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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第五部 暗躍する北方大陸
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北方大陸の章・その3 魔族と呪詛と大ピンチ

 実に快適な目覚め。

 昨夜襲撃を受けたとは思えない程、気分は爽快である。

「ふぁぉぉぁぉ。よく寝たわー」

『こちらはずっと警戒モードでしたよ』

「そうなのか。深淵の書庫アーカイブの立体魔法陣は絶対領域だから、あまり気にしない方がいいよ」

『転移する相手でもですか?』

「あー、そりゃダメだ‥‥って、そうだ、あいつら転移したぞ」

 今更ながら驚くマチュア。

 すると、ハァーと溜息をつきながらツヴァイがマチュアの姿で影から出てくる。

『まあ、暗殺も考えて今日からはエンジでどうぞ。私がマチュアで囮になりますから』

「それは助かるねぇ」


――シュンッ

 マチュアは素早くエンジに変わるが、一瞬変化しただけですぐマチュアに戻ってしまった。

『おや?如何したのですか?』

「勝手に戻ったぞ?どうした?」

 さて。

 何が起きているのか確認のためにウインドウを展開すると、ステータスに見たことのないマークが点滅しているのに気がついた。

「こりゃなんだ?初めて見たぞ」

 恐る恐るマークに触れる。

 すると、そのマークが何を示しているのか説明が出た。


呪詛カース


 そのような説明しか書いていない。

 だが、今まで見たこともないステータス変化なので、マチュアの動揺は計り知れない。

「昨日の毒かよ!!こんな効果もあったのかい」

 慌てて『呪い解除リムーブカース)』を発動する。


――シュゥゥゥゥッ

「さて発動成功と‥‥なになに? 術式の強度不足により解呪出来ません‥‥ふぁぁぁぁぁあ!!」

 どうやら呪いが解除できない。

 突然冷や汗が吹き出しらオロオロするマチュア。

 知りうる限りの魔術を使ったが、どれも効果がない。

 大抵のことはなんとかなると思っていた楽観的な性格が、ここにきて災いした。

「そ、そうだ、こう言う時こそ深淵の書庫アーカイブと‥‥よし、これは起動する」

 暫し深淵の書庫アーカイブの中で、自分に仕掛けられた呪詛を確認する。


「なになに? 上位魔族の施した呪詛。効果は衰弱と能力低下、アビリディーの不安定化‥‥これは不味いわ」

 目の前を流れる魔法文字を見ながら叫びそうになる。

 が、ぐっと堪えてさらに解析。

「呪詛の解呪方法は‥‥呪詛の発動者による解呪もしくは発動者の死‥‥はぅあ!!」


――パチン

 と指を鳴らして、『却下リジェルト』を発動する。

 いかなる魔術も無効化できる賢者最強魔術なのだが、発動もしくは魔法そのものを見ないと効果を発揮しない。

 既に発動している、しかも解除方法が限定的な魔術である呪詛には、全く効果を発揮しないのである。

「こ、これは史上最大のピンチだわ‥‥と、まだあるのか」

 解呪方法の続きを見る。

「僧侶の秘術には、いかなる呪いも解呪出来るものがあると‥‥」

 ガクッ

 と膝から崩れる。

 深淵の書庫アーカイブを解除して、ゆっくりと立ち上がると、マチュアはトボトボと酒場に向かった。

『どうするのですか?』

「まずは腹ごなしだぁよ。僧侶の秘術は和国限定的な魔術だから無理。だけど、和国から来た僧侶とかを探せば良し。まあ、直ぐにどうこうなるわけではないから、先にこの国の事を片付けるよ」



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 食後の腹ごなしではないが。

 マチュアは再びゼオン教会にやって来た。

 先日と同じく礼拝に参加し、昨日よりも集中してあちこちを観察する。

 礼拝堂には大勢の信者が集まり、昨日と同じように修道士の話に耳を傾けている。


(やっぱり集団催眠だよなぁ〜しかもじっくりと時間を掛けた浸透型か。新興宗教にハマるのって、こんな感じなんだ‥‥)


 一通りの話が終わり、信者達が近くの修道士の元に向かう。

 そこで個別に話をしているらしいが、マチュアは周囲の観察をしていたかったので、修道士の元には向かわない。

「失礼します。あなたは私達修道士とはお話をしないようですが、何かあったのですか?」

 すると一人の修道女がマチュアの元にやって来た。

 一言で言うと純朴という言葉がよく似合いそうな、のほほんとした顔の修道女である。


「いえいえ、人が混んでいますし、急ぎご相談というのもありませんから。お気遣いありがとう御座います」

 丁寧に頭を下げると、修道女は両手を胸の前で組んだ。

「では、せめて貴方の為にお祈りを‥‥…」


――フゥゥン

 とマチュアの身体が淡く光る。

「もしご相談ごとがありましたら、明日にでもいらして下さい。明日は最高司祭様の一人であるギュンター枢機卿もいらっしゃいます。とっても為になるお話を聞くことができますよ」

 ニコリと笑いながら、修道女はマチュアの手を取ってそう話してくれた。

 ならばとマチュアも軽く微笑んで頭を下げると、一旦教会を後にした。


(ツヴァイ。今の聞いたよね?)

