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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第六部 竜魔戦争と呼ばれる時代へ
139/701

カムイの章・その10 そして未来に繋ぐ架け橋

カムイの章はこれにて一旦閉幕。

幕間を挟んで竜魔の章が始まります。

 ストームが単騎でミッドベルンを解放してから。

 その報告はかなり脚色を加えた上で、アストガル少佐から軍部の情報局や儀典局に報告された。

 結果として、ストームには女王陛下から直接報奨が与えられる事となったのだが、ストームは都合により来る事が出来ないとアストガルが報告した為、アストガルが代理として報奨の百万シリングを届ける事になった。


「さて。これが今回の報酬だ。一万シリング金貨、全て本物だ」

 大量の現金輸送袋でシリング金貨を運んでくるアストガルの部下。

 それを袋ごと手に取ると、ストームは早速袋の重さをGPS鑑定で測定した。

(ははぁ‥‥一部は中身をごまかしているな?)

 袋ごとに重さが違うものがある。

 それもかなり違っている。

 こんな辺鄙な場所に精密な秤はないと踏んだのであろう。

「アストガル‥‥中佐か。これとこれ、この袋は違うものが入っている。正しい袋を持って来い」

「ほう。女王陛下が与えたものを疑うというのかね?」

 ニヤニヤと笑うアストガルだが、その程度の脅しにはストームは屈することはない。

「ま、いいでしょう」

 そう告げると、袋を開いて一枚一枚調べ始める。

 そしてシリング金貨一万枚のうち、約3000枚が普通のシリング貨であったのが発覚した。

「では、この3000枚を金貨に変えて下さいね。でなければ、空母を破壊するか、私はゲーニッヒに移籍します」

そう告げると、金貨の入った袋だけ空間に放り込む。

「脅すというのかね? 女王陛下が賜ったものならばそれが全てだよ。君の仕事はその程度ということだ。さあ、とっとと空母を明け渡したまえ」

 ニヤニヤと笑うアストガルだが、ストームはこの程度の話は日常茶飯事。

「まあ、いいでしょう」

 そう告げると、ストームは空間から箒を取り出す。

「何処にいくのかね?」

「何処って。直接女王陛下に話を聞いてくるだけですよ。私は貴方にお願いしたのに、頼まれていた使いもまともに出来ないとは情けない」

 箒に跨ると同時に、風の精霊に弾除けの結界を張ってもらう。

 これでアストガルが何をしても、特に問題はない。

――カチャッ

 アストガルが箒にまたがったストームに銃を向けた。

「‥‥一つお尋ねします。それは何ですか?」

「金の亡者となった猟兵を殺す為の銃だよ。そうだな。ストームは正当な報酬を受け取ったにも関わらず、更に報酬を寄越せと暴れたので始末された。これが筋書きだな」

 パチンと指をならすと、近くで待機していたらしい兵士も一斉にストームに向かって銃を構える。

「一つお伺いしてよろしいですか? 他の戦闘猟兵は何処に?」

「別の地区に任務で出向いて貰っているよ。ステファン大尉も一緒にな」

「そうですか。それは残念です‥‥権力と欲の皮が突っ張っていると、どいつもこいつも卑しい顔をする。では、私は女王陛下に直接話を付けて来ますので」


――ズキューン

 いきなりアストガルが引き金を引く。

 だが、その銃弾はストームの手前で止まってしまう。

「ば、バカな。教会で聖別された銀の弾丸だぞ? 魔術の結界も貫く聖なる弾丸だ。それが止まるなど」

 ワナワナと震えながら、アストガルが次々と引き金を引く。

 やがで全弾打ち尽くすと、銃自体をストームに投げつける。

 その空間に止まっている銃弾をヒョイとつまむと、ストームは早速鑑定してみるが。

「はぁ、儀礼でも何でもないですね。そもそも聖別すらされていない。こんな弾丸では、吸血鬼や狼男すら殺せませんよ」

 ポイッと指で弾いてアストガルに命中させる。

――ビシッ

 頬にその弾丸が当たると、そこから血が少しだけ流れる。

