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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と

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地球の章・その六 魔法鎧とストームとステーツ

 朝8時半。

 異世界大使館の前で、ストームはのんびりと柵の外の人達に手を振っている。

 カレンやシルヴィーは庭に設置されているウッドデッキに向かうと、マチュアが用意したティーセットを並べて一休み。

 そしてマチュアも庭に出ると、ゼロワンを召喚して搭乗する。


――ブウンッ

 その姿には、登校中の小・中学生や社会人も足を止めた。

 SNSやネットの動画で、ワールドホビーフェアでの魔法鎧メイガスアーマーの起動シーンは投稿されている。

 だが、こんなに間近にあるとは誰も思っていなかったのだろう。

 子供達など、柵にしがみついてじっと眺めていた。


「ストーム、ガチで行くぞ」

「そうしてくれや。こっちも少し身体が鈍っている」

 両者一定の間合いで一礼すると、マチュアは中で修練拳術士(ミスティック)にチェンジした。

 これでコンバットオプションは全て修練拳術士(ミスティック)と同じものが使用可能である。

――ヒュン

 素早く間合いを詰める。

 その速度はストームの予想よりも速い。

 人の反射速度などすでに凌駕している。

「速いっ、これは凄いなぁ」

「でしょー。搭乗者の身体能力を何倍にも増幅するんよ」

――ギンガギッ

 鋭い打ち込みをどうにか力の盾で弾くが、上からの打ち下ろしなのでストームの足は地面にめり込んで行く。

「うぉっ、マジかよ。ボルケイノよりも強いじゃないか」

 すかさず後ろに飛ぶと、着地と同時に反撃に出る。

――ガキガキガキガキッ

 その乱撃全てを掌底で受け止める。

 ストームにとっては、予想外の動きなのだろう。

「そんじゃあ、これは?」

 カリバーンに闘気を流し込むと、バースト無限刃を叩き込む。

「させるかよっ‼︎」

 両腕を交差して身構えると、機体で闘気障壁を生み出す。

――ブウンバジッ

 一撃で障壁が破壊され、両腕の装甲にも亀裂が入る。

 そこでマチュアがギブアップ‥‥かと思いきや。


――ドン‼︎

 間合いを詰めてからの裡門頂肘(りもんちょうちゅう)

