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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と
191/701

地球の章・その10 買い物と話し合いとマチュアの過去

 激安の殿堂デラ・マンチャ。

 カナンからやって来た査察団と遊びに来ていたマチュア。

 一階の化粧品売り場でパルテノとシャルロッテが買い物三昧を楽しんでいると、上の階ではとんでもない事が起きていた。


『こ、これは美味いぞ。こんなものがあるのか』

 食品を扱っているコーナで、ケリーが差し出された試食を受け取って感動している。

『うむ。このモチモチとしていて、それで飽きがこない味はよい。これはなんじゃ?』

 ケリーの横で感動しているワイルドターキー。

『これはカップラーメンですね。これがそうですよ。蓋を開けて、お湯を注いで3分です』


『『なんだと?』』


 いきなり叫んだかと思うと、一人一箱ずつ抱えるケリーとワイルドターキー。

『ちょっと待ってくださいね‥‥あ、これは持ち込み可能ですから大丈夫ですね。一度に一人二箱までですね』

 赤城はすぐさまクリアパットを取り出すと、この一年間で決まった持ち込み可能品一覧を確認した。

 初めてカナンに出向した日から今まで、ずっと赤城が担当していた異世界品のカナン持ち込み。

 その努力とリストが今、ようやく実を結んだ。


『ほうほう。これの値段は?』

『一箱が20個入りで、銀貨三枚ですね?』

 んー?

 額に指を当てて考えるケリー。

『一つ鉄貨一五枚? まてまて、そんなバカな。一つ銀貨一枚ではないのか?』

『日本円で百五十円ですからそんなものですよ?こっちの別メーカーなんて、一個銅貨一枚ですよ』

『20箱欲しい。どうにかならんか?』

『無理ですよぉ〜。通商条約がありまして、規定以上の数を持ち込むと税金がかかるんですよ?』


『それでも構わん。どれぐらいかかるんだ?』

『ちょっと待ってくださいね。三箱以上の場合は、一箱の値段が銀貨五枚になりますよ?それも通商許可証がないと無理ですし』

 だが、ケリーは諦めない。

 目の前に儲け話が積み上がっているのである。

『値段はまあいい。数だ。通商許可証はどうやって手に入れる?』

『それこそマチュアさんの担当ですよ。今回は諦めてくださいね』

 そう説明する赤城。

 ふと気がつくと、ワイルドターキーの姿がない。


『あら?ターキーさーん。何処ですかー』

 周囲を見渡すと、リカーショップでワイルドターキーが試飲に明け暮れている。

『おお、赤城さん。この世界の酒は実に美味い。これも買っていっていいのか?』

 少し鼻の頭が赤くなっているワイルドターキー。

 するとケリーもやってくる。

『ここは酒場か。いい香りだ、酒精も高そうだな』

 勧められたウィスキーを一口飲むケリー。

――グイッ‥‥

『‥‥ぷはー。赤城さん、これは何箱まで大丈夫だ?』

『ひ、一人二本まで‥‥』

 笑いそうなのを必死に堪える赤城。

『何と、ひとり二本しか買えないのか‼︎』

『もう。ターキーさんは護衛でしょ? 一緒に買い物を楽しまないでくださいよ』

『おう‥‥少しぐらいは楽しませてくれぃ』

 頭をパリパリと掻くワイルドターキー。

『では、それ以上は飲まないでくださいね。取り敢えず先にお会計しましょう?こちらですよ』

 荷物を抱えた異世界人二人。

 素直にレジに並んで順番を待つ。

 そして無事に会計を終えると、荷物を抱えて別の階へと向かった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



