北方大陸の章・その2 ゼオン教を調べてみる
一旦シュトラーゼ公国内に戻ったマチュア。
いちいち出し入れするのが面倒なので、イーストエンドに向かう時はツヴァイには公国内に待機してもらう事にした。
アルファの家から戻ってくると、マチュアは暫くの間のベースキャンプとなる宿を探す事にしたのだが。
――ヒュゥゥゥゥゥン
やや急ぎめに箒に横坐りになって飛んでいると、彼方此方の商人や貴族から呼び止められてしまう。
大抵は商人が箒を売って欲しいと商談を持ちかけるか、子供達が物珍しそうに集まって来るかどちらかなのだが。
――ドッドッドッドッ
「あー、そこの箒で飛んでいる御仁。ちょっと話をしたいのだが」
突然後ろから、馬に乗って走ってくる騎士がいる。
「はあ、どのような?」
とりあえず急停止すると、馬は急には止まれないらしくマチュアを追い抜いて真っ直ぐ走ってから、テクテクと折り返してくる。
「当家の主人が貴女のその箒を売って欲しいと所望しておりまして」
「はい無理ですとお伝えください。それでは」
もうこの手の話は聞き耳持たない。
――フワッ
「お、お待ちください。どうしても売っていただけないのですか?」
「はい。これは私の移動用の乗り物でして。これを売ってしまうと、私は歩かないとならないのですが」
そう返答すると、騎士も腕を組んで困り果ててしまう。
「売った金で馬を買うとか?」
「あの上下感覚が嫌なのですよ。それに馬はご飯食べますから‥‥ご飯を食べない馬‥‥な…ら?」
そう告げてから、ふと思う。
(あ、ゴーレムで馬作るのもありか。でも上下するから嫌だしなぁ)
『材料もうないでしょ?』
(ストームの所行って貰う?場所わからないから無理か)
「そうですか。せめて、当家の主人と会っていただけますか?私もハイそうですと戻って返事はできませんので」
「返事すればいいじゃないですか。丁寧に断られたと」
「そのような事をすれば激昂されるのがオチですから」
「そんな激昂する方と会えだなんて、お断り申し上げます。では」
――フワッ
今度は高度を上げて、一気に騎士から離れる。
突然の事で慌てて馬を走らせるが、路地裏まで逃げてどうにか撒くことができた。
『だから目立つのですよ。歩くとかすればいいじゃないですか』
(これは交渉の切り札でもあるのだよ。まあ、囮ぐらいは用意するけどね)
『だからと言って‥‥全く』
(それ以上言うと、バイクに変形するように改造するぞ)
『‥‥それ、良いですね。バイクに変形して、いざという時は全身を覆うプロテクターにもなる。最高じゃないですか』
(‥‥やっぱりなし。なんかツヴァイばっかり楽しそうでずるい)
『あんたは子供か!!』
二人自問自答を繰り返しながら、路地裏で箒をしまうと商店街を歩いていく。
それほど珍しい食材があるというわけではないが、乳製品と穀物はかなり豊富にある。
「さ、最高じゃ。チーズが、生ハムがあるではないか!!」
取り敢えずは、ワクワクしながら近くの加工肉を卸している店に入る事にした。
「これ、味見したいのですが?」
「おやいらっしゃい。いいよ、どれにする?」
「では、これとこれをお願いします」
適当にいくつか味見させて貰う。
「ファァァァァ。ワインが欲しい」
「わっはっはっ。これは冬用の保存食だよ。これでワインとは、中々お嬢さんも変わっているねぇ」
「あ、保存食。そうですよねぇ。では、これ買います、全部ください」
ならばと豪気な買い方をするマチュア。
「全部って、ここに並んでるの全部かい?お嬢ちゃんお金あるの?」
――ゴソゴソッ
コクコクと無うなずきながら、白金貨の一杯詰まった袋を取り出す。
「大丈夫ですよー。お幾らですか?」
「どれでも一本金貨一枚だけど、大抵は量り売りでどれぐらいって感じで売っているのですよ。まあ、倉庫にもまだまだあるのでここにあるの全部売っても構いませんが」
そのように余裕を見せてくれたので。
