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視界ジャック1 来訪者

 長篠高校生徒名鑑

 上杉夏恋


 1年11組3番

 出身中学 島津中学校(鹿児島県)

 得意科目 国語、英語

 苦手科目 数学、理科

 好きなもの 赤いもの、花

 嫌いなもの 動物、料理(壊滅的腕前)

 特技 毒舌、マーシャルアーツ

 遊人一言メモ

 俺の中学時代の友人を通じて知り合った奴だ。顔立ち、スタイル文句無しなのに口が悪いぞ! 一人暮らしらしいが、野菜もちゃんと食べるんだぞ。

 岡崎市 国道一号線 本宿付近


 岡崎市は交通死亡事故発生数ワースト1の不名誉を持つ愛知県に存在する。三河走り、などという荒い運転に特有の名前が付けられるほどだ。

 免許を取る際、ここで路上教習を行うこととなる教習生達には同情を禁じえない。

 「そこの車! 止まれ!」

 今日も交通違反の車を取り締まるために、パトカーが疾走する。サイレンを鳴らし、前方の黒い車を追いかけていた。

 片側三車線の混んだ道はたちまち人がいなくなり、サーキットと化した。

 パトカーを運転しているのは、パンツスーツを着た女刑事。髪をポニーテールに結い、黒い車を見据えている。

 「全く、切り裂き魔を探して本宿くんだりまで来たらこれだ!」

 「ねぇ愛花ちゃん、私たち交通課じゃないわよね?」

 助手席にいたのは、栗色の髪を伸ばした白衣の女性。彼女らは警察官であるが、交通課の所属ではない。刑事課の刑事と、鑑識課の解剖医だ。

 「だな。だか、警察官の使命は治安維持! 時に部署を跨がねばならない! 縦割り行政などナンセンスだ!」

 刑事の直江愛花は、直江遊人の義理の姉である。切り裂き魔という連続傷害犯を探してパトロールしていたら、たまたま交通違反の車を見つけて追いかけているのだ。

 「道路交通法知ってる?」

 助手席にいる白衣の女性、癒野癒子はそこが不安だった。交通課なら分かっているルールが、ハンドルを握る刑事に分かるのか。部署が分かれているのは、愛花みたいな行動を取っていては警察官全員が全部の仕事を覚える必要が出るからだ。

 「あれが道路交通法に違反してなかったらどうなるんだ?」

 その発言を受け、愛花は前の黒い車を指差す。視力では愛花に劣る癒野が目を凝らすと、車の全景が見えてくる。

 その車は、傷付いていた。あちこちに擦り傷やへこみがあり、右の後輪がパンクしている。ナンバープレートは付いていない。故障車での走行、整備不良、明らかな違反車だ。

 疾走する車はジグザグに先行車を追い抜き追い越し、なかなか視界に捉えられない。カーブはわざと車体が揺れる様に曲がっている。

 車は黒地に、紅いラインが入った乗用車だった。ワンボックスでもワゴンでも、軽自動車でもない。パトカーや教習車と同じ、普通自動車だ。

 「あれは!」

 車を観察した癒野は、愛花が接近せねば見えないナンバープレート以上に、確実に道路交通法違反だと判断した理由を発見した。


 なんと車の上に、人が乗っているのだ。それもただの人ではない。金属製のパワードスーツを着ている。


 「な! なによあれ!」

 「知るか! 映画の撮影にしては公道の封鎖も無いし、カメラも無ぇ! とにかく止めるぞ!」

 突然のカーチェイスに、国道からは車がいなくなっていた。今はツイッターのある世の中だ。国道で派手なパーティーを開いていると聞けば、巻き込まれなくない者は即座に退避する。

 カーチェイスに巻き込まれて車が壊わされても、そんなことする犯人に賠償金の支払い能力があるはずもない。回避は当然だった。

 少数ながら車が走ってはいたが、黒い車のヘッドランプが赤く輝くと同時に異変が起きた。

 「なんだ?」

 黒い車の前で普通自動車を運転していたドライバーが異変に気付く。備え付けカーナビの画面が真っ赤に染まり、ハンドルが自動的に切られて脇道へ安全運転で逸れていく。駐車禁止の標識の手前でハザードを点灯しながら停止した。

