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視界ジャック2.選ばれし者よ

 ドラゴンプラネット用語辞典

 ドラゴン

 タイトルにもあるドラゴン。彼らは各惑星の原生生物ではない。4つの惑星の近くに浮かぶ星、ドラゴンプラネットからやってくるのだ。

 その方法は多岐に渡る。各惑星の研究機関や企業が研究や商売の為に持ち帰ったものが野生化したりなどが主な渡来原因だ。

 プレイヤーはこのドラゴンを倒し、惑星の生態系を守らねばならない。

 都煉那の競技人生は退屈に満ちていた。

 体を動かすことが好きで、昔からかけっこで負けたことはなかった。保育園の頃には既に、小学校のジャングルジムを最上段まで登り切り、プールも中にヤクルトを投げ込みでもしないと水に入りたがらない同い年を後目に端から端まで泳ぎ切った。

 球技も好きで、あらゆる競技に挑戦した。サッカーをすれば一人で十人をドリブルで抜き、バットを握ればどんな打席でもホームランを打った。テニスをすればサーブだけで試合を制し、バスケをすれば自陣のゴールを守ってから一気に敵陣へ切り込んでダンクシュートを決めた。卓球をすれば卓越した手首のスナップと機敏な感覚で、返すことも叶わない回転のサーブを全く同じ姿勢から放った。

 これほどまでに強い選手である煉那なら、どのスポーツでも栄光は約束されたようなものである。だが、本人は異様に飢えていた。満たされなかったのだ。

 それは彼女が純粋なスポーツマンであったための悲劇だ。煉那は単に勝ち続けるだけでは満足できなかった。ヒリヒリするような記録争いを、自分を熱くするライバルの出現を望んでいた。

 だが、他の選手は彼女がさほど本気を出していない記録にすら手が届かない。世界記録が出る度に自分でも同じ記録に挑戦するが、何の苦労も無く突破してしまう。個人測定のため公式の記録では抜いてないが、まるで熱も感じないこの記録など乗せる気にもならなかった。

 そんな規格外の彼女についていけるチームメイトなど当然いない。どんなチームスポーツをしても、常に孤独と戦うことになる。

 それでありながら、周囲は彼女を一人にしようとしなかった。どんな競技でも味方に勝利を約束する『現代の黒船』。そんな煉那を利用して功績を上げたい指導者は後を絶たなかった。放っておいても勝利を収める選手は、功名心ばかり肥大化した無能な指導者にとって、砂漠での水ほど渇望する存在だった。

 そうした計算高い大人の狡賢さを目の当たりにしている煉那は、自分に言い寄る人間に距離を取る様になっていた。トラウマになるほどの衝撃的体験は無いが、だからこそ緩やかに、順調かつ強固に人間への不信が築かれた。淡水魚を海水に馴染ませる実験の様に信用できない、という環境に慣らされたのだ。

 そうして乾いた青春を送っていた煉那だったが、そこに異変が訪れる。それが倉木音夜、直江遊人の出現だった。

 圧倒的パワーを躊躇いなく発揮する音夜、そしてその制御に手を貸した遊人。その遊人が言い放ったある仮説が煉那に決意を促した。

 『人類はいつか、次なる故郷を目指して外宇宙に出る。その時、人類は現在の知能を保ちながら動物と張り合う筋力を得るだろう』

 もし自分の強すぎる力がその進化の片鱗だとしたら、いつかみんながここへたどり着き、この孤独から解放される日がくるのだろうか。

 友人のお見舞いに行った先で聞いたその仮説がどこまで本当か、試す価値はある。

 なにより、遊人を『面白い男』だと思った。アルビノという目に見えて他人と違うものを持ちながら、自分と違う誰かといようとする、みんなと同じでいられる彼。自分と同類かもしれない音夜よりも、そんな遊人が気になっていた。

 同類を求めた自分と、同類を必要としない遊人。この違いは何か。見極める必要があった。遊人を風船チャンバラ代表選手に導き、アドバイスを与えたのは彼を試しているからだ。煉那も知っているが、あの運動能力でクラス代表は荷が重い。しかし、無茶にどう対応するかで人間性が現れるものだ。