「白金貨一枚分。このバッグに入れてください」
素早く金貨袋から白金貨を一枚取り出して手渡す。
「お、おう。ならちょっと待ってな、このお嬢ちゃんを裏の保管庫に案内してやってくれ。100本お持ち帰りだ」
「は、はい。こちらへどうぞ」
奥に居た店員が裏にある巨大な保管庫に案内してくれると、次々と熟成の終わった生ハムの原木を手渡してくれた。
それを次々とバッグに放り込むと、表の店に戻って礼を言う。
「いやー、いい買い物しました、在庫が切れたらまた来ますね」
「おう、お嬢ちゃんは商人か?」
「はい。この通り商人ですよ」
素早くギルドカードを見せる。
それをヒョイと手に取ると、しげしげと見る店主。
「へぇ。Bクラスとは中々だな。で、お嬢ちゃんがうちで大量購入したのを近くの店も嗅ぎつけてるなぁ。まあ、頑張ってくれ」
ちらっと見ると、あちこちの店でサンプルを持って待機している店員があちこちにいる。
「よーし、次はチーズ屋だ。どこのチーズが美味しいの?」
「なら、あそこだ、今手を振っている店がチーズの卸しをしている店だ」
そう加工肉屋の旦那が説明してくれたので、次はチーズの購入だ。
そんなことをしているうちにすっかり日が暮れてしまったので、街道のある方向に歩いていくと、適当な宿屋に入る。
「いらっしゃいませ。お泊まりで?」
「はい。3日程お願いします。おいくらですか?」
「お幾ら‥‥ああ、外からいらっしゃいましたか。市民証を拝見させて頂いて宜しいですか?」
安全確認のために、市民証を確認するらしい。
――フゥン
金色に輝いてる市民証を見せると、受付の男性が椅子から飛び上がるように立つ。
「こ、これは失礼を。お代は結構ですので、どうぞごゆっくり滞在して下さい」
「それは困る。無料で寛ぐのは無理だから、金額を教えて下さい」
キッパリと告げると、受付も諦めたらしい。
「で、では、一晩二食付きで銀貨六枚です。それでお願い致します」
「では五日分前渡しで、これでお願いします」
金貨を三枚手渡すと、侍女がマチュアを部屋に案内した。
「で、では。ごゆっくりどうぞ‥‥」
侍女が居なくなったのを確認して、マチュアは窓から外を確認する。
街道沿いの部屋なので、街の中をある程度見通すことができた。
「ゼノン教会はこの街道の先のあれか。明日の朝一で行ってみますか」
『それが宜しいかと。あんなに買い物に時間かけなければ、今日にも行けたはずなのにこの人は全く‥‥』
「はいはい。でも、あそこまで素晴らしい食材が並んでいたら、買わなければダメでしょう?」
とりあえず笑って誤魔化す。
「ツヴァイ、ちょっとエンジで実体化してくれ」
――ヒュンッ
一瞬でエンジの姿となり影から出てくる。
「魔力カットして‥‥出来てるよなぁ。市民証はある?」
そう問いかける。
――ヒュンッ
と出そうとするが、カードらしきものは全く出てこない。
『それは無理でしょう。マチュアがエンジになったら出るでしょうけれど、私では無理に決まってますよ。擬似的な魂ですから』
「確認の為‥‥まあ、いつも通り影でいいか。やばい結界や魔法探知を見かけたらすぐ近くに隠れて』
「了解しました」
――スッ
とツヴァイが影に隠れるのを確認すると、夕食の為に一旦酒場に向かう事にした。
そこそこに広い一階の酒場。
泊まり客が食事を取る場所にもなっているので、作りは広くなっているようだ。
そこのカウンター席に座ると、マチュアは中にいる店員に食事を頼み込んだ。
「少しお腹が減っているので、多めにお願いしますね」
「はいかしこまりました。少々お待ちください」
奥にある厨房にオーダーが通ったのを確認すると、マチュアは店内をグルリと見渡す。
そこそこに客はいるので繁盛はしているのだろうが、入国があれだけ厳しいのに何故人が居るのか疑問であった。
「あの、ちょっと聞いて良いですか? ここにいるお客さんですが」
「ああ、お客様は、最近ここにいらしたのですね?」