 それをストームは盾で受け止めたが。

――ドゴォッ

 すぐさまマチュアは踏み込み、鉄山靠を叩き込む。

 その衝撃で後方に激しく吹き飛ばされるストームだが、どうにか倒れずに立ち止まる。

 力の盾にも亀裂が走り、ミスリルの鎧もあちこち砕けているが。

 吹き飛ぶ瞬間に、ストームもカウンターで三連撃を叩き込んでいた。


――ゴッ

 ゼロワンの頭部が首から切断され、正面胴部装甲が砕け散った。

「はぁはぁ‥‥殺す気かよ」

 着物に換装するストームと、コクピットから飛び降りるマチュア。

「それはこっちの台詞だわ。生身なら死んでるぞ?頭と心臓。同時カウンターなんて予想外だわ」

「それはこっちもだ。最後の一撃はベネリの奴よりも強力だわ」

――ガシッ

 お互いに拳を差し出して打ち鳴らす。

「改良点はまだあるなぁ。魔法障壁の強化かぁ」

「魔力効率もだな。搭乗者の冒険者ランクを二つぐらいあげるのか?」

「概ねそんな感じ。だけど、ランクが上がるほど機体がついていかない。Aランクが乗ってもA+がせいぜいでSには届かないなぁ」

 体感ではそのような状態らしい。

「そうなのか?」

「Sランク以上は、多少の増幅程度かなあ。魔法の発動実験はまだだから、それも課題だ」

 冒険者ランクSSSのマチュアでは、ストームと互角に遊べるおもちゃでしかない。

「それでもまあ、騎士団とかで使うにはいいか」

「あぁ、いいんじゃないか?また改良したらテストしてやるよ」

 そう呟くと、ストームはシルヴィー達の元に向かう。


 そしてふと気がつくと。

「ば、化け物ですか?」

 一部始終を見ていたらしい大使館職員が、マチュアにそう問いかける。

「私?魔法鎧メイガスアーマー?」

「いえ、ストームさんですよ。あの動きは何ですか?」

「そりゃあ、カリス・マレス最強の剣聖だからねぇ」

「それと同等のマチュアさんは?」

 そう呟く高嶋。

 マチュアはゼロワンをポンポンと叩いて一言。

「こいつのおかげだよ。冒険者レベルを引き上げるからねぇ。でもボロボロになったから、あとで修理だな」

――ブウンッ

 影の中に収納するマチュア。

 すると職員たちも仕事に戻って行く。

「はぁ。しっかし強度計算からやり直しの部分もあるなぁ。全く参ったよ」

 ポリポリと頭を掻きながら、マチュアも大使館に戻っていった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 その日の午後。

