カムイの章・その4 一枚上手と巻き込まれ体質
ストームがカリバーンをクウェイサーめがけて振り下ろした時。
――シュンッ
クウェイサーの影から十四郎が飛び出すと、台座に素早く飛び乗った。
「この時を待っていたでござるよ!!」
力いっぱい見得を切るが、その動きに驚いてクッコロは尻もちをついて倒れてしまう。
「きゃっ!」
その悲鳴に、十四郎は慌てて心配そうな顔をするが、すぐさま台座で見得を切り直す。
「そこで二人とも頑張りたまえ。戦いが均衡するまでずっと待っていたのさ」
わざわざ切り直すのは、どうかと思うが。
十四郎はガチャッと神殺しの神槍の柄を握りしめると、高笑いしながら神殺しの神槍を引き抜‥‥けない。
――グッ‥‥ググッ‥‥
「なぜだ?どうして抜けない!!クッコロさん、これは俺には抜けないのか!!」
身体を起こしているクッコロが、台座の上の十四郎を睨みつける。
「残念ね。私も貴方も、神槍には選ばれなかったっていう事よ?」
「そうか。それは仕方ないな」
あっさりと諦める十四郎。
だが、ストームの方はそんな話では済まない。
――ドッゴォォッ
カリバーンの強撃無限刃を、クウェイサーは魔剣ダンピールで受け止めた。
広がる衝撃波も、ダンピールの防御壁が全て止めたのである。
そして再びストームの心力を吸収する‥‥。
「面白い。あの剣聖がここまでひ弱になるとはな‥‥」
「そうだなあ。で、ダンピールは一体どれぐらいの心力を吸収するんだ?」
いくら吸われてもビクともしないストーム。
「ふん、減らず口をおおおおおっ」
素早くクウェイサーに向かって蹴りを入れる。
それを避けながら体勢を整えて、クウェイサーは再び身構える。
「い、今のは確かに手応えがあった。何故だ?」
「シャッター閉じてないから、心力がダダ漏れでね。十四郎、お前は後で覚えておけよ!!」
「いやいや、俺も抜けなかったから無罪だ!!」
意味の分からないことを呟く十四郎だが、いまは目の前のクウェイサーの相手である。
だが、すぐに神殿の丘に向かって別の騎士団がやってくる音がすると、ストームは十四郎に向かって叫ぶ。
「予定変更。十四郎、クッコロを護ってくれ。後で報酬は支払う!!」
「なぬ?了解した。さあクッコロさん、俺の後ろに回りなさい」
十四郎が掌を返してストームに付いた。
「ほ、本当に貴方を信用して良いのですか?」
「任務失敗。なら俺はここで少し稼がせてもらう」
自分に正直な十四郎。
それで少しは安心したストームは、間合いを取っているクウェイサーの対処を考えていた。
「ふう。やっぱりこれしかないか」
――シュンッ
一瞬で装備を侍に換装すると、やや前かがみの姿勢でじっと身構える。
刀は抜かず、手を添えるだけ。
「突然何かと思ったら、今度はイズモのサムライか。剣聖というのはどれだけの技が使えるのか見ものだな」
「まあかかって来いよ。面白いものを見せてやるから」
そのストームの言葉にカチンときたクウェイサーが、間合いを詰めて斬りかかる。
それが渾身の一撃だとわかったが、ストームは全く臆することはなかった。
――チン
軽く刀を引き抜く音がしたと思うと、既にストームはクウェイサーの背後に立っていた。
「い、今、何をした?」
「そこから動くなよ。技の名前は『居合黄泉戻し』、あんたの胴体は真っ二つになっている。が、切り戻してあるので、暫く動かなければくっつくからな」
そんなことを言われても納得するはずが無い。
「ふざけた事を。胴体が真っ二つにされて、生きていられるはずがなかろうが」
振り向きながら身構えるクウェイサーだが。
――ドサッ
上半身が床に転がり、大量の血が噴き出している。
「ば‥‥ばかな‥‥」
「だから動くなと言っただろう?まあ、あんたも十分に強かったよ。だから」
下半身を蹴飛ばして倒すと、ストームは上半身と下半身を魔法で接合する。
――シュゥゥッ
「こ、殺さない‥‥のか?」
「あまり殺しすぎると、悪しき魂になるのでね。クッコロにも怒られるんだ」
