3.俺のクラスメイト
長篠高校生徒名鑑
倉木音夜
1年11組10番
出身中学 関ヶ原中学校
得意科目 体育
苦手科目 基本五教科
好きなもの お昼寝、食べること
嫌いなもの 狭い場所、動物(むしろ動物に嫌われる)
特技 力仕事
???? (未開放項目)
性格 素直、非常に騙されやすい。
遊人の一言メモ
中学からの俺の知り合いだ。力は凄いんだが、頭は回らないな。スピードに関しても平均よりは早いが、典型的なパワーキャラだな。
ドラゴンプラネットオンライン ネクロフィアダークネス 物欲の坩堝たる天突く塔
暗闇の惑星において、屋内だけは明るく電気も点いていた。このショッピングモールを模したダンジョンもその一つだ。
服売り場は営業しているかのように整頓もされていた。このダンションは序盤のものだからか、明るいし床も穴が空いてなくて安心だ。ショッピングモール系ダンジョンの中にはガチの廃墟とかもあるらしい。そういうところでは抜ける床に気をつけないといけない。落ちたら下の階に戻されてしまう。
このダンジョンは地上からアクセス出来るだけ、まだ序盤っぽい優しさに溢れている。この辺りのダンジョンは地上に露出している建物なのに、地上部分の入り口が閉まっていて地下街を通って入らねばならない場所もある。酷い場合だと、地下からも地上からも入れず、他のダンジョンから渡り廊下を使って入るしかない場合さえあるんだとか。
「とぉおおおおっ!」
俺は寝るのも忘れて、ゲームに熱中していた。姉ちゃんに呼び出されて血を抜かれた後、帰って寝ようとしたらいつの間にかゲームをしていた。よくあることだ。
ゾンビに向けて剣を振るが、虚しくも虚空を凪ぐ一方だ。マネキンに移った視線をゾンビに直す。
後ろでは手に入れたアニマルフレンズ、ブルーバードがカメラを脚で掴んで飛び、見守っている。俺はこれでもゲーム実況者。撮影のテストも兼ねている。
さっきから攻撃を外し過ぎだ。このままでは数少ない実況『アイワナ』、『ラ・ムラーナ』突破者の実力が泣く。難易度高いゲームを失踪せずにやり切った腕、見せねばならない。
「何故当たらんのだ?」
ぼんやり立っているゾンビに再び剣を振る。今度は直撃して倒せた。この違いは何なんだ?
「うーん、運動は苦手だな」
このゲームはリアルの運動神経が反映される。健康のためにある程度体を鍛えていても、運動音痴の俺には少々難しい。
「とにかく練習あるのみか」
俺は先ほど、このダンジョンでドリンクバーを手に入れようとして失敗した。ゾンビのデブに吐瀉物をぶっかけられて、青少年の何かが危なくなったのだ。この可愛いアバターでは仕方あるまい。美少女に汚物を浴びせるとは、落とし前は付けねばなるまい。
「あのデブ、どう接近する? いや、まずは装備を整えるのが先か?」
ゲームを始めたばかりながら、やれることが意外と多い。まず、俺は手にしている鉄の剣を見る。これが初期装備の『アイアンソード』。地味だがずっしりと掛かる重みは、確かに鉄の剣だと思わさせる。
武器の威力が強ければ敵に攻撃を当てなければならない回数は減る。すなわち、戦闘時間が短縮される。
目の前に、衣料品店のマネキンが二体ほどケンケンしながらやってきた。あれも敵だ。俺は剣を構え、敵を見やる。
今年の流行りを着込んだこのマネキンは、『マネキンシャドウ』。名前からわかる通り、あの雑魚敵『シャドウ』の派生だ。それぞれコーディネートが異なる。雑魚にも差分みたいなグラがあるんだな。1体はフリルの付いた白いブラウスにハイウエストの黒いスカート、いいコーディネートだ。もう1体は小学生向けコーナーからでも抜け出してきたのか、デニムのハーフパンツにビビットカラーのシャツというザ・子供服。
「せいっ!」
俺はマネキンシャドウに向かって剣を振るう。最初に戦うマネキンはスカートの方。縦に振ったせいか、また外してしまう。いつの間にか視線に収めていた床から、再び目をマネキンに向ける。
マネキンは生意気にも、手からナイフを生やして攻撃を仕掛けてきた。ナイフによる刺突を避けよう。
「チッ!」
だが、思いの外刺突が早くて左肩にナイフが刺さってしまう。攻撃を認知した瞬間にナイフが刺さっていた。
いつだったが、有名なボクサー一家が長い棒の先端にグローブ付けて練習していたな。あの棒で突くと、チャンピオンクラスのパンチスピードになるとか言っていた。
あながち、嘘では無いようだ。突きは受けに回ると、意外と早く感じる。幸い、攻撃頻度は少ない。めげずに攻撃だ。
「オラ!」
