地球の章・その11 やりたい事が多すぎるよ?
翌日。
マチュアの爆弾宣言とシルヴィーから聞かされたマチュアの過去。
そして飲み会の三連星で、赤城の頭はガンガンしている。
「もう7時だ‥‥確か3時には寝たはずなんだけど‥‥」
フカフカのベッドの中で、赤城は目が覚める。
その隣では、シルヴィーが丸くなってまだ眠っていた。
だが、マチュアの姿はない。
「あ、あら?マチュアさんは?」
慌てて起き上がると、部屋に戻ってくるマチュアの姿が見えた。
「おはようございます」
「ほいさ。おはやうさん。書類頼むわね」
「9時までには。しかし、随分と気合い入った規約というかシステムですねぇ」
手渡された書類を眺めてそう呟く赤城。
「まあ。独断と偏見で私の馴染み亭は通商許可ランクSにする」
「うわ、私利私欲に塗れてる」
「役得よ。役得‥‥そもそも外交官は貿易特権あるので制限ないし」
そんな話をしていると。
――ムクッ
目を覚ましたシルヴィーが、赤城の横から覗き込んだ。
「王家の御用達は?妾も色々欲しいぞ?」
「シルヴィーは外交官申請したでしょ?シルヴィーはベルナー王国の主権者である女王。私と同等の立場。だから何でもかんでも異世界の人に頼まれてもオッケーしないでね」
そう告げられて、しみじみと外交官カードを眺める。
「つまり、何でも持って帰っていいのか?」
「禁止分類以外はね」
赤城もシルヴィーの外交官カードを見せてもらう。
「本当ですね。これがベルナー王国の紋章ですか」
「うむ」
「ちなみにストームのはサムソン辺境王国の紋章がついてる。まずはこの三国だけで異世界外交を試してみるさ。これは国交締結時の条項に書き込まれているからね」
その言葉に納得すると、赤城はクリアパットで文書の清書を始めた。
◯ ◯ ◯ ◯
・カナン通商許可証と貿易について
カナン通商許可証については、厳正な審査によって発行される。
最初に異世界ギルドに登録した際のランクと、その商会の規模や実績によって、通商許可ランクを決定する。
通商許可ランクによって、異世界より持ち込む事の出来る交易数値を算出する。参考数値は以下のとおり。
S:10
A:5
B:3
C:1
交易数値を消費して、分野を選択する。
数値が高いほど、一度に持ち込める量が変化する。
ポイント1につき、2m立方の貿易用木箱一つまでの持ち込みを許可する。
二店舗以下での一つの分野の独占を禁止する。
取り扱い分野と数値は以下のとおり。
・アルコール類:5
・飲料品:10
・食料品:10
・医薬品:6
・貴金属:10
・衣料品:10
・化粧品:5
・日常雑貨:15
・靴、帽子、杖、傘等:10
例:Aランク商人は5ポイントまで登録が可能。
例えばアルコール2、飲料品2、食料品1のように。
この場合、一度の貿易でアルコールは二箱、飲料品は二箱、食料品は一箱までをカナンに持ち込める。
取り扱い禁止分類は以下のとおり。
・動植物
・生鮮食料品
・機械類
・香辛料
・特殊資源
これは第一次決定事項とし、随時変更が行われる事もある。
外交官は外交特権として、これらの条項を無視して持ち込み可能とする。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
簡単に説明するとこんな感じ。
これに税率やらさまざまな事が記されている。
8時には清書を終え、そのままコピーに走る。
簡易版なのでホチキスで留めると、赤城も朝食を食べにレストランに向かった。
「あら、みなさんお揃いで」
既に正装のパルテノ。
ギルドマスター達も出掛ける用意を終えてから朝食バイキングに姿を現す。
既にワイルドターキーやゼクスは食事の最中。
ストームに至っては、食べ終わってカレンと一緒に腹ごなしの散歩らしい。
「シルヴィーはストームと散歩には行かないのか?」
「うむ。今日はカレンの日ぢゃ」
黙々とプリンを食べているシルヴィー。
「あ、成程ね。ちゃんと曜日を決めたのか」
「不思議と、しっかりと決めてから、カレンとも仲良くなってなぁ。あまり焼きもちも焼かなくなったのぢゃ」
「それは重畳。良き妻の心掛けですなぁ」
シルヴィーと同じテーブルで、朝からガッツリと食事を取るマチュア。
「して、マチュアは今日は何処に?」