僧侶の『再生』で接合を終えると、後はそのまま放置。
「血を流し過ぎて動けないだけだ。さて、あっちをやるか」
ガキガキと腕を鳴らすと、ストームは台座の方へと向かっていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「ストーム、これが最後だ」
台座から離れた壁に、大勢の騎士が座らされている。
本気のストームが台座に集まっていた騎士達を悉く倒したのである。
その後は十四郎とストーム、クッコロの三人で騎士達を縛り上げると、壁際に放り出した。
「さてと。これからどうするんだ?」
「どうしよう‥‥私は、この神槍が回収出来ると思ってやって来たのに。ストームさんの知り合いの人が居ないとどうしようもないなんて」
――スルッ
クッコロが困り果てている横で、ストームは無意識に神槍を台座から引き抜くと、クルクルと回してまた突き刺した。
「全く。通信用水晶球はあの攻撃の時に壊れたんだろうなぁ‥‥一体どうしたらいいんだ?」
腕を組んで考えるストーム。
だが、十四郎とクッコロの二人は、驚きの表情になっていた。
「す、ストーム、今何をしたでござるか?」
「今、抜いたよね?」
「はぁ?一体誰が」
逆に問い返すストーム。
すると、二人が同時にストームを指差す。
「お、俺が?」
「聞きたいのはこっちよ。どうして抜けるの?」
クッコロがそう問いかけるので、ストームはとりあえず神槍を手にすると、そのまま引き抜いた。
――スルッ
「ふぁっ!!」
慌てて神槍を空間に収納すると、どうしていいか分からない顔になっている。
「さて。俺は選ばれた記憶はないが‥‥神の加護はある。それだけで良いのか?」
「そ、そういう事じゃないかしら。なら、後は神殿を再び永久氷壁と暴風の結界で保護し、既に神槍がここに無い事を宣言すれば、各国の騎士団も自然と撤収するわね」
そうクッコロが説明していた時。
――ガチャッ
十四郎がクッコロの背後に飛び込むと、その首筋にクナイを当てる。
「ひっ!!」
「ストーム殿。その神槍を手渡して貰おうか‥‥さもなくば、クッコロさんが‥‥まあ、とんでもない事になる」
真剣に告げているが、相変わらず締まらない十四郎。
「全く。これがそんなに欲しいのか?」
空間から神殺しの神槍を引き抜くと、ストームは神槍に念じた。
「クッコロを、俺の横に」
――シュンッ
その言葉と同時に、クッコロがストームの横に転移した。
「え?えええ?」
「一体何をしたでござるか卑怯者っ」
十四郎がストームを指差して罵る。
「どっちが卑怯者だよ。で、クッコロ、俺がさっきのやつを念じればいいんだな」
「はい、お願いします」
クッコロは静かに頷くと、神槍をストームに託した。
「まず‥‥これだな」
周囲に転がっていた騎士たちの姿が次々と消えていく。
神槍の力で、敵である騎士たちは暴風の壁に強制転移したのである。
「おおう。騎士達が全て消えた。これは凄いでござるなぁ」
パンパンと拍手する十四郎。
「‥‥あの、何であなたはここにいるの?」
「お前、俺の敵だよなぁ?」
クッコロとストームが二人で問いかけるが、十四郎は自信を指差して一言。
「拙者、一度『敵対しない』と申したが如何に?」
――パン
顔に手を当てて後悔するストーム。
「そうか。こいつ天然すぎて俺自身の中ではもう敵扱いしていないのか‥‥」
そう告げながらも、暴風の壁を再生して永久氷壁の再生を開始するストーム。
「クッコロ。今の時点では、暴風壁も再生し、永久氷壁は再び神殿を包み始めた。これでいいんだな?」
その話を聞くと、クッコロの瞳から涙が溢れた。
――ツツッ‥‥
「これで終わりですね?もうこれを狙ってくる亜神も居ないのですね?」
涙を流しつつも笑いながらそう問いかける。
「なあ十四郎。お前以外の亜神は全て殺したのか?」
そう十四郎に問いかけると、十四郎も腕を組んで考えて居た。
