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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
93/907

          肆


深い深淵の中、ゆっくりと浮かび上がる意識。

耳から内へ届く鳥の囀りに重い瞼を開ける。


見馴れ──ない天井。

というか、天蓋だな。


状況の把握を──と考えて左側から聞こえる寝息と、左腕に感じる重み。

その何方らも、忘れる事も間違う事も無い。



「…可愛い寝顔だな…」



左腕を枕にして此方を向き身体を寄せて、すやすやと寝息を立てて完全に安心し無防備な華琳が居る。

いつ見ても嬉しい物だ。

愛する女が自分の腕の中で見せる寝顔は。


起こさない様に気を付けて仰向けから華琳と向き合う様に体勢を変える。



(…ん?)



ふと、違和感を感じた。

それは“いつも”とは違う有る筈の物が無い感覚。



(…ああ、そうだったな)



寝惚けていた──というか一緒に寝る事が当然過ぎて若干感覚が麻痺していたと思って苦笑。

昨夜──昨日は特別。

昨日から俺達は夫婦と成り“初夜”を迎えた。



(…まあ、そうだよな

初夜、だったんだよなぁ…

ただ、抑圧された欲求って恐ろしいもんだなぁ…)



思い出すと苦笑してしまうのは仕方無いだろう。

いや〜…箍が外れるって、色々と凄いよね。


“初めて”は互いに相手を気遣う位の余裕は…まあ、有ったと思う。

だが、一度求める事に対し素直になると、火が点いた様に燃え上がった。

募りに積もった“想い”が解き放たれた。

燃えて、燃え盛り、脳まで熱が狂わせた。


…いや、違うよ?、俺だけ暴走した訳じゃないよ?

“二人共”だからね?

其処、重要だから。



「……ん………んぅ……」



小さく息を漏らしながら、ゆっくりと瞼が開く。

完全には開き切らず半眼のままで此方を見付けると、両手を俺の首へと伸ばして引き寄せつつ同時に自らの身体を近付けて──



「──んっ…」



唇を重ねて来る華琳。

本人は半分位しか覚えては居ないが、実は一緒に寝た翌日は必ずしてくる。

半分覚えて居ない理由は、“寝惚け”ている為。

もう本能の行動な訳だね。



「…んっ…っちゅ…」



僅かに唇が離れるが直ぐに“もう一度…”と近付──き掛けて止まる。

どうやら目が覚めた様だ。

状況の把握、そして羞恥が思考を染め乱し、硬直。

慣れた遣り取りでは有るが慣れない事も有る。


左腕を曲げ、左手で華琳の頭を撫でながら笑む。



「おはよう、華琳」


「ええ、おはよう、雷華」



平静を装う華琳を見詰め、揶揄う様に唇を重ねた。




 曹操side──


ぼんやりとした感覚。

けれど、胸の奥──心から染めてゆく幸福感。

その心地好さに身を委ねていつまでも浸っていたい。


勿論、私の思考がそんな事許す筈が無い。

…いえ、時と場合に因れば良いのだけれどね。

私だって“甘えたい”時も有るのよ。


何て、下らない事を思考の片隅でしている間に視界が鮮明になってくる。


見えたのは──雷華。

但し、寝顔ではない。

それに“唇”に残る感触と温もりが証拠。

どうやら“また”口付けをしていたらしい。

無意識での自分の行動とは言え不意打ち。

自然と顔に熱が集まる事は自分でも御し切れない。

尤も“慣れたい”とは全く思わない。

上手く“隠したい”とは、思うけれどね。


──と、其処まで考えて、身体の違和感に気付く。


主に胸や太股の辺りにだが普段と違う──雷華の直の温もりを感じる。

同時に自分が“裸”で居り雷華もだと理解する。



(……そ、そうだったわね

昨夜は…その…しょ、初夜だったの、よね…)



昨日、祝言を挙げた訳だがその事よりも先に思い出す記憶が“其方”の事なのはどうなのかしら。

…確かにずっと待ち望んで居た事では有るけれど。



(私は“淫乱”ではないと反論したいけど…

抑、“誰”に対してそれを言うのかしら…)



