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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と
185/701

地球の章・その4 冬将軍と皇太子

 異世界大使館が出来て結構な時間が経った。

 カナンと地球が転移門ゲートで繋がって約一年。

 国交が結ばれてから半年くらい。

 この間にも、様々なことがあった。


「お祭り?」

「ええ。毎年恒例の行事らしくて。雪が降ると、毎年自衛隊が大通りで巨大雪像を作るのですよ」

 高嶋がソファーでのんびりしていたマチュアに説明する。

 異世界に来る前、さらに前には真央も善も北海道人。

 札幌雪祭りなどよく知っている。

 が、今は異世界の人。

 ならば敢えて知らないふりをするのが大人の対応。

「へぇ。楽しそうですね」

「それで、市民雪像というのがありまして、異世界大使館でも参加してみませんか?」

 ふぁ?

 このクソ寒い時期に、何で外で雪像作らないとならないのかと、小一時間問い詰めたい。

「何で?」

彼方此方あちこちの大使館とかも参加してますよ? ここは他の大使館には負けない立派なものを作りましょうよ?」

 凄く良い笑顔である。

 それ故に、全力で断る。

「まあ、高嶋が仕切ってくれるなら申し込んでも良いけど、私は手伝わないわよ。寒いの嫌い。カナンは常春だから雪なんて考えられないわ」

「許可さえ貰えれば。後は雪像のデザインを考えるだけですから」

「はいはい。三笠さんと打ち合わせして。任せて良いかしら?」

 そうデスクにいる三笠に話を振るが。

「最近は仕事も落ち着いていますから。良いですよ?」

「ではお願い。寒いの嫌なのよ」

 そう呟くと、右手で簡単に印を描く。


――ヒュンッ

 魔法で熱球を生み出すと、それを部屋の真ん中に放り投げて固定する。

 あとは風を制御して熱気を対流させると、室内が温かくなりはじめた。

「原油の値段が上がって燃料費が高いのに、ここは燃料代ゼロ円ですからねぇ」

「マチュアさん、魔法を教えてくださいよ。冬は暖かく夏は涼しい。魔法でコントロール出来るのなら最高ですよ」

 高畑と高嶋がそう話しかけるが。

 赤城は必死に目を逸らす。

「へぇ。赤城さんは熱球のコントロールは?」

「え?で、出来ますよ。何とか」

 つまり、赤城はマチュアと同じく燃料代のかからない女性である。

「私、家のガス契約解除しましたから」

 てへぺろ。

 そんな雰囲気だが、その場の全員がつっこむ。

「このリアル魔法使いっ、今度教えなさいよ」

「そうだそうだ。一人だけ幸せになるなっ」

「まさか水道まで解約したんじゃないだろうな?」

 あちこちから聞こえる魔法教えろコール。

 だが、赤城はフフンと笑う。

「教えて良いですよ」

 ありゃ。

 あっさりとそう話すが。

「でも、秘薬代かかるのでは?」

「うぉあっ、それだ。それがあったぁ‼︎」

 誰しもが机に打っ伏す。

 すると、高畑が幽体騎士を透明な状態で作り出して、赤城の耳元で呟かせる。

『赤城さん、今度教えて下さいね?』

 それにサムズアップする赤城。

 そこの二人はチームワークがいい。

 そのやり取りを、三笠はニコニコと見守っている。

「三笠さんは魔法習わないのですか?」

「ええ。もう教えてもらいましたし。家では重宝してますよ。私しか使えないのでかなり限定的ですけどね」

 ちなみに三笠の登録クラスはトリックスター。

 なので何でもござれである。


「さて。マチュアさんに仕事ですよ。中東の使節団が午後に来ますので」

「あれ?今日だった?」

「ええ。ですので、宜しくお願いします」

 石油資源のある中東がなんで異世界大使館に来るのか。


 その答えは、鎧騎士パンッァーナイトである。

 異世界のおもちゃの存在を聞いて、どうしても手に入れたい中東の王子が日本政府に揺さぶりを掛けたのである。

 そこから蒲生さん経由で異世界大使館に連絡が来たという。


「やれやれ。それじゃあ稼いで来ますか」

「へ?稼ぐ?」

「あのね。貴方達の給料の出元が何処かわかる?以前は北海道職員ですけれど、今はカナンの職員なのですよ?」

 異世界大使館の職員という事は、そういう事である。

 しっかりと保険も全て適用している。

「私達の給料の出元を始めて知った気がする。これは頑張らないと」

「まあ、異世界渡航旅券の申請料と正式な発行料、渡航費用などがあるので困らないけれどね。渡航費用が往復で大体五万円、申請料は一人500円で申請が認められなくても予備登録になるので次以降の申請は無料と」

