地球の章・その9 異世界からキター
朝一のファックス対応。
先日の『水曜どうだろう?』放送翌日の朝。
異世界大使館には、大量の申請書類や企画資料が送られていた。
年長組である三笠とマチュアは応接間の横にある、三笠とマチュアで作った炬燵エリアでファックスの仕分け、それを職員たちは受け取って電話連絡とファックス対応を行っているのだが。
「ま、マチュアさん、これ断るのですか?」
吉成が突然マチュアに問いかける。
「これってなに?」
「ラノベのアニメ化企画ですよ。その資料を集めに異世界に取材に行くっていうの。私、これのファンなんですよ?」
「取材なら一般申請通ってから普通に行けと言いたい。そもそもどんな作品なのかも知らないわよ?」
笑いながら問い返すマチュア。
「現代のカップルが突然異世界に行って離れ離れになるっていう話ですよ。それが神の与えた試練で、のちに二人は再会して数々の英雄譚を作っていく‥‥今は第四部で、封印された竜族が魔族に解放されて、世界が危機に‥‥」
なんだそれ?
舞台はラグナ・マリアか?
「はぁ?どっかで聞いたような話だなぁ。カリス・マレスの英雄譚になかったかな?」
「あるのですか?」
「そもそも、私の住んでるラグナ・マリア帝国が、異世界から来た英雄ラグナと亡国の姫巫女だったマリアの二人が建国した国なんですから。それが2000年前、そのあとは1000年ごとに異世界から勇者が来て世界の危機を救っているのよ?」
その説明に吉成はワクワクしている。
「と言うことは?今が丁度勇者がやってくる時代ですか?」
「あーはいはい。そろそろ仕事。もう今の時代の勇者伝説は終わったわよ。異世界じゃない勇者ですけどね?」
「そ、それは。一度会いたいですよ」
「そうだなぁ。俺も会いたいなぁ‥‥」
そんなことを言うのなら。
「今の時代の世界を救ったのはストームとミナセ女王よ。世界最強の剣聖と賢者。それと二人の配下の幻影騎士団。各国の騎士や冒険者も立ち上がって世界を滅びの道から救ったのよ?」
――ガーン
「まさか間近に伝説の勇者が。それもストーム様だなんて‥‥私、異世界に移住したい」
「くっそぉぉぉぉ。ただの剣聖で王様かと思ったら、伝説の勇者のおまけ付きかよぉぉぉぉ。リア充めぇぇぇぇ」
吉成と高嶋の絶叫が事務室に響く。
「ちなみに、あちらのマチュア様ではなく、こちらのマチュアさんはそう言う伝説ありますか?」
十六夜がそう問いかけると。
「冒険者やって10年ちょいで財を成して、宿屋兼酒場作って儲かった金で錬金術始めて、その功績で異世界ギルド責任者になってイマココだけど?」
「あ、意外とコツコツ主義ですね?」
「まあ、その気になれば、こっちでも一千億ぐらいすぐ稼げるけど?絨毯五十枚ちょい売るだけだから」
その言葉にも衝撃を受ける一行。
「そ、そんなに儲かりますかぁ」
「あのね、クリアパット一枚でも、サウスアラビアの皇太子は一億で買うって行ってたからね。絶対に転売しないでよ?」
とりあえず念を押すマチュアだが。
「ホビーフェアで販売した鎧騎士、今はヤホーオークションで一体150万ですよ。あちこちのサイトでも異世界関連商品の高価買取りとか凄いんですから」
高畑がクリアパットで画面を表示すると、それをマチュアのパットに転送する。
それを見て、思わず吹き出す。
「ありゃあ。空飛ぶ箒、二千万超えてるよ。しかも売りますのコーナーにもあるわ、偽物」
「偽物ですか?」
「本物は私が管理していてね、魔力を確認すればすべてわかるのよ。オーナー権限は全て持ってるから」
「じゃあこれは?」
「どれどれ。『異世界カナンで購入した箒です。分かる人にはわかりますよね? あなたの魔力次第です‥‥』か。うん、同じ道具屋の箒だけど、偽物だね」
はっきりと分かる偽物。
魔力のかけらもなにも見えない。
「これは購入しても、あなたの魔力が足りないだけですねって言われたらそれまでですよね?」
「そうだねぇ。嘘は書いてないから悪質だなぁ。通報ボタンポチっと」
画面の通報ボタンを押すマチュア。
「先程、同じ道具屋って言いましたけど、マチュアさんの箒って、そんなに簡単なのですか?なんかこう、樹齢千年の世界樹の幹からとか、月の雫をあつめたなんとかとか、そんなレアリティの高い材料じゃないのですか?」
高畑が問いかけると、マチュアは炬燵から出て掃除用具からモップを持ってくる。
