バイアスの章・その10 古き盟約と封じられしもの
バイアス連邦南東、カルスト大森林。
冒険者でさえ入る事をためらうその森には、未だなお封印から逃れた亜竜族が静かに暮らしている。
彼らの主人である『赤神竜ザンジバル』の眠りは未だ解かれていない。
その赤き亜竜族の元に、ベネリ達と水神竜の加護を持つ青き亜竜族がやって来た。
「‥‥ここがそうか。まあ、バルバロの町とさして変わらぬという所だな」
「はい。赤の亜竜族は知識はそこそこに高いですが、かなり好戦的でもあります」
バルバロは丁寧にベネリに返事を返す。
深層からベネリの配下となってしまったバルバロは、自我は取り戻したもののベネリに陶酔してしまっていた。
――ガサッ
突然、森の奥から三体の亜竜族が姿をあらわした。
体表を覆う鱗がやや赤みがかったオレンジ色。
赤の亜竜族で間違いはないと、バルバロは感じとった。
「‥‥青の者たちが、この集落に何の用だ?」
三又の槍を構えながら、バルバロに問いかけるリーダーらしき亜竜。
「赤の者たちよ、我は我が主人を解放する手段を求めてやって来た。貴公らの長と話をしたい」
バルバロの言葉に頭を捻るが、嘘を言っているのではないことを理解すると、構えていた槍を収める。
「なら良いだろう。して、そこの人間たちは何者だ?」
「この者はベネリ。バイアス連邦の皇太子で我らに力と知恵を与えるもの。そしてその女はスタイファーの鍵だ」
ガッチリと正装したベルリと、その背後で虚ろな目をしているセシールをチラッと見るバルバロ。
「そうか、鍵なのか‥‥ならこちらへ来るがよい」
ガサガサっと道無き道を案内する亜竜。
深い草木を掻き分けながら進むと、やがて開けた草原に到着する。
石造りの建物があちこちに散在し、大勢の亜竜が姿を見せている。
「こ、ここまで完全な姿の遺跡があるとは……いいぞ、これは期待できるぞ!!」
ワナワナと手を震わせながら話すベネリ。
未だ発掘も調査もされていない手付かずのスタイファーの姿が、目の前に広がっていたのである。
やがて奥にある神殿のような建物から、一回り大きい体躯の亜竜がやって来る。
「人間と水の民か。こんな所まで何の用だ?」
「私は水神竜の民バルバロ。いつぞやの戦い以来だなジルヴァーン殿、この地の門を使う許可を頂きたい。鍵は連れてきた」
堂々と目の前の亜竜に告げると、後に立っているセシールの腕を捕まえて目の前に引っ張り出す。
「誰かと思ったらバルバロか、久しい名前だな‥‥その女が鍵だと?」
「いかにも。門まで通してください。さすれば門を開いてみせましょう」
そのバルバロの言葉に首を捻る、ジルヴァーンと呼ばれた体躯の大きい亜竜。
しばし腕を組みながら、何かを考えているようであるが。
「いいだろう。我らが村の門の中に何が眠っているのかなど、我々も知らない。我らが竜族が覇権を取り戻せるのならば、門を越えるがよい」
「恩にきる。ベネリ殿、許可を得ましたぞ、ではこちらへ」
そう告げてくるバルバロに軽く頷くと、ベネリはセシールを伴って神殿のような建物の奥にある祭壇へと向かう。
綺麗に手入れの届いている神殿。
内部には竜をかたどった彫像やレリーフ、壁にびっしりと描かれている碑文など、おおよそ魔導士や考古学者が喉から手が出そうなほどの貴重な品々がそこにはある。
その奥にある巨大な扉の前に向かうと、ベネリは後に立っているセシールを呼びつける。
そして懐から水晶球を取り出すと、そこに魔力を注いだ。
――キィィィィィン
「セシール、目の前の門を開け‥‥」
そう告げるベネリの言葉がセシールの心のなかに響く。
すると、うっとりとした表情でセシールはベネリに振り向くと一言。
「ええ。少し待っていてねニアマイアー‥‥」
――スッ
扉に軽く手を当てる。
喉の奥から流れてくる魔術の旋律。
やがて目の前の扉はスッと消え、階下に向かう階段があらわになった。
「罠は?」
「大丈夫よ。全て解除したわ‥‥」
そこまで告げると、セシールの意識がスッと消える。
その場に倒れそうになるのを、背後の亜竜がしっかりと抱きとめた。
「おまえはセシールを担いで付いてこい。ではいくぞ」
ベネリはその場にいた亜竜達にそう告げると、ゆっくりと階段を降りていった‥‥。
「もうそろそろ限界か。次の王族を急いで手に入れなくてはならないのか‥‥」
その言葉はセシールには届いていない。
だが、彼女の口から、スタイファーの血を色濃く受け継いでいる少女の名前が告げられるのも、時間の問題であろう。
○ ○ ○ ○ ○
ニアマイアー領、セシールの屋敷。
現在はニアマイアー領の復興の為に、離れの屋敷をゼクス達が使わせてもらっている。
その中の居間で、ファイズとポイポイが顔を付き合わせて何かを調べている所であった。
