地球の章・その2 とある魔術のゴーレム技術
「う〜ん」
ボールペンを咥えて唸るマチュア。
大量の羊皮紙を広げて、そこに色々なものを殴り書きしている。
時間はちょうど昼休み。
職員達が各々勝手に、保存庫より食事を取り出して食べている最中であった。
「マチュアさん、保存庫のケーキ食べて良いですか?」
「あそこのは好きにして良いよ。でもケーキあったっけ?」
「海兵隊のローレンス少将が定期的に送ってくれますから。毎日三食食べても無くなりませんよ?」
へぇ。
そういえばあったなぁ。
「わたしにも何か持ってきてくれる?」
「はいはい。チョコタルトでいいですか?」
「甘いものは大歓迎だ」
十六夜がマチュアにチョコタルトを一ホール差し出す。
ちゃんと6つに切り分けられている。
それを一つつまみ上げると、パクっと食べる。
「今、何をしているのですか?」
大量の図面を眺めながら、十六夜が問いかけると。
「あれみたいなものだよ」
高嶋と古屋がTCGを楽しんでいる。
「あれはカードゲームですよ?」
「なんて言ったっけ?」
「キンデュですよ、漫画が原作のやつですね。『キングオブデュエリスト』。日本で一番流行っているカードゲームですよ?」
ふぅん。
再びチョコタルトを食べる。
「古屋、クズカード一枚頂戴」
興味本位でそう頼むが。
「カードゲームにはクズカードなど存在しません‼︎」
そう力説する古屋。
「あ、それは済まなかった。何か気に障ったか」
「違いますよ。どんなカードでも勝てるようにするっていうのが古屋の定説なんですよね。ファンデッキって言うんですか?」
「その通りだ。全てのカードに愛情を注いでいるんだ。だから勝敗なんて関係ない」
つまり古屋は弱いと。
さっきからカードを握りしめてグヌヌと唸ってばかりである。
「マチュアさんもこういうゲーム好きなんですか?」
「わたしは作る方だからねぇ」
しみじみと言うマチュア。
すると高嶋と古屋が食いついてきた。
「カナンにもこう言うゲームあるのですか?」
「ちょっと教えてくださいよ」
真剣に問いかけて来るので。
――ゴソゴソ
と、空間から箱を出す。
追加増産した第一弾の鎧騎士である。
まだ袋詰めしていないらしく、剥き出して箱に入っている。
「へぇ、超合金だかぁ。子供っぽいですね」
古屋が笑いながら言うので、マチュアは一つを手にとって魔力を注ぐ。
――ブゥゥゥン
一瞬輝いたかと思うと、タイプ・ゴリアテと呼ばれている鈍足騎士がマチュアの手から飛び出して動き出す。
「‥‥え?」
「まさかですよね?」
じっとゴリアテを凝視する二人。
すると、二人の前で華麗な演武を披露して見せた。
「動くんだよ、魔力を注ぐとね。しかも自身の意思に合わせて自在にな。全ての機体に長所と短所があって、更に追加パーツで武器や鎧などもカスタマイズ可能だ」
もう、二人の瞳がキラキラしている。
触りたくてウズウズしているのがよくわかる。
「ま、マチュアさま、これおいくらで?」
「カナンで市販されているのですよね?」
そう話しながら、財布を出す二人。
今買う気なのか?
