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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第五部 暗躍する北方大陸

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北方大陸の章・その9 バンバンバンバン晩餐会


 エンジツヴァイがドレッドノート枢機卿についての調査を終えて戻って来ると、応接間ではマチュアが深淵の書庫アーカイブを起動してゴーレムの調整を行っていた。


『また新型ですか?』

「いや、実験。エンジツヴァイもここに入って、今までの蓄積データをそっちにもフィードバックするから」

『了解です。しかしここまで堂々と良いのですか?』

 窓の外は庭が広がっており、さらに高い塀によって隣とは仕切られている。

 塀をよじ登らない限り、応接間で何をしているかなんて外からは分からないが、万が一という事もあるのだろう。

 そんな話をしていると、ティーセットを手にしたエミリアが室内に入ってくる。

「失礼します。ティーセットをお持ちしました‥‥実験ですか?」

 室内で魔法陣が起動していても、エミリアはジョセフィーヌから話を聞いているらしく、多少は驚くものの動揺はしていない。

「そういう事。なので夕方までは来客は一切入れないでね」

「かしこまりました。では失礼します」

 丁寧に頭を下げながら、部屋から出るエミリア。

『本当だ。ジョセフィーヌの教育って大したものですね』

「まあね。そこは私も驚きだよ。で、ドレッドノート枢機卿はどうだった?」

『真っ黒ですね。この商店街の食材全て、ゼオン教会で配布されている聖水を振りかけられていますが、その成分は以前ジャスクード男爵を魔族化した実から抽出したものですよ』

 立体魔法陣に入ると、エンジツヴァイがゆっくりと話し話始めた。

「まあそんな所だろうなぁ。食材は全て魔障抜きしないと駄目か。その聖水の掛けられた食材を食べて臣民を魔族化するのかぁ。ここシュトラーゼ公国は放っておくと魔族の国になるぞ‥‥」

『それが目的では?』

「可能性は高いねぃ。よし、エンジツヴァイは暫く眠っててね。私はもう一つを組み直すから」

 その声と同時に、エンジツヴァイの意識が消えていく。

 それを確認すると、マチュアはもう一つのゴーレムの調整を開始した。


‥‥‥

‥‥


 夕方。

 エンジツヴァイはゆっくりと意識を解放する。

 既に魔法陣は消滅しており、エンジツヴァイは椅子に座ってうたた寝をしていた。

クルーラーゴーレムであるツヴァイには睡眠というのは存在しない。

 だが、今は魔法陣の中で熟睡していた。

『‥‥あの、何してくれました?』

 ゆっくりと身体を起こしながら、傍で魔法の箒を弄っているマチュアに問いかけている。

「周囲の魔障を集めて自己修復する機能をつけた。それと瞬間的に能力を全開にする為に、ジャックオーランタンを組み込んだが何か?」

 羊皮紙に書かれている仕様書を手渡して、マチュアは楽しそうに説明している。

『はあ。何かとんでもないですね』

「それと、攻撃魔法としてグレーターデーモンのメルトブラストを撃てるようにしたから、後で調整してね?」

『貴方は私を何にしたいのですか?と、それはなんですか?』

 箒の傍に置いてある、『銃のようなもの』を見ながら問いかける。

 マチュアはそれを手に取ると、カチャカチャといじりながら説明を始める。

「ん?魔導銃。リボルバー型で、弾に魔力が込められていて、魔力を弾として撃ち出す奴。イメージはあったけど、ずっと出来なかったのよ」


――ガチャツ

 と、腰にある革細工のホルスターにそれを納める。

『自分で魔法撃てば良いじゃないですか?なんでこんな形にしたのですか?』

「さぁ?何となく作っただけだし、これなら威力の調節出来るからなんぼでも撃てる!!」

 ジャラジャラと大量の弾丸を手の中で鳴らすマチュア。

『ああ、成程。しかしよく材料がありましたね』

「いやー、今まで作ったゴーレムの数を数えたら、意外と余っていた事に気がついたし。まだまだ作りたいものはあるのよ」

『まさかとは思いますが‥‥人が乗り込んで操縦できそうな大型ゴーレムではないでしょうね?』


――スーーーッ

 マチュアの表情がこわばり、ゆっくりとエンジツヴァイから視線を外す。

『貴方は何を考えているのですか!!馬鹿とは思いましたけどそこまで馬鹿とは思いませんでしたよ』

「なにおう!!どこが馬鹿なんだよ」

『巨大ロボットは実際に作ると物理法則的に危険なのですよ?歩行時や起動時の動き、振動はダイレクトにパイロットの脳や重要器官を揺らします。慣性は?操縦システムは?転倒時などの中の人間の負荷は?』

