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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第六部 竜魔戦争と呼ばれる時代へ
146/701

竜魔の章・その6 竜族の反乱とベネリ

 

 アキレウス城塞。

 ツヴァイの最後の攻撃により、クロウカシスは地に落ちた。

 その瞬間、城塞内からは歓喜の声が上がったのだが、少しして外見が異なる巨大なドラゴンがその場に生まれると、王都ラグナに向かって一斉に飛び立っていったのである。

 そののち、残った魔術師たちで最後の結界を回復し、城塞都市としての機能を取り戻し始めたが、未だ不安の種は払拭していない。


「ま、マダラメ殿‥‥」

 パルテノ配下の騎士が、城塞の上で倒れている斑目を発見したのは、魔神竜クロウカシスが飛び立ってから一時間後のことである。

「おお‥‥情勢はどうなっておる?」

「水神竜クロウカシスは、マチュア様が倒されました‥‥ですが、突然クロウカシスから魔障が噴き出すと、まったく異形の竜に変化し、眷属を連れて王都へと」

「そ、そうか‥‥こうしてはおられぬな」

 スッと耳元の通信機に手を当てるが、クロウカシスのレーザーブレスの熱量で亀裂が入ったらしく使い物にならなくなっている。

「ちとすまぬが、転移門ゲートまで肩を貸して欲しい。一刻も早く報告せねば」

「は、はいっ」

 そっと斑目に肩を貸すと、騎士はゆっくりと転移門ゲートへと向かう。

 そして転移門ゲートに辿り着くと、そこで待っていたのであろうパルテノが斑目に頭を下げる。

「このアキレウスを護って頂き、有難うございます。国を代表して‥‥」

「まだです。まだ全ては終わっていません」

 すっと手をかざして、パルテノの言葉を遮る。

「ええ、そうでしたね。これから王都を、解放しなくてはなりませんね」

「いや、ことはそんな事では終わらぬ。詳しい話は後ほどで」

 それだけを告げると、斑目は騎士と共にベルナー城まで転移した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「ま、斑目殿、だだだだだいぢょうぶか」

 瀕死と言うほどでもないが満身創痍の斑目が戻ってきた事で、円卓の間は騒がしくなった。

「今手当てをしますから、ちょっとお待ちください」

 ゆっくりと椅子に座らされた斑目の元にミアが駆けつけると、ボウッと傷をゆっくりと癒す。

「おお、治療魔術が中々様になってきましたな」

「はい。相変わらずもたつきますけれど」

 徐々に穏やかな表情になる斑目。

 そして傷か塞がるのを待つと、シルヴィーは、斑目に話しかけた。

「クロウカシスはどうなったのぢゃ」

「拙者が見ていた最後の記憶は、ツヴァイ殿がクロウカシスと共に爆発してとどめを刺したところまでです」

 室内の空気が凍りつくように静かになる。

 やがてシルヴィーは、震えている手をぐっと握ると、斑目に頭を下げた。

「辛い思いをさせてしまったな。だが、もうこれで最悪の脅威は去ったのぢゃな」

 だが、斑目は目を伏せるだけで返事はしない。

 その沈黙を破ったのは、斑目を連れてきた騎士である。

「‥‥失礼します。私はアキレウス巡回騎士のヘリオスと申します。マチュア様によって倒されたクロウカシスは、突然全身に魔障を纏い、新たな肉体を得て王都ラグナへと旅立ちました」

