少女(数学)
帰ったら複素数を彼は教えてくれるだろうか。見上げたら空は茜色に染まっていて、冬の寒さをやわらげてくれていた。左腕が重い。夜ごはんは天津飯と唐揚げとスープにしよう。おいしいと笑ってくれると幸せだなあ、なんて、ぺちゃぺちゃ音のする道を歩いて家に帰ろう。私は今日も、きっと誰よりも幸せなんだ。
複素数はわからないけれども、先生の話は何と無くわかる。どうして複素数が必要なのかが問題なのではない、だって当たり前のことだし。先生が話していた言葉を思い返せば、ほら、すぐわかるでしょう。二次方程式の解は、複素数を必要としているのだ。ほら簡単。頭の中で語りかければ数字が答えてくれる。でも複素数には実数にできることができないんだよ! あらら、ではこのときだけは必要とされるんだね。いやむしろ、人間に必要とされなかったら生まれなかったんだろう。なんだかそれって、私と似ているじゃない。私ってもしかして、仲間だったのかしら?
ケーキ屋さんのいい匂い。バレンタインはチョコを送ろう。でも、チーズケーキの方が好きだった気がするや。鍵を開けて部屋に帰ったら、目が覚めてしまわないか不安になる。大丈夫、まだ眠っているわ。なら、このまままだ覚めないでいてほしい。この数学がある世界でまだ、夢を見ている。