そう和やかに話を始める。
「はい。あれだけ入国審査が厳しいのに、宿屋などはやっていけるのかと」
「はっはっ。大抵の宿は常連さんでなんとかなっていますよ。一度でも住民証を手に入れられれば、出入りは自由ですので。それに宿が無料になる程のクラスの方はそうそういらっしゃらないですよ。住民証がAクラスでない限りは多少なりとも支払いは発生しますし、お酒などは有料ですからねぇ」
丁寧に説明してくれる。
なるほど、言われると納得するシステムだ。
確かに、身分が保証されていれば、商人などは安定した仕事ができる。
特にこのような土地では、食材や生活用品などは高く売れるのであろう。
「宿を自宅がわりに使っている商人なども一杯いらっしゃいますよ。当店のお客様も三分の一はそのような方ですし」
――カチャッ
会話の最中に食事が運ばれてきたので、暫し食事を楽しむマチュア。
時折酒場に巡回の騎士がやって来るが、店員と軽く話をする程度で特に聞き込みなどもない。
入国審査で中に入れる者を厳重に制限しているので、それ程問題は起きていないのだろう。
だが。
「うん。すごく平和。なんか面白くない」
「はははっ。お嬢ちゃんはこの国に刺激を求めてきたのかな?」
近くに座っていた老人が、不満を告げているマチュアに話しかけて来る。
「何か、何もかも管理された国って、味気ないというか何というか」
「ゼオン教の教えじゃよ。争いのない平和な国を作る為には、選ばれた者によって、選ばれた者を管理統治する。城塞の中は争いのない平和な国となるのじゃよ」
長く伸びた白い顎髭を撫でながら、そう説明してくれる。
「でも、城塞の外にいる人達はどうなるのでしょうか?彼らもこの国の民ではないのですか?」
「彼らもこの国の民じゃよ。だが、努力が足りないのじゃ。城塞の外は体と魂の両方を鍛える場であり、それが認められた者はこの城塞の中に招かれる。努力なくして安定はないのじゃよ?」
ホッホッホと笑いながら自分の席に戻っていくと、老人は静かに酒を飲み始めた。
「‥‥明日はゼオン教会に行ってみますか」
食事も終わり自室に戻ると、いつもよりセキュリティを強く設定してマチュアは眠りについた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日早朝。
少し早めの食事を取り終わると、マチュアは都市の中央にあるゼオン教会へと向かった。
都市の彼方此方を無料の巡回馬車が走り、住民なら誰でも無料で乗る事が出来る。
街の中にいるという事は住民であるという事らしく、特に確認もされずに教会へとやって来る事が出来た。
「この巡回馬車は良いと思うなぁ。巡回路面電車みたいだし」
巨大な正門から入ると、その奥にある大聖堂へとやってきた。
間も無く朝の礼拝が始まるらしく、かなり大勢の人々が集まっている。
――カラーンカラーン
と鐘の音が鳴り響くと、司祭らしき男性がやってきて、静かに話を始めた。
シュトラーゼ公国は、唯一神である『ゼオン』によって選ばれた国である。
公国を統治している大公は、ゼオン教団の枢機卿達によって選ばれた者である。
枢機卿達はゼオンから言葉を聞き、それをこの地上で代行している。いわば『神の代行者』である。
それ故、神に最も近い位置にいる公国民となるには、常に己を切磋琢磨しなければならない。
それ故、公国民は他国の者達よりも優れた民族である。
弱者を救済し、彼らを従え、導いて行くことこそが、公国民に課せられた使命である。
延々とそれらの説法が続けられると、壇上で二人の男性が洗礼を受け始める。
声はよくわからないが、『祝福』の魔法を施したのは理解できる。
そうして朝の祈りが終わると、人々は順番に司祭の元に赴くと、直接加護を受けて教会を後にする。
マチュアは一部始終を眺めながら、先程の説法を思い出す。
「あー、言葉の繋ぎ方と後ろから流れる静かなパイプオルガンの音色。そして何の事はない祝福。一種の集団催眠か」
