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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第六部 竜魔戦争と呼ばれる時代へ
123/701

バイアスの章・その9 暴走が止まらない


――バイアス連邦王都・セッツァー

 その日。

 連邦王国国王であるクフィル・バイアス8世は機嫌が悪かった。

「‥‥ベネリはまだ見つからないのか?」

 王座の間の横にある執務室。

 その中にあるゆったりとした椅子に座ったまま、クフィルは眼下で震えている騎士に問いかける。

「ま、誠に申し訳ありません。現在捜索隊を出していますが、ベネリ様の消息は未だ‥‥」

 いつも同じ報告。

 ふぅ、と溜息を吐きながら、クフィルはゆっくりと口を開く。

「あいつは、あのバカ息子はわしの言うことを全く聞かぬ。このままだと取り返しのつかない事になりかねない。急ぐのだ」

「はっ!!」

 再度頭を下げると、騎士は立ち上がって部屋から出て行く。

 それをじっと見ながら、クフィルは瞳を閉じて考え始める。


‥‥‥

‥‥


 さて。

 時間はマチュア達がティルナノーグ開放の時期にさかのぼる。


 クフィルの誕生日を祝う生誕祭の会場でのこと。

 近隣諸国の王族や貴族がクフィルの元を訪れ、盛大な晩餐会が行われていた。

 バイアス連邦に近づいてなんとか取り入りたいもの達が、クフィルに必死に頭を下げている。

 だが、隣国王であるラグナ・マリアのシュミッツはその場にはいなかった。

 国境線にある遺跡の所有権を巡ってラグナ・マリアと対立しているバイアス連邦としても、シュミッツ王がいない事は止むを得ない。

 クフィルはそれを理解しているからこそ言葉にも出さないのだが、第一皇太子であるベネリは理解していない。


「何故ラグナ・マリアからは国王どころか使者の一人も寄こさないのだ!!」

 苛立ちから、側近に問いかけるベネリ。

「殿下。今日のバイアス陛下の生誕祭について、我が国はラグナ・マリアに対して連絡はしておりませぬ」

「馬鹿な!!父上、何故ラグナ・マリアを呼ばなかったのですか?」

 上座に座るクフィルの元にカツカツと歩み寄ると、身振り手振りを混ぜながら話すベネリ。

「ベネリよ、我が国とラグナ・マリアとの確執を考えろ。迂闊に動くとバイアス連邦は戦火に包まれる。動く時を考えよ」

 落ち着いた口調でそう告げるクフィルだが、ベネリは納得していない。

「我がバイアス連邦はウィル大陸でも屈強な連邦王国。いくらラグナ・マリアが古き時代に勇者を生み出し、このウィルを平定したとてそれは過去の話ではないですか?」

 野心家で自信家であるベネリには、今のバイアスとラグナ・マリアの関係がどうも納得がいかないようである。

「今やバイアス連邦は大陸一の領土と兵力を持った最強の国。今こそ兵を挙げてラグナ・マリアを攻め滅ぼすのです!!私に命じてください。必ずやラグナ・マリアをこの手に収めて見せましょう」