 エンジツヴァイの知り得る知識でマチュアを論破していくエンジツヴァイ


 事実、大きさを10倍にすると材質にもよるが重量は1000倍程度。動きは重力に縛られる。

 人が一歩踏み出すとして、足は大体30cmほど上がるが、10倍の大きさのロボットが足をあげると3mの高さが必要になる。


「そ、そんなもの魔法でどうとでもしてやるわい!!」

 そう叫ぶと、マチュアは魔法陣を起動するとバックパックからアイアンインゴットを取り出して、次々と放り込んだ。

『全く。子供があんたは!!』

「夕方迄に結論出して見せるわ。それで良いでしょう!!」

 既に聞く耳を持っていない。

 やれやれという顔をして椅子に座ろうとするエンジツヴァイに、マチュアが真面目な顔で話しかける。

エンジツヴァイ。ドレッドノート枢機卿の件だけど、これだけ広い貴族区に出回っている食材を全て浄化するのは無理だから、大元を取り敢えず破壊できるか?」

『了解です。あんな聖水、ポンポンと作れるはずが無いので、商店街に出回っている聖水は全て回収してきます』


――スッ

 なんだかんだ文句は言うが、仕事はしっかりとこなす。

 だからこそのマチュアの第一側近を勤められるのだろう。

 暫くは魔法陣の前でゴーレムの調整をしているマチュア。

 そして夕方には、エンジツヴァイは商店街から大量の聖水を持って帰ってきた。


『全て回収しました。そのまま聞き耳を立てていましたが、聖水は一度配られると、その中に入れる水はなんでもいいようですね』

「そうなの?」

「はい。聖別されたマルムの実というのが聖水の主成分と伝えられていました。そこに濁りない水を注いで一晩置いておくと、マルムの実から聖なるエキスが抽出されるということです。瓶が空になっても、中にマルムの実がある限りは一晩で聖水は出来ると』

 腕を組んだまま、マチュアは報告を聞いている。

『それでですが、新しくマルムの実の入った瓶を手に入れるには時間が掛かるらしいです。あれは特別なもので、半年に一度しか手に入れられないとかで』

「なら好都合。どの店も同時に失ったと分かると、我先に教会に貰いに行くだろうからねぇ。多少の予備はあっても、全部に行き渡るとは思えない。どのみちドレッドノート枢機卿もそんな事実は知らないから、騙されていたということで無罪だ」

 パンと膝を叩いてそう話すと、マチュアは魔法陣を解除する。


「今日の晩餐会、これで行くからな」

 魔法陣の中には、黒鉄色に輝くサラブレッドが二頭立っている。

 馬型のアイアンゴーレム、ゴーレムホースである。

『あ〜、ついにやりやがったですか。いつかやるとは思っていましたが』

 やれやれという感じで頭を抱えるエンジツヴァイ

 その横では、マチュアはドヤ顔である。


――ガチャツ

「マチュア様、エンジ様。そろそろ出かける時間で‥‥またなにを作ったのですか?」

 応接間にいる二頭のゴーレムホースを見て、ジョセフィーヌは多少は驚くが、エンジツヴァイと同じ反応である。

 が、その後ろに立っていたエミリアは呆然としている。

「あ、鋼鉄の馬‥‥‥」

「ゴーレムのサラブレッド。こっちが私用の『ジャステイス』、そっちがエンジツヴァイ用の『サイレンス』。私達とカナン魔導騎士以外の命令は一切受け付けなくしたので」

 すでにドヤ顔も最高潮であるが。

「絨毯が傷みます。とっとと外に出して頂けますか?」

 以外と冷静にツッコミを入れる。

 ジョセフィーヌ、突っ込む所はそこですか?