「はて。拙者以外の亜神といえばあの四人ですな。拙者は外で二人ほど始末しましたが、後の二人は知りませぬぞ?」
頭をひねりながらそう告げていると、ストームも指を折りながら考える。
「最初に殺したあの女騎士だろ?十四郎だろ?そして十四郎が殺した二人。あと一人は不明か」
「ほほう。ストーム殿はアルベルタを倒しましたか。となると、残りはベルディー教導国の国王であるロティーナだが。あいつの気配は感じて居なかったので、もうこの辺りには敵はいないでござるよ」
あっさりと告げる十四郎。
ならばこれで全てが終わりである。
「クッコロ、依頼はこれで完了だ。後はカムイが宣言すればいい。神殺しの神槍は剣聖ストームの手に託されたと。次に狙われるのは俺だが、それは問題ないさ」
「は、はい。月の巫女一族の念願、これで叶いました‥‥では戻りましょう」
ようやく落ち着きを取り戻したクッコロ。
全てをストームに託したことで、全てが終わったのである。
「戻り方は知っているのか?」
「それは全く問題ありませんよ。来る時と同じ、それで戻ることも出来ますし、その槍の力でカムイの首都まで転移することも出来ます」
それを聞くと、ストームは今一度、神槍に意識を集中する。
インカルシペの周囲で防風に阻まれて近寄れない各国の騎士たち。
それを指揮している者達。
既にストームが槍を手に入れたことを知って、正面と裏門の二つの場所で待機している者達。
そーっとストームに近寄って槍を奪おうとしている十四郎。
全ての映像が、脳裏に一瞬で流れていった。
そして神槍の使い方が全てわかると、ストームは神槍を一振りの剣に変化させた。
「十四郎。もうバレバレだぞ?」
「い、いや‥‥拙者は別に槍を‥‥やり?」
ストームが手にしているのは槍ではなくロングソード。
それを使っていない剣の鞘に納めると、腰に固定した。
「さて、それじゃあ俺達は一旦戻るとするか。それじゃあな、十四郎‥‥お前楽しかったよ」
――スッ
その言葉と同時に、ストームは仲間たちとカムイ首都へと転移した。
○ ○ ○ ○ ○
木造と石造りの建物が理路整然と並んでいる街。
ここがカムイの首都である。
正式な名前はカムイコタン、この中心にカムイコタンの長が住んでいるらしい。
その屋敷の正面に、ストームとクッコロは転移してきた。
「‥‥何年ぶりかしら。ここに戻って来るなんて」
感慨極まって嬉し涙を流すクッコロ。
「そうか。随分と長く旅をしていたんだな」
「成程。それは大変な旅であったのでござるなぁ」
クッコロとストームに続いて、ウンウンと頷いている十四郎。
――スパァァァァァァァン
素早くツッコミハリセンを十四郎に叩き込むストーム。
「お・ま・え・どうやってここにきた?」
「いたた‥‥たいたくないが心が痛いでござる。拙者は忍者ゆえ、素早く影に入って一緒に来たでござるよ」
「嘘をつけ!! 忍者の影潜りでは転移とかには付いて来れないだろうが」
素早く叫ぶストームだが。
「うむ。嘘でござる。拙者こうやって‥‥」
一瞬で1/10の大きさに小さくなる十四郎。
「こうなって、ストーム殿の服にしがみついていたでござる」
その言葉にクッコロは笑いを堪えている。
「あー、そうかいそうかい。もう勝手にしろ」
「うむ。許可が出たので勝手にするでござるよ‥‥と、何処に行くでござるか ?」
ストームとクッコロはスタスタと屋敷に向かう。
その後ろを、十四郎は慌てて追いかけていった。
「‥‥月の一族か。随分と久しいな」
屋敷の門の前で、カムイの戦士がクッコロを懐かしそうに見ている。
「はい。長はまだお元気ですか? 月の一族としてインカルシペの神槍を回収したとお伝え下さい」
その言葉には、カムイの戦士も驚いている。
「あの軍隊の包囲を超えてきたのか。そうか、大変だったな‥‥ちょっと待っていろ」
そう告げてから、戦士は急いで屋敷に向かっていく。
「この報告をしたら全て終わりですよ‥‥ストームさん」
「よし、これで仕事も終わりだな」
トントンと肩を叩いているストームだが。