 晩餐会の席ということもあり、かなり弁舌に叫ぶベネリ。

 その姿には参列していた貴族や王族も絶賛している。

 だが、クフィルは頭を左右に振る。

「半年も前ならば、まだ考えもしただろう。ベネリ、最近のラグナ・マリアの動向を知らないのか?」

「動向ですか?いえ、存じておりませんが」

 その答えに、クフィルはふぅ、と息を吐く。

「皇帝レックスが二人の人物に『剣聖』と『賢者』の称号を与えた。密偵によると、あのティルナノーグ大陸の封印が解け、水晶の民と国交も始めたと聞く」

「馬鹿な!!あの大陸の封印が解けたとしても、彼の地に向かうためには莫大な魔力を必要とする筈。そのような力をどのように!!」

「だからお前は見聞が甘いのだ。ラグナ・マリアの賢者は、スタイファーの秘術を解析し、我が物として使えるらしい。そのような国にケンカを売るだと?」

「ぐっ‥‥」

 言葉に詰まるベネリ。

 ギュッと拳を握りしめると、ツカツカと席に戻る。

「まあ、今日はめでたい席ゆえ、この程度としましょう。ですが陛下、私はまだラグナ・マリアを諦めた訳ではありませんので」

 それだけを告げると、ベネリは再びワインを飲み始める。

 その日はそれ以上の話はなかったのだが、後日、再びベネリが王城に姿を現した。


 配下の近衛騎士団と共に謁見室までやってくると、一振りの杖と水のような絹衣をクフィルに差し出した。

「まあ、非礼なのは息子だから構わんが。来るのなら予め連絡を寄こせ。それと、これは一体なんだ?」

「シュミッツ国境線のスタイファー遺跡から発掘した『竜を隷属する武具』です。これで南方・暗黒大陸の竜族を味方につけます」

「馬鹿な事を言うな。もし味方につけれたとしてどうする?」

「竜族とバイアスの騎士により、ラグナ・マリア侵攻を開始します。既に幾つかの近隣諸国からは協力態勢が取れるように話は進めています」

「ベネリ、今の風の流れは和平だ。争いからは何も生み出さないと言うのが、何故理解出来ない」

「そのような弱気だから、我がバイアス連邦はラグナ・マリアと比べて劣ると思われているのです。彼の国と国境を接している国は、僅かずつではありますが我がバイアスよりもラグナ・マリアと親しくする事が是と考えていますぞ!!」

「言いたい奴は言わせておけ。それよりもベネリ、近衛の者たちを使って色々とやっているようだが、目に余るようならばワシも考えなくてはならんぞ」

「‥‥父上も耄碌されましたな、失礼します。私は、私なりにこのバイアスを考えていますので」

 それだけを告げると、ベネリは謁見室を出て行った。

 そしてその翌日、自身の騎士団を連れて南方へと向かったのである。

 その日から、ベネリの消息が行方知れずになっていた。


‥‥‥

‥‥


「未だ消息は不明か。一体何処で何をしているのか」

 傍に置いてあった水差しから水を汲むと、クフィルは乾いた喉を潤すために一気に流し込む。

 そして今一度机に戻ると、溜まっていた報告書にゆっくりと目を通し始めた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 



