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異世界の章・その23話し合いと殴り込みの違い

 いつもの異世界ギルド。

 ちょうど1ヶ月ぶりのギルドマスターの出勤に、その場の全員が驚いていた。

「マチュア様、もう宜しいのですか?」

 フィリップだけがいつものように淡々と話をする。

「まあね。今なら魔人竜と一騎打ちしても勝てる自信あるわ。カレンから話を聞いたよ、おめでとう」

「はっはっ、まだまだですよ。あの子に王妃など務まるとは思っていませんよ。ミナセ女王のように町の中をあちこち歩き回る姿が見えますよ」

「まあ、そうなるよなぁ。ベルナー王国どうすんだ?」

「さぁ?それもこれからの話です。さて、ツヴァイさんは昨日から政策局に出向、急ぎ決裁権が必要な書類は私の独断で終わらせてあります」

「流石だなぁ。伊達にアルバート商会を纏めていただけの事はある。その調子で頼むよ」

 近くの席に座って、空間からポットとティーカップを取り出すマチュア。

 まずはそこで一息。


――ドサッ

 大量の書類が目の前に置かれると、フィリップは笑いながら一言。

「この1ヶ月の報告書です。目を通してください」

 高さで約30cmの書類の束。

 あちこちの席からは頑張ってくださーいと激励する声も聞こえるが。

 マチュアは手を書類の上に乗せると、書類を魔力分解して取り込んだ。

「‥‥やっぱり魔法がネックか」

「ええ。犯罪関係と、それと医療です。観光に関してはもう大詰め、為替レートを調べる為に毎日査察団の人が町中を走り回っていますよ」

「へぇ。機材の使用許可も出したのか」

「タブレットと申しましたか?あれとスマートホンとか言うのだけですね。どうもあちらの人は時間を気にするので」

「段階的になら構わないよ。いいタイミングだから」

「それらの機材は制限時間があるらしく。意外と大変ですよ?」

 そうフィリップが告げていると、マチュアが空間から小さい箱を取り出した。

「これがあればなぁ。まあ、まだ完成してないけどね」

「それは?」

「魔障を電気に変える変換パーツ。中に雷撃の魔晶石が入っていて、今調整中」

 そのマチュアの言葉には、日本から来た局員が食いついた。

「それがあれば、電気代掛からないのですね?」

「もし試作実験するのであれば、喜んでお手伝いしますわ」

「うわぁ。食いつくの早いわ。完成したらその時は頼むよ。それまでは、私はこれ使うから」

 再度取り出したのは水晶で作られたタブレット。

 綺麗に透き通った表面に大陸語の文字や画像が写っている。

「あ、そ、それは?」

「カナン魔導商会製タブレット。名付けてクリアパットだ。いいだろ」

「そ、それは何処で手に入れるのですか?」

「私のみ、私用。私の深淵の書庫アーカイブの文字列をこっちに映るようにしただけだよ。これで日本の街中でも深淵の書庫アーカイブを目立たずに使える」

 ちょっとがっかりした日本人組だが。

「つまり深淵の書庫アーカイブの魔法を付与してあるタブレットですよね?将来的には誰でも使えるのでは?」

「まあね。だから実験機さ。全て魔力だから電気代も通話代もゼロ円だ」


――ドドドドッ

 その言葉に、高畑がマチュアに擦り寄る。

「マチュア様。ゼロ円で、魔力で動くスマホ開発してください。50ギガじゃ足りないんです」

「な。なんだそりゃ?スマホの開発なんて考えたこともないわ‥‥サンプルがあれば解析して考えるけど?」

「家に古いのがあるのでサンプルで持ってきますぅぅぅぅ」

 泣くな高畑。

 その後ろでは赤城もマチュアを拝んでいる。

「わ、わかったわかったから拝むな。わたしゃ神様かよ?」

 そう叫ぶマチュアだが、事情を知る職員はウンウンと頷いている。


――ズズズッ

 ようやく空いてるカウンター席に座ると、のんびりとハーブティーを飲むマチュア。

「マチュアさま、その席好きですねぇ。執務室でゆっくりとなさればいいのに?」

「ここがお気に入りさ。さて、仕事するか」

 そのまま目を閉じて、頭の中の書類の束を精査する。

「なんだよ国際日報、ついに泣きを入れて来たのか?」

