表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫三國史  作者: 桜惡夢
913/915

曹奏四季日々 43


 黄忠side──


──一月二十二日。


妊娠の兆候というのは当然なのだけれど、個人差が有るものです。

その為、自他共に気付かないという事も。

時には七ヶ月目、八ヶ月目まで気付かないといった場合も稀にですが有るそうです。


「……少し太ったかしら?」と。

悪阻も特に無く、食欲も旺盛では、太る心当たりが有るから、そう思ってしまうのも仕方の無い事。

御腹も大して目立たず、体調も変わらない。

そうなると気付く切っ掛けが無いですからね。


「まさか、そんな事は……」とは思いますが。

話を聞いただけではなく、実際に自分自身が妊娠を経験してみると、納得も出来る様になります。

雷華様の妻ではなく、氣が使える訳でもないのなら切っ掛けが無ければ気付き難いものなのだと。


ですが、きちんとしていれば気付くものです。

女性であれば必ず。

自分の事なのに、自分では御し難い体調不良。

毎月の様に有る、ソレが無くなりますからね。

それにさえ気付かない人は、余程忙しく働いていて自己管理意識が疎かになっているのでしょう。

仕事に支障が出なければ、調子が良いと思えるので気にし難くなるのは判りますから。


私達には雷華様がいらっしゃいますからね。

気付くのは当然だとして。

悪阻もですが、御腹の目立ち形は差が出ます。

華琳様は五ヶ月目になってからでしたが。

私は三ヶ月目で、それなりに目立つ様に。

同じ第一陣の皆が殆ど目立っていない中でです。

ちょっと不安になってしまったのは仕方の無い事。

頭では理解はしているのですけどね。

つい、比較してしまいますから。

ええ、別に何も問題は有りませんでしたから。


御腹の中の子供の成長が早いとか、大きな子供の為といった事でもないそうです。

六ヶ月を過ぎれば子供にも違いは出るそうですが。


私の場合、そういう体質みたいです。

ええ、単純に御腹が目立ち易いだけでした。


……それを聞いた時、若い頃には御腹が出易い事に悩んだり、気にしていた時期も有りましたね。

何時頃からか、気にしなくなっていましたが。

…………ああ、思い出しました。

確か、御腹が出る事よりも、胸が大きくなり始めた事が気になりだしたからですね。

御腹が出ている事を気にするのは女性の方が多く、胸を気にするのは男性が多いですから。

その視線等を気にしていたからですね。


成る程……人は二つ以上は同時には気にしないものという事ですか。

娘達が悩んだ時には話してあげたいですね。



「思春期の娘──女の子というのは難しいですから思い込み過ぎるとズレ(・・)ますよ?」


「そういうものですか?」


「ええ、思っている以上に難しいものです

確か……“女心と秋の空”、でしたか?

