番外 進撃! オーガドラゴン!
遅刻(18日)
この後主人公の誕生日も控えてんのにこの始末よ!
そっちも遅刻だがな!
節分イベントとして、解放されたクエストがある。それがオーガドラゴンの討伐である。
これは、遊人がドラゴンプラネットへ誘われる前の話だ。
オーガドラゴンの討伐が出来るのは『自然惑星ネイチャーフォートレス』。自然豊かな星で、街並みは太秦の映画村みたいに江戸時代風味。
「氷霧……」
その中で、ひたすら恵方巻を南南東向いてもくもくと食べる少女がいた。隣にはその様子を唖然と見守る少女もいる。
赤い布をかけた大きな椅子のある、典型的茶屋の一帯は彼女のせいで異様な空気に包まれていた。
恵方巻を食べているのは、藤色の胴着と袴の少女。髪は白く、背中の辺りまで伸ばしている。前髪で左目が隠れ、残った右目も感情を映さず恵方巻を食べ続けている。
ガツガツ、といった感じでは決して無い。ハムスターのようにもくもくと食べているのに、恵方巻は消えるのが早い。
彼女は氷霧。大規模な攻略グループ『騎士団』の内一つ、『惑星警衛士』のサブリーダーである。『騎士団』とは他のゲームでいうギルドに当たるものだといえばわかりやすいか。
「なぁ氷霧、恵方巻ならこの前もしこたま食べたじゃないか」
そんな彼女を見ている少女は、この時代劇めいた街並みに似合わぬ格好をしてた。赤みの差した髪を腰の下まで伸ばし、ポニーテールにしている。
「これは海鮮、昨日は普通の。それよりクイン、今日のクエストだけど」
氷霧は違いをサラリと述べる。そして話をクエストに移す。
氷霧の隣にいる少女はクイン。惑星警衛士ではないものの、リアルで親交のある親友だ。
衣服は工員などが着ているつなぎで、それを上半身はだけて余った袖を腰に結んでいる。つなぎの下は黒のタンクトップだった。
「ああ、あたしら遠距離武器ばっかだから、近接武器のメンバーが欲しいって話だったな」
クインは氷霧から、このクエストを攻略するための人員を確保するよう依頼されていた。
「まぁ藍蘭の奴はお察しの通りだとして、一人確保できたぜ」
クインがここを待ち合わせ場所にしたのは、その人物との合流のためであった。その人物はしばらくして現れた。
「こんにちは」
黒いドレスを纏った銀髪の女性であった。手には大鎌を持ち、ドレスの上からゴツい籠手や胸当てをしている。
「私はネフィ、今日はよろしくね」
「ど、どうも」
クインと話していた時と異なり、急に氷霧がたどたどしくなる。本来の氷霧は人見知りである。
「さて、じゃあさっそくオーガドラゴンの場所までいきましょうか」
反してクイン、そしてネフィは割と社交的である。ネットゲームとはいえ、架空の肉体とはいえ対面で話すのだ。対応はリアルにどうしても近くなる。
ネフィの先導で、氷霧とクインはオーガドラゴンの待つ場所へ向かうこととなった。
ネイチャーフォートレス 鬼ヶ山
「鬼ヶ島じゃなくて鬼ヶ山なんだ……」
雪山を登りながら、クインは呟いた。この吹雪く雪山こそ、オーガドラゴンの住処である。一面雪景色で、傾斜の緩やかなスキー場を登っているかのような感覚に陥る。
3人はスノーモービルで移動しているため、歩きよりはマシである。氷霧とネフィのモービルはウサギのような顔と耳が付いているが、クインのモービルは赤いだけで普通のものである。
これはアニマルフレンズの一種、『ラパンモービル』である。氷霧とネフィのモービルはこれのため、実際のモービルと異なりある程度操縦にアシストが付く。
しかし、クインのモービルはリアルと同じ操縦方法のため、練習しないと扱いは困難だ。
「アニマルフレンズのサポート無しで……」
先頭を突っ切るクインにネフィが驚嘆する。クインは氷霧と同じく14歳だが、ゲーム内でマニュアルの車やバイクを乗りこなすほどの機械マニアだ。
「あまり速くない」
一方、ラパンモービルは初心者向けのスノーモービルということもありスピードが出にくくなっている。速度重視でチューンしたクインのモービルにはどうしても置いてかれる。
「リフトがあればねぇ」
ネフィはそうボヤくが、リフトで何か思い出したのか少し顔を赤らめていた。それに目敏く氷霧は気付く。
「?」
「ん? ああ、この前彼氏とスキーデートしたの。秋人さん、カッコよかったなぁ……」
「?」
氷霧は再度頭上にハテナマークを浮かべる。比喩ではなく、システムが彼女の感情を読んで実際にハテナを浮かべていた。
その時、先頭にいたクインが声を上げる。
「敵だ!」
彼女は前方に敵を見つけた。先行して偵察するのがクインの役割であった。クインはアサルトライフルを手にし、エネミーを見据える。
前方からやってくるのは、スキー板を履いた鬼であった。手には金棒を持ち、あれで殴られたらモービルから落ちて時間をロスしそうであった。
「ヒャッハー! 的だ!」
しかしこのためのクイン。アサルトライフルを構えた彼女にとっては射的の的みたいなものだ。嬉々として持ち出したのは有名なアサルトライフルの一つ、M4カービン。それを片手でぶっ放すと、バタバタ鬼が倒れていく。
このゲームでは、銃器はドラゴンなど生物タイプに効き辛く、先ほどの鬼やゾンビなど人型にはよく効くというバランスに仕上がっている。
鬼の屍を超えて、一行は平坦な広場に出る。三人がモービルから降りると同時に、空から山を震えさせる轟音が響いた。
「来た!」
クインが上を見上げると、一頭の大きなドラゴンが降りてきた。翼は無く、発達した四肢を持つ細身の龍だ。その頭部には鬼の様な角が生えている。
黒い体に黄色い模様が、虎を思い起こさせる。そのドラゴンの咆哮は正に虎のそれである。これがオーガドラゴン、今回のターゲットだ。
広場には、ドラゴンの他にも先ほどみたいな鬼が集まっていた。
「オーガドラゴン……」
氷霧は弓を番える。ネフィも鎌を手にし、クインはマガジンを入れ替えている。
「ん?」
その時、氷霧の目にはネフィが別のものに見えた。小柄な、黒髪を腰の下まで伸ばした女の子の姿がそこにあった。
彼女はこちらを振り向くと、赤い瞳を向けて笑う。
だが、次の瞬間にはその女の子はいなくなっていた。ネフィはネフィであることに変わりない。
人体を飛び出た脳波が生でぶつかり合う空間、それがこのゲーム。氷霧の体質もあるが、それが一瞬の白昼夢を見せたのか。
氷霧はオーガドラゴンに意識を戻し、戦いを始める。まだ見ぬパートナーと、その運命に気づかぬまま。
足柄霞の日記
2月2日
随分とここの生活にも慣れたものだ。みんなで恵方を向いて太巻きを食べる習慣があるらしいな。あと豆。私は17つ食べたな。
来年は私も先輩だ。気を引き締めよう。あれだけのことを乗り越えたんだ。滅多なことではくじけない。と思う。