「わ、私の頬に傷を付けたな。中佐の頬に傷を‥‥構わん、殺せ、こいつはここで殺せっ!!」

 一斉に銃の引き金を引く兵士たち。

 だが、その全てがやはり結界の手前で止まってしまう。

「‥‥ここは楽しかったんだがなぁ‥‥悪いがこれで失礼するわ。今度は戦場で敵として逢いますかねぇ‥‥」

 ニイッと笑いながら、ストームは箒に乗って空に飛び上がる。

 軍部の全てが腐っているのではない事をストームも理解している。

 ならば脅しとしてそう告げてみたのだが、アストガルはさらに激昂してしまった。

「は、早く彼奴を殺せ!! そうだ、戦闘機を出せ、戦車もだ!! 彼奴を王都に向かわせるな!!」

 必死に叫ぶが、既にその場の兵士たちも空を飛んでいるストームの姿に戦意喪失している。

「それでは皆さん、アディオス!!」

 そう吐き捨てるように告げると、ストームは一路エストラード本島へと飛んでいった。



 ○ ○ ○ ○ ○


 

 エストラード王都・ロンデニオン。

 その中心からか少し北にあるローゼンコート宮殿。

 エストラードを統治しているクィーン・ヴィクトリアの居城である。

 ストームは聖騎士の姿で箒にまたがり飛んで来ると、ゆっくりと正門前で着地する。

――ガタガガタッ

 横にある詰め所から、騎士の姿をした男達と軍服を着た兵士たちが駆け寄ってくる。

「き、貴様何者だ?」

 その言葉には、ストームは全く臆すること無く、その場で声高らかに叫んだ。

「戦闘猟兵のストームだが。ミッドベルンの件で意見具申にやってきた。女王陛下にそうお伝え下さい」

 それだけを告げると、ストームは腕を組んで相手の出方を待つ。

「では、少々お待ちください」

 名乗りを上げた事で所属がわかったらしい。

 すぐさま詰所から内部に連絡を取っている。

 やがて正門にいた騎士が、ストームの元にやって来る。

「ストーム殿。クィーン・ヴィクトリアが謁見を許された。こちらにどうぞ」

 その言葉にストームは軽く会釈する。

「数日は待たされるかと思ったが。こんなに早く謁見の許可が出たとはありがたい。では案内をお願いしたいが」

「わかった。ではこちらへ」

 そのまま騎士の後についていくと、やがて宮殿の奥にある謁見の間まで案内された。

 戦時ともあってそれほど華美ではない装飾。

 壁際には正装の騎士がハルバードを構えている。

 それ以外にも、書記官や執務官などが女王の席の下の方に待機しており、ストームがどんなことを話すのかじっと耳を傾けているのである。

 そして真っ直ぐ正面、椅子の上には威厳を保っている女性が静かに座っていた。


――ザッ

 案内してきた騎士が女王陛下に跪く。

 だが、ストームはその場に立って丁寧に一礼するだけである。

「ストーム殿。陛下の前である」

「悪いが、これがうちの国の挨拶だ。初めてお目にかかる女王陛下。俺はストーム、戦闘猟兵に所属している。階級は軍曹だ」

「報告はアストガルから聞きました。彼の作戦を無事に遂行し、ミッドベルンの解放に助力して頂けたのですね?」

 その言葉で、おおよその事は理解した。

「あー、成程なぁ。まず、状況をかいつまんで説明しますか‥‥」

 そう話を切り出すと、ストームはミッドベルン出撃に至るまでの経緯を一通り説明する。

 その話の内容が、先日ここを訪れたアストガルの話と大きく食い違っている為、ヴィクトリアも側近たちも動揺しているようである。

「つまりは、アストガルが貴方を利用していたという事ですか」

「ぶっちゃけるとそうですね。ミッドベルンは私が単独で解放しました。アストガルは私の手柄を上手く自分のものにしようとしていたのでしょう」

 その言葉には、ヴィクトリアもやれやれという困った表情をしている。

「ストーム軍曹、私にはあなた達のどなたかが嘘をついているか、それを知ることは出来ません。ですので、貴方が使ったという魔法を、今、ここで見せて頂けますか?我がエストラードの救世主、アーサー・ペンドラゴンの魔術の師匠たる大賢者マーリンのもたらした秘儀を」