「あそこの話し合いをまとめてから、街を散策しますよ。外にはカメラやらなんやら待ち構えてますけれど、全て無視ですね」
ちらっとカレンとケリーの方を向く。
赤城が配布した通商許可の話で、どちらが何を取るかで悩んでいるらしい。
ちなみに二つの商会を算出したら、アルバート商会は7ポイント、マクドガル商会は4ポイントと実に3ポイントの差が出ていた。
「おいマチュア、どうしてうちが4ポイントなんだ?」
離れたテーブルから文句を言うケリー。
ならばとマチュアも一言。
「異世界ギルドのランクがBで3ポイント、商人ギルドランクがAで4ポイント、平均で3.5だから4だよ。文句あるならどっちかのランクあげろよ」
「ふむふむ。うちは3の10で平均6.5、だから7ポイントですね?」
満足そうなカレン。
「た、確かに理屈は合っているが‥‥」
「何だよ?商人ギルド総括と決めた正式なルールだよ。まだ不満なのか?」
「ない。ないからこそ困っている。どうしても欲しい分野が押さえられない」
「知らんわ。そこで話し合って結果だけ教えてよ」
笑いながらそう告げると、マチュアはスクランブルエッグを取りに向かう。
その途中で宿泊している客の子供達と握手したりしているのを見ると、赤城はふと昨日の話が嘘のように感じていた。
「子供好きなんですねぇ」
「昔からぢゃ。あれが本当のマチュアぢゃよ。さてと、妾もパルテノと打ち合わせして来るかのう」
シルヴィーも席を立つと、パルテノやギルドマスター達の席に向かう。
「さてと。では、私もやることをやりますか」
赤城の担当はケリーやカレン、シャルロッテという買い物メンバー。
ならばとその席に移動した。
「マチュアさん、高畑引率任務でやってきまキャァァァァァッ‥‥ゼクス様ぁぁぁぁ」
レストランのマチュアの元にやってきた高畑。
だが、ちょうどマチュアとワイルドターキー、ゼクスが警備の打ち合わせをしている所に出くわしてしまった。
「おや、おはようさん」
「ゼクス様は今日はどちらに?私も引率として」
――ガシッ
そう話し始めた高畑の後頭部を掴むストーム。
「それじゃあ行こうか。リストは?」
「ふぁい。今出しまふ」
バッグからクリアパットを取り出して、ある程度の目処を付けたリストを映し出す。
「へぇ。大体は10時からか。なら近場からのんびりと行くとするか」
「せ、せめてお願いが‥‥」
「ん?ゼクスのサインか?」
「急ぎで来たので、朝食食べさせてください」
空きっ腹を抑えながら高畑が哀願する。
ならば。
「ここ使っていいぞ。俺はロビーでのんびりしているから、食い終わったら来てくれ」
それだけ告げて、ストームはレストランを後にする。
「それじゃあ、楽しい朝食としますか?」
ニィッと高畑に微笑むゼクス。
もうそれだけでお腹いっぱいの模様。
「は、はぃ。今取ってきますね‥‥」
一度レストラン入口で支払いを済ませて、高畑は束の間の幸せを掴む事が出来た模様。
「なあターキーさんや。私達は邪魔のようだから席を移りましょうかねぇ」
「うむ。ここは若い二人に任せて、わしら年寄りは移るとしよう」
ドワーフとハイエルフが気を利かせて別の席に行くと、今度は他の宿泊客と相席を楽しむターキー&マチュア。
やがて9時になると、それぞれが行動を開始した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「マチュア、ガストガル商会の申請だが、 アルコール類を2、飲料品、食料品を1で頼む。ついでに日常雑貨を1つけてくれるとありがたい」
ふむふむ。
交易許可におまけを求めるガストガル商会。
「いいよ。雑貨1はおまけで許可してあげるよ。承認は今ここでやるから、異世界ギルドカード出せ」
――シュンッ
すかさずギルドカードを取り出すと、ケリーはそれをマチュアに手渡した。
受け取ったカードは、マチュアの持っていたクリアパットの横にあるスリットに差し込まれると、あとは画面上に表示されている品目をカードに転写するだけ。
――ピッピッ‥‥カシュッ
「ほい、裏に商会取り扱い品目が出てるでしょ。それをゲートの向こうの手荷物検査室で提出して。あとは表示分の税金払えば持ち込み許可なので、まあ、頑張れ」
受け取ったギルドカードを眺めるケリー。
「異世界商品はこれで売っていいのだな?」