 絶望がその場の皆に覆い被さる。

「な、なんぢゃと?では、ツヴァイは‥‥」

「ツヴァイとは?」

「い、いや、マチュア殿はどうなった?」

「まだ戦闘が終わってそれ程時間は経っていません。戦場を捜索するには人手が足りないのです」

「そうか、ご苦労であった。パルテノ殿によろしく伝えてくれじゃ」

 そうシルヴィーが告げると、騎士は敬礼してその場を後にする。

 そして扉が閉じられると、シルヴィーは椅子に座って放心している。

「もう‥‥終わりなのか‥‥ラグナ・マリアは‥‥」

 ツツーッと頬へ涙が溢れる。


 クロウカシスさえ止められれば。

 その思いでツヴァイは死んだ。

 だが、結果としてクロウカシスは新たな力を得て、ラグナ・マリアの更なる脅威となった。

 王都ラグナの防衛力では、クロウカシスの攻撃を止める事は出来ない。

 この事をカナンに告げれば、まだ別のゴーレムがここにマチュアとしてやって来るだろう。

 だが、そのマチュアもまた、シルヴィーを、ラグナ・マリアを守る為に散っていく。

 もう、知っているものが居なくなるのは見ていたくはない。


「さてさて。うちの女王さまはすぐに悲観しますねぇ」

 ズブロッカが地図を眺めつつ、傍らに置かれている通信機で王都ラグナに連絡を入れている。

「なっ、こ、この状態でどうするのぢゃ?もう敗北は決定しているぞ」

「ですから、まだなのですよ。むしろ好機かも知れませんから」


――ピッピッ

「こちらベルナー城幻影騎士団のズブロッカです。クロウカシスが王都ラグナに向かいましたが、そちらで何か状況は変化しましたか?」

『こちら王都守備隊。王都のゴーレムのうち二体が破壊されましたが、まだ三体残っています。現状は優勢、クロウカシスの姿はありません』

「了解です。今のうちに転移門ゲートを使ってミスト連邦に残りの臣民を避難させてください」

『了解です』

――ピッピッ


 通信を終えると、ズブロッカは頭の中で何かを考えている。

「まだ手があるとは思えないのぢゃが」

「シルヴィー様、ゴーレムのハートマンとディードを王都に派遣してください。クロウカシスが攻めてきたらハートマンで迎撃、ディードはとにかくクロウカシスの様子を観察するように」

 そう説明するが、シルヴィーはいまいちピンと来ない。

「あ〜。魔族化したドラゴンの弱点ですか」

――ポン

 とミアが手を叩く。

「その通りね。魔法の根幹が魔障によるものであるならば、クロウカシスの魔力中和は自身の存在をも脅かす事になっている筈。つまり、今のクロウカシスは魔力中和能力を持っていない可能性があります」

 そう説明するズブロッカに、シルヴィーも表情が明るくなる。

「ならば、マチュアの遺してくれた結界を突破する事は出来ないと」

「魔族化したドラゴンなので、突破出来ないかもしれませんが、そこはわかりませんね。ですから相手を調べたいのですよ」

「わかった。ではすぐに向かわせるとしよう」

「宜しくお願いします」

 そんな会話をしていると、ロットがウズウズし始めている。

「相手が魔族なら勝ち目は十分にある。今度こそ僕も戦場に連れて行って欲しい」

 真剣な表情でウォルフラムとワイルドターキーに頭を下げるロット。

 しかし、二人は納得しない。

「まだ答えは出ていない。可能性だけで動かぬことだ」

「左様‥‥さて、拙者はサムソンまで刀を取りに向かわなくてはならぬ。故にここは任せても良いか?」

 斑目がゆっくりと立ち上がると、ワイルドターキーに話しかける。

「おお、武器を新調するのか。なら行ってこい」

「済まぬな。さて、ロットとミアも付いてくるか?久し振りのサムソンだが」

 斑目は笑いながら問いかけると、ミアもロットもコクコクと頷いた。

「では二人のことは頼むぞ。ロットもミアも、斑目に迷惑を掛けるんじゃないぞ?」

 シルヴィーも笑いながら二人に告げる。

「あのねぇ、子供じゃないんだよ?」

「ロットはまだ子供のようなものですよ。ではシルヴィー様、行ってまいります」

「何だと?この泣き虫ミアがぁ」

 走って部屋から出ていくミアを追いかけるように、ロットも駆け足で階段を降りる。


「サムソンか。大月殿の所にまだ武器が残っていれば良いのだが」

「さて。いずれにしても先の戦いで愛刀を失ってしまいましたからな。運良く生きてはいますから、もう一仕事はするとしましょう。では」

 コクリと頭を下げてから、斑目も部屋から出て行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯

 