「例えばねぇ‥‥」
魔導制御球を取り出して手に取ると、静かに詠唱を開始する。
「アニメイト起動。浮遊と風の制御、飛翔を付与。制御は魔力にて行う‥‥。安全灯のセット、意思とリンク‥‥オーナー権限は私に、サブは大使館員に‥‥」
やがてモップが輝くと、静かに光がモップに吸い込まれる。
「はい、空飛ぶモップの出来上がり。登録票を発行してナンバープレートもセットしておいて。古屋くん、これ登録したら書類を国土交通省にファックスしておいて」
「はい。ではすぐに」
すぐさま申請書を用意する古屋。
「あ、あの、マチュアさん‥‥これ飛ぶの?」
「乗っていいわよ。大使館員なら誰でものれるから、休憩時間にでもね」
マチュアが横座りで浮遊すると、掃除用具箱まで飛んでいってしまう。
「そんなに簡単に作れるのですか‥‥」
「ほほう。高嶋、今のが簡単なら作って見なさいよ。カリス・マレスでもこれを作り出せる錬金術師は私一人なんですからね。この技術を作り出すために、どれだけの苦労したと思っているのよ?」
まだミアではここの域には達していない。
ミストなら作れるはずだが、そう言っておくと安全である。
「10年ぐらいですか‥‥」
「発想で1時間、実践で‥‥1年ぐらい?」
「意外と早いや‥‥でも、これ売り出せば儲かるのに‥‥」
「そうだねぇ。だから、しっかりと取り締まらないとならないのよ。使い方次第で本当に危険なんだから」
そう話すと、再び一行は仕事を再開した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
北海道庁赤煉瓦庁舎。
その外にある転移門の収められている建物。
異世界との国交が締結されてからは、連絡用と観光用にしか利用されていない。
異世界に行くには、利便性も考えて『新千歳空港』に観光用転移門が設置された。
現在は異世界政策局から職員が派遣され、観光客対応を行っている。
そして今。
赤煉瓦庁舎前の転移門の前では、マチュアが絨毯に乗ってのんびりと待っている。
周囲には許可を取った報道陣が15社、敷地外には大勢の報道陣と異世界から来る来客を見たい人々が大勢集まっていた。
――ヒュウゥゥゥゥッ
突然転移門が虹色に輝くと、中からゼクスが姿を表した。
「「「「「きゃ〜、ゼクス様ぁぁぁぁ」」」」」
敷地外から聞こえる黄色い悲鳴。
ゼクス様歓迎と書かれた横断幕まで作られている。
「今度からお前来るな。なんか嫌だ」
「はっはっはっ。ミナセ女王の命令ですのでお断りします。さて、カナンより第一次査察団をご案内しました。ここからは宜しくお願いします」
淡々と告げるゼクス。
「はいはい。ゼクスは護衛?」
「ええ。査察団の護衛補佐です」
「補佐?」
マチュアが頭を捻ると、転移門からワイルドターキーがやってきた。
「うおう、空気がまずいぞ。こんな所によく来るのう?」
「おや、ターキーさんかい。お疲れ様」
「これはマチュア殿、儂が今回の護衛を務める事になったぞ。ポイポイは最後まで来たかったらしいが、わしの勝ちじゃ」
どんな勝負したんだよ。
そう突っ込みたいがカメラがある。
いまは我慢。
「では、これが書簡ぢゃ」
「ほいほい。全部で八名ですね」
――スッ
突然シルヴィーが正装で姿をあらわす。
そしてカメラに軽く会釈すると、ニッコリと微笑んだ。
画面の向こうのお兄さん達はこれでノックアウト。
クスッと画面に向かって笑う仕草を見せるなど、シルヴィーもノリノリであるが。
「あ〜、あれ教えたの十六夜さんだな。後で絞めるか」
そんな事を呟いていると。
次は純白の法衣に身を包んだパルテノ・ラグナ・マリアが現れた。
清楚さを漂わせる大人の女性。
これで画面の向こうのおじさまもノックダウンであろう。
さらに商人枠として元気な女性枠のカレン・アルバートと、ワイルドおっさん枠ケリー・ガストガルも姿を現した。
「おおおおお、何だここは?ここが異世界かぁ」
「ええ。自然が少ないのが残念ですが、中々楽しいですわよ」
感慨に耽るケリーと、既に何度も来て慣れているカレン。
「ふん。異世界といっても大したことはありませんのね?」
転移門を超えてなお強がるのはフリードリヒ魔導学院の学院長であるシャルロッテ・ベルファーレ。
彼女もどうやら選ばれたらしい。
画面の向こうで、本物の金髪縦ロールに驚くもの達もいるだろう。