自分の訳の判らない思考に自己批判をし胸中で小さく溜め息を吐いて、気持ちを切り替える。


そんな事を考えている間も私の頭を撫でている雷華の左手は気持ち良い。

いつも通りの遣り取り。

でも“慣れ”てはいけない掛け替えの無い“日常”と私は知っている。


“おはよう”と真名を呼び挨拶を交わし、寝惚けての口付けを揶揄う様に雷華が唇を重ねて来る。

少しだけ、照れから拗ねた態度になるが気にもせずに私は雷華に抱き付く。



(…え〜と、下腹部辺りに感じる“これ”って…)



一旦、思考の中から外し、記憶の底へと沈めたのだが否応無しに甦る。

しかも、私から抱き付いて置いて離れるのは…

何と言うか女としての──いえ、単純に“怯んだ”と思われそうで嫌だ。



(…で、でも、正直言って“どう”しようかしら…)



取り敢えず、昨日の記憶を参考にして──



(──って、ええっ!?)



自分の変化に戸惑いつつ、“それ”を雷華に気付かれ笑顔で指摘されれば私には誤魔化す術は無し。


後で恥ずかしかろうが今は自分に素直になる事に決め雷華に身を委ねた。



──side out



…え〜と、お、おはよう?

いや、二度目ですよね。



「…うぅ〜っ…」



現在、“前回”起きた時と同じ体勢で寝ているけど、奥様は布団を目元まで被り羞恥に悶え唸ってます。

…まあ、判るよ。

初夜の翌朝から“お盛ん”なのはねぇ…

悪い事じゃあないんだけど“色々”と有る訳だ。

主に“年頃の乙女心”的な苦悩と葛藤が。



「…他人事みたいに…」



さらっと人の思考を読んで的確に指摘してくる華琳。

案外余裕そうですね。



「他人事じゃあないけど、自分に嘘は吐けないしな」



そう言って苦笑しながら、華琳の頭を左腕で抱き寄せ耳許へと唇を近付ける。



「華琳が欲しいって…」


「──っ!?」



瞬間沸騰と言える勢いで、真っ赤になる華琳。

暫くの間は“このネタ”で揶揄えそうだ。

──って、痛っ!?



「〜〜〜っ!!」



万歳する格好で枕を掴み、叩いて来る華琳。

“本気”ではなく照れ隠しでの攻撃だから威力的には大した事はない。

ただ、左腕は腕枕中だし、懐を許している状態なので如何せん防御し難い。

仕方無い。

“別方向”から防ぐか。



「ちょっ、待った!

華琳!、見えてるから!」



名付けて“羞恥心防御”。

さあ、止まれ──



「散々見せといて今更何を恥ずかしがるのよっ!?」


「御尤もぅぶっ!?」



というか、よ〜く考えたら既に羞恥心MAX状態。

振り切って逆ギレ気味なら意味無いじゃん。

とか言って、油断した所に良い角度で貰い軽く意識が暗転して行く。

取り敢えず──俺の馬鹿。




気が付いた時には──とか言う程飛んではいないが、少しだけ無抵抗だった事が幸いしてか華琳の御乱心は治まっていた。

目出度し、目出度し。



「…取り敢えず、お風呂に入りたいわ」


「はは、仰せの侭に…」



そう言って華琳を抱き上げ御姫様抱っこ。

“影”に二人分の着替えを箪笥の中から取り込む。

…え?、何で抱いて連れて行くのかって?

