているので、周辺国家も安心出来ない所なんですよね」

 捉えた男達から武器や身分証を取り上げると、公安の責任者がストームの元にやって来る。


「通報ありがとうございます。公安外事二課の西郷と申します」

 切れ長オールバックの紳士がストームに挨拶する。

「これはどうも。外事二課という事は、西の大陸関連?」

「まあ、そんな所で。異世界からいらっしゃったのによくご存知で」

 そう問われると、ストームは外交官カードを取り出して提示する。

「これなもので、色々と勉強してますよ」

「照合しても?」

「ならこいつもかな?」

 ついでに魂の護符(プレートも取り出して提示する。

 すぐに照会されたらしく、再度頭を下げられた。

「この後のこいつらの処遇は?」

「投獄して相手の出方待ちですかね。外交圧力を仕掛けてくるでしょうが、その程度は予測の範囲内ですので」

 へぇ。

「うちも大切な職員がいじめられたので、どうにかしないと腹の虫が収まらないんだが」

「ですが、ここはこちらにお任せを。うちはそういう機関ですので」

 そう告げられると、公安の職員が襲撃者達を護送車に連れていく。

「それなら一つだけ忠告な。悪いが身内に手を出されて黙っているのは嫌なんでね。次にこんな事があったら国ごと潰す、ぐらい伝えてくれるか?」

 あ、ストーム激おこ状態。

 落ちていたスタンガンを一つ拾うと、それを自分の腕に押し付ける。


――バジッ

 強力な電圧がストームを襲うが、眉毛一つ動かさない。

 それどころか、軽く握って破壊する。

「軍用の650万ボルトも効かないとは‥‥剣聖だからですか?」

「さあね。この程度は虫に刺された程度だ。少し痒いが大した事はない。後は任せるわ。高畑さん、動けるか?」

 ようやく体を起こした高畑の様子を見るストーム。

「参ったわ。コボルトやゴブリン、スケルトン程度なら楽勝なんですけれど。まさかスタンガンに負けるとはねぇ」

 ゆっくりと立ち上がってくるっと回る。

 平衡感覚を確認すると、ランスロットを呼び出す高畑。

――ヒュンッ

「よしよし。まだ鍛え方が足りないかぁ」

 再び消して呟く。

「まあ、こっちの世界で一番怖いのは化学兵器とスタンガンかな。こればっかりは、俺やマチュア以外は無理だろう」

「うちのマチュアさんは?」

「そちらのマチュアさんは錬金術師なので、そういった耐性は強いかもな。さて、どうする?」

 立ち上がって高畑に問いかける。

「どうするもこうするも。私はストームさんのサポートが本日の仕事でして。ストームさんはどうするのですか?」

 そう問いかけられると、思わずプッと笑ってしまう。

「そうか。異世界大使館の連中はカナンで冒険者訓練しているんだものなぁ」


 これが普通の、こちらの女性なら腰を抜かして身動き取れない。

 それどころか恐怖でまだ身動きも取れていないだろう。

 赤城と高畑は、この程度の恐怖などとっくに克服しているらしい。


「それじゃあ、次の道場に向かうとしますか?」

「では、今度は日本の剣術道場に向かいましょう。札幌には天然理心流という流派の道場がありましてですね‥‥」

 そう説明しながら、高畑はストームを円山方面へと案内していった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 その日の夕方。

