異世界の章・その15 散歩と言う名の乱入
さて。
異世界政策局の職員たちがカナンにやって来てから半月。
あちらからは二度の査察団の受け入れを行なった。
まだ宿は完成していないが、馴染み亭のジェイクや異世界ギルドのフィリップの力添えで、ここまでは何事もなくスムーズに事が進んだ。
そんなある日の昼下がり。
――ドン
異世界ギルドの受付カウンターに、ストームが遊びに来た。
「こ、これはフォンゼーン王。本日はどのようなご用件で?」
最近来たばかりのギルド員は上ずった声でそう話しかけるが、声が裏返っている事に気がついていない。
「そんなにかしこまらなくてもいい。マチュアはいるか?」
「おや、これはストーム様。マチュア様でしたら執務室で昼寝していますよ?」
書類の整理をしているフィリップが、マチュアのいる執務室を指差しながら話しかける。
「昼寝?あいつは仕事中に昼寝しているのか?」
「異世界では魔力の消耗が激しいそうで。それと新しい魔道具の開発でもかなり削られたらしく、最近では半日は眠っていますよ」
カウンターに向かってストームにいくつもの魔道具を見せるフィリップ。
「指輪とペンダント、イヤリングにティアラか。こっちは双方向翻訳だな。こっちは‥‥これもか」
「ええ。言葉が分からないと何かと不十分ですので。貸出用ですので、魔力の追跡機能までしっかりと」
「こんなのアハツェンが作れるだろうが。何を頑張っているんだ?」
――ガチャッ
「初期開発の発想力はそうでもないよ。量産機能は優れているから、私が作って量産化してもらっているんだ」
眠そうな目をこすりつつ、マチュアが部屋から出てくる。
「うお、執務室にいても聞こえるのかよ。なんつー地獄耳だよ」
「深淵の書庫に音声認識あるからな。ストームが私の名前を呼んだら起こすように設定してある」
――ポイッ
そう説明しながら、マチュアはストームに細い腕輪を投げた。
「これはなんだ?」
「ブレスレットだよ。それも貸し出し用で‥‥って、何で付けているんだ?」
――ガチャッ
右腕にブレスレットを装備して、おもむろに拳を握り、拳が顔のあたりに来る感じで腕を引き寄せるストーム。
「バード・ゴーするなよ?」
「無理か、出来そうな気はしたんだが」
「できるぞ。それは『換装の腕輪』の改良型で、5パターンの装備が登録できるが、本当にすごいのは」
マチュアも説明しながら自分のブレスレットを見せる。
――カチヤッ
文字盤がスッと浮かび上がる。
「時計になる‼︎」
ドヤ顔で説明するマチュア。
大したことはないようにみえるが、正確に時間を刻むのは魔法でもなかなか大変である。
古代魔導王国の遺産があるおかげで、教会や王城にはあるものの、個人が装備できるこのサイズは存在しない。
「へぇ。アップルウォッチみたいな機能はないのか?」
ストームとマチュアがマオやゼンだった時代でも、まだアップルウォッチは初期でそれほど機能はなかった。
「装着者の魔力を感知して動く程度だな。ネットには繋がらないぞ」
「そうか‥‥って雑談しに来たんじゃないわ。異世界ギルドの登録を頼む」
「あ、はいはい。じゃあやってあげてね」
横でずっとドキドキしながら話を聞いていたギルド員の肩をポンと叩く。
「ふぁいっ。ではまず魂の護符を提出してください」
淡々と手続きをするストーム。
そしてギルドカードを受け取ると、マチュアはストームにも異世界渡航旅券を手渡した。
「そいつも登録してくれ。向こうの世界ではそれが身分証明になる。後はあっちの異世界政策局に行って手続きするだけだが」
「よし、いくか」
「だよなぁ。そう来ると思ったわ」
トン、とカウンターを飛び越えると、マチュアもストームの横に立つ。
「フィリップさん、今日あっちに行ってるのは誰?」
「ツヴァイさんとグリューンですね」
「了解。そんじゃ行って来るわ。ストーム。こっちで手続きだ」
「了解と。お騒がせしたな」
軽く挨拶してから、ストームは手荷物検査室に向かう。
そこで荷物のチェックを行い、検疫を通って転移門のある部屋に来る。
後は慣れたもので、簡単な説明であっという間にマチュアとストームは赤煉瓦庁舎前の転移門から外に出た。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「札幌かぁ。話には聞いていたが、本当にすごいな」
「だろう?という事でこっちに来てくれるか」