『はい。まさかいきなり大物が出るとは思いませんでしたよ』

(正直いうと、これ以上進展がなかったら王城に乗り込もうとも考えていたんだよ)

『あんたは無策すぎますよバカタレが。ラマダやククルカンとは勝手が違いすぎます。ウィルやラグナ・マリアの侵攻とも取られますから、それはやっては駄目です)』

(そうだよなぁ。今までみたいな手を使うわけにはいかないか)


 取り敢えずは一旦酒場にでも向かい、そこでゆっくりと考える事にしたのだが。

「マチュア様〜」

 街道をのんびりと歩いていたマチュアの元に、突然アルファが走ってくる。

「おや、ご両親の容体はどうだい?」

「はい。お陰様で病気の方はすっかり。ただ、やはり衰弱してますので、体力が戻るまでは安静にしないといけないようです」

 頭を下げるアルファ。

「あの、色々と報告したいのですが」

「そうだねぇ。それじゃあ私の宿に向かうとしますか」

 ということで、マチュアが泊まっている宿に向かうと、二人は部屋に入って話を始めた。


 最初に話を切り出したのはアルファである。

「あの、あれからあちこちの家を巡って魔障を発している食材があるかどうか調べたのですが、やはりありました」

 ゆっくりと、言葉を選びながらアルファが説明を始めた。

「やっぱりあったのかー」

「はい。全ての家にではありませんが、あちこちの家から魔障に侵された食材を発見しました。今は私が率先して浄化していますけれど、定期的に運ばれてくる食材の半分近くは侵されています」

「それって、配給している人は知っているのかなー?」

「分かりません。届けられた食料を配るのは私たち街の人々が当番制でやっていますので。迂闊な事を聞くのは危険ですから、黙って受け取ってから、こっそりと浄化しています」

「浄化はそのまま続けてね。で、その配給元は何処の誰?」

「ゼオン教会の枢機卿の方が経営している商会が取り扱っているそうです。ドレッドノート枢機卿という方でして、王都の貴族区にある商会だそうです。その区画はAクラスの市民証が無ければ入らないそうで‥‥」

