曹奏四季日々 34
顔良side──
──十二月二十三日。
こんにちは、際立つ個性を求めて日々の研鑽を積む愛の探求者、顔令明です。
ん~っ、今日も絶好の掘削日和ですね~。
こんな日は回転も増し増しですよ。
掘って掘って掘りまくりです。
ええ、遣ってやりますとも!。
それはそうと、最近、新たな要職に就きました。
それが“掘削大臣”というものです。
まあ、簡単に言えば掘削事業の総責任者兼担当者。
事務も現場も一手に背負う超重要な御仕事です。
特に、現場には雷華様も居らっしゃいますからね。
雷華様の御目付け役も含まれます。
はい、以前とは違い、出来るだけ、雷華様には現場では前に出ない様に…と御願いする事です。
でも、雷華様が動かれるのと、動かれないのとでは工事の進捗具合や工期の長さが変わります。
ええ、それはもう、「…え?、こんなにも?」と。
数字という目に見える形にしてみると判ります。
ですから、掘削大臣の立場としては、雷華様を現場から遠ざけたい気持ちは理解は出来ますが、承諾は出来無い、というのが本音です。
私個人の問題ではなく、関係者一同の総意です。
それ程に、雷華様の有無では大差が有ります。
それでも、「どうにかしなさい」と言うのでしたら私に人事権を下さい。
拒否不可能な絶対の人事権をです。
それを承認して頂ければ、私は全力で雷華様を現場から遠ざける事に尽力致します。
嘘は言いません。
ですから、人事権──認メテクレマスヨネ?。
「私が悪かったわ、御免なさい」
目の前で頭を下げる桂花。
同席する他の面々も静かに頭を下げる。
………そうですか。
──直ぐに頭を下げるなら言わないで下さいっ!!。
そう叫びたくなる私は悪くは有りません。
ええ、もしも、私に非が有る、と言うのであれば、喜んで受けて立ちましょう。
そして、問答無用で私の指揮下に御招待です。
どんな理由だろうと却下です。
断れるだなんて思わないで下さいね?。
「…斗詩さん、荒れてますね…」
「…まあ、今のは流石に桂花がね~…」
コソッ…と話す流琉ちゃんと珀花。
聞こえてはいますが、気にはしません。
今は対面の桂花から目を逸らしたら敗けです。
敗けられない戦いが会議室には有りますから。
「それでは、桂花には私の補佐をして貰います」
「──ちょっ、それは──」
「異論、有りませんよね?」
「──っ!?、…………~~~~っ、判ったわよ!
遣れば良いんでしょっ!、遣ればっ!!」
「有難う御座います、頼りにしています」
よーしっ!、道連れをゲットです!。
──あ、この“ゲット”は天の言葉で、獲得や確保という意味で用いられるんだそうですよ。
雷華様に「個性的な天の台詞って有りますか?」と御訊きした所、教えて頂いた物の一つです。
他は、使い所や言い方が重要なので…。
常用はし辛い、というのが正直な感想です。
でも、機会が有れば使いたいと思っています。
「ぅぅ~…何で私が、こんな目に…」
無事、大勝利で会議を終え、私の執務室では桂花が頭を抱えながら机に突っ伏しています。
ただ、言わせて貰うなら、それは自業自得です。
「“口は禍の門”という事ですね~」
「……腹が立つ位に嬉しそうね…」
はい、それはもう。
これでもかと思っていますから。
でもね?、元はと言えば桂花が原因ですからね?。
今回の会議には、雷華様も華琳様も不在。
それは、本会議の前の予備会議だから。
此処で、ある程度の結果の形を決めて、本会議へ。
最終的な決定や判断は御二人に委ねられますが。
私達に決定権が委ねられている事も有ります。
そういった事は、本会議での報告のみ。
何でもかんでも一々、御二人に持って行っていては事が進まなくなります。
それは効率が悪いですし、私達や重臣・要職に有る者達の存在する意味が無くなりますから。
信じて任されている、という訳です。