 その言葉に、マチュアとエンジツヴァイはそーっと二頭を外に出すと、外出の準備を始めた。



――そして夕方

「こ、これはまた‥‥」

 晩餐会に向かう為にと、アレクトー伯爵がマチュアとエンジツヴァイを迎えにやってきた。

 馬車を手配し、きっちりとした正装でやって来たのだが、庭から黒鉄色のゴーレムホースに乗ってやってきたマチュアとエンジツヴァイの二人を見て硬直していた。

「お迎え有難うございます。誠に申し訳有りませんが、私達はこれで向かうことにしますので」

 丁寧に告げるマチュアと、その横で全身を鎧に包んだエンジツヴァイが控えている。

「わ、分かりました」

「道がわからないので、先導だけお願いできますか?」

「陛下の先導とは光栄ですな。では参りましょう」

 アレクトー伯爵は急ぎ馬車に戻ると、馬車はゆっくりと走り出す。


――カシャーン、カシャーン

 ゴーレムホースは本物の馬のようにゆっくりと歩き出す。

 道行く人々は足を止め、その光景に呆然としている。

 貴族や商人達もかなり興味を持ったのか、遠巻きに後ろから付いてきている。

 やがて王城区へと続く正門に差し掛かると、マチュアは住民証と魂の護符(プレートを取り出して近くの騎士に提出した。

「カナン魔導王国のマチュア・ミナセです。晩餐会に参りたいのですが、私の騎士共々通行許可をお願いします」

「お疲れ様です!!」

その言葉に慌てて敬礼すると、騎士は急ぎ魂の護符(プレート)を確認した。

「はっ、お通りください」

 そして威勢良く返事をすると、正門をゆっくりと開いた。

 エンジツヴァイはこれで顔パスになったので、そのままマチュアの斜め前を歩く。

 そして王城区でもマチュア達は目を引いていた。

 この地区には伯爵位以上の者しか住むことができない為、マチュア達の乗るゴーレムホースは興味の的であろう。

 やがて晩餐会の会場となる王城離れにある離宮に到着すると、大勢の貴族や商人がマチュアとエンジツヴァイを出迎えた。


(ふぁー、こういうのを見ると、女王っていう実感が出るなぁ。正直息苦しいだけなんだけどね)


 そんなことを考えながら、マチュアはゴーレムホースから降りる。

「影の中で待機していなさい」

 そう馬に命令すると、ゴーレムホースはマチュアとエンジツヴァイの影の中に消えていった。

 その光景に、集まっていた人々からき驚きや歓喜の声が響いている。

「それではこちらへどうぞ」

 マチュアの前にはアレクトー伯爵が跪き、そのまま離宮内にエスコートした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 晩餐会の名目は、アンダーソン大公が公国内の貴族や騎士達を労う為の慰労会のようなものらしい。

 そこに大商人や教会の枢機卿、そして属国の諸侯達も参会しているのである。


 会場に向かうマチュアとエンジツヴァイは、中で待機していた騎士が別の貴賓室へと案内してくれた。

「ミナセ女王と騎士殿はこちらにどうぞ。これも、演出の一つとしてご理解ください」

「名を呼ばれて順に入室するアレかしらね?」

「仰せの通りで‥‥では」

 そして案内された貴賓室には、他国の諸侯ものんびりと体を休めていた。

 奥の上座に座っているのは、でっぷりとした血色の良い男性。その前には細身の貴族らしい人物が揉み手でなにかを話している。

 その近くには、その男性の機嫌を伺うように貴族達が集まっていた。

「さてと、面倒くさいから近くでいいか」

「相変わらず、このような場所でのマナーを理解してませんねぇ。ま、良いですかと」

エンジツヴァイは笑いながらマチュアが座った椅子の横に立つ。

 すると、あちこちからマチュアを見てヒソヒソと話している声が聞こえる。


(ありゃどこの田舎貴族だ?)

(さぁねえ?馬のゴーレムに乗っていたから、どうせ冒険者上がりの貴族でしょう?)