 大きなトラックで皇太子がやって来る。

「へぇ。今日はまた随分と大勢で」

 入口でマチュアが出迎えると、敷地内に搬出用トラックも入って来た。

『おうマチュアさーん、いつ見てもお美しい。魔法鎧メイガスアーマー受け取りに来ましたよ』

 後ろのリムジンから降りてマチュアの元にやってくると、ムハンマドとマチュアはガッチリと握手した。

『それじゃあ初期登録しますよ。こちらへどうぞ』

 そのままロビーに案内すると、最後の梱包を控えたサラディーンのコクピットから制御球を取り出す。


――プシュゥ

 胸部ハッチが開き、中のコンソールからクリスタルタブレットを引っ張り出すと、ムハンマドの掌をそこにあてる。

――ピィィィン

 タブレットが反応して、コクピット内の計器が全て輝いた。

『これで完了ですよ。乗ってみます?梱包を解かないとならないので後で側近の方にやってもらいますけれど』

『操縦マニュアルありますか?』

『これですね。全てそちらの言葉にしてあります』

『起動だけしてみたいですね。良いですか?』

『ではフックを外します。その後で』

 しばし作業ののち、サラディーンは静かに立ち上がった。

 曲線主体の純白の機体、白いマントと金色のモールが実に美しい。

 胸部装甲の中心にはムハンマドの家紋が輝く。

 その光景を、ストームやシルヴィー、カレンの三人も眺めていた。

「マチュア〜、妾もこれがいい」

「これは駄目。この人の国の機体なのよ?」

「ぐぬぬ。ではもっと格好いいのを頼むぞよ」

「はぁ。わかったわよ。デザイナー探すわよ」


 そんな話をしていると、サラディーンは腕や足を動かして調子を見ている。

――プシュゥ

 胸部ハッチが開き、ムハンマドが涙を流しながら顔を出す。

『最高です。ありがとうございます‥‥後50機欲しいです』

『だから無理だっていっているでしょう?販売ライセンスを手に入れるのも面倒いんだから。早く降りて梱包しましょうよ?』

 降着スタイルになってムハンマドが降りてくる。

 そしてマチュアの元に向かう途中、ムハンマドはシルヴィーとカレンを見かけた。

『おう、なんて美しい。お嬢さんたち、私の妃に』

――カチャツ

 ストームが刀を抜こうと身構える。

「何かよくわからんが、シルヴィーとカレンの名前が出たな。この流れはあれか?妃に欲しいか?」

「まあそうだな。所でストームさんや、大使館が血に染まるのは勘弁だ」

 そうストームに告げると、すぐさまムハンマドにも話しかける。

『ムハンマド皇太子、その二人はそっちのストーム王の妃です。彼はカナンと同盟を組んでいるサムソン辺境王国の国王ですよ』

 そう話すと、ムハンマドは一歩下がってストームに頭を下げた。

「フトームおう、あなたのきせきに対してフリーな物言い申し訳ありません」

 片言の日本語。

 ならばとストームも刀から手を放して一礼。

「丁寧な謝辞ありがたく受け取る。サムソンのストームだ」

 そこで握手を交わして話を終える所は王である。

 まあ、いきなり刀を引き抜かれてもどうかと思うが。

『マチュアさん、それでは本日はこれにて。これが約束のカードです、どうぞお持ちください』

 そう告げながら、マチュアはムハンマドから一枚のカードを受け取る。

『あら、なにか約束してましたか?』

『プレゼントですよ。それがあれば、我が国ではどこにでもいけます。代金も全てフリー、サウスアラビアの外交官カードです』

『では有難く。もし機体が調子悪かったら連絡ください』

 受け取ったカードを魔力分解して魂の護符(プレートと関連づける。

 そして握手をすると、ムハンマド皇太子は先に帰っていった。


――ガサガサ

 トラックに乗っていたスタッフとお付きの人たちの半分が残ってサラディーンの梱包を始める。

「しかし、これはどうやって持って帰るのですか?」

「外交貨物として通過します。こちらの書類を確認してください」

 手渡された書類を確認すると、公的に日本とサウスアラビアで発行されたものである事が判る。

 これにはカナンは関係ない。

「確認しました。では作業が終わったら教えてください」

 そう話して応接間に向かおうとすると、ストーム達が帰り支度をしている。


「おや?お帰りかな?」

「ああ。半日休暇だからな。俺はまあのんびりしていてもいいのだが、シルヴィーとカレンは午後から仕事に戻らんとならん」

「そういう事ぢゃ。また来るぞ」

「マチュアさん、早く異世界通商許可証を発行してくださいね。では」

 手を振るシルヴィーとカレン。

 マチュアも手を振り返すと、三人は転移門ゲートを通ってカナンへと帰っていった。


 ‥‥‥

 ‥‥

 ‥


「ストームさん格好いい‥‥」

「素敵ですわぁ」

 十六夜と吉成の二人が頬を染めてポーっとしている。

「なんだなんだ?二人共ストームの毒牙に当てられたか?」

「だって、世界最強の剣聖で王族、マチュアさんの作った魔法鎧メイガスアーマーを生身で破壊する強さ。そして渋い外見‥‥」

「ストームさまぁぁ。私も異世界に攫ってください」

 はいはい。

 なんてミーハーな二人でしょう。

 その前では高嶋・古屋組が涙を拭っている。

「お前達はシルヴィーか?」

「カレンさんもですよ。おれ、ギルド勤務の時に優しい人だなぁって思ってたんですよ?」

「いつも明るくて、優しくて。それなのにストームさんがぁあぁぁ」

 今にも血涙流しそうだな。

 放置しよう。

 そう考えていると、赤城や高畑、ベネットの三人は平常運転である。


「あんたらは異世界の人に頬染めたりしないのね?」

「えーっと。私はあまりそういうのは。まあ、異世界で気になる人はいますけど」

 赤城の爆弾宣言。

「ほう、誰だい?」

「いえあの‥‥フィリップさんが格好いいなって。ああいう出来る老紳士に弱いのですよ」

「私はゼクス様一筋ですし、ベネットはツヴァイさん大好きですからね」

「そ、それをここでバラさなくても‥‥」

 真っ赤になるベネット。

 みなさん恋愛には三者三様、実に結構。

「さあさあ、口を動かしても構いませんが、手を動かしてくださいね」

 三笠がコーヒーを入れて戻ってくる。

「三笠さんは異世界にいいなって人はいませんか?」

「ははは。私は所帯持ちですよ?人ではありませんが、異世界に別荘が欲しいですね」

 実に現実的である。


「マチュアさんはどんな男性が好みですか?」

「まあ、一言で言うと男には興味ないね。ハイエルフなので、そう言う感情あまり無いのよ。実際、人の5倍生きるエルフと違って、私は老化しないし不老不死みたいなものだからねぇ」

 チラッとウインドウを開いてみる。

 エルフだった種族はやっぱりハイエルフ・亜神となっている。

 亜神化により、そうなったらしい。

「で、では、マチュアさんは生涯独身ですか?男の人と付き合わないのですか?」

「えーい、いいから仕事しろ。広報の仕事溜まっているでしょうが。高畑さんは国連関係、特に国際慣例法覚えてね。今のカナンは国連未登録なので、二国間条約しか出来ないんだから」

