北方大陸の章・その14 一難去ったら三難来た
第五部・北方大陸の章はこれにて閉幕です。
そして次は『異世界ライフの楽しみ方』最大のストーリーとなる、第六部が始まります。
エーリュシオンから無事に転移して戻ってきた一行。
クリスティナは気絶していた為に、ストームに抱きかかえられての帰還となった。
「おかえりなさい。どうでしたか?」
「上々ね。色々とお世話になっていたのでお礼を告げてきたわ」
ジョセフィーヌが帰還したマチュア達を見ると、素早くティーセットの準備を始める。
その横では、エミリアが何をしていいか分からずにあたふたしていた。
「わ、わたしは何をしたらよいですか?」
「では、お疲れの皆さんにティーセットの準備をお願いしますね」
そう告げて作業をエミリアに任せると、ジョセフィーヌはストームからクリスティナを預かり、二階の部屋へと連れて行く。
「ほう。マチュアの所の侍女は随分と働くねぇ。羨ましいよ」
「へっへーーん。日頃の教育の賜物だぁよ。カナンは私が居なくても十分に機能するように徹底しているからねぇ」
「それでフラフラと遊び歩いているのかよ」
「遊び違うわ。外交じゃい。今回だって、シュトラーゼ公国が後ろで手引してカナンを落とそうとしていたから直接文句を言いにいってきたんだよ」
――ズズズッ
「それでか‥‥と、これはなんだろう?」
話をしている途中で飲んだハーブティーに違和感を感じるストーム。
そう言われてマチュアも一口飲むと一言。
「うん、葉っぱが混ざっているね。エミリア、これどしたの?」
「街の茶葉専門店で教えてもらいました。美味しい茶葉を複数混ぜることで、より上質な味わいになると」
ドヤ顔でエミリアが告げるが。
スタスタとマチュアが茶葉を手に取ると、それを適量ずつミックスしてからお茶を入れる。
「はいエミリア。これが正しいミックスね。どうせブレンドするなら、ここまでのものもを作れるように」
――ズズズズズッ
差し出されたハーブティーをゆっくりと飲む。
すると、エミリアの目がカッと見開いた!!
「こ、これがブレンドなのですね? ここまで出来るように頑張ります」
「あ、エミリアは普通のを完璧に入れられるようになってからブレンドを許可します」
――ザクッ
と心に突き刺さるマチュアの声。
「了解しました‥‥」
オズオズと下がっていくエミリアに、ストームがトドメの一言。
「大切なのはお湯の温度と時間だ。それさえ覚えればもっと美味くなる、精進しろよ」
「は、はいっ!!」
ストームの言葉で生き生きとするエミリア。
それを見送ってから、ストームとマチュアは今後について話し合う事にした。
「まず。私はカナンを守るために、北方のシュトラーゼ公国が侵攻して来るのを防ぐ為にやってきた。で、終わったから帰る、以上だが?」
端的に告げるとそれだけの理由。
北方氷壁も気にはなるが、マルムの実によって選ばれたマチュアでは荷が重いし面倒くさい。
これ以上グラシェード大陸の内政に干渉したくないというのが本音だろう。
「俺は、この後は北方のカムイの国に向かう」
「カムイっつーと、北方氷壁かぁ。頑張ってねー」
手をヒラヒラと振るマチュアだが。
「ちょっと待て、なんでマチュアがそれを知っている?」
「い、いゃあ、私には何のことやらハラホロヒレハレ‥‥」
――スパァァァァァン
力いっぱい魔導ハリセンでどつくストーム。
「次は範囲攻撃で行くぞ!!」
「ちょっと待てぃ。そんなもの範囲攻撃できたらどうなるんだ?」
「なぁに、二、三日は足腰立たなくなるだけだ」
「バカ野郎っ。判ったよ話するよっ」
諦めてマチュアはストームに話を始めた。
アーカムから直接聞いた話
そして転移で『インカルシペ』と呼ばれている永久氷壁に向かったこと
さらにはニシコタンのイァンクから聞いた、周辺に展開している各国の軍勢について
永久氷壁内部にある神器と呼ばれる神々の物品と、それを扱えるのがマチュアとシャーマンの一族だけということ。
それらを説明すると、ストームは腕を組んでう~~んと頷く。
「そっかぁ。そこまでは情報が集まっているのかぁ」
「で、ストームはどうしてそこに?」
「そのシャーマンの一族の護衛だな。神殿奥にある『神殺しの神槍』を亜神の残党が狙っていると聞いてな。それを守護するのが仕事だ」