「ええ。あの一件で、記者クラブとか言う所から脱退勧告されたそうで。是非とも本社にて謝罪をしたいと」

「今、ここには誰がいるの?」

「事務当番は高畑さんと赤城さんですね」

「なら、札幌に戻ったら国際日報に連絡しておいて。謝りたいなら一番トップと責任者がここにツラ出せって。なんで私が顔を出さないとならないのよ?」

「了解しました。夕方に一度戻りますので、話をしておきますね」

「宜しくお願い。さて‥‥報道からの記録媒体使用申請かぁ。まだ駄目。はい次はと」

 一つ一つの書類を確認して、横で待機している職員に伝える。


「例の諜報はどうなったの?」

「対象国が圧力を掛けてきて、釈放されていますね。政治的やり取りでの判断です」

「対象国は?」

「アメリゴ合衆国とルシア連邦、中華選民共和国、それとゲルマニアの四国ですが」

「ふぅん。後で蒲生さんの所にいってくるわ。保留」

「余り大ごとにしないように」

「するさ。そういう圧力とか掛けてくるのなら、こっちも圧力かけるさ」

「はいはい。記録から消去と」

 フィリップが職員に指示すると、圧力云々の部分は消去された。

「異世界大使館は完成したのか。早いなぁ」

「元々あった建物を改装して、金属製の柵をつけただけです。マチュア様がいないので引き渡しが出来なかったのですよ」

「ふぅん。明日にでも手続きしますか。職員は?」

「以前の異世界政策局は、全員が大使館職員兼カナン領事館職員となります。異世界対策委員会が異世界政策局に変わります。あとはそのままです」

「大使館と領事館?」

「ええ。外交の要となるのか大使館で、領事館はカナンから出国するもの達のための場所でもあるそうです」


 具体的には、外交使節が外交のために使う施設が大使館。これには治外法権や外交官特権が適用される、

 それに対して領事館というのは、この場合は地球にいる異世界人の保護や通商関係の援助などの領事事務を処理する事務所と考えるとわかりやすい。


「へぇ。給料上がるの?」

 横にいる高畑に問いかけると。

「月の手取りが90万です。以前の三倍ですよ」

「それは日本からよね?フィリップ、ギルド職員分の給料も出してあげてね」

「いかほどで?」

「みんなと同じでいいよ。おんなじ」

「畏まりました」

「い、いやいや、マチュア様、それだと給料の二重取りになりますよ?」

「危険手当として計上します。それだと問題ない?」

 突然の副収入に動揺する高畑と赤城。

「問題はありませんが。結構もらえるのですか?」

「一律に金貨30枚ですよ。カナンの各ギルド職員分としては、そこそこに高いですね」

 フィリップがにこやかに説明する。

 冒険者のように危険を犯さなくても、1ヶ月働けば三ヶ月分の生活は保証される。

「た、高い‥‥ありがとうございます」

「これで、帰りに買い物できますよ。ずっと気になっていたんです。こっちの世界のものが」

「はいはい。早く手を打っておけば良かったんだけどね。これでこの件はおしまいと」


 また思考精査するマチュア。

 他愛のないものは次々と承認していくと、異世界人のギルド登録に関する件で止まった。

「う〜む、保留。魔法法案が成立しない限りは手を出さない。現行の登録者はテストケースとして、職務の関係上認可としておいて。現在のギルド登録者の名簿とクラスをまとめておいて」

「了解しました。その者達の魔法の使用は?」

「あっちでは法に触れない程度で。こっちでは好きにしていいよ」

 そのマチュアの言葉に、グッと拳を握る赤城と高畑。

「そこのお二人さんは、少しは魔法は使えるようになったのかな?」

「勤務後に『冒険者訓練施設』に通ってます。多少は使えますし」

「治癒系と風系は基礎はマスターしました」

「ふぁぁぁぁ。早いわ。ポイポイさん達見てるみたいだよ」

 驚きの声を上げるマチュア。

「今のはリストに書かなくていいよ。使える魔法なんて書いてたら、どうなるか分からんわ」


(まさかとは思っていたが、予想外に地球人は冒険者適性があるのか?どうして‥‥)


 そう考えていて、ふと思い出す。


(あ、そっか。時代の勇者は異世界人か。神の加護がないだけで、才覚はあるという事かぁ)