 カナン魔導王国。

 いつものように執務室で仕事をしているマチュアドライは、突然大粒の涙が溢れてきた。

 生体ではないゴーレムではあるが、感情表現の為に涙を流したり、食事をとることができるようには作られている。

――ボロボロボロボロ

「ど、どうしました突然」

 横で書類に目を通していたイングリットも慌ててマチュアドライの元にやってくるが、マチュアドライは頭を左右に振る。

「今、ツヴァイとのリンクが切れました‥‥ツヴァイが死にました‥‥」

 落胆するマチュアドライに、どんな声をかけていいのかわからないイングリット。

 ゴーレムとは言え、シスターズは全員が擬似的な感情を持っている。

 だからこそ、今まで誰にもばれずにやってこれたのである。

マチュアクィーンが戻ったら、私がマチュアとして幻影騎士団に向かいます。今までよりもクイーンに無理をかけてしまいそうですね」

「でしたら、今すぐにドライ様もアハツェン様の元に向かってください。ここは私とカナンでやっておきます。対外的に外に出るときと急務以外は地下で休んでください」

 そう告げてから、イングリットは侍女にカナンとジェラールを呼んでくるように告げる。

「そうだねぇ。それじゃあお世話になりますか」

 シュンッと姿を消すと同時に、カナン侯爵とジェラールがやってくる。

「お呼びになりましたか」

「ええ。クイーンは暫く対外的な事案以外は部屋で休むことになりました。カナンの動向は私達に委任されましたので、こちらでの執務をお願いします」

 その説明で全てを理解する二人。

 今の王城では、難民の受け入れの処理が山のようになっている。

 マチュアは奇跡的な処理能力でそれをこなしていたのだが、それを分担でやらなくてはならない。

「成程わかりました。では早速始めるとしますか」

 机に着くと、カナンは早速仕事を始めることにした。

 そしてジェラールも、イングリットの指示であちこち奔走する事になる。



 カナン地下、マチュアの秘密基地では。

「‥‥ツヴァイが逝きましたか」

「ええ。リンクが完全に切れています。恐らくは素体も残っていません」

 マチュアクィーンの問いかけにドライが頷く。

「なあアハツェン。お前なら、その、ツヴァイの再生はできないのか?」

「私がですか?」

「ああ。アハツェンは私たちシスターズの修復ができるのだろう?それでツヴァイにまた新しい体を作ってあげることはできないのか?」

 そう問いかけるドライに、アハツェンは穏やかな表情で話しを始める。

「例えば。私たちの体内には、マチュア様の魂のコピーである『魂のスフィア』があります。これがあるからこそ、私たちは個を持つことができています」

 マチュアクィーンもアハツェンの言葉をじっと聞いている。

「ですが、新しい体を作っても、『魂のスフィア』が別物ならばそれはツヴァイではありません」

「でもよ、私達は『記憶のスフィア』でお互いの情報を補っているよな?」

「ええ。ですが!それは記憶であり魂ではない。例えばドライがクイーンの記憶のスフィアを受け取っても、『クイーンの記憶を持ったドライ』でありクイーンにはなれない。わかりますね」

 その言葉の意味はよくわかる。


「それにですね。ツヴァイの『記憶のスフィア』、どなたが持っていますか?先ほどのドライの説明通り、私はマチュア様のチェストに納められているシスターズの素体がまだあることは知っています。ですが、中身が空っぽで、記憶のスフィアを組み込まないと新しいシスターズが出来るだけです」

「なら、全く新しくていいからそいつを動かせば。足りない手を補えるだろう?」

「マスター権限をセットできるのはマチュア様のみ。起動も同じく。なので壊れた時のパーツでしかありません」

 その言葉でドライも落胆する。

 だが、クイーンは何かに気がついた。

「ツヴァイの残骸が少しでもあれば、そこから記憶のスフィアを形成できますか?」

「さて、やってみない事にはどうにも」

「そこから記憶のスフィアを回収したら、予備のシスターズの体でツヴァイを呼び起こすことはできる?」

「それは無理ですね‥‥いや、訂正します。マチュア様のゴーレムを解析できるものがいれば、権限を与える事は可能かと。そうすればツヴァイの記憶を持ったシスターズは作れますね」