 そもそも登録義務などない。

 登録する気もない。

「はーい。しっかりと読み込んでいます」

「宜しくね。当日は全世界相手に喧嘩するんだから」

「また喧嘩ですか?好きですねぇ」

「あんな力ある国が発言力持ってる組織なんてクソ食らえよ」

「また下品な‥‥わかりますけどね」

「常任理事国って何よ。この制度が廃止されない限りは、異世界大使館としては国連加盟は御免被るわよ」

 そう話すと、マチュアは席を立つ。

「おや?どちらに?」

魔法鎧メイガスアーマーの修理と改造。あれいい宣伝になるから持ってくわ。魔力障壁の強度計算もしないとならないし‥‥三笠さん、私が必要な外交の仕事ある?」

「いえ、次は国連ですからお任せしますよ」

 その言葉で、マチュアはニイッと笑ってロビーに向かう。


「後でお茶とお菓子でも持って行ってあげてくださいね。作業始まると止まらなくなりますから」

「了解です〜」

 高畑が笑いながら返答すると、一同は仕事に戻った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 一週間後。

 魔法鎧メイガスアーマーの量産型であるゼロツーを取り敢えず5体仕上げたマチュア。

 自分用の専用機である機体コード・ゼロ『イーディアス』も完成し満足である。

 その全てを影の中に収めると、マチュアと高畑の二人は転移門ゲートを通って国会議事堂敷地内にある『異世界門』と呼ばれる小さい建物からでてくる。


「あれ?ここは議事堂?」

「そうよ。さ、次いきましょ?」

 絨毯を広げると、マチュアは高畑を乗せて公道に出る。

「うわぁ‥‥これは初めての体験ですね」

「そのうち自由に乗れるといいねぇ。まだ数が少ないからねぇ」

 いつも通りに芝公園を抜けて竹下桟橋から海上に出る。

 横浜から横須賀へ。

 そして米軍基地の正面ゲートで、マチュアはローレンス少将の出迎えを受けた。

「ままままちゅあさん?」

「なに?」

「まさかと思いますが、ここから飛行機ですか?普通に空港使わないのですか?」

「私パスポート持ってないわよ。そもそもカナンはそういう制度ないので、パスポート発行してくれないわよ」

 そう言われると確かにそう。

 異世界での外国への旅なども、出入国の際にあまり調べられない。

「なので、これ。これを世界的に身分証明として認めさせるのが目的よ」


――スッ 

 魂の護符(プレートを取り出してゲートの監視員に見せる。

『オーケーです。ミスマチュア、どうぞお通りください』

 スタスタと笑顔で通るマチュア。

「わ、私は?」

「持ってるでしょ?魂の護符(プレート。それを提示して?」

 ならばと高畑も取り出して提示する。

 監視員はそれを受け取ると、機械でスキャニングして一言。

『ようこそレディ高畑。どうぞお通りください』

『あは、サンキュー』

 やや引きつりながらゲートを通過する高畑。

 指につけている相互間翻訳指輪が効果を発揮している。

「ね、問題無いでしょ?私が外国に行くには、ローレンス少将に頼んで乗せてもらうしか無いのよ。という事で、今回の私の相棒の高畑です」

『ようこそ。もう出発準備は出来ていますのでこちらへどうぞ』

 そう告げられてマチュアと高畑はジープで空港施設へ向かう。

 そこで飛行機に乗り換えると、ローレンス少将に手土産の袋を二つ手渡す。

『これが例のアレですね?』

『ええ。どうぞお好きに。本日はありがとうございました』

『それでは良い旅を』

 軽く頬にキスして別れると、いよいよ日本から外国へと飛び立つ。

「一眠りしたらアメリゴなので、着いたら起こしてね」

「あれ?スイスの国連事務局じゃ無いのですか?」

「何かニューヨークの国連本部に来いって話になったらしいわよ。ならアメリゴに乗せてもらったらいいでしょ?その前に行く所もあるし」


――スヤァ

 それだけを告げると、マチュアはいきなり寝た。

 ストーンと落ちるように眠っている。

「はぁ、これが魔力回復でしたよね‥‥と」

 高畑も少し仮眠を取る。

 途中で運ばれた食事に舌鼓を打ち、サービスのワインを楽しみ、機内で流れている日本未公開の映画を堪能する。

 そして再び眠りにつく。

 二人が起こされたのは、アメリゴのアンドリューズ空軍基地の着陸前。

 機内で十四時間の旅を堪能し、いよいよマチュア達はアメリゴに到着したのである。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 飛行機から降りて空港の入国管理局へ。