「そうかそうか。異世界人の冒険者登録は審査許可制にするか。その方があっちの受けもいいでしょうから」

「ふむふむ。あちらとこちらの人間の判別は?」

魂の護符(プレートで判断。それでいいよ」

 そう話してから、また精査開始。

 残りの書類をあらかた調べ終わると、マチュアは赤城と高畑にギルドの裏に来るように告げる。


 ‥‥‥

 ‥‥

 ‥


「あの、私たち何かしました?」

「いやいや、冒険者の能力見せて。制御可能かどうか見てあげるよ」

 すかさず深淵の書庫アーカイブを起動すると、マチュアはその中で二人のデータをサーチする。

「まずは高畑さんから。どうぞ」

「は、はいっ、行きます」


――シュゥゥウ

 突然高畑の斜め前に身長2m程の騎士が姿を現した。

「これが私の冒険者としての能力ですよ」

幽波紋スタンドみたいだなぁ。これ自在に戦えるの?」

「はい。訓練所で模擬戦だけはやりました」

「なら、ちょっとやってみますか。深淵の書庫アーカイブは維持のままで」

 そう命令してマチュアは外に出る。

――シュンッ

 軽装鎧を身に纏い身構えると。

「よし、全力でおいで。能力の限界点を見てみましょう」

「では、行きます」

――ガギギギィ

 次々と乱撃を打ち込んでくる高畑の騎士。

 マチュアは全て籠手で受け流しながら、その強さを体感する。

「まあまあかな?冒険者のランクで言えばCってとこね。これは装備は変えられるの?」

「私がつけているものと同じ装備です」

 間合いを外して構える騎士。

「今度はこっちがいくわよ」

――ヒュン‥‥ドッゴォォッ

 一瞬で間合いを詰めると、騎士の身体に肩口から体当たりする。

 久しぶりの鉄山靠(てつざんこう)である。

 それで騎士が木っ端微塵に砕け散るが、高畑は呆然としているだけであった。

「高畑さんは無事?」

「はい。一定量のダメージを受けると消えてしまって。私の魔力では一度消されると、すぐには出せないのですよ」

「ふむふむ。高畑さんは一休みね。鍛え方でいくらでも強くなるわ。後、いい装備を買いましょう」

 パンパンと手を叩く赤城。


「次は私ですか?」

「そうね。まず風を纏えるかな?」

――ヒュゥゥゥンッ

 マチュアが体の周りに風を纏う。

 すると赤城もすぐに同じように風を纏った。

「ありゃ、これはクリアなのかぁ」

「はい。このように」

 ふっと風が消える。

 だが、加護は残っているらしく、赤城の体表に風が流れている。

「へぇ、風の結界かぁ。それを常時貼れるようになると、あっちで銃で撃たれても止まるわよ」

 笑いながらそう話すマチュア。

「無理無理、無理です。これでも秘薬が足りなくなるのですから」

「あ、そうか‥‥なら」

 マチュアは深淵の書庫アーカイブに戻ると、自分の持っていた魔道書を空間から取り出す。

 この世界での初期装備である。

「セット。これと同じものを作成。材質は私の魔力で」

 やがて魔道書が輝くと、真横に同じものが作られた。

 それを手に取って、赤城の元に向かう。

「これに手を当てて?」

「こ!こうですか?」

――トン

 赤城が魔道書に手を乗せると。

「オーナー権限の切り替え。メインを赤城に、サブは私。魂とリンクして、意思による実体化を付与‥‥」

 一瞬だけ魔道書が輝くと、ふっと本も纏めて消えた。


「あ、あれ?」

魂の護符(プレートと同じ。意思で取り出してみて」

 そう告げられて、赤城は目の前に手をかざしてみる。

――ヒュンッ

 一瞬で魔道書が赤城の手元に浮かび上がる。

「それは秘薬の代わりに魔力を消耗するのよ。あと、魔導師の魔術の全てが納められているけれど、魔力が上がらないと読めないものもある。読めると使えるから頑張ってね」

「は、はいっ」

 赤城が嬉しそうに叫ぶが。


「赤城さんいいなぁ」

 高畑が羨ましそうに呟くので。

「高畑さんにはこれかな?装備できるかしら?」

 空間から一振りの剣を取り出すマチュア。

「ミスリルソード、名前はシムーブブレード。武具ランクはA+の逸品だよ。これも高畑さんと同化してみるね」

 そう話しながらソードを握らせる。

「こうですか?」

「そうそう‥‥ほい完了。まあ、なくすことはないけど、扱いには気をつけてね。じゃあ赤城さんの魔法の続きを見ますか」


――プシュッ

