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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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曹奏四季日々 39


 郭嘉side──


──一月六日。


まだ世間が正月気分を引き摺っている中、既に元の日常へと戻している。

それは良い事なのか、悪い事なのか。



「良い事だと思いますが?」


「えー…もっとのんびりした~い」



真顔で何を言うのかと思えば…珀花らしいですね。

冥琳の目が無いから随分と弛んでいますが。

あまり酷い様なら冥琳に報告します。

まあ、この程度は気にもしませんけど。



「その分、何処かに皺寄せ(・・・)が出来ますが?」


「それは無しで~」


「そんな都合の良い事、有る訳が無いでしょう…」



全く…貴女は……。

しかし、こういう会話が、時として私達に予想外の気付きを与えてくれる事も有ります。

だから、「言うな」とは言えません。

冥琳ですら、二人の関係性が有る上で、忙しい時や喧しい時や鬱陶しい時にしか言いませんからね。


ただ、もう少し自覚と自制はして欲しいものです。

貴女も立場が有る身なのですよ?。


それに、もう直ぐ第二陣の妊活(・・)期です。

私も貴女も其処に入っているのですから。

母親となる上での自覚もして欲しいものです。


まあ、その辺りは多少は仕方が有りません。

当初は第一陣から半年間空ける予定でしたが、色々都合等も有り、それが前倒しと変更に。

第二陣は一ヶ月前倒しで、もう直ぐ開始。

第三陣は三ヶ月後──四月に変更になりました。

私達に否は有りません。

少しでも早く雷華様との子を成せる訳ですからね。

嬉しい限りです。


第二陣は私達に桂花・翠・思春・秋蘭・葵・斗詩。

第三陣は残りの泉里・螢・彩音・灯璃・鈴萌・凪・流琉・恋になります。

其処に壬津鬼からも加わりますからね。

来年は相当賑やかな新年になるでしょう。

思いを馳せるだけで口元が緩んでしまいます。



「──っと、入りなさい」



そんな事を考えていると、扉を叩かれ(ノックされ)、声を出す。

「失礼致します」と返し、入って来たのは瀞良。

その手には積み上げられた本は二十冊以上。

重そうに見えますが彼女も氣を使えますし、日々の鍛練も欠かしてはいないので平気です。

…そう考える私も随分と染まった(・・・・)ものです。

嫌な気は微塵もしませんが。



「稟様、昨日仰有っていた資料を御持ちしました」


「有難う瀞良、助かります」



私の机の角に邪魔に為らない様に置いてくれる。

これが誰かさんだと、机の真ん中に置いたり、一々立たなくてはならない場所に置く訳ですが…。

見倣って欲しいものです。

──という視線を向ければ、外方を向く始末。

本当に……誰に似たのやら。


そう思いながら念の為に確認している瀞良を見て、ふと、懐かしくなりました。

当初、必要最低限の礼儀作法は出来ていましたが、言い換えれば、それだけでしたからね。

まあ、曹家の基準では(・・・・・・・)ですが。

その頃を思えば彼女も随分と成長したものです。



「……稟様?、どうかされましたか?」


「いえ、少しばかり、初めて会った頃の貴女の事を思い出していただけです」


「──ぅ…色々と御迷惑を御掛けしました…」


「ああいえ、そういう意味では有りませんよ」



その様な意識は私には有りません。

誰しも初心者や未熟な時期というのは有ります。

