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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第六部 竜魔戦争と呼ばれる時代へ

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バイアスの章・その13 誤算は予測の範囲内?


 バイアス連邦北東遺跡群。

 ニアマイアー領を出たベネリ達は、海路でバイアス連邦へと向かった。

 そして真っ直ぐに北東のカルスト大森林に住まう『赤き亜竜族』の集落を訪れると、その地下にある遺跡へと向かっていた。


――遺跡最下層

 巨大な鍾乳洞。


 そこに広がる巨大な地底湖のほとりに、ベネリ達はやって来ていた。

 途中の守護者も全てセシールによってなりを潜め、ベネリ達に敵対する事はなかった。

 目の前の地底湖のほとりにある小さな祭壇。

 それこそがベネリ達の求めていた『嵐の壁』と『湖の結界』を解除する為のものである。

 遥か昔に、吟遊詩人アレキサンドラによって作られた結界。

 この地底湖にて、アレキサンドラは精霊王の力を借りて嵐の壁と湖の結界を施したのである。

 そして、この湖は『精霊の旅路エレメンタルステップ』という、マチュアの使う転移魔法の精霊版を使う事が出来る唯一の地でもある。


「偉大なる精霊の王よ。我が願い聞き入れ、我が望み叶えたまえ‥‥」

 セシールが祭壇に立つと、ゆっくりと詠唱を開始する。

 傍には四大精霊の力を示す水の羽衣、風の額冠、火の剣、大地の鎧と言った魔道具が並べられている。

 全てベネリが集めていた魔道具である。

「ベネリ殿、本当に大丈夫なのでしょうな。我々竜族は精霊とはどうも相性が悪いのですが‥‥」

 小さい声で、横で儀式を見ているベネリに問いかける。

「心配するな。全て計画通りだ‥‥それと、儀式が終わるまでは私をニアマイアーと呼べ‥‥」

「仰せのままに」

 程なく儀式は進む。

 セシールの傍らの魔道具が輝きながら四つの元素となり、やがて4本の鍵となる。

 それらを手に取ると、セシールは地底湖に一歩だけ足を踏み入れた。


――ス――ッ

 セシールの足元から水が引くと、地底湖は徐々に水位を下げていく。

 その底に、新たな台座が姿を表すと、セシールは鍵を手に台座へと歩いていく。

「水神竜を永劫の牢より放ちたまえ‥‥」

 そう告げながら、水の鍵を鍵穴に差し込んでゆっくりと回す。

――ガチャッ

 と音が響くと、セシールは次の鍵を手に取る。

「暗き大陸の壁を取り除きたまえ‥‥」

 続いて風の鍵を差し込みゆっくりと回す。

――ガチャッ

「大地に囚われしもの達よ、今門を開き再び光の元に顕れよ‥‥」

 大地の鍵を差し込み、ゆっくりと回す。

 そして最後に炎の鍵を手にした時。

――フラッ

 セシールがゆっくりとその場に倒れた。

