地球の章・その1 日常もどうでしょう?
異世界大使館の日常は早い。
マチュアは不定期に大使館に顔を出しているが、最近は出来る限り顔を出すようにしているらしく、朝一番に転移門で出勤してくる。
その他の大使館職員も朝8時40分までには出勤し、9時からの勤務の準備をしている。
勤務仕事は9時からなので、それに間に合えば良いとマチュアは言っているのだか、そこは日本人。
10分前には全ての準備を終えている。
国交が結ばれた時、マチュアは「特命全権公使」から「特命全権大使」に繰り上げられた。
業務の関係でフィリップとツヴァイが「特命全権公使」となり、カナンや日本での業務を担当する。
そしてマチュアのいるこの建物は、異世界大使館もしくはカナン大使館となるのだが、業務内容が大使館と領事館どちらの仕事も兼ねてしまっているため、名目上は異世界大使館となっている。
正門には異世界大使館の標識が掛けられているため、敷地の中は治外法権。
何かとややこしくなっているが、東京に大使館を置きたくないというマチュアのワガママの結果である。
結果、大使館内には政治部と領事部の二つの部署が設けられ、さらに内部では細かい部署が作られている。
三笠執務官は名前はそのままだが、役職としてはマチュアやツヴァイ達の次に高い役職である「参事官」に相当する。
もっとも本人は執務官という呼び方が気に入ったらしく、三笠執務官で統一された。
さて、ここで問題なのはマチュアである。
朝6時から8時の間には領事館にやって来て、厨房で色々な料理を仕込んでいる。
それらは領事館職員の昼食も兼ねていて、マチュアが設置した大きな保存庫に収められている。
空間拡張バッグと同じ効果の保存庫で、いつでも誰でも出来立ての熱々の食事を取る事が出来るようになっている。
機関のトップが訳のわからないぐらい早くくるので、他の職員達も合わせて出て来ようとするのだが。
カナンは朝6時の鐘の音が仕事の開始時間なので、日本とは風習が違う。
それをどうにか説明して、それで妥協したのが仕事は朝9時からと、マチュアがその前に来ても気にしてはいけないの二点である。
現在はこれが正常に機能しているらしく、マチュアも外交官の仕事がない時は事務関係の手伝いをしていた。
というか、ちょくちょく昼寝していた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「‥‥」
目の前の企画書をじっと眺めているマチュア。
HTN放送局のチーフディレクターの藤村が持って来たのは「水曜どうだろう?」の企画書である。
「以前ストームさんと話をした時にトントン拍子で進みまして。あの後にMa'amマチュアにも許可を貰ったではないですか?」
その話をふと思い出すマチュア。
「あー、話したわ。で、なんて話がマァム?」
「大使の呼び方ですよ。男性ならサー、女性ならマァムをつけろと言われまして」
「あっそ。そういう事なのね。まあ慣れますよ‥‥さて、こんな馬鹿馬鹿しい企画書が通ると思いですか?」
カナンで俳優達がダイスを振って、出た目に書かれている事にチャレンジするという番組。
という事は、ダイスの目によってはダンジョンを体験するとか、とんでもない事をやらかしそうである。
「カナンの異世界ギルドのバックアップなしではなし得ない企画です。まだ一般報道のカメラがカナンどころか異世界に入っていないのは知っています。そこを承知で」
手を合わせる藤村。
「今の所、カナンに報道カメラが入ったのは国民放送協会、KHK一社のみ。それも固い内容の紹介だけなのに、その次がバラエティ?」