「えーっと。カナンのアルバート商会で売ってるから、今度買ってこいよ。どうしても今欲しいのか?」
「「是非」」
力説する二人。
ならばとマチュアが一言。
「まてよ、今のレートなら一体銀貨3枚か。ここはカナンだから職員価格で良いよ、好きなの選ぶと良い。一人一体だけね」
――ジャラッ
次々と支払う職員たち。
気がつくと高畑や赤城、三笠執務官まで購入している。
「三笠さん、一人一体ですよ?」
「うちは子供が二人いるので、合わせて三体です」
「あ、成程。ならこれが袋で、中に取り扱い説明書入ってるから、カナンの文字はもう読めるだろ?」
そう話しながら、いつもの空間から梱包用の袋を取り出して手渡す。
「カナンの言葉なら、もう日常会話も読み書きもマスターしてますよ」
胸を張る高嶋。
それぐらい出来ないと、異世界大使館員は務まらない。
「なら説明しなくて良いね。ここのメンバーなら魔力係数30超えてるでしょ?それ以下だと動かないよ?」
皆次々とゴーレムの初期設定をすると、ゆっくりと動かし始める。
10分もすると、全員が自在に動かせるようになっていた。
「マチュアさん、追加で欲しい時は買えますか?」
「カナン行けカナン。これは納品用なの」
「日本で売りません?外見もアニメや漫画みたいにして。ライセンス契約すれば儲かりますよ」
「興味ないわ。そんなの面倒いし、一社独占契約になるの分かり切ってるでしょ?」
自社アニメの作品だけに動くギミックをつけたくなるのは自明の理。
フレームだけ販売して、外装を各社統一規格で作れない事もないが。
「そうですか?絶対に儲かるのに」
「きっと売れますって」
――ふぅ
溜息をつく。
「そもそも量産しているのはカナン魔導商会よ。私はプロトタイプを作って納品しているだけなんだから。販売は魔導商会とアルバート商会で、数も一人一個限定、中身を選べないっていう制約があるの」
「まあまあ。日本で遊べるのは私達の特権。それで良いじゃないですか?」
三笠が仲介に入る。
「まあ確かに。それでは遊ぶとしますか」
「そうだな‥‥それじゃあやりますか」
そう話してロビーに移動して遊んでいる高嶋と古屋。
それを見送りながら、マチュアはタルトの最後の一つを口に放り込んだ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
職員たちがゴーレムファイトに燃えている中。
マチュアはロビーで魔法陣を展開して、何やら作業をしていた。
「制御球をセットして。データベースはこれらの雑誌とこのカードの束。初期データは鎧騎士の第一弾で。 材料はこのシュレッターに掛けた紙。これで良いかな?」
いつものマチュアではなく、ちゃんとローブと杖を装備しての作業なので、職員達も集まって見守り始めた。
「アニメイト起動。ゴーレムの素材は紙、ペーパーゴーレム発動‼︎」
マチュアの掛け声と同時に、魔法陣の中に大量のゴーレムが完成するが。
その形状に高嶋と古屋は驚いていた。
「これはキングオブデュエリストの第一弾カード。漫画『サドンデス』の主人公・神谷悠人が使っていたカード『白銀の銃騎士』が実体化している‥‥」
「あれはライバルの松戸祭火の『狂える皇龍』。あんなものまで‥‥」
流石は国民的ゲーム。
その漫画の世界が正に目の前にある。
解説的な台詞をありがとう。
「マチュアさん、これ集現社に写真撮って送りましょう‼︎」
「いや、動いてる動画を撮ってネットに上げましょう」
拳を握ってマチュアの元で力説する二人だが。
「‥‥何か違うんだよなぁ。確かに写真送ったりすれば盛り上がるけど、何かこう‥‥違う」
完成したゴーレムは48体。
全てデザインが違うが、正にゲームの世界が目の前に広がる。
「これは販売?それとも量産用の雛型?」
恐る恐る問いかける古屋だが。
「ボツ。廃棄処分。溶かして原料にする」
「いや!それは勿体ないですよ。カナンの魔導技術の宣伝として活用しましょうよ?」