「ラグナ王家から二人、商人から二人、魔導学院からは一人。あとは?」
――スッ
「俺だが何か?」
英雄枠というわけではないが、剣聖モードのストーム・フォンゼーンが姿をあらわした。
『ストームmk2じゃなく本人かよ。お前何してる?いつでも来れるだろうが?』
『い、いや、それがな。剣聖さまもぜひ異世界に行ってきてと国民に後押しされたので‥‥なんか色々とすまん』
『まあいいわ。お前なら大体分かるだろ?しっかりと護衛しておけよ。一人で銀富士に飲みに行くなよ?』
『お、おう‥‥』
念話で会話を終えるマチュアとストーム。
その雰囲気から、銀富士が目的なのは明白である。
このあとはラグナ・マリア王都の商人ギルド総括であるエルフ枠のマーシャル・クロウと冒険者ギルド総括のドワーフ枠、カニンガム・バーンクラウスも姿を現し、かなり豪華な査察団となった。
しっかりと老若男女タイプも異なり種族も違う。
選択したのはマチュアではなく異世界ギルド。
ここまでよくぞ揃えたものである。
「それでは‥‥まずは宿泊地へご案内します」
「ふん。たかが酒場の主人が、随分と偉くなったものだなぁ」
ケリーがマチュアにそう呟くと。
「異世界通商許可証いらないのかよ?あれ発行するの私だぞ?」
「‥‥くれるなら貰ってやる」
「このツンデレバロン髭が、覚えてろよ?」
「異世界大使館の長は公私混同しないのだろう?」
「うるせぇ。普通に公私混同しまくってるわ」
そんな話を大陸語で交わしたのち、一行は送迎のリムジンに乗って中島公園にあるロイヤルパークスホテルに向かった。
‥‥‥
‥‥
‥
ホテルのスィートルームに案内すると、まず一行は荷物を降ろして一休み。
フロア一つ丸ごと借り切ったので、かなり自由度は高い。
異世界政策局からも通訳担当がやって来ており、ほぼ一人に一人。通訳が待機している。
今は、皆が集まって話ができるように用意された大きめのスイートルームに集まってティータイム。
マチュアがティーサーブして全員をもてなしている。
「しかし、通訳を使わなければならんとは不便じゃのう」
「まあ、ターキーやカレン、シルヴィーはギルドで学んで来たから問題はないが、他国の人々は初めてなのだから仕方ないだろう?」
ストームがターキーにそう説明する。
異世界ギルドの転移門監視任務でちょくちょくやって来ていたワイルドターキーは、職員たちから日本語を学んでいる。
ストームは問題なし、カレンも日常会話は大丈夫。
シルヴィーはマチュアから貰った双方向翻訳指輪をつけているので、完璧である。
「さて。6時から記者会見だってさ。色々と面倒臭い奴がいるから、気をつけてね?」
「そうなのか?」
「まあ、大丈夫だとは思うけど。どうかな?そういうのはストームに任せるから好きにして」
物騒なことを言うマチュア。
ストームもふむふむと納得している。
「いま何時ぢゃ?」
「まだ2時。あと4時間もあるわ」
壁の時計を眺めながら、マチュアがそう告げる。
「ほう。これは魔道具かな?」
「だとするとすごい技術ですね」
ギルドマスターたちは、あちこちを楽しそうに見て回っている。
「ふぅ。ゼクス、二人を案内してあちこち見て回って」
「了解です。それでは参りましょうか」
と言うことで、ゼクスに案内されてギルドマスターたちは移動開始。
「手が足りないか。あと一人欲しいわね‥‥」
あと六人を相手しないとならない。
ストームとカレン、シルヴィーはワンセットでストームに任せても問題ない。
となると、パルテノとケリー、シャルロッテの相手をせねばならぬ。
ここのガードはワイルドターキーで問題ないが、さすがにパルテノはマチュアが相手をしておかないと危険である。
――ピッ
腕のブレスレットを起動して三笠に連絡するマチュア。
『はい三笠です』
『マチュアです。腕の良い護衛兼案内役を一人お願いします。中島公園のホテルに急ぎで』
『了解しました』
そう話してから、マチュアはパルテノたちの元に向かう。
『さて、パルテノ様、何か見たいものはありますか?』
『街の中をのんびりと見て回りたいですねぇ。異世界というものがどんなものか興味がありますから』
『私もそうね。文化を学びたいわ。この世界は魔法ではなく科学というものがあるのでしょ?科学を学んで帰りたいわ』
パルテノに続きシャルロッテもそう告げる。