アレは、とても上手い喩えだと思いますよ」



そう言って苦笑する雪那。

……ああ、灯璃の事ですね。

私達は出逢ってからの彼女の事しか知りませんが、雪那はそれ以前から知っている訳ですから……

思う所も有るのでしょうね。


子供という事では、私達も孤児院の子供達との触れ合いが有りますが、殆どの子供達は察して(・・・)います。

その為、大きな問題を起こす子は居ません。

年長の子供達は自主的に年少の子供達の面倒を見て積極的に関わってくれていますしね。

私達に甘えるにしても、限度を見極めています。


「嫌われたくない」「追い出されたくない」という理由ではなく、常識的に考えて。

実際、興味が有る事や挑戦・体験してみたい事等は可能な限り、出来る様にしてあげています。

経験する事でしか判らない事は多いですからね。

経験こそが成長の一番の糧でしょう。



「……想像とは違う、というのは怖い事ですよ」


「それは……そうなのではないかしら?」


「単純に予想が外れた、という意味では有りません

私達が子供達を育てる時、其処には少なからず頭に思い描いている成長像(姿)が有ります

勿論、それは子供達にしても同じですが……

私達は自分自身が目標を定め、達成しています

……まあ、まだ誰も雷華様には勝てていませんが、それは生涯目標ですから、外します」



そう言う雪那は自然と眉間に皺を寄せる。

知的で冷静で温厚な彼女も、私達に負けず劣らずの負けず嫌いですからね。

数える気にも為らなくなった雷華様への挑戦回数。

それを思い出せば、悔しくなるのも当然です。

釣られて私も思い出して、悔しくなりますから。

それでも、「次こそはっ……」と思うのですから。

雷華様も罪深い御方だと思います。

その分、私達も成長出来るのですけどね。



「コホンッ、話を戻しますが……

経験が有るからこそ、誤差が大きくなってしまうと当然の様に、そうなってしまった要因を考えます

私達の教え方が悪かったのか、遣り方が子供達には合わなかったのか、と色々とです

ですが、その時、子供達と遣り取りをしますか?」


「………………しないでしょうね」


「ええ、雷華様は“自分で考える”事を教育の中で最も大事にされていますが、私達は影響が強過ぎて自分の中で先ず考えようとするでしょう

ですが、それは本来、子供達自身が行うべき事です

私達は見守り、思考し易い様に促す事が大切になる訳ですが……つい、遣ってしまい勝ちな訳です」


「……そうね、そうなると思うわ」



雪那の話を聞きながら、その情景を想像してみれば言われた様にしている自分が容易に思い浮かぶ。

子供達こそが主体なのに、親の自分が考え過ぎる。

「子供の事を思えばこそ……」と考え勝ちだけど、それは結果的に子供の考える、成長する機会を奪う事になってしまう。

でしゃばらない(・・・・・・・)というのは意外と難しいものね。

改めて、雷華様の凄さを思い知らされます。



「頭では理解していても遣ってしまう事というのは日常生活の中にも多々有る事です

しかし、成長という成果は判り難いものです

その為、どうしても比較の参考にするのは経験(・・)です

それ故に、陥り易い訳です」


「……確かに、想像と違うというのは怖いわね」



それは、ちょっとした事でも起こり得る事。

例えば、話し方。

自分達とではなく、同じ子供達と比較して。

教えた通りに出来無い時。

「どうして出来無いの?」と口にしてしまう。

それが一人言で、自分の中で考える為でも。

それを子供が聞けば、責められていると感じる。


例えば、箸の持ち方・使い方。

作法として身に付けた方が本人が恥を掻かない。

そう考えての指導だとしても強制的に遣らされると嫌でしかないから、身に付き難い。

何故、その作法が必要なのか。

何故、そうした方が良いのか。

それを先に理解するべきなのだけど。

形を先に求めてしまう事は珍しくない。


そんな風に考えれば、大小様々で切りが無い。

それだけ、学ぶ事というのは世の中に多く。

大人でさえ、死ぬまで学び続けるのだから。

子供の内に全てを身に付ける事など不可能。

だから、学び事の意味を、大切さを伝えたい。

雷華様の教育理念の素晴らしさ。

その根幹の重要さを改めて考えさせられます。



「まあ、遣る気(・・・)を如何に引き出すか

それが子供達に対しては一番重要なのでしょうね」


「遣る気、ねぇ……」


「私達は女ですから、判り易いでしょう?」


「ああ……そうね(・・・)、判り易いわ」



「欲塗れだ」と言われても否定は出来無いわね。

私達が頑張る一番の理由は、雷華様だから。

「世の為、人の為に」なんて後付け(・・・)よね。