『へぇ。中々綺麗な装飾品だなぁ。これはどれぐらいするんだい?』

 三階の装飾品を扱っている店では、ゼクスとマーシャル・クロウ、カニンガム・バーンクラウスが品定めをしている。

 二人ともマチュアから渡された日本語マニュアルで少しは勉強したのだが、今はそれぞれに通訳が付いてきている。

 その都度事細かく通訳しながら、二人はどうやら商談を始めていた。

「このサイズですと‥‥十五万ですね?」

 装飾の施されたネックレス。

 小さいがダイヤモンドが散りばめられている。

 ケースの中のそれをじっと見ているマーシャルだが。

『十五万というと、金貨十五枚か。へぇ‥‥』

『なあマーシャル、それは高いのか?』

『ああ。この程度なら、ラグナの装飾品を扱っている商会なら金貨三枚だろうさ』

 通訳されたその言葉には、店員も驚いている。

「こ、これがそんな価値なのですか?」

『そうだよお嬢さん。因みに鑑定はできるかな?』

 ニイッと笑いながら問いかける。

「はい。専門の鑑定士がいます。こちらへどうぞ」

 そのまま買取コーナーに向かうマーシャルとカニンガム。

 その後ろを、ゼクスがやれやれという顔でついていく。


「こちらのお客様が、鑑定をお願いしたいということですが」

 店員が買取コーナーにいた壮年の男性に話しかける。

「はい、どちらでしょうか?」

『まずはこれとこれだな』

 ゴツゴツした指から指輪を二つ外すマーシャル。

『それなら、わしもだ』

 カニンガムは腰に下げている装飾の施されたダガーを外してみせた。

「では鑑定しますね‥‥と。ちょっと待ってくださいね」

 ルーペを外して電子測定器を持ってくる男性。

 そして機械で分析して値段を算出する。

 女性店員も興味があったらしく、その様子を眺めていた。

 そして約20分のち。

「ふぅ。ダイヤの価値だけなら5カラットでVS2、買い取りで760万。台座は未知の金属でちょっと無理ですね。こっちはルビーですか。10カラットで買い取り250万ですね。台座はなんですか?」