「‥‥それでね、この場所とここの場所の要が無かったっぽいよ」
トントンと指で地図を叩くポイポイ。
そこは東門の近くの城壁であり、今回の襲撃で破損が酷かった地域である。
「成程なあ。ここが最初に襲われていたのか。なら、この火災の酷さは理解出来るわ」
「でも、この要石があったっていう事は、この都市にはかなり凄い魔術師がいたっぽいよ。それで無いと、永続的に結界なんて張れないっぽい」
「むぅ。雇われの冒険者か?この屋敷で雇われていた人達の中には魔術師系はいないぞ?」
などなど、難しい話をしていた時。
外の巡回を終えたゼクスが戻って来た。
「定期巡回は特に問題がなかったが……また何か調べているのか?」
「あ、ゼクスさんならわかるっぽい? この要石って、対炎熱系結界っぽいよね?」
砕かれた瓦礫をゼクスに見せるポイポイ。
その欠片の一つを手に取ると、ゼクスはじっと眺める。
「ははぁ。かなり古い術式だね……スタイファーかクルーラーの古代魔術だよ?これはどうしたの?」
「ポイポイが見つけてきたんだ。街に到着して早々に、地図を確認して調査に向かってね」
ファイズがそう説明すると、ゼクスも地図を確認する。
「これは何処から?」
「ここの壁の中っぽい。あと、破壊されていないけれど、こことここの壁の中にもあるっぽいょ」
トントンと城壁の彼方此方を指差すポイポイ。
その位置を確認しながら、ゼクスも考え始める。
「ははぁ。古代遺跡の発掘品で結界を施したのか。かなり古い術式だから、これを作り出した人はかなり強力な魔術師だね」
「残留魔力から考えると、まだ結界は起動していたっぽいよ。これが壊されたから飛竜のブレスにも町は耐えられなかったっぽい」
「と言う所までは確認出来たんだ」
最後にファイズが締めくくる。
「成程なぁ。これが破壊されて……ちょっと待て、ということは、襲撃を受ける前までは結界は作動していたのか?古代の術式だぞ?」
神妙な顔でゼクスが問い返す。
「そうっぽいよ?」
「マチュア様でも、これを常時発動して生活するのはかなり難しいぞ?一体誰なんだ?」
「あの襲撃の日にこの街の冒険者ギルドにいた冒険者のリストでは、高位の魔術師はいないぞ。騎士団にもそれらしいものは該当しない」
ファイズが手元のリストをゼクスに手渡しながら説明する。
「そうか。これについても急ぎ調べてください。何か嫌な予感がするのですよ」
「ああ、了解した。で、ポイポイはどうするんだ?」
「ポイポイはセシールさんの捜索っぽいよ」
そう話しながら、ポイポイはバッグから布に包まれたペンダントを取り出す。
「それは?」
「セシールさんの持ち物っぽい。これをこうしてね」
同じくバッグから羊皮紙を取り出すと、それを机の上に広げる。
カナン周辺の地図が描かれており、ポイポイはその真ん中にペンダントを置く。
――ムンッ
素早く印を組んで何かを詠唱すると、ペンダントをそっと指先で触れる。
その瞬間ペンダントから光が溢れだすと、地図の上に炎で道を作り始める。
「何だこれ?」
「えーっと、古い水晶の民の魔法っぽい。ティルナノーグのシーフギルドにあった古い書物に記してあったから契約してきたっぽい」
『燃え盛る道』と呼ばれている古いシーフの魔術。
所有者の元に向かう為の道を記すものであるが、媒体となる所有品は探す人が最近まで身につけていないと正確さが狂うらしい。
炎の道は、ニアマイアー領の城塞をなぞってから領内をぐるぐると回り、そこから南東に曲がっていく。
そして地図の端でシュッと消えた。
「という事で、ポイポイはセシールさんを追跡するっぽい」
バッグから魔法の箒を取り出すと、ゼクスとファイズにそう告げて外に飛び出していった。
「しっかし、幻影騎士団には驚かされるわ」
ファイズも巡回に向かうために立ち上がると、ゼクスにそう告げる。
「何でですか?」
「俺たちマチュア・ゴーレムはマチュア様に作られた。確かに強くは作られているが、新しい技術とかを身に付ける事はなかなか難しいだろう?」
「それがゴーレムだと思いますが?自己進化するゴーレムなど、化け物でしかありませんよ」
「しかしツヴァイは自己進化型に作られているからなぁ。まあ、俺達も早い所そうして貰いますか」
そう告げてから、ファイズも詰所を出て行く。
「まあ、ファイズの言い分も判りますか。私達はマチュア様の分身ですから、そこさえ理解していれば‥‥」
ふと、ゼクスが疑問を感じる。
「マチュア様の分身。思考パターンもそうとなると、マチュア様の気づかない穴には、私達も気が付かないということですか?」
そう考えると、ゼクスはもう一度全ての書類に目を通し始める。
何処かに見落としがないか?