「どうしたセシール。あと一つだ、それで全てが終わる。頑張るんだ‥‥」

 そう語りかけるベネリ。

「え、ええ、大丈夫よニアマイアー」

 台座に手をかけて、セシールはどうにか立ち上がる。

 そして炎の鍵を拾い直すと、最後の鍵穴に差し込んだ。

「大地の底に眠る炎の精霊達。今こそ荒ぶる力を解放して、その姿を現しなさい‥‥」

――ガチャッ

 最後の鍵が台座に差し込まれると、少しずつ水位が戻ってくる。

 ベネリはバルバロに指示すると、セシールを助け出してベネリの元に連れてくるように告げた。

「バルバロ。セシールをここへ。いよいよ最後の仕上げだ」

「御意」

 バサっと翼を広げてセシールの元に降り立つと、倒れそうなセシールを抱きかかえてベネリの元に戻ってくる。

 そしてセシールは、フラフラとしながらもベネリに近寄ると、そっとベネリを抱きしめた。

「これで良いのよね?ニアマイアー、これで貴方は帰って来れるのよね?」

「ああ、だからそこで休んでいなさい」

 ベネリが最初にセシールが立っていた台座を指差す。

「ここでいいの?」

 そう告げながら、セシールは台座に座る。

「ああ。最後の仕上げだよ。偉大なる精霊の王よ。かの者の魂と引き換えに、『精霊の旅路エレメンタルステップ』を我に授けたまえ‥‥」


――ピシッ

 そのベネリの言葉が洞窟内に響くのと、セシールが足元からゆっくりと石化するのは同時である。

「あ、あら?どうしたのニアマイアー‥‥」

「何も心配する事はないよ。すぐに戻るからね」

「そうなの?分かったわ‥‥」

 クスクスと微笑みながら、セシールはやがて石の彫像に姿を変える。

 そしてセシールが物言わぬ彫像と化した時。

 ベネリの手には、四つの宝玉を付けた杖が握られていた。

「バルバロ‥‥暗黒大陸に向かうぞ。今こそ貴公の主人を解放するときだ」

 ベネリの杖が妖しく輝くと、ベネリやバルバロ達はその輝きに包まれて、そしてその場から消えた。

 台座では、彫像化したセシールが静かに微笑んでいた。

 まるで、最愛の夫にようやく会えたかのような、優しい微笑みであった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 カルスト大森林遺跡・地表部

 燃え盛る道バーニングロードで黙々とベネリ一行を追いかけていたポイポイは、ようやく彼らの向かったと思われる遺跡までたどり着くことができた。

「こ、これはとんでもないっぽいよ」

 ボソッと呟くが、まさか一人で突撃することもできない。


――ピッピッ

『マチュアだ。現状の報告をお願い』

「ポイポイっぽい。セシールを攫った騎士を追跡中。騎士達が目の前の遺跡に入ったところで亜竜が多過ぎて追跡できないっぽい」

『りょーかぃ。ではそっちに合流するね』

――ピッピッ


 緊急時でなければやらない大技。

 ポイポイの付けている水晶のイヤリングの位置をGPSコマンドで確認すると、マチュアはその遥か上空に転移した!