 ダガーを引き抜いて自分の腕に突き刺す。

 痛覚遮断を即時かけたので痛みはないが、血がダラダラと流れている。

「うわぁぁぁぁ、いきなり何をするのですか?」

「この傷を塞いでみて?感覚で覚えないと」

「は、はい‥‥では」

 マチュアの傷口に手をかざす赤城。すると傷口が淡く輝き、血が止まった。

「へぇ。止血どころか傷もなくなってるわ。赤城さんの適性は回復系寄りかぁ」

「こんなスパルタ堪忍してください。この次は腕を切り落として接合ですか?」

 赤城がそう話していると、既にマチュアが魔法で腕を切断しようとしていた。

「や。やめてください‼︎魔力なくなりそうです」

「あ、そお?ならもう少し強くなったらね。という事でこれでおしまい。赤城さんは本読めるように魔力の訓練、高畑さんは自動防衛出来る程の騎士を召喚出来るように頑張ってね」

 そう話して、マチュアは表通りに向かう。

 その後ろから

「また見てくれますか?」

 と赤城と高畑の声がしたので。

「暇だったら構わないわよ」

 そう話してギルドに戻った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 



 永田町、自由民権党本部。

 マチュアは転移門ゲートを直接作ってやって来た。

「い、異世界の方ですか‼︎」

「異世界ギルドのマチュアです。蒲生さんをお願いします」

「蒲生さんは今来客中でして‥‥」

「なら、ロビーでのんびりとしているわ。それで良いかしら?」

「は、はい。ではそのように」

 そう守衛と話をつけると、マチュアはロビーにある椅子に座ってのんびりとしている。

 途中、出入りしている議員から握手を求められたり、来客が驚いてマチュアの元にやって来たりという事はあったが、記者会見後はそれ程驚かれなくなっていた。


――ザワザワ

 やがてロビーに蒲生と彼を訪れていたらしい人物が姿を現した。

「お、おや?マチュアさん、何をしているのかな?」

「まあ、ここで話す事ではないので‥‥え?」

 蒲生と一緒に出て来た人物を見て、マチュアは息を飲む。

「あ、アメリゴ海兵隊?」

「おう。紹介する。アメリゴ海兵隊・第三海兵隊師団のローレンス・ノートン少将だ」

『貴方が異世界のミスエルフですね。ローレンスです』

『ありがとうございます。異世界ギルドマスターのマチュアです。アメリゴとは話をしたかったので、お会いできて光栄です』

 にこやかに挨拶をするマチュア。

 ふと気がつくと、この人からは悪意を感じない。

「蒲生さん、私はこの件で来たのですが、お時間頂けますか?」

「ああ、その件か。構わんよ」

『それではミスマチュア、今度時間があれば駐屯基地にでもいらしてください。すぐに時間を作りますよ』

『ありがとうございます。けれど、私はパスポートを持っていません。構わないのですか?』

魂の護符(プレートでオッケーですよ。あれと外交官カードで問題はありません』

『それでは近いうちに。ミスターローレンスはどちらの基地に?』

『横須賀です。それでは』

 軽くハグしてから、ローレンスは側近たちとその場を離れていった。


‥‥‥

‥‥


「さーて。色々と聞かせてもらいましょうか?」

「よしこい。付いて来てくれ」

 そう説明されて、マチュアは蒲生の後についていく。

 そして会議室に向かうと、マチュアは自前でティーセットを用意してハーブティーを一口。

「さて、私を襲撃した諜報員を釈放したそうで。説明してくれますよね?」

「まあな。相手は軍事外交官としての特権を出してきた。そうなると日本国では拘留すらできない。あっちはこうなることを見越して、先手を取っていたんだ」

「へぇ。そんなものがあるのですか」

「ああ。色々と厄介でなぁ。四ケ国がそれぞれ主張してくるので、手放す以外には何も出来なかったんだ」

「それなら拘束した時にゲートで持って帰ればよかったかな」

 そう告げてみるが、これ以上は国の立場がある。

「まあ。諜報員のリストをください。直接話をつけてきますわ」

「直接?どうするんだ?」

「何が目的なのかはっきりと話をしてもらいます。国の代表にね。拘束して連れ去ろうという根性が気に入らない」

「全く。どうしてこう短絡的かねぇ。全部じゃなくて、アメリゴと話ししてこい。正々堂々とな」

 は?

 それはまた?