その様子を見て、クッコロはストームの太腿を力いっぱいつねる。
――キュッ
「痛ったぁぁぁぁぁぁぁ。なにすんだ?」
「知りませんよ!!」
真っ赤になりながら横を向くクッコロ。
やがて屋敷から戦士が戻ってくると、一行を屋敷の中に案内した。
内部の造りはニシコタンのイァンクの家とそれほど変わらない。
来客用の部屋が多かったり、居間の部分が集会場にもなっている程度で、それ以外はほぼ一緒。
その居間の中心にある囲炉裏の回りで、ストームとクッコロ、十四郎の三人は長と話をしていた。
「クッコロがお世話になりました。カムイを治めているルークシュペツといいます」
「サムソンのストームです」
「イズモの伊方十四郎だ」
挨拶を終えると、ストームは早速本題に入ることにした。
「では。これが神殿から回収した『神殺しの神槍』です。ご確認ください」
そう告げて腰の剣を引き抜くと、瞬時に元のハルバード型の槍に戻す。
それを受け取ると、ルークシュペツはふむふむとなにか納得している。
「‥‥間違いなく、本物の『神殺しの神槍』です。選ばれたのはストームさんですか」
「ええ」
「では、これは既に貴方の命の一つ。どうぞお収め下さい」
頭を下げられると、ストームは神槍を丁寧に受け取る。
そして再びロングソードに戻すと、すぐに腰に戻した。
「後日ですが、正式にこの神槍はサムソンの剣聖ストームの元に渡ったと公表して下さい。それでインカルシペの周囲の騎士団も撤退を開始するでしょう。既にインカルシペは封印してありますので‥‥」
「そうですな。すぐに各国に伝書を送るとしましょう。これで全て解決です」
「まあ、今回の件については、私以外にこの十四郎も尽力していましたので」
取り敢えず敵対する亜神のうち二つは十四郎が殺したのは事実である。
「そ、そうなのか?」
「俺は一人しか殺してないからな。だから撃墜比は十四郎の方が上だ」
その言葉には、ルークシュペツも頷いている。
「では、十四郎殿にも何か報酬を渡さないといけませんなぁ」
「なら、その神槍をストームではなく拙者に譲って頂けぬか?」
ズイッと前に出て告げるが。
「それはなりませぬ。というか、すでに正当なる所有者がストーム殿である以上、彼が譲渡しない限りは不可能でございます」
――ガクーッ
力なく崩れる十四郎。
だが、こんな会話の中でも、クッコロはずっと落ち込んだ表情をしている。
「‥‥どうした?」
「いや、ストームはもう旅に出るんだろうなって‥‥」
「旅というか、自分の国に戻らないとならなくてね。こう見えても、俺、国王だから」
あっさりと告げるストーム。
すると、クッコロは何かもじもじとしながら話を始める。
「あのねぇストーム、あの‥‥私もストームの国についていっちゃダメかな?」
「ほう。クッコロはストームさんの嫁になるのか?」
ルークシュペツがそうクッコロに問い掛けると、クッコロは全身真っ赤になってしまう。
だが、決してその言葉に否定はしない。
「そ、それもいいかな‥‥」
「そういう事か。クッコロにはすまないが、俺と一緒に付いて来てもライバルが多いぞ? それに、済まないが俺は今の所誰とも結婚する気はないんだ」
「そ、そうなのかぁ‥‥でも、今ということは、そのうち誰かと結婚する可能性はあるっていう事だよね? その誰かの一人に立候補してもいいよね?」
現在までのストームの嫁さん候補としては。
守ってあげたい妹のようなシルヴィー。
友達のように気楽に接してくれるカレン。
可能性だけなら、ここにサムソン騎士団のクリスティナも加わるであろう。
そこに積極果敢なクッコロが加わると、あっという間に修羅場の出来上がりである。
「結婚云々は抜きとしても、サムソンに来る事については俺は断る権利はない。来たかったら勝手に来たらいい。それよりも親父に報告するのが先だろうから、まずはそこからだな」
「あ、そ、そっか。シュトラーゼの父さんにも報告しないとね」
「俺は明日にでもシュトラーゼに向かう。その後で付いて来るなら勝手にしろ」