「へぇ。申請数はこの前八十五万人なので‥‥約四億?」


――ガチャッ

「ええ。ですが経費として職員の給料で月に一千万ほど。一年で一億二千万。その他経費で年間一億五千万ですね」

 経理で入った高千穂春香たかちほ・はるかがマチュア達の居る政治部事務室に入って来ると、簡単に説明した。

 彼女の所属する領事部事務室は一階ロビーを挟んで反対側の部屋、普段は観光旅券や登録などの事務手続きを一手に行っている。

「三年で財源がなくなる‥‥」

 そう呟く古屋。

「阿呆が。今のは申請費用だけの財源だよ。正式な登録費用が一万五千円、異世界渡航旅券の一回の渡航料が片道三万、往復だと五万」

 マチュアがそう話をすると、高千穂が職員に料金表を配布する。

 観光区分は領事の仕事なので、高千穂率いる領事部の仕事である。

「げっ、渡航費用ってこんなに高いのか。カナンの異世界専用ホテルの料金はいくらでしたっけ?」

「一泊二食付きで銀貨三枚。三千円ですか?」

「安いっ。なら良いのか」

「ええ。それに四回使用可能の渡航旅券なら十八万。いまは各地のツアー会社が渡航手続き代行の申請を持ち込んでいますから、それが通ると片道二万まで下がるらしいですよ。うちの取り分は変わりませんけどね」

 クスクスと笑う高千穂。

「私達職員は無期限渡航旅券を所持していますから、それだけでも価値があるわねぇ」

 十六夜がそう告げると、マチュアが笑う。


「そんな余裕はなくなるよ。来月から交代で冒険者業務がつくからな。任期一ヶ月、冒険者ランクCまで上げて来いよ」

 ふぁ?

「ま、マチュアさん初耳ですよ。それ何ですか?」

「そんな業務ありですか?」

 古屋と十六夜、吉成の三名が叫ぶ。

「ありさ。来月末からはカナンからの観光使節団も来るんだよ?その引率をこっちの人間に出来るとでも?」

「そ、それは‥‥」

「大使館の業務だよ。外交使節に関する全般業務。酔って暴れるカナンの人達を止める事が出来るのは冒険者だけ。という事で頑張れ」

 ニイッと笑うマチュア。

「私たち領事部の仕事ではありませんので。危険手当分頑張ってください。では失礼します」

 頭を下げて事務室に戻る高千穂。

 なお、赤城と高畑組はすでにC認定を受けたらしく、免除である。


「はーっはっはっはっ。カナンで勤務した一ヶ月、業務終了と同時に冒険者関連施設に通った私達に隙はない‼︎」

 勝ち誇る高畑だが。

「なら、赤城と高畑さんは私の知り合いとダンジョン研修だ。私もついて行くから心配するな?」

 はぁ?

「ま、マチュアさん。何で私ダンジョン研修?」

「いずれこっちの人間も冒険者になるでしょう?その時のサポート要員。Bランクになったら危険手当分上がるよ?」

「喜んで‼︎」

 きみは居酒屋の店員か?