 煉那はまだ、あまり心から人を信じられていない。


 夕方 岡崎某所 交差点


 「早くしろよ……」

 岡崎の大通り、男はスピードの上がらない愛車にイライラしていた。男は警察に追われ、道路を逃走していた。先日の無人車と異なり、道路内には一般の車が残っており危険な状態だった。

 「クソ、なんで今警察が!」

 男はタブレットを口に放り込みながらアクセルを踏み込む。時速120キロという乗用車の限界まで出しても、危険ドラックをキメながら走る男には遅く感じた。車は交差点に入る。

 先日の暴走車の事件で、警察がまだパトロールをしていたのだ。それを知らず、男はのうのうとドライブしていてパトカーを発見、一人でパニックになっていたのだ。

 信号は赤だが、男は気にせず進んだ。目の前に小学生が歩いていたが、男は人がいたら轢けばいいとさえ考えていた。特に何も考えず、当たり前に小学生を轢こうとした時、目の前に何かが飛び出した。

 「なんだ?」

 ブレーキを踏んだ覚えもないのに、車が停止する。急停止して男は前につんのめり、ハンドルに頭を打つ。シートベルトをしてなかったが、幸い車外に投げ出されなかった。

 「うおっ!」

 ハンドルに強打した頭からは血が流れていた。車検をしていないこの車は、搭載していたエアバックが壊れていた。頭を打ったにも関わらず、男は痛みを感じなかった。これもドラッグの作用だ。

 「なんだ?」

 男が前を見ると、小学生の前にブレザーの女子高生が立っていた。そして、女子高生が車を片手で受け止めていた。男がアクセルを踏んでも、タイヤがぬかるみにでもハマったかの様に空転するばかりで車は進まない。

 男はこの女子高生を倉木音夜と知らなくても、この異常なパワーを目の当たりにした瞬間に逃げるべきだった。それを、抵抗という最悪の選択をしてしまった。所詮、薬漬けの頭で処理できる情報など無いということだ。

 「……」

 音夜の瞳は、怒りに満ちていた。クラスメイトが切り裂き魔に襲われたという怒りをぶつける最適の場所を見つけ、誰にも止められなくなっていた。要はストレス発散である。

 音夜は右の拳を振り上げ、車のボンネットに振り下ろした。その瞬間、車内が前のめりに傾いた。ボンネットがへこみ、車体が歪んだのだ。

 「な……」

 薬で鈍っていた男の恐怖心が蘇る。音夜は歪んで開けにくいはずのボンネットを、ロックを引きちぎりながら開き、車体から外して捨てた。これらの動作は、ダンボールでもちぎるかの様に容易く行われた。ただし、音は金属が軋むそれだ。

 「ひ……ヒィ!」

 男はアクセルを踏む。手を車から離した今なら走れると考えたのだ。しかし、瞬時にエンジンへグーパンチが決まり、車は動けなくなった。音夜はエンジンをもぎ取ると、外に捨てた。これでエンジンルームに空間が出来た。

 逃げようとした男だったが、音夜が車の周りを回ってあることをしたので扉は一つも開かなかった。

 「あ、開かねぇ!」

 なんと扉と車体の境目を握り込み、具を包んだパン生地の口を閉める様に扉を閉ざしてしまった。全くとっかかりのない車のボディにこんな真似をするなど、どんな力なのか。男は恐怖のあまり失禁していた。

 危険ドラッグの中毒者は恐怖心や痛覚が無いため、威嚇射撃では止まらないことが米国でも問題視されているが、その中毒者が失禁するということがなにを示すのか。細身の女子高生が車を容易く破壊する、この光景を見れば理由もわかる。

 現場の凄惨さに、野次馬もツイッターで拡散するためにスマホのカメラを向けることができない。思考が追いつかないのだ。

 エンジンルームには廃熱用の隙間があり、エンジンを取り除くと車体の下の地面が見える。空白となったエンジンルームに音夜が入り、内側からフロント部分をちぎった。ブツン、という金属が無理に引きちぎられる誰も聞いたことがない音が響いた。