「なら、私の出番か。わかったわありがとうね」

「い、いえ。この程度のお手伝いしかできなくて申し訳ないのですが」

 下を向いて呟くアルファだが。

 マチュアは首を左右に振ると

「でも、今は貴方のおかげで下町の方は魔障の脅威から逃れているのよ。だから頑張ってね」

 そう元気付ける。

 それにはアルファも元気を取り戻したのか、笑顔が戻っていた。

「それにしても、教会と国の繋がりも見えてきたけど、裏側が分からないのよねー。どうしたものかなぁ」

 バッグからティーセットを取り出して、暖かいハーブティーをアルファにも差し出しながら頭を捻る。

「あの、マチュアさんはどうしてここまでしてくれるのですか?他国民である私達の事を、どうして心配してくれるのですか?」

 おずおずと話しかけるアルファ。


 彼女が知っているマチュアは商人兼冒険者。

 入国審査でその魂の本質は分かったものの、どうしてここまで見ず知らずの者に手を貸してくれるのか分からないのである。


「へ?心配だから」

「でも、マチュアさんはシュトラーゼ公国の国民ではないですよね」

「困っている人が居るのに、国が違うというだけで手を差し伸べないなんて事はしないわよ〜。まあ、理由があるとしたら『見てしまったから助ける』じゃないかな?」

 あっけらかーんと笑うマチュア。

 見えないものには手を差し伸べようがない。

 が、見えたなら、そして困って居るのなら助けても良いんじゃないかな。

 それがマチュアが人を助ける動機である。

「まあ、後のことは私がなんとかするから、アルファはアルファの出来る事をしましょうね」

「は、はい‥‥」

 あとは他愛のない雑談で盛り上がる。

 ウィル大陸でのマチュアの簡単な冒険談などを話している内に、気が付くと日が暮れ始めた。


「あ、急がないと門が閉まってしまいますね。では私はこれで」

「そかそか。送るかい?」

「大丈夫ですよ。では、失礼しますね。また何かありましたら来ますので」

 ペコッと頭を下げると、アルファは部屋を後にした。

 そしてマチュアも、酒場に移動するとゆっくりと食事を取る事にした。



 ◯ ◯ ◯◯ ◯ 



「‥‥呪詛怖えー」

 早朝、目覚めたマチュアの第一声がこれである。

 目を覚まして顔を洗っていると、ふと上腕と肩に痣のような魔法文字列が浮かび上がっている。

深淵の書庫アーカイブ。ほう、かーなーり進行してますなぁ〜」

 あっさりとそう呟くと、足元のツヴァイを呼び出す。

『かなりまずいですか?』

「具体的に説明しよう。転移も封じられた。魔術のリンクとクラスの変更が効かない。賢者のまま固定された」

『なら、まだ何とかなりますか』

 そう告げてから、ツヴァイがマチュアの身体の変化を『探査サーチ』する。

『今のままでも、半端なく強いですけれどね。どうしますか?戻るのなら祭壇を起動しますけど』

暫し腕を組んで考える。

 今戻った所で、状況は変わらない。

 なら、ギュンター枢機卿との面会が出来るかもしれない今日をうまく活用したい。

「今のままで。あと、これを預けるから、万が一の時は頼むわ〜」


――フゥゥン

 と二つのスフィアを手の中に生み出すと、それをツヴァイに手渡す。

『指示書のようなものと、ああ、成程。では確かにお預かりしますね』

 それを受け取って体内に取り込むと、ツヴァイは再び影の中に潜り込んだ。

「まあ、この痣は服で隠れるから、このままでいっか」

 楽観的に考えて、急ぎ朝食を取るとマチュアは箒に跨ってゼオン教会へと飛んで行った。



 ここ毎日訪れている為、すっかり顔を覚えられたらしい。

 教会の手前で箒から降りると、通りすがりの信者らしき人たちが頭を下げてくる。

「お、ああ、どもども!!」

 マチュアも頭を下げてから、教会の中で礼拝が始まるのをじっと待っていた。

 今日は枢機卿が直々に礼拝を行うらしく、いつもよりも大勢の人々が集まっている。


――カラーンカラーン

 鐘の音と同時に、右側の大きな扉が開かれる。

 そこから綺麗な修道衣を身に纏い、装飾の施された司教冠と呼ばれる立派な帽子を被っている司祭が姿を現した。

 かなり使い込まれたのであろう古く分厚い書を抱えながら壇上に上がると、書を演台の上に置いて集まっている信者に一礼した。


 その場の全員が両手を組んで胸元に置くと、静かに頭を下げる。

「皆さんおはようございます。実に清々しい朝です。今日一日の、皆さんの生活全てに神の加護があらんことを。では‥‥経典第4節、ゼオンの使徒と反逆者の和解について‥‥」

 そう放し始めると、経典を開いてゆっくりと読み始めた。

 キリスト教でいう聖務日課と同じ。

 聖書の一部を読み上げて、その後でありがたいお話をするのであろう。

 静かな教会には、魔法の効果で枢機卿の声が響いている。

 時折鳴らされるベルとパイプオルガンの奏でる旋律が、かなり良い演出をしてくれる。


 大体一時間程で、ギュンター枢機卿の話は終わった。

 最後に一礼すると、壇上から降りて信者一人一人に言葉を掛けている。

 やがてマチュアが座っている席までやってくると、ギュンター枢機卿はマチュアにニッコリと笑った。

「これはこれは。珍しい方がいらしていますね。旅行か何かですか?ミナセ陛下」

 丁寧に頭を下げるギュンター。

「ありがとうございます。私の事をご存知とは思いませんでしたわ。今日はいいお話を聞かせていただいてありがとうございます」

 負けじとマチュアも頭を下げる。

「このような場所ゆえ、今日はこの辺で。後日、改めてご挨拶させていただきますので。それでは」

 再度、深々と頭を下げると、ギュンターは別の信者の元に向かった。


(バレてた〜。さて、どうしようかな?)


 取り敢えず教会を後にして、箒に乗ってフラフラと街の中を飛んでいる。

『まさかあちらがマチュア様を知っていたとは予想外でしたね。次の手をどうしますか?』

(いゃ〜参った。あっちが来るまで手詰まりだわ。呪詛を取り除くにも方法はないし、後日と言われるとここから動く事も出来ない。今回は後手に回ったわ)


 街道沿いの露店でパンのようなものを買って、食べながら飛んでいる。

(もう監視が付いているでしょ?)