(あんなエルフの小娘がゴーレムなど。勿体無いわ)

(はあ、可愛いなぁ。私の妻に欲しいなぁ)


 チートステータスは伊達じゃない。

 その程度のヒソヒソ話など、スキルを使わなくても聴こえるわ。


――ザワッ

 と鳥肌が立つ。

『モテモテですなぁ。羨ましい』

「あのねぇ。男には興味ないのよ」

『でも、もう元の世界に戻れないのですよ?もっとエンジョイしないと』

「だったら綺麗どころ集めてハーレム作ってるわ。それができないから、あー止め止めっ!!」

 などと小声で話していると、近くの紳士がマチュア達の元にやってきた。

「これはエルフのお嬢さん。私はノルディン共和国代表のライサンダーと申します。どうぞお見知りおきを‥‥」

 丁寧な挨拶をするエルフの男性。

 ならばとマチュアも精一杯の笑みで応対する。

「初めまして。ウィル大陸カナン魔導王国のマチュア・ミナセです。丁寧なご挨拶有難うございます」


 ニコリと笑いながら礼をすると、あちこちから貴族や国の代表がマチュアの近くに集まってきて自己紹介を始めた。

 どこぞの田舎貴族の小娘の正体が一国の女王と判ったからであろう。

 だが、このように掌を返す貴族は、マチュアはあまり好ましくない。

「カナン魔導王国のお噂はかねがね‥‥」

「このような場所でお会い出来るとは光栄ですな」

「是非とも私とお話を‥‥」

 次々とやって来る貴族達の相手をするのも疲れるので。

「誠に申し訳ありません。長旅で少々疲れていますので、後ほど晩餐会の会場で‥‥」

 弱々しく微笑むと、貴族達は理解したのか労りの言葉をかけて戻っていった。

 が、奥に座っていたでっぷり貴族は、マチュアをじとーーっと睨みつけている。

「あれ?私何か恨まれることした?」

『マチュアが来るまでは貴族達があのでっぷりさんをちやほやしていたのですよ。それが突然、マチュアに切り替わったのですから当然ですよね』

「あー、そういう事ね。面倒だから無視」

『それで宜しいかと』

 などと小声で話していると。


――コンコン

「皆様大変お待たせしました。これから会場にご案内しますので、どうぞこちらへ」

 ゆっくりと扉が開かれると、コンラッドが部屋にやって来て恭しく挨拶をした。

 丁度マチュアの近くに来たので、マチュアはコンラットにニッコリと微笑む。

「おや、コンラッド殿、ご機嫌麗しく。お体の調子はいかがですか?」

 気軽に話しかけながら、コンラッドに近づくマチュア。

 と、その姿に驚いたのか、コンラッドは慌ててマチュアの元にやってきた。

「マ、マチュア殿。私の呪詛毒は本当に解毒されたのですよね?」

「まだ術印は残っていますか、まあ、徐々に消えますよ。私に従っていればね。反抗したらどうなるかぐらいはご存知でしょう?」

「承知しておりますとも。私はマチュア様に忠誠を誓ってもいいと思っています」

 小声でこそこそと話すマチュアとコンラッド。

 そして会場へと案内された。


『あのコンラッドに飲ませたオレンジ色の呪詛毒は何なのですか?』

 会場に向かう途中。

 そう念話で問いかけるエンジツヴァイ

 彼女もあれがなんなのか知らなかったので。

(はあ?ただのサウザンドレッシングだよ?)


――プッ

 と吹き出すエンジツヴァイ

『あの酸味は知らなければ毒ですか。まあ、そうなりますよね』

(私が毒やら飲ませる訳ないじゃん。そんなおっかない事はしないよ。脅しには使うけどね)

 そんなことを話していると、マチュアが会場に入る番となったらしい。

「続きまして、ウィル大陸よりお越しいただきましたマチュア・ミナセ女王陛下の入室です!!」


(魔法起動。『広範囲ワイドエリア魅了チャーム』と『広範囲ワイドエリア畏怖フィアー』を発動!!)