――シュンッ

 上空2000m。

 安全を確保するために必要な高度。

 ここからの自由落下の最中、マチュアは急ぎ箒を取り出して跨ると、落下速度を落とし始める。

「はうぁ。遺跡が手付かずで残ってるやないかー」

 眼下に広がるスタイファー遺跡。

 そして上空のマチュアを指差す赤い鱗の竜人。

 赤神竜ザンジバルの亜竜族は、上空から飛来するマチュアを敵と見做したらしく、次々と集まってきては弓を射始めた。

――ヒュヒュヒュヒュンッ

「ふぁっ、危ないわ!!『理力の盾』っ!!」

 瞬時にマチュアの周囲に二枚の盾を生み出すと、飛んでくる矢を次々と受け止める。

「うわっ!!敵に向かって急降下攻撃。気分はハンス・ルーデルだねぇ」

 などとドイツの撃墜王の名前を出しながら一気に地面すれすれまで飛んでいくと、近くの木陰から飛び出したポイポイが後ろに飛び乗る。

「そこの神殿っぽい!!」

「了解さー。あのでっかいの頼むね」

「ぽい!!」

 マチュアの視線の先には、神殿の正面で巨大な両手剣を片手に構え、タワーシールドを腕に固定した亜竜ジルヴァーンが立っている。

「ここは我ら聖地。何人たりとも侵入することは許さぬ!!」

――ブゥン

 軽々と両手剣を振り回し、向かってくるマチュア達に振り落とす。 

 たが。

――ガッギィィィッ

 後ろに乗っていたポイポイが、右手から出した銀色の糸で両手剣を絡め取ると剣の軌道を逸した。

「なっ、何だこれは」

「ミスリルの鋼糸っぽい。ごめんなさい」

――ヒュヒュヒュヒュンッ

 すかさずジルヴァーンを絡め取ると、クナイを飛ばしてその場に固定する。

「お仲間さんに解放してもらうっぽい!!」

 そう叫んでいるポイポイ。

 やがて箒は神殿に突入すると、真っ直ぐに奥にある扉に向かう。

「ポイポイ、結界中和っ!!」

「りょーかぃっぽい」

 二人がかりの結界中和フィールド。

 それに包まれたまま、二人は箒で結界の中に飛び込んだ。


 その二人を亜竜達は追いかけてくる。

 だが、遺跡の結界は彼らには越えることが出来ない。

「はぁはぁはぁはぁ。ち、ちょっと休憩。この手の結界なんて中和したら、魔力ごっそりと持っていかれるわよ」


 箒から降りて息を整えるマチュア。

 時間さえ掛けれられれば、結界中和能力なんて使わない。

 解析して魔力を注いで結界を中和するだけ。

 だが、忍者の結界中和には魔力や心力を消耗する。

 マチュアが休んでいる間にも、ポイポイは周囲を確認している。

「前方からガーディアンっぽい。数は4つ?」

 ゆっくりと歩いてくる、全身鎧のスケルトン。

 手にはロングソードとバックラー、初期冒険者装備のようにも見える。

「ちょっと仕留めてきて。最近魔力使い過ぎてまだ半分も回復していないのよ」

「ほーい。ちょっと行ってくるっぽい」

 クナイを両手に握ると、スッと逆手に持ち替える。

 そのままスケルトンの山に突入すると、あれよあれよと言う間にスケルトンを全て始末した。

「お、おう。さっきといい今といい、ポイポイ強くない?」

「まあ。Sクラス忍者はこんな感じっぽいよ?」

 クルクルとクナイを回しながら返事をするポイポイ。

「そ、そうなのか。まあ、それじゃあ先に進みましょうかねぇ」

 ゆっくりと立ち上がると、マチュアとポイポイは先に進むことにした。


 道順の分からない遺跡。

 時折現れる遺跡を守る守護者達。

 それらの要因が、マチュア達の進む時間を遅らせている。

 そして、ようやく目的の最下層に辿り着くマチュアたち。

「地底湖かぁ。ここがこの遺跡の終着点なのかな?」

 途中のあちこちにあった台座には何もなかった。

 人が入った形跡は残っていたので、ここに来る途中で回収されたのだろうと想像も付く。

「マチュアさーん、ここに彫像と台座があるっぽいよ」

 地底湖のほとりの台座に向かったポイポイが叫ぶ。

「へぇ。彫像と台座ねぇ‥‥嫌な予感しかしないわ」

 そう呟きながらゆっくりと台座に近づくマチュア。

「あー、嫌な予感が当たったかもね。ポイポイ、ちょっと周辺の索敵をお願いね」

「ぽい!!」

 素早く深淵の書庫アーカイブを発動すると、マチュアは台座と彫像の解析を開始した。

「解析開始と‥‥地底湖の奥の祭壇が本物の祭壇で‥‥ちょ、おま!! 封印とその開放? すでに四大精霊の力で封印は開放されている?」