『先程から調べていますが、こちらを監視している者はいないのですよ。余裕なのか、もしくは他に策があるのか』

(それとも考えすぎなのか。まあいいや。なるようになれだ)

 指に残ったクリームを舐めとると、箒に乗ったまま貴族区へと飛んでいく。

 迂闊に近づくと怪しまれそうだが、もうバレているのならどうという事はない。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 



 貴族区と一般区は、大きめの鉄柵によって区別されている。

 出入りは何箇所かにある門を通らなくてはならず、区内には巡回騎士が常置されているようだ。

 その通行門の一つにマチュアはやって来た。

「はあー。鉄柵の高さはたった5mかー。ベテラン冒険者なら軽々と突破できるぞ?」

 物騒な事を話していると、街道正門の横にある騎士の詰所から、騎士が二人やって来る。

「ここの向こうに入るのは許可がいるのだけれど、何か御用かな?」

 マチュアに優しく話しかける騎士。

 その背後には、ムスッとした顔でこちらを見ているごっつい体格の騎士が立っていた。

「この国には来たばかりでして。あちこち歩いて回っているのですよ。これがギルドカード、これが門で発行してもらった住民証です」

 カードを二枚取り出して見せると、騎士達は襟を正してマチュアに頭を軽く下げる。


「ああ、成程ね。異国の侯爵様ですか?」

「まあ、ちょっと近いかな?」

「ではご自由にどうぞ。門を抜けて真っ直ぐ行くと、貴族区専用の商店街があるので、商売の申請はそっちの商人ギルドで。住む家が欲しいなら、その奥の建築ギルドに向かってください」

 丁寧に説明してくれると、マチュアも軽くお辞儀をする。

 そして箒に乗ると、ゆっくりと商店街へと飛んで行った。


 一般区と違い、ここでは箒に乗って飛んでいても商人達が飛んでくることはない。

 不思議に思って商店街にやって来たが、今までとは歩いている人たちの雰囲気が違うのである。

 どことなく大人しく、そして騒がしくない。

「ま、まあいいや。と、取り敢えずギルドに行くのか?」

 トロトロと商人ギルドにやってくると、箒をバッグに放り込む。

 そして中に入った時、外の静けさがなんとなく理解できた。

 この場所には豪快に笑う商人もいなければ、鉄貨一枚まで値切る冒険者もいない。

 貴族御用達の商人が、貴族を相手に商談をしているのである。

 通りを歩いているのも恐らくは貴族か使用人、もしくは護衛の冒険者であろう。

「どうなさいましたか?」

 近くの受付がマチュアに話しかけて来たので、そのまま受付に向かう。


――スッ

 と住民証とギルドカードを提出すると、受付が真っ青になる。

「これは大変失礼を。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 先程とは違い丁寧な物言いで話して来る。

「はて。正門でギルドはここって言われて、そのままやって来ただけなので。あ、そうか、あの騎士達は私が商売で来たと思ったのか。ならいいや」

 そう一人で納得すると。

 大胆に話を切り出した。

「この区画で露店を出したい」

「それはできません。この貴族区では露店の出店は景観を損ねるので禁止されております。商店街にある貸出店舗でなら、お店を出す事が出来ますがどうしますか?」

「はうー。そうなのかぁ‥‥」


 これは参った。

 この場所にも拠点はあったほうが動きやすい。

 なら、ここは貸出店舗でも借りた方がいいのか?

「な、なら、貸出店舗をお願いします。出来れば居住できる奴で」

「はあ。それは構いませんが、マチュア様の住民証でしたら、建築ギルドに申請すれはすぐに屋敷をご用意していただけますよ?」

「そうなの?」

「ええ。マチュア様は他国からいらしたようですので、その住民証の効果をあまり理解していないようですが。マチュア様のカードですと、このさらに奥の『王城区』にも自由に出入りできますし、殆どの施設が無償となります。屋敷程度なら、すぐに手に入れる事も出来るのですよ?」