古屋が力説するが、どうもマチュアは納得がいかない。
「何だろう?何か違うんだよなぁ。言葉では言い表せない、何ていうか‥‥ロマン?」
出たなフワフワ理論。
「ですが、カナンの魔導技術の宣伝というのには同意しますね。これは良いと思いますが」
三笠がにこやかに告げる。
それにはマチュアも頭を捻りつつ唸る。
「う〜ん。そうなの?そういうものなの?」
「そうですよ。絶対にウケますよ」
「是非やらせてください。宣伝企画立てますよ」
それならば。
「じゃあ、この件は高嶋と古屋に任せるわ。三笠さん監督お願い。後、他社からの注文は受け付けないから、そのつもりでね」
「「はい」」
返事だけはいい男衆。
その日から高嶋と古屋はあちこちに連絡をしたり、時間のある時にはキングオブデュエリストのゴーレムを使って撮影をしていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
そして数日後。
「三笠さん、キングオブデュエリストの件はどうなったの?」
「確か明日から始まる集現社の『ステップ・フェスティバル』でお披露目するそうです。二人は会場入りしているはずですよ」
「ふぅん‥‥」
「本当に興味ないのですね。いつもならすぐにでも飛び出して自分で宣伝するのに?」
そう三笠が告げるが、何故か今回はそういう気にならない。
腕を組んで頭を捻るマチュア。
「何だろうなぁ。ロマンは認めるけど、別に鎧騎士の外見と素材変えただけだからなあ。あの実験だって、ゴーレムの材質を紙で出来るかっていう事だし、外見データはついでだよ」
「はあ、成程。だからですよ」
話を聞いていた十六夜が話に参加した。
「だから?」
「マチュアさんにとっては、ゴーレムの素材実験の結果が全てであって、キングオブデュエリストのゴーレムはおまけなんですよ。だから、興味がなくなったのでは?」
――ポン
と手を叩くマチュア。
「あ、成程、納得したわ。紙ゴーレムの汎用性を考えていたから、キンデュの話には食いつかなかったのか、あー成程ね」
どうやら自分の中で折り合いがついた模様。
「東京で行われるワールドホビーフェアっていうのがあるんですけど、ホビー関係メーカーが競って新商品の宣伝をするんですよ。鎧騎士、出しますか?」
――ガバッ
三笠がそうマチュアに話を振ると、がぜんマチュアは話に飛び乗った。
「やらいでか。ゴーレムキングの体験会会場も申請。当日販売用に限定品‥‥ふぁ、魔力足りないと動かないから魔力感知球も何個か持っていかないと‥‥こっちの世界用に新しく作るかぁ」
生き生きとするマチュア。
それを見て、三笠も頷く。
「ね。自分の事になるとわかりますよね?」
「あ〜わかるわ。とりあえずはホビーフェアは申請よろしく。関税もかかるから値段は一体金貨一枚で。あと、目玉になるもの持っていくか」
暫し考えるマチュア。
そして。
「十六夜さんと赤城さんはホビーフェアのチームで。鎧騎士のお披露目を行いましょう。それまでは極秘で‥‥って、キンデュでもうバレるか。鎧騎士に関する情報は以後シャットアウトで」
「「はい」」
威勢のいい声を聞いて、マチュアは満足である。
「ワールドホビーフェアは4会場ありますが、どうしますか?」
「へぇ。東京大会があるならそこだけでいいよ」
「ではそう申請しますので」
三笠がすぐに手続きを始める。
いよいよ、鎧騎士が一般公開される日が近くなってきた。
マチュアはロビーで魔法陣を展開すると、今までとは違うゴーレムを作成中。
巨大な鎧騎士のようだが、内部骨格フレームから一つずつ作り出しては、魔力で接合し始めた。
‥‥‥
‥‥
‥
三日後。
集現社フェアから戻ってきた高嶋と古屋。
異世界の技術で作った紙のゴーレムは、参加者や企業に大きな衝撃を与えた。
朝から電話が鳴るが、全て回答不可能という応対で切り抜けている最中であった。