『パスポートをお願いします』

『これじゃダメなのかい?』

 そう話しながらマチュアは魂の護符(プレートを作り出して提出する。

『ファンタジーカードか。あんた異世界承認されてるのか?』

『ええ。カナンのギルドマスターで、異世界大使館のマチュアだ。こっちはうちの職員、この魂の護符(プレートで通らないんなら、ロナルド・クリプトンに直接話しをつけるがいいのかい?』

 ニマーッと笑うマチュア。

『はっはっはっ。魂の護符(プレートを提出した場合、そのものはアメリゴの客人として扱え。これがステーツ全域に伝えられた命令さ。パスポートよりもしっかりとした身分証なのでどうぞ』

『サンキュー。話がわかる人は好きよ』

『さて、レディも魂の護符(プレートかな?』

『せめてミスにしてくださいません?こう見えても25なのですから』

 プッと頬を膨らませる高畑。

『それは失礼。どうぞお通りください、ミス高畑』

 一礼する職員に高畑も頭を下げると、急ぎマチュアの後ろに付いた。


「この後は?」

「ワシントン。そこで仕事する。とりあえずホワイトハウスに向かうから」

 空港を出てタクシーを捕まえると、マチュアはホワイトハウスに向かうように伝えた。

「はぁ‥‥ホワイトハウス?はあぁぁぁ?」

「何よ、驚く程の事じゃ無いわよ」

「なんで冷静なんですか?クリプトン大統領と会うのですよね?」

「そうよ。その為に書類作って送ったんだから。苦労したわよ」

「何の書類ですか?何企んでるんですか?」


――ニマーッ

 またしても笑うマチュア。

「まあ、どこまで私のハッタリが通用するかねぇ。楽しい事しかないから心配しないでね」

「心配しかありませんよぉ。あの時みんなが顔を伏せた理由がわかりましたよ」

 その通り。

 マチュアの無茶振りを皆は理解していた。

 異世界ギルドでの研修で散々振り回されたのである。

 そうこうしている内に、タクシーはホワイトハウスの前までやって来る。

 17番通りから西門にまわると、マチュア達はそこで降りた。

『支払いは日本円でおっけ?』

『ええ、問題無いわ‥‥』

 と支払いも終わらせると、門の中にあるアイゼンホーク行政府ビルから守衛がやって来る。

『はいお嬢さん。その綺麗な耳は本物かい?』

『ええ。あなたのチャーミングなメガネと同じ本物よ?』

 そう笑いながら魂の護符(プレートを取り出して見せると、守衛は襟を正す。

『失礼をミスエルフ。そちらのお嬢さんもカードはお持ちで?』

『は。はい。これです』

 慌てて魂の護符(プレートを見せると、スーッと門が開いた。

『ご案内します。武器はお持ちでないですよね?』

『魔法だけよ。没収する?』

『それを没収できたら、次は私が魔法使いです』

 フランクに話しながらホワイトハウスの中に案内されると、一階にあるグリーンルームと呼ばれる部屋に案内された。


――ガチャッ

『大統領、マチュア様と高畑様をご案内しました』

『後は下がってよし‥‥』

 椅子から立ち上がると、クリプトン大統領がマチュアに近寄る。

『ご無沙汰ですねマム・マチュア。お会いできて嬉しい。こちらは?』

『先日お願いしたアメリゴでの右腕です。高畑さん、こちらはクリプトン大統領よ』

 軽く紹介されるが、高畑は固まっている。

『は、はひ、高畑みのりです、お会い出来て光栄です』

『緊張しなくてもいい。さて、とりあえず座って、美味しい紅茶を用意していたんだ』

 ロナルド自らティーサーブする。

 それを受け取ると、マチュアは香りを楽しんでから一口。

『いい茶葉ですね。ではお返しに』


――スッ

 空間からティーポットを取り出すと、空いてるカップに注いで渡す。

『これは?』

『カナンから少し離れたベルナー王国領特産のハーブティーです。私が最も気に入って愛飲しているハーブティーですよ』

