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視界ジャック2.運命の岐路

 新聞の記事

 『暴走車両! 国民の生活は?』

 本日未明、東京から静岡にかけて無人走行を続ける車両が目撃された。警察が追ったものの、途中で逃がすという有様だ。

 現在、自動車産業のトップシェアは愛知県に本社を置く『トモタ自動車』。暴走車の車種はわからないが、シェアの多さから暴走車がトモタの車である確率は高い。

 トモタ自動車は先日も自動ブレーキのリコールなど問題が発覚しており、業界第二位の凍空自動車へ首位を譲り渡す日も近い。

 (宵越経済新聞の記事)

 夕方 岡崎市 市民病院


 「夢……?」

 市民病院の病室で、一人の少女が目を覚ました。茶色の髪をした、どうも人種的に日本人ではないらしき少女。昨日、愛花らに救助されたパワードスーツの装着者だ。ピンクのパジャマに着替えさせられており、背中まである髪はゴムで適当に纏められていた。

 「なんだったんだ、あれは」

 少女は起き上がると、辺りを見渡す。身体に巻かれた包帯を見て、疑問を感じていた。これは自分の知っている手当ではない、表情が暗にそう語っていた。

 病室は個室で、彼女の他に誰もいない。

 「これは……私は回収されていないのか」

 起き上がろうとすると、身体が痛む。一応、身体のあちこちの骨にひびが入っていたり、打撲の傷があったりするのだ。

 ベッドの枕元、その付近の壁には、患者の名前を示すネームプレートが付けられていた。

 そこには、『足柄霞』と彼女に見覚えの無い名前が書かれていた。

 少女、足柄霞は痛む身体を引きずって、病室を出た。名前に何一つ疑問を持つことなく。


 (まずはここがどこであるか知らないといけない)

 霞は宛てもなく歩いていた。まず、自分のいる場所を調べたかった。人の多い場所へ向かって歩いていき、状況を掴もうとする。

 「使われている言語は日本語か。ということは、ここは奴らの領域内か」

 彼女は歩く内に、自然と売店にいた。病院内の売店は買い物が出来る唯一の場所ということもあり、人が多かった。

 (いや、しかしこの潤沢な嗜好品。奴らはユグドラシルに逆らい、物資が滞っているはずだ)

 霞が見つめているのは、店に並べられたお菓子の数々。それを見ていると、売店のおばちゃんが声を掛けてきた。

 「何かお探しかね? 見ない顔だけど、入院は初めて?」

 「ニューイン? new in?」

 霞は聞き慣れない単語に困惑する。その様子をみたおばちゃんは、心配そうだった。入院しているのに入院という単語を知らない様な反応をされれば、当然だろう。

 「大丈夫かね? 頭打ってない?」

 「いや、私に支給された『quintet03』は軽量型だがヘルメットの強固さなら重装型にヒケを取らない。航空機から落ちても脳震盪さえ起きない、ましてや記憶障害など……」

 「いろいろ大変だろうけど、短く済むことを祈るよ」

 意味不明なことを話す彼女に、おばちゃんは売店のレジ付近の壁に掛けられた写真を見つつ、話した。フレームに入れられており、古い写真らしい。写真には一人の少女と、白髪の男の子が写っていた。少女は霞と同い年くらい。男の子は少女より年下みたいで、まだ幼かった。

 せっかくなので、霞はおばちゃんにいろいろ聞いてみることにした。

 「ここはどこ?」

 「本当に大丈夫かい? ここは岡崎市民病院だよ」

 市民病院、という場所なのはわかった。だが、彼女には自分がどれほど気を失っていたのかわからなかった。

 「今は何日なんだ?」

 「カレンダー見ればわかるだろうけど、今日は……」

 日にちを聞いて、おばちゃんに言われた通り、写真の隣に掛けられた日めくりカレンダーを見る。そこには今日の日付と、今年の年号が書かれていた。

 「2017年? そういうことか」

 霞はそれで、今まで疑問に思っていたこと全てに合点がいったようだった。

 「足柄霞さんですね? 渡すものがあります」

 そこに、一人の警察官が現れた。若い男性のようだ。その警察官は何かを霞に差し出した。

 それは、革製カバーが付けられたスマートフォンだった。警察が彼女を振り落とした車から回収し、霞の持ち物ではないかと思って持ってきたものだ。

 「これは? なんだこの旧式の端末は」

 霞はスマートフォンを手に取り、画面に触れた。すると、ロックが掛かっているのか

、パスコードの入力を求められた。

 それともう一つ、渡されたものがあった。それは彼女が発見された時に着けていたベルトのバックルだった。ベルトの帯部分は無く、バックルと言うには大きな機械であった。中央には何かを装填するスロットがあり、そこには手のひらサイズの、ゲームボーイのカセットに似た物体が入っていた。

 霞は、それを取り外して確認する。

 「多分あなたの物でしょうから、渡しておきます。あ、事情聞きますんで、少し待っていて下さい」

 そう言うと、警察官は去っていった。とりあえず霞は、このスマホを調べることにした。

 (これを使えば連絡が取れるか?)