つっけんどんに告げるストーム。
だが、そういうのも無理はない。
地球からやってきて、神の加護を受けているストーム。
その結果かどうかわからないが、最初にこの世界に来た時と今とを比べても、自分ではっきりと自覚している。
ストームは老化が止まっている。
不老不死ではないが、確実に不老になっている。
それがどういう事なのかはわからないが、少なくとも誰かと結婚しても、同じ時を歩むことが出来ない。
それを自覚し始めたからこそ、相手に辛い思いをさせたくないからこそ、ストームはつれない態度を取る事が出来る。
もっとも、相手がそれを容認しているのならその限りではないが。
「さて。それじゃあ最後の仕上げとまいりますか」
ゆっくりと立ちあがるストーム。
その言葉には、その場の全員が頭をかしげる。
「ストーム殿。最後の仕上げというのは?」
「俺はこの神槍を放棄する。誰の手にも届かないところへ。そうする事で、もうこの槍を争う者達はいないだろうからな」
「おーいおい、なら拙者にくだされ。それで円満解決じゃ」
慌てて十四郎がストームに近寄るが、すぐさま足蹴にするストーム。
「ねぇストーム。放棄ってどういうこと?」
そうクッコロが問い掛けると。
「この世界から消すことにする。この神槍に秘められた力『時を司る天狼』の加護で、これをこの世界以外の何処かに飛ばす!!」
そのストームの言葉には、クッコロやルークシュペツも静かに頷いたが。
「それは反対でござる。神槍さえあれば、世界を手にする事も出来るのではないでござるか?」
「阿呆。世界なんか手にしてどうするんだ?おれは自分の身の丈にあった程度で良いんだよ」
「しかし‥‥拙者も、一度は世界を手にしてみたいですぞ」
慌ててストームに駆け寄ると、十四郎が神槍に手をかける。
「あーもうお前というやつは、もういい‥‥」
そう告げると、ストームは神槍に念を送り込む。
それに合わせて、十四郎も神槍に向かって叫ぶ!!
「槍よ、異世界の門を開き、自らをその門の向こうへと解き放て!!」
「槍よ、汝を手にするものに力を。我らに栄光を授けたまえ!!」
二人の声が同時に響く。
それと同時に、神槍は淡い輝きを放ち始める。
「ふっ‥‥十四郎、諦めるんだな」
「それはストーム殿でござるよ‥‥」
やがて輝きはストームと十四郎を包み込むと、一瞬でその場から消滅した‥‥。
「あれ? ストーム? 十四郎?」
慌てて周囲を見渡すクッコロ。
だが、家の中からは 二人の気配は全くなかった。
「ルークシュペツ様、これは一体どういうことですか?」
慌てて問い掛けるクッころだが、ルークシュペツは静かに頷いた。
「神槍が、二人の意思を取り込んだらしいのぅ‥‥こうなると、ストームが帰って来るのを待つしかあるまい。何処にいったのかは判らぬが、恐らくは異世界であろうなぁ‥‥」
「そ、そんな‥‥」
ポロポロと涙を流すクッコロ。
だが、既にクッコロではどうすることも出来ない。
「これからどうするかはクッコロ次第。ストームを探しに旅に出るもよし、この地でストームが戻ってくるのを待っているもよし‥‥」
そのルークシュペツの言葉に、クッコロはぐっと涙をこらえた。
「私もカムイのメノコです‥‥」
「そうか‥‥なら」
静かに立ちあがると、ルークシュベツは部屋の奥にある祭壇から一振りの彎刀を手に取る。
それをクッコロに差し出すと、ゆっくりと頷いていた。
「長。これはカムイの宝刀では‥‥」
「うむ。カムイの英雄ポンヤルンペの宝刀・虎杖丸。月の一族の守り刀だ。そなたの父から預かっていたものだから、これはクッコロに託そう」
頷きながらそれを受け取ると、クッコロは虎杖丸を背中に背負う。
そして頭を下げてから、ルークシュペツの元から立ち去っていった。
彼女もまた、自分で出来る事を探すために。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