 後輪もボルトが付いたまま、強引に外された。車に足を引っかけてタイヤを引く、それだけで簡単にタイヤが取れてしまう。音夜は物足りないのか、ホイールを外したタイヤを両手で引っ張り、真っ二つに裂いた。

 警察が現場に辿り着いた時には、現場には車の残骸と失神した男しか残っていなかったという。


 倉木音夜は現在のぼんやりした様子が信じられないほど荒れていた時期があった。この様子はまさにその時の一端に過ぎない。

 遊人に会う前の音夜にとって、ガラスの瓶は元よりスチールの缶すら生卵の様なものだった。彼女の孤独は、煉那の様に自ら周りから離れていった結果ではない。強すぎる力を恐れた人々が彼女を避けたのだ。生まれつき強い力が、音夜の単純な性格によって心身相関のブーストを受けた結果がこれだ。

 その性格が災いして『この力は制御できない』と思い込んで苦労したものの、また単純さが幸いして制御にも成功したのだが。

 音夜は生まれつき以上に力が強かった。彼女の実家では、赤子が一定の年齢に達したら一升のもち米から出来た餅を背負わせる行事があった。十分に成熟して生まれた子供でもこれを背負って立てるものは少ない。だが、出生体重千八百キロ代の未熟児で生まれた音夜はこれを難なく成し遂げた。

 彼女の両親は、じゃれついてきた音夜に突き飛ばされて負傷した。その時から、本気を出せば人の命を奪うことは可能だった。

 あまりに力が強く、音夜が優しく遊んでいるつもりでも周りの子供達は数メートル突き飛ばされたりして危険が伴った。おしくらまんじゅうなどすれば全員が四方に飛ばされてしまうほどだった。

 その強すぎる力を恐れ、両親は彼女から逃げた。友人も音夜を化け物扱いして迫害した。少しやり返せば大怪我する者が出て、周りの大人から糾弾された。どんなに手加減しても、相手を傷つけてしまう。

 自分は人間ではないのか、試しにコンクリートの壁を殴ったら流石に自分の拳が折れた。これで安堵したのもつかの間、本来完治に数か月と長いリハビリを要するその傷は数日のうちに治ってしまった。後遺症も全くなく。

 遊人との制御練習で発覚したことだが、この高いパワーには複数の原因があるらしい。簡単に説明すれば進化の入り口、突然変異である。他の人類と異なり、音夜の筋肉や骨を構成する物質が上質なのだ。なので、他の人より強いパワーが出る。程度は違えど、同じ問題が煉那の体にも起きていると考えていい。

 他にも音夜は異常に回復力が高かったり、パワーを抑えるリミッターが無かったりと原因は多い。これ以上について語ると学会に提出できるレベルの書類が必要になるので割愛しよう。

 そんな事情など知らぬ周りから避けられ、音夜は孤独の中を生きていた。脱力感を覚えるこの性格は、いくら努力しても抑えられない自身の力への諦めでもあった。周りから化け物と罵られるたびに、単純な性格の音夜は自分を化け物だと思い込んでいった。それがなお、音夜の力に限界を無くした。

 遊人や自分を人間として扱ってくれる存在に出会えて、音夜はその力を守ることに使えるようになった。出現が早すぎた進化した人類は、進化の存在を知る者と相応しい時まで、可能性を守っていく。


 岡崎市 某墓地


 「楠木渚。これもよい機会だからきたよ」

 宵越新聞の記者、真田総一郎は病院を訪れたあと、楠木渚の墓参りに来た。市民病院に行ったことで、渚のことを懐かしんだので寄ってみたのだ。

 楠木渚は総一郎の妻、真田理名の年が離れた友人であった。理名もまた入院が多いため、渚や遊人とも面識があった。渚の死後、数年後に妻の理名も他界した。総一郎は男手一つで娘の理架を育ててるのだ。