因みに、信じられていても失敗する事は有ります。
ですから、それはそれ、これはこれ、です。
御二人が一度の失敗により、信じなくなる、という事は有りません。
“人を育てる”という事の本質を理解すればこそ。
御二人は「失敗を糧に成長しなさい」と。
そう仰有って下さいますから。
勿論、それに甘えてはいけませんけど。
失敗を恐れずに挑戦する事が出来る環境。
それが成長には大きな要因の一つでは有ります。
他にも色々と有りますが、“上に立つ者”が理解を持たなくては、下は育ちません。
御二人の元に居ると、その事がよく判ります。
──っと、話を戻しましょうね。
当初は雷華様の立案された基礎工事に招集されての参加でしたけど、その結果──大幅な工期の短縮や緒経費の削減を前に軍師・文官から次々と工事関連事業が新しく提案され、私は忙しくなりました。
その半分以上には、現場仕事が大好きな雷華様も自ら携わっておられるのですが…。
例の雷華様を前面に押し出しつつ、雷華様の影響を一部改善する為の政策の一端として。
「雷華様を現場から遠ざける様に」と。
ええ、はっきり言います。
それは無理ですから。
雷華様が抜けると、工事も緒経費も変わります。
私一人が頑張っても雷華様の代わりは不可能です。
──と言うか、根本的に考え方が可笑しいので。
雷華様が抜けるのであれば雷華様の代わりが出来る人物──は居ませんから、その穴を埋められる程度には優秀な人員を補填して貰わなくては無理です。
私には私の仕事が有るので除外した上でです。
そうなると、当然、将師からの人選になります。
雷華様の代役を一般労働者で補おうとした場合には一体何れだけの人数が必要となる事か…。
そんな事は考えるだけ時間の無駄です。
ですから、確実な将師から、という訳です。
その事を、会議で私は言いました。
桂花に「そこを何とかしなさいよよ、掘削大臣」と暴言を吐かれた事に対する意趣返しでは有りませんので誤解しないで下さい。
「…絶対に根に持ってたわよ…」
「何か言いましたか?」
「具体的には、どうするのかって話よ」
「それを考えるのが貴女の御仕事です」
「はあっ!?」
「私は総責任者です
判断と決定はしますから宜しく御願いしますね~」
「ちょっ、待ち────」
叫んでいる桂花を残して私は退室します。
──あっ、判ってるとは思いますけど、私の執務室なので暴れたら片付けて下さいね?。
──という視線を一瞬だけ戻って送ってから。
ちょっとだけ、憂さ晴らしになりました。
ふぅ~………う~ん…まだモヤモヤしますね~…。
息抜きに出掛けましょうか。
「有難う、斗詩が来てくれて助かったよ」
「いえ、御役に立てて何よりです」
そう笑顔で返す私の目の前には雷華様が。
そして、私が居るのは街から離れた廃坑の中です。
はい、「………え?」って思いますよね?。
大丈夫、私もですから。
気分転換に街に出たまでは可笑しく有りません。
ただ、特に目的も無かったので適当に散歩でもして目に付いた御茶屋にでも入ろうかな、と。
そんなに考えながら歩いていたら。
偶然にも雷華様に。
「今、何か用事とか有るか?」と訊かれましたから素直に「何も有りません」と答えました。
──で、こうなりました。
仕方が無いじゃないですか!。
雷華様からの御誘いですよ?!、断れませんよ!。
「いや、何と無く、そういう流れだったし…」とか言ってるのは何処の何方ですか?。
言いたい事が有るのなら出て来なさい。
喧嘩なら買いましょう。
安心して下さい、命までは取りませんから。
………はぁ~~……現実逃避は虚しいだけですね。
雷華様の御用事というのが、とある廃坑の調査。
以前は鉄鉱石を採掘していたそうですが、鉄鉱石が採れなくなった為、廃坑に。
一時、賊徒が根城にした事も有り、封鎖。
その上で管理されていた場所なのだそうです。