 慌てて深淵の書庫アーカイブから飛び出しそうになるマチュアだが、その後に続く文字で足が止まる。

「そうか。そうなの‥‥」

 彫像のデータに記されたセシールの文字。

 魂すら魔力に変換し、彫像にはなにも残っていない。


 セシールは、既に死んでいた。


「さて。この程度で凹む私ではない。蘇生の手段と‥‥ふぁ?」

 失われた魂の補完がどれ程の代価を必要とするか、マチュアはティルナノーグの時に十分に思い知った。

 そして今回も、そのレベルでの代価は必要であろう。

 奇跡の魔術は未だ使用可能にはなっていない。

 その下にあるゲージがなにを意味するのか分からないが、100%まで蓄積しないと使えないのだろう。

「ポイポイさん、その彫像を回収するね」

 大袋を取り出して彫像に近寄ると、マチュアはセシールの彫像をバッグに収納した。

「ほへー。よく出来た彫像っぽいね」

「これは内緒よ」

 口元に人差し指を立てると、マチュアが少しだけ悲しそうに笑った。

 それでポイポイも理解したのだろう。

 両手を組んで胸元に当てると、静かに目を閉じる。

「さて、ポイポイさん、ここからどうするか。相手は空間を超えてどこかへ向かった。魔力の残滓があるから、私の転移で追跡は可能だけど?」

「二人でも行かないとダメっぽい。こんな酷いことを平然とするなんて、絶対に許してはダメっぽい!!」

「とは言えねぇ。幻影騎士団は待機命令、ストームは喧嘩中。手駒は私とポイポイだけだよ?いけると思う?」

「ポイポイは Sクラス、マチュアさんはSSSクラス。二人合わせるとSSSSクラスっぽい。それに伝説の勇者と同じSSSのマチュアさんなら大丈夫っぽいよ」

 あっけらかんと告げるポイポイ。

 ならやる事は一つである。

「それじゃあ行きましょうか?」

 マチュアはそうポイポイに話しかけると、彼女の肩を軽く掴む。

 そしてポイポイがこくりと頷くと、『精霊の旅路エレメンタルステップ』の残滓を頼りに転移した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 暗黒大陸・竜都ドラクナ。

 そこにやって来たベネリにとっては、初めての体験である。

精霊の旅路エレメンタルステップ』はマチュアの使う転移と全く同じ働きをする。

 力の根幹が魔障であるか精霊力であるかの違いでしかなく、一度行った所でなければ道は繋がらない。

 それ故に、ベネリにはここまでの道しか開く事が出来なかった。


「あの宿か。さてバルバロ、神殿まで案内を頼みたいが」

「喜んで。水神竜クロウカシス様もお喜びと思われます。ではこちらへ」

 そう告げられて宿から外に出ると、街の中は驚きに満ちていた。

 今まで彼ら竜族を大地に縛り付けていた忌々しい嵐の壁が消滅し、澄み切った青空が彼らの元に戻って来たのである。

 喜びのあまり更に飛び立つと、思う存分に空の散歩を堪能している。

「これも全てベネリ様のお力です‥‥」

「そうか。まあ、まだまだやらなければならない事がある。今暫くは力を借りるぞ」

 そう話をしながら、ベネリはバルバロに案内されてクロウカシスの眠る地底湖へとやって来きた。


 巨大な地底湖のほとりの祭壇。

 かつてはアレキサンドラの封印を維持するための宝玉が置かれていたが、今はその力を失っている。

 水面にかけられた結界も、セシールによって解除されてしまった為、今は存在しない。


――ザザ――ッ

 水面が波立って、クロウカシスが姿を表す。

 体長ならばゆうに200mを超えるであろう。

 澄み切った青い鱗に氷のような純白の翼。

 鋭い眼光は力を取り戻した事を表している。

「バルバロよ、よくぞ我を解放した」

 魔力の弱い人間ならば気絶するであろう声が響く。

 すかさずバルバロもその場に跪くと、クロウカシスはウンウンと頷いている。

「我ら青き竜族の悲願、まさに叶いました。これも、ここにいるベネリ殿の尽力によるものです」

 丁寧な物言いでクロウカシスに進言するバルバロ。

「成程。さて、そういう事ならば我に何か用があったのだろう。そこの人間は一体何の用だ?」

 ゆっくりと視線をベネリに向けるクロウカシス。

 この視線だけで、ベネリの全身が竦んでいる。

 最悪の恐怖というものが存在するのならば、今がその時だとベネリは感じた。


(さて、ベネリ様。ここで油断はしませんように。クロウカシスは竜族の中でもかなりの知恵者ですので)