今度は水平に斬る。直撃はしたが、一撃で倒すことは出来ない。マネキンシャドウが怯んだので、その隙に縦真っ二つにしてやる。
これでもマネキンは耐えた。今度は真っ直ぐに突きを放つ。敵が動かないなら、落ち着いて攻撃出来る。
「あれ?」
だが、突きはマネキンの脇腹をすり抜ける。店の奥へ向いていた視線を戻し、技を使うことにした。その瞬間、マネキンの左腕が少し引かれていることに気づいた。
来る。心臓が痛いくらい高鳴り、身体が熱くなる。マネキンは左腕から生えたナイフで突きを繰り出してきた。
「うおぉぉっ!」
全力で後方へ飛び退き、ナイフを回避しようとした。だが、ナイフが少し服をやぶくくらいに届き、冷や汗が吹き出す。
だが、それ以上はマネキンの腕が届かないのか、回避が成功した。即座に足へ力を込め、再度マネキンへ向かっていく。
「【ライジングスラッシュ】!」
剣が黄色に光り、マネキンを切り裂いた、かに思えた。直撃を貰ったマネキンは、まだ倒れない。体力が高いのか、武器が弱いのか。
隙を見せないため、俺は無言で左ストレートをマネキンの腹に叩き込む。これでようやくマネキンは青い光りに消えた。
「ふぅ」
俺は一息付いたが、まだ敵はいる。マネキンがもう一体いるのだ。子供服の方のマネキンだ。暇を持て余して怒ったのか、両手を伸ばしてコマみたいに回転しながら突撃してきた。
「おおっ?」
それに気づいた時には、頭が止まっていた。想定外の攻撃に思考が間に合わない。ボタン一つで避けられるなら、それを押している場面だ。だが、フルダイブゲームでは自分が動くしかない。ボタンを押すのと違い、このゲームでは回避したかったら方向や距離はおろか、前転なのかバックステップなのか方法まで自分で考えてする必要がある。
「うわぁっ!」
そうこうしている内にコマが直撃して吹っ飛ばされてしまった。このゲーム何が怖いって、この吹っ飛びだ。
いつものゲームならFPSでもカメラが固定されているから、吹っ飛んでも視界は一定。故に体勢を立て直した直後の行動を決めやすい。
だが、自分の目がイコールでカメラだと吹っ飛ばされた時に何がなんだかわからなくなる。
急いで起き上がると、目の前にマネキンはいなかった。音を聞くと、後ろから迫っているのがわかった。吹っ飛ばされた時に、向きが変わってしまったのだ。
「よっと」
一度わかれば、後は普通に避けるだけ。俺はコマを避けて、マネキンの回転が止まったところを確認した。
「やっぱ弱点狙わなきゃマズいか」
俺は、マネキンの背後に回る。マネキンの背中には、黒い物が付着していた。これがマネキンを操っていたシャドウだ。
「そいや!」
そのシャドウを二回ほど切り裂くと、マネキンは即座に停止した。青い光となって、マネキンは消えた。
マネキンからウインドウが出ているので、それに触れてアイテムを手に入れておく。手に入れたアイテムは、『フリルブラウス白』と『ホークアイカンバッチ』というアイテム。ブラウスはさておき、缶バッチは使えそうだ。未だに初期装備の地味なパーカーのままだし。俺はメニュー画面から缶バッチを取り出してみた。
「おお、これは!」
缶バッチの模様は、黒字に紅で書かれた、右向きの鷲のマークだった。翼には瞳孔が描かれている。それを見て、俺は驚嘆というか感動した。この手のエンブレムは、俺がロボットをカスタマイズするゲームで使っていた。俺のマークは仮面ライダーの悪役やファイト一発な製薬会社のような正面向きの禿鷲だし、目の位置は胸だ。
だが、似ているし当面はこれを使うか。俺は服の左胸に缶バッチを付けた。
オシャレも済んだし、攻撃についての話に戻すか。
先ほどの戦闘で俺がマネキンに当てた攻撃は、剣で3発。その間に4回攻撃されている。
敵を倒すために必要な攻撃回数が減れば、戦闘時間が減る。例えば攻撃頻度が20秒に1回の敵を倒すのに1分掛かれば、倒すまでに3回攻撃を受けることになる。これが20秒でさっくり倒せれば、1回の攻撃のみで済むのだ。
攻撃を受ける回数が減れば、受けるダメージも減らせるのは分かりきったことだ。
このゲームは割と自由度が高いから、腕でなんとか出来ないと思ったら武器強化してもいいかもな。あと防具。防御力は大事。
「よーし、やるぞ!」
始めたばかりのゲームはすべきことが多い。だからこそ、やる気が湧いてくる。今夜は寝ずのゲーム行脚だ!
翌日 長篠高校教室
「眠い」
徹夜明けの授業はキツイものがある。入学したての、4月中旬にもならないこの時期、授業らしい授業はやっていなかった。それが幸いだ。
昼前になってくると腹が減るな。今日弁当に詰めたのなんだけっけ?