忘れていた事はないか?
持てる知識をフル動員して、ゼクスは資料を読み始めた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ニアマイアー領から飛び出して、地図に残された焼け跡を辿るポイポイ。
魔法の箒に跨って高速で飛び続けていると、夕方には地図の外れまで到達する。
ちょうどニアマイアー領の外れの森林まで辿り着いたらしく、近くの街道沿いには宿場町があった。
「よしよし、地図の補充と宿の確保っぽい!!」
そう呟きながら、ポイポイはのんびりと街道に戻ると宿場町に入って行く。
地理的にはニアマイアー領管轄であり、いくつかある交易路の一つという事もあって人はそこそこにいた。
そんな中を箒に跨って飛んでいるのだから、人目を引くのは仕方がない。
時折商人や家族が声をかけようとするが、ポイポイの着ているレザージャケットの胸元にある幻影騎士団の紋章に気がつくと、そのまま頭を下げて離れて行く。
「‥‥まあ、仕方ないっぽいね。すいませーん、一晩泊まりたいっぽい」
手頃な酒場兼宿に飛び込むと、カウンターの中にいる女性に声をかける。
「はいはい。個室?大部屋?個室なら銀貨4枚で食事も付くわよ?」
「じゃあ個室で。すぐにご飯食べたいっぽい」
元気よくカウンターに座ると、懐から銀貨を取り出してすぐに支払う。
「はいはい。じゃあすぐに用意するわね」
女性が奥の厨房に向かうと、別のテーブルから数人の冒険者らしい男性たちがポイポイの元にやってくる。
「お嬢さんちょっといいかな?」
「ぽい?」
「さっき偶然見たんだけれど、お嬢さん空飛ぶ箒に乗っていたよな?あれどうしたんだい?」
「騎士団の備品っぽいよ」
あっけらかんと告げるポイポイ。
その言葉には、男たちも驚く。
「び、備品?」
「Sクラスの魔道具を、備品で手渡す騎士団なんかあるのか?」
「ちょ、ちょっと見せてくれるか?」
動揺した男たちがそう呟くと、ポイポイは傍に置いてある箒を手に取ると、一番いかつい男に手渡す。
「どーぞ。見るだけであげないよ?」
あっさりと箒を手渡されて、男たちは更に驚く。
そして繁々と眺めると、突然箒を持ったまま酒場から外に走り出した。
「お嬢さん、そんなに簡単に人は信じるものじゃねーぞ」
「授業料として貰っとくぜ、あーばよー」
「人を見たら泥棒と思いなよ」
そんなことを叫びながら飛び出そうとするが。
――スコーン
突然男たちの動きが止まる。
まるで金縛りにでもあったかのように。
実際は走り出した男たちの影に向かって、ポイポイが素早くクナイを飛ばして影を縛っただけである。
「だーかーら、あげないって言ったっぽいよ!!」
そう笑いながら告げると、ポイポイは箒を取り返してカウンターに戻る。
「はい晩御飯おまたせ‥‥って、何かあったの?」
何も知らずに大量の料理を持ってくる女性。
ふと、店内が先程とは違う雰囲気なのに気がついた。
ポイポイたちの一連の騒動を見ていた他の冒険者達も、あまりにもあっさりと取り返したポイポイに驚いている。
「その三人は泥棒だよ。ポイポイの箒を盗もうとしたっぽいから、警備の騎士さん呼んで欲しいっぽい‥‥パクっ!!」
それだけを説明すると、ポイポイは早速晩御飯を食べ始める。
少しして巡回騎士が酒場までやってくると、ポイポイの元に近づいてきた。
「泥棒が出たと報告があったが、被害者は貴女か?」
男達が何名かの騎士に取り押さえられるのを確認すると、ポイポイは影縫いを解除する。
そして近づいて来た騎士に声を掛けられたので、ポイポイは静かに頷いた。
「魔道具盗まれそうになったっぽいよ」
「そうか、何か身分を証明するものを‥‥これは失礼を」
ゴソゴソと懐から魂の護符を取り出してみせる。
