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 長篠高校生徒名鑑

 直江遊人


 1年11組15番

 出身中学 関ヶ原中学校

 得意科目 家庭科、数学

 苦手科目 体育、五教科だと目立って苦手なものは無いが、カナヅチの運動音痴だ。

 好きなもの ゲーム(特にアクション。一番好きなのはソニックシリーズ、タイムアタックが熱いから)、チーズ

 嫌いなもの 日光、きついクーラーや乾燥する暖房

 特技 料理

 ???? (未開放項目)

 通学路 堤防


 この四月、俺は晴れて高校生となった。所謂普通じゃない俺は、ここまでそこそこ苦労はしたものだ。俺はアルビノとかいうやつらしく、髪や肌が白くて瞳が赤い。人とあからさまに違いすぎる。

 そんな俺を今年から受け入れたクラスは、思いのほか友好的だった。

 入学から僅か数日、オリエンテーション合宿という最初の大規模イベントを控えたある日のことだ。

 「へ? 遊人、あのゲームやってないの?」

 新しい毎日の、新しい締めくくりたる夕暮れ時、愛知県内を流れる矢作川の堤防で、うちのクラスの副学級長、上杉夏恋が意外そうな声を上げた。

 俺と夏恋はここを歩いて帰る途中だった。帰り道が途中まで同じってだけで、ただのクラスメイト以上の関係ではない。

 夕方とはいえ、春先は日が長い。俺はブレザーの上着の下にパーカーを着て、フードで顔を隠していた。アルビノは紫外線に弱いが、個人差がある。これに日焼け止めまでしている俺は、日差しに特別弱い方なのだ。

 「やってないもなにも、俺はパソゲー自体するけどオンラインゲームしないぞ。やるつったらブラウザゲームだな。自分のペースで出来ないのは嫌なんだ」

 俺は夏恋に対して答えてやる。趣味の話だし、ある程度自分の立ち位置を明らかにした方が、その後の展開がスムーズだ。

 何の腐れ縁か、名簿も近くない女子とお近づきになれたのはゲームのおかげだ。夏恋がクリアできなくて困っていたステージを俺がクリアし、そこから話が始まった。俺を夏恋に仲介したのは、中学からの友人だったがな。

 この時間帯となると、帰宅部連中が堤防を通って帰る様子がよく見える。この堤防は俺達が通う私立長篠高校の通学路になっている。俺は帰宅部ではないが、今日はゲームを攻略するために帰る。部活の雰囲気も結構フリーダムだし。

 「やってると思ったのに、この廃人ゲーマーは」

 「人をなんだと思ってる。でもやってはみたいと思うがな」

 夏恋は毒のある言葉を吐き出す。客観的に見て、夏恋は普通に可愛いが、この点でかなり残念である。伸ばした黒髪は艶やかだし、厚手のブレザーからでもわかるほどスタイルがいい。

本人は悪口のつもりだろうが、廃人ゲーマーは褒め言葉として受け取らせてもらおう。夏恋は布教のためか、さらに畳み掛ける。

 「せっかくだからやってみなよ。このゲーム、基本無料、通信費も会社持ちだし」

 「そこなんだよ。そこが怪しくてな」

 だが通信費無料という怪しさの隠し味を、俺は見逃さなかった。モバゲー等の基本無料を謳うソーシャル ゲームでも、課金せずともプレイにはパケット代などが別途でかかるのだ。