昨日は大変、なんてものじゃなかった。姉ちゃんに呼び出されたかと思ったら、事故で怪我した奴の血が足りないからと、俺の貴重なAB型Rh−の血液を抜かれたのだ。
事故した奴の目はまだ覚めない。そいつの乗っていた半壊の自動車が、今自走して大阪方面へ向かっているらしい。どんな車だ。
どうやら、平成仮面ライダーやアイアンマンめいたパワードスーツを着て、車の屋根に乗っていたらしい。どんな事故だ。エイプリルフールはもう終わったぞ。
しかしあのパワードスーツ、単なるコスプレだったのか? 姉ちゃん達が助けた時にはベルトしか残っていなかったらしいし。妙に気になる。
廊下側の席で、俺は昨日の愚痴を心で零しながら、授業とも言えないものを聞いていた。
俺の通う学校は私立長篠高校。なんで矢作川の側にあるのに矢作高校とかじゃないんだ、とずっと気になっていたが、どうやらもともとは鉄砲で有名な戦いをした長篠に校舎があったらしい。お引越ししたのか。
「で、クラスごとの行動でどこ行きたいかって話だ」
担任の男性教師が黒板に文字を書いている。オリエンテーション合宿の中にある、クラスごとの自由行動でどこに行きたいか聞いているようだ。日の差さない場所ならどこでもいいさ。
私立、とはいえ教室がホワイトボードだったり、べらぼうに綺麗だったりするわけでもない。私立といえば高い学費で儲けて校舎が綺麗な印象があるが、現実は厳しい。掃除だって業者など雇っておらず、自分らがしないといけない。
あまり学費が高いと学生は来ないし、政府は公立ばかり優遇するし、そのくせ教育の内容に口を出すのは一人前にしやがる。口を出したきゃ金を出す、そんな当たり前のことも出来ないらしい。今の総理大臣、渦海首相は無能だな。
「ナンセンスだな」
他の私立ならいざ知れず、この長篠高校は俺みたいに事情あって学校に行けない子供の支援をしているのに、この冷遇はないだろう。
公立がしなきゃいけないのにしないことしてんだよここは。だれのケツ拭いてると思ってるんだ?
俺がここに入ったのも、紫外線に弱くても体育を免除してくれたり、今もしているが制服の中にパーカーを着てフード被ったりしてもよかったり、いろいろと融通が利くからだ。公立ではこうもいくまい。
席替えでは常に廊下側にしてくれるし、授業中にフード被っていられるし、先生の物分かりはいいし言うこと無いな。
名簿が離れている夏恋と知り合った切っ掛けの一つに、この席順がある。普通、入学したての頃は名簿が近い奴と仲良くなるもんだ。
うちの高校は名簿が男女混合で、夏恋は『上杉』だから3番目くらいなのだ。入学当初の席順は廊下側から一番、二番と並んでいく、お馴染みの方式。だから夏恋は席が廊下側にある。
『直江』の俺は本来なら順番通りにすると教室の真ん中くらいに来るだろう。それが特殊な配慮で廊下側に移動したため、夏恋と席が近かったのだ。
知り合いに斡旋される前から、知り合う土壌はあったというわけだ。夏恋と俺を引き合わせたのは、俺の中学時代の友人だ。
このクラスには一般枠の生徒もいるが、この学校の多くは何らかの事情を抱えている。俺としては詮索する気などないが。
そこそこ平均的に古い教室で行われているのは、オリエンテーション合宿の準備だ。クラスごとの自由行動で何処に行きたいか、だったな。
みんなクラスに馴染んでいないのか、中々意見を出す奴がいない。ポーカーで言うなら、相手の出方が分からなくて勝負に乗りも降りもできない状態ってやつか。
考えているフリをしながら、数人は出方を伺っているのだろう。このクラスでどれほど我を通していいのか、どんな意見なら受け入れられるのか、手応えがわからないと初手が打てない。
(静岡か……この空気で行き先ばかりか合宿の部屋割りとかも決めるのか。これだからクラスの初期ってダルいな)
膠着状態が続くため、クラスが成立した初期に行われる会議は長引く。これがかったるくて俺は嫌いだ。
つーか、係とかならまだしも級訓とかいういらんもんまでこの空気で決めされるとか文科相は正気か? 級訓なんて決めたって、何の役にも立たない。
普段なら様子を見つつ切り込むところだか、厄介なことに案が思いつかねぇ。静岡か……。
「じゃあ、ハマイン! ハマイン見に行こうぜ!」
そんな空気の中、真っ先に発言したのは、日に焼けた運動部員の男子、門田だ。教室の真ん中くらいにいる。
というかハマインって、浜名湖自動車学校か? なんかCMで教官らしきスーツの男が不細工な青いインコのぬいぐるみを肩に乗せているがな……。
俺と同じ思いか、それにツッコミを入れる人もいた。
「ハマインって、どこ見に行くんだよ」
その声の主は、学級長の三好雅。窓際にいるが、声が通るので聞こえやすい。
一見すると黒髪ショートカットの女子にしか見えないが、列記とした男子だ。この学校は学級役員に男子と女子一人ずつとかにしなくていいという、制限が無いため尚更ややこしい。