観光客が驚いてマチュアとストームの方を見ている。
スマホで撮影もしているがあまりそこは気にしない。
最近では転移門前のベンチに報道関係者が座って監視しているが、そんなのは無視で庁舎に入っていった。
二階の受付カウンターでツヴァイが仕事をしていたので、二人はまずそこに向かう。
『‥‥今日はどちら様ですか?」
『ギルドマスターで来たよ』
ツヴァイとの一瞬の念話。
異世界政策局の職員はマチュアから借りた自動翻訳腕輪のサポートで勉強を続け、現在は日常会話までは自力で読み書き会話が可能になっているので、秘密の会話は全て念話である。
そしてマチュアの来訪でざわつく二階ロビーだが。
「おや、ギルドマスター今日はどのようなご用件で?」
「ストームの登録。外交カードも発行して欲しい」
「はいはい。ではこちらに座ってこの書類に必要事項を。それと魂の護符と異世界渡航旅券の提出をお願いします」
淡々と説明するツヴァイ。
すっかり事務仕事が慣れている。
「マチュア様、これを土方知事から預かっていますが、何ですか?」
ツヴァイが少し大きめの小包をマチュアに手渡した。
差出人は外務省。
「おや、よく申請通ったなぁ。ありがとさん」
受け取ってすぐに空間に放り込む。
その動きに、別の課の窓口職員が絶句している。
「なんか不思議な感覚だな。ここが異世界とはねぇ」
しみじみと呟くストーム。
「でしょうね。異世界外交官等身分証明票は後日発行されますので。後、それを所持していない場合の抜刀は違法行為ですので。持っていても正当な理由なく抜刀すると罰金が発生します」
ここ最近の細かい決まり事を説明するツヴァイ。
ファンタジーなので帯剣は基本だが、日本の銃刀法も守らなくてはならない。
大胆な解釈をするならば、外交特権があるなら所持していても日本の刑事裁判対象にはならない。
まだストームは持っていないので、公での抜刀は禁止である。
「これはこれは、わざわざギルドマスターがいらっしゃるとは」
三笠部長が奥の席からやってくると、マチュアたちに会釈する。
「こちらはストーム・フォンゼーン。ラグナ・マリアの剣聖であり、サムソン辺境国の国王です」
その紹介と同時に、ストームは三笠に右手を差し出す。
「こ、これははじめまして。異世界政策局の三笠です。本日はどのようなご用件で?」
「有り体に言えば散歩ですかねぇ。登録をしたついでに、札幌の街を散策したかったのですよ」
ニィッと笑うストーム。
「そうでしたか。ツヴァイさん、ストーム様の登録は終わったのですか?」
傍らで座っているツヴァイに問いかけると。
「私の担当区分はね。今は隣の机ですよ」
そこでは赤城がマチュア特製辞書を片手に書類の確認を行っている。
「どうかな?」
「ええっと‥‥問題はありませんが。剣聖という事は、武器の所持は?」
「今は腰のミスリルソードとパーツアーマーを組み込んだこの軽装鎧、マントぐらいかな?」
「その程度でしたら、まあ、マチュアさんとご一緒でしたら」
その返答に笑みを浮かべる三笠。
「結構です。では、これで手続きは問題ないので、どうぞ札幌の街をご堪能ください」
「そうか。なら、早速行くか?」
「ちょいと待って。三笠部長、これ配布してよろしいですか?」
マチュアがバッグから取り出したのは、先程ストームが装着したブレスレット。
「これは?」
「カナンでも使えるブレスレットです。魔力で動く時計も付いてます」
一つを手にとって説明すると、三笠部長も受け取って手に巻きつける。
「ふむふむ。この時計はカナンに持ち込み可能なのですね?」
「当面は職員と一部の人限定で。職員用は個別設定されていまして、通信も可能です」
そう説明してから、マチュアは部屋のはずれに向かう。
『聞こえますか?』
『うわ、聞こえます。切り替えが難しいけど、慣れると便利ですね』
『ええ。話したい相手を選んで、魔力を注ぐだけです。これは配布しても良いですか?』
『構いませんよ』
通信を切って、マチュアが三笠たちの元にやってくる。
「それじゃあ、今から配布しますので、名前を呼ばれた方は来てください。あいうえお順なので赤城さんから」
「またそれ言いますか。本当にもう‥‥」
笑いながら赤城もブレスレットを受け取る。
そしてそれに手を通すと、シュッッと右手にフィットした。
皮膚の感覚に合わせて柔軟に動く金属。
カナンの魔法文字が記されているのと、10個ほどの小さな宝石が嵌められている。