 恐る恐る問いかけるヴィクトリア。

 ならばと、ストームは空間に魔法陣を形成する。

 精霊師であるストームでも、この手の視覚効果は簡単に作れる。

 そこから箒を取り出すと、横に跨ってフワッと飛び上がった。


――オオオオオオオオオッ

 この光景には、周囲の側近やヴィクトリアも驚きの顔になる。

 更にその状態から、光と炎の精霊を召喚すると、その姿を妖精の形に変化させた。

「こちらが光の精霊ルクス。こちらは炎の精霊バーニング。どちらも俺の使い魔ですが」

 ヒョイと箒から飛び降りると、すかさず聖騎士の装備から精霊師のローブ姿に換装する。

 そこでヴィクトリアはよろよろと玉座から駆け下りると、ストームの前に跪いてしまった。

「貴方こそまさしく、大賢者マーリンの弟子。どうぞエストラードに平和をもたらしてください」

「い、いや、顔を上げてくださいヴィクトリア。俺はあんたに跪いて貰うためにここにいるんじゃない。軍部の不正を正すために来ただけなんだから」

 スッと手を取ってヴィクトリアを立ち上がらせると、もう一度玉座に戻るように促す。

「それともう一つ。俺は大賢者マーリンの弟子ではない。異世界のラグナ・マリアという国からやって来ただけだ」


――ザワザワザワザワ

 その言葉を聞くと、ヴィクトリアは涙を流した。

「このエストラードを平定したアーサー・ペンドラゴンに助力したマーリン様も、そのラグナ・マリアという世界からやって来ました‥‥まさしくその通りなのですね」

「ま、待て!!そもそもエストラードにアーサーがいたのは何年前だ?」

「今年がエストラード創立からちょうど500年になります」

――ポン

 ストームもようやく合点がいった。

「そうかそうか。ラグナ・マリアから魂の修練でここに来た賢者かー。つまり、ここに来たのは500年前の‥‥時差があるから‥‥先代の白銀の賢者か?」

 これは一度詳しく調べる必要がある。

 だが、今はこの現状をどうにか打破しなくてはならない。

「ま、まあ、取り敢えず話を戻そう。今一度、軍部には綱紀粛正をお願いする。アストガルの処分については任せる」

「かしこまりました。至急儀仗隊に連絡をお願いします」

 その言葉で、側近たちの動きも慌ただしくなる。

「その方がいいでしょう。俺が本来受け取るはずだった百万シリングも一旦お返しします」

 ガシャッと空間から金貨の詰まった袋を取り出して床に置く。

「百万のうち3000枚は金貨ではなくシリング貨で入れてあった。多分これもアストガルが入れ替えたのだろうけれどな」

「報酬は部隊全員で二百万シリンクではなかったのですか?」

 側近がそう問いかけると、ストームは頭を左右に振る。

「この件については、別の者からも詳しい話を聞く必要がありますね。ストーム様は戦闘猟兵でしたよね? その責任者はどなたですか?」

「ステファン大尉ですよ。今は任務で何処かに向かっていったらしいですが、下手をすると口封じに何処かで殺されているかもしれませんねぇ」

 その可能性は十分ある。

「ならば、急ぎステファン大尉を招集して下さい。もし作戦で前線か何処かに向かっているというのであれば、その任務を解除してこの地に来るように」

 横にいる副官にそう告げると、副官はすぐに部屋から出ていった。 

「では、俺は一度退室します。今暫くはこの地にて留まっていますが、軍規が正されなかったり、俺を利用したり嵌めようとした場合は、俺はこの力をエストラードを滅ぼすために使う。正しき道を歩むのなら助力しよう。それでは」