そこまで説明すると、ストームはトン、とマチュアの肩を叩く。
「断る!!」
「まだ何も言ってねーだろうが。もし万が一の時は連絡するから、シャーマンたちを守ってくれ」
真剣な表情でそう話すと、ストームはニィッと歯を見せて笑う。
「そういう事ならオッケー。危なくなる前に連絡を頂戴ね」
「はいはいと。まだ暫くはここで情報収集だから、それが終わったら向かうとするよ。で、ニシコタンのイァンクだったか?」
「そ。その人になら、私の名前を出してくれたら力になってくれると思うよ」
「そうか。相変わらず手回しがいいな」
「それが私の戦術だぁよ。事細かに根回しと準備をしてから行動する。それが君の知っているマチュアだぁよ」
ーーガチッ
お互いに利き腕を出して拳を打ち鳴らすストームとマチュア。
その後はいつものように夕食を取ると、いつもの日常を満喫することにした。
そして数日後。
マチュアはジョセフィーヌやエミリア、クリスティナ、そしてエンジと共に一旦カナンへと帰還する。
ストームはそのままスムシソヤの元に向かうと、北方に向かう準備を開始した。
○ ○ ○ ○ ○
ラグナ・マリア帝国王都ラグナ。
六王の間に集まった王達は、いつものように定例報告を行っている所であった。
ボルケイドの襲撃やティルナノーグ侵攻といった大掛かりな事件を解決し、ちょっとやそっとの出来事では驚くこともない。
その日も、いつものように他愛ない報告で終わるはずであった。
「ラマダ公国が外の大陸に対しての航路を開くという報告もありますが」
「ラマダが勝手にやっているだけだから問題はない。むしろ使わせて貰えばこちらとしても有利だろう」
シュミッツが報告書を読み上げると、レックスも静かに頷く。
「しかし、ストームとマチュアの二人がいないと、どうにも締まりませんなぁ」
ケルビムが髭を撫でながら、にこやかに告げる。
「そうだな。シルヴィー、二人から連絡はないのか?」
「特に必要ないと思ったから放置しているぞ。国の方は二人の王様ゴーレムがちゃんと王の勤めを果たしているのぢゃ」
シルヴィーはちょっと寂しそうに呟くが、ミストとブリュンヒルデ、パルテノにはその気持が痛いほど判る。
「まあ、あの王様のゴーレムは儂も欲しいな。あれがあったら少しは自由に遊び回れる。ストームやマチュアは良い事を考えたものだ」
「しかし、そのうちゴーレムに追い出されかねないぞ」
「その時はその時だ。ストームやマチュアもそろそろ身を固めた方がいいな。いつまでも遊んでいると、婚期を逃してしまうぞ。そうだ、ストームには儂が嫁を探してこよう!! どこかの良縁があればいいがな」
ガハハと笑うシュミッツ。
「ちょっとシュミッツ、貴方にもシルヴィーぐらいの娘が居るでしょ? どうしてこう、乙女心というものを理解していないのよ」
「そうだぞ。突然、どうしてそのような事を申すのだ?」
レックス皇帝がいつもの無表情でシュミッツに問い掛けると。
「それがなぁ。シルヴィーを嫁に欲しいというものが現れてなぁ‥‥いや、シルヴィーを差し出すというのではないが、それで思い出しただけだ」
頬をボリボリと掻きながらシュミッツが告げるが。
「却下である!!」
「当然よね」
「剣聖より強いのなら認めてあげるわよ」
「そのとおりぢゃ。シュミッツ殿、一体どこの誰がそのようなことを申すのぢゃ? 」
女性陣が全力でシュミッツの言葉を否定する。
が、レックスだけがシュミッツの言葉に耳を傾けていた。
「南方の『バイアス連邦』か。相変わらず野心の国だな、まだシュミッツ王国領を諦めてはいないのか」
「近年になって、とみにシュミッツ領南方地域の開放を求めてきます。あの地は魔導王国スタイファーの遺産の眠る地でもありますから、おいそれと手渡すことは出来ませぬ」
力強く返答を返すシュミッツだが。
「何れにせよ、バイアス連邦との話し合いを行わねばならぬか。しかし、もう少し情報が欲しいのう」
ケルビムがそう呟くと、その場の全員がストームとマチュアの顔を思い浮かべる。
だが。
「貴公らはまたあの二人に頼るのか?」
レックスがその場の六王に釘を刺すが。
「い、いえ、決してそのようなことは」
「ええ。今やあの二人も国の代表。そんな二人に頼むなど、とてもじゃないけれど」
「ああ。流石に‥‥なぁ」