幻影騎士団の紋章が刻まれている魂の護符を見せられると、騎士はすぐさま敬礼した。
「そういうのいらないっぽい。あの三人はお説教して欲しいっぽいよ」
「そ、それだけで‥‥わかりました。では、後の事はお任せください」
「ぽい」
素早く最敬礼すると、騎士達は酒場から出て行った。
暫くは酒場でのんびりとしていたが、夜も更けて来ると部屋に戻った。
「さーてと。明日の地図も作るっぽい」
バックから大きめの羊皮紙と魔法の羽ペンを取り出すと、ポイポイはそれを床に並べる。
――モニョモニョ
印を組んでなにやら詠唱すると、羽ペンがゆっくりと動き出して羊皮紙の上に地図を書き始める。
これもティルナノーグで契約した『書写』という魔術。
夜にしか使えず、一枚の地図しか作れないが、今いる場所を中心にかなり精密な地図を描いてくれる。
手本となる羊皮紙があれば、それを一晩で書き写すこともできるという優れものであるが、書ける羊皮紙は大きさにかかわらず一枚のみ。
「よしよし。これで朝までには地図が作れるっぽい」
そのままベットに潜り込むと、ポイポイは毛布を丸めてベットに入れておくと、ベットの影の中に飛び込んで眠った‥‥。
そして翌朝。
ゆっくりと影から出てくると、ズタズタにされた布団と切り裂かれた羊皮紙が部屋の中に転がっていた。
明らかに何者かが侵入したらしい。
「外の音感知するの使い忘れたっぽいね」
急ぎ着替えて羊皮紙を繋げる。
切り裂かれているとはいえ、形にはなるので再び『燃え盛る道』を発動する。
――ボウッ
炎が上がり羊皮紙を焦がして道を記す。
「街道から離れて森の中を横切ったっぽいね。方角はサムソン北東、マクドガル領の方角っぽい」
そのまま羊皮紙をバックに放り込むと、ポイポイは二階の部屋から降りていく。
すぐにポイポイを見る気配を感じ取ると、その中に明らかな敵意があるのを感じ取る。
――クルッ
ついその視線に向き直ってニイッと笑うポイポイ。
すると、視線の先の貴族っぽい身なりの男性と、同じテーブルに座っていた二人の冒険者が視線を逸らした。
「犯人発見っぽいね‥‥」
にこやかな表情を変えることなく、カウンターに座るポイポイ。
「おや、おはよう。ゆっくりと眠れたかい?」
「夜中に泥棒入ったっぽい。部屋が荒らされたので、見てきて欲しいっぽいよ」
「な、なんだって? スコット、この子の部屋を見て来て欲しい‥‥それで、何か盗られたか?」
「大切な地図を破られたっぽい。まあ、ぱっとみてもただの地図にしか見えないから大丈夫っぽいよ」
ポイポイの声で、酒場の従業員が巡回騎士を呼びに外に飛び出していく。
「それにしても、どうして貴方の部屋が荒らされたのかしら?」
「多分魔道具を盗みに来たと思うっぽい。全部隠してあったから見つからなくて諦めたと思うっほいよ」
そんな話をしていると、巡回騎士が酒場にやってきた。
「ああ、貴方の部屋ですか? 襲われたのは」
先日も箒が盗まれたときにやってきた騎士が、再びポイポイに頭を下げる。
「うん。でも何も盗られていないから大丈夫っぽいよ。後は任せるので、早く泥棒を探して欲しいっぽい」
「了解しました。もし見つけたら報告しますか?」
「別にいいっぽいよ。それじゃあ、急ぐので失礼するっぽい」
それだけを告げると、ポイポイは懐から金貨を1枚取り出してカウンターに置いた。
「これ毛布とか破られたので弁償するっぽい」
「い、いいわ。貴方は襲われたのだから、襲った奴が見つかったらそいつに払ってもらうからね」
「なら、見つかった時にここの宿代まけてくれたらいいっぽいよ。それじゃあねー」
それだけを告げると、ポイポイは外に飛び出してバッグから箒を取り出すと、そのまま地図に記されていた道筋にそってゆっくりと飛び始めた。
宿場町を出てしばらくは街道を進む。