 軽く一礼して、ストームは謁見の間から外に出る。

 そして宮殿を後にすると、箒にまたがって空を飛んでいった。


「‥‥もし、この事が真実でしたら、アストガルの罪は重大です。ストーム様は、このエストラードの伝説にあるアーサー王とその騎士たち。その中にある王を導いていた魔術師マーリンの世界から来た存在なのですから」

 窓辺でストームが箒に跨って飛んで行くのを見ていたヴィクトリアが、側近にそう告げる。

「伝説にあるマーリンの魔術。それがこのエストラードに牙を剥くというのなら、我々は頭を下げて慈悲を乞うしか出来ません‥‥」

「もし、彼がゲーニッヒに助力したとすると、このロンデニオンはたちまち戦火に見舞われてしまうでしょう」

 側近たちがヴィクトリアにそう申し入れると、ヴィクトリアは玉座からゆっくりと降りていった。

「私は部屋に戻ります。また状況が分かり次第報告をお願いします‥‥」

 それだけを告げると、ヴィクトリアは謁見の間を退室した。



 ○ ○ ○ ○ ○



「さて。ステファンと仲間たちはどこにいることやら‥‥お?」

 のんびりと箒に跨って空を飛んでいると、足元でストームを指差して叫んでいる者達が大勢いる。

 敵対するというよりは好奇心、そして憧れのような声である。

 特に子供達は顕著で、物語の中の魔法使いが目の前に現れたのだから、歓喜の声を上げている。

「あ〜成程なぁ。マチュアの気持ちがよく分かるわ、これは優越感満載だなぁ」

 かと言って下に降りでもしたらとんでもない騒動になる。

 ならばと、光の精霊を呼び出して、自分の周りの光の屈折率を調整する。

 スッとその場から姿が消えるストーム。

 すると足元の人々は彼方此方あちこちを探し始めた。

「一旦町から離れて‥‥と」

 ヒュンと近くの森を探すと、そこに着地する。

「さて。光の精霊よ、我が名に集いて義務を果たせ‥‥と」

――ヒュゥゥゥゥン

 大量の光の精霊を呼び出すと、それらに命令を与える。

「お前達、俺の頭の中読めるか?ステファンと俺の仲間達を探してこい。もし敵に襲われていたら助けてやれ。言葉は伝えられるか?」

 コクコクと頷いている精霊たち。

「よし行け!!光の速さで行け!!」


――ヒュンッ

 次々と飛んでいく精霊たち。

 一度に使役出来るのは100体まではいける。

 だが、使役している間は魔力がガシガシ削られる。

 ストームの魔力では、二十四時間常時使役できるのは十体まで。

 それでも凄いが、おそらく魔障酔いを起こすだろうと理解はしている。

「後は宿でも探すか。ノースベルンに戻りたいのはやまやまなのだが、アストガルに殺されるのも御免だし」

 取り敢えずは目立たない服に換装すると、バックパックを背負って街に戻る。

 箒に乗っていた時はフードで顔が隠れていたので、探している子供達とすれ違ってもばれていない。

(あー、風の精霊よ、我が周囲に結界を施してくれ。本当に薄く、体の表面でいい。その分強度を上げてくれ)

 これを常時お願いすると、まずは宿屋を探す。

 表通りで丁度よい宿を見つけると、ストームはそこで一週間分の宿代を支払い、のんびりとした時間を過ごしていた。


 そしてストームがロンデニオンにやって来て五日後の昼。

 のんびりと宿屋の一階にある食堂で昼ご飯を食べていると、四人の騎士が宿屋にやって来る。

「こ、これは儀仗隊の方。本日はどのような御用でしょうか?」

「こちらの宿にストームという人物は泊まっていないか?」

「はぁ、丁度今、そちらで食事を取っていますが?」

「では少しだけ失礼する」

 そう告げると、儀仗隊の隊長らしき男性がストームの元にやって来る。

「ロード・ストーム。ヴィクトリア陛下がお待ちです」

――ブッ!!