 それが、通信費まで会社持ち? 怪しい。絶対に怪しい。やってみたい欲と怪しさの間で揺れ動いている最中なんだ、俺。

 夏恋は長い黒髪をなびかせ、赤いカバーがされたスマホの画面を見せ付けた。赤って明らかな毒キノコカラー。猛毒キノコのカエンタケみたい。

 「『ドラゴンプラネットオンライン』、フルダイブってゲーマーの夢なんでしょ?」

 「夢だけどさ……」

 俺は夏恋が自慢げに言ったゲームのタイトル、俺は知らないわけじゃない。

 ドラゴンプラネットオンライン。世界初のシステム、『フルダイブシステム』によってプレイヤー自身がゲームに入り込んで遊べる、夢のゲームだ。

 俺の曖昧な態度に、夏恋は切り込んでくる。

 「煮え切らないのね」

 「夢であると同時に、そいつを扱った作品では例外なくプレイヤーが危険に晒されている」

 フルダイブとは、ゲーム内にプレイヤーの意識を送り込む技術のことだ。つまり、プレイヤー自身がゲームの世界に入り込み、遊べる夢の様なシステムなのだ。

 イメージされるのは、よく漫画とかである『ログアウト不能』とか『ゲームオーバー=死』とか、そんなデスゲームっぽいもの。これが本筋でない作品、蝶ネクタイのガキが探偵してる漫画の劇場アニメでもやらかしてんだ。そういうイメージはどうしても強い。

 マイナスなイメージもあるし、ゲーム機でなくとも出始めの電子機器には初期不良が付き物。新製品はある程度見送って不具合が洗い出されるのを待つのが定石だ。

 「それに、ゲーム機には初期不良が付き物だから、新製品はしばらく見送るもんだ」

 初期不良が脳に影響を与えかねないとなれば慎重にもなる。こちとら、満足に使えるのは脳みそくらいなものだからな。

 異常があれば脳に大ダメージ、か。

 まさに漫画の世界だ。言葉じゃ上手く説明出来ない。ゲーマーの夢であるが、ゲームは画面越しだからこそって部分もある。フルダイブで音ゲーなんてどうするのかわからないし、ホラーは画面越しじゃないとやりたくない。

 「そうそう、そんなマイナスイメージばっかだから、政府が規制したりね」

 夏恋は愚痴りながらイヤホンを俺に突き付けて言った。密閉型の、ありふれた白いイヤホンだ。これってまさか……。

 「実際にやった方がわかりやすいよ」

 「おいそれ……」

 俺には、夏恋が突き付けてきたイヤホンがなんだかわかる。箱に入っていて新品同然みたいな状態だがな。そう、これこそゲームへの入り口。

 「フルダイブってくらいだから、装置が必要でしょ? だから、その装置、『ウェーブリーダー』」

 「それ、どこもかしこも売り切れだったろ?」

 夏恋は当たり前の様に言うが、これを初めて見た俺はこんなちっこい装置がフルダイブなんていうオーバーテクノロジーを引き起こすものとは信じられなかったものだ。

だって、どう見たってイヤホンじゃないか。普通、そういう機械って小さくてもヘッドギアくらいのサイズは必要そうだ。

 口ではうだうだと不安を漏らす俺だが、店頭でこれを見たら速攻で買ってゲームするに違いない。俺がここまで夢の様なゲームを逃していた一因が、これを手に入れられなかったことだ。

ホント、どこの電気屋行っても売り切れなんだよ。

 「んなもんどこで?」

 俺はこの超絶人気商品の出処を聞いた。人にあげる分までよく用意できたな。

 「私のお古。感謝しなさいよ?」

 「お古とか……。お前二個目持ってんの?」

 このウェーブリーダー、夏恋の使ってたものか。なんでそこまでして、俺を誘うんだ?

 「持ってる。でなきゃあげないわ。たまたま始めは出てなかった、気に入ったカラーが出てたのよ」

 「そこまでして、なんで俺に?」

 夏恋は赤いイヤホンを俺に見せた。手に入り難いもん用意してまで、コイツの狙いが分からん。

 「今度のイベント、ゲーマーの力を借りたいのよ」

 「そんなにムズイの?」

 夏恋が俺に協力を求めたのは、イベントの攻略だった。そうか、オンラインゲームには通常のステージとは別に、期間限定のステージもあるのか。

 「あんたのスマホはゲーム機なの? 調べてみなさいな」

 「いや、俺スマホでゲームやんないし。まぁ、スマホでググるか。闇雲に疑っていても始まらん」

 夏恋に指摘され、俺はスマホの存在意義を思い出す。普通のガラケーが死滅しているので、俺みたいに携帯は電話とメールしかしない派の人まで高っかいスマホを使うことになる。

