地球の章・その7 国連なんて知らないです
アメリゴ・ニューヨーク。
マチュアと高畑はニューヨークのシティバンクで円をドルに交換する。
万が一を考えて、大金はマチュアが空間に放り込み、二人はそれぞれ日本円で3万円程度、$300を現金で持つ事にした。
あらかじめ予約していたホテルにチェックインすると、明日の昼までの一日の休暇となった。
「マチュアさん、この後は?」
「フリータイム。何処でもお好きにどうぞ」
あっけらかんと言われると、高畑も頭を捻ってしまう。
いきなりアメリゴに来て、いきなり休みが貰える。
学生時代に卒業旅行で来た事はあるが、それから数年経っている。
『はい、ミスエルフ、観光かな?』
刺青マッチョがマチュア達に話しかける。
『明日の午後からはビジネス。今はフリーよ』
『へぇ。その耳は本物?』
『ええ。私はハイエルフだから。ファンタジーの世界から来たのよ?』
そう話すと、ようやくマッチョも理解したらしい。
『ニュースで見たよ、本物のファンタジーの住民だろ?握手してもらっていいか?』
――ガシッ
素早く握手するマチュアとマッチョ。
『そっちのお嬢さんもお友達かな?』
『ええ。マチュアさんの部下ですよ。久しぶりにニューヨークに来たのですけど、美味しいお店をご存知かしら?』
高畑も臆することなく話し始める。
このあたりは慣れたものである。
『そうだなぁ‥‥この先のマジソンスクエアまで行くと、いい店があるな、ちょっと待っててくれるか?』
スマホを取り出して高畑に説明するマッチョ。
すると、マチュアの近くに歩いて来た男が、マチュアの杖を取り上げて走り始めた‼︎
「幽体騎士っ!!」
――シュンッ
高畑が叫んだ刹那、彼女の体から鎧姿の騎士が飛び出して泥棒の襟首を捕らえた。
『お、おう、私より早い‥‥』
マチュアも目の前に拘束の矢を浮かび上がらせていたが、それを飛ばすよりも高畑の方が早かった。
『盗んだ杖を返して頂ければ手荒な真似はしませんよ』
必死にもがく泥棒。
だが、マチュアは拘束の矢を泥棒の影に飛ばし、そのまま影を縫いつけた。
全身鎧の騎士に捕らえられ、更に影を縫いとめられて泥棒もやむなくギブアップ。
――フォンフォン‥‥
やがて遠くからニューヨーク市警が駆けつけると、マチュア達は駆けつけた警官に泥棒を引き渡そうとした。
だが、その泥棒の様子に思わず身構えてしまう。
『あ、あの、これは一体』
『泥棒だよ。私の杖を盗んだのよ』
『そう言う事ですので、引き渡しますわ。これが私達の身分証明です』
アメリゴ国家安全保障局のカードを取り出して市警に見せる高畑。
すると警官もマチュア達に敬礼した。
『NSA発行の身分保証ですか、これは失礼しました』
『いえいえ、では後をお願いしますね』
高畑は幽体騎士を消し、マチュアも拘束の矢を解除すると、ポカーンとしているマッチョに近づく。
『おまたせ。それで、いい店ありましたか?』
『あ、ああ‥‥本物のファンタジーの人なんだなぁ』
気がつくと、マチュア達を大勢の人が遠巻きに見ていた。
『よし、ならこれぞニューヨーク。グリル・リコにご案内しよう‼︎』
パン、と胸を叩くと、マッチョが前を歩いて付いてくるように促す。
『そう言えば、あなたのお名前を聞いてなかったわね。私はマチュア、この子はミノリよ。貴方は?』
『ボビー・ヴィーさ。アメリカの偉大なポップミュージシャンと同じ名前だよ』
楽しそうにそう告げると、マチュア達はボビーの案内で実に肉々しい食事タイムを迎えた。
その後はヤンキースタジアムの野球観戦で興奮し、近くのパブてのんびりと酒を堪能する。
日付も変わると、マチュアと高畑はボビーと別れ、一路ホテルへと戻って行く。
そしてゆっくりと体を休めると、明日の本番のために英気を養った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ニューヨーク。
マンハッタン東岸にある、厳重な警備に囲まれた国際連合本部ビル。
そこには所属している全ての国の国旗が掲げられ、ここが世界の全てをコントロールしていると一目で感じ取れる。
「あ〜、なんか楽しくなって来たぞ?」
「私は緊張してますよ。そもそも私の仕事は?」
「外交官カード出して見て。そこを眺めたらわかるわよ」