 飲みかけのエールを少しだけ噴き出すストーム。

「な、今なんっった?」

「女王陛下がお待ちですと」

「その前だ!!今ロードっていったか?」

「ええ。外で馬車が待っていますので、そちらへ」

 そう告げると、儀仗隊は宿屋の外で整列して待機している。

「全く。オンとオフしかないのかよ。済まない、少しだけ残した」

 呆然とする宿屋の店主の横を過ぎると、ストームは儀仗隊の案内で馬車に乗る。

 やがて馬車はゆっくりと走り始めると、ローゼンコート宮殿へとやってきた。



 馬車から出ると、ストームはそのまま真っ直ぐに謁見の間へと案内される。

 そこでは、ステファン大尉とアストガル中佐、そして見たことのない壮年の軍人が待っている。

「き、貴様ストーム、よくも私を罠に嵌めたな?」

 突然叫ぶアストガルだが、横に立っている男性がそれを制した。

「ストーム殿、わざわざお呼び立てして申し訳ありません。アストガル中佐とステファン大尉からもお話を伺いましたので、この場にて正式に判断したいと思います」

 ヴィクトリアがそう告げると、アストガルの横の男性が口を開く。

「戦闘猟兵所属のストーム君だね。私はアレグザンダー、エストラード陸軍司令を務めている」

「戦闘猟兵ステファン隊所属のストームだ」

 正規軍ではないので気軽に挨拶するストーム。

「先日のミッドベルン攻防戦においてアストガル中佐と君の主張が食い違っているので、それを確認したい。あれだけの敵戦力を、君が一人で殲滅したというが、それは本当かね?」

 チラリとアストガルを見る。

 すでにあちこちに手を回しているのだろう、ニヤニヤと笑っている。

「ああ、間違いはないな。証拠を見せろというのなら、演習場でも何処でも連れて行け。どれだけの兵力を出しても構わない、全て破壊してやる」

――シュンッ

 そう告げながら聖騎士の装備に換装するストーム。

 その動きにアレグザンダーもビクッと体をビクつかせる。

 ふと気がつくと、扉の向こうから光の精霊が飛んできて、ストームに何かを耳うちする。

「アストガル、ストームはそう告げているが」

「所詮は二流の減らず口。上官であるステファンが彼の嘘を証言してくれますが」

 チラッとストームはステファンを見る。

 だが、光の精霊の反応がない。

「この私はストームの上官として、アストガル中佐の作戦に参加するように伝えました。もっとも、戦闘猟兵は後方で待機し、戦果の殆どはアストガル中佐のものであります」

 そう告げると同時に、ストームはステファンの元に歩いていく。

――ドシュッ

 素早くカリバーンを引き抜くと、ステファンの目の前に突き刺した。

「今の言葉に二言はないな?もし嘘の証言なら貴様を叩き斬るぞ」

 威圧全開で問いかけるストーム。

「な、何の事だ?私が嘘など」

――ヒュッ

 素早くカリバーンを引き抜くと、バーストアタックを峰打ちで叩き込む。

――ズバァァァァア

 その一撃で目の前のステファンは全裸となり、カツラとつけ髭などが全て剥がれた。

「さて。このステファンのそっくりさんはどなたかな?」

 そうアストガルに問いかけると、アストガルはやや後ろに逃げる。

「な、何で偽物だと?」

 そう呟いた時、慌てて口に手を当てるアストガル。

「本物のステファンには、俺の光の精霊が付いているさ」


――バーン!!