「その申請は商人ギルドの管轄なので、マーシャルさんとこに申請。販売時の課税もあるからな」
ニィッと笑うマチュア。
「い、いや、ちょっと待て、これの税金は?」
「持ち込み税。販売税については、マーシャルさんと交渉で。うちだけ儲かるのも悪いからねぇ」
「そういう事だ。ケリー、申請はラグナ王都で受け付ける。このプレートが欲しかったら早めに来るんだな」
そう説明するマーシャルの手元には、30cm×20cmの『異世界商品取り扱い許可』と記されたプレートがある。
朝一でマチュアが作ったものらしい。
「き、きったね〜。何だよそれは」
「はっはっはっ。うちも職員の給料稼がないとならないのでね。次はカレンだよ」
そう話すと、カレンは室内をぐるりと見渡す。
「それでは。アルバート商会はアルコール類と食料品、衣料品、靴などを1、化粧品を3でお願いしますわ」
ほいほい。
昨日よりもカレンの髪がツヤツヤしているのは、シャンプーなどの効果だろう。
自分で使ってみて売れると確信したらしい。
「おまけは?」
「あら、うちにもいただけるのでしたら‥‥」
ゴニョゴニョと耳元で囁くカレン。
「プッ‥‥なるほどねぇ。赤城さん、さっきのやつ、衣料品の下に下着等を追加。数は3で」
女性ならではの発想。
「はいはい、追加と。これは私達も助かりますよ。まあ、カナンにコンビニがあったらすごく助かりますけどね」
――ポン
その赤城の言葉に、マチュアもぽん、と手を叩く。
「コンビニかぁ。異世界ギルドの近所に作るか」
「待て待て、それはありなのか?」
慌ててケリーがマチュアに詰め寄るが。
「異世界人用だよ。観光で行った人達が使えるように。そこでも個数制限するから心配するな」
その説明で、ケリーはやや不服だが了承。
そんな話をしながら、マチュアはカレンのカードにも取り扱い品目を転写する。
――カシュッ
「ほい、これで問題なし。後は私のか‥‥」
自分のカードを差し込み、品目を追加する。
「アルコール類2、化粧品1、下着等1、食料品2、飲料品をおまけ込みで2。これでいいや」
「あら?マチュアさんも登録?」
「馴染み亭があるでしょ?うちは『馴染み亭商会』として商人ギルドに商会登録する事にしたんだ」
チラチラとSランクカードを取り出して見せる。
ケリーはそれで顎が外れるぐらい驚いているが、カレンはふむふむと納得している。
「そ、それはあんまりじゃ‥‥いや、ギルドカードはいかさま出来ないから、正当なSランクかぁ」
「異世界通商関係の仕事の成果だよ。異世界ギルドのランクは変わらないからBだけどね‥‥しっかし、これのランクアップって、どうやるのかわからないんだよなぁ」
そんな話をしていると、パルテノたちがマチュアを呼んでいるので、この話はここでおしまい。
早速街へと繰り出すことになった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
鴨々川沿いをのんびりと歩いているストームと高畑。
札幌市内の道場を訪ね歩く旅を堪能するところである。
「まずはあそこです。1軒目、西洋剣術道場の『キングダム』ですよ。HTNの夕方トクオシの放送後に、大使館にいつでも挑戦は受けると宣言してましたから」
「へぇ。それは楽しみだな。正統派の剣術か、なら本気でやっても?」
「相手が死にますから勘弁してください」
「はっはっ。嘘だよ。相手の技量によるけどね」
高笑いしながらキングダムの一階にある受付に向かう。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」
綺麗な受付嬢が二人に挨拶するので。
「初めまして。異世界大使館の高畑と申します。こちらはラグナ・マリアの剣聖ストーム、ぜひ一手お手合わせをと思い、やって参りました」
受け取った名刺と魂の護符を確認すると、受付嬢が二、三度頭を下げてから奥に走って行った。
――ドダダダダダッ
正面廊下の奥から、背の高い外人さんが走ってくる。
その後ろでは、五人程の男女がストームの方をチラチラと見ている。
『ようこそ。私がこのキングダムの責任者のジョージ・マクファーソンです』
流暢なクィーンズイングリッシュ。
翻訳指輪もあるので、ストームと高畑には普通に聞こえる。
『初めまして。ストーム・フォンゼーンです。本日は宜しくお願いします』