『おう、ミスリルだな。魔法処理もしっかりと施してある』

「それでですか。という事は、こちらのダガーもミスリル製ですね?まだ私たちの世界では価値が不明なので買い取れませんよ」

 そう説明されると、二人は満足そうに装備しなおす。

「異世界産ですか。もし買い取るなら事前に用意しますが、そのクラスのものが持ち込まれたのは初めてですよ」

『なるほど。宝石についてはこちらに持ち込んだ方が買取は高いか。魔法付与されたものはどうだ?』

 真面目に質問するカニンガム。

 すると、男性も困った表情になる。

「魔法は、その強度を計らなくてはならなくて。現在は異世界大使館で証明を出してもらわないと買取できないのですよ」

『異世界大使館というとマチュア殿のところか。なら安心できるな』

『ああ。済まなかったな。時間を取らせてしまって申し訳ない』

 丁寧に頭を下げるマーシャルとカニンガム。


「こちらこそ。因みにですが、そのサイズのダイヤモンドは結構手に入るのですか?」

 女性店員も興味本位で問いかけると。

『拳大ぐらいの原石が出る鉱脈はあるからなぁ。この指輪タイプは結構安く出回ってるぞ』

『白金貨一枚で釣りが出るわ』

 つまり百万以下である。

 日本に来ると価値は七倍である。

『折角だから、買い物をしよう。こういうのは記念だ‥‥と、これはなんだ?』

 ふと、腕時計に興味を示す二人。

「これは腕時計ですね。カナンには時計は?」

『ないな。これはどのぐらいの価値なんだ?』

 ぐるりとケースの中身を見渡して、懐中時計を指差す。

 すごく綺麗な装飾の施された時計である。

「これはアンティークもので12万。こっちはコレクション用で二万‥‥これはゲームのおまけのやつで5千円ですね」

 その金額にあまり動揺しない。


『『なら、これをくれ』』


 マーシャルが十二万のを、カニンガムは二万のを指差す。

「はい。支払いは金貨で?」

『ああ。金貨だと幾らになる?』

「そのまま金貨十二枚と金貨二枚ですね」

――ジャラッ

 あっさりと支払う二人。

 その場で身に付けると、かちゃかちゃと蓋を開閉して嬉しそうである。

『さて、ゼクス殿、次の場所に向かおうか』

 近くで集まってきた女性たちと撮影会をしていたゼクス。

『残念ながらタイムリミット。ホテルに戻る時間です』

 そう説明すると、近くの子達に挨拶をして二人の元にやってくる。

『おお、なら一度戻ろうか。明日はまた買い物に来れるのか?』

『そうですね。あとでスケジュールの調整しましょう』

 そう話してから、ゼクスたちはホテルへと戻っていった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 



 時間は夕方6時。

 ホテルの催事場を使った記者会見場には、今回の査察団の一行が集まっていた。

 ステージにはパルテノたち全員が座っており、記者会見が始まるのを待っていた。


――ゴホン

「それでは記者会見を始めます。まあ、大体のことは私が説明しましたので今更感満載なのですが」

 まずは笑いを取るマチュア。

 そのあとでマチュアが一人ずつ紹介すると、拙い日本語で挨拶をしていた。

 今回もKHKとHTN、アメリゴのABC放送が入っている。

 それ以外には新聞や雑誌の記者が集まっていた。


 マチュアが殆ど説明したのだが、シャルロッテは魔法学院について、マーシャルとカニンガムはギルドの仕組みについての質問を受けていた。


「異世界に行けば、私たち地球人も魔導学院に入ることができますか?」

魂の護符(プレートを持ち、寄付金を払っていただければ誰でも入れますわ。でも、言葉がわからないと難しいですわね?』

「魔法は簡単に学べますか?」

『理解しようとする意志があれば。まあ、落ちこぼれはどこにでもいますので、のんびりと学ぶ程度で宜しいのでは?』

 ドッと笑う記者たち。

「商人ギルドに登録すれば、商売はできますか?」

『登録料と税金を支払えば、誰でも商売はできる。こっちの世界の商品を持ち込めれば、金持ちになる事も難しくはないなぁ』

「つまり、今がチャンスですか?」

『そうだな。まあ頑張れ』

 そう説明すると。

『おいおい。こっちの世界の商品はうちでも取り扱うんだから、あまり安く売らないでくれよ?』

 ケリーが慌てて話しだすと、またしても会場が笑いに包まれた。

  その後も特に際どい質問が来る事もなく、平穏無事に記者会見は終了した。



 その後はレストランで楽しい食事会。

 バイキング形式なので、大使館員や政策局の人々も一緒に食事を楽しみつつ、明日以降のスケジュールの確認をしていた。

『明日はまたデラ・マンチャで仕入れだ。マチュアさん、早く通商許可証を発行したまえ‼︎』

 ワインを飲みながら、ケリーがマチュアに絡む。

『そうですねぇ。アルバート商会としても、早い発行を望みますよ』

 二人掛かりでマチュアを攻め始めるが、そんな事は対策済み。

『ほう。ここに二枚の通商許可証があるが。専売制を考えている』

『専売制?どういう事?』

『アルコール類、食品、雑貨、衣料、貴金属、その他。この6つの分野で、何処の商会がどれを担当するか。どれもこれもにすると、管理が面倒になる。どれにする?』

 そう二人に問いかけるマチュア。

『マチュア様‥‥一つの商会で一種はきつい。せめて二つでお願いします』

『そうだな。一つの分野を最大5つの商会限定で、それで二つの分野まで取り扱い可能にすれば良いのでは?どうしても他の商会に渡したくないとすれば、自分のところで二つ抑えてしまえば、あとは3枠しかないからライバルは減る。どうかな?』

 淡々と話し始めるケリー。

 だが、その方法は楽しいかも知れない。

『こういう話にはケリーは強いなあ。なら。ギルドランクで枠の上限を設定するわ。今のルールを叩き台にして、明日までに案を作れますか?』

 餅は餅屋。

 マチュアはマーシャルに相談してみる。

『ああ、難しくはないな。Sを5、Aが4、Bが3、Cが二枠まで取り扱い分野を取れるようにすればいい。その上で、各分野の取扱量は5つまで。そうすればSランクの10大商会なら、一つの分野を完全に独占可能になる。SS以上はこのルールに当てはまらず、自由に交易できる権利を持つ。これなら不満はあるまい』