 同じくバイアス連邦王都。

 城内の空き部屋にて。

「国王の晩餐会でラグナ・マリア侵攻を唱えていた第一皇太子が、兵力を持って行方不明か‥‥」

 マチュアからの命令で、数日間は王族や城内の侍女側近の陰から情報を集めていたツヴァイ。

 そこからいくつかの有力情報は入手できたものの、セシールの行方を知り得る情報はない。

「元老院ではなく近隣諸外国の貴族や王族が絡んでいるとなると、本当に手が足りないな。今しばらくは、問題のベネリとか言う息子の行方がわかるまで待つしかないか‥‥と」

 スッ、と影に消えるツヴァイ。

 その直後、扉がカチャッと開いて、侍女達が荷物を取りに室内に入って来る。

 その中の一人の影に移動すると、ツヴァイは再び情報収集を開始した。


 マチュアの知らない忍者のスキルに、『探り』というスキルがある。

 それによって、ツヴァイは影の中でも自在に外の音を拾うことが出来る。


 影の外からは、じつに他愛のない日常会話が聞こえて来る。

 ツヴァイの潜り込んだ影の主人は、城内の清掃全般を行なっていた。

 その為か、謁見の間やバイアス王の執務室に至るまで、自由に出入りすることができたのである。

『これは都合がいい。ではここに張り付きますか』

 侍女の影から執務席の下の影に移動するツヴァイ。

 そして午後になってバイアス王がやって来るまで、じっとその場を動かなかった。


――ガチャッ

「‥‥」

 沈黙のまま室内に姿をあらわすバイアス王。

 その傍の側近が、机に着いたバイアスの前に手にした書面を並べて置く。

「いつもの支援要請か?」

「はい。それと遺跡発掘隊からの報告です。シュミッツ国境線奥の遺跡で新しい扉を発見したとのことです」

「ふん。また鍵の要請か。まだ予備の鍵はあったか?」

「残念ながら、今現在の鍵の予備はありません。ですので、遺跡は外から見えないように再封印するのが良いかと思われます」

「なら、魔導騎士団にも連絡をしておけ。新しい鍵を大至急揃えよと。今までのような使い捨ての鍵ではなく、自在に使える鍵を用意しろとな」

「了承しました」


『遺跡? 扉? 鍵? バイアス連邦はスタイファーの遺跡の扉を開く鍵を作れるのか‥‥とんでもない魔導力ですねぇ』


 そんな事を考えていると、ドタドタと数名の騎士が室内に飛び込んでくる。

「なんだ?私は今、王の務めを果たしているのだが。血相を変えてまで何か報告することがあるのか?」

 やや不機嫌に問いかけるクフィル。

 だが、騎士は堂々と口を開く。

「ほ、報告します。ラグナ・マリア帝国サムソン辺境王国に所属するニアマイアー領が飛竜により襲撃を受けた模様。規模は甚大、近隣の国や領地が復興を開始した模様です」

「それで? 自国以外が飛竜の襲撃を受けようと関係ないが」

 冷たく言い捨てるクフィル。

「ハッ。その際にニアマイアー領にてデグチャレフ男爵の死体が発見された模様です」

 その報告にも、いまだ眉ひとつ動かさない。

 そしてふぅ、と溜息をつくと、目の前の騎士の方を向いた。

「卿はベネリと同行していたな。そうか、竜族の力を得る事が出来たか。だが、ベネリが勝手にしでかした事であり、我がバイアス連邦は関係ない。この件については箝口令を出せ。向こうの出方を見るとする」

 それだけを告げられて、騎士達は外に出る。

「全く。水神竜の眷属の力を得たとして、奴は一体何を考えているのだ?」

「私にはわかりかねますが、皇太子はこのバイアスの事を考えて行動しているのかと」

「それにしてもだ、隣国シュミッツの王都や領地ならともかく、何故その領地なのだ? 限りなく北方に近いではないか?」

 その問いには答えられない執務官。

「真実を知るのはベネリのみか。城内と領地内の魔法監視を強くしろ、ニアマイアーの隣国はあのカナンだ。同じ疑問を魔導女王がしない筈がない。密偵を送ってくる可能性も考えられるからな」

「ハッ、各部署に通達します」

「それでいい。王都内のシーフギルドにも通達を。ラマダの件もあるからな、あの国に対しては一切の隙を作るな」

 威勢良く部屋の側に出ると、クフィルはしばし執務を続けた。


『‥‥マチュアと同じぐらいのフットワークと推理力。そして国王も知らない襲撃事件ですか‥‥単独犯なら国としても知らぬ存ぜぬで通せるし、その気になれば皇太子を切る事も出来る‥‥危険な状況ですね‥‥』


 先程の報告で城内が危険であると考えたツヴァイは、クフィルが部屋から出ていくのを待つと、スッと王城を後にした。

 影の中でも感知される可能性はシュトラーゼ公国で十分に味わったから。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 翌日のバイアス連邦王都。