それを全員が受け取ると、マチュアが一言。
「宝石の青い石に左手の指先を当てて魔力を注いでください」
その指示通りにやってみる職員たち。
――シュンッ
すると、服装が先日カナンで購入した冒険者装備に一瞬で変化した。
流石に武器はついてないが、皆綺麗に体にフィットしている。
「うわわわわ」
「か、格好いい‥‥武器はないのですか?」
「武器は隣の赤い石です。けれど、こっちの世界では取り出せません。先程まで着ていた衣服はその隣の緑の石です。取り出し方は同じですので」
――シュシュンッッ
あちこちで装備の換装を始めた職員達。
装備をつけたり消したりと忙しそうである。
「これ、宝石が10個ありますが、10個のコマンドみたいなのがあるのですか?」
「そうそう。こっちの石が通信、これがもう一種類の装備の保管、こっちが時計、この黒いのは緊急時。立場的に他国の人に襲われたりしたらここに魔力を注いでください。カナンからの出向職員が対処します」
一通りの説明をする。
後は各自で使ってみてほしいと最後に説明する。
「最後に。これは一度つけると外れませんが、皮膚と一体化しているようなもので、意識するとこのように皮膚と同じ色になります。カナンの国家機密の塊のようなものですので、取り扱いには気をつけてください」
スーッとブレスレットの付いている腕を見せる。
すると銀色のブレスレットがスーッと消えていった。
「では、後は皆さんご自由に、勤務後にでも楽しんでください」
マチュアか軽く会釈すると、全員が頭を下げた。
「さて、行きましょうかね」
「ああ、腹が減ったからなぁ」
そう呟きながら歩き始めると、職員の十六夜がマチュアに封筒を手渡す。
「散歩でお腹が減ったりしたら使ってください。経費で十万入っています。それと、私が警備につきますけれど、ついて行くだけですのでお構いなく」
「十六夜さんですね。ではお願いします」
「ああ、それじゃあ行くか」
約10年ぶりの札幌観光に、ストームは落ち着きがなくなっていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
いつもなら北海道庁舎の敷地内しか歩けなかった。
だが、今は堂々と敷地の外に出ることができる。
「とりあえず、どちらに行きましょうか?大体こんな場所と言ってくだされば、ご案内しますよ」
本来ならまだ勤務時間。
だが、異世界からの来訪者が来た際の担当がシフトで決まっていたらしい。
十六夜要が今日のシフトだったらしく、他の職員からはブーイングが出ていた。
「まずは大通りに行きたいです」
「あ〜いいね、それで」
魔導師のローブを纏ったマチュアと、軽装鎧にマントのいでたちのストーム。
明らかに異世界から来たのがはっきりとわかる。
やがて少し距離を開けて、観光や野次馬が集まり始めた。
「大通りって、よく知っていますね?」
「査察団の方から教えてもらいましたよ。ススキノや繁華街、狸小路商店街などなど。アミューズメントなんとかもあるのですよね?」
嘘です。
どれもこれも良く知っています。
できることならススキノで一杯引っ掛けたいです。
けれど、体面的なものもあるので、まずは牽制です。
「アミューズメントでしたら、ススキノの『チャレンジワン』ですね。何でもありますよ」
「チャレンジワン?」
「ラウンド1じゃないのか‥‥へぇ」
「ラウンド1っていうのは知らないですね。関東圏なのかな?」
十六夜も頭を捻って問いかけてくる。
「まあそうなのかも」
「さて、大通りはまだかな?」
テクテクと歩く。
やがて久しぶりの大通りにたどり着いたが、その様子にマチュアもストームも驚いている。
「森‥‥だな」
「ああ。なんだろう、巨大な森だ。こんなのとは思わなかったわ」
札幌の中心にある大通公園。
東西に約1.5 km、幅105 mの巨大な公園。
ストーム達の知っている大通公園とは同じなのだが、とにかく緑が豊富である。
しかも、一丁ごとの区分がなく、真っ直ぐに1.5kmの森林公園が伸びていた。
「ここが札幌大通公園です。古くはこの公園を挟んで北が官庁区、南が市民区として作られました。ここがその中心区画で、元々は火防公園だったのです」
火災時の延焼を止めるための区画。
その役割だったらしい。
「その割には大森林ですねぇ‥‥あれ?」
ふとマチュアが近くの木に近寄ると、ペタペタと触れている。
