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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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曹奏四季日々 41


 孫権side──


──一月十五日。


軍将としての仕事が略休業となっている今、私達の主な日常的な仕事は興した自家に関わる事が多い。

家臣等は縁が有る者や部隊から引き抜ける。

ただ、軍師陣と違い、私達の方は自家の経済面での管理能力を身に付けなくてはならない。

雷華様の妻だけれど、其処を頼る真似は出来無い。

その場合、自家を興した意味が無くなるから。

だから、其処で苦労する者も少なくはない。

軍将だけではなく、壬津鬼にも居るから。


私は、然程苦労はしていないわ。

こういう性格だから、その辺りは几帳面だもの。

私の場合に限って言えば、他家との交流面ね。

自分で言うのも何なのだけれど、決して、気安くて親しみ易い方ではないから。

勿論、人間関係で問題は無いわよ。

ただ、誰とでも仲良くは出来無いし、愛嬌も無い。

……今更ながらに実の姉妹が羨ましくなるわ。

まあ、雷華様の前では甘えられるのだけれど。



「──え?、袁術と張勲が?」



意外な名前が話題に出た事に正直、驚いた。

一緒に居る泉里・秋蘭・流琉も同じ様に。


ただ、やはり、私は三人よりも複雑な心境。

袁術達とは何だかんだで色々と有ったのだから。

単に驚いたという事では済まない。

まあ、だからと言って今更、どうこうしようだとも思いはしないのだけれど。


因みに、その話をしてくれたのは藤菜。

瀞良と一緒に城内に居た所を御茶に誘った。


ただ、その話を聞いて私よりも驚いたのが瀞良。

藤菜を「聞いていないわよ?」と睨んでいる。

無理も無いわね。

その二人を助けたのが、瀞良の弟の喬婉だから。

ある意味、一番関係しているとも言える。


藤菜は「話そうと思っていたら……」という感じで苦笑しながら私達の方を見た。

……成る程ね、其処に声を掛けた訳ね。

まあ、一緒に聞けば手間が省けるでしょう?

ええ、そう思っておく事にしましょう。



「それにしても姉様もよく袁術を赦したわね……」


「その袁術さんがとても堂々としていたそうです」


「…………袁術なのよね?」


「──と、孫策さんも思わず言ったそうです」



…………そうよね、そうなるわよね、姉様……

だって、あの袁術でしょう?

正直、藤菜の話の袁術とは重ならないわ。

──とは言え、袁術も成長するし、改めもする。

甘やかす張勲が傍に居るから変わったとは考え難い事は仕方が無いでしょうが……可能性は有り得る。

…………御免なさい、自分に嘘は吐けないわ。

無理ね、自分の目で確かめないと信じられないわ。


でも、あの姉様が袁術を赦したのも事実。

事実である以上は、そういう事なのでしょう。

どんなに信じ難い事であったとしてもね。



「それで、彼女は助けてくれた喬婉くんに?」


「一目惚れだそうですよ」



泉里が訊くと、そう藤菜が答える。

思わず泉里達が「おお~」と声を出す。

「きゃあ~っ!」と騒がない辺りは、戦禍の時代を生き抜いてきた女性だからなのかもしれない。

……と言うか、私達って、そういう盛り上がり方は殆どした記憶が無いわね。

藤菜達はしているのを見た事が有るけれど。


…………そういう反応の方が可愛気が有るかしら?

いえ、別に他人の印象を気にしてはいないわよ。

ええ、気にするのは雷華様が受ける印象だけ。

だから、雷華様が、どう思うのかが気になるのよ。

…………大して気にされないでしょうね、きっと。



「……ん?、では、瀞良にとって袁術は義妹か?」


「それを言ったら、私達の身内にもなりますよ?」


「あー……まあ、そうだったな

何だかんだで、彼方等には血縁者が多いからな」


「悪い事ではないのだけれどね」



その繋がりを、()と成すか、()と成すか。

それは姉様達次第でもあるから。


まあ、それはそれ、これはこれ、として。

袁術は兎も角、よく張勲も姉様は赦したわね。

ある意味、アレが一番厄介な者でしょうに。



「喬婉くんの方は、どうなんですか?」


「聞いた限りでは、かなり袁術さんを意識しているみたいですよ

勿論、御互いに男女として」


「……判らないものね」


「そうですか?