「はい。普通の旅の紹介番組とかでは味わえないハラハラドキドキ感を楽しんでもらいます」
腕を組んで考えるマチュア。
(そんな企画が通るはずないよなぁ)
(HTNは冒険しすぎよ。いくら大泉陽さん使うからって)
(この後のマチュアさんの怒る顔が目に浮かぶよう。午後の仕事が辛いよぅ)
(そんな企画持って来ないで。マチュアさん怒ったら怖いんですから)
近くの職員達はみな心の中で叫んでいる。
この後はマチュアが企画書を放り投げて鼻で笑うと思っていた。
「よっしゃ、オッケーです。命の保証はしませんけど、ある程度のサポートはします。後日正式な書類手続きもしますので、それまでに詳細やスタッフなどのデータ全て揃えて下さい」
「「「「「えええっ‼︎」」」」
一同声を上げて驚く。
「な、なによ?私が企画を通したのがそんなに変なの?」
「だって、散々報道関係者にはカメラ持って来るなって話していたのに、何でですか?」
「だからよ。バラエティ番組は時間の制約もあるので、彼方此方撮るなんて暇はない。俳優ありきの番組なんだから、カナンという場所はフレーバーでしかないのよ?」
「そ、そんな理由ですか‥‥」
どっと疲れる職員達だが、三笠執務官はウンウンと納得している。
「この件、ツヴァイと三笠さんで話進めてください。通訳はここの職員から出します」
「はいはい。では藤村さん、私が担当しますので、後日改めて打ち合わせをしましょうか」
椅子から立ち上がって応接間に移動すると、ソファーに腰掛けながらそう説明する。
「わかりました。では後日改めて正式な契約書や書面をお持ちします。あの。それでですね、‥‥」
「わかっていますよ。番組の関係上極秘ですね?」
「ええ。出発当日までは、大泉と鈴位の二人にも秘密ですから」
まさか当日になって、異世界に行くとは思わないだろう。
二人の絶叫が聞こえてきそうである。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
とある晴れた日。
マチュアは通訳の赤城を伴ってHTN本社にやってきている。
既に契約その他も全て終わり、本日がロケ初日である。
「あの〜数いる職員の中で、なぜ私が通訳に?」
「だって、冒険者ランクは高いし。回復魔法使えるでしょ?」
そう話しているマチュアに、赤城は諦めた。
「うちの職員で回復魔法使えるの私だけ?」
「正確には、地球人では赤城さん以外はいないよ?殆ど近接か魔法使いだからねぇ。大切な逸材だからこそ、この機会に鍛えておかないと」
ニイッと笑うマチュア。
「やっぱりそうなるかぁ〜」
そう叫びながら赤城はテーブルに突っ伏す。
――コンコン
ノックの後ガチャっと扉が開くと、ADがマチュア達の元に来た。
「今から鈴位さんが目隠しできますので。そこで行き先を説明するそうです」
すると藤村ディレクターとカメラマンの嬉井が入ってくる。
「そんじやあ、先に二人に発行しますか。こちらが異世界渡航旅券です。期間は20日間で作ってありますので」
「撮影は二週間ですよ?」
「後の分は個人でお使いください‥‥まず、登録方法はですね‥‥」
一通りの説明をして登録する二人。
やがてミスター鈴位が来た事を伝えると、カメラが回った。
――ガチャっ
扉が開くと、目隠しされたミスター鈴位がADに連れられてやって来る。
「怖いなぁ〜。ここは何処?」
「ミスター、次に行くロケ地の協力者を紹介しますよ。もう目隠しを取ってください」
そう告げられると、マチュアと赤城も背筋を伸ばして立ち上がる。
――スッ
目隠しを取ったミスターが室内を見渡す。