ミストとブリュンヒルデ、シュミッツがそう弁明するが。
「なら、幻影騎士団として動いて貰おうかの?」
シルヴィーが伝家の宝刀を引き抜いた。
その言葉には、一同が驚きの表情を見せる。
「さ、流石にそれはどうかと思うが?」
「何故ぢゃ叔父上。マチュアとストームは妾の騎士ぞ。妾の窮地には駆けつけてくれるぞ」
その言葉は正しい。
レックスもその意見には反対する気もない。
「ならシルヴィーよ、幻影騎士団でバイアス連邦の調査を出来るか?」
「陛下のご命令とあれば。というか、妾の一生が掛かっているゆえ、全力でバイアス連邦を潰してご覧に見せましょう」
「まあ待て。まずは調査だけでいい」
レックスが慌ててシルヴィーに告げると、再び会議はいつもの平穏を取り戻していた。
○ ○ ○ ○ ○
ウィル大陸よりさらに南方。
人々の踏み入ることの出来ない大陸がある。
今から1000年前、吟遊詩人のアレキサンドラによって放逐された五大竜の一つ、純白の翼を持つ水神竜クロウカシスが住まう大陸である。
彼の眷属は半人型の竜族である『亜竜族』と、海に住まう翼を持たない水竜族、そして空を舞う飛竜族の3つ。
その中でも、もっとも知力の高い亜竜族の族長である『バルバロ』は、その日も竜都ドルクナに作られた巨大な神殿の奥に向かっていた。
そこにある祭壇の、更に奥にある巨大な地底湖。
その底に眠る巨大な水神竜クロウカシスに祈りを捧げていた。
「‥‥今こそ、我ら竜族の悲願は成される。クロウカシスよ、我らは同胞たる竜族と共に、今一度ウィル大陸に向かう」
その声が届いたのか、水底で眠っていたクロウカシスが、ユラリと水面に向かうが。
――バジィィィッ
水面に施された竜封じの結界に阻まれ、そこから出る事が出来ない。
『グァァァァォォッ、イマイマシイ結界メ‥‥』
水面下から聞こえる悲痛な叫び。
その顎から放たれる水竜の咆哮でさえ、1000年前の勇者・吟遊詩人アレキサンドラの施した結界を破壊することはできない。
「お怒りをお沈め下さい。必ずやスタイファーの遺産を取り戻し、貴方を解放して差し上げます‥‥」
深々と礼をすると、バルバロはその場から離れた。
――カツカツ
神殿に戻ったバルバロは、来客の待つ応接間へと向かう。
「しかし、今更人間などと取引とは‥‥」
かなり機嫌が悪いらしく、びっしりと細かい鱗に覆われた尻尾を上下にバンバンと動かしている。
室内ゆえ背中の翼は広げてはいないが、もしここが外ならば翼を広げて咆哮すらあげていたかも知れない。
やがて応接間に着くと、バルバロはその手前でゆっくりと深呼吸する。
(感情の起伏が尻尾と翼に現れるのは不味いな。人間にはあっさりとバレるからな)
荒ぶる尻尾が落ち着くのを待ってから、堂々と扉を開いて室内で待っていた二人の人物を眺める。
「これはバルバロ殿。お久しぶりです」
「ご機嫌はあまりよろしくないようですが」
ゆったりとしたチュニックを身につけた貴族と、その護衛である騎士が丁寧に頭を下げている。
「お世辞はいい。どうせこれでバレているのだろう?」
自慢の尻尾を左右に振りながら、そう二人に話す。
「いえいえ。それで今日は良い話をお持ちしました。私達の船が間も無く沖合いに到着します。以前にもお話ししましたが、それに乗れば、この嵐の結界を越えてウィル大陸まで行く事が出来ますよ」
「デグチャレフよ、その話は既に聞いている。それで、もう直ぐにでもいけるのか?」
デグチャレフと呼ばれた貴族は丁寧に頭を下げると、ゆっくりと話を始めた。
「明後日には。ですが、船に向かうまでは私達が乗って来た小船を使わなくてはなりません。私と護衛のベネリ、あとは船頭を除けば一度に六人しか乗れませんし、竜族の方は乗れても十名までです」
「たったそれだけか?」
「ええ。ですので船に乗るのは精鋭を揃えて下さい。スタイファーの遺産を取り戻せば、あの忌々しい嵐の結界も破壊する事が出来ます。そうなれば、クロウカシス様も解放されるでしょう」
「そのスタイファーの遺産というのは、本当にあるのだろうな?」
「既に遺跡に向かう為の扉も発見しています。後、必要なのは鍵。それも見当はついていますので」
デグチャレフが説明を終えると、バルバロも顎に手を当てて頷く。
「わかった、では明後日までに10名を揃えておく。出発の時にまた来い!!」