 歩きスマホをするわけにもいかないので、俺と夏恋は堤防の土手に座ってスマホで検索を開始した。スマホを持ち始めたのは今月からだが、俺のスマホにはほぼアプリが入っていない。ソシャゲはつまらなさそうだし、乗り換え案内アプリはそもそも電車で旅しないから使わないし、精々動画サイトのアプリかツイッターくらいか。

 「ああ、もうWikiあるのか。それなりに攻略されたゲームなんだな」

 「サービス開始、もう半年前よ」

 俺は自分の楽しみ優先なので、別にWikiが出来る前に自力で攻略する、みたいなポリシーは無い。ゲームって物によってはWiki必須なくらいのものがあるし、何時までも方眼紙でダンジョンのマップ作る様な時代じゃない。割り切りは大事。

 そうだな、基準としてはアクションゲームだけwiki見て、RPGやホラーゲームは見ない様にしている。アクションは実機で遊んでこそだが、シナリオ重視のゲームはネタバレがダメージに繋がる。

 夏恋が言うに、『ドラゴンプラネットオンライン』のサービス開始は半年前。にしては、やたら調査中の項目が多い様な。Wikiもトップページで情報提供を大々的に呼びかけているくらいだ。

プレイヤー数が少なければ、必然的にwikiも更新が遅くなる。プレイヤーの母数が多ければ情報も集まりやすいし、ゲームデータを検証しようとする奇特な奴がいる確率も上がる。

 定石として、こういうWikiは『初心者の人へ』的なページを見るのが手っ取り早い。やはり、ページ隅のメニュー欄に『これから始める人へ』と初心者向けのページに繋がるリンクがある。それをタッチする。

 「意外と慎重なのね。ゲーマーってトライ&エラー上等の突撃思考かと思ってた」

 夏恋は驚いた様に言った。夏恋のそういう気持ちはわからなくもないが、そうなるのはプレイ中くらいなものだ。

 「クソゲーハンターじゃねぇんだ。下調べくらいするさ。トライ&エラーはゲームの中だけ、現実はセーブ&ロードも出来ないからな」

 クソゲーを掴みまくるクソゲーハンターですら、制作メーカーなどクソゲーだと事前にわかる情報があってこそ突撃する。あいつらはクソゲーを試すことが目的だし、やっぱりゲームって安くない買い物だからジャケット買いみたいに、迂闊に手を出したりはしない。

 初心者向けのページを読み込むと、アバターについて書かれていた。そこには、今時受け入れられないような事実が記されていた。

 「げぇ、アバターがランダム生成かよ。今時?」

 「へぇ、私他のゲームしないから、そういうのわからないんだ。他のゲームだと違うんだ?」

 夏恋はよく知らないようだな。まぁ、知らない人はゲームの知識なんてマリオかポケモンで止まってるだろうし。

 今時、ゲームの主人公は自由にカスタム出来るものなのだが、『ドラゴンプラネットオンライン』はゲームが勝手にアバターを作るらしい。これはどうなんだ?