そう告げられて、高畑は外交官の身分証明部分を眺める。
『First Secretary』
「はぁ?マチュアさん、私一等書記官ってなってますよ?」
「だからそれが仕事よ。記録媒体のメモリーオーブも渡しておくから。使い方はわかるわよね?」
「はぁ、マチュアさんがいつも使ってるやつですよね?」
「それとクリアパットもね。これは高畑さんのやつ、横に魂の護符を挿す場所があるから挿して頂戴」
受け取った水晶のタブレットに魂の護符を挿す。
すると魂の護符はスッと消えて、クリアパットが輝いた。
「これは?」
「それで登録完了よ。えーっと、スペックはアメリゴのアダムス社のPパットの最新型よりもハイスペックよ。確か」
「通信は?」
「無線LANとか言うやつを感知するようにしてあるわよ。どう?最新型よ。各種ショップには繋がらないから、それは自前ので頑張って」
次々と手渡されるマジックアイテム。
そのいくつかは自分用と聞いて、高畑も動揺を隠せない。
「後日、赤城さんも一等書記官に登録するわ。使える子には立場もアイテムもあげる」
「古屋さんと高嶋さんは?」
「あの二人は国内全般なら私の代理を任せてもいいと思っているし。十六夜さんと吉成さんはサウスアラビア関連、桜木君はカナン全般、三笠さんは私の代行。それぐらいみんなを買っているんだから、期待は裏切らないでね?」
ニコリと笑うと、マチュアは最後にショルダーバッグを手渡す。
「これも魂の護符とリンクさせてあるので。私みたいに消せないけど、盗まれたりしても手元に戻せるからね」
「はぁ、魔法って便利ですねぇ」
「それ、中には10m立方の空間があるので、大切にね」
「へ?」
立ち止まって今持ってるバッグからポシェットを取り出して入れる。
――スッ
すると、中に入れて手から離れるとスッと消えた。
「あ、あれ?」
慌てて中を探ると、すぐに手に感触があった。
それを掴んで取り出すと、高畑は急ぎバッグの中身を全部入れ替えて、自分のバッグもショルダーバッグにしまった。
「おーい、早く来るですよ」
「は。はい、ただ今っ」
急ぎ足でマチュアの元に駆け寄ると、その後ろをしっかりとついていった。
入り口でNSAの身分証明を差し出してビルの中に入ると、受け付けで外交官カードと魂の護符を取り出すマチュア。
『異世界カリス・マレス、カナン魔導連邦から来たマチュアです。国連事務総長からの招集に応じて馳せ参じました』
ゆっくりと、それでいて力強く。
敢えて無表情で話す。
『それではこちらへどうぞ』
そう話してから、受付がロビーに案内する。
そこで待機していた一人の女性の前にやって来ると、マチュアに対して自己紹介した。
『国際連合事務局・管理局から来ましたシャルル・マーティンです。本日はお越しいただきありがとうございました』
『カナン魔導連邦のマチュアです。それで、私達はどうすれば良いのですか?』
『このあと午後からの事務局総会に参加して頂きたいのです。異世界カリス・マレスに対しての質疑が行われます。そこでカリス・マレスとしての今後の立場を表明して欲しいのです』
『へぇ。私の言葉が決定権を持つのですか?』
そう問い掛けると。
『カナン大使としてならば、それは国の言葉にもなります。全権委任大使ですよね?』
『成程。では仰せのままに』
『では、こちらに部屋を用意してありますので、そちらへどうぞ』
軽く女性警備員のボディチェックを受けたのち、マチュア達は貴賓室に案内された。
「さて。基本は日本での質疑応答の延長だねぇ。カナンの立場ならよく知っているから、参加する国がどんな顔をするか楽しみですよ」
室内に置かれているティーセットでのんびりと喉を潤していると、コンコンと扉がノックされる。
「どうぞ」
――ガチャッ
ゆっくりと扉が開くと、ボディガードを連れた初老の男性が入って来る。
『初めまして。国際連合事務局・事務総長のアンドリュー・グレーティスです。本日はお会い出来て光栄です』
『こ、これは。カナン魔導連邦のマチュアです。ご招待頂きありがとうございます』
背筋を伸ばして握手する。
『ここでの発言は非公式なので。異世界カリス・マレスは国連に参加する意思はありますか?』
『突然ですね。今回の招集はその件ですか?』