 彼女は人気の無い所でやろうと、売店を後にした。外に出て向かったのは、病院の裏手である。

 「暗証番号……」

 霞は直感に任せ、数字を入力する。すると、スマートフォンは起動した。この番号に違いないと、確信が持てたのだ。入れた数字は『0214』だった。

 「やはりこれか、感傷的な奴らだ。だがこれで助けを呼べる」

 彼女はスマートフォンで電話を掛ける。電話帳に登録されていなかったのか、テンキーで電話番号を入力してのコールだった。

 「これでよし」

 『現在、この番号は使われていないか、電波の届かない場所にいます』

 安堵した霞を、無慈悲な電子音が襲う。彼女はそれでも平然としていた。

 「そうか。なら仕方ない」

 霞はスマホを操作し、何かを探した。だが、スマホには殆どアプリが入っていない。数少ないアプリの中に、『パラドクステスト1』というものがあったので彼女は起動させてみた。どうやら、文字を読むだけのアプリみたいだった。

 「これはなんだ?」

 霞はスマホの画面に広がった文字を読む。画面をスライドさせると、膨大な量の文字が書かれていることがわかる。再び先頭へ戻し、頭から文字を読む。

 『5月23日PM6時28分。岡崎市内で切り裂き魔による襲撃が発生。被害者は……』

 「これは奴らの司令書か。ここにこの時間合流すればいいのか」

 霞はそのメモから何かを読み取った。そして、今後の行動を決めた。

 (助けを呼べないなら、合流する予定の奴らから移動手段を奪えばいい。事情とやらを聞かれる前に、この場所を確認しよう。当日になって、予想外の事態が起こるといけない)

 そして、彼女は歩き始めた。


 数十分後 岡崎市某所


 (着いた、が、目印も何も無い場所だな)

 霞は歩いて、スマホのメモにあった場所に来た。スマホには地図も入っており、来るだけなら問題は無かった。四月の気温は、パジャマで過ごすには肌寒い。

 「ここで何があるんだ?」

 病院からは近いものの、単なる住宅街の一角に過ぎず、霞も地図無しでは来られない場所だった。とりあえず、道と風景だけ覚えて帰ろうと辺りを見渡す。

 「ん?」

 その時、何処からか悲鳴らしき声が聞こえた。霞は何事かと、思い、声の方向へ向かった。

 すると、そこではレインコートの不審者がブレザーを着た女子高生を襲っていた。レインコートは手にナイフを持っている。女子高生は座り込んで動けなくなっていた。

 そして、レインコートは霞に気づくと、方向を変えて向かってきたではないか。

 「……」

 霞はそれを敵対行動と取り、バックルを黙って腰に当てた。すると、バックルからベルトの帯が伸びて、ベルトが自動的に腰へ巻かれた。

 レインコートは突然のことに動揺しているらしかった。そのままカセットを手に取り、行動を開始した。

 「変身」

 「何事だ!」

 霞がベルトを操作しようとした瞬間、足音と声が向かってきた。愛花が悲鳴を聞いて駆けつけたのだ。

 「んん? 見つけたけどこの状況は? とりあえず、警察だ!」

 愛花はよくわからない三つ巴に少し戸惑ったが、レインコートが刃物を持っているため警察であることを名乗る。

 「っく……警察は忙しかったはず!」

 レインコートはそのまま踵を返して逃走した。高い声だったのを、そこにいた全員が聞いていた。愛花は携帯で仲間に連絡する。

 「えー、こちら直江愛花。レインコートを着てナイフを持った不審者が逃走した!」

 そのまま、愛花は女子高生の保護に移った。霞は黙ってベルトを外す。バックルに帯が収納された。

 「大丈夫か?」

 「あ、はい。何とか」

 女子高生に怪我はなかった。だが、恐怖で腰を抜かしてしまったらしい。愛花はとりあえず、名前を聞いておいた。

 「名前は?」

 「藤井佐奈です」

 女子高生の名前は藤井佐奈。遊人のクラスメイトだ。

 「怪我無い?」

 「大丈夫です。あの人が来てくれたから、レインコートの人逃げちゃいましたし」

 佐奈が立ち尽くす霞の方を見た。愛花はそこで初めて霞を発見した。

 「お、なんだいたのか。家こっちの方なのか? すまんな、あと少し聞きたいことがある。少しだけ時間もらうぞ」

 霞は少し考えてから答えた。愛花は彼女を追ってここに来ていたのだ。彼女はぶっきらぼうな言い方ながら、それがかえって敬語と違って距離感を感じさせない。

 「いや、そうでも」

 霞はある程度正直に答えた。そこから、また考えながら話をする。

 「そうなのか?」

 「どうやら、病院で目を覚ます前のことが思い出せない。何があったんだ?」

 「頭打ってたからな」

 愛花も、霞が頭を負傷していたことを思い出す。記憶喪失の可能性がある。どこまで思い出せるか、聞いておく必要が出た。

 「名前と住所、言えるか?」

 「いや。あの名前は?」

 霞は、ベッドの枕元にあったネームプレートに書かれていた名前の由来を聞いた。警察ならば、何らかの理由があってあの名前を使っているはずだ。佐奈も、横からそう予想する。