「全く。中々話を聞かん奴らだ」

 北海道警察本庁から出てきたワイルドターキーと赤城。

 一通りの調書を書き終えた後、取り敢えずは被害者という事もあり外に出る事が出来た。

 予めマチュアが公安に連絡を入れてくれた為、今回は被害者という事で話はついたらしい。

 カレン達の引率は三笠執務官が代行、護衛にはゼクスが急遽配置された。

 そして夕方五時に全てのスケジュールを終えて、一行はホテルへと戻った。


「まあ、こういう事もあるさ。ここは法治国家だから、理由があっても犯罪を犯すとこうなるんだろうなぁ」

 迎えにきたマチュアがワイルドターキーにそう話すと、まだプリプリと怒っている。

「何かこう‥‥本当にすいません」

「赤城さんが謝る事はないさ。むしろ被害者だからなぁ。怖くなかったかぃ?」

 心配そうに問いかけると。

「言葉は理解出来なかったんですが、命を狙われているっていう感じではなかったので‥‥縛られる前にターキーさんが助けてくれたので、何とかなりました」

 ふむふむと納得する。

「しかし、普通の女性なら恐怖で漏らしているぞ?強くなったのう」

「ダンジョン研修という名目で、ターキーさん達と延々と地下遺跡に入った時の方が怖かったんですからね。あの時はどうなるのか不安でしたから」

 少しふくれっ面の赤城。

「ならいいか。研修の甲斐があったということさ」

 しんみりと告げるマチュア。

「マチュアさん‥‥」

「これで、十六夜さんや高嶋もダンジョン研修に向かわせる口実が出来た‼︎安全の為には、度胸を付ける為にやはり必要なんだよ‥‥赤城さん、なんで私を見つめるの?」

「いえ、ブレないなぁと思いまして」

 そう?

 ふうんという表情で絨毯を取り出すと、マチュア達はのんびりとホテルまで戻っていった。


 ‥‥‥

 ‥‥

 ‥



「三笠執務官、誠に申し訳ありませんでした」

 ホテルに戻ってからも赤城は関係者に頭を下げっぱなし。

 皆がいるスイートルームで、ようやく落ち着きを取り戻した感じである。

「私やケリーは気にしていないわよ。むしろ赤城さんが心配よ。怖くなかった?」

 カレンが優しく話しかけると、ようやく緊張よりも恐怖感が戻って来たらしい。

 ポロポロと涙を流し始める。

「うむ、もう大丈夫ぢゃ。妾達が付いているぞ?」

「はい。必死で、でも皆さんを守らないといけないって」

「うんうん。大丈夫、もう怖くないからね」

 カレンとシルヴィーの二人に慰められている赤城。

 そこは二人に任せるとして。

「三笠執務官、大使館員のカナン研修を行います。危険回避の為の訓練です」

「そうですねえ。一月程早くなりましたが、やりますか。シフトは?」

 そう問われて腕を組む。

「政治部の半分。男組と女組で半月ずつ。冒険者関連施設で一週間、残りは実戦を交えて‥‥」

 そう話すと、流石のゼクスも話に加わる。

「い、いや、それはキツ過ぎます。いくら時間が無くても、そんな過密スケジュールは体を壊しかねません」

 その言葉には、ワイルドターキーも頷く。

「マチュア殿。ゼクスの言う通りじゃよ。二週間で実戦に耐えうるまで鍛えるとなると、それこそ」

 そこまで告げて、ワイルドターキーは理解した。


「そこでご紹介します。珍しくやる気になった先導者ヴァンガードのストーム先生です」

 はいっ、モストマスキュラー‼︎

――ムキッ

 華麗なポージングを決めるストーム。

 そのマチュアの話で、全員が納得した。

「ギルドの講習をストームがやるのか?」

「ほほう。先導者ヴァンガードの講習会とはのう」

 ゼクスもワイルドターキーも納得の人選。

「まあ、高畑が危険になったのもあるからなぁ。俺が付いていながら、ついうっかり。命が掛かっているのでついうっかりは許せない、だからこれは俺への戒めでもある」

 それがストームの本音。

 マチュアからこの話を持ちかけられた時、二つ返事で了承したのである。


「では明日からのスケジュールは?妾はまだ遊びたいぞ」

「シルヴィーがそう言うと思って、明日からは人員を増やします。ターキーさん、幻影騎士団で手の空いている人全員‥‥訂正、ロットとミア以外招集して」

「ふむふむ。一国を滅ぼせる人員配置じゃのう。ではいってくるとするか、高畑さん、すまんが転移門ゲートまで案内してくれるか?」

 そう告げられて、高畑とワイルドターキーは赤煉瓦庁舎へ向かう。

「三笠執務官は大使館に戻って皆にこの事を伝えてください。日程は後日調整します」

「分かりました。では一足先に戻りますね」

 スッと立ち上がって部屋から出る三笠。

 このマチュアのキビキビとした動きに、赤城もポカーンとする。

「ふっふっ。赤城は初めて見たぢゃろ。これが幻影騎士団参謀のマチュアぢゃよ」

「す、凄いですね‥‥」

「それじゃあ、まずは腹ごしらえだな。ディナーバイキングにでも繰り出すとしますか」

 ストームも肩をゴキゴキと回しながら部屋から出る。


 すると、その場の全員がレストランへと向かっていった。


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