 アバターくらいプレイヤーに作らせるのが人情ってもんだ。ランダムってなんだよ、ランダムって。

 「しかもプレイヤーの脳波を読み取って男女を判別し、プレイヤーの性別と同じアバターを作る、か。男女反転させてプレイは出来ないのか?」

 俺は何となく、アバターの男女が選べるゲームは女性アバターの方が髪型や服が豊富な気がするしオシャレ出来るので、断然女性アバターを選ぶ。それが許されないのか……。

 でも今回は選べても男アバターにするかもな。フルダイブってことはアバターが俺の体になるわけだ。そんな未知の領域で性別反転は、新感覚の操作への、慣熟の阻害になるかもしれない。

 「ま、やってみればいいんじゃない? 無料だし」

 「そうだな。ゲームだし、まさか囚われてデスゲームに巻き込まれることもあるまい」

 夏恋の言う通りだ。プレイ前にあれこれ想像するのも楽しいが、ゲームは遊んでなんぼ。やるか。どうせ、夏恋に誘われなくてもそのうちやってただろうし。

 「じゃ、グッドラック」

 夏恋が立ち上がり、スカートを払う。俺は夏恋から渡されたイヤホンを手に、歩いていく彼女を見送った。


 数十分前 某マンション


 俺の自宅は学校から自転車で行ける距離の場所にあるマンション、その一室だ。自転車で行けはするが、俺は自転車に乗れないので歩きだ。

20階建ての内、10階という調度真ん中の階。俺はそこに義理の姉と住んでいる。面倒なので、エレベーターで移動することが殆どだ。階段など使えるか。

「ただいま」

俺の義姉、直江愛花、姉ちゃんは愛知県警で刑事をしている。この時間、普段は家にいるがでかいヤマを抱えていると数日は帰れない。若いのに大変なこった。まあ、実力があるから引っ張りだこも仕方ない。だいたいは、俺は一人で家にいる。

 姉ちゃんは大きなヤマに当たると忙しくなり、あまり帰ってこない。ヤマが無いなら無いで、夜な夜な繁華街を回って非行少年に声を掛けている。

 姉ちゃんのことを考えていたら、そのご本人からメールが届いた。

 「ん? メール?」

『遊人へ。今日は帰ってくるけど、明日からは捜査本部できるし帰ってこれそうにない。事件が解決するまで、私に勝てるよう精進するのだな、フハハハ』

 「くそっ、一回勝ったからって調子に乗りよって! 最強なのは俺の暗黒魔法少女デッキだ!」

 昨日、姉ちゃんにカードゲームでボロクソに負けたんだった。カード揃えてガチガチに強化した俺のデッキより、好きなカード突っ込んだ姉ちゃんのデッキの方が強いなんて納得できねぇ。

 こうして姉弟で遊べるって、いかに俺が姉から強い影響を受けてるかって話だよな。

 「趣味も姉ちゃんから移ったな……」

 俺の趣味であるゲームは姉ちゃんの趣味でもある。俺は両親でなく年の近い姉ちゃんに育てられたから、その分影響を受けたんだろう。

 「複雑な家庭」

 義理の姉ってことは、戸籍上は姉ちゃんの両親に養子縁組していることになるな。

 姉ちゃんと俺が出会ったのは、ある事件がきっかけだった。事件の重要参考人になった俺が奇妙な縁で姉ちゃんと行動を共にする内に、なんだかんだ話が流れに流れて、身寄りのない俺を育てることになった。十年は前の話だ。