追い討ちをかけるように、この学校は制服すら男女で別れていない。ブレザーは共用だし、男子がスカートでも、女子がスラックスでもいい。融通効き過ぎである。そこがいいのだが。
他の学校みたいに学級長と副学級長が男女一人ずつなら、辛うじてわかるのにな。うちのクラスは雅が学級長、夏恋が副学級長だ。夏恋は胸あるけど、雅には無いから、そのルールならなんとか判別できる。でもルール無しじゃ推理しようがないぜ。
「CMのハマインがいるかだよ」
「ゆるキャラか! あれはCMでしょ」
門田のお目当は、やっぱりCMのインコ乗せた教官か。あれをゆるキャラと定義するのはアレな感じもするが、雅のツッコミも正確だ。
的確なツッコミを入れられた門田は、苦し紛れなのか何とか答えを苦心して捻り出す。
「岡崎自動車学校や上地とか平針とコース違うかもしれないだろ?」
「走れるわけじゃないだろ? 浜名湖まではいい線行ってたんだがな」
「そ、そうか」
とりあえず、浜名湖自動車学校の方は無しになったか。否定するばかりでなくフォローも忘れない雅は出来た上司だ。曲者ぞろいのクラスで学級長に選ばれるだけはある。
「ハマナコか……ところでハマナコってなんだ?」
地理に疎い俺は浜名湖を知らなかった。その発言にクラス中がズッコケた。そんなに驚くなよ。有名な食材があるわけでもなければ、ゲームに絡むわけでもない地理を俺が知るわけないだろ?
「あんたね……三ケ日みかんとか鰻あるでしょ? 料理人としてそこノーマークはどうなの?」
夏恋がみかんと鰻を例に挙げてきた。鰻って料理する機会無いしなぁ。ミカンはそのまま食べるのが一番美味しいし。
「あー、じゃあ遊人は静岡だったらどこ行きたいんだ?」
雅にそう聞かれても、俺は静岡と聞いてサイレントヒルしか思いつかないんだ。悪いな。みんなを異界に連れていくわけにはいかない。
「静岡かぁ……」
本当思いつかねぇな。家に籠るタイプだし、静岡と言われましてもねぇ。
「もうハマインしか思いつかないな。うん、ハマインに洗脳された」
「門田、遊人がハマインの尖兵になったぞ。責任取れ」
「俺が?」
さすがに雅も呆れたか。初っ端のハマインが全部持っていきやがる。門田も巻き添えだ。こいつのハマイン発言で全てハマインに染められた。
「ほら、静岡だったら今川義元関係のお城とかが……」
雅は学級長として、例を出してきた。そうだな、冷静に考えると静岡に結構行けそうな場所あるぞ。
「静岡……、ああ、バンダイのホビーセンターあるわ。戦隊とか仮面ライダーのオモチャ作ってるバンダイの本社だよ」
どうだ。俺も頑張れば案が捻り出せるんだ。ゲーム部門のバンダイナムコはクソゲー作るのを最後にして欲しいが、バンダイの方はお世話になっている。そこに門田がアイディアを重ねる。
「あ、じゃあ今川義元の城から戦隊ヒーローみたいにメカで発進するために免許取ろうぜ」
「折衷案!」
門田的には今まで上がった案の折衷案のつもりなんだろうが、それは合体事故っていうんだ。そこは雅も指摘を入れる。
「免許取るのに何ヶ月掛かると思って……」
違う、そこじゃない。城から発進ってことは城が二つに割れたりするんだぞ。文化財にしていい改造じゃない。
だんだんクラス感の緊張が解れたのか、冗談交じりに意見が出る様になってきた。門田はこういう空気を解すのが得意なタイプか。ムードメーカーは必要だな。
「全部自転車にしちゃえば免許いらないよな?」
「仮免まで取れば、二種免許か免許三年取った人乗せれば運転出来るって聞いたことあるよ」
「仮免運転中のプレートも前後にいるな」
確かに緊張は解けた。だが議論の方向があらぬ方へ向かっている。
「これ何とかしないと、本当に浜名湖自動車学校に行くことになりそうね……。あ、音夜また寝てる」
夏恋は俺たちの惨状に呆れたつつ、門田の後ろで寝ている女子を起こしにいく。グッスリ寝ているこの女子は、倉木音夜。俺と夏恋を引き合わせた、俺の中学時代からの友人だ。
「音夜、起きなさい」
夏恋に起こされた音夜は、授業が終わったと思ったのか立ち上がる。
「ん〜? 終わり?」
起きた彼女の表情はボンヤリしている。背の高い女子で、立ち上がると一気に大きくなって見える。身長は175くらいあったはずだ。
座っている時はそうでもないが、脚が長いからね。でも終わりじゃないんだ。本当に申し訳ない。
「あぁ、じゃあとりあえずレクリエーション大会のチーム分け決めるか……ついでに綱引き練習しよう」
行き先の会議がジョーク大会で頭打ちになったので、雅は切り替えてオリエンテーション合宿中に行われ レクリエーション大会のチーム分けに話を映した。
レクリエーション、それを聞いて俺はテンションが下がった。レクリエーションって大体は身体動かすものなんだよ。俺身体動かすの嫌い。
今から既に、老人ホームに入居して興味も無いレクリエーションを毎日やらされるのを想像してゲンナリするくらいにはな。老人ホームの様子はニュース映像とかで見たことあるけど、歌いながら手を叩いたりとかなんだよアレ。あんな下らないことしてるから余計に頭が老いるんじゃねーか?