いつもの藤村と嬉井、そして初顔の赤城と耳をピクピクと遊ばせているマチュア。
――ガクッ
力が抜けたようにその場に座るミスター。
「マジで? ちょっと待ってよぉ。どうやってこんなコネを手に入れたのよ?」
「それが水曜どうだろう班の実力です。今回は異世界カリス・マレスのカナン魔導連邦でのロケです。そして‥‥」
マチュアが前に出ると、あらかじめ預かっていたボードとサイコロキャラメルをミスターに手渡した。
「いやいや、それはダメでしょ?」
「サイコロの旅です。頑張ってください」
ニコリと微笑むマチュア。
「いやぁぁぁ。あなた達は外交官に何させてるの?これ国家間問題にならないの?」
「いえいえ、ギルド全面協力です」
静かに告げるマチュア。
「という事だ。さて、血を一滴貰おうかな?」
藤村が楽しそうに針を取り出す。
あとはお約束の説明。そしてミスターも腹を括ったのか、今度は大泉を引っ掛けに外に向かった。
「あはは。なんか楽しいわね」
「私はサインを貰えて最高ですね。このあとは少し待つようですよ?」
置いてあるお茶を淹れてマチュアに差し出す赤城。
「まあ、のんびりと行きましょうよ。こっちの人はせかせかしてて何かねぇ。もっとおおらかにしても、人はいつか死ぬんだし」
その死生観はどうなのかと思うが。
そんな話をしていると、やがてADが二人を呼びにきた。
「あ。あの、そろそろ出番ですので」
「はいはいと。それでは行きましょか」
ワクワクしながらマチュアと赤城は撮影をしている駐車場に向かうと、その影で隠れている。
番組では、ちょうど次のロケ地の予測をしている所である。
世界地図を前に、メインパーソナリティーの大泉陽とミスター鈴位貴之が、いつもの掛け合いをしている所であった。
「あのねぇミスター、僕が考えるに‥‥もう殆ど行ったのよ?残っているのはねぇ。南極?」
「いやいや、大泉くん。まだ国名なら結構残っているよ?ヨーロッパも制覇していない地域もあるし」
ミスター鈴位が大泉を煽る。
「いやいや。なら‥‥僕としてはアカプルコを押すなぁ。僕たちは散々この番組に貢献してきたんだよ?いわば番組の看板。ぼかぁ常々思うんだけど、もっと出演者を大切にしろと?」
いつもの大泉節でやり取りしている。
それを聞いて、赤城は笑いを必死に堪えている。
「わかったよ。なら、出演者を大切にしようじゃないか」
藤村がニヤニヤと笑いながら話に参加する。
「お?アカプルコか?」
「いやいや。そんなに予算は出せないよ。もっと格安で、暖かい場所だよ。今の大泉君の格好は?」
「ジーパンとTシャツだな。怖いからビーチサンダルじゃないよ?」
「そこそこに警戒しているなぁ」
「当たり前でしょ?このパターンで過去に楽しい思い出があったと思うかい?今回は何処なんだよ?もうブンブンはいやだからね?」
そう大泉が問いかける。
するとミスター鈴位が、世界地図をバン、と叩いた。
「我が水曜どうだろう班は、世界に先駆けてある所に行きます。此処じゃない何処かです」
その言葉に大泉も頭を捻る。
力一杯捻ったが、ふと口元に笑みを浮かべると。
「いやいやいやいや、ぼかぁ知ってるよ。そんな言葉には騙されないよ? あそこはKHK以外はカメラが入る事は許されていない。そんな所に行くなんてねぇ」
「ということです。ご紹介します、カナン異世界ギルドのマチュアさんと通訳の赤城さんです」
その呼びかけで、マチュアと赤城がカメラの前に出る。
すると大泉が慌てて逃げようとした。
素早くミスター鈴位が大泉を捕まえると、再びカメラの前に連れ出したのである。
「まっ、待って、俺、家を出るときに海外行くかもとは言ってきたけど、異世界行くって話ししてないんだよ?」