『俺は物流。商売をしているところに案内して欲しい』
『ケリーは相変わらず商売一筋ですねぇ』
『商人が商売を忘れてどうする。この世界にはあるのだろう?大きい商会が』
淡々と話すケリー。
『ブレないなぁ。本当にブレない。まあ、ケリーのその姿勢は嫌いじゃない。商売では嘘つかないならなぁ。かなり強引だけど』
『褒め言葉として受け取っておく。それで、いつ頃出かけるのだ?』
腕を組んでそう話すケリー。
『もう一人案内役が来ますので、暫しお待ちください。私一人では、手が足りない』
そう説明すると、やがて大使館から援軍がやってくる。
――ーガチャッ
『お待たせしました。ガイドとして来ました赤城と申します』
堂々とやってきた赤城。
ならば話は早い。
『赤城さんはワイルドターキーご存知よね?』
『ええ。ギルドでお世話になりましたので』
『異世界ギルドでもよく会っていたからのう。久しぶりじゃな』
にこやかに握手する赤城とワイルドターキー。
『なら、赤城さんとターキー、ケリーで一組になって行動して。17時半までは自由なので、『デラ・マンチャ』に連れて行ってあげて』
デラ・マンチャは全国チェーンの激安の殿堂を名乗る大型ショップ。
なんでもあるし、なんでも揃う。
真央の世界ではドン・キホーテというのだが、、こっちではなぜかデラ・マンチャ。
そこがケリーに最も良いところと判断した。
『わかりました。それでは行きましょうか』
『では、よろしくお願いしますね、お嬢さん』
渋いドワーフとワイルドな中年に囲まれて卒倒しそうな雰囲気の赤城。
『で、ではしゅっぱーつ‼︎』
掛け声一線、三人で外に出て行った。
『では、私たちも行きますか』
『ええ。どちらまで』
『狢小路なと。この都市に古くからある商店街だそうです』
『へぇ、楽しそうね、ではついて行ってあげるわ』
シャルロッテも満更ではないらしい。
という事で、マチュア達も一路、狢小路に向かう事にした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
札幌・大通りからススキノに向かう途中にある狢小路。
一丁目から始まって、実に10丁目まで伸びるアーケード街である。
左右には市内でも有数の老舗が並び、この通りならば大抵なものが賄うとまで言われている。
狢小路0丁目、俗に言う二条市場では水産物を扱う商店があり、ここから観光客はアーケードを眺めながら10丁目まで向かう。
マチュア達も習って一丁目からのんびりと歩き始める。
やがて大手靴屋の前でパルテノとシャルロッテが足を止めた。
『ふぅん。この世界の靴って不思議な形しているわね。布製で、底には別の素材が貼り付けてあるのですか』
外のワゴンに並んでいる靴を手にとって眺めるパルテノ。
『一つ買ってみては?予算はありますからお好きなものをどうぞ?』
そうパルテノに話しかけると、すでにシャルロッテは店内で靴を物色している。
『こ、これが金貨四枚?こっちは銀貨九枚‥‥なんて高級な靴なのですか?』
店員に身振り手振りで値段を聞いて絶句している模様。
「カナンの方ですか。私達の言葉はわかりますか?」
『????』
どうやら言葉の壁がある。
『パルテノ様、この指輪つけてください。言葉が理解できますから』
――スッ
そっと指輪をつけるパルテノ。
「へぇ、この指輪もマチュア様が?」
「あのー、パルテノ様、私に様つけないでくださいな。さん付けで大丈夫ですよ?」
「あら、こっちではそうなのですね?これは失礼」
慌てて口元に手を当てて笑うパルテノ。
『ま、マチュアさん、言葉が通じなくて困ってますわ、早く通訳してください』
『あ〜、待て待て。シャルロッテにもこの指輪を貸すからつけなさいな。これで言葉が通じるから』
――ポン
と指輪を渡す。
それを言われた通りにつけると、シャルロッテも耳に入ってくる声が理解できるようになった。
「あ〜、あっあっ、私の言葉がわかるかしら?」
そう店員に話しかけると、店員達もにっこりと笑う。
「ええ。大丈夫ですよ」
「そう。私の足に似合う靴はあるかしら?少し丈夫な革製で、足が疲れないものが良いわ」
フフンと問いかけるシャルロッテ。
それではと、店員も次々と靴を用意する。
「‥‥あっちは店員に任せて良いか。シャルロッテ、靴の予算は金貨二枚まで。それ以下にして下さいね?」