 「いや、お前がしがみついていた車から発見された書類にその名前があった」

 愛花が言うには、霞がしがみついていた車の中に、その名前が使われた書類があったのだ。

 「それなんだけどさ、この話は病院行ってからしようか」

 愛花は話を打ち切り、霞と佐奈を病院に連れていくことにした。霞は当然のこと、佐奈も怪我が本当に無いか調べる必要がある。


 病室に戻った霞は、愛花から説明を受けていた。渡されたのは、クリアファイルに入れられた書類。

 「免許証と、パスポート、岡崎市の住民票だ」

 「これが車から……」

 書類の中には、免許証まであった。だが、免許証の写真は霞と似ても似つかぬ別人のものだった。ここから取ったのだから当然、名前こそ同じ『足柄霞』である。霞が茶髪なのに、写真の人物は黒髪だ。それに、霞より年上に見える。

 「この免許証、日本の優良運転者のものと似ているようで、少し違うんだ。見てみろ」

 愛花は、足柄霞の免許証に自分の免許証を並べる。こうして並べてみると、各枠の寸法などが微妙に異なることがわかる。

 「免許証番号も登録無し、明らかな偽造免許だ。その他の書類も同様だ」

 他の書類にも、免許証と同じ写真が使われていた。霞とは別人の写真だが、彼女の姓名がわからない以上はこの名前を仮に使ったのだ。

 「ま、記憶喪失なら仕方ない。思い出すまで待つさ。この写真の奴も見つからないしな。多分車両の状況からして投げ出されたんだろうけど」

 「そうか。私はこれからどうすればいい?」

 霞にとって、そこが問題だった。記憶を無くし、自分がどこから来たのかもわからない。どこを拠点に暮らすべきか、当面はそこが問題だった。愛花はそこも考えていた。

 「そうだな、退院までは病院だけど、その後はうちにでも来いよ。年齢も学生っぽいし、長篠高校に話通しているから学校行くし暇はしないだろ」

 「学校……?」

 霞は、首を傾げた。愛花は一つずつ説明する。こういうことに手慣れているのだろうか。

 「そ、学校。記憶無くしている間に勉強止めるわけにはいかんだろ? 戻ってからが大変だし。それに、なんか刺激があった方が記憶戻りやすいかもしれないじゃん」

 「そうか」

 霞も納得していた。話が纏まったが、佐奈を襲ったレインコートの正体がわからないでいた。

 (私が追っている切り裂き魔。そいつが遊人のクラスメイトを襲ったか。九州でも似たような事件があったし、もしや……)

 愛花ら警察は、何もノーヒントでレインコートの不審者、切り裂き魔を追っていたわけではない。そして、愛花には大体の見当が付いていたのだ。

 (遊人の近くにいる。が、霞のことも任せるしこれは言わなくてもいいか)

 家族の近くに逃走中の傷害犯がいる以上、捜査上の守秘義務があっても警告くらいはしたかった。だが、霞を任せた上にこれまで言うと遊人の負担が増える。愛花は切り裂き魔なら早期解決すればいいと踏んで、黙っておくことにした。

 霞も霞で、切り裂き魔について気になったことがあった。それは、スマホに入っていたメモについてだ。

 (このメモ、暗号かなんかだと思ったが、違うのか?)

 メモと似た内容の出来事が、目前で日にちこそ異なれど起きた。このスマホは一体、何だというのか。

 (気にしても無駄か)

 切り裂き魔は誰か、足柄霞は何者か。謎が謎を呼び、運命が拗れ始める。

 新聞の記事

 『今日の珍事件 暴走車? 無人で大阪まで走行』

 今日未明、暴走した自動車が無人で大阪まで走行したという奇妙な事件が起きた。半壊状態で安全運転を行い、大阪でも丁寧に駐車措置を行った上で停止したとのこと。

 高性能な自動運転機能を持つ車なのか。警察発表ではナンバーが登録されておらず、車種も不明とのこと。

 現代の技術を超えるマシン、きっとこの車はタイムマシンに違いない。そう思った方がロマンもある。

 (読切新聞のコラム)

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