 ウィル大陸南部に広がる、ラグナマリアと双璧を為す巨大国家。

 その王都に、マチュアはやって来ていた。

「ははははは‥‥どうしてこうなった?」

 大勢の人々が活気にあふれている光景を見ながら、マチュアは一人呟いていた。


‥‥‥

‥‥


 それは魔導学院での出来事。

「バイアス魔導騎士団?」

 学院長の部屋で素っ頓狂な声を上げているマチュア。

 数日前にグースと決闘を見ていた貴族の一人がバイアス魔導騎士団の関係者であったらしく、是非一度騎士団を見学しに来たまえと推薦されたのである。

「ええ。白衣のローブに金刺繍。魔導騎士団でも選ばれし第一騎士団に入る為の条件らしいが、マチュア君は既にクリアしているそうだ。それで是非にという事らしい」 

「し、しかしですよ、私はカナンの出身でラグナ・マリアの臣民です。いわばライバル国の者です。そんなに簡単に騎士団の見学なんて許されるのですか?」

「優秀な人材を引き抜くのは何処の国でも行なっている事だよ。まあ、勉強と思って行って来たまえ。これが紹介状だ」

 二通の書面がマチュアに手渡される。

 それをバッグに入れると、マチュアは諦め顔で学院長の部屋から出て行った。


 そして今。

 マチュアの目の前には巨大な建物がある。

 外には巡回騎士が使うための馬が繋がれており、大勢の騎士や関係者が建物を出入りしている。

「おや、騎士団に何か御用ですか?」

 マチュアの背後から、綺麗な女性の声が聞こえてくる。

「え、は、はい。ベルファーレの魔導学院から来ました」

 振り向くと濡れたような黒髪の女性騎士が、馬を引いて歩いてくる。

 胸元に国章が入っているのを見ると、この国の騎士であることは間違いないだろう。

「ああ、君が見学者だね。こちらへどうぞ」

 馬を繋いでからマチュアを建物の中に案内する。

 様々な報告や手続きをするためのカウンターに向かうと、そこで座っていた受付の男性に話しかけている。

「おやシュペール殿、もう交代時間ですか?」

「違いますよ。魔導学院から来た見学者さんを案内してきたのですよ。さあ、こちらへどうぞ」

 そう促されで、マチュアは受付の元にやってくる。

 そしてゴソゴソと紹介状を取り出すと、中の男性に手渡した。

「丁寧にありがとうございます。では‥‥ほうほう、その白衣のローブはまさしくと言うところですか。では担当官を呼びますので少々お待ちください」

「あ、私が案内しますよ。見学者用の腕章を一つお願いします」

「ではシュペール殿にお任せしますよ。マチュアさんといいましたか? これが見学者用の腕章ですので、ローブの上につけてください」

 そう説明されながら、赤地に騎士団の紋章が刺繍された腕章を手渡される。

「は、はいっ!!」

 威勢良く返事をして腕章を受け取ると、マチュアはそれを腕に巻いた。

「ふむふむ、良いなぁ、ではこっちに来てもらおうかな?」

「はい。では失礼します」

 そう告げながらも、マチュアは周囲を観察しながら建物のて二階に案内される。


 広い空間にいくつかのテーブル。

 奥には5つの執務机が設置されており、事務官らしき女性が仕事をしている。

「団長、話にあった魔導学院の学生です。 見学に来ました」

「おお、そうかそうか。ご苦労だな」

 そう声を掛けられて、奥に座っていた老人が笑いながらマチュア達の元にやってくる。

 そしマチュアの顔をじっと見ると、ニィッと笑った。

「魔導学院を卒業したら来なさい。すぐに騎士団に編入出来るようにしておいてあげよう」

 唐突にスカウトされるが、それは辞退したい。

「あ、い、いえ、私は学院を卒業したら故郷の魔導商会に入るので、誠に申し訳ありません」

 丁寧に頭を下げるマチュア。

「おお!そうかそうか、それは残念。では、見学の間はこの騎士団詰所には自由に出入りしていなさい。私はバイアス魔導騎士団の第二騎士団長を務めるサラスという者じゃ。何か困った事があったらいつでも言ってくれ」

「はい。わかりました」

 そうは言ったものの、特に困った事はないので取り敢えずは周囲で何をしているのか見渡してみる。


 壁際には大きめの棚と様々な発掘品が並べられている。

 棚には石碑や写本、スクロールが置いてあり、時折テーブルに座っている魔導騎士がそれを調べている。

「スタイファー遺跡の発掘品の解析が主な仕事ですか?」

 敢えて問いかけてみるマチュア。

 墓穴になるかもしれないが、他国の情報は少しでも多いほうがいい。

「ああ、第二騎士団は解析班だからな。実働部隊の第一騎士団と都市巡回の第三から第五騎士団、第六騎士団から第十騎士団まではそれぞれが極秘任務で動いている」

 テーブルの騎士がそう教えてくれると、他の騎士達もマチュアの近くにやってくる。

「さて、ヤミクモ導師の弟子なんだってね。これ読める?」

 そう告げながらマチュアに手渡したのは、一枚の羊皮紙。

 古代魔法語のなかでも簡単な部類である。

「はあ。テーブルをお借りしていいですか?」

「構わないよ。時間掛かってもいいから解読してみなよ」


(ほほう。腕前を見てやろうという所ですか)