 何処からともなく聞こえてくる夢魔カーマインの声。

(そうだな。ここまでが事前準備だ。ここからがバイアス連邦の栄光の始まりだ)

 スーッと息を吸うと、ベネリは震える声を必死に抑えて、力強く話を始めた。

「水神竜クロウカシス殿、初めてお目にかかります。私はバイアス連邦第一王子ベネリと申します」

「ほう。あの小さき国が今では連邦を名乗るか」

「はい。此度のクロウカシス殿の結界を解放した件、バルバロが説明した通り私達が尽力させて頂きました」

「クロウカシス様。このベネリ殿はスタイファーの遺跡からアレキサンドラの結界を解除する手段を探し出し、無事に解放してくれたのですぞ」

 そうバルバロが後押しをすると、クロウカシスも驚いた顔をしている。

「そうであったか。改めて礼を言わせてもらうぞ。何か望みはないか?我らが眷属が空を取り戻した礼もさせて頂きたい」

「そうですか。ではこちらを」

 そう告げながら、ベネリは懐から少し大きめの青い宝珠を取り出した。

 マチュアが手に入れた『竜を統べる宝玉』の一つ。

 ベネリは水神竜クロウカシスとその眷属を統べる宝珠を手に入れていたのである。

 ゆっくりと魔力を注ぐと、宝珠は青く輝き始める。

 この光を見ていたバルバロは再び意識が朦朧となる。

 そして、その光を見たクロウカシスは驚愕していた。


「それは‥‥貴様、それを何処で!!」

 突然険しい表情になると、クロウカシスは湖から全身を浮かび上がらせる。

 そして巨大な腕でベネリを叩き潰そうとするが、徐々に力を失ってしまう。

「ぐぅ‥‥こ、こんな馬鹿な。せっかく解放されたのに‥‥」

「ご安心を。全てが終われば解放しますので、それまでは私の手となり足となり、働いてもらいますよ」

「だ、誰がきさマナゾニ‥‥イカヌ、イシキガ。キサマァァァァァ」

 絶叫が洞窟に響き渡る。

 やがてクロウカシスはぐったりとして湖底に沈み始める。

「ではクロウカシスよ。地下の水脈を通って外に出てこい。改めて、そこで貴様がするべき事を説明してやる!!」

 その言葉は宝珠を伝ってクロウカシスに届く。

『了解した、我が友人よ』

 脳裏に届くクロウカシスの声。

 そしてベネリの傍では、バルバロがいつもの風に戻っていた。

「これで全て終わりですね。ベネリ殿はこれから何をするのですか?」

「それは地上に戻ってからだ」

 そう告げると、ベネリは地上に向かって戻り始める。

 その背後を、バルバロは静かについて行くだけであった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 地上では神殿の周囲に大勢の亜竜族や他の竜族が集まっている。

 神殿上空にクロウカシスが飛来したのである。

 集まったクロウカシスの眷属はその場に跪き、じっとクロウカシスの言葉を待っている。

 そしてベネリが神殿の入り口から姿を表すと、クロウカシスはベネリの横にゆっくりと降りて行った。

「この者こそ、我ら青き竜の一族を解放したベネリだ。我はこの恩義を返すため、ベネリ殿の命に従う」

 静かにクロウカシスの言葉を聞いている眷属たち。

 そしてバルバロも一歩前に出ると、大声で叫ぶ。

「これより我らは力を合わせ、ベネリ殿の力となる!!」


――グウォォォォォォォォ

 竜の咆哮があちこちから響く。

「これだ。我はこの瞬間をずっと夢見ていた」

 感動に打ち震えながら、ベネリは手にした宝珠を頭上にかざす。

「クロウカシスの眷属たちよ、我は貴殿らを統べる王だ。今暫くの間、諸君の力を貸して欲しい。忌々しきラグナ・マリアを、貴公らを封じたアレキサンドラの国を滅ぼすのだ!!」