「競技は何があるんだ?」
門田が競技内容を雅に確認した。何があるのかな。楽なの欲しいな。
「クラス対抗の綱引きと、クラスの代表者がする風船チャンバラ、リレーだな」
雅によると、クラス対抗の種目がある時点で楽はさせてもらえないようだな。ご愁傷様、俺。大縄跳びなら参加しないことで貢献出来るが、同じ紐を使う競技でも綱引きとか、人数が欲しい競技だな。
まぁ、でも一人ぐらい理由つけて休んでもいいような気はするが……。
「そうだ、佐奈は参加出来ないからみんな頑張れ」
俺がサボる口実を考えていると、先生からとんでもない爆弾が投下された。俺は脳内で黒焦げになった。一人休むってことは、余計に人数欲しいじゃん。
「佐奈? 藤井佐奈か?」
俺は教室の後ろを見やる。そこに申し訳なさそうにしていたのは文学少女という呼び方が似合いそうな黒髪を後ろで結んだ眼鏡の女子だった。
夏恋を高嶺の花とするなら、こちらは守ってあげたい系の女の子だ。系統の違う美少女、というわけか。
「佐奈ちゃんなら仕方ねぇな、俺が二人分頑張るよ」
門田は下心丸出しでそう言った。馬鹿な男子の典型だ。昨日のネフィが事務的にキス、というか回復の許可取ったのと比べるから、尚更下心が見える。
参加出来ないってことはクラス対抗の綱引きもダメかな。だったら丁度いい、あの仕事は佐奈に頼むか。
「そうか。綱引きも、ってなら頼みたいことがあるんだ」
「なんですか?」
佐奈は首を傾げた。そして、俺は雅にこう告げた。
「雅、この綱引きには必勝法がある」
運動場
俺たちは綱引き練習の為に、運動場まで出てきた。私立なだけあり、陸上のコースが敷かれた贅沢な運動場である。俺は音夜を連れて、サッカーゴールの前に立っていた。軽く動くだけなので、みんな制服であるブレザーの上着を脱いだだけで集まった。
陸上コースの内側に、体育で使う小さなサッカーコートがある。白線を引いただけの簡単なコートだ。
そのコート中央に円が書かれているが、その中にも円が書かれていて二重丸になっているため、円が某モンスターを入れて持ち歩くボールに見える。
「誰だよサッカーコートをポケモンフィールドにした奴は」
そんな体育委員会のお遊びはさて置き、このサッカーゴールは地面に固定されていない。重いものの、クラスで力を合わせれば運べるタイプのものだ。
ここに、俺と音夜、佐奈がいた。クラスメイト達は一歩下がって様子を見ている。
「佐奈にしてもらいたいのは、音夜の制御だ。これが俺たちの必勝法、音夜こそ勝利の女神だ」
「制御……ですか?」
俺は中学時代から、音夜の特殊な体質を目の当たりにしている。それをなんとかしてもらう役割を任せるつもりだ。
「何する気だ?」
雅は俺たちを怪訝そうに見て、聞いてきた。雅には『必勝法がある』と言っておいたが、綱引きではなかなかそんな物あるまい。予想が出来ないのは認める。
綱引きの勝利条件は単純。綱の中央にある目印をこちらのゾーンにひき込めばいい。要はこっちに綱を引けばいいのだ。
勝利条件の満たし方には種類がある。相手と勝利条件が同じ場合は、相手にそれを満たさせないことも重要になる。
「音夜を、綱の最後尾に置く」
「おいおい、女子には荷が重いだろ?」
門田の言い分もわかる。だが、音夜を筋力的女子にカウントするのは誤りだ。それは、これを見ていただけばわかるだろう。
「音夜、ゴールを動かしてくれ」
「ん」
俺は音夜に、ゴールを動かすように指示した。音夜はゴールポストを片手で掴む。そして、ボンヤリした表情がキリッと切り替わる。すると、ゴールは軽々浮き上がった。
クラスメイトがどよめく。中には平然としている奴もいるが、長篠らしい光景だ。俺が見せたかったのは、この音夜の特異な筋力だ。
見かけは特に筋肉隆々に見えない、細身の音夜。走力に関しては平均以上でも人智は超えない。だが、彼女のパワーはハルクとかスーパーマンの領域だ。必勝法とは、コイツを単に最後尾へ置くことだ。音夜が後ろで綱の端を体に巻き付けるだけで、相手は綱を引くことが出来なくなる。それくらい、こいつの力は強い。
「俺は中学の3年間を掛け、音夜にこのパワー制御を覚えさせた。平時はよほど出そうと思わなければ、出せない様になっている」
「なるほど、音夜がここに来た理由はなんとなくわかる」
夏恋は、大体の事情を知っているだろう。音夜は力が強すぎて、中学までは周りに避けられていた。音夜は一度、手を付けられないくらい暴れたことがある。原因の事件は俺と姉ちゃんが解決したが、それをきっかけに制御方法を考えたのだ。