「あの、私HTNの番組でもうダンジョン入りましたけど」

「うん。だから赤城さんはC+でしょ?あと少しでBだから二人で頑張れ」

 そのやり取りを、三笠さんは笑いながら見ている。

「三笠執務官は実地ないのですか?」

「私はここにいるのが仕事。皆さんの留守は守りますよ。骨は拾いますから頑張ってください」


「「「「シャレになってない」」」」


 全員の絶叫が響き渡った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 



『これ程のものとは‥‥』

 午後。

 サウスアラビア首長国連邦からムハンマド皇太子がやって来る。

 ここからはマチュアの仕事。

 会見室で、マチュアはムハンマド皇太子の前に10体の鎧騎士パンッァーナイトを並べていた。

 そのうちの一体と同調すると、自在に動かし始めたのである。

『これがカナンの魔導技術です。皇太子が望んでいたのはこちらですね?』

『ええ。あと、魔法鎧メイガスアーマーというのも頂きたい』

『それはお断りする。あれは国家機密の塊、おいそれと手渡すことはできません』

『しかし、これを購入するだけでは、私の目的の半分も満たさない。私は、私の私設軍隊として魔法鎧メイガスアーマーを50体は所有したいのです』

 必死にそう告げるムハンマドだが、マチュアは頑なに頭を下げない。


 そもそも、現在ある魔法鎧メイガスアーマーはロビーに展示しているゼロワン一体のみ。しかもプロトタイプなので、まだまだ改良の余地がある。

 シスターズや鎧騎士パンッァーナイトなどの金属の塊である普通のゴーレムではなく、骨格フレームから人工筋肉まで、全て人のように組み込んだ魔法鎧メイガスアーマー

 どのような弊害があるかなどまだまだ分かっていない。

 カナンで作るとまたツヴァイから嫌味を言われるので、マチュアは日本で作る事にしたらしい。

『しかし、そんなに欲しいのですか。困りましたねぇ』

『今回は色々な目的がある。例えば転移門ゲート、あれを我が国にも設置して欲しいとか、無期限の異世界渡航旅券を発行して欲しいとか。そしてマチュア殿、貴女を我が妃に迎え入れたい』

『いくら皇太子の頼みでも、魔法鎧メイガスアーマーはお渡しできませんし転移門ゲートも作りた‥‥最後なんつった?』

 ポッと頬を赤らめるムハンマド。


『マチュア殿を我が妃に。リアルエルフを妻に迎え入れたい』

 その言葉に、眉間に皺を寄せて考えるマチュア。

『はてさて。最後の言葉は聞かなかったことにしますね。という事ですので、鎧騎士パンッァーナイト10体、しめて十万円。これで宜しいですか?』

――ドン

 すぐさま現金十万円を支払うムハンマド。

 そして側近が鎧騎士パンッァーナイトをアタッシュケースにしまうと、部屋の外に出て行った。


『あと、異世界渡航旅券は発行されますか?』

『無制限は不可能ですが。まずは往復分を発行しましょう。それで宜しいですか?』

『はい。それでお願いします』

『では、申請料と登録料、渡航往復合わせて6万にまけておきます』

『護衛や従者の分も必要で、最低でもあと百人分は必要ですが』

『一度に渡航できるのは十名まで。これは決まりなので無理です』

『では、十名でお願いします』

『その十名は何処ですか?もし本国でしたら一度こちらに連れてきてください。ここで登録しますので』

 淡々と話を続けるマチュア。

 すぐさまムハンマド皇太子は異世界渡航旅券と契約を施し、日程を合わせて護衛達も後日登録にやって来る事になった。


『さて、魔法鎧メイガスアーマーはどうしてもダメですか?十億でも用意しますよ?』

『はぁ〜本当に金余ってますね。十億が百億に変わっても無理ですよ。あれはまだまだ改良しないとなりませんし、量産なんて考えていません』

『では、後日、マチュアさんの気が向いたら、王室専用機として鎧騎士パンッァーナイトをオリジナルデザインで作って頂けますか?』

 お、引いた。

 意外としたたかな皇太子である。

『ほう、その程度なら。但し最強スペックとかはダメですよ?リミッターまでは能力を上げられますけど。それで良ければデザインを送っていただければ』

『それで結構です。もしマチュアさんの気が変わったら、同じデザインの魔法鎧メイガスアーマーを作ってくれると嬉しいですね』

 ニコニコと笑うムハンマド。

『はぁ〜そう来ますか。皇太子の粘り強さには折れますよ。今ある魔法鎧メイガスアーマーと同スペックのものを用意しますよ。十億、払って頂きますよ?』

『結構です。あとは‥‥』

 まだ注文があるらしいが、それはすぐに理解した。

『妃にはならない。全力で断る。もしこれ以上その話をするのなら、魔法鎧メイガスアーマーの話もなしです』

『そうですか。では諦めましょう。魔法鎧メイガスアーマーの契約書ありますか?』

 そう問われて、マチュアは領事館事務に連絡を入れる。

 いつか鎧騎士パンッァーナイトの売買契約があるかもと思って用意していたものである。

 それを雛型に魔法鎧メイガスアーマーの契約書も用意すると、正式に契約がなされた。


『では、振り込みを確認したらすぐに製作を開始します。デザインを早く送ってくださいね』

『了解です。本日は有意義な話し合いができて満足です。後日、素敵なプレゼントも持ってきますよ』

 ガッチリと握手を交わすと、ムハンマドは護衛を連れて大使館を後にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「はぁ、疲れたわ。誰か私に紅茶とケーキをください」

