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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
898/915

刻綴三國史 45


 関羽side──


雷華様との子供を授かった今、私の日常生活の主な行動範囲や内容は以前とは変わっている。

──とは言え、極端に変わった訳ではない。

その辺りは一人目である華琳様が御自身を以てして私達に間近で示して下さった結果だと言えます。


だからと言って特に大きな問題も無く。

以前よりは、ゆっくりとした平穏な日常。

それが、今の私の日々の過ごし方です。


──が、問題というのは唐突に起きるものです。

予測の出来る事でも、対応・対処が可能であるとは限りませんからね。

ええ、そういった類いの問題は厄介です。



「雷華も言っていたでしょう?

そんなに気にする必要は無いわよ

──と言っても、貴女達には難しいわよね…」



そう仰有って苦笑される華琳様。

全く以て、仰有る通りです。

気にしない、というのは中々に難しい話です。


何しろ、既に過去とは言え、義姉妹の契りを結び、一時は肩を並べて共に歩んでいた訳なので。

色々と思う所が有るのは…仕方の無い事でしょう。


そんな問題を抱えた私達。

私に蓮華、月に恋、花円(かのん)(そら)

この六人が、華琳様の前に並んでいます。

…ああ、正確には卓を囲み、座ってですが。

其処は気にしないで下さい。


私達の抱えた問題というのは──今朝、雷華様から伝えられた劉備の下を去り、孫策殿の下へと亡命(・・)を果たした四人に関してです。

趙雲・諸葛亮・陳宮、そして──張飛。

此処に居るのは直接的な関係者ばかりです。


因みに、諸葛亮と同門の泉里は「正直、彼女の事はどうでもいいので」と一刀両断。

危険視もしていない様子でした。



「──どうか、私に諸葛亮(アレ)の暗殺許可を」


「貴女が言うと冗談では済まないから止めなさい」



花円の何も隠さない一言に華琳様は嘆息。

彼女達の姉妹仲が悪い──いいえ、終わっている事に関しては宅では有名な訳ですが。

それでも、流石に暗殺の許可は出ません。

…嫌煙・険悪という程度では有りませんが、だからと言って骨肉の争いという訳でも有りません。

“我、関せず”が一番近いのかもしれませんが。

今回の様に向こうから関わってきた場合には有無を言わさずに排除したがりますからね。

相当なのだは判ります。



「はぁ…劉備の手勢が減り、孫策の所に流れる事は以前から予測されていた可能性よ

抑、他勢力(他所)の事だもの

宅が、どうこう言うのは違うでしょう?」


「むぅぅ……」



華琳様の前で子供の様に頬を膨らます花円。

普段から感情豊かな彼女ですが、こういった砕けた態度で遣り取りが出来て、それを許される。

その人柄が故の人懐っこさは羨ましいですね。


…その彼女が、其処まで拒絶するとは…。

私も諸葛亮の事は知っていますが…。

正直な所、軍将と軍師という事で立場等も違うので明確な理由までは判りません。

「理想と思想の対立」と聞いてはいますが。

もしかしたら、姉妹としての確執が有った可能性も考えられますからね。

その辺りは無神経には踏み込めません。



「…その…華琳様は彼女達が亡命した事には?」


「別に?、これと言って何とも思わないわよ

何方等かと言えば、趙雲の様な有望な人材が劉備の下で腐っていくより、この方が好ましいわ

それに孫策の下で四人が好き勝手出来ると思う?」


「それは流石に姉様も赦さないでしょう」


「ええ、そんな事をしていれば即座に処断されるわ

だから、あの四人が問題らしい問題には為らない

元より、趙雲に関しては心配は要らない

陳宮は恋に執着しているとは言っても彼女個人では非力も非力、大した事は出来無いわ

同じ理由で諸葛亮もね

気付かれずに裏で何かを遣れる程、孫策達にしても甘くはないし、油断もしないわよ」


「…となりますと、一番の問題は…」


「まあ、張飛になるでしょうね

少なくとも、彼女なら単身で此方等に乗り込む位は遣って遣れない事は無いでしょうから

勿論、そんな真似をすれば赦しはしないけれど…

そうなる可能性は無いに等しいでしょうね」


「…遣るのであれば既に遣っている、ですか…」


「その程度の判断が出来る位には冷静な証拠よ