 すぐにルールを作るマーシャル。

『成程。ではそれを叩き台にして書式化しますか。赤城さん、後で手伝って下さい。あくまでも仮施行という事ですので、後日変更になっても文句は言わないで下さいね?』

 そのマチュアの言葉にはケリーもカレンも文句は言えない。

『お任せします』

『ああ、うちもそれでいい。分野については、後ほど相談するかね?』

『今でも構いませんよ。アルバート商会としては‥‥』

 ケリーとカレンは商談モードに突入。

 ギルドマスターたちとパルテノも、食事を楽しみながら明日の話をしている。

『マチュア様、我々にも指輪を貸して欲しいのだが』

『通訳を挟むと、伝えたい事がちゃんと伝わっているか不安になる』

 そうマチュアに懇願するギルドマスターたち。

『ちょっと待って下さいね。数あったかな‥‥』

 空間から指輪を取り出すと、かろうじて三つ残っていたのでそれを渡す。

 ケリーにも一つ手渡すと、マチュアはすぐさま新しいのを量産し始める。

 ようやく全員が日本語を交わせるようになったが、通訳の仕事は終わらない。

 明日からは翻訳ではなく個々のアイテムの解説業務になる。 


「それで、明日のスケジュールですが‥‥」

 赤城がクリアパットを開いて説明を始める。

「明日は、今日に続いて商会巡りをしたいのだが」

「私も同意ですね。シャルロッテは?」

「一人で歩くのは危険なので、二人の商会巡りに付き合いますわ」

 この三名は明日も買い物三昧の模様。

「私達は街を散策です。その上で、気になった物がありましたら、そこを見学する方向で」

 ギルドマスターとパルテノの年長組は市内散策に決定。

「なら、明日は赤城さんとターキーさんがカレンたちの警備と引率で。ゼクスと私がパルテノに付きます」

 これでよし。

「ま、マチュア?妾の事は?」

「ストームと出かけるのでは?」

「あ、俺は明日は用事があるので別行動だな。大使館から一人付けてくれ」

 そう告げるストーム。

「あ、それならシルヴィーは私と一緒に行きますか?」

「うむ。喜んで付いていこう」

 にこやかに話すシルヴィー。

 ならば。

「赤城さん、明日の朝一で一人都合つけて。ストームの同行者、出来れば市内の剣道場とか居合やってる道場のリストも用意してもらって」

 そう話すと、ストームはマチュアにサムズアップ。

 赤城はすぐにブレスレットを起動して、誰かと話を始めた。


――ニイッ

「よくわかったな。俺が何をするのか」

「まあな。すぐにピンときたよ。適当に遊んで来いや」

「何ならHTNに電話して、報道つけるか?」

「それはいらん。面倒臭いわ」

 そんな話をしていると。

「マチュアさん、明日8時にホテルに一人来てもらうように話通しました」

「どっち?」

「高畑さんにお願いしました。十六夜さん達なら仕事になりませんので」

 よし、ナイス判断。

 ストームのファンを引率につけてはいけない。

「という事だ、明日は高畑さんと一緒に出かけて来い」

「あの子か。ゼクスじゃなくて悪かったかな?」

「ゼクスにあの子をつけたら仕事にならんわ。適材適所だよ」

 そんな打ち合わせをしつつ、食事会は終わる。

 この後はフリータイムだが、一旦スイートルームに戻ると、ホテルの外に出る時は誰か職員を同行させるようにと説明するマチュア。


 ‥‥‥

 ‥‥

 ‥


「それじゃあ私は皆の集まるこの部屋にいますので、何かあったら連絡くださいな」

「わかりました。まあ、私は今日は疲れたのでもう少しで寝ることにしますね」

「我々もだ。飲みに行きたいが、今日はやめておくことにしよう」

「私はマチュアさんと先程の話を詰めますか。商会の割り当てももう少し細かくしたい所ですからね」

 パルテノとカニンガムは睡眠。

 マーシャルはマチュアと仕事の打ち合わせ。

「俺は銀富士行ってくるが。誰か来るか?」

「なら私もご同行しますわ」

「俺もだ。異世界の飲み屋ならついていこう」

「うむ。これでようやく酒が飲めるのう」

 ストームとカレン、ケリー、ワイルドターキーはススキノに繰り出すらしい。

 あんたら元気だわ。

「ゼクスは?」

「私はこのフロアの警備ですね。猫の子一匹入れませんからご安心を」

 そう告げる最強の警備員がいるので、とりあえずは満足である。

「して、シルヴィーは‥‥寝とるぞ」

 マチュアの横で、椅子に沈みながら眠っているシルヴィー。

「仕方ないなぁ。この部屋のベッドに置いとくか。私もいるから大丈夫でしょ」

「そうですね。シルヴィーを見ててあげてください」

 パルテノがマチュアに頭を下げるので、マチュアは笑いながらシルヴィーをベッドに運んだ。

 そんな光景を、赤城は不思議そうに見ている。


「ん?どうしたの赤城さん。私の顔に何かついてる?」

 キョトンとしている赤城に、マチュアは軽く声をかける。

「い、いえ、なにか不思議で」

「不思議と言いますと?」

「ここにいる皆さんって、異世界では国王だったりギルドマスターの頂点だったり、10大商会の方だったりと、名士と呼んでも問題ない地位の方ですよね?それなのにマチュアさんに敬語って‥‥」