「大丈夫。二週間しっかりとスケジュールは押さえてある」
「いやいやいやいや。何でカメラが入るの?あれだけの報道規制なのに?」
そう大泉がマチュアに問いかけたので。
「ノリ?」
と一言呟くマチュア。
「ちょ、冗談でしょ?そんな世界の存亡をノリだけで決めるの?」
必死な大泉だが。マチュアと赤城はコクコクと頷く。
「大泉くん、諦めろ。今回のロケはカナン異世界ギルド全面サポートだ」
――シュンッ
藤村とカメラマンの嬉井、ミスター鈴位も異世界渡航旅券を実体化した。
「きったねー。でも俺持ってないぞ。その発行には時間がかかるんだらう?」
マチュアがブランクカードを取り出すと、大泉にスッと差し出した。
「血を一滴ください。それで幸せになりますよ?」
「ここまで来て、世界の大泉は逃げるのかな?」
煽る藤村。
そこで大泉も観念した。
「こ、これに血を垂らすの?」
「そうですね。それであなたの魂とカードが結びつきます。絶対に盗まれず偽造もできない旅券ですよ?」
「よ、よーし、いいだろう‥‥痛くない?」
カードを手にするが、どうしていいか困っている。
「針をお渡ししますので、それでお願いします」
マチュアにそう告げられて、大泉もようやく観念した。
「ちなみにですね、私もついさっき場所を知りました。登録したてのほやほやです」
ミスターが畏まって説明する横では、大泉がカードに血を垂らす。
その様子もカメラで撮られており、恐らく放送時にはかなりの人が食いつくであろう。
――シュンッ
輝くパスポートを構える大泉。
「これでいいのかい?ぼかぁ異世界の言葉はわかんないよ?」
「そのための赤城さんです。さて、まずは現地に向かいましょう」
「赤煉瓦前だね?ロケバスの移動かな?」
「転移門です」
瞬時にマチュアがローブと杖という装備に換装すると、カメラの前に転移門を作り出す。
「‥‥もうね。どうとでもしてくれよ。カナンで何するんだよ?」
「それはこちらです」
ミスターが告げると、赤城がボードを取り出し、マチュアがサイコロを大泉に手渡す。
「ふっざけんなよ?何でサイコロの旅なんだよ?1が『冒険者ギルドで冒険者登録』? 2が『王城で女王と謁見』?はぁ?」
「そうです。異世界サイコロの旅でございます」
ミスターが嬉しそうに宣言する。
するとマチュアが転移門の使い方を説明した。
「これを‥‥こうです」
赤城がパスポートを取り出して扉にチョンと触れる。
すると扉にすっと入って行く。
「マジかぁ。そんなのありかぁ〜」
「マジです。では大泉君から‥‥」
そう説明されて、大泉も観念した。
パスポートを手にすると、それで扉をつつき、すっと入って行く。
そしてミスターも入ると、後は次々と入っていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
無事に検疫と手荷物検査を終えた一行。
カメラなどの機材は別荷物として許可が出ているので、出口とは別の場所から搬出される。
ロビーで機材を受け取ると、一行はカメラを構えてギルド内部を撮影、いよいよ外に出ていった。
「これ、もうカメラ回していいんですか?」
「お好きにどうぞ」
慌てて嬉井がカメラを回すと、街並みを軽く撮影する。
そしてすぐにミスターと大泉にカメラを切り替えると。
「はぃ、あっという間のカナンでございます。いつもの眠っている映像はございません」
「いやまあ、とうとう来てしまいましたね」
「ミスター、ふと思ったのですけど、芸能人でカナンに来た第一号は私ですか?」
その問いかけにマチュアもコクコクと頷く。