『常任理事国によって、異世界カリス・マレスの存在は地球の、国連加盟国の安全を脅かすものであると言う意見がある。その確認の前段階として、今回は質疑応答として招集しました』
成程ね。
なら話は早い。
『アンドリュー事務総長。カリス・マレスは国ではなく世界。それも地球とは異なる世界です。国連に加盟する義務も意思も持ち合わせていません』
『その立場で構いません。寧ろ突っぱねていて結構ですよ。それでなくては旧態依然の組織を新しくする事は出来ませんからね。では失礼します』
そう告げると、アンドリューは軽く会釈して部屋から出ていった。
「‥‥怖っ。あの人したたかだわ」
「そうなのですか?」
「そりゃそうさ。いいヒントくれるわ」
その言葉に頭を捻る高畑。
「簡単に説明するよ。常任理事国が動いているっていうことは、つまり安全保障理事会が動いたっていう事。その仕事は世界の平和と安全の保障。ここまではわかるよね?」
コクコクと頷く高畑。
「安全保障理事会の仕事として考えると、今回は世界の安全保障にとって脅威となる国家、カナン魔導連邦が現れたので、理事会で対応が議論される事になった。その結果としては、然るべき対応がなされる筈」
「つまり常任理事国はカナンを敵対国家と認定したのですか?」
「今日はその判断さ。質疑応答によって、自分達に不都合が生じると判断したなら即時安全保障理事会で採決を取るだろうね。その結果、予測できるのはカナンに国連軍を派遣するとか、使節団を派遣し、内部からコントロールとか、もしくは‥‥常任理事国による異世界統治権まで発展しかねないねぇ」
腕を組んでウンウンと頷く。
「そ!そんな重大な事、どうするのですか?」
「へ?どうするもこうするも質問されたら答えるだけさ。スタンダードに、わかりやすくね。カリス・マレスは地球に侵攻して来たんじゃない。手を握りに来たんだ。その邪魔をするなら‥‥ね?」
「ね?じゃありませんよ」
「まあまあ。私だって本気で喧嘩する気は無いよ。寧ろ今のように二国間条約だけで十分とも思っている。国連に加盟していない国だってあるんだし。それでいいと思うよ?」
ソファーに座りのんびりとするマチュア。
高畑も観念したのか、マチュアの向かいに座るとのんびりとお茶を飲む事にした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
事務局総会が始まった。
マチュアはゲスト席に座り、その斜め後ろに高畑が座る。
通訳については必要ないと伝え、全て英語で返答をする。
まずアンドリュー事務総長か総会の挨拶を行うと、次にマチュアを紹介した。
そこでいつものように飾りのない挨拶をすると、早速質疑応答が始まる。
異世界の行き方
文明と文化
歴史と国々
科学と魔法
それぞれに一問一答を続けていくと、中華選民共和国の代表が質問する。
「現在、日本と国交を結んでいるのは何故ですか?」
「最初の転移門が開いた国が日本だから。それだけですよ?」
「他国との国交は?我々は自由に転移門を使う事は出来ないのか?」
「他国との国交は随時話し合いによって。転移門は私達カリス・マレスの人間にしか使えません」
「その転移門を使って我々の世界に侵攻する意思は?」
「私たちは平和的解決を望んでいます。そういう点では、戦争をしない日本との国交が最初に結ばれて幸運ですわ」
にこやかに返答すると、中国代表は席に着く。
次はゲルマニア。
質疑の内容は魔法の危険性とそれを軍事利用出来るかどうか。
魔法の危険性など使う者の意思によるものだと説明した上で、軍事利用については不明との見解を示した。
「不明?」
「ええ。まだ国交が締結されたとはいえ、私達以外にはカリス・マレスからは殆ど来ていません。受け入れ態勢は整ったので、近々カリス・マレスから日本に向けての査察団が到着します」
一息入れると、もう一度口を開く。
「軍事利用出来るかどうかなんて、これから考えなくてはなりません。何よりも、私達は地球に国家を持たない存在、侵攻するなど考えた事もない」
「私達が魔法を覚える可能性は?」
「才能があり、学ぶ機会があれば。その上で考えればいい話では?」
ここで暫くは他愛ない質疑が繰り返される。
種族のこと
土地の問題
国家のあり方と繋がり
戦争
それらの話の後で、ルシア連邦が質問する。