そう小声で呟いて立ち上がると、教会を後にしようとした。
――カツカツカツカツ
ふと外に向かう階段を降りると、昨日マチュアに声を掛けた騎士とバッタリと出会う。
その背後では、ちょっと小太りの貴族が階段を上がってくるところであった。
「君。昨日の商人だね。カノッサ卿、この商人があの空飛ぶ箒の所有者です」
目の前の騎士が大声でマチュアを指差し叫ぶ。
「ほう。初めまして。カノッサ・ゲーブルという。貴殿が空飛ぶ箒の所有者かな?」
そう問いかけながら丁寧に頭を下げたカノッサ。
ならばとマチュアも頭を下げて挨拶をする。
礼には礼を返す。
「これはご丁寧にありがとうございます。旅商人のマチュアと申します。確かに私は空飛ぶ箒を持っていますが、今の所売る気はないのです。申し訳ございません」
と返事を返してみたが。
「うううーむ、そうか。ならちょっとだけ頼みがある。今、目の前で飛んでくれるか? 出来るなら後ろに乗せてほしいのだが」
心なしかワクワクしながら、また頭を下げた。
「は、はぁ。では」
まあいっか。
ということでマチュアは箒を取り出すと、それを宙に浮かべて横に座る。
「こちらに跨って下さい。横坐りは技術がいりますので」
「こ、ここじゃな‥‥」
カノッサが跨るのを確認すると、少し高度を上げて、ゆっくりと教会の周囲を一周した。
――フワッ
ゆっくりと着地すると、カノッサが歓喜に震えていた。
「こ、これは欲しいのう‥‥頼みがあるのじゃが」
「先程も説明した通り、お売りすることは出来ませんよ?」
「いや、た、たまにで良いから、今日のように少しだけ乗せて欲しいのじゃが、駄目かのう?」
モジモジとしているカノッサ。
予想外にこの貴族は紳士的である。
と言うよりも子供のようにも感じる。
「まあ、私が暇な時でしたら構いませんよ?」
「そ、その時は是非、私の妻も乗せてほしいのじゃが。やはり童話の中でしか見た事がない魔道具が存在していて、実際に乗せて貰えるというのは感動モノじゃな。では礼拝に遅れるのでこれで。ありがとうな」
再び礼を告げていそいそと走っていく。
「昨日は大変でしたよ。あの方、駄々をこねると食事も摂らないので‥‥ではこれで」
騎士も走って上がっていく。
「予想外にまともな貴族だなぁ。権力フルパワーの貴族ばっかりだから、たまにはああいう貴族と話をするのも新鮮だわ」
ポリポリと頬を掻いていると、周囲で今の光景を見ていたらしい人々が好奇の目でマチュアを見ている。
「あー、こりゃあれか。出来れば私達ものパターンか。こりゃ今日はこれ以上は駄目だな‥‥」
仕方なく聞き込みを諦めると、バックに箒を放り込んで、大型の絨毯を取り出す。
――ファサッ
勢い良く広げた絨毯の前の方にのると、フワッと絨毯を浮かべた。
――オオオオオーーーーッ
周囲から歓声が湧き上がると、マチュアは近くの人達に一言。
「今日は特別ですよ。一度に5名なら乗れますので、順番にどうぞ」
と手招きする。
いざ乗れるとなると、大人達は少し下がってどうしようか考えている。
が、子供達は別。
ワーッと集まってくると、彼方此方から乗ろうとしている。
「こらこら、ここからだよ。みんな並んでね、順番に」
そうマチュアが軽く嗜めると、子供達はちゃんと並んでゆっくりと乗る。
そこからは先程と同じく教会の周りを周遊する。
二周して並んでいる次の子供達と交代すると、マチュアは10回ほど周遊する事になった。
日が暮れはじめたので、マチュアは周遊を終了する。
まだ乗りたいという子供達についても丁寧に断りを入れると、一旦宿に戻る事にした。
酒場の奥に席を取ると、バッグを足元に置いてしばし夕食タイム。
ある程度食べ終えて、後はのんびりとしていると、ふとマチュアはツヴァイに念話で話しかける。
「しっかし疲れるわ〜。なんでこうなった?」
『さあ?お人好しが身を滅ぼしただけですよ』
「ツヴァイ言うねえ」