「なんと。私が二番で大泉君が一番。これは、水曜どうだろう班の手柄ですよ?そしてこの旅のお供が、こちらの別嬪さん。通訳担当の赤城さんです」
ペコペコと頭を下げながら、赤城がカメラフレームに入ってくる。
「では。まず最初はサイコロではなくカナンの住民登録です。この世界では何よりも大切なこれ」
赤城がそう説明しながら魂の護符を取り出す。
「ほうほう。これを貰いに何処まで?」
「教会ですね。カナン神聖教会。そこで洗礼を受けて神の加護を授けて貰いましょう」
そう説明すると、一行はまず教会へと向かう事になった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
無事に「水曜どうだろう?」スタッフを見送ったマチュア。
異世界ギルドのいつもの席に座ると、とりあえず職員の差し出したハーブティーで一息。
「お疲れ様でした。大変そうですね?」
フィリップがそう話しながらマチュアの元にやってくる。
「そうだね。まあ、楽しく疲れているからまだいいよ」
「先日ストーム様が北方から一旦帰還してましたが、またすぐに戻りましたよ」
「はぁ?何をしてるんだ?」
「未だ戦闘中のようで。赤神竜を取り逃がしたとかで、現在は追撃に入ったそうです」
流石のストームでも、六神竜の中でも最大級の赤神竜を相手では、簡単に勝利する事が出来ないらしい。
全長で600mもある赤神竜ザンジバル。
その眷属の大きさもまた巨大で、水神竜など子供に見える。
それを相手しているのである。
よく負けずに頑張っていると、マチュアは頭を捻る。
「あいつは化け物か。まあ、ヤバくなったら連絡来るからいいや。私はそろそろ次のステップかなぁ?」
「次と言いますと?」
「あっち、日本でやる仕事。まだやることあるんだよねぇ」
にこやかに告げるマチュア。
すると、横で座っているツヴァイが笑いながら一言。
「魔法訓練所とか作るとか言いませんよね?」
「絶対にないわ。そんな恐ろしいものは作りたくもないよ。アメリゴ以外の査察団の話とか、まだ結構あるのよ」
ほう。
ちゃんと仕事していらっしゃる。
「ほう、それは失礼しました。今日の予定は?」
「どうだろうのスタッフがどうするかだよね。それに合わせて動くよ‥‥」
ズズッとハーブティーを飲むと、マチュアは一旦一休み。
カウンターの中でのんびりと新しいオモチャの図面を書いていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
二週間のカナン滞在。
水曜どうだろう?のスタッフ達が帰国する日。
マチュアも異世界ギルドの前でみんなが戻って来るのを待っていた。
――ガチャッ
HTNに貸し出していた馬車が止まり、中からチェインメイルにサーコートといういでたちの大泉と、ウィザードハットを頭に被り、ローブを羽織ったミスター鈴位が降りて来る。
藤村はレザーアーマー、嬉井はチュニック姿である。
「もうね、ぼかぁダンジョンはごめんだね。暗くて臭くて、それでいて実入りが少ない。面倒なだけなんだから」
「いやいや、大泉君が一番ノリノリだったでしょ。モンスターも出なかったんだから」
「それだけが不満だね。この僕の華麗なる剣さばきを見せてあげたかったなぁ。いやぁ、もっと滞在期間があれば、ぼかぁ冒険者ランクを上げれたんだよ?EランクのファイターがDまで上げれたよ?」
「私も精霊魔術師のランクあげたかったなぁ」
どうやら大泉は戦士、ミスター鈴位は精霊魔術師になったらしい。
しかし。
後ろの藤村は多分レンジャー。
なら、嬉井は何?
どう見ても商人だよ?