皆様も雷華様に助けられて、ですよね?」



そう藤菜に言われ──私達は顔を見合わせ、苦笑。

確かに、一目惚れって、そんな感じになるわよね。

細かい状況や経緯は違っていたとしても。

一目惚れで落ちる瞬間というのは理屈ではない。

直感的であり、本能的であり、理由など後付け。

兎に角、想いが、欲求が、溢れ出すのだから。



「しかし、よく張勲が大人しくしているわね」


「その張勲さんも喬婉くんを意識しているそうです

……まあ、ちょっと理由は意味不明ですが……」


「……?」


「ちょっと、変な言い方しないでよ」


「あ、御免ね、変な意味じゃない……事も無い?」


「私に聞かないで」


「そうだよね~……」



そう苦笑しながら、藤菜が話した事は……納得。

「それはそうなるわね……」と。

藤菜の戸惑いに頷くしかない。

まあ、他所の事、という事で割り切りましょう。

考えても仕方が無い事なのだから。




御茶も終わり、解散。

私は私邸に戻る──気にならず、少し出掛ける。

護衛が無くても歩けるというのは気楽で良いわ。

昔は監視の目も有ったしね。

人も、世の中も、変われば変わるものだわ。


──と、足元に擦り寄って来た一匹の三毛猫。

額に小さな菱型の白い模様の有る子で、顔見知り。

雷華様程ではないにしても、私達にも各々に特段に懐かいてくれている子達が居る。

この子は私に懐いてくれている内の一匹。


因みに、私より先に仔供を産んだ母親の先輩。

まあ、その事が切っ掛けで知り合ったのだけれど。

今では懐かしい話ね。


そう思っていると、前足を伸ばして立ち上がる。

「勿論、寄って行くわよね?」とでも言う様に。

そんな風に誘われては私も断り辛い。

明命だったら、手持ちを使い切る所ね。



「──あら?」


「──ん?、ああ、蓮華か」



案内されて着いた店の中には先客──冥琳が居た。

その膝の上には白黒のブチ柄の仔猫が二匹。

見た感じ、まだ三ヶ月といった所かしら。

安心し切って、“へそ天”で眠っている。

ふふっ、可愛らしいわね。


そう思っていると、私を案内してくれた子が冥琳の横に行って御座りをする。

そして、右前足で、トントンッと、座席を叩く。

……冥琳の横に座れ、という事ね。

本当に……誰に(・・)似たのか接客上手なんだから。


その様子を見ていた冥琳も苦笑している。

まあ、だからと言って悪い気はしないのだけれど。

そういう意味だと、この子達も本物の接客猫よね。


座ると同時に見計らった様に遣って来る女性店員。

猫達だけではなく、彼女等・彼等も同じよね。

御客を見て、間を合わせるのだから。


ええ、私は注文は先に決めてしまう方だから。

直ぐに来てくれる方が嬉しいわ。

大体、御店に着くまでには決めているから。

尤も、新作が有ると、それと秤には掛けるけれど。

然程時間は掛けないわね。

……昔の事は言わないで頂戴。

冥琳も意地悪なんだから。



「ところで……もしかして、貴女も呼ばれて?」


「いや、私は偶々だ

外に用が有って帰りに寄ったら──こう(・・)なった」



そう言いながら、伸びている片方の仔猫の喉を指で優しく撫でてあげる冥琳。

その指使いに眠りながらも仔猫は更に伸びる。

勿論、実際には伸びてはいない。

正確に言えば、反っている。

ええ、知らなければ心配しそうな位にね。

三日月みたいに見えるわ。


──なんて思っていると、私を案内してくれた子が小さく鳴くと、冥琳が撫でていない方の仔猫が起きキョロキョロとして、立ち上がって此方等に。

躊躇無く私の膝の上に上がってくる。

下から掬う様に手を差し出せば、躊躇する事も無く、自ら顎を乗せてくる仔猫。

そのまま指を動かせば、身を任せる様に甘える。

……何というアザとさなのかしら。

明命だったら、悶絶死しているかもしれないわね。


まあ、それは兎も角として。

何故、この仔猫を?