「自分の小遣いぐらいありますわ‼︎」
「ありゃ失礼。ではパルテノ様もどうぞお気軽に見てください」
それではと、パルテノも店内を見て回る。
一人の店員がパルテノに付いて、色々と相談を受けているようだ。
「あの、マチュア様は何か入り用はありませんか?」
一人の店員が問いかけるので。
「でしてら、足のサイズは24、裏地はクッション性の高いスニーカーをください」
きっぱりと告げる。
「あら?パンプスとかではなく?」
「カナンに戻ったら、パンプスなんて履いてたら草原とか走れないし戦えないわよ。スニーカーは便利ね、装甲がないのがちょっと惜しいけど」
笑いながらそう告げると、店員も少し丈夫なスニーカーを持ってきた。
「異世界にはヒールの高い靴はないので?お客様たちが選ぶのはみなローヒールの靴ばかりですし、丈夫さを最優先されますよ」
「一度買ったら、履き潰すからねぇ。魔法で耐久性あげる人もいるし‥‥」
「では、あちらの方用のコーナーでも作りますか?」
「作ってくれたらお勧めするわよ。あら、これは軽くていいわ。おいくら?」
「一万二千円なので、銀貨十二枚で大丈夫ですよ?」
「手数料は?」
「すべて込みです。異世界関連法案での消費税や手数料の扱いは、すべて込みの価格でとなってますので」
ならばとジャラッと銀貨を支払う。
「マチュアさん、私はこれが」
「私はこれを買いましたわ。どうかしら?」
パルテノが選んだのは編み上げのロングブーツ。
シャルロッテはローヒールのパンプスを買って履いている。
「「強度が少し心許ないですが、これはこれで」」
揃いも揃って頑丈さを求めるかい。
「では、パルテノさまの分は私が出しますね。シャルロッテさんは自前?」
「ええ。銀貨四枚でしたわ。綺麗なデザインで気に入りましたわよ」
「ではこっちのロングブーツは‥‥はい、これで」
すぐに支払いを終わらせると、また歩き始める三人。
途中でクレープ屋があったので買い食いしたり、ゲームセンターでUFOキャッチャーを楽しんだり。
流石に両替機ではカナンのお金は両替できないので、それはマチュアが支払ってあげた。
いくつかヌイグルミをゲットして満足な二人。
やがて駅前通りに近づくと、二人は角にある建物が気になったらしい。
「ここは何を扱っている商会ですか?」
「人が大勢いますわ。女性が多いですわね」
ああ、デラ・マンチャか。
「ここはデラ・マンチャと言いまして。何でも売ってる激安の殿堂です」
その言葉にふらふらと店内に吸い込まれていくパルテノとシャルロッテ。
平日にもかかわらず、大勢の人混みである。
あちこちから黄色い悲鳴が聞こえるのは、どうやら何処かにゼクス達も来ているらしい。
「ま、マチュアさん、この良い香りは何ですか?」
「私も興味ありますね。ここは何を商いしているのですか」
一階は女性用の様々な化粧品が取り扱われている。
ならばと、マチュアは一つずつコーナーを回って化粧品の説明をしているのだが。
最初は何も持っていなかった二人だが、いつのまにかカゴを持ち、中に様々な化粧品が入っている。
途中で店員が気を利かせてカゴを持って来てくれたらしい。
「‥‥いつのまに?」
「ええ。マチュアさんと一緒に説明してくれた店員が勧めてくれましたので」
「ホ――ーッホッホッホッホッ。私もこの美貌を保つためには、労力やお金など惜しみませんわ」
久しぶりのシャルロッテの高笑い。
もっとも、マチュアはシャルロッテの事など知らない。
知っていたのはゼプツェンである。
「まあ、カナンでは手に入らないものばかりですからねぇ。こんなの持って帰ったら、貴族や王族の女性が血眼になりますよ?特に石鹸やシャンプー、リンス、コンディショナーは、〇コーダさんもオススメですよ」
笑いながら告げるマチュア。
「〇コーダさんとは?」
「まあ、吟遊詩人の物語に出てくる、伝説の商人ですよ。異世界の商品で財を成した冒険者?」
知ってるのはマチュアとストームだけだろうが。
「へぇ。これがそんなに凄いのですか?」
そう首を捻る二人だが。
一人の店員が自前の長い髪をフワサッと広げて指ですくい上げると、二人は慌てて追加購入した。
まあ、気持ちは分からなくもない。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