――ザワッ

 と鳥肌が立つ。

 今更ながら、自分の持っている権力の強大さに気がついた。

 自国のカナンでも、ここまで説明された事はないし、自分でも理解していなかった。

 王族の持っている権限がこれほどの物とは、今更ながらに呆れてしまう。


「そうなのか。まあ、建築ギルドはいいや。で、貸出店舗はどれぐらい掛かるの?」

「ですから、マチュア様でしたら無償となります。全て公国の公費として扱われますので」

「それは嫌だ。払うから金額を教えてちょうだい」

 腕を組んで告げると、受付も困った顔をしている。

 無料ほど怖いものはない。

「で、では、金額ですと一月で白金貨一枚なのですが」

「はい!これでオッケーね。では案内してくださいな」

 パチンと懐から白金貨を一枚取り出しておくと、受付がそれを受け取って奥に歩いて行く。

 少しして、一番奥に座っているギルドマスターらしき女性が受付嬢と一緒に戻って来ると、マチュアに挨拶した。

 そして小声でゆっくりと

「カナン魔導王国のミナセ女王ですね。下の者にまで通達が届いておらず申し訳ございません。このジャグリーンをミナセ様専属のギルド員としますので、こちらに何か御用の時には、この子にお申し付けください」

 先程の受付嬢が震えながら頭を下げる。

「い、いや、そこまでしなくても‥‥まあ、店舗まで案内してくれればそれで良いので」

 そう告げて立ち上がると、マチュアは急いで外に向かう。


――ガヤガヤ

 マチュアが建物から出ようとした時、ちょうど入れ替わりにギルドの前に数台の馬車がやって来る。

「さて、今日は何か面白いものかあると良いですなぁ」

「なんでも、一般区で空を飛ぶ乗り物に乗っている人物を見たという話を聞きましたが」

「ほう。そんなものがあるとは。どれ、情報でも‥‥」

 数名の取り巻きらしい商人と一緒に、マチュアの見たことのある人物がギルドにやって来る。

 バッタリと入り口でマチュアと貴族が向かい合うと、相手はワナワナと震え出した。

「こ、この前の商人か!!貴様のような奴がどうして此処にいる?」

 客船マッドハッター号でマチュアに喧嘩を売った貴族、アレクトー伯爵が、マチュアの目の前に立っていた。

「おやぁ。これはナントカ伯爵、お元気そうで何より」

 こういう輩を煽るのは上手い。

「だから、なんで貴様がここにいると聞いているのだ。ここは貴様のような下賎な商人が出入りして良いところではないぞ」

 相変わらずの態度であるが、こんな小物を相手している暇はない。

「私も、貴方のような下賎な貴族がここにいるとは思っていませんでしたよ。まあ、せいぜいこの国で私腹を肥やしてくださいね。では‥‥」

 そう告げて頭を下げてから、マチュアはギルドの外に出る。


――ヒュンッ

 とバックから取り出した箒に飛び乗ると、案内で出てきた受付嬢の横に並んでゆっくりと飛んで行くマチュア。


「ギルドマスター、説明して貰おうか」

 商人ギルドのカウンターで、アレクトー伯爵がギルドマスターを呼びつけている。

 その声に、ギルドマスターはやれやれという表情でやって来ると、アレクトー伯爵の話を耳を傾けた。

「はて、何の説明がいるのでしょうか?」

「先程のマチュアとかいう商人だ。なんであんな奴がここにいるんだ?」

「まあ、端的に説明しますと、正式に市民証を提示されましたのでね。特に問題はありませんでしたよ?」

「そんな事があるか!!きっと偽造したに決まっている。あの女はとんでもない女なのだぞ!!」


(カナンの商人ギルドからの通達では、勝手に敵やライバルを作る傾向にあると書いてありましたけれど、成程ね)


 ギルドマスターは目の前で起きている事実に納得すると一言。

魂の護符(プレートを参考に生成される市民証の、何処に偽造できる余地があると?因みに彼方の方の市民証は、ゴールドプレートですが?」

 その言葉に、愕然とした表情になるアレクトー伯爵。

 自分よりも格下と思っていた商人が、まさかの王族特権を持っているのである。

 信じたくないのも無理はない。

「ば、馬鹿な。この私よりもランクが上だと?それこそ何かの間違いだ‥‥」

「ならご自分で確認していらしてください。では、私達も忙しいもので」

 それだけ告げると、ギルドマスターは奥へと下がっていく。


「そ、そうだ、直接話をすれば」

 慌てて外に飛び出すと、すでにマチュアの姿はない。

「おい、さっきの女は何処に行った?」

 近くに止まっている馬車の御者に問いかけると、御者も一言。

「あ、ああ。さっきの女性なら、空とぶ箒に跨って飛んで行きましたけれど」

「なん‥‥だと?」

 まさか探し物を持っている人物がマチュアだとは思ってもいなかったアレクトー伯爵。

 そのまま暫し呆然としていたが、やがて意気消沈して屋敷へと戻って行った。





誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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