ガッチリと握手すると、高畑とストームは道場へ案内される。
『簡単に説明しますと、私の道場はグランドブリティンの古流剣術を教えています。女王陛下の儀仗隊にも伝えられている剣術でした‥‥』
簡単な歴史を淡々と説明してくれるので、ストームも興味を持って聞き入ってしまう。
やがて説明が終わると、早速手合わせとなった。
「鎧をつけた実戦型でよろしいですか?」
片言の日本語で話しかけてくるので、ストームも静かに頷いた。
――シュンッ
全身をノーマルのプレートメイルで包み、カイトシールドとロングソードを装備するストーム。
ジョージも似たような装備を身に着けると、距離を取って一礼する。
「ストームさん、それは刃引きですよね?」
「当然。本物なんて使ったら真っ二つにしてしまうからな。ルールは?」
「お互いの鎧の胴部、頭部、上肢、上腕に一撃を入れたら一本です。三本先取でお願いします」
「オーケー。ならある程度は楽しめそうだな」
審判役の女性が旗を持って立つ。
「それでは、始めっ‼︎」
――サッ
素早く旗を振り下ろす。
すると、ジョージが間合いを詰めて上下に切りつけてくる。
――ガンガンッ
その全てをシールドで受け流すと、ストームは一瞬の隙にジョージの胴部を薙ぐ。
――ギンッ
素早く旗が挙げられる。
これでストームの一本。
「三分インターバルです」
審判の言葉で、ジョージは頭のバシネットを
外す。
既に汗まみれで、水分も補給している。
「ハァハァハァハァ。本物はこれ程とは」
「今ぐらいのやり取りを三十分以上続ける事もあるからなぁ。まぁ、後で体力のつけ方も教えてやるよ、筋はいい」
ストームは顔当てだけを上にあげて水を飲む。
「ストームさんのその鎧の重さは?」
「これか?板金は要所だけにして、その他はレザーとチェインメイルで仕上げたからなぁ。それでも25kgはあるぞ?」
「私のも同じようなものです。それでも20kg、これよりも重いなんて‥‥」
「本番用は30kgを超えるぞ。盾と剣も本物はまだ重いからな。では始めるか」
引き続き試合を開始。
今度はストームが受け手に回って、ジョージに動きでアドバイスを与える。
その一挙手一投足を観察しつつ、自分の動きを修正する。
「こ、これは‥‥動きが良くなってます」
「無駄な力が入っていないからな。流れを感じて、それに合わせろ。相手の動きに合わせながら、体勢を崩させる、そこの隙が命のやり取りに繋がる。攻めるぞ」
今度は攻勢に切り替える。
すると、先程のような不格好なった動きから、無駄のない流れる動きになるジョージ。
その光景には、弟子たちも驚いている。
――ガンガンッ
「ハァハァハァハァ。息が切れてきます」
「まだ無駄があるからなぁ。でも上出来だよ」
――キン‥‥
ジョージの首筋にストームのソードが突きつけられる。
これで二本目。
――ガチャッ
ヘルメットをはずすストーム。
すると、弟子たちがソードを手に先程の動きをなぞっている。
「何だ。冒険者関連施設みたいだなぁ」
「私達でも騎士になれますか?」
身構えている女性が、ストームに問いかけるが。
「訓練と本番は違うからなぁ。君達はこっちでスポーツとして楽しんだ方がいい。冒険者になると、望む望まないに拘わらず、命のやり取りがある」
――ゴクッ
「殺せる覚悟ですか?」
「いや‥‥死なない覚悟だな。人や生き物なんて、簡単に死ぬから。死なないと覚悟して、本当にそれを貫く」
そう話すと、ストームは今使っていた剣を手渡してみる。
――ズシッ
スポーツ用のものとは違う、異質な重さ。
力強く握って、そして振る。
――ブゥン‥‥
だが、重さと反動に負けて身体が前に持っていかれる。
「こ、これ、重心が‥‥違うのですか?」
「これが、生き物を殺す重さだ。人の力の限界を、反動と重心の移動で補う。刃がついたら、その辺の車でも真っ二つにできるぞ」
――シュンッ
もう一本のソードを取り出すと、ストームはそれを手渡した。
「そっちは今使っているから。こっちはここの道場に寄付するよ。訓練の一環で頑張ってみな。さて、ジョージ、3本目に行けるか?」
そう問いかけると、ジョージもヘルメットを着用する。
「おかげさまで、ある程度は体力が戻りました。お願いします」
「なら、こっちも行かせてもらうか」
ストームもニイッと笑うと、三本目の勝負を開始した。