 突然謁見の間の扉が開く。

 そこには、全身ボロボロのステファンと戦闘猟兵たちが立っていた。

「アストガル!!私を、戦闘猟兵を罠に嵌めたな」

 拳を握りながらステファンが叫ぶ。

「な、何の事だ?」

 そう怯えるアストガルに向かって、ステファンは作戦指示書を投げ捨てる。

「指定の場所に向かって敵の動向を探っていたら、貴様の部下が問答無用で襲い掛かってきた。ストームの精霊が助けてくれなかったら全滅していたぞ」

 すでにアストガルは蒼白な顔で震えている。

「さて、女王陛下、これで全て解決しました。此度の騒動、私の監督不行き届きにあります。どうか処罰をお願いします」

 頭を下げながらそう告げるアレグザンダー。

「アストガルの軍籍を剥奪、投獄してください。アレグザンダーはアストガルの行なっていた不正を全て調査、正常になるように務めてください」

 その言葉でアストガルは儀仗隊に連行されていく。

「ストーム殿。これで宜しいですか?」

「英断ですね。下の者が泣きを見るような事が無くなれば、それでいい」

 その言葉にヴィクトリアは静かに頷いた。

「改めて契約の報酬を支払います。百万シリング、全て金貨で用意しましたのでご確認ください」

 ストームの目の前に金貨の詰まった袋が並べられるが、ストームはそれを確認しないで空間に放り込んだ。

「今更疑いませんよ。では!私はこれで宜しいですか?」

「改めてストーム殿にお願いがあります。戦闘猟兵ではなく、この国のロイヤルガードとして招きたいのですが」

「それは御免被る。俺は戦場に出たいのでね」

「そうですか。ではせめて、ロードの叙勲を行わせてください」

 その言葉には、その場の全員が驚いた。

「まあ、それぐらいなら。配属は今まで通りに戦闘猟兵で頼むわ」

「ええ。では、略式ではありますが、ストーム・ゼーンにエストラードのロードを任命します」

 そう告げると、側近が勲章を手にストームの元にやってくる。

 そしてヴィクトリアがストームの前にやってくると、勲章をストームに手渡した。

「鎧ではつけられませんね」

「あ、そうか。ちょっと待ってろ」

――シュンッ

 精霊師のローブを身に纏うストーム。

 ヴィクトリアは、改めてその下のチュニックに勲章をつけるとゆっくりとストームに跪いた。

「それではロード・ストーム。これからも私達に正き道を指し示してください」

 そう告げると、ヴィクトリアは玉座へと戻る。

 そして一礼すると、全員がその場から退室した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「さて、それじゃあノースベルンに戻りますか」

「いや、戦闘猟兵はそのままミッドベルンに配属してくれ。そこから海上からくる敵の殲滅を頼む」

 アレグザンダーがステファンにそう告げると、全員が敬礼する。

「了解しました。それでは失礼します」

 ステファンが踵を返すと、猟兵全員がステファンの後ろを歩く。

 そして宮殿から出て中庭を歩いていると、一人また一人とその場に崩れ落ちる。

「も、もう限界だ。骨にヒビが入っているわ」

「俺もだ。もう歩けないですよ大尉殿」

 満身創痍の体に鞭を打ってここまで辿り着いたらしい。

「あ、ならちょっと待ってろ‥‥見様見真似だから上手くいくか分からんぞ」

 ダン、と力一杯足踏みすると、全員を包み込むように魔法陣が展開する。

「確かこう‥‥広範囲・完全治療発動。どうだ?」

――シュゥゥッ

 魔法陣の中の仲間たちの怪我がみるみるうちに癒えていく。

 それは正に神の奇跡とでも言えよう。

 案内していた儀仗隊は、その光景に驚きの色を隠せない。

「ステファン大尉。すぐに帰島ですか?」

「ん?どうしてだ?」

「ストームの奢りで飲みに行きましょうよ。約束通り百万シリング入ったのですから」

 その言葉には、顎に手を当てて考えるステファン。

「そうだな。なら折角だからこの街で一番いい酒場にでも行くとするか」

――オーッ

 こういう時の結束力は大したものである。

「まあ、好きなだけ飲んで食ってくれ。全部俺が持つから」

「す、ストーム、女はダメか?」

「勝手にしろ。おれは女はいらないからな」

「おや?ロードはひょっとして妻子持ちですか?」

「そんなんじゃないがな。国ではおれを待っている女性が‥‥いっぱいいるから少し怖い」

 無事に戻ったとして、果たしてどうなっているか分からない。

 いずれにしても、早くルーンギニスの力を取り戻さないとならない。


 そっと腰のルーンギニスに手を当てる。

 まるでストームの意思を分かったかのように、ルーンギニスは少しだけ輝いた。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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