その時の失敗等を、教える立場から見て迷惑等とは全く思ったりはしません。

それを言えば、私達は雷華様には迷惑を掛け続ける不出来な妻という事に為りますからね。

ええ、耐えられません。

そして、それ以上に卑屈に為っていれば、雷華様に身を以て教え込まれる事になります。

……おっと、思い出したら身震いが…。

“過ぎたるは毒の如し”とでも謂うべきでしょう。

妻として、女として、嬉しいのですが…ねぇ…。

アレは危険過ぎます。

戻れなくなるのなら兎も角、壊れるでしょう。

まあ、そのギリギリを見極めて攻めるのが雷華様。

だから、余計に危険なのですが。

……もう一度なら、味わってみたいものです。


──という事を考えながら、瀞良を見詰める。



「あの頃の貴女達は、私達にとっても、まだまだ妹という感じでしたが…

月日が経つのは早いな、と思いまして」


「まだまだ自分でも力不足は否めませんが、一応、成長はしている実感は有りますから…」


「ええ、貴女達も皆、しっかりと成長してます

それとは別に、女として(・・・・)成長したな、と…

そう思っただけです」


「──っ、あ、有難う御座います…」



この流れは予想していなかったのでしょうね。

不意打ちになり、一瞬の間を置き、頬を赤くする。

ふふっ、そういう所も可愛らしいだけではなくて、艶やかさを帯びる様に成りましたからね。

恥じらい方が魅力的に成りましたよ。


私達の後進であり、雷華様の次の妻候補者の筆頭。

それでも、曹家に来た当時は子供でしたからね。

まあ、結婚しても可笑しくはない歳でしたが。

其処は雷華様が十五歳以上と(線引き)されましたから。

仕方が有りません。

華琳様でも其処は無理強いも出来ませんから。


ただ、子供とは言っても、見た目だけなら、私達の何人かとは大差が有りませんでした。

ええ、年齢という以外、直ぐに妻として迎えても、違和感は無かったでしょうね。


勿論、それから今日までの時間を成長に費やして、女としても、妻としても、相応しくなる様に。

その成果は確と出ています。

今では軍師陣(私達)の補佐だけではなく、産休中の代行を担う筆頭でも有りますから。

本当に頼もしく成ったと思います。

尤も、まだまだ私達を脅かすまでには足りません。

ですから、更に上を目指して欲しいものです。

そんな希望も心配も要らないでしょうけど。

何しろ、雷華様と共に歩む事を望む訳ですから。

この程度で満足していては役不足です。

華琳様は勿論、私達も誰一人として認めませんし、誰よりも雷華様が受け入れませんから。

これからも精進して行きましょう。

ええ、私達もですから。



「んふふ~、此方(・・)も成長してるね~」


「ファアッ!?、は、珀花様っ!?」



…そんな雰囲気を台無しにする天才が居ましたね。

全く……ああでも、確かに成長していますね。


元々、可愛らしい娘でしたが、今は更に綺麗に。

背も伸び、出る所は出て、引っ込む所は引っ込み、雰囲気も落ち着いています。

…まあ、藤菜とは相変わらずですが。

その辺りは個々の関係性の一部であり、個性。

珀花(コレ)に比べたら可愛いものです。



「り、稟様っ、見てないで助けて下さいっ!」


「ニュフフフ~──ぁ痛ぁっ!?」


「──何を遣ってるんだ、お前は…」


「子和様ぁーっ!」



瀞良の胸を揉んでいた珀花の頭に落ちる拳骨。

冥琳からも「ガツンと厳しく」と注文が有るので、雷華様も容赦はしません。


そして、解放された瀞良は好機を逃さず抱き付く。

しっかりと雷華様の胸に飛び込み、押し当てる(・・・・・)