雷華様を求めるから、私達は頑張れるのだから。



「そう考えると普段から子供達がどんな事に興味を持っているのか気にしていないと判らないわね」


「食べ物等の好み等は判り易いですが、趣味嗜好は対話は勿論、よく見ていなければ判りません

珀花や翠の様な性格なら判り易いですが、螢や恋、蓮華みたいだと気付き難いものです」


「螢と恋は特殊ですけど、蓮華の様な子は世の中に少なくはないでしょうね」



真面目で、頑張り屋さんで、人一倍気にし易い。

だから、飲み込み(・・・・)、抑え込み──浸食(・・)される。

本人でさえも気付かない程に。

深く深く、淵の淵の、奥の奥の、底の底に。

降り積もり、積み重なり、堆積し続けて重くなる。

そして、軈て耐え切れなくなり破綻──自壊する。


蓮華は運良く、その前に雷華様と出逢えた。

それが如何に大きな事だったのかは、当事者である蓮華でなくても判る事。

姉の孫策殿も心から雷華様には感謝していました。

……まあ、侍女としては愚痴ってはいましたが。

多少は見られる様にはなってはいましたが……

侍女としての道も奥が深いものです。


ええ、雷華様の妻だからと言っても無理です。

それっぽい事は出来ますけど。

本気で遣ろうと思うと大変ですからね。

一日だけなら頑張れるとは思いますよ。

当然、最後に雷華様からの御褒美付きでならです。

無償(タダ)では遣れません。


──と、思考が逸れてしまいましたね。


──なんて思っていたら、雪那が苦笑しています。

何を言いたいのか、判りますよ。

ええ、貴女も同じ事を考えていたのですよね?



「私達は家事は一通り出来ますし、礼儀作法も問題有りません

他所でなら、問題無く侍女が務まるでしょう

ですが、曹家の侍女は別格ですからね……」


「アレで、いざとなれば最終防衛戦力ですからね

勿論、彼女達の出番が有っては困る訳ですが……」



一度か、二度しか見た事は有りませんが……

彼女達は壬津鬼とは違う意味での雷華様の傑作(・・)

時には一緒に御茶を楽しんだりもしますが、そんな彼女達は掛け離れた一面も持っていますからね。

……アレで雷華様の妻ではないのが不思議です。

まあ、だからこそ、とも言えるのでしょうね。

御手付き(・・・・)では務まりませんから。



「しかし、侍女物(その手)の話は多いですよね

実際には滅多に無い事なのですが……」


「だからこそ、なのでは?

珍しくはないなら、価値が有りませんから」


「それもそうですね

ですが、侍女設定(アレ)は少し癖になりそうです

似た事はしている筈なのですが……」


「普段とは違う立場や関係を想定して、ですからね

その想像が一種の刺激になるのでしょうね

因みに、私は歳上の従姉という設定が好きです」



その設定だと、雷華様に「紫苑姉」と呼ばれます。

現実でも設定でも歳上は歳上ですが、“姉”という付加価値が付くだけで萌え(・・)ますから。

あと、歳下を誘惑するという背徳感が有ります。

夫婦ですが、それはそれ、これはこれ。

自分達で楽しむ分には誰にも迷惑を掛けません。



「貴女は普段から面倒見が良いですから、雷華様が相手でも「甘やかしたい」「甘えて欲しい」という欲求が強いのでしょうね

歳上の者には少なからず有る欲求ですから」


「貴女も?」


「ええ、勿論です」



そう言って瞑目する雪那。

僅かに頬を赤くし、口元を緩めている姿を見れば、思い出しているのでしょうね。

各々に、自分だけの雷華様との思い出も有ります。

大体は話したり、聞いたり、共有していますが。

二人だけの秘密も、それなりに有りますから。

ええ、私にも言わない事・言えない(・・・・)事は有ります。

色んな意味で。


だから、不粋な事は言いません。

興味が無い訳では有りませんが。

一つ聞けば、一つ話す。

それが暗黙の掟ですからね。

皆、手札(・・)は切りたくは有りませんので。


なので、話を戻します。



「でもまあ、まだ産まれてもいないけど、子供達がどの様に成長し、何を見せてくれるのか

それは今から楽しみだわ」


「ふふっ、そうですね」



私の子供だからと言って弓に長けるとは限らない。

勿論、弓術に興味を持ってくれたら嬉しいわ。

だけど、剣術でも槍術でも斧術でも構わない。

政治や経済、商売や商品開発、環境事業等々……

どんな事であろうと、自らが人生を懸けられる様な何かを一つ見付けてくれたら、それで十分。

見付けられる様にしてあげるのが親の責任です。



──side out



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