 淡々と語る赤城。

 それにはシャルロッテも同意したらしく頭を縦に振る。

「そうですわね。一介のギルドマスターに対しての礼節ではありませんわ。何かこう‥‥何と言っていいのかしら?」

 そう話していると。

 赤城とシャルロッテを除く全員がマチュアを見る。

「何じゃ、まだなのか?」

「異世界ギルドは全員知っているのに、何で大使館には話してないのですか‥‥」

「そのうち話ししようと思ったんだけどね‥‥何かこう‥‥まあいいわ」

 そう話すと、マチュアは赤城の前に立つ。

「赤城さん、今から見る事はまだみんなには秘密ね」


――シュンッ

 一瞬で装備を女王モードに換装する。

 すると、赤城とシャルロッテは目をキョトンとした。

 ついでにケリーもガクガクと震えている。

「ちょ、ちょっと待ってくれ‥‥マチュアって、ミナセ女王だったのか?」

 震えながら呟くケリー。

「あ、あれ?ケリーは知らなかったっけ?」

「初めて聞いたわ。いや、聞きました。ですが、マチュア様とミナセ女王が一緒にいるのを何度も見ましたか」

「あれも私でこれも私。まあ、そういう事という事で‥‥うわぁ、赤城さんが気絶してる‼︎」

 全身の力が抜けて崩れる赤城。

 それをストームが抱きかかえてベッドに運び込む。

「あ、あの、マチュア女王とお呼びして良いのですか?」

 シャルロッテは恐る恐る問いかけると。


――シュンッ

 マチュアはすかさず装備を戻す。

「この状態の時はマチュアさんで。カナンには私の代行を務めるミナセ女王がいるのよ。今は統治も全て任せているけど、オリジナルの女王は私ですよ」

 そう説明してなんとか落ち着くシャルロッテ。

「そ、そうですか。わかりましたわ‥‥ちなみにですが、マチュアさんは昔、私とお会いしたことありませんか?」

「ないなぁ。バイアス連邦行った事ないんだよねぇ」

 しみじみと語るマチュア。

 残念だが、シャルロッテの知っているマチュアはゼプツェンである。

「そうですか。それならそれで」

「しかし‥‥そうか、それなら、今のこの状態を理解できる。数々の非礼、済まなかった」

「謝らなくても。今は商人のマチュアですから良いですよ」

「そうか。なら俺もいつも通りで行くぞ」

「願ったり叶ったりだね」

 ニイッと笑うマチュア。


――スッ

「さて、それじゃあ俺達は飲みに行くわ。また明日な」

「おう、気をつけて行ってこいよ。ターキーさんは飲み過ぎないように」

「自信ないのう‥‥では」

 カレンも手を振って部屋から出て行く。

 そしてパルテノたちもゼクスが護衛でついて行ったので、後は任せてマチュアは打ち合わせを始める事にした。


 ‥‥‥

 ‥‥

 ‥


 深夜1時。

 赤城はゆっくりと目を覚ました。

 皆が集まっていた部屋のベッドの上で、ゆっくりと体を起こす。

「ふむふむ。これなら平等で良いのでは?」

「シルヴィー様がそう言ってくれるのなら。後は明日にでもマチュア様から告知していただければ宜しいかと」

 シルヴィーとマーシャルが通商に関するルールの確認をしている。

 マチュアは後ろで仮眠を取っていた。

「あ、あらら。私ここで眠ってしまって‥‥」

 ベッドから降りてシルヴィーたちの元に来る赤城。

「おや、気がついたか。マチュアが心配していたぞよ」

 傍のポットからハーブティーをカップに注ぐと、それを赤城に手渡す。

「シルヴィー女王自ら、ありがとうございます」

「よいよい。銀富士で一緒に飲んだ仲ぢゃ。さん付けでよいぞよ」

「はい」


――ズズズッ

 ゆっくりとハーブティーを飲む。

 すると少し心が落ち着いた。

「のう、赤城はマチュアが女王だと困るか?」

「い、いえ、あの、どうして良いか分からなくて‥‥」

 そう話す赤城。

「マチュア様が女王なのは本当ですか?」

「うむ。じゃが、これには訳があってなぁ‥‥」

 そう話すと、シルヴィーは自分の知っているマチュアの事を全て話した。


 初めてあった時の事。

 幻影騎士団を結成した時。

 大武術大会でシルヴィーを助けた事。

 そしてラグナ・マリアを救うためのボルケイドとの戦い。

 少しの平和ののち、魔族の侵攻とティルナノーグの解放、それらを平定した事。