 ならばとしばし考えてから、マチュアはバッグから羊皮紙を取り出すと、スタイファーの神代文字で答えを書き始める。

「はい、これが答えですね?」

「お、もう出来たのか‥‥はぁ?」

 何度も眺めながら頭をポリポリと掻いている騎士。

「マチュアさんって、神代文字読めるの?」

「読み書きぐらいは簡単ですね。例えば」


『私の名前はマチュアです。カナンからやって来ました』


 と神代語で話しかける。

 だが、それにも頭をポリポリと掻く騎士。

 そして騎士団長の元に向かうと、サラスと何かを話していた後、再びマチュアの元に戻ってくる。

――ゴトッ

 一緒にやってきたサラスが、マチュアの目の前に一つの宝玉を置くと、ゆっくりとマチュアに問いかけ始めた。

「マチュアさん、これが何かわかるかな?」

「動物の意思を読み取る制御球オーブですね。でも核が破壊されているので動きませんよ?」

 手にとって解析すると、答えを告げるマチュア。

――ブッ

 と、近くの騎士が吹き出す。

「その答えを出すのに半年かかったのに、一瞬かよ!!」

「はぁ。この核の部分はアダマンタイトなので、再生不可能ですけど。これは飾りですね」

「そうかそうか。これは参ったな‥‥」

 困った様子でマチュアを見るサラス。

「何かお困りですか?」

「ああ。君がこの騎士団に入ったら、他の騎士が全員職を失ってしまう」

 そう笑いながら告げると、他の騎士も爆笑する。

「むしろ定時に帰れるので問題はないっす。マチュアさん、学院卒業したらここに来なよ」

「いえ、カナンで魔道具を作る商会に入ることが決まっていまして。誠に申し訳ありません」

「という事だ。お前さん達はしっかりと解析を続けなさい。マチュアさんも気になるものがあったら解析しても構わないからね」

 サラスがそう話すので、それならばとマチュアはあちこちの発掘品を手にとっては解析していく。

 表向きは頭をひねったり渋い顔をしながら解析できない風を装っているが、危険そうなものは解析を終えて起動ワードをマチュアにしかわからないように変更していった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 その日の深夜。

 指定された宿に泊まっていたマチュアは、室内を魔法でガードして、ベッドに転がっていた。

「さてさて、あそこの魔道具はそれ程害のない日用品だったからなぁ」

 昼間の出来事を反芻する。

 あの場所にあった魔道具で危ないものは二種類、

 一つはマチュアが使っている念話のできる宝珠と同じもので、もう一つはモンスターを使役する杖。

 どちらも発動に必要な魔法言語を『地球の歌謡曲』に書き換えたので、まず理解出来ないだろう。

「魔道具とかの解析能力だけならラグナ・マリアよりも上かぁ。カナンよりはまだまだ遅れているけれど、それでも用心しないとなぁ」

 そんな事を考えていると、ツヴァイからの通信が届いた。


――ピッピッ

『こちらツヴァイ。ニアマイアー領襲撃の件ですが、第一皇子のベネリの手によるもので確定です』

(ほう。国王もそれは分かっていたのか)

『いえ、ニアマイアーで発見された死体の身元がバイアスで確認されたようです。ベネリと共に行動していたらしいです』

(これでバイアス連邦の関与確定か。これで攻めやすくなるね)

『いえ、多少問題が発生しています』

(問題?)

『はい。バイアス連邦国王のクフィルは、今回の件については皇太子が独断で行った事であるという姿勢です。その気になれば国を守るために皇太子を切ります』

(あら。それはかなり厄介だね。まあ、もう少し情報が欲しいから、引き続き王城に張り付いて頂戴)

『それも不可能です。この件については箝口令が敷かれました。さらに対魔法感知やシーフギルドなどにも王都内の調査や監視が強化されています』

(はぁ?なにそのシフト。私はそこまで警戒されているわけ?)

『そのようで。一旦変装して外からの監視を続けます。シュトラーゼ公国のような結界が張り巡らされると、私もかなり危険ですので』

(了解、で、私今王都にいるので)

『‥‥また何か厄介事に首を突っ込んだのですか?』

(まあそんな所。虎穴に入ってみたので、また連絡をお願いします)

『あまり無茶しないように。では』

――ピッピッ


「なんだろう。ラマダやシュトラーゼとは違う違和感があるなぁ。魔族干渉で無い何か?」

 ベットから身体を起こして窓辺から外を見る。

 流石に夜は暗く、大通りにあるガス灯だけが煌々と輝いている。

 実感しているのは、マチュアの行動に対しての対策がかなりなされている事。

 こうなると、今回は王城突破などの方法は相手に対してこちらが不利になる。

「どこから崩せばいいのが判らないぞ?取り敢えず様子を見るしかないのか‥‥」

 これ以上考えていても埒があかない。

 ならばと、マチュアはベッドに潜り込む事にした。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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