「若い木だ。まだ弱っていない元気な木ですね」
「ええ。札幌のPM2.5対策として大量の公園化計画がなされまして」
はて。
植樹では対策にならない筈。
「そのPM2.5って、この前来た議員の話では極微細物質でしたよね?」
「ええ。その対策として車という乗り物が排出する排気ガスの対策が始まりました。南と北ではそれぞれ路面電車が走り、この中央区では自動車の乗り込みが出来ないように全ての道路が公園化しました」
うわ。
とんでもない政策だ。
「へぇ。凄いですねえ‥‥」
そう話しながら歩いていると、ふとストームの姿がないことに気がついた。
「あれ?」
周囲をキョロキョロと見渡すマチュア。
すると、少し離れたところで、ストームが観光客に囲まれていた。
「ま、マチュア‥‥ヘルプミー」
「何をしているのかな、この人は」
――カツカツカツカツ
急ぎ足でストームの元に向かうマチュアと十六夜。
ふと見ると、いくつかの新聞社とテレビ局のアナウンサーもストームを囲んでいた。
「はいすいません。今日は私用で観光中です。取材は全てお断りしています」
十六夜が慣れた口調と手つきでストームと報道の間に割り込む。
「少しぐらいいいじゃないですか。頼みますよ」
「もうカメラ回しているんです、今から切れと言われましても」
「KHKです。ぜひ一言でいいので」
もう人が多過ぎて困り果てる。
ならばと。
――ブァサッ
マチュアが空間から魔法の絨毯を取り出すと、十六夜を引っ張り上げて飛び出した。
「ストームっっっ」
「応さ!」
マチュアの声で素早くジャンプすると、ストームも絨毯に飛び乗った。
そして空間からさっきの小包を取り出すと、その中から『外交団ナンバー』を取り出して絨毯にぶら下げた。
「ま、マチュアさん、これってまさかのですか?」
あまりの出来事に動揺する十六夜。
「その通り。ファンタジーの定番である空飛ぶ絨毯、オンザ外交団ナンバーだよ」
ゆっくりと低空飛行するが、今度は先程とは違い報道陣は近寄って来れない。
「ここにカナンのミニミニ国旗を刺しておくと‥‥あら不思議、絶対不可侵の領域が完成したわ」
楽しそうなマチュア。
「へぇ。良く知ってるなぁ。感心するわ」
そう呟きながらも、ストームは絨毯に興味を持った子供に手を振っている。
「お兄さんはいせかいのひと?」
「そうだよ、異世界のボディビルふべしっ」
――スパァァァァン
力一杯ツッコミハリセンを後頭部に叩き込む。
『阿呆が、ボディビルダー名乗るなや!!この大馬鹿者が』
『わ、悪い、そうだよな』
そんな念話のやりとりののち。
「お兄さんはストーム。剣聖ストームだ」
「剣聖?」
「そうだよ。世界最強の剣士だ」
嘘ではない。
まあ、子供の夢は守らないと。
「それ僕も乗れる?」
「僕も」
「私も乗りたい」
あちこちから子供が集まってくる。
「十六夜さん、どうしましょうかねぇ」
そう問い掛けるストームだが。
「困った顔してないよなぁ。この目立ちたがりめ。自分の絨毯があるだろうが、それをさっさと出せ。そしてこれをぶら下げときなさい」
ストームに別の外交団ナンバーと留め具を手渡すと、ストームも絨毯を取り出して飛び乗る。
そこに外交団ナンバーをぶら下げると一言。
「子供の保護者いるか?乗せていいのか?」
と声高らかに叫ぶ。
すると数人の子供の親がやってくると、丁寧に頭を下げていた。
「よろしくおねがいします」
「よしきた。一人5分だ。四人手を上げろ」
次々と手を上げる子供達。
そこから四人選ぶと、高度を下げて子供を載せた。
――フワッ
大人の腰ぐらいの高さで固定すると、のろのろと飛び始める。
その光景を見て、他の子供達がマチュアの方を見ている。
「あ〜はいはい。仕方ないわ」
マチュアの絨毯は大きいタイプなので、十六夜を乗せたまま子供が6人は乗る。
後はストームと同じ。
のんびりと公園を南北に移動すると次の子を乗せる。
3回ほどで子供達全員を乗せ終わったので、もうおしまいであるが。
「あ、あの‥‥私も乗りたいです」
一人のアナウンサーがおずおずと手を上げる。
外交団ナンバーには不可侵の権利があり、そのような事を交渉するのさえ許されていない。
予め取材の申請をしていなければ、撮影許可さえ怪しいのに。
「はい、きみはどこの報道だい?」
ビシッとマチュアがアナウンサーを指差した。