ポイポイが酒場を出て少ししてから、酒場にいた貴族風の男と二人の護衛も宿を出てすぐさま馬車と馬に飛び乗った。
そこからは付かず離れずでポイポイの後ろをついてきているが、やがて人気がなくなるのを確認すると速度を上げてポイポイの近くまで駆けつけてきた。
――ダダダダダダダダダタッ
「そこの貴様っ。悪いがここで死んでもらうっ!!」
スルッと腰から下げていたロングソードを引き抜くと、馬上からポイポイに向かって斬りかかる。
だが、ポイポイも軽快に箒を飛ばすと、スルリと男の攻撃を交わした。
「ふぅん。ただの物盗りじゃないっぽい?」
「それを貴様が知る必要はないぜっ」
――ヒュンッ
剣を持っていた男の馬が離れると、もう一頭に乗っていた男が少し離れたところからクロスボウで攻撃してくる。
だが、動いている馬の上から、これまた動いている的に向かって速射してもまず当たる筈がない。
「ポイポイの命を狙っているっぽいね。なら、こっちも遠慮しないっぽいよ」
素早く箒をUターンさせると、ポイポイもクナイを構える。
そのまま速度を上げて剣を持っていた男の横をすり抜けると、足元の馬の影をクナイで縫い付けた!!
急に足元を縫い止められた馬は停止し、反動で男は前方に放り投げだされる。
「グワッ!!」
背中から落ちた男はそのままうめき声を上げて倒れる。
「きっ、貴様っ!!」
クロスボウを構えた男も素早くポイポイを狙ってくるが、高度を取って上空に飛び上がると、男がクロスボウを撃ってくるのを待つ。
――シュンッ!!
上空で飛んでいるポイポイに向かつてクロスボウを撃ってくるのを待っていると、ポイポイは急降下して男の背後に回り込む。
「上に敵がいる時は撃っちゃ駄目っぽい。当たらないとこうなるっぽいよ」
――ドゴッ
そのまま当身を入れると、クロスボウを持つていた男はその場に蹲った。
残りは馬車が一台のみ。
「さてと。色々とお話聞かせてもらうっぽいよー」
そう話しながら、ポイポイは真っ直ぐに馬車に向かって飛んで行く。
「に、逃げろ!! 急いで逃げろ!!」
馬車の中から悲鳴にも似た声が聞こえて来るが、既に時遅し。
真っ直ぐ馬車の横に箒を飛ばすと、コンコンと扉をノックする。
「抵抗するならいじめるっぽいけど、降参するならお話で許してあげるっぽい!!」
そう叫んでみるが、中に座っている貴族は両手を組んで神に祈っているだけである。
仕方なく御者の横に向かうと御者も何やら必死に馬に鞭を入れている。
「あの~。馬車止めてほしいっぽい」
「か、堪忍して下さい‥‥後生です‥‥」
「うーーんと。取り敢えず止めるっぽい。お馬さんが疲れて死んじゃうっぽいよ。そうなるともう逃げられなくなるっぽい」
そう話しかけても一向に馬車は止まる様子がないため、ポイポイはやむを得ず馬車の斜め後ろを付いていくことにした。
――ハーーッハーーッハーーッハーーーッ
暫くはそのような追いかけっこが続いていたが、馬車を引いている馬がいつまでも全速で走れる筈もない。
ついには疲れ切って足を止めてしまったのである。
その横で浮遊したまま、ポイポイは再度馬車の扉をノックする。
「ノックしてもしもーーしっぽい!!」
そう中に乗っている貴族に話しかけたが、すでに貴族は疲労困憊と恐怖から意識を失っていた。
そして御者はゆっくりと御者台から降りると、ポイポイの前で力尽きて座り込んでしまった。
「も、もう降参です‥‥」
「ふぅん。それじゃあ、色々とお話を聞かせて貰うっぽい!!」
にこやかに告げているポイポイに、御者はもう降参状態であった。
そして話を聞くのは、貴族が意識を取り戻すのを待ってからにした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