「資源などの算出に対して、地球がそれらを輸入できるのか?日本を介してではなく、輸出国に対しての転移門の開放は?」
「日本の資源調査隊の報告書をお持ちしました」
モニターに映し出された報告書と、手元に配られた資料。
それらに目を通す各国の代表からは感嘆や溜息と言った感情が見え隠れする。
「まず、勘違いなされる前にご説明しますが。輸出先については私たちと相互的利益があるかどうかで考えさせていただきます。こちらの世界の重機や大型採掘機材などは転移門を超える事は出来ません」
「つまり輸出は不可能であると?」
「人が運べる程度の‥‥こうですね?」
――シュンッ
素早く真横に転移門を生み出す。
「ここを通る程度のものでならば、不可能ではありません」
「では、そこにはまる程度のベルトコンベアーやパイプラインの移設は可能ですか?」
しばし考えるマチュア。
「転移門を恒久的に開放するのには、かなりの魔力を要します。現在では国交が結ばれている日本でさえ、一度に転移門を開く事が出来るのは十名まで。そののち転移門を開くまでは数時間のタイムラグが発生します」
「つまり不可能であると?」
「ええ。そのような事情故、各地に転移門を作るのも難しいのです。何分、現在は私がミナセ女王ぐらいしか開けませんので」
一呼吸入れて相手の出方を見る。
後ろに控えている書記官と何かやり取りをしているようである。
「異世界渡航旅券を保有して入れば、貴方でなくても開けるのですよね?」
「ええ。それが何か?」
「ならば、全ての兵士にそれを所有させればこちらに侵攻することも可能であると?」
ふぅ。
どうしても敵対国家としたいのかと突っ込みたいが。
「そうですね。不可能ではありませんが、する理由もありませんね」
「それを言葉だけで信用しろと?」
「別に貴方の国に信用しろとは申しませんよ。信頼できる国と友好的に付き合うだけですわ」
この言葉でルシア連邦も席に戻る。
「ではここで休憩を挟みます。一時間後にまた再開しますので、時間までにこちらに戻って来てください」
その言葉で議会場は明るくなる。
マチュアは転移門を設置したまま、高畑とともに部屋から出て行った。
「‥‥まあ予想通りな展開ね。敵性国家として文句を言って来る所の目処も付いたし、お茶しましょ」
貴賓室でティータイムに突入するマチュア。
高嶋は先程までの会話を全て文章に書き起こさなくてはならない。
「これ!報告書として提出ですよね?」
「まあね。急がないわよ、日本に帰ってからでも問題なし」
――ズズズッ
のんびりとお茶を楽しむマチュアと高畑。
軽くサンドイッチで腹を満たすと、いよいよ休憩後の質疑が始まる。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
休憩後の質疑もきわめて平穏。
前半が軽いジャブで、後半は怒涛のラッシュの予想だった。
(ふむふむ、予想外に軽いぞ?もっとこう、ガゼルパンチからのリバーブローばりの質問が来るかと思ったが)
ほっとするマチュアだが、ここでルシア連邦が質問をする。
「モニターをご覧ください。これらはカナンが私たちの世界に持ち込んだ魔法の道具です。明らかに我々の世界にはないテクノロジー。これらが軍事転用される可能性はありませんか?」
ルシア連邦代表はマチュアの本当の姿を知らない。
なのでこのような質疑をしてきたのだろう。
ならばとマチュアも口を開く。
「さて、この世界にもさまざまな技術がありますよね?通信、インターネット、人工衛星をはじめとする宇宙開発。全て最初は軍事用の技術、ですが現在はその殆どが民間転用されていますよね?」
「だが、我々には魔法についての知識などない」
「今話した技術についても、発見された当初は一般には知識などなかったですよね?」
ニィッと笑うマチュア。
「ミスマチュア。貴方はどれだけ私達の世界を調べたのですか?」
震える声で問いかけるルシア代表。
「タブレットで調べました。ついでに便利なので魔法でタブレットも作りました。これがそうですね?」
――シュンッ
空間からクリアパットを二つ取り出してみせる。
そのうちの一つを手前の国の代表に渡すと、順次回して見てもらう。