 宵越新聞にいるのも給料がいいから以外に理由はない。総一郎が転職によって入社した頃には給料の良さと安定性から人気があり、高学歴の就職希望者が集まった。今と違い大学など一部の資金と学力があった者だけが入れた時代、腐っても高学歴ということもあり、作られる記事はそれなりに多少マシだった。また、当時入社した記者の多くが学生運動に参加し、一般企業が採用を避けたところを宵越が囲った形でもあった。

 しかし、そこで働いていた社員の子供がコネで入社するようになると記事のレベルは一気に落ちた。一世が実力で入社出来たのに対し、その子供は血縁での入社なので当然だ。

 総一郎が転職できたのは、彼がスポーツでも政治でも一定レベルの記事を書ける逸材故に、コネ入社組の低レベルを補う役割が期待されたからだ。

 総一郎は、渚の墓前で近況を報告する。渚の発明は、彼女の幼馴染が完成させている。自身の余命を察し、天才の思い付きを凡人にも実現できる場所まで持ってきておいた、渚の先見が優れていたのもあったのだが。

 「君が遺したフルダイブシステム。緋色君が受け継いで、形にしているそうだ。喜んでほしい」

 「え? フルダイブシステムって渚が考えたのか?」

 総一郎の背中に声をかける者がいた。そこにいたのは、白髪の高校生。制服のブレザーの下にパーカーを着て、そのフードを深く被っている。

 「直江、遊人くん、いや、松永優くんだったな……」

 「そういえばそんな名前でしたね」

 遊人は昔の名前で呼ばれ、それを思い出す。愛花の弟となった時に、名前を変えたのだ。家庭裁判所まで通して面倒な手続きを踏み、愛花の父が名前を変えた理由は知らない。だが、別に『遊くん』でいままで通り呼ばれるからいいかと遊人は気にしていなかった。

 「それより、フルダイブは渚が作ったって本当ですか?」

 「本当だ。幼馴染の大川緋色くんが会社を立ち上げて完成させたよ」

 「会社、ねえ」

 遊人はフルダイブについて、詳しく聞いた。今自分が遊んでいるゲームに、そのシステムが使われている。本来有り得ないはずの性別反転アバターを掴まされた件に関係があるかもしれないのだ。

 「あのゲーム、詳しく調べる必要があるな。他の奴が渚の設計図をそのままで作っていたりしたら、俺の脳波見つけた瞬間作動するプログラムが残っていても気づかないでリリースしてそうだ」

 「なにかあったのかね?」

 遊人がいろいろ呟いているのを、総一郎は聞いていた。遊人はゲーマーであり、遅かれ早かれドラゴンプラネットには触れた。それを見越した渚がなにか仕掛けている可能性があった。総一郎は、遊人が今まさにそれに直面していると思ったのだ。

 「いやですね、フルダイブシステムを使ったゲーム、本来なら実際の性別と異なる性別のアバターは使えないはずなんですが、俺に渡されたアバターが……」

 遊人の言葉を聞き、総一郎は事情を察した。最初は単にゲームのエラーだと考えてたものが、渚の名前が出されたことで何らかのメッセージに見えてしまっているのだろう。

 「天才の思い付きを、我々が理解するのは無理だろう。その天才がいるなら、まだ糸口も掴めるがね」

 若くして死んだ天才、楠木渚。その意思が遊人をどこへ導こうとしているのか。総一郎にはわからない。せめて遊人がそれを探ろうとして道に迷わないようにするのが手一杯だ。

 「さて、俺は気が向いてたまたま来ただけですし、帰ります。姉ちゃんも湿っぽいことは嫌いだし」

 「そうか」

 直江遊人は、墓地を立ち去った。はたして、墨炎と渚は関係があるのか。それとも単なる事故か。

 ドラゴンプラネット用語辞典

 プレイヤー

 あなた自身です。それ以外の設定は無いので、宇宙移民の子孫だとか先住民の誇り高き戦士とか勝手に想像して楽しんでください。二次創作大歓迎!

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