 その蒲生の真意が読めず、マチュアは頭を捻る。

「そりゃまたどうして?」

「日本はほぼ大詰め。最後の法案も与党が数で無理やり通しておしまいだ。なら、今度は東側にマチュアが接触したと報道されたら、西側も動かざるを得ないだろう?今度は大使館を通してくるだろうから、そこで喧嘩すれば良い」


――ポン

 納得して手を叩くマチュア。

「成程。蒲生さんはマフィアみたいな人と思っていましたが、やり方もマフィアなんですね?」

「そりゃ褒めているのか?」

「はい。カナンに日本大使館作ったら来ます?」

「そこで第二の人生も悪くないか。大使館は作れるのか?」

「国交締結時には。それじゃあ明日にでも横須賀行ってきますわ」

 ガタッと立ち上がって頭を下げるマチュア。

「まあ、あんまり暴れすぎるなよ?」

「あちらのやり方次第ですがね。では失礼します」

 そう話して、マチュアは部屋から出て行った。

 そのまま一階ロビーまで戻ると、自民党会館から外に出る。

 何処から嗅ぎつけたのか、大勢の報道陣が待っていたので。


――ヒュンッ

 空間から『外交団ナンバー』をつけた箒を取り出すと、そこに横座りしてゆっくりと浮かび上がる。

 それまでは必死にマイクを向けていた報道陣も沈黙してしまう。

「あの、今更何が聞きたいのかな?その端っこで話するから代表者一名、質問まとめて?」

 フワーッと敷地の中を飛んでいくマチュア。

 すると報道陣が集まって相談を始める。

「平和よねぇ。本当に平和」

 適当な記者を一人呼ぶと、マチュアは話しかける。


「今の世界の情勢ってどうなってるの?戦争とかテロとか。後、異世界に関しての世界の動向は?」

「あ、は、はい。戦争は一触即発な国はありますがまだそこまでは。中東やヨーロッパではテロ組織があちこちで猛威を奮っています。異世界については、国連が近々査察団を組んでカリス・マレスに向かう準備をしています。窓口を日本に頼むとか言ってますが、日本は拒否していますね」

 スラスラと端的に説明する記者。

「あらありがとう。何処の記者?」

「富士見新聞です」

「何か聞きたいことある?」

「うわ、え、えっと、好みの男性はどんな方ですか?」

――ブッ

 それは禁句だ。

 あるはずがない。

「それは秘密よ。レディに聞く質問ではないわ。これでいい?」

「はい、ありがとうございます」

 この返答だけで盛り上がるのだろう。

 やがて記者たちがやってくるが、マチュアは一言。

「えーっと、この中に国際日報居ないよね?いるなら帰る。」

「居ませんよ。記者クラブから外されてますので、ここには居ません」

「はいはい。では、どんな質問?」

「魔法法案で。例えば人を傷つける魔法がありますが、ゲームの中にあるような即死系の魔法とかはあるのですか?」

「即死?どうやって?」

「魔法で、なんて言いますか、例えば魂を破壊するような奴ですか」

 ふと考える。

 そんな魔法あるのかと。

 そしていくつかの禁呪がそれに当てはまると理解。

「あ、あるわね。けど禁呪で、私でも使えるかわからないわよ。という事は、この世界の人では使えない、分かる?」

「成程」

「今、私達でも使える魔法はありますか?」

「魔力ある?」

 そう話しながら、魔力感知球を取り出す。

 それを回してもらうと、一人が赤、二人が黄色であった。

「ありゃ、いるのねぇ。じゃあね」

 適当な石を拾う。

 それを手のひらに乗せると、マチュアはゆっくりと詠唱する。

「石よ、汝を縛る重力の枷から外れたまえ」

――フッ

 石が淡く輝き、掌に浮かぶ。

「秘薬はこれとこれ。右手に秘薬を握って、左手の掌に石を乗せて。意識は石に集中。うん、それで詠唱して?」

 すると、赤く光った人と黄色の一人が発動に成功。

 もう一人は発動できなかった。

「う、うわぁぁぁぁあ」

 絶叫と同時に石が掌に落ちる。

「わ、私はどうして浮かなかったのですか?」

「貴方、魔法を疑ったでしょ?少しでも疑うと発動しないわ。けど、今見たから信じられるでしょ?」

 そう言われてもう一度やってみる。

――フワッ

 こんどはゆっくりと浮かび上がった。


「簡単でしょ?魔力と意思と力ある言葉。それに触媒、そろったら魔法は発動するのよ」

 マチュアが見せてくれると思ったが、まさか自分達が魔法を使うとは思わなかった。

「さて、そろそろ時間なので今日はこれで失礼。また機会がありましたらね」

 そう告げると、マチュアは少し高度を取って路上に飛び出していった。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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