 それはともかく、今の内にご飯炊く準備くらいはするか。俺はキッチンに向かい、米櫃を開けた。

刑事の姉ちゃんはそれなりに給料がいいので、このマンションも住宅として質が高い。おかげでキッチンは姉ちゃんが料理しないくせに、カウンターキッチンでオール電化。

 今時、IHコンロでもガスに火力は劣らない。火事しなくて掃除が楽って利点でしかないな。

 米櫃はシンクの横にある、戸棚の中にある。米櫃にはしっかり唐辛子を模した防虫剤を入れておいた。美味い米には虫が沸くんだ。

 大きめのザルとボウルを用意し、ザルに米を入れてボウルに重ねる。水をかけて米を研ぐ。

 ボウルに溜まった水は忽ち乳白色に染まる。これだ、この米糠こそよい米の証だ。そんじょそこらの市販米は、ここまで濁った水にならない。

 米をかき回す手触りも、ずっしり重い。粒が大きいのだ。わざわざ道の駅まで遠出して買ってきただけはある。

 研ぎ過ぎると、旨みまで洗ってしまう。二回ほどでやめ、研いだ米を炊飯器に入れて八時頃に炊き上がる様に予約する。

 これでよし。さて、ゲームするか。


 さすが、それなりにお高いマンション。1LDKなんてケチ臭いこと言わず、いくつか部屋がある。リビングダイニングの他に、俺と姉ちゃんが使っているような部屋が三部屋。

 俺の部屋はちゃんと整理してあるので綺麗だ。虫出るのが嫌だという最後の一線さえあれば、部屋の汚さはある程度で踏み止まれる。ゴキブリとか平気な姉ちゃんの部屋など、とても足の踏み場はない。

机とベッド、ゲームが並べられた本棚にノートパソコン。そのくらいしか部屋にはない。ポスターとかも貼ってないし、実にシンプル。その分、ゲーム内のインテリアは好き勝手やるのだが。

 「さて、本題はこいつだ」

 夏恋から貰ったイヤホン、『ウェーブリーダー』。これで『ドラゴンプラネットオンライン』とやらができるらしい。

 俺は部屋のノートパソコンをインターネットにつなぎ、そのゲームについて再度情報を集めた。動画見るなら、断然こっちだし。

 「まずはプレイ動画やPVだ」

 俺は動画サイトを覗くことにした。案の定、PVは当然のこと、プレイ動画が沢山だ。Wikiの復習もしておこう。ホラゲーやアドベンチャーじゃないし、ネタバレは致命的でないゲームなら調べるに越したことはない。

 オンラインゲームに限って言えば、調べてナンボだ。オンラインゲームは『レベルアップしたらポイント貰えるから好きに割り振ってね』って方式が多い。こういうのは割り振りをミスると取り返しがつかないので、事前調査が必須となる。

 オンラインゲームについて、したことはないが無知ではない。

 まずは公式サイトだな。開くと、ゲームのサイトだけあって画面が華やかだ。だが、急に動画開いたりと重くなる要素は皆無だ。そこを見て目についたのはお詫びの欄だった。

 『アバターの性別及びが選べない件について』か。そこをクリックして、ページに飛ぶ。そこには、アバターの性別を選べない理由が書かれていた。

 『本ゲームは本来、アバターの性別を自由に選択できる予定で設計していました。しかし、政府勧告で「フルダイブゲームのアバターが性別を選択できるのは脳へ悪影響を与える恐れがある。そしてアバターの自由選択は若年者による過度な美容整形の促進に繋がる恐れがあり危険。なので、本来の性別と異なるアバターが使えない様にしなければ営業は認められない」と告げられました。上記の理由により、サービス開始が遅れたこと、並びにユーザー各位の選択肢が狭められたことをお詫びします』。

 というわけか。今の政権って渦海党が持ってるんだっけ? ゲームなら同性婚も出来る時代につまらん連中だ。

 口直しにゲームの概要を読もう。ゲームはゲームと割り切れないジジイ共の話は終わりだ。

 ゲーム概要のページには、ドラゴンプラネットオンラインの魅力を端的に纏めていた。そこには、フルダイブだけでも恐ろしいのに、もっと信じられないことが書いてあった。

 「プレイヤーごとに専用のストーリー? マジかよ」

 このゲームはプレイヤー毎にストーリーを作ってくれるらしい。どういう仕掛けなんだ?

他にも『プレイヤーを助けるアニマルフレンズ』だとか『実銃、実機を堪能せよ! 「フィギュアモード」!』とか気になる要素がたくさんあった。

 こうしちゃいられない。だんだんやりたくなってきた。いざやろう。ひゃあ、我慢できねぇ!