その程度で雷華様が日和る事は有りませんが。

効果が全く無い訳では有りません。

ええ、今では懐かしい話ですが、私達も隙有らば、雷華様に抱き付いたりしていましたから。

雷華様は拒絶はしません。

普通の反応はしてくれませんが、意識していない訳ではなかったそうですからね。

そういう小さな積み重ねも大事な駆け引きです。



「瀞良ちゃんの成長の確認!」


「開き直る事か…」



「やれやれ…」と言う様に溜め息を吐きながらも、腕の中の瀞良の頭を撫でる雷華様。

……ああ、妹分として接しているから、その辺りの警戒心は緩い訳ですね。


瀞良も「もう少し意識して下さいよぉ…」と。

拗ねる様に雷華様の胸に顔を擦り付ける。

…構って欲しい猫みたいですね。

口には出しませんが。

だから、どうしても微笑ましさが勝ります。


まあ、雷華様も瀞良達の事は受け入れているので、態と焦れさせているのでしょうね。

此処で受け入れてしまうと前例が出来ますから。

妊娠・出産・育児の負担を考えればこそ。

雷華様が、十代前半での結婚は避けたいというのは理解が出来ますので。

特に女性側の事を考えて、ですから。


不満でしょうが、必要な事でも有ります。

頑張りなさい、瀞良。

そのもどかしさは私達も通った道ですから。


──ですが、それはそれとして。

これは失念していましたね。

成る程…こうなると親いのも考えものですね。

私達の子供──特に嫡男の相手は早い内に候補者を引き合わせるつもりでしたが…考え直しですね。

早過ぎると、男女の関係よりも、兄妹・姉弟の様な関係の方が強くなるのは困ります。

全く発展・進展しないという訳ではないでしょう。

飽く迄も、可能性の一つなので。

ただ、そういう誤算は省きたいのが軍師(私達)の性。

勿論、最終的には本人達次第では有りますが。

立場上、完全な自由、とは行きませんので。

ある程度は、用意(・・)する必要が有ります。


それに…適度(・・)な距離感というのは至難です。

個人差は勿論、各々の感覚ですからね。

私達が良いと思っても、実際には判りません。

その辺りの調整や加減は不可能に近いでしょう。

………切っ掛け作りにしておくべきでしょうか。


──と考えていたら、雷華様と目が合います。

「理解は出来るが、気が早過ぎだ」と視線で注意。

思考を見透かされ、苦笑で返します。


尚、右手は珀花に顔面鷲掴み(アイアン・クロー)中です。

そういう所は本当に学習しませんよね。

まあ、これも彼女なりの個性なのでしょうが。



「痛いのは要らない~~~っ!!」


「そう思うのなら学習しなさい」



そうなると判っているのでしょう?。

……え?、「それでも遣る事に意義が有る」?。

そんな無駄な意義は棄てなさい。

端迷惑なだけですから。


そんな珀花の事は放って置いて。



「雷華様、何か御用でしょうか?」


「ああ、予定が無ければ昼を一緒にと思ってな」



そう仰有るという事は、城内や私邸の方ではなく、街に出て、という事ですね。

はい、勿論、行きます。


「わ、私も~~っ!」と訴える珀花。

ですが、まだ貴女は仕事が残っていますよ?。

…私?、当然、終わっています。

「そんなっ!?、いつの間にっ!?」と驚かれても…。

貴女が瀞良と戯れ合っている間にです。



「り「手伝いませんよ」まだ言ってないのに!」


「冥琳から関係各所に「甘やかさない様に」と通達が出ていますからね」


「冥琳の鬼ぃーーーっ!!」



叫んでいる暇が有るなら、仕事を片付けなさい。

私が話し掛けた時点で雷華様も解放して下さったのですから。


…瀞良?、瀞良なら雷華様に同行の許可を貰ったら他の娘達を誘いに行きましたよ。

あの娘達は纏まって動きますからね。

抜け駆け無し(・・・・・・)の協定が有るそうです。

勿論、こういう場合には、ですが。

ええ、誘う事が難しい時は仕方が有りませんから。



「ああ、雷華様、少し御伺いしたいのですが…」


「ん?、何だ?」


「先日、草案が上がっていた高句麗方面の件です

思春達、水軍が主力なのは当然ですが──」



手伝いはしませんが、待ってはあげます。

雷華様も、そのおつもりでしょうから。

その待ち時間を使い、幾つか仕事の確認を。

こういった小さな事が地味に意味が有ります。


“上手い時間の使い方”というのは、自由に出来る時間を作れる様に遣れる時に遣ってしまう。

そういう事でも有るのだと私は思います。


だから、それが下手な者は「時間が無い」と言って自分の言動を見直そうとはしませんから。

他者や何かに責任を押し付けても改善はしない。

そんな当たり前の事さえ判らないのは、考える力が不足している証拠だと言えます。


そして、本当に忙しくて時間が無いという者なら、そんな事すら考えもしません。

それだけ一生懸命な訳ですから。

文句を言う、それを考える時間さえ惜しい。

つまり、文句を言ったら、考えたりしている者は、只の怠け者か、暇人という訳です。


だから、相手にするだけ無駄です。

文句を言う誰かさんみたいに。



──side out



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