…私、この辺りは何度も通ってますが、存在自体、全く知りませんでした。
雷華様曰く、「知られていない、という事が此処を完璧に封鎖・管理していた一番の証拠だ」そうで。
言われてみれば、納得です。
知らなければ、悪用しようとも出来ませんしね。
そんな場所を知っている雷華様、流石です。
……え?、それは単に地形等の調査の結果?。
そうかもしれませんが………ああ、成る程。
情報としては秘匿されていた訳ですから。
そういう意味では、見付けてはいない、と。
雷華様も意外と負けず嫌いですよね。
──そう言ったら、貪られました。
付いて来て良かったです。
…ゴホンッ、えー……何でしたっけ?。
ああ、そうでした、廃坑の調査でしたね、はい。
雷華様の御話によると、この近くに新たらしく農地を開拓する可能性が有るそうです。
まだまだ提案の段階なので知っている者は極僅か。
雷華様が自ら調査をされていたのは、廃坑の存在を知っていた事も有ってだそうです。
秘匿されていた場所だけに、調査隊を出すよりかは御自身で調査した方が問題が少ないから、と。
……どうしましょう。
本当なら、此処で「御自身の御立場を~」とか色々言った方がいいのかもしれませんが…。
例の政策は雷華様には極秘案件です。
華琳様から表向きな御話は雷華様にされていても、根本的な部分に付いては触れていません。
ですから、それを私が口を滑らせる訳には…。
危ない危ない、思考を破棄です破棄。
雷華様に悟られてしまったら私が怒られます。
政策の頓挫の責任なんて負えませんから。
「ですが、雷華様?
何故、この廃坑の調査を?
封鎖されているのですから、無関係なのでは?」
「ああ、それは、この廃坑を利用しようと思って」
「……え?、廃坑をですか?」
あの…普通、廃坑の再利用なんてしませんよね?。
ああいえ、雷華様を疑ったりはしません。
単純に疑問に思っただけです。
私には、その利用方法は思い浮かびませんから。
だって、廃坑なんですよ?。
入るだけでも危ない場所なんですから。
「俺も存在を知っていただけだったからな
だから、実際に調査を兼ねて入ってみたんだが…
特に崩れた場所とかは無かっただろ?」
「はい、随分と古い印象は有りましたが、崩落等の事故が有った様には見えませんでしたね」
「実際の所、採掘が出来無くなったからではなく、本当に採れなくなったからなんだろう
探ってみても何も無かったしな」
「確かに…それらしい反応は有りませんでしたね」
「鉱山としては無価値、だから廃坑になった
ただ、見て来た通り、状態は良く、頑丈だった
これなら少し手を加えれば、利用も可能だろう」
「どうされるのですか?」
「一つは長期の貯蔵庫としてだな
酒類や調味料等、熟成させる物の中には一定温度で長期熟成させると良い物も少なくない
氣の応用技術でも出来るが、自然の環境を利用して出来るなら、広められる技術になる
そういった技術も必要だからな」
「一般的には」と入る筈ですが。
雷華様の仰有る事は理解出来ます。
私達の氣の技術は曹魏だけの物。
一般的には普及が不可能な技術です。
ですから、将来的な社会的な技術の発展を考慮するのであれば、氣を用いない技術は必要です。
私達の力とは、便利な物ではなく、抑止力。
その在り方を見失えば、世の害悪ですからね。
其処を間違ってはいけません。
それにしても…本当に雷華様は凄いです。
これだけの力を御持ちであれば、私利私欲に塗れて落ちる所まで堕ちてしまう人も居る筈です。
しかし、そうなる姿が全く想像出来ませんから。
……想像してみても似合わないんですよね~…。
こんなにも私利私欲に溺れる姿が似合わない人って雷華様と華琳様だけだと思います。
…あー…でも、まだ華琳様の方が想像は出来ます。
同じ女性ですからね。
──side out