 「追い付いた!」

 周りから車がいなくなり、愛花はスピードを上げて暴走する黒い車に追いつく。黒い車が左側の車線を走っているため、車の右側に付くこととなった。

 「運転席が!」

 車を見た愛花は絶句する。運転席の扉が無くなっている。黒い車は右ハンドルで、日本車らしきことがわかる。だが、運転席には誰もいない。ハンドルが勝手にカーブに合わせて、動いているのだ。

 「自動運転? この正確さはまだ出来ないはず!」

 自動運転。しかし、日本の技術では未だ目の前の障害物を検知して止まる、車線に沿うことしか出来ないはずだ。癒野はパワードスーツが屋根から車を何らかの形で操縦していると踏んで、パワードスーツを見る。

 車の屋根に乗るパワードスーツは、黒いベーススーツに紫のチェストプレートや肩当、すね当てや小手が取り付けられた軽量なものだった。ヘルメットはフルフェイスで、装着者の顔が伺えない。フルフェイスのヘルメットと呼ぶには、顔の様に目らしきものが取り付けられたりとヒーローマスク然としていた。

 癒野の目に付いたのは、パワードスーツが腰に巻いているベルトだ。ズボンを骨盤で留めるそれではなく、ヒーローの変身アイテムの様に大仰で、ベルトのバンドも太い代物だった。バックルは何らかの機械だろうか、バックルを名乗るには大き過ぎる。

 だが、車もパワードスーツもダメージを受けており、煙を吹いていた。止めなければ危険な状態だ。

 「とにかく止めないと!」

 「任せろ!」

 愛花は黒い車を止めるため、前にパトカーを走らせた。パトカーの後部を黒い車の右端にぶつけ、進行方向を変えようとする。だが、黒い車は明確な意思を持ってアクセルを踏んでいる様にスピードが緩まない。

 「なんだってんだこいつ!」

 普通の手段では止められない。愛花はわざとスピードを落とし、黒い車と並んだ。その瞬間、黒い車の左にガードレールがあることを確認した愛花は、黒い車をパトカーでガードレールに押し付けた。ハンドルを切り、車を抑え込む。

 「ちょ、待ってぇあああああっ!」

 助手席に乗っている癒野は絶叫した。パトカーが右ハンドルということは、助手席は左。左にいる黒い車へ右側車線から攻撃すると、助手席にダメージが来る。

 「だから愛花ちゃんと車乗りたくないのよぉおおお!」

 癒野は助手席に乗るという選択をした自分を呪う。いくら捜査のためとはいえ、助手席で愛花を補佐するのは考えものだった。

 「止まれ!」

 ガードレールに車を押し付けていると、パトカーは突然道路の右側に弾き出された。拘束が解け、黒い車は再びスピードを上げる。

 「なんだ?」

 「あれ、ホイールに何か! タイヤフエール?」

 癒野は確かに、ホイールに重なる様に、青白く輝くタイヤが出現しているのが見えた。後ろから見ると、タイヤが厚くなっているようにも見えた。タイヤを二枚重ねで装備している。そのタイヤは一瞬で消えた。実体はないのだろうか。

 「あんな違法改造を?」

 「でも、あんな仮面ライダーのスーパーマシンめいた改造なんてどこで!」

 二人は黒い車の改造に驚愕した。明らかに現在の技術では不可能な領域。タイヤを都合に合わせてホイールから増やせるなんて、どういう技術なのか。

 黒い車は左右に大きく揺れて、パトカーが抜かす隙を与えない。尻を振る様に、大きく車体を揺らしている。

 「クッソ、さっきからブロッキングかよ!」

 愛花は後ろから車に追突し、バランスを崩させる。だが、運転手のいる車に通用する技術も、自動運転には効かない。

 「いや、ブロッキングというより上の奴を振り落とそうとしているのか?」

 愛花は黒い車の、自動運転の意図を予想した。だが、真相は分からない。今は被害が出ない内に止めることが最優先だ。

 走っていると、目の前に上り坂で急なカーブの道が現れた。右側に大きく抉れたカーブにして上り坂、そして遮音壁、これを利用しない手は無い。

 黒い車がカーブに差し掛かった瞬間、愛花はアクセルを踏み込む。

 「今だ!」

 パトカーはカーブに入った黒い車の、横っ腹にぶつかった。そのまま力任せに車を押し、遮音壁に押し付けた。カーブの車には外側への遠心力が掛かる。その遠心力とパトカーの力で一気に押し込んだのだ。