『全く。ああいうのは私に任せて調べ物を続ければよかったのですよ』
「あ、それもあり?」
『ええ。私は貴方の影なのですから』
呆れたような声で返事を返してくる。
「あ、そうか。で、少し教えて欲しいんだけど、あんた達ゴーレムの思考と精神パターンはどうなっているの?」
『マチュア様が私たちを作った時に決定しています。魂のスフィアの中に入っているマチュア様のデータが、私たちの疑似精神を決定しています』
そう説明を始める。
「ほう。そう言うことか」
『はい。ドライはエンジのような忍者特化型で、マチュア様の残忍性を強化された性格です。クイーンは同じく生真面目で社交性が強化されたもの、ファイズは戦闘力特化のお調子者。ゼクスは魔法特化の軟派者という感じですね」
なんか話を聞いていると赤面し始めるマチュア。
「なら、あんたは?」
『私はマチュア様のコピー、影ですので。ですからマチュア様と同じ思考と精神パターンを持っていますし、他のゴーレムに対しての命令権と決定権も持っています』
「そっか。なら、もし私に何かあったら、あんた私になって頑張ってね」
『そうならないようにして下さいね。マチュア様をずっと演じるのは問題ないのですが、正直そうなると面倒臭いので』
「そこまでいうか?」
『ええ。と、アラート。殺気感知に反応、数は三名。この部屋に近づいてきてきます』
突然ツヴァイが危険信号を発すると、マチュアも素早く『高機動戦闘』を発動する。
――コンコン
『失礼します。下の酒場に、マチュア様と会いたいというお客様がいらしていますが』
艶のある丁寧な女性の声。
ならばと、マチュアは扉に近づく。
「ありがとうございます。では、急ぎ準備をして向かいますと伝えて下さいね」
そう扉越しに告げた瞬間
――バンッ
と勢い良く扉が蹴破られ、3人の人物が飛び込んでくる。
覆面で顔を隠し、黒っぽい革鎧を身につけている三名は、すぐさまマチュアの左右と正面に回り込むと、逆手に持ったダガーを構えた!!
「ちょ、ちょっと待って下さい!!貴方たちは一体?」
敢えて慌てた風に叫ぶ。
だが、三人は何も語らずに攻撃を仕掛けてきた。
――ヒュッ、ヒュンッ
刃の部分には毒が塗られているのだろう、緑色の粘液が刃を振る度に彼方此方に飛散する。
それが、以前マチュアを襲撃した者達が使っていたものと理解するには、それほど時間は掛からなかった。
「無駄口は喋らないと言うところですかー」
軽口を叩きながら必死に避けている。
ほんの少しでも掠めたら致命傷に繋がることを十分に理解している。
(これは参った。高速詠唱のタイミングまで見破られているわ。となると、近接で行くしかないのかー)
「‥‥…」
無言で攻撃を続けているのなら、敢えてその土俵に上がるとしよう。
――ガギッ‥‥プシュッ
一人の攻撃に対して、後ろではなく前に出てワイズマンナックルで受け流す。
そしてガラ空きになった胴体に向かって双掌打を入れると、二人目の攻撃を素早く躱す。
――ヒュッ
三位一体の攻撃は、一人が崩れると立て直しに時間が掛かる。
「‥‥…」
それでも黙々と攻撃を続けてくるが、やがて三人同時にスッと消えた。
「ふう‥‥ツヴァイ、周囲の安全確認。私は魔障の浄化に入るわ」
『浄化?まさか攻撃を受けていたのですか?』
薄っすらと血が流れている拳に手を当てると、魔法で体内の魔障を浄化する。
傷口から黒い霧が吹き出すと、その後ドロリと緑色の液体が溢れた。
「掠めただけだよ。受け止める時に、あいつ攻撃の軌跡を僅かにずらしてきたわ。ありゃ戦い慣れしている、いくらチートスキルやステータスでも、経験に基づく動きは追いかけられないわ」
そう呟くと、マチュアは部屋の隅に移動する。
深淵の書庫を起動すると、今日はその中でゆっくりと身体を休める事にした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