なんだかんだやって何とか制御は出来る様にした。だがそれでもふとした拍子にタガが外れる恐れがあるので、綱引きでも後ろに置くだけで能動的に引いたりしないようにしないもいけない。
このゴールを軽々持ち上げる力で綱引きなんかしたら、相手チームが宙を舞うことになる。そうでなくても、敵味方全員将棋倒しで危険なのは変わらない。
「そんな人間もいるんだな」
「そりゃそうさ。なんせ将来的には……」
雅は音夜の力に感嘆していた。こいつくらいで驚いてもらっては困る。渚の予想では人類が外宇宙に出る頃には……。
「将来的に?」
「いや、なんでもない」
おっと、ついついあの話をしそうになった。雅が俺を見ているが、話を打ち切る。この話は、誰かに話して意味のあることとは思えない。
楠木渚、俺の昔の知り合いが言っていたことだ。『人類はいつか、次なる故郷を目指して外宇宙に出る。その時、人類は現在の知能を保ちながら動物と張り合う筋力を得るだろう』。
それが音夜の様な特殊体質か、それとも薬品によるドーピングか、遺伝子改良か、はたまた昨日の奴みたいなパワードスーツか。どれによって達成されるかはわからない。いや、渚は全ての可能性があると考えていた。
病弱で入院していた俺は、同じく入院していた楠木渚とよく共にいた。二人して、病院の主みたいなものだった。
渚がよく見せてくれたパソコンの中身は、俺になんかよくわからなかった。後から、あのパソコンが市販の物と比べて小型で高性能だったことを知ったくらいだ。渚は10年以上前に、今の最新型くらい薄いノートパソコンを使っていたんだ。
渚のパソコンには、たくさんの発明品のアイディアがあった。今騒がれている新製品のアイディアも、もしかしたらその中には既にあったのかもしれない。
だけど、渚はその中身を殆ど実現させる前に病気で死んでしまった。俺には、神様が明らかなバランスブレイカーをデバックの末に消した様にしか思えなかった。
渚と出会ったからなのか、音夜みたいな奴を気にかけるし、昨日のパワードスーツも単なる変人が起こした事故とは捉えられなかった。
俺が考え込んでいると、クラス対抗リレーのチーム決めが始まっていた。数人に分かれて走り、タイムを競っていた。
そのうち、一人の女子が目に留まる。短髪で日に焼けた、活発そうな女子だ。音夜がゴールを動かした時には、あまり驚いてなかったな。
たしか、名前は都煉那だったか? 次がちょうど、煉那の走る番だ。様子を見てみよう。
「よーし、じゃあ次だな」
雅がコーチみたいに号令をかける。煉那と数人の女子が並び、クラウチングの体勢になる。煉那は特にクラウチングへ対して慣れた様子も見せない。陸上部ではない、少なくとも短距離走の競技経験が無いのか? 番外側のアウトコースを走る彼女を見守ることにした。
「位置について、よーい」
雅がスタートの合図を出す。この時点でスタートダッシュの体勢に入るのがクラウチングの特徴だ。短距離走で主に使われる方法だな。
「ドン!」
煉那を筆頭に、女子達が走り出す。先頭は煉那。早くはあるが、どうも走り難そうにしている。フォームが悪いのではない。マラソンの指導員が遅い選手に伴走するみたいな、無理矢理速度を落とした時の様なスピードだ。
「このフォーム、スプリントじゃなくて長距離か?」
競技経験が無いのかフォームは綺麗ではない。だが、それでもハッキリわかるほどに、長距離用のフォームで煉那は走ってした。短距離の走り方じゃないのに、このスピードかよ。だれも抜けないまま、最終コーナーだ。その時、安定していた煉那に異変が起きる。
「チッ!」
危うく煉那は転倒しそうになった。なんとか持ち直すと、彼女はそのまま誰も抜かさせずにゴールした。
妙に走り難そうだったな。どうしたんだ?
「まあいいか。それより音夜と佐奈だ」
煉那が気になるが、今は音夜と佐奈の連携をしっかりするべきか。制御法を教えていこう。音夜に関してはこの馬鹿力の制御を多くの人が知っていればいるほどよい。
「佐奈」
「あっ、はい」
「音夜は人に触れられていると反射的に力を出しにくくなる。音夜から離れなければそれでいい」
佐奈は何かドギマギしていた。男慣れしていないのか? 雰囲気から良家のお嬢さんっぽいし、まぁ当然か。高校一年くらいで昨日のネフィくらいスレてもらっても困る。あいつ何歳なんだ?