 二つの魔法の相乗効果で、魅力と迫力を増強する。

 これであまり人は近づいてこない。

 呼びかけに応じて入室すると、マチュアの姿を見て溜息や驚きの声が聞こえて来る。

 立食パーティらしく、マチュアは貴賓席のようなテーブルに案内されると、やがて主催者であるアンダーソン大公が姿を現した。


――バチッ

 と視線がぶつかり合い、お互いを牽制する。

「本日は遠路はるばるご苦労である。現在の公国の状況は皆も知る通り、良き方向に向かっている。今宵は堅苦しいことは抜きの立食の形を取った晩餐会。存分に楽しんでくれ」

 それだけを告げると。アンダーソンは踵を返して席に戻る。

 やがて室内に楽団の奏でる心地よい音楽が流れ始めると、晩餐会は始まった。


 アンダーソンの近くにも、大勢の貴族が集まり話をしている。

「まあ、軽く牽制はしたから、今はこの雰囲気を楽しみましょか」

『お気楽ですねぇ。まあ、周辺の警戒はこちらで行いますので』

「そうそう。アレクトー伯爵のお膳立てを台無しにして、面子を潰すのもあれだからねぇ」

 そんな話をしていると、一人、また一人と貴族がやって来る。

 それらの貴族の相手をしていると、先程貴賓室に居たでっぷり貴族がマチュアの元にやってくる。

「これはこれは。ミナセ女王にはご機嫌麗しく。私はこのシュトラーゼ公国ゼオン教会のハンニバルと申します」

「これは丁寧にありがとうございます」

 努めて冷静に挨拶をするが、ハンニバルはじっとマチュアを値踏みするように見つめると、話を続けた。

「カナン魔導王国のゴーレム技術には興味がありまして。是非とも我がゼオン教会にあのゴーレムホースを寄付して頂きたくやってまいりました」

「そうですか。残念ですがあのゴーレムはカナンの国家機密でもありまして。今のところ他国に譲渡する予定はございませんので」

「で、では。我がゼオン教会をカナンにも建てたいのですが。我らが偉大なるゼオンの教えを、ウィル大陸にも広めたいのですよ」

「そうですか。ですが我がカナンの国教は『秩序の女神ミスティ』でして。異国の神がやってくる余地が無いのですよ。カナン以外でしたら、其々の国にお伺いをたてるが宜しいかと」

 丁寧に告げるが頭を下げることはしないマチュア。

 その言葉にハンニバルは真っ赤になって立ち去っていく。

「なんて失礼な。このワシが自らゼオンの教えを広めようというのに‥‥」

 などと大声で呟いているが全て無視。

 そのまま暫し、楽しい歓談を行っていた。 


『マチュア様、ここの食事は魔障の反応を感じません。食べても問題ないですよ』

 エンジツヴァイがテーブルに並べられている食事を一通り皿にとって食べると、マチュアにそう念話で話した。

「では私も少し失礼しますね。話疲れてお腹が減ってしまいましたので」

「そうですか。楽しいお話をありがとうございます」

 ご婦人方との語らいは一時中断し、席に戻って食事を始める。

 エンジツヴァイが一通り皿に取ってきてくれたので、マチュアは席に座って待っているだけである。


――ゴトッ

 突然、丸テーブルの正面の席にアンダーソン大公が座った。

「これは大公。これからお食事ですか?」

「ああ。何か問題でも?」

「いえいえ。私も美味しい料理を楽しんでいた所でしたので。よろしければ、少しお話しませんか?」

 お互いを牽制しているが、マチュアはすでに腹を括っている。

「他愛もない会話ならばな」

「そうですか。では‥‥メルキオーレ様はご存知ですか?」

 その名前がマチュアの口から出てくるとは思っていなかったのであろう。

 アンダーソンはあんぐりと口を開いていた。

「貴様。どういうつもりだ? 当てずっぽうで出した名前にしては冗談がすぎるぞ?」

「いえいえ。当てずっぽうではありませんわよ。一度メルキオーレ殿の屋敷にいったことがありまして。それ以降、色々とやり取りしているのですよ。アンダーソン大公はメルキオーレ様とは?」

「ふん。彼奴と話をしたということは、大体は見当がつくだろうが。元々ワシはメルキオーレとは相性が悪いのだ。いまだかつて、奴に勝てたことなど無いわ」

 聞いてもいないことをべらべらと話してくれるアンダーソン。

 これは脳筋タイプだなと、マチュアは理解したが。

「大公、それ以上はダメですわ。ミナセ女王も、国のトップの話など、このような場所でするものではありませんこと?」 

 綺麗な黒いドレスを来たアーカムが、アンダーソンの隣に座った。

「ええ。そうですわね。では、私は食事でも続けるとしましょう」

 そう話をしてから、マチュアは食事を始めたが。

 しばらくしてから、アンダーソン大公とアーカムも食事を終えて立ちあがる。


「この晩餐会が終わったら話がある。謁見室を用意しておくから、そこで色々と話をしようじゃないか?」

「そうですね。色々とこちらとしても聞きたいことがありますので。では、晩餐会が終わりましたら、ここで待っていますので迎えの者でもよこして下さい」

そう告げると、マチュアはゆっくりと立ち上がって貴族たちの輪の中に溶け込んでいった。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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