「ミアがいます。マチュア様の記憶の全てを持っているミアなら、ツヴァイの再生も可能です」

 そのクイーンの言葉には、ドライもぽん、と手を叩く。

「よし、それならミアを引っ張ってこよう!!」

「無理です。この空間は強力な結界で隔絶されています。それにミアがゴーレムの何たるかを知る事が出来るのはまだ先ではないのですか?」

 クイーンがそう告げると、ドライは悔しそうな顔をする。

「ミアかぁ‥‥ミアの成長を待つしかないかぁ」

「そういう事ですね。では、私は暫く瞑想しますので‥‥」

 すっと意識を閉じるアハツェン。

 それに合わせて、クイーンとドライもゆっくりと瞳を閉じて魔力の回復に努める事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 ラグナ・マリア王都ラグナ南方。

 バイアス連邦の拠点が設置されているロンダール平原。

 そこの陣幕で、ベネリはカーマインからの報告をじっと待っていた。

「遅い!!遅すぎるではないか?」

 傍らにいる次官に怒鳴るベネリ。

 だが、次官は身を竦ませるだけで何も告げられない。

――バッ

 唐突に陣幕の中に騎士が飛び込んでくる。

 そして敬礼をすると、恐る恐る報告を始める。

「報告します!!王都ラグナ南方城塞前、亜竜族およびドラゴンの軍勢はほぼ壊滅‥‥バイアス騎士団も撤退を開始しました」

――ガシャァァアン

 手にした盃を地面に投げつけるベネリ。

「巫山戯るな。我が亜竜族の軍勢が人間ごときの結界に阻まれたというのか?」

「報告によると、王都のゴーレムは1000年前のドラゴン侵攻の際に使用された『竜殺しの石像』です。ミドルドラゴンでは歯も立ちません」

「ラージドラゴンを大陸から呼ばなかったのは痛いな。まあ、今から向かって呼んでも構わないのだが、ラージドラゴンを使役するのは今は無理だな。いくら竜を使役する魔道具があるからとはいえ、俺の魔力も無限ではない‥‥わかった、一度下がるように全軍に伝えろ」

「はっ!!」

 威勢良く返事を返すと、騎士は陣幕から出ていく。


――スッ

 騎士が出ていくのを待っていたかのように、カーマインがベネリの元に姿を現した。

「遅いぞカーマイン。パルテノ領はどうなった?」

「すごく良いところまでいったのですけれどねぇ。マチュアがクロウカシスを瀕死にまで追い込んでしまって」

 そのカーマインの言葉で、ベネリは忿怒の表情を見せる。

「おっのれぇ、またしても白銀の賢者か!!あやつはどうやったら死ぬのだ?10年前に死んだのではなかったのか」

 傍らの椅子を蹴り飛ばして叫ぶ。


(10年前のは知らないけれど、さっきのあれはゴーレムよね。金属人形に戻っていたから)


 心の中でクスクスと笑うカーマイン。

「流石は賢者よ。ひょっとしたら不老不死の奇跡でも生み出したのかもしれないわ」

「五月蝿いわ!!それよりも次の手だ、それを考えなくては」

「そお?でも私はベネリに頼まれた事はして来たわよ」

「頼まれたこと?」

「ええ。パルテノ領をどうにかしろと。私としては出来るだけの事はしたので、後はベネリ次第よ」

 クスクスと笑うカーマイン。

「‥‥一体何をした?」

「瀕死のクロウカシスに、魔族の核を形成する種を産みつけたのよ。半魔族化したドラゴン、さしずめ魔神竜クロウカシスといった所かしら?あの力ならパルテノ領なんて一瞬で崩壊するわよ」