…男の“責任”って奴さ。



「…誰の所為よ…」


「はいはい、俺が張り切り過ぎましたよっと…」



夫婦用の寝室の一角に有る扉を開けて見れば──

あら、不思議。

其処には寝室に併設された夫婦用のお風呂の脱衣室が有るではありませんか。

…至れり尽くせりだよね。

“誰”の配慮なんだか。

怖くて訊けないけど。




 曹操side──


雷華と一緒にお風呂に入り身体と髪を洗って貰う。

別に初めての事ではないし“誘惑”する意味も有って何度か入っている。

意外──ではないけれど、予想以上に頑固だったから少しだけ女としての自信が傷付き掛けたのは内緒。

…まあ?、私の事を大切に想ってくれてる証でも有るから嬉しいのだけれどね。


暫し、湯船に浸かり身体をゆっくりと休める。

雷華が氣で治癒してくれた事も有って、上がる頃には自力で楽に動けた。

…尤も、少しだけ足取りがぎこちないのは仕方無い。

女性特有の物だし。

数日もすれば馴れる筈。


寝室に戻って、鏡台の前に座って髪を櫛で梳く。

鏡越しに見える雷華は髪を無造作に結い上げる。

確か“ポニーテール”とか言ったかしら。

よく見る髪型だけど普通と違う呼び方をするだけでも珍しく思える物ね。


そんな事を考えながら見て居ると雷華が此方へ来る。



「いつも通りか?」



そう言いながら両手で私の髪を梳き、撫でる。

その感触が気持ち良い。


夜を雷華と一緒に寝る様になってからは、髪を整える事は雷華に頼んでいる。

…正直に言えば、少しでも触れられて居たい。

触れ合って居たいから。

絶──っ対にっ!、言えはしない事だけれど。



「そうね…」



いつも通りでも構わないが不意に“勿体無いわよ?”なんて自分に言われた様な気がした。

同時に目に入って来たのは鏡に映る雷華と私の姿。

雷華は陽光の様な白金。

私は雷華よりは深い金。

瞳は紅と蒼とで違うけど、“御揃い”と言える。

…“折角”だものね。

偶には悪くないわ。



「貴男と一緒で良いわ」


「ん、了解」



此処で“一緒が良い”と、言えないのが私の欠点ね。

もう少し素直に甘えられる様に成りたいものだわ。



(…まあ、昔の事を思えば随分増しになったけどね)



出逢ったばかりの頃なんて雷華は勿論、誰に対しても甘える事は無かった。

“甘え”と“弱さ”を同じだと考えていたから。

今になって思えば、それは子供の意地か“背伸び”の現れだったのだろう。


もしも、雷華と出逢わずに成長していたとしたら…

私はきっと“孤独”の中で“仮面”を被り生きていたかもしれない。


そう思うと不思議な物だ。

一つの縁が私を変えた。

そしてその縁は更に多くの縁を招き、結い合わせる。

“想い”と共に。



──side out



身仕度を整え、華琳と共にいつもよりは遅い朝食──いや、早めの昼食?──を済ませて城へ向かう。

私邸内に人気は無い事から昨夜は誰も戻って居らず、今朝も来て居ない様だ。

まあ、そのお陰でと言うか華琳と二人新婚水入らずで料理したり出来たが。



「あら、お早う御座います

今日は昼まではごゆっくりされる予定では?」



最初のエンカ──出会った相手は漢升。

けろっとしてるな。

俺が覚えてる時点だけでもかなり飲んでた筈だが。



「女体の神秘です」


「いや、絶対違うから」



漢升の読心&ボケに対して間髪入れずに返す。

お互いに体調に問題は無い様だな。

華琳が左隣で呆れた様子で溜め息を吐いてるが。



「で、他の皆の様子は?」


「過半数は程度を心得ては居ましたから職務へ影響や問題は無いかと…

ただ、街で飲んだ一部には二日酔いの者が多々…」


「羽目を外し過ぎね…

まあ、最低限明日に復帰が出来れば良いわ」



一応、それを見越して先に薬を用意して有る。

但し、前後不覚に成るまで飲んだ馬鹿には遣るな、と予め言ってある。

失敗から学べ、という事。



「畏まりました

──ああ、華琳様」



一礼し、去ろうとして態と“今気付いた”体で漢升は振り向いて微笑む。



「“お似合い”ですよ」


「あら、ありがとう」



物凄く嬉しいのを抑えて、平静を装って微笑みながらさらっと返す華琳。

それを見て“満足”そうに小さく笑い、会釈して立ち去る漢升。

何方の気持ちも解るだけに苦笑してしまう。


その後も、仕事は昼からの予定にも関わらず既に準備したり、早い者は始めても居たりした。

良い事だけど、休もうな。

“御気に為さらずに〜”と言われる此方の方が何だかサボってる様で居辛い。


死屍累々の城内、を少しは想像していた俺としても、拍子抜けだったし。

華琳曰く──



「貴男の“教育”の賜ね

良かったじゃない」



──との事。

“反面教師”の意味じゃあないとは思うが。

…違うよね?、俺だって、“仕事”はしてたよ。

“裏”のだけどさ。



まあ、そんなこんな感じで結局は新婚翌日から即座に“日常”へと戻る。


新婚生活等は“大掃除”が終わってから満喫しよう。

その為に今は“お仕事”に励みますか。




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