「いやあ、満足ですよ。是非とも商品化して欲しいっていう話があったり、このゴーレム技術で新しいゲームを作りたいとか、そういう話が後を絶ちませんよ」
「現場では話を聞きましたが、どれもこれも儲け話になりますよ。マチュアさん、やはりここは売り出すしか?」
そうマチュアの座っているソファーで説明する二人だが。
「却下。他社に乗っかる気はないよ。報告書作成したら、三笠さんの所でハンコもらって。後は通常業務よろしくね。集現社の依頼でならキンデュエ用に貸し出す。その時は二人が動いて」
「あらまあ。勿体ない」
「うちは異世界大使館。日本の企業に乗っかって版権もの作るぐらいなら、カナンオリジナルを売るよ。違うかい?」
その言葉もごもっとも。
ならば諦めて電話応対に努める。
マチュアは淡々と図面を書くと、人工筋肉やら制御用のクリスタルパネルやらをロビーで作成し、隅っこに置いておく。
いくつもの材料、いくつものパーツ。
そして極めつけは、近くの似鳥という家具屋さんから買ってきた椅子。
それを買って来て加工したりと、色々と大忙し。
そんな中にも一般業務が入ってくると、マチュアは目が回るぐらい忙しくなっていた。
「あ、あの‥‥マチュアさん、それってまさかの男のロマンですか?」
休憩時間のたびに高嶋と古屋がやってきて問いかける。
「そうだよ、あれだよ」
「ワールドホビーフェアの展示用ですよね?中まで精密に再現ですか?」
「まっさかぁ。ちゃんと動かすから心配するなって」
「僕達もワールドホビーフェア手伝いますよ、何か手伝いたくなったなぁ」
「そうか?でもみんないなくなるとまずいからここに待機な」
下心見え見えの二人は連れていってあげない模様。
高嶋と古屋に合掌。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
そして。
運命のワールドホビーフェア前日。
マチュアと赤城、十六夜は東京にある『東京国際展示場』にやってきていた。
前日に会場入りすると、早速飾り付けを開始する一行。
「マチュアさん。つかぬ事をお聞きしますが、当日のコンパニオンは私達ですか?」
「二人には食いついた企業に対しての説明があるでしょ?カナンの知り合いの獣人やエルフさんに頼んでいるよ?」
それを聞いてホッとする二人。
まさかコンパニオンの際どい服を着せられるのかと思ったのである。
すでにオクタノルムと呼ばれる金属フレームで、既に会場のブースは完成している。
そこに急遽作った電飾とパネルを展示していくと、あちこちの企業が集まってきた。
「カナン魔導商会ですか。魔法の道具でも売るのですか?」
「詳しくは明日ですね」
「商品の搬入は朝イチですので」
そう話をしていると、マチュアは体験会用のバトルフィールドを設置する。
全て魔法によって作った、リアリティあるジオラマベースである。
これだけでもかなりの価値はあるのだろう、近くの業者が値踏みを始めている。
その近くにある、直径5mの空間。
ここに何が置かれるのか、周囲のブースは興味に尽きない。
「そんじゃ、運営に行ってくる。大物を置くのに許可取って来るから」
そう話ししてから、マチュアは運営事務局のあるブースに向かった。
「これはこれは。今回はカナンからの出店という事もあって、事前問い合わせがかなりあるのですよ」
「それで、うちのブースの大物の審査受けに来たんだけど、どこで見せたらいいですか?」
書類を取り出して提出するマチュア。
「ふむふむ。等身大の鎧騎士? 名前は魔法鎧、機体名はゼロワンですか。どこにありますか?」
「ここにあるから、どこに出したらいい?」
「ええっと。では、こちらのフロアーで」
そのまま隣の広いフロアに向かうと、マチュアは周囲に報道陣がいないことを確認する。
「それじゃあ」
杖で足元をコンと叩くと、巨大な魔法陣が展開し身長5.5m程の巨大な鎧騎士が姿を現した。
「これは‥‥重さは何キロですか?」