 それが終わって、マチュアは女王になった。

 だが、幻影騎士団として、賢者としての勤めも果たさなくてはならない。

 そのために自らの分身体を作り国を預けた事。

 そしてウィル大陸に侵攻しようとした北方の脅威の排除。

 そののち、バイアス連邦がラグナ・マリアに進軍を開始。

 そのときの戦いで、竜王と一騎打ちを行い死んだという事実。

 10年戦争の最後にマチュアは再び蘇り、竜族の侵攻を止め、平和を取り戻した事。

 そして、マチュアは異世界に転移門ゲートを開いた。

 そこからは、赤城の知る歴史である。


――ボロボロ

 大粒の涙が赤城の頬を伝う。

「そんな‥‥そんな事って。前に話していた勇者の話って、事実だったのですね。それもマチュアさん本人だなんて」

「だから、マチュアが女王の姿ではない時は、いつもの友達として接しているのぢゃ。畏まられるのは嫌いなのぢゃよ。だが、その真実を知ってもやはり無理な者は無理らしい。赤城に話したのは、マチュアにとっても賭けだと思うぞ?」

 シルヴィーがそう説明すると、マーシャルも話を始める。

「恐らくは、マチュア様は大使館の人には話したくなかったんでしょうね。だから一年経ってもずっと商人のマチュアのままだったのです。恐らくはこの先も、話はしないでしょう」

「私は‥‥私にとっては、マチュアさんはマチュアさんなんですよ。仕事で無茶も言いますし、キツく怒られた事もあります。けれど、マチュアさんなんですよ‥‥」


――コクリ

 静かにシルヴィーは頷いた。

「うむ。今日の事は、赤城の心の中にしまっておいてくれぬか?それが一番いいと思うぞ」

――ポンポン

 そうシルヴィーが話すと、ふと、後ろから赤城の頭をポンポンと叩くものがいる。

 慌てて振り向くと。

 そこにはマチュアが立っていた。

「そうしてくれると助かるなぁ。お願いね」

 ニイッと笑うマチュア。

 すると、赤城はマチュアに抱きついて泣いていた。

「‥‥そうそう、赤城、マチュアはな、男には全く興味がないが女の子は大好きぢゃからな。気をつけるのぢゃフベシッ」

――スパァァァァン

「確かに否定はしないが、まだ誰にも手をつけてないやい‼︎」

 そう笑うと、マチュアは赤城にハリセンを手渡す。

「アニメイト‥‥オーナー権限を赤城に譲渡。これあげるから、いつでも突っ込んでおいで」

「ふぁい‥‥凄すぎます。マチュアさん。いっぱい世界救って。国も纏めて、それで‥‥異世界まで‥‥」

「よしよし。今はいいけど、明日になったらいつも通りに。約束ね」

「はい‥‥一つ聞いていいですか?」

「ん?」

 ふと、赤城は頭の中をよぎった言葉を紡いだ。


「マチュアさんの幸せって、なんですか?」


「幸せ‥‥さあ?みんなが笑える世界。それかなぁ」

「それはみんなの幸せじゃないのですか?」

「みんなの笑顔を見れるのが私の幸せだよ。楽しい事をして、好き勝手生きている私にとってはそれぐらいかなぁ」

 その言葉には、シルヴィーやマーシャルもコクリと頷いている。

「妾は幸せぢゃよ。そのうち子供が生まれて、その子がまた子供を産んで‥‥それでもマチュアは、妾達の近くでみんなを見ていてくれる。マチュアと別れるのは寂しいが、その時は笑って逝けそうぢゃ」

「今から死んだ後の事話さない。無理やり蘇生するか、肉体改造するわよ?」

「それ勘弁ぢゃ‥‥」

 笑いながら告げるシルヴィー。


「では、私はこれで。今日はお疲れ様でした」

 赤城が頭を下げる。

「はいお疲れ様。朝一で、そこの纏めた書類を清書して、十部ずつコピーして綴じておいて‥‥」

「ふぁ?」

「気絶していたぶん、しっかりと働け。では私はまた飲むので」

 そのマチュアの言葉で、シルヴィーもジュースの缶を開ける。

 マーシャルもビール缶を開けると、マチュア達と乾杯して飲み始めた。

「わ、私も一杯頂きます‼︎」

 赤城もそう叫びながらビール缶を開けると、再度乾杯して飲み会は再開した‥‥。

 

 そこには、赤城の知っているいつものマチュアがいた。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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