「はいはい、今お持ちしますね」

 いつものソファーに潰れるマチュア。

 そこに淹れたてのハーブティーとアップルパイが届けられた。

「話し合いは終わりましたか?」

「ええ。みんなの給料の7年分稼いだわよ。至急魔法鎧メイガスアーマーを一騎組まないとならないけどね』」

「あれ売ったのですか?」

「買い取られた所で、向こうはどうにも出来ないわよ。一騎十億、そんなものでしょ?」


――ブーッ

 あちこちで吐き出す一行。

「あ、あれが十億?」

「汎用人型決戦兵器が十億ですか?」

「解析出来るものならしてみろっていう所よ。内部の金属骨格と精神感応金属による人工筋肉、人間の心臓部分に当たる魔力炉、ミスリルによる神経線維、魔晶石削り出しの感応制御球、それらをコクピットに浮遊させる魔力維持装置と水晶削り出しのクリスタルパネル。全てを制御する魔導結晶と似鳥の椅子。今の地球で再現可能かな?」

 淡々と説明するマチュア。

 だが、その中でも再現できるのは似鳥の椅子のみ。

 魔法処理による中空構造骨格など、ナノテクノロジーでも再現不可能。

 ワイヤーを編み込んで人工筋肉は作れても、それを意識下で収縮する技術はない。

 ましてや機体を起動させる『魔力炉』など、マチュア以外には作れない。

「という事です。では私はあれを量産してくるから」

 そう説明してロビーに向かうと、量産用魔法陣を起動。

 そこに魔法鎧メイガスアーマーを配置すると、材料を全て放り込んで魔法陣を起動する。


――ブゥゥゥン

 巨大な結界に包まれる魔法鎧メイガスアーマー

「おおう。七十九時間かぁ。そうなるよなぁ‥‥」

 完成までは3日弱。

 素体さえ作れば、後は魔法で微調整を行うだけである。


「さて手が空いた。高嶋、雪祭りの件はどうなったの?」

 黙々と新しい感応制御球を仕込みながら、マチュアは問いかけた。

「抽選も審査も通りましたよ。作るのは魔法鎧メイガスアーマーと冒険者です」

 淡々と説明しながら図面を取り出す。

 それをマチュアの元に持っていくと、ドヤ顔で見せる。

「へぇ。イメージは悪くないし、真面目な作品だね。いいんでない?」

「経費でスコップとかバケツ買っていいですか?」

「別に構わないわよ。カイロは必要?」

「赤城さんが耐冷結界レジストコールド張ってくれるので問題ありませんよ。後、仕上げのお願いがありまして」

 ふむ。

 なんだろう?

「何を企んでる?」

「期間中に溶けないように魔法処理をお願いします。それは赤城さんでは無理らしいので」

 意外と真面目な意見。

「雪像を範囲結界で囲って。その内部に冷気を施して結界をロック。赤城さん出来る?」

「え?え〜っと。ロック以外はできます」

 おや、なかなか優秀である。

「ロックは私がするね。後はやってみて。で、いつから作るの?」

「今日からですね。仕事終わったら行ってきますよ」

「はいはい。じゃあ頑張ってね。私はここでパーツ作ってるから」

 一旦しっかりとしたものさえ作れば、後はメモリーオーブにデータを保存して量産可能。

 そこまでが大変なのである。


 やがて勤務時間も終わると、帰宅組と雪像組に分かれて移動を開始。

 ノー残業が基本の異世界大使館は、正門外で警備している自衛官以外は誰もいなくなる。

 最後まで残っているのはマチュアのみ、のんびりと魔法鎧メイガスアーマーのパーツを作っている。

「‥‥資料が欲しいわ。といっても、リアルでロボットの資料なんてないわなぁ」

 一つ一つのパーツを作るたびに深淵の書庫アーカイブでデータを確認。

 それを組み込んでまた確認。

 一番めんどい骨格フレームはゼロワンのものを作るため、内部システムを作らなくてはならないのだが。


――ピッピッ

「お、センサーに反応かぁ。誰だ?」

 敷地内に仕掛けてある広範囲・適性感知が発動する。

 深淵の書庫アーカイブで調べると数は四人、裏口に回っている模様。

「これで音のしない爆弾とか使ったら格好いいんだけどなぁ」

 隠蔽で姿を消すと、裏口に向かう。

 どうやら普通にピッキングしているらしく、カチカチと音がする。


(普通の泥棒かぁ。加減しないとなぁ)