「魔力による自重軽減を施しているので120kg程。戦闘時には最大1.2tまで自重を変化できます。人が乗って四肢をロックするので、停止時や搭乗時は足と膝、盾の三点で身体を固定しますよ」
「人が乗るって、ああ、そういう仕掛けもあるのですか」
そう話しているので、マチュアは魔法鎧の近くに向かうと、胸部装甲の下に手を入れる。
そこの水晶に魔力を注ぐと、胸部装甲が上に開き、中にコクピットのようなものが現れた。
「うわぁ、本物かぁ」
「こんなものまで‥‥まさかとは思いますが」
「まさかだよ。それっと」
マチュアは乗り込んで椅子に座ると、ベルトで身体を固定する。
そして椅子の左右の水晶を掴むと、グイッと引っ張った。
――プシュゥ
ゆっくりと胸部装甲が閉じる。
そこに付いているコンソールに手をかざすと、コクピット内の水晶のパネルが点滅し、周囲を映し出した。
「それじゃぁ動くから離れててね」
――ブゥゥゥン
ゆっくりと立ち上がると、マチュアはゼロワンで軽く手を振る。
動かし方は鎧騎士と同じだが、両手に水晶を握らなくてはならない。
それはプカプカとコクピットの中を浮いており、持ち手の意思を機体全体に伝えるコントローラの役割をしている。
「これ、軍用じゃないですよね?」
「まだ出来立てのほやほやだよ。本国でも公開していない最新鋭の技術だよ」
「転びません?」
「立て膝でロックします。デモンストレーションの時以外は動かしません。安全自律システムもあるので、倒れそうになったら自分でバランス取ります。どう?」
「了解です。搬入は今日ですか?」
「明日にするよ。前日搬入は飾りだけ、鎧騎士とかも全て明日。まだこっちの世界にはない技術だから、無くすと大変なのでね」
そう話すと、立て膝に戻って降りるマチュア。
「あ、あの、写真撮っていいですか?」
恐る恐る問いかける運営スタッフ。
ならばとマチュアもコクピットを開く。
――プシュゥ
「機体登録は私だから動かせないけど、乗って写真撮っても好きにしてもいいよ。ただし、ネットにアップするのは明日の開場後でお願いします」
そこからは写真撮影会状態。
約10分間の撮影の後、スタッフも満足したらしい。
マチュアも魔法陣に魔法鎧をしまうと、許可証を持って赤城達の元に戻った。
‥‥‥
‥‥
‥
ホビーフェア当日。
朝一番でマチュア達は鎧騎士と魔法鎧を搬入する。
赤城と十六夜は展示棚に機体を並べ、ガラスで蓋をする。
簡単な説明書をパンフレット棚に収め、体験会用の機体をバトルフィールドの横に並べておく。
彼方此方の展示棚の前には魔力感知球を並べ、盗まれないように固定する。
そして転移門を開き、コンパニオンとして雇った馴染み亭の常連の獣人やエルフを呼んでくると、普段の冒険者装備を身に付けてもらう。
自動翻訳指輪も手渡し、最後の打ち合わせを行うと、いよいよ開場待ちとなった。
「さて、私からの注意事項としては、まず安全第一。怪我人が出たら私と赤城さんで治療します。盗難防止は完全ですので、まあ盗まれる事はないと思いますが‥‥その時は臨機応変で」
一つ一つの話をメモに取る一行。
「商談については全て断ってください。あくまでもカナン魔導商会とアルバート商会の代理出店である事を説明して、商談希望はカナンに来いと伝えてください。名刺はそこの箱に入れてね」
「つまり運ですね」
「そ。異世界渡航旅券が手に入れば商談に向かえるけど、手に入らなかった場合は再度申請して欲しいと。商用の許可証を発行する気は無いのでね」
「鎧騎士の技術で何か商品開発をしたいと言われたら?」
「まだこっちに技術を提供する気がないので断ってください。そもそもゴーレム作れるのは錬金術師でもある私と、後二人ぐらいしか異世界にはいないので。あくまでも、カナンは『参考出展』である事をお忘れなく。では、今日と明日の二日間、宜しくお願いします」
「「「お願いします」」」