「仰せのままに。それでは失礼します」
丁寧に頭を下げると、デグチャレフは部屋から出て神殿を後にした。
‥‥‥
‥‥
‥
「も、もう限界です。あのようなトカゲ風情に頭を下げるなど」
宿に戻ったデグチャレフは、すぐさま護衛騎士として同行して貰っていたベネリの部屋に向かって苦言を告げていた。
「今暫くの辛抱だ。あいつらを船に乗せて、これさえ付ければな。あいつらは魔道具に対しての知識もないし、基本的には純粋だ。崇拝するクロウカシスを助けるためといえば、幾らでも奴らをコントロールできる」
ベットに座りながら、ベネリが足元にへたり込んでいるデグチャレフに説明する。
その手には、やや大きめのチョーカーが握られていた。
スタイファーの遺蹟の一つで回収した『隷属の首輪』。
これで竜族を手懐けようというのである。
「ですが‥‥」
「奴らさえ捕らえれば、あとは全て手筈通り。本国のファバーム卿はデグチャレフに喜んで爵位を授けてくれるだろうさ」
「そ、そうですか、私が貴族に‥‥」
何か良からぬことを妄想するデグチャレフ。
が、慌ててそれを消すと、今一度ベネリの足元で跪く。
「かしこまりました。このデグチャレフ、今一度、ベネリ卿に忠誠を誓います」
「それでいい。それと忠誠を誓うのは私ではなくバイアス公だ。俺はただのろくでなし息子だからな」
「そんな‥‥恐れ多いです」
今一度頭を下げると、デグチャレフは自室へと戻った。
「これで良い。全て手筈通りだ。我が父バイアスよ、間も無くスタイファーの遺産も、それらを統べる女王も、全て手に入る。その時こそ、大陸全土、いや、世界の全てがバイアスの名の下にひれ伏しましょう‥‥」
窓辺で空を見上げながら、ベネリが静かに呟く。
――スーッ
その背後に、スッと異形の女性が降り立つ。
薄衣一枚の衣服と、背中から生えている蝙蝠のような翼。そして頭部には、黒くねじれた角が左右一対生えている。
以前にベルナー領のマクドガル侯爵に付いていた、夢魔カーマインである。
「殿下、全ては計略通りですわ。あなたの邪魔をする深淵の賢者も、竜殺しの剣聖も、いまはウィル大陸にはいませんわ‥‥今頃は私の同志たちの手によって死んでいるかと思われますわ」
クスクスと笑いながら色香を振りまくカーマイン。
「生憎と、魔族の言葉を全て鵜呑みにする程堕ちてはいない。が、情報の一つとして受けておこう」
「それでこその殿下です。私が直接動けば良いのですが、私たち魔族は竜族と表立って事を起こしたくはないので」
「半分は嘘だな。魔族が事を荒だてたくないのは、赤神竜と黒神竜の眷属であろう?それに封じられていた魔族の解放も間も無くではないのか?」
振り向きながら問いかけるベネリ。
その言葉と姿に、魔族のカーマインでさえ恐怖を覚えた。
(この男はマクドガルとは違うわ。油断するとこちらが殺される)
「全てご存知で。では私は引き続き情報収集に努めましょう」
そう告げると、カーマインは宵闇に姿を溶け込ませていった。
「人と竜と魔族。この世界を統べる三つの種族がウィルに集うのか。楽しい事になりそうだな」
こみ上げる笑いをグッとこらえて、ベネリはしばし月夜を眺めていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
シルヴィーが嫁に取られるという話が六王会議で話題になる少し前。
――ザワザワザワザワ
カナン冒険者ギルドは喧騒に包まれている。
シュトラーゼ公国から戻ってきたマチュア達は、まずはエミリアをカナン魔導騎士団に仮配属させた。
暫くの間は礼儀作法を徹底的に叩き込まれ、それなりの事は一通り出来るようになっていたエミリア。
。
彼女の次の任務は冒険者レベルの上達。
最低でもAクラスまでは上げなくてはならない。
その為に、朝一番で冒険者ギルドにやってきていた。
「あのー、カナン冒険者ギルドは初めてなのですが、システムは一緒ですか?」
酒場で酒を飲んでいた冒険者パーティに問いかけるエミリア。
そこには三人の冒険者がのんびりと食事を取っていた。
「ええ、どちらからいらっしゃいました?」
エミリアににこやかに問いかける、黒いローブに身を包んだメレア。
その横では、ミスリルのパーツアーマーを組み込んだレザー装備を身につけたフィリアと、やはり改装鎧を身に纏ったサイノスが座っている。