「よーい、ドン!」
リレーは夏恋のいた組が走り出した。夏恋は完全にフォームが崩れ、組の最後尾に付けてゴールした。フォームの崩れ方がわざとらしく感じたが、苦手な奴はそんなもんか。
「大体決まったな」
夏恋のいた組が走り終わり、雅がリレーのメンバーを決めた。タイムが速い順だろうな。これで終わりか、どさくさに紛れて走るのをサボれてよかった。
だが、うちの級長は目ざとい。
「次、遊人まだ走ってないよな?」
「ん?」
俺が走ってないのが雅にバレてしまった。男子の最後に走る組に入れられ、スタートに付く羽目になった。面倒クセェ。仕方なく、俺はスタート地点に立ち、走る準備をする。
「位置について、よーい」
クラウチングは切らない。転ぶからだ。俺はスタートの合図を待つ。星のカービィに合図と同時にボタン押す速さ競うゲームあったな。あれ得意なんだけど、ボタンとダッシュじゃわけが違う。
「ドン!」
考えている間にスタートが切られた。反応は一番早かった。だが、何かに後ろへ引かれているかの様に、まるで前に進まない。
「ぐぬぬぬぬ……!」
そのまま第一コーナーに入ると、俺は首の裏辺りがムワムワしてきて、脚を止めてしまう。もう走れない。肺が痛いくらい体内で拡張し、破裂しそうだった。
「うぇほっ!」
「大丈夫か」
えずいてきた。クラスの奴らに心配されているが、これでも健康のために鍛えてはいるんだ。有酸素運動はお察しの通りだが。
今は元気だが、元々は病院に入り浸るくらい病弱だったんだからな。自分の体質を忘れてはいけない。
昼食の時間になり、俺は夏恋、佐奈、音夜と弁当を食べていた。俺に男子の友人がいないみたいな絵面だが、この繋がりの中核は音夜なので問題あるまい。佐奈の弁当箱は大方予想通り、文庫本サイズといった小ささの一段だけだった。夏恋は二段ある標準サイズの弁当箱を持っている一方、音夜が冗談みたいに食パン一斤を齧っていた。
「夏恋さんは音夜さんのこと、知ってたんですか?」
佐奈は夏恋に音夜との馴れ初めを聞いていた。俺と夏恋を引き合わせたのも音夜だったな。どうも入学前から既に知り合っていたようだったが、その辺の話は聞いたことないな。
この通り、音夜は満足に食べようとするだけで破産しかねない。そのせいか昔から、必然的に余分なエネルギーを抑えようとしてあまり活動しなくなっていた。そんな音夜が中学も違う夏恋とどこで知り合ったのか。
「九州から引っ越してきたんだけど、その途中で車がエンストしてね」
夏恋が話始めた辺りでもう察することができた。どうせ、押して助けてくれるだけだと思ったら、音夜が車を近くの工場まで人力レッカーしたとかだろうな。
「その車を音夜が近くの車屋まで運んでくれたのよ。私と運転手と、引っ越しの荷物が乗った状態で。トラックよ、それも」
「予想のど真ん中を想像以上の速度で突き抜けていったな」
夏恋によると、音夜はトラックを持ち上げて運んだらしい。もう驚かないが、想像は超えていたな。
「もう音夜が100人乗ったイナバ物置持ち上げても驚かねえよ。ん? 煉那か?」
俺はふと、一人で飯を食べている煉那を見つけた。まったくしょうがない奴だ。俺はヤツの隣の席が空いているのを確認し、煉那に近づいた。
「よ。何食ってんだ?」
「ん? たしかあんた……」
俺の白髪は目立つからな、クラスメイトに興味なさそうでも、目に付くだろう。煉那も俺の存在を知っているだろう。
病弱ゲーマーという特徴から、俺は人付き合いが苦手だと他の人に思われがちだ。だが、それは違う。長い間、病院で入れ替わる患者と付き合いながらやってきたんだ。いろんな奴を普通の十六歳よりは知っているつもりだ。そいつらとの接し方、距離の取り方もな。
「何か用か?」
煉那は突き放す様に言った。トゲトゲしさより、無気力を感じた。活発な見た目に反して、ダウナー系なのか。
「用は無いな」
それを躱しながら、俺は付け入る隙を伺った。スポーツから入ろうとしたが、あの運動能力と抑え気味な走り、そしてこの虚無感、地雷な臭いがした。そこで、食べ物から探ることにした、のだが……。
(これどうすればいいんだ?)
煉那の昼食はカロリーメイトのプレーンとミネラルウォーター。食べ物に興味が無さ過ぎる。ランチタイムの会話切り込み必勝法をここまで潰しにくるとは。いや、でも弁当じゃないってことは一人暮らしの可能性が高いぞ。この学校、そこそこ一人暮らし率高いし。
よくこいつを観察しろ。切り込む隙は必ずある!