そう話すと、マチュアはバン、と手を叩く。
――ヒュンッ
そして魔導師装備に変化すると、マチュアは体験会の位置に着く。
『それでは、只今よりワールドホビーフェアを開催します』
場内アナウンスが響くと、会場に客が入り始めた。
前会場の大阪と名古屋、福岡の三会場では、各社の新商品発表会に人が集まっていた。
アイドルや声優のトークショー目当てでファンが殺到していたのである。
それはこの東京会場でも変わらない。
鎧騎士に関する事前データはネットなどでは公開してあるが、動くとは一言も書いてなかった。
だから、体験会といってもステージや展示されている鎧騎士を眺めたり写真を撮るもの達、巨大な魔法鎧を前に記念撮影をする程度でそれ程混み合ってはいない。
獣人やエルフのコンパニオンの撮影をするものはかなり多いが、まあまあのんびりとした空気である。
「なんか予想よりも平和ですね‥‥って、マチュアさん何してるんですか?」
近くの鎧騎士を手に取ると、マチュアはステージに立たせる。
「デモンストレーションだよ。誰か相手して」
「では私が」
十六夜がグスタフを、マチュアがサードナイトという騎士をステージに置くと、突然激しいバトルを始めた。
――ギン、ガギン
激しく打ちなる剣戟と起動音で、突然大勢の人が駆けつける。
只の展示品がまさか起動しているとは、誰も思わかったのだろう。
「それは動くのですか?」
「誰でも動かせるのですか?」
赤城の元に殺到する客。
すると十六夜も機体を下げると、赤城とともに接客を開始。
代わりにエルフのコンパニオンが別の機体を手に参戦した。
「そちらで体験会の参加チケットを配布していまーす。十一時と一時、三時に行いますので。各時間大人も子供もそれぞれ先着20名ですので、奮って参加宜しくお願いしまーす」
猫耳獣人のミャウが叫ぶ。
示した先の自動発券機は二台あり、子供用と大人に機械が分かれている。
大人用はあっという間に十一時のチケットの発券完了を示した。
このあとはキャンセル待ちのチケットだが、これにも大勢の人が申し込んでいる。
気がつくと、デモンストレーションステージには大勢の観客や報道が集まっている。
報道には赤城が、業者や観客には十六夜とコンパニオンが対応している。
マチュアは途中から風の精霊でカナンブース内に解説の声を届けている。
『鎧騎士は、登録した操縦者の意思を汲み取って起動します。機体それぞれに長所や短所があり、それをどのように生かすかは、ナイトライダーの技量になります」
「リアルで格闘をしているものは、その技術が活かせますか?」
「はい。不可能ではありませんと伝えておきましょうか。剣士ならば、このような連撃も可能です」
――シュシュシュンッ
素早く四連の突きを見せるミャウのサードナイト。
対してマチュアは、グスタフで鉄山靠を披露する。
「市販されますか?」
「そうですね。これは現在はカナンでしか販売していません。明日は販売ブースにて限定販売しますが、それは地球の環境に合わせたもので、このオリジナルはカナンでしか販売していません」
「いくらですか?あと、購入数は?」
「金貨一枚ですので、一騎一万円ですか?一人一騎限定です。追加販売の予定はありませんし、個数も制限されていますので」
「カナンに行けば買えるのですよね?」
「はい。そちらのパンフレットに書いてある手順で誰でも購入できますよ。もしカナンに行く事がありましたら、そちらで買えばよろしいかと。その方がお安いですよ?」
機体を動かしながら次々と説明する。
気がつくと、体験会参加者が魔力感知球に手をかざして調べている。
今回用意した鎧騎士は必要魔力は少なくしてあるが、その分出力も弱い。
それでもかなりの人が遊べると確信している。
やがて十一時になると、楽しい体験会は始まった‥‥。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