 その言葉でロナルドも香りを楽しんだ後、一口のどに流し込む。

――ゴクッ

『‥‥落ち着く。優しい味ですね』

『ええ。魔法の薬草の一種です。疲れた体と心を癒す働きがありますわ』

 そんな社交辞令を楽しむマチュアとロナルド。

『さて、本題のお土産ですね』

 そう話すと、空間から鎧騎士パンッァーナイトの入った袋を5つ取り出してテーブルに置く。

 その一つを手に取ると、ロナルドは満足そうな顔をしている。

『一体は解析に回すが?』

『魔法を解析出来るのならどうぞ。壊しても保証しませんよ?』

『はっはっ。勝手に壊して直せとは言わない。その時は新しいのを貰いに行くさ。それで、こっちが交換条件だったな?』

 そう告げながら、ロナルドはテーブルに四枚のカードを並べた。

 それを受け取ると、二枚は高畑に回す。

 写真付きの身分証明書のようなものである。

『マチュアさん、これは?』

『一枚はアメリゴ発行の外交官カード、もう一枚はアメリゴ国家安全保障局の身分保証証明よ。この二つあればアメリゴでは無敵。大統領が保証する身分証明ですからね』

――カチーン

 あ、高畑が固まった。

『本当ならアメリゴ国防総省発行のにしたかったのだが、それは何かと面倒でね』

 真面目な顔で説明するロナルド。

『では、こちらが大統領用の異世界渡航旅券です。まだ回数は設定してませんが、異世界大使館にいらしてくれれば、いつでも設定してあげますわ。それと手を出してもらえますか?』

『ああ。これで?』

 そのまま手を握る。


――スーッ

 すると、ロナルドの手の中に、金色に輝く魂の護符(プレートが生み出された。

 亜神であるマチュアなら、今では簡単に生み出せる。

『異世界の身分証明です。ゴールドカードとはまた』

 カードにはアメリゴ大統領を記す紋章が浮かび上がっている。

 血筋が王族では無いので、大統領の任期が終わるとシルバーに下がるが、それでも大したものである。

『さて、高畑さん、魂の護符(プレートだして』

『はい‥‥これでいいですか?』

 そう告げながらマチュアに差し出すと、先ほど受け取った高畑の外交官カードと国家安全保障局のカードをリンクさせた。


――スッ

 とカードが消えるが、高畑には何が起こっているのか理解している。

 マチュアも同じように自分のカードをリンクさせると、全てを消した。

『これでよし。私は異世界の身分と渡航旅券を、君たちはアメリゴでの身分と安全を得た。さて、明日は国連だが、何か援護射撃は必要かな?』

『サウスアラビアとアメリゴでの身分は保証されました。別に国連に入らなくても私は構わないと思っています。異世界カリス・マレスの存在を認め、カナンを国として認めて頂ければ』

『常任理事国は認めないだろうな。認める代わりの見返りを請求するか、もしくは在カナン大使館を置かせろと言うだろう。国交も締結してな』

『別にいらないですよ。全力で断る。日本とアメリゴ、サウスアラビアとは外交しても構わないと思いますが、いきなり見返りを請求したり、いまだに頭を下げない国なんて知ったことかです』

 冷静に語るマチュア。

『なら、適当に援護しておくとしよう。今日はのんびりと観光でもしたまえ』

『それでは明日。お互いに楽しい日になりますように』

『ああ、お手柔らかに』

 立ち上がって握手すると、マチュアと高畑はロナルドとともにホワイトハウスから出る。


 そして来た時の門から外に出ると、ようやく高畑は深く深呼吸した。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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