‥‥‥
‥‥
‥
『あ〜、腹減った。腹ごなしして次に向かうか」
腹を撫でつつ大通りを歩きながら、ストームが呟く。
「ですが良かったのですか?ロングソードも鎧も全部寄付するなんて」
高畑があきれた声で問いかける。
3本目もストームが取り、1時間ほど皆の訓練をつけた。
そしてお礼として、先程使っていた武具一式を寄付したのである。
最後は全員がフルプレートで記念撮影をする。
高畑もちゃっかり換装して一緒に写真を撮ったのである。
「よいよい。あれは俺が作った量産品だ。そんなに高くないからな。高畑さんの鎧も、俺か大月が作ったやつだな」
その言葉に、高畑もキョトンとする。
「そうなのですか?」
「ああ。アルバート商会に卸したやつだろう。武器はマチュアのシムーブブレード、滅多にない逸品だし、大切にしろよ」
笑いながらそう説明すると。
「あ、あれ?カレンさんが話していたサムソンの伝説の鍛治師って‥‥まさか?」
「俺かな?まだまだ世界には凄い鍛治師はいるが、サムソンなら多分俺」
「王様で、剣聖で、伝説の勇者でモテモテで、それでいて鍛治師ですか」
「‥‥マチュアから聞いたな?なら、そこにドラゴンスレイヤーも追加しておけ」
――ハァ
溜息が出る高畑。
「もうお腹いっぱいですよ。十六夜さんと吉成さんがキャーキャー言うのがわかりますわ」
「はははっ。もう一つ二つ伝説はあるが、それは内緒だな」
そんな事を話しつつ、ストームと高畑は近くのモスdaysバーガーというハンバーガーショップに立ち寄った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「うひゃあ‥‥これが全て下着ですの?」
煌びやかな店内。
まるで御伽噺の世界のような雰囲気のランジェリーショップ。
その中で、カレンとシャルロッテが黄色い悲鳴を上げている。
「ええ。どうぞお買いになるのでしたら。日本語は大丈夫そうですので、私は入口近くで座ってます」
そう説明すると、赤城は入り口近くベンチに座って待機。
隣にあるリカーショップでは、ケリーとワイルドターキーが試飲を楽しんでいる。
この場所なら、どっちも確認する事が出来る。
「ふぅ。女性の買い物が時間を忘れるのもわかりますけど、まさかお酒大好きチームが時間を忘れて試飲しまくるとは予想外ですねぇ」
バッグからペットボトルのお茶を取り出して、喉を潤す。
ちょうどリカーショップの中でワイルドターキーが赤城に手を振っていたので、軽く手を振り返すと。
――キィィィッ
赤城の背後の道路にハイエースが止まると、覆面の男が飛び出して赤城を拉致した。
「ムンッ‥‥な、あ、貴方達ムグウンッ」
口を押さえられて言葉が出ない。
すぐさまハイエースは走り出したのだが。
「まあてぇい‼︎」
リカーショップから飛び出したワイルドターキーが背中の両手剣を引き抜くと、車道に飛び出して走り去るハイエースに向かって振り下ろした。
――ドゴォォォォォッ
斬撃は衝撃波となり、ハイエースの後部ドアを破壊する。
後輪もバーストし、車も停車した。
突然の出来事に周囲に人が集まる。
ハイエースの中では、今の衝撃で意識を失っているものもいたが、二人ほど車から這い出て走り出した。
「け、警告します‥‥魔法等関連法による正当防衛の行使です‼︎」
車から出てきた赤城が、指先で空中に魔法陣を書き込む。
すると、赤城の周囲に二つの衝撃の矢が生み出される。
「いけぇぇぇぇ‼︎」
その叫びで衝撃の矢は逃げる二人に直撃し、二人は意識を失う。
――ドダダダドドダドッ
「大丈夫か?怪我はないか?」
ワイルドターキーが赤城に駆け寄ると、赤城はその場にへたり込む。
「は、はい‥‥ダンジョン講習の成果が出ました。言葉が分かるだけ、人間の方が怖いですね」
「まあ、ゴブリンやコボルトよりも弱いが、知恵はあるからなぁ。しかし、カレンやシャルロッテを狙うのならまだ分かるが、赤城を狙うとは‥‥死ぬ気か?」
ゆっくりと赤城を立ち上がらせると、ワイルドターキーと赤城は店の前に戻る。
ちょうどススキノ交番が近くにあったので、すぐさま警官がやってきて事情聴取が始まった。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