「北方のシュトラーゼです。これが私のカードです」
そう告げながら冒険者カードを差し出すエミリア。
それをしげしげと見ながら、フィリアが話を始めた。
「基本は一緒だね。カナンで依頼を受けるという事は、かなりあちこち行く事になるよ?」
「ああ、以前とは違い、カナンは魔導王国になってから縦長の領土となったし、ククルカンも依頼範囲だからな」
「フェンサーですか、サイノス、私たちの今の依頼のお手伝いをお願いしてはいかがでしょう?」
メレアがサイノスたちにそう提案する。
「そうか。エミリアさんといったかな?我々は明日にでも少し離れた廃坑に向かわなくてはならないんだ。ドワーフが放棄した廃坑で、最近になってバジリスクが住み着いたらしくてね。それの討伐任務なんだが来ないか!!」
――キラーン
と、歯を輝かせながらエミリアに手を差し出すサイノス。
「バ、バジリスクですか?モンスター強度は単体でA以上ですよ?この四人でどうにかなるのですか?」
慌てて叫ぶエミリアだが。
「どうにかなるのではない。どうにかするのだ!!多くの民が救いを求めている。ならば我々冒険者が立ち上がらなくてどうする!!」
拳を奮って力説するサイノス。
「あ、これはいつもの事だから放っておいて。それでだけど、どう?手伝ってくれる?」
「優秀な前衛が必要なのですよ。あと一人治療師を頼めばいつでも出発できるのですけれどね」
フィリアとメレアが話をすると、エミリアは観念して手を差し出す。
(依頼の選り好みはしていられないわね)
「宜しくお願いします!!それで治療師の目処は立っているのですか?」
「それはまだだ。だが、このカナンには優秀な治療師が何人も存在する!!」
自分の世界から帰ってきたサイノスがまたしても力説する。
すると。
「あっちのテーブルに治療師さんいたよ〜」
通りすがりのマチュアが、魔術師の装備で通りかかった。
「あ、マチュアねーさんこんちは」
「こんにちはマチュアさん」
「おお!良いところに来た。マチュア殿!共にバジリスクを退治しようではないか!!このフェンサーは先程参加したカナン初心者だ。ぜひマチュア殿の力を貸して欲しい」
サイノスに腕を掴まれて足止めされるマチュア。
「おーい、そんな駄目ックスター雇うなら俺を雇えよ」
「治療師なら私が同行しますわよ」
あちこちから声が聞こえるが。
(な、なんでミナセ女王がここに?それに皆が普通に話をして‥‥これもお忍びなのかな?)
ガクガクブルしてきるエミリア。
この反応が普通なのだろう。
「誰が駄目ックスターだ、お前!!外に出ろ!!」
知り合いの冒険者であるヤンに叫ぶと、マチュアはサイノスに一言。
「この子、カナン魔導騎士団の仮配属なのよ。思いっきり鍛えてあげてね?」
と小声で告げた。
「なんだ。そういうことか」
「ならエミリアさんラッキーだね」
「ええ。ではあちらの治療師の方と話をして来ますね?」
メレアは急ぎ治療師のもとに走る。
「え?ええ?どういう事ですか?」
動揺しているエミリアに、サイノスは改めて自己紹介した。
「カナン魔導王国・冒険者指南のサイノスだ。フィリアもメレアも、私と共に魔導騎士団に訓練をつけている。マチュア、この子は何処まで?」
既にマチュアの姿はない。
が、ギルド入り口あたりから。
「二ヶ月で宜しく!!」
という声が聞こえてくる。
「えーっと。皆さんはマチュア様の事は?」
「全て知っているのはギルド員を含めてごく少数。だけど、あの格好はトリックスターのマチュアさんだからね」
フィリアがすかさず返事をする。
「それで困らないのですか?」
「ん?むしろこっちのマチュア殿の方が普通だから気にしていないよ。昔からの知り合いばかりだしな」
サイノスがそんな話をしていると、メレアが治療師を伴って戻ってきた。
「これで揃いましたわ。では早速打ち合わせを開始しましょう」
「は、はい。それではお願いします」
慌ててエミリアが頭を下げると、一行は任務の細かい打ち合わせを開始した。
暫しの平和。
それが覆されるのは、ほんの少し先。
第五部・完‥‥そして第六部へ
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