ふと、俺は煉那の机に掛けられた鞄を見た。そこには、見覚えのある缶バッチが付けられていた。
「あれ? この缶バッチ……」
「知ってんのかい?」
これ、昨日ドロップした『ホークアイカンバッチ』じゃないか? 煉那が瞬時に反応する。どことなく嬉しそうだった。
いや、それと思ったが、どうも微妙に違った。一瞬、横向きの鳥に目のマークに見えたが、残念、これイルカにヒトデのマークだ。徹夜で判断が鈍ったのか。
「いや、見間違いか……」
「なんだよ。これ知ってる奴少ないからちょっとわくわくしたじゃねぇか」
「というか、これなんだ?」
俺はその缶バッチが気になった。間違えたついでに切り込んでみた。知っている奴が少ない、ということはマイナーなバンドのマークか? よく見ると、ホークアイ抜きにしても見覚えがあった。
「アンタに言ってもしょうがないと思うがね、それは『スタードルフィン』っていうブランドの缶バッチさ」
「ああ、聞いたことある」
煉那からその名前を聞いて、ようやく思い出した。それなら、病院で聞いたことがある。当然、煉那は疑いの目を向けていた。
「ホントかよ。これ、女向けのスイムウェアブランドだぞ?」
「幼馴染から聞いた。ターゲットが女の子なのにスポーティーに特化したブランドだったな。好きなのか?」
俺には、東京でアイドルをしている幼馴染がいる。そいつから聞いたことがあったんだ。病院で知り合って、退院したきりだったが、なんか最近ゲーマーのアイドルグループに入ったとかで連絡を寄越す様になった。
「まぁね。水着ってフリフリなものしかなくてあたしの趣味に合わないんだよ。それより、これを何と間違えたんだ?」
「ああ、それか?」
俺は煉那に聞かれたので、見間違えたものを見せることにした。ドラゴンプラネットのアプリは、ログインしなくてもアバターを着替えさせたり、撮った写真や動画を見せられる。俺は、今の墨炎を煉那に見せた。
「この缶バッチ。ゲームで拾ったんだ」
俺のアバターは一晩の成果により、圧倒的にオシャレになっていた。水色のパーカーに件の缶バッチを付け、ショートパンツを穿いていた。黒地の水玉タイツも合わせてみた。単なる私服でも防御力ボーナスがあるので、初期のパーカー単体よりは硬い。缶バッチも左胸ではなく、裾の左側に付け替えてみた。こういう装飾の自由さがいいゲームだ。
「これゲームのキャラか? オシャレだな。って、この缶バッチは!」
「どうかしたか?」
見間違えの元になった缶バッチに煉那が反応する。何か思い当たるものがあるのか?
「スタードルフィンのデザイナーがこの前、サイトでゲーム用にデザイン作ったって言ってたけど……これだ!」
「デザイナー一緒か。なんとなく似てるわけだ」
なんと、デザイナー繋がりか。間違えたのは徹夜のせいだけではなかったんだな。
「動画もあるぞ」
煉那が興味を示したので、そこへ押し込んでみる。昨日の戦闘を撮影した動画を見せることにした。お恥ずかしいながら、攻撃が空ぶる様しか映っていないが。
「うーむ、なんか動きがもっさりしてるな。ゲームってCMとかで見るけど……もっとこうズバーンと」
「これはゲームのせいじゃない。ボタンでコマンド入力しているんじゃなくて、俺がこのアバター自身になって戦闘しているせいだ」
煉那の残念そうな感想は至極当然のものだった。おれはゲームの名誉のため、ドラゴンプラネットのシステムを解説する。
「どういうことだ?」
「普通のゲームはボタンでキャラを動かすんだが、こいつはちと特殊でな。こうして俺達が自分の体を動かす様に、フルダイブシステムでこのアバターに俺の意識を移してアバターを動かすんだ。つまり、このもっさり動いている女の子の中身は俺だ」
「よくわからないが、つまりこれはプログラムじゃなくてアンタ自身の身のこなしなのか」
煉那は何とか理解してくれた。こればかりは体験した方が分かりやすいものだしな。
「そうか、なんか目線が敵からずれて不自然だなって思うんだが」
「目線?」
煉那が気に掛けたのは目線だった。そういえば、俺も度々戦闘中に目線を敵に合わせ直す必要が出ていたな。それがなにか関係あるのか。
「スポーツの基本なんだけどな、テニスでもボール見てなきゃ返せないし、野球でもヒットは打てない。人間の体は目線に沿ってしか動けないんだ」
煉那は体を動かすことになると、途端に饒舌だった。やっぱり、スポーツは好きだが何かが原因で情熱を失っているのか? 怪我ではなさそうだな。さっき走ってたし。ダメージ系の抑え方じゃなかった。
煉那、こいつは一体何を抱えているんだ?
次回予告
佐奈が切り裂き魔に襲われた。その話を聞いた遊人達は彼女を見舞いにいくことになった。
遊人にとっての古巣、岡崎市民病院。そこで運命を変える出会いがあった。
次回、『切り裂き魔』。違うルートに分岐する条件は、意外と何気ない。