 衝撃が強く、パトカーはエアバッグを作動した。黒い車の上に乗っていたパワードスーツは遮音壁に投げ出され、背中から壁にぶつかった。

 パワードスーツが地面に落ちると、何かが折れる音がした。黒い車と遮音壁の間が紫色に光り、黒い車はまたパトカーをホイールから出るエネルギーのタイヤで押し出して走り去ろうとしていた。

 「こいつ……走行してねぇパトカーを押し出した?」

 先ほどは走行していた上に横からだったため、少し押せばバランスを崩して押しのけられる。だが、今は停車しているパトカーを押し出したのだ。

 乗用車の牽引にはそれなりに大きな力が必要。それを、ホイールに仕込まれた僅かな機構で行ったのだ。この車、何物か。

 「あ! 待て!」

 「待って愛花ちゃん、あそこ!」

 愛花が逃げる車を追うべくアクセルを踏もうとした。だが、癒野はそれを静止した。彼女が指差す先を、愛花も見る。

 なんと、目の前からトラックが突っ込んでくるではないか。無人のようだが、愛花達めがけて道路を逆走しているではないか。

 「ちょ……」

 ナイフを持った被疑者にも退かない愛花だが、これには驚いた。トラックの暗い室内はほんのり赤く染まっている。脱出しようと愛花がドアのキーを操作するも、びくともしない。

 「なんだ?」

 「愛ちゃん、シートベルトも取れない!」

 癒野によると、シートベルトも外れないらしい。最後の手段としてギアをバックに入れて交代しようとするが、動かない。それどころか、いつの間にかエンジンが切れていた。

 パトカーもカーナビやオーディオが赤く光っていた。

 「クソが! これだからオートマは公道走れるゴーカートなんだ!」

 愛花が悪態をつくも、対処法は無い。トラックは目前まで迫っていた。

 「こりゃダメか?」

 愛花はさすがに諦めた。シートベルトが外れないなら、ガラスを割っても脱出は不可能だ。

 その時、振り落されたパワードスーツがトラックとパトカーの間に入った。そして、トラックを受け止めた。

 「あ、あいつ!」

 「トラックを止めた?」

 パワードスーツはトラックを止め、その場で踏ん張る。しばらくすると、トラックが止まってパトカーのエンジンがかかる。カーナビも元に戻っていた。パワードスーツは崩れ落ち、光に包まれた。

 「お、おい!」

 愛花は車のエンジンを切り、降りて救護すべく近寄る。シートベルトは外すことが出来、ドアロックも解除出来た。

 「こいつがパワードスーツ使ってたのか?」

 倒れていたのは、年端もいかぬ少女だった。髪は茶髪、肌は白い。髪は背中まで伸びている。人種的に日本人ではないのだろうか。頭から血を流しており、早い処置が必要だ。服装は白いTシャツに、同じく白いハーフパンツ。パワードスーツを着るには、簡潔過ぎる。

 露出する手足にも傷がある。主にスーツの損傷が影響した火傷や擦り傷だった。

 愛花と癒野はトラックがまた動かないうちに、安全な場所へ少女を連れて避難した。

 「13号車から各員、黒い半壊の乗用車が国道一号線を暴走中。警戒態勢。それと、救急車を一台、藤川付近まで寄越してくれない? 被害者らしき人が負傷している」

 癒野はパトカーの無線で即座に応援と救急車を要請した。血を流しているということは、輸血が必要になるかもしれない。癒野は身分証明書を探した。だが、少女の衣服にポケットは無い。