 その言葉には、ベネリも狂気を孕んだ笑みを浮かべる。

「そ、そうか。それはでかしたぞ。それでクロウカシス達は何処にいる?」

「まだ魔竜に変化したばかりで意識が混濁しているわ。だから、今一度支配すれば良いだけ。それでは私はこれで失礼するわ」

 スッとカーマインが消える。

 するとベネリは慌てて陣幕から外に飛び出した。

「何処だ?どっちからやってくる?」

 キョロキョロとわ周囲の空を見渡すと、やがて遠くから竜族の一団が飛来してくるのを見つけた。

「きたか‥‥ここだ、我はここにいるぞ」

 スッと手をあげるベネリ。

 やがて速度の速い亜竜族がゆっくりと着地すると、先頭に立っていたバルバロがベネリの元にやってくる。

「ベネリ様、帰還が若干遅れて申し訳ない」

 丁寧に頭を下げるバルバロに、ベネリは何も疑うことなく近寄っていく。

「構わん。それよりもクロウカシスが魔神竜となったと聞いた。お前達も進化したのか?」

「いえいえとんでもない。我が主人クロウカシスは魔神竜となりましたが、我らにはまだ魔族核はありません」

「そうか。まあ、いずれは諸君も魔竜族に参加するかもな。陣幕の中で詳しい話を聞こうじゃないか」

 そう告げると、踵を返して陣幕へと歩き始めるベネリ。


――ブスッ‥‥

 ふと、背中から腹部に向かって激痛が走る。

「なんだ‥‥これはなんなのだ‥‥」

 ベネリの背後から、バルバロが手にした槍で力一杯ベネリを突き刺したのである。

「魔神竜クロウカシス様の咆哮で、我らが呪縛は完全に解けました‥‥今まで散々騙してくれましたね」

――ズボッ

 一気に槍を抜き去ると、バルバロはもう一度力強く槍を突く。

 だが、それよりも早く振り返ると、ロングソードを抜刀してバルバロの首を跳ね飛ばした。


――ブシャァァァォォォ

 鮮血が首から吹き出すと、後方に着地していた亜竜族がベネリと周辺の騎士に向かって襲い掛かる。

「な、なんだこの状態は‥‥カーマイン、聞こえているか?一体これはどういう事だ!!」

 叫びながら陣幕に戻ると、ベネリは傍らに置かれていた『竜を制御する宝玉』に手をかける。

 そしで魔力を注ぐと、周囲で暴れている亜竜族を大人しくした。


『何って。私は力添えしただけですわ。今一度クロウカシスを従えれば良いだけ、バルバロの反乱は予想外ですから』


 カーマインの声だけが周囲に響き渡る。

「そうか‥‥なら良い‥‥畜生、傷が痛む‥‥」

 傷口に手を当てて癒しの魔術を発動する。

 やがて傷が塞がると、ベネリは遠くから聞こえてくる竜族の羽ばたきに耳にした。

「さて、では今一度魔神竜とやらを従えるとするか」

 陣幕から外に出ると、ベネリは上空にやって来た青黒い鱗の魔神竜を見上げる。

「人間よ‥‥よくも我が同胞を下らない魔導器で服従させたな」

「ああ。どうやら貴様の支配は消えたようだが、また今一度我に従って貰う!!」

 頭上に宝玉を掲げると、ベネリは一気に魔力を注ぐ。


――キィィィィィィィィィッ

 宝玉が虹色に輝き始める。

 すると、上空で羽ばたいていたクロウカシスが苦悶の表情を見せる。

「おのれ、またしてもこの音か‥‥やめろ、やめろォォォ」

 宝玉から脳裏に響く支配の旋律。

 クロウカシスは必死に抗っているが、やがて瞳がどんよりとしていく。

「そうだ‥‥魔神竜と言えども元々は水神竜。この古代の魔道具に抗うことなど出来るはずがない!!このトカゲ風情が」

 勝った。

 これで全て元どおり。

 魔神竜ともなれば、あの程度の結界など簡単に破壊できる。

 ベネリは歓喜にも似た表情でクロウカシスを睨みつけていたが‥‥。


「今っぽい!!」

――ズバァァァァアッ

 突然クロウカシスの影から飛び出したポイポイが、宝玉を握っていたベネリの腕を切断した。