 ページを読み進めると、イベントの告知がされていた。

 『新イベント「流刑の衛星」を五月より開催します。本イベントではドラゴンプラネット周辺に漂着した流刑衛星、そこに眠る犯罪者をどうするのかプレイヤー自身の手に結末が委ねられます』

 これが夏恋の言ってたイベントか。なかなか大雑把な内容だが、どんなイベントだろうか。始まる前にゲームに慣れて、イベントを楽しむとするか。


 スマホに『ログイン用アプリ』とやらを入れれば出来るんだな。ウェーブリーダーが付けられる、つまりイヤホンが使えて、ネットに繋がればどんな機器でもアプリを入れれば出来るらしい。

 パネェな、オーバーテクノロジーの塊か? 機器が違うと通信速度も変わるから、どれでログインするかで有利不利が出そうなもんだ。それも調整しているのか? ゲーム機って、初期ロットを売り切って不具合を解消した後期ロットを開発しても、ゲームの有利不利を出さないために計算速度は変えていないって話だ。

 後から買った奴の方が高性能じゃ、不平等だもんな。計算速度が上がるとフリーズや処理落ちが減らせるんだ。

 そのアプリをダウンロードし、スマホのイヤホンジャックにウェーブリーダーを刺す。これでよし。ウェーブリーダーを耳に付ける。密閉型イヤホンはよいものだ。音漏れもしないし、あくまで個人的な見解だが耳に負担が少ない。

 意を決して、アプリを起動してログイン。安全だとわかっていても緊張の瞬間だ。

 「これでゲーム内に閉じ込められて、初の未帰還者になったらどうしよう……」

 俺の咄嗟なネガティブ発言は、世界が縦に一回転する感覚に打ち消された。


  @


 「こいつはどうする?」

 暗闇の中で声が聞こえてきた。目は開いているのに、何も見えない。いや、ぼんやりとしか見えないだけで、状況が把握できないのだ。こんな状態なら、見えていないのと大差ない。

 体を動かそうとするが、身動きが取れない。手は握ることが出来る。心なしか、手がいつもより小さい気がした。

 声の主は、男性だ。あまり野太くない声だし、体育会系ではないかな? 灯りも強くない、室内だろうか。

 「卵子提供者に返しますか?」

 「いや、ヒトゲノムの操作、平たく言えばクローン技術は倫理観に支配された凡夫共に規制されている。万が一にも、この高尚な研究が畜生道の鬼に見つかるわけにはいかん」

 研究者たちは、何やら話をしている。ヒトゲノム? クローンって禁止されてなかったか?

 「この研究が奴らに見つかれば、亡者が熱地学院大学というクモの糸に群がることは容易に想像できますね。それがカンダダである我々の脚を引っ張るためか、クローン技術という釈迦の思し召し、そのおこぼれに預かるためかはわかりませんが」

 「そうだな。この計画の目的は天才の複製であると同時に、未だ世継ぎのいない松永家の子供を作ることだ。我々の監視下に置き、距離を離そう。無いと思うが、順に何かあった時は優が跡継ぎになるんだからな」

 一体、何を話しているんだこいつらは? 聞き覚えのあるワード羅列しやがって。クモの糸を自分だけで使おうとしたカンダダの最後をこいつらは知らないのか?

 「まあ、計画通りなら何事もなく、病弱な子供として生きてもらうまでだ」

 「では……市民病院に連絡……」

 「……そう……手続き……」

 「大川……報告します」

 そこから声が聞こえなくなっていった。


   @


 「で、ここは?」

 気がつくと、俺はプレイヤーのマイルームらしき部屋のベッドに寝かされていた。若干目が回るが、これもその内慣れるだろう。

 妙に体が軽く、そして小さく感じられた。髪が長めなのかさらさらした髪が首筋や頬にかかる感覚がある。筋力があるのか、起き上がるのも軽やかだ。

 まるで自分がアバターであるみたいだ。これがフルダイブか。アバターにプレイヤーの意識をぶち込むのか。ともかく、これが俺のアバターというわけだ。ランダムで生み出されたアバターだ、せっかく普段選ばない男キャラだし、色黒マッチョなイケメンで頼むぞ。