「軍事転用の話が出たのでついでに。カナンというよりも、これは私の魔法技術ですが、私はカリス・マレスでも数少ない錬金術師です」
いきなり伝説の存在の名前が出ると、皆一様に驚く。
「この世界の錬金術師のように石を金にしたり、不老不死の薬を作ったりは出来ませんよ?ですが、この世界の機械を魔術で使えるようにする事も出来ます。そのタブレットが試作ですよ」
――ザワザワッ
会議室が騒めく。
「このモニターの映像では、私の作った鎧騎士も映っていますね。これがその実物です。人を襲う悪意ある命令には反応しないように作ってあります」
――スッ
今度は鎧騎士を一体取り出して回す。
権限は一番軽いやつ、手にしたものの意思で動くようにしてある。
それを手に取ると、皆真剣な表情で鎧騎士を動かしている。
「その巨大なものは?我々の資料では魔法鎧と書いてある。それこそ兵器ではないのか?」
「さて、この世界の言葉にはこのようなものがありますね。兵器とは、それを用いるものの意思によって決定される。悪意を持つものが手にすると兵器、持たないものが手にすると便利な道具であると」
淡々と語るマチュア。
「これだって、電子装備を備え、ミサイルや重機関砲を持たせれば兵器ですよ。けど、魔法障壁はこの世界の放射線も透過させません。耐熱処理さえすればマグマや火砕流の中も進めます。これって立派な救助用重機ですよね?」
ニッコリと笑うマチュア。
あちこちの国からは肯定的な反応が見えるが、ルシアはまだ抵抗したいらしい。
「カリス・マレスの人間がそれを悪意を持って使わないという保証は誰がする?」
「道義的な問いかけですね。では、日本での公開質問会の前日、私を攫おうとした貴方の国のエージェントの行動は道義的でしょうか?」
――ザワザワッ
ここで爆弾を一つ投下する。
「そのような事実はありませんね」
「私が魔法使いである事をお忘れなく。当日の映像、会話、証拠、全て揃えてありますよ。エージェントの上官や命令系統などすべてね」
ニイッと笑うマチュア。
半分以上はハッタリである。
だが、それでもいまの状況には十分に有効である。
――ゴクリ
何処からともなく息を呑む音がする。
「さて。ルシア連邦だけではありませんよ。あの日に私を襲った国、大使館に侵入した国。それらの国は正式に謝罪しない限り付き合うことはありません。喉元にナイフを突きつけられての和平などごめんこうむります」
ルシア連邦の質疑は終わった。
ならばとマチュアは手を上げて話を始めた。
「さて。私からのお願いです。異世界カリス・マレスには、身分を証明するために魂の護符というものを生み出せます。こちらが私の、そして後ろの書記官も持っています」
モニターには魂の護符と異世界渡航旅券の二種類が映し出された。
「これは所有者の魂とリンクしています。所有者のみが作り出す事の出来る、命の、魂の証明です。これを、この世界の身分証明書であるパスポートのように国際的に認めて頂きたいのです」
――ザワザワッ
これには各国の代表もざわつく。
「それが魂から生み出すという証拠を見せて頂きたい」
中国代表が問いかけた。
ならば実践あるのみ。
「そうですねぇ。では、貴方の魂の護符を作りましょうか?私は異世界では高位司祭としての資格もありますので、今、ここで、私が認めれば作り出せますよ?」
その言葉に戸惑う中国代表だが。
「なら、作っていただきましょうか?」
「ええ。それではこちらへどうぞ」
そう呼ばれてマチュアの横に立つ中国代表。
「手を出してください」
「こうかね?」
スッと差し出された手を軽く握る。
そして体の中にある根幹、命の輝きである魂から、彼の魂の護符を作り出した。
――スーッ
モニターには、掌の上にゆっくりと浮かび上がる魂の護符が映し出される。
「それは貴方の異世界での証明ですよ。おめでとうございます、もし異世界に行っても、貴方が誰なのかはこれで証明されますね」
そう告げられて、意識を魂の護符に集中する中国代表。
魂の護符を出したり消したりと、何か嬉しそうである。
「ご覧のようです。もし希望があれば、後二、三名なら作りますよ?」
このマチュアの言葉には、彼方此方の国が名乗りを上げ始めた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