「すいません、HTN、北海道テレビネットワークです、誠に申し訳ありませんでした」
頭を下げたアナウンサー。
ストームも、マチュアの近くに飛んでくると、ニヤニヤと笑っている。
「いい覚悟だな。HTNのアナウンサーとカメラマン、こっち来いや」
「すいません、うちのアナウンサーが無礼な申し出を」
「いいからこい。HTNの関係者全員だ」
そのストームの迫力に、アナウンサーとスタッフがゆっくりと近づく。
その光景に、周囲の報道官は憐憫の目で見守っているのだが。
「ストーム、相変わらず好きだなぁ」
「まあね。こういう勇気と無謀の中間を走るやつは好きだ。カメラを担いでいるやつと責任者は俺の絨毯に乗れ、アナウンサーとスタッフはマチュアの絨毯だ」
その指示を聞いて、覚悟を決めたらしいアナウンサーとスタッフは絨毯に乗った。
「あの、マチュアさん。ストームさんは何を考えているんですか?」
十六夜がそう問いかけてきたので、耳元で一言。
「空中散歩と取材を受けるんでしょうねぇ。いいんでない?」
「そんな勝手な事をしたら‥‥」
そう呟くが、マチュアが外交団ナンバーを指差す。
「そうか。ここはカナンなのですよね。」
「そういう事。私達が法律だよ。阿倍野総理に無理いって発行してもらってよかったわ〜」
そんな話をしていると、絨毯はゆっくりと高度を上げた。
「あ、あの‥‥私達はどうなるのでしょうか?」
アナウンサーがおずおずとマチュアに問いかけるが。
「あなた名前は?」
「は、はい。高橋冬華です‥‥」
「この後のテレビ放送は?」
「夕方の情報番組、『夕方トクオシ』ですが‥‥」
「なら、空飛ぶ絨毯で大通公園から中継できるわよ。10分だけインタビューも受け付けてあげるわ」
そのマチュアの声に、地上の報道関係者も絶句する。
処分確定と思われていたHTNがまさかの大金星である。
「こちら日本のKHKです、どうかうちの取材許可も」
「あの、国際日報です、うちは」
次々と叫ぶ報道だが。
マチュアが外交団ナンバーをトントンと指で叩くと黙りこくってしまう。
「このナンバープレート恐ろしいなぁ。報道官も黙るのがぁ」
「そうですよ。取材関係は完全に許可制、対象国の大使館に連絡しないと許可取れませんからね」
「そうかそうか。なら北海道にカナン大使館作って貰えばいいんでないか?」
あっさりと呟くとストーム。
気が付くと、ストームはHTNのスタッフから名刺を貰っている所であった。
「へぇ。制作局の‥‥藤村さんですか」
「はい。藤村忠恭といいます」
綺麗に揃えられた顎髭とメガネがよく行く似合う藤村。
「それでですね。もし宜しければ、私共の番組で取材に向かいたいのですよ。どうでしょうか?」
「ふぅん。取材ねぇ‥‥普通の取材か?」
「いえいえ。うちの番組の敏腕出演者を2名。後はカメラマンと私も同行しますが」
「まあ、俺はよくわからないけど、いいんでないか?」
そう話した時に、ストームはふと気がついた。
カメラがストームを向いている。
しかも、放送ランプが点灯している。
「では、改めて後日にでも連絡しますので‥‥」
HTN。
強引なカメラワーク。
藤村ディレクター。
ここでようやくストームもピンときた。
――ポン
軽く手を叩くと、ストームは一言。
「その出演者は誰ですか?」
「大泉陽と鈴位孝之ですね」
「番組名は?」
「毎週水曜日の深夜番組で『水曜どうだろう?』というのがありまして‥‥あの、バラエティーなのですが」
そう説明する藤村。
ならばとストームも一言。
「サイコロの用意をしておくように‥‥マチュア、こっちは話がついたからな」
そんな話とは思っていないマチュア。
ずっとアナウンサーと十六夜でインタビューの打ち合わせをしていた。
「ふぁ?撮影の話か?」
「そうだ。そっちは?」
「えーっと、後20分で生放送らしいって。ストームの絨毯は横を並走して‥‥そうそう‥‥なんでカメラが回ってる?」
横に飛んできたストームの方を見て、カメラが回ってるのに気がついたマチュア。
「今CMあがりです。この後ワンカット入れたいのでお願いします」
藤村ディレクターがマチュアにそう説明する。
「あ、そういうことか。わかりましたよ」
徐々に高度を上げると、マチュアたちは大通公園の森林上空に飛び出した。
まもなく生放送開始である。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