――グルゥァァァァァァァ

 再び咆哮が響き渡る。

 目の前に広がる光景に、ベネリは満足であった。

 だが。

 カーマインは神殿の物陰からベネリを見つめている。


(そろそろ役者の交代ね。約束通りセシールの体は貰うわよ‥‥彫像化程度なら簡単に解除できるし、魂のない肉体なら簡単に乗っ取れるでしょうからね)


 そう呟くと、カーマインはスッと姿を消した。

 そして神殿正面では。


「それではバルバロよ、彼らを率いてラグナ・マリアへと向え。私はクロウカシスとともに後から悠々と行かせてもらう」

「了解した。では行くぞ!!」

 すかさずバルバロは翼を広げると、そのまま上昇を開始する。その姿に賛同するように、亜竜たちも次々と飛び上がると、ウィル大陸へと飛んで行った。

 その光景を、ベネリは満足そうに眺めている。

「さらばラグナ・マリアよ。さてクロウカシス、貴殿に聞きたいことがある」

「なんだ?」

「伝説では、全ての竜族を統べる魔道具があると聞く。それがどこにあるのか、貴殿なら知っているだろう?」

 そうクロウカシスの前に立つと、クロウカシスを見上げやるように問いかける。

「いくらベネリの頼みでも‥‥それは教える事は出来ない。我ら竜族の秘宝であり、六大竜全てが認めた者でなくてはならぬ」

「ほう。この、俺の頼みでもか?」

 そう呟きながら、ベネリは再び宝珠に魔力を注いでクロウカシスに向けた。

 青い輝きが再び宝珠から溢れ出すと、クロウカシスの瞳がどんよりとしてくる。

「竜族の秘宝‥‥それは‥‥」


――バジィッ

 突然、宝珠を持っていた手が何かに弾かれ、宝珠が宙に舞う。

「痛っ!!」

 その衝撃でクロウカシスの意識が戻る。

 だが、まだベネリの支配からは逃れてはいない模様。

――シュルルッ

 宙空の宝珠にミスリルの鋼糸が飛んで行くが、それよりも早くベネリが飛びついて握り締める。


「なっ、何者だ!!」

 周囲を見渡しながら叫ぶ。

 すると、神殿に向かう街道から箒に乗ったマチュアが姿を現した。

 普段のエルフの姿をしたマチュアが、白銀の賢者の姿でやってきたのである。

「まあ、ここで格好良く名乗ると良いんだけれどね。ちょっと頼まれてセシールの行方を探していたらここまで来ちゃってねぇ‥‥」

 そう呟くマチュアとは道を挟んで反対側にポイポイがスッと現れる。

「貴方達の企みもここまでっぽい!! 私たち幻影騎士団が来たからには‥‥えーっと」

 威勢良く叫んだのはいいが、言葉がそこで詰まってしまう。

「げ、幻影騎士団だと!!ということは、貴様が白銀の賢者マチュアか!!」

 ベネリがそう叫ぶと、クロウカシスがマチュアを睨みつける。

「ほう。白銀の賢者とは懐かしい名前だな。ベネリよ、かの者は私が相手をしよう‥‥」

 ブァサッと大きく羽ばたくと、クロウカシスは素早くマチュアの前方上空で静止する。

「いや、ちょ!!こらポイポイっ、あっさりとばらすな」

「そお?こっちはポイポイが、捕まえるっぽい!!」

 そう叫ぶと、ポイポイが側転からの連続バク転タンブリングしながらベネリとの間合いを詰める。

「さあて、そっちはポイポイに任せるよ。こっちは世紀の大喧嘩だからね‥‥」

 目の前で不敵に笑うクロウカシスを相手に、マチュアはゆっくりと身構えていった。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 糞くだらない不殺とかいってなければ ベネリを瞬殺すれば話は終わったよね 糸が届くなら余裕で殺せる 殺さなくても腕を切断すれば宝珠を余裕で奪えた めちゃくちゃ萎えました
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