 心の中で呟くと、マチュアは鍵が開くのを待っている。

――カチッ

 しばらくして鍵が開けられると、先の曲がった鏡が差し込まれ、中を確認している。

 そーっと扉が開き、黒ずくめの四人が入ってくる。


(あれ?警備システムが作動していないぞ‥‥と、そうか私いるからか)


 一人で納得すると、一番後ろの侵入者の後ろに立ち、素早く影の中に潜り込む。

 そして足首を掴むと、影の中に引きずり込んだ。

「うわ」

――ズボッ

 不意に仲間が振り向くと、上に伸びていた手首が影の中に消えるのが見える。

 それで恐怖したのか、残った三人が裏口に走り出す。

 だが。

「そこまでだっ‼︎」

 拘束の矢で三人を捉えると、影の中の一人も引きずり出して拘束する。

「全く。何処の泥棒さんだよ?」

 黒い覆面を外す。

 すると、金髪に青い瞳の外人の顔が見える。


「悪いけど持ち物検査するからね。全く何処の国のエージェントだよ?」

 ピッキングツールから始まって、オンラインで監視しているセキュリティを麻痺させるためのノートパソコン、銃器と通信機などなどを取り上げる。

『まさかアメリゴじゃないよね?ルシア?』

 そう問いかけても沈黙する。

 ならば加減はいらない。

 外の守衛室で待機している、在外公館警備対策官に連絡を取る。

 異世界大使館の場合は、警備として選ばれた現役自衛官が派遣されている。


「侵入者ですか?」

「金町三曹、大淀三曹、曲者を捕らえたよ」

やってきた二人の自衛官に、あっさりと告げるマチュア。

「こ、これは。申し訳ない」

「まさかこんな事態が来るとは。これは公安に?」

 二人の自衛官がマチュアに問いかけるが、マチュアは首を左右に振る。

「まさかぁ。カナンの敷地で捕まえたんだもの。カナンのやり方で調べるさ」


――パチン

 軽く指を鳴らして四人に恐慌フィアーを施す。

 途端に顔中が真っ青になり、ガクガクと震え出した。


『何処の国に雇われたの?』

『‥‥』

 それでも沈黙を保とうとする。

 ならば加減は無用。

 恐慌に余剰魔力を注いで、更なる恐怖を植え付ける。

「Блядь‼︎」

『お、誰がビッチだよ。ルシアかぁ‥‥何処の所属?』

『クソゥ‥‥』

『お、その態度良いなぁ。それ以上沈黙するなら、魔法でいじめるよ?』

『ふん、出来るものならやってみろ‥‥』

『良かろう。生きたまま全身を切断されて、それでも生きている状態を維持して本国に届けられるのと、何を食べても一生しゅわっと炭酸の感覚がするのとどっちが良い?』

 微妙な選択肢。

 どのみち殺すという選択肢はないらしい。

『クッ、殺せっ』

『クックックッ、断る。男にくっ殺されても嬉しくない。では君達には最高の魔法をお届けしよう』


――パチン

 マチュアが指を鳴らすと、男たちの意識はスーツと消えていった。

「プロだな。公安に引き渡すから連絡しておいて」

「は、はい。魔法で何かしたのですか?」

「眠らせた。痛いの嫌いだから」

「え?」

 マチュアの言葉に呆然とする自衛官。

 散々脅していながら、いざどうするかと言うと眠らせただけ。

「切り刻んだりしないのですか?魔法で」

「怖いこと言わないで。捕まえるのに体術使ったり魔法使うけど、拷問や尋問に肉体的苦痛を与える魔法は使わないよ。精神的には追い詰めるけど」

 そっちの方が怖いと二人はおもったが、言葉には出さない。

「ここは治外法権なので、魔法で殺しても誰も文句言いませんよ?まあ殺さないに越した事はないですが」

「いやいや冗談じゃない。余程の事がない限りは攻撃魔法なんてこっちの人には使わないよ。本当に死ぬから」

 それで睡眠や拘束魔法で敵を捕らえているのかと納得。

 やがて敷地外に自衛隊の車両が到着すると、侵入者の身柄を預けた。

「それじゃあしっかりと取り締まるよう伝えてね。この人達プロだから」

「了解しました。それでは」

 引き取りに来た自衛官に挨拶すると、マチュアは金町三曹と大淀三曹にも頭を下げる。

「後であったかい食事を届けますので。では失礼します」

 スタスタと何もなかったように館内に戻るマチュア。


 そして約束通り豚汁とおむすびを差し入れると、再び作業に戻った。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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