 そのまま宙返りしながら宝玉を掴むと、素早く縮地でクロウカシスの影まで飛んだ。

「ぐぅぁっ、き、貴様生きてたのか」

 切断された傷口から溢れる血を抑えながら、ベネリがポイポイに向かって叫ぶ。

 10年前と同じ姿。

 違うのは、以前はなかった透き通った両脚。

「マチュアさんに頼まれていたっぽい。そっちは任せるって。だから、ずっとこのタイミングを待っていたっぽいよ!!」

 涙を流しながら叫ぶポイポイ。

「き、貴様、ただで済むとは思うなよ」

 背後のマントから真っ赤に燃え盛る鞭を引き抜くベネリ。

 そしてそれをポイポイに向かって構えるが。


「小さきものよ‥‥我を忌々しい呪縛から解放してくれた礼だ。今は殺さん‥‥」


 頭上のクロウカシスがポイポイに向かって呟く。

「ありがとう。それじゃあ」

 素早くクロウカシスの頭の上に縮地で移動すると、クロウカシスは上空に大きく飛び上がった。


――キィィィィィィィィィッ

 大きく顎を開くと、口の中に光と闇の渦巻く球体を生み出す。

「ま、まて、クロウカシスよ、お前を助けたのはこの俺だ‥‥その俺を殺すのか?」

 ゆっくりと後ずさりながら、ベネリは腰に下げていた杖に手をかける。

「解放してくれた事は感謝する。が、その後10年の年月、我が同胞を駒のように扱った報いは受けて貰おう」


――ゴゥゥゥゥゥッ

 クロウカシスから放たれた球状の咆哮。

 それは一直線にベネリに向かって飛んでいく。

――シュッ

 だが、ベネリは素早く精霊の旅路(エレメンタルステップ)で転移したが、咆哮は大地に直撃すると大爆発を引き起こした!!

――ドッゴォォォォォォ

 爆音と高熱。

 500度を超える熱風が周囲に溢れていく。

 闘気で結界を作っていたポイポイでさえ、この熱量にはかなり辛い。


 やがて、ベネリのいた場所には!直径500mもの巨大なクレーターが生み出されていた。

「さて。小さきものよ、そろそろ立ち去れ‥‥我はこれより、この世界の人間全てを蹂躙する‥‥まずはベネリの生まれ故郷、そして我ら竜を統べる力もつ血筋を滅ぼさねばならない」

 クロウカシスが頭上のポイポイに告げる。

 が、ポイポイは笑っている。

「恩義には恩義で返す、立派なドラゴンぽいね。私達の主人に今の言葉は伝えるっぽい。だから、もう少し森の方で降ろして欲しいっぽいよ。ここで降りたらポイポイ死ぬっぽい」

「グワハハハハハハッ‥‥いいだろう」

 フワッと飛び上がると、クロウカシスは後方の森に向かう。

 そこでポイポイは地面に着地すると、クロウカシスに頭を下げた。

「次会うときは敵っぽい?」

「敵対するならばな」

 そう呟くと、ポイポイは懐から竜を統べる宝玉を取り出してかざす。

「‥‥貴様もか?」

 一瞬の殺気。

 だが、それもポイポイの次の動きで掻き消された。

――ガシャァァァッ

 ポイポイは宝玉に溢れんばかりの闘気を流し込み、砕いたのである。

「操られるのも操るのも沢山っぽい。これで本当の自由っぽい。それじゃあね」

 そう告げて立ち去るポイポイ。

 その姿を見て、クロウカシスは首を傾げながら声を掛ける。

「小さきものよ。何故それを破壊した?それがあれば、我らは小さきものの国には手を出すことはできない‥‥なのに何故?」

 切り札を自ら破壊したポイポイ。

 その行動の意味が、クロウカシスには理解できない。

 だが、ポイポイは、振り向きざまにニィッと笑うと、一言だけ告げた。


「心の赴くままに。マチュアさんやアレキサンドラさんも、きっと同じ事したっぽいよ。理由なんて無いっぽい」



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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