「貴女の仔供……じゃあないわよね」



既に避妊しているから、もう仔猫を産む事は無い。

普通に考えれば、保護された仔猫。

その親代わり、という事なのだけれど……。

仔猫の反応が、何と無く引っ掛かるのよね。


そんな私の思考を察したのか、冥琳が小さく微笑みながら教えてくれた。



「この子の孫猫らしい」


「そうなの?」



その子を見ると、「ふふん、可愛いでしょう?」と言わんばかりに嬉しそうな顔をしている。

……猫にでも孫馬鹿って居るのね。

ああ、御免なさいね、馬鹿にはしていないわよ。

ええ、可愛いのは確かだから。


甘えながらも、戯れ付く様に指を掴む仔猫。

指先を小さな口で甘噛みし、ペロペロと舐める。

……その仕草は反則だわ。

この子ではないけれど、心を掴まれてしまう。


思わず夢中になりそうだけれど──堪える。

気になる事が有るのよね。



「孫猫という事なら、何方等(・・・)の仔供なの?」



この子が仔猫を産んだのは一度だけ。

雄一匹に雌二匹。

雄の子は去勢していた筈だから、残る何方等か。

でも、確か、何方等も避妊したと聞いていた筈。

……ああ、でも、それは二ヶ月前の話だったわね。

産んだ後なら、別に可笑しくはないわね。



「この子の仔供だな」



その声に振り向けば雷華様が居らっしゃった。

左腕に抱いた額に白菱の有る黒猫は、確かに娘猫。

成る程、その子が母親に……感慨深いわ。

そして、今は避妊後の検診を受けていた訳ね。

雷華様が店の奥から出て来られたから。


ただ、その雷華様の肩や頭の上、右腕には別の猫。

足元にも数匹が甘えながら並んで歩いている。

アレで一度も踏んだり、躓いたりした事が無いから雷華様は凄いのよね。


……華琳様?、猫達の方が前を歩かないわ。

ええ、猫でさえも、その歩みを邪魔しない。

まさに真の覇王よね。

…………どうせ、私は邪魔されまくっているわよ。


──と、僅かにささくれ立った感情を察したのか、仔猫が私の指を両前足で挟み込む。

…………そうよね、些細な事よね。

有難うね、は~い、こちょこちょしまちょうね~。


仔猫を構っている間に、雷華様の腕から下ろされた母猫は祖母猫の所に。

顔を擦り寄せ、舐めて貰っている。

……そう言えば、あの子は甘えん坊だったわね。

まあ、まだまだ甘えん坊ではあるみたいだけれど。


そんな子でも母親になっている。

人とでは生物的にも社会的にも違うのだけれど。

動物というのは不思議よね。

早いと生まれて半年で親になるものも居る。

勿論、違うのだから当然と言えば当然だけれど。

生命の神秘には驚かされるわ。

自分自身が親に成るからこそ、尚更にね。



「人は親だけでなく、社会という集団環境を築いて子供を守る方法を選んだから、今の形が有る

もし、そうでなければ人も妊娠期間が短い筈だし、生まれてからの成長も早かっただろうな」


「そうしなければ生き残れないから、ですね」


「生命の在り方を繙けば、生きてきた環境が見える

それ自体に良し悪しは無いが、それを知る事により気付く事や学ぶ事が有る

生まれてくる子の可愛さも一種の自衛手段だしな」



そう、私の思考を察した様に仰有る雷華様。

然り気無く、良い所を持っていく冥琳。

軍師のそういう所って抜け目が無いと思うわ。



「──で、蓮華、御前に名付けて欲しいってさ」


「……私に?」



雷華様の言葉に母猫、祖母猫を見る。

「はい、御願いします」と。

そう言っている様な真っ直ぐな眼差し。

「貴女に御願いしたいの」と。

其処に込められた感情が伝わってくる気がする。


……そうね、これも縁よね。

貴女達にとっても、私にとっても。



「判ったわ」



そう承諾し、自分の膝の上の仔猫を見る。

冥琳の方の仔猫も居るから、ちょっと大変だけど。

これから沢山の名付けをする事を思えば良い機会。


しっかりと向き合って考える。

この仔達の未来を思い、願いを込めて。



──side out



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