そんな一行が無事に異世界ギルドに戻ってきた。
「この装備はどうしたらいいんだい? 冒険者・大泉としては長い間を共に過ごしたこの装備を手放したくはないよ?」
ホイホイッと剣を引き抜いて構える。
「あの、マム・マチュア。私たち日本人がこれを持って帰るのは可能ですか?」
「取り決めで、武器は持ち帰るのを禁止しています。防具はどちらでも。持ち帰りたくない場合は道具屋で買い取ってもらうか、そちらの建物で預かりますよ?」
異世界ギルドの近くの『預かり屋』。
異世界人しか使えないが、有料で装備や道具を預かっている。
後ろの倉庫が内部拡張されているため、かなりの人数の装備が預けられる。
「預かり期間は一年間ですね。期間更新は異世界大使館でも受け付けていますのでご安心を」
そう説明すると、大泉もミスター鈴位も一安心。
「さて、それじゃあ帰ろうか?」
そう話して歩き始める大泉だが。
「待て待て、最後のこれがあるだろうが」
藤村がボードを手渡す。
「まってよ?もう終わりじゃないの?」
「終わりだよ?でもお約束だろ?」
ボードをチラッと見ると、1から5までは『無事帰還、日本へ』となっているが、6だけは違った。
『6‥‥異世界リベンジ、次はダンジョン突破』
それを見て、マチュアは思いっきり笑いそうになる。
「待て待て。今回は異世界ギルドのお情けでこれたんだよ?こんなの6がでても無理でしょう?」
しゃがみこんでそう告げる大泉だが。
藤村が
「マチュアさん、もし6がでたら次回も良いですか?」
「まあ、6がでたら神様がそうしろと言うことで。割引しますよ」
「うっそだろう?なんでそんなに簡単に許可するんだよ。異世界ギルドはノリで決めるのかな?ぼかぁ納得いかないね?」
「うるせぇ、とっととサイコロ振りやがれ」
藤村が笑いながら告げると。
「ちょ、ちょっとミスター振ってよ。笑いの神様はいつでも俺の味方だよ?こんなの6が出るに決まっているでしょ?」
「いやいや、水曜どうだろうといえば大泉、大泉といえばサイコロ。さぁ、自らの運命は自らの手で‼︎」
煽るスタイルのミスター。
ならばと大泉も立ち上がる。
「どうなっても知らないよ?あ、そ〜れ、なっにがでるかな、なにがでっるかな、それはサイコロ任せです‼︎そーれぃ」
――ポイッ
コロコロとサイコロが転がり、やがて停止する。
上を向いていたのは5。
「ほらほらほらほら。神様は見ていたんだよ」
――ヒュゥゥゥンッ
そよ風が吹き、サイコロがひと転がり。
5は6に変わった。
「いやいやいやいや、風がね、5で止まったよね?」
「そこでサイコロを取れば確定だったなぁ〜と言うことでマチュアさん、ジャッジ」
しばし下を向くマチュア。
そして突然カメラ目線になると一言。
「‥‥6で‼︎」
「オォォォォォッ、勘弁してよぉ。また来るのかよぉ」
「はい。それでは異世界サイコロの旅、次回はリベンジとなりました。また来週‼︎」
ミスターかカメラに向かって締める。
「まじかよオォォォォォッ。今回の稼ぎなんぼなんだよ」
「だいたい金貨で150枚かな?」
藤村が冷静に告げる。
「金貨なんてわっかんねーよ。円で言えよ、円で」
叫ぶ大泉。
すると
「えーっと、現在は異世界とは固定為替で計算されていますので、銅貨一枚が100円です」
ミスターがフリップを取り出して説明する。
「だからなんだよる」
「つまりだな。今回のダンジョン報酬は日本円で百五十万だ。わかったか?」
スクッと立ち上がる大泉。
「今回の報酬だが、配分はどうするんだい?」
「どうするもこうするも、次回作の時のカナンでの活動資金だよ。無駄遣いなんてしねーよ」
「待って藤村くん。じゃあ次回なかったらそれは皆で分配するという事かな?」
「もう次回決まっただろうが。後、皆の装備分は局の立て替えだから差っ引くからな」
「そんなぁ〜」
「それではまた‼︎」
もう一度ミスターが締めてカメラが止まる。
「ではでは、我々は退散しますので。今回の協力、ありがとうございました」
藤村と嬉井、鈴位、大泉が頭を下げる。
「ほんっっっっとうに、次回もやるのですか?」
大泉が念を押して来るが。
「藤村さん、企画書の提出をお願いしますね。次回は協力しますが、きっちりと渡航費用は払ってもらいますよ?」
「それはもう。予算はガッチリと取りますので」
「でもさ、これ編集して放送したら、ダンジョン報酬で賄えって言われそうだよね?」
ミスターが笑いながらそう話すが、それは洒落になっていない。
「では!我々はこれで。また後日、改めて伺いますので」
そう話をして、一同は日本へ戻っていく。
冒険者ギルドの壁には、「水曜どうだろう?スタッフ」の色紙が綺麗に飾られる事になった。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