 「身分証明書は……最悪あの車かも」

 白衣のポケットからビニールで梱包された、3つの試験管を纏めた様なものを取り出した。試験管にはそれぞれ『抗A』『抗B』『Rh』と書かれている。これは『国境無き医師団』が開発した簡易血液型検査キットである。

 「なにそれ?」

 「簡易血液型検査キット。ウラ検査までは出来ないけどね。オモテ検査とRhの検査はできるよ」

 日本人は血液型性格診断とかいうエセ科学の数少ない功績として、多くが自分の血液型を知っている。癒野はこれを知り合い経由で持っていたが、そのせいで使う機会が無かったのだ。

 日本人は、血液型を知っている者が多い。だが、これが開発された『国境無き医師団』の現場は医療がままならない土地。自分や家族の血液型を知らない人もいる。そうした人が多量出血した時に、病院へ搬送する前になるべく早く血液型を知って輸血用の血を要請するためにこれは開発されている。

 ビニールを破って試験管の蓋を取ると、そこに癒野は綿棒の様なパーツを取り付けた。綿棒で倒れている少女の額の血を拭う。

 試験管にその綿棒を差し、蓋を閉める。

 「それで何がわかる?」

 「血液型。だけど、オモテ検査とウラ検査の結果が稀に異なる場合があるから、必ず両方共やらなきゃいけないけどね」

 血液型に詳しくない愛花に、癒野が説明する。万が一間違って違う血液型の血を輸血しない様に、そういう検査はしっかりするのだ。

 「やればいいじゃん」

 「ウラ検査に使うのは血から赤血球を取り除いた『血清』。できたらとっくに簡易検査キットに含まれてるわ」

 ウラ検査は事情が違うので、簡易検査キットには含めなかった。とはいえ、検査結果が異なるというのは稀なケースなのでよほどの緊急時は無視することも無くはない。血清を作るにはそれなりの手間が必要だ。

 そのよほどの緊急時も、稀ではあるのだが。

 「見て、オモテ検査の試験管で全部凝集が見られた。血液型はAB型ね」

 「うちの遊人と同じだな」

 血液型は、抗原の有無で判別される。A抗原を持っていればA型、B抗原を持っていればB型、両方無ければO型、両方あればAB型である。抗原の有無は、試薬内で赤血球が固まるか否かで判定される。

 「Rhは、マイナスね」

 Rhも似た様な方法で判別する。凝集が無いので、この少女の血液型はAB型Rh−となる。

 「そこまで遊人と同じなら、万が一輸血用の血が足りないかもしれない時のために呼んどこうぜ」

 愛花は携帯を取り出し、義理の弟である遊人を呼ぼうとする。サイレンが鳴り引き、救急車も駆けつけた。

 「そうね、AB型は少ないけど、Rh−も更に少ないから。輸血用の血があるとは限らなさそう」

 癒野は愛花の案に乗った。輸血用の血液不足は駅前で献血を呼びかける声から察することができよう。遊人は病弱だった頃でも手術と輸血だけは受けたことが無いのが自慢なのだ。輸血された人間の血液は、輸血に向かない。遊人を呼ぶというのは適した選択肢と言えよう。

 Rhがマイナスの者は、その血液型全体で5パーセント程度だという。ただでさえ少ないAB型の、その中から更に5パーセント程度しか遊人やこの少女に輸血出来ないのだ。

 「おーい、ここだここ」

 愛花が救急車に手を振り、場所を知らせる。彼女の選択が大きく未来を変えることになるとは、まだ誰も知らない。

 『無人自動車、100キロ超を疾走か?』

 (宵越新聞の記事)

 先日、愛知県警岡崎署から奇妙な通達があった。無人の普通自動車が単独で国道を走行しているとのことだ。その自動車は警察の追跡を逃れ、大阪市のコンビニエンスストアの駐車場に停車しているところを今日未明発見された。

 監視カメラに写されたその自動車は、愛知県を出るまでは暴走を続けたが、三重県に差し掛かる頃には法定速度を守り、交通違反無く走行していたと警察は発表した。

 自動車から身元不明の十代前半と見られる女性が振り落された。警察は女性の回復を待って事情を聴く方針だ。(真田総一郎)

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