 ストリートファイターでもザンギエフが持ちチャラなくらい、男キャラはガチムチが好みなんだ。

両手を見ると、色白で指が細かった。残念。でも、最近はリアルなゲームが増えてCGでも人の肌と大差ない質感出せるのに、このゲームはそうでもないんだな。

手を見る限り、日本製のゲームらしくリアルさそこそこ、アニメチックなデザインなのだろう。

 俺は起き上がって、ベッドから立つ。身長が小さいのか、やけに目線が低い。

部屋の中央に青白く光るウインドウがあり、『ドラゴンプラネットオンラインへようこそ』なんて書いてある。

 『フルダイブしていてメニューやシステムメッセージはどう開くんだ?』とか思っていたが、なるほど、こういうウインドウを使うのか。

 『まずは鏡で、アバターをチェック!』なんてもついでに書いてあるので、言われた通り、広いだけで何もないワンルーム一人暮らしの部屋にぽつんと置かれた大きな鏡に向かう。姿見ってやつだな。男と飾りっ気の無い姉しかしない家庭でも、身嗜みを整えるために玄関には一応あるものだ。

部屋の窓はシャッターが降りており、外が見えない。どこなのかわからないというのは、漠然と不安を感じる。昔の番組みたいに突然荒野かなんかに放り出されて、『やりますか? やりませんか?』とか言われないだろうな。

 「それより、アバターっと」

 先程から、俺の声がハスキーというか女の子みたいな声だが、これが調べたとこによる『ボイスエフェクト』なるものだろうか。アバターの外見とセットになっていて、ランダム生成されるアバターにあわせて選択されるとか。

 体をよく見ると、それこそ女の子みたいに華奢だが、気にしすぎだろうか? 最近は男の娘なんているし、どうせ女選べないなら近い外見ってのもありだな。ログイン以上に意を決し、俺は鏡を見る。

 すると予想通りというか薄々危惧はしていたというか、


 腰の下まで黒髪を伸ばし、赤い瞳をキョロキョロさせる、小柄で可憐な少女の姿があった。


 「んなっ…………!」

 そんな馬鹿な! 俺は叫びそうになる。しかし、絶句したままの口は叫び声を上げることを許さない。その代わり、頭のアホ毛がピコピコ動いていた。

 これは何かの間違いだ。こいつは最近話題の男の娘キャラだ! と、俺は自分に言い聞かせる。 

 服は初期設定なのか、ちょっと厚手のフード付き黒いワンピース。赤の装飾がカラーバランス的にピッタリかわいらしい。

 ワンピ、つまり、ズボンなどはいてはない。

 精神的ダメージを増加させつつ、俺は決定的確認に移り、ある場所に触れる決意をする。


 つまり胸とか。


 「うげ……」

 確信した、このアバターは女だ! なんかリアルの俺にない感触がある! 見た目まな板だから気付かなかった。着痩せするのか、申し訳程度だが見た目以上にある様だ。

 俺も公式サイトで確認したからこそ、この現象が信じがたい。それに対する不満をも感じていたからこそ、間違えなどしない。こんな不具合、ナンセンスだ!

 「開発者出てこい! 前に出ろ、前だ! バラバラにしてかき揚げにしてやる!」

 誰もいない部屋に、俺の怒りシャウトが木霊する。音の反響まで完璧、すごい物理エンジンだ。ってやかましいわ!

 こうして、俺はこの少女のアバターを外見から『墨炎』と名付け、恐らくであるが『ドラゴンプラネットオンライン』初の性別逆転プレイヤーとなったのだ


 次回予告

 性別反転アバターを手に入れてしまった遊人。そんなコイツも初めてさんがやることは一緒。チュートリアルだ!

 そんな時、遊人の前に一人のプレイヤーが現れる。

 次回、『チュートリアル』。

 遊人、暗き惑星に立つ。

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