それに孫策の下に入った時点で勝手な真似をすれば孫策達に迷惑が掛かる事も理解している

それを理解していればこそ、暴走(・・)も無いわ」



「どう?、少しは安心出来たかしら?」と。

こうして話す事で私達の不安を拭って下さる。

勿論、雷華様もそうして下さるのですが。

雷華様が御相手だと…どうしても脱線(・・)するので。

はい、それは仕方の無い事だと思います。




──といった感じで関係者集会は解散。

私も自分の仕事の為、移動します。

ええ、決して暇では有りませんので。



「あー…花円の場合、本気(マジ)だからな~…」



「花円だったら殺るな、うんうん」と。

口にはしないだけで、そう思っている事を隠そうともしないで納得した様に頷く翠。

仕事が終わり、一緒になったので御茶をする中。

ある意味、今一番の話題になるのは必然。


こう遣って客観的な意見を聞く事も自分の殻に籠り思考や視野が狭窄化しない為には必要な事。

私の場合、そういう嫌や実積が有りますから。

こういう時は意識的に誰かと話す様にしています。


──で、話をすれば、皆が皆、口にする一番の問題というのが──花円の事。

まあ、実際問題、そうなるのも仕方が有りません。

孫策殿の下に亡命した四人よりも、身内から危うい行動をする者が出るかもしれない。

その方が、より問題ですから。



「──とは言え、花円も馬鹿じゃないんだ

大方、そう遣って見せる事で客観的に自重する様に周りに促してる側面も有るんだろうな」


「………意外と言うか…そんな風に見るのか…」


「昔なら兎も角、今は一族再興に向けて色々学んで見える様にはなったからな~」



そう言って笑う翠。

その表情や声音に含む所は無い。

だから、本当にそう思っているのだろう。

…悪気は無いのだが…本当に意外だ。


だが、言われてみて、納得出来る事でも有る。

勿論、本人の嫌悪感や殺意も本物なのだろうが。

だからこそ(・・・・・)、誰よりも説得力が出る。

下手に注意だけをするよりも。

その姿を見せた後での方が自重意識は高まる。

私自身、華琳様と皆との会話を経た事で、その前と大きく意識の仕方が変わっているのだから。



「それは兎も角として…

宅では愛紗が一番今回の件には関わってるのか…」


「ああ…張飛、趙雲、諸葛亮とは一緒だったからな

陳宮とは関わりは無いが…

彼女に関しては関係者がかなり限られるからな」


「旧・董卓軍って括りだもんな~

月と恋は何て言ってるんだ?」


「月は陳宮が考え直してくれた事に安堵していたな

恋は……自分に対する執着が原因では有るのだが、私達が思っていた程は気にしていない様だ

寧ろ、「…まだ気にしてるの?」という感じだ」


「…それ、陳宮が知ったら絶望しそうだな」



陳宮には可哀想だが、恋は疾うに雷華様一途だ。

はっきり言って、月の事も二の次だと言える。

勿論、それも月が雷華様の下に居るからだが。


他の仲間達を気にするのは最低限。

生きているのか、死んでしまったのか。

それ以外は各々の自由。

突き放した言い方をすると、勝手だと思っている。

だから、恋自身も自分の好きな様に生きている。

ある意味では恋らしいし、自分に正直だ。

ただ、それ故に他者に対する関心というのは私達が思うより低く、国外ともなると…だ。


そんな恋からすると陳宮が今も自分に拘る事自体が理解が出来無いのだろう。

劉備の様な方向性の執着心の方が判り易い。

それだけ、恋の中の執着心というのは単純なもの。

判り易いからこそ、複雑なものには気付き難い。

…客観的に考えると陳宮が不憫に思えるな。



「まあ、それで自暴自棄になられても困るがな」


「実力的には脅威には成らなくても、そういう事を遣ろうとする意思や言動は面倒臭い火種だからな~

当面、恋とは接触はさせられない、か…」


「出来れば孫策殿の下で過ごしている内に執着心が薄れるか、別の誰か(・・・・)に移るか…

それを期待する、といった感じなのだろう」


「あー…雷華様が放置するのも判る気がするな…」



恐らく、私も翠も同じ画を思い描いている。

陳宮が小野寺(・・・)の傍らに居て笑っている。

そういう(・・・・)未来の可能性を。


そうなれば、月や恋と会わせても問題には成らず、陳宮の執着心を煽る事も無い。

そして、それは孫家の礎の強化にも繋がる。

これから先、永きに渡る曹魏の発展と繁栄の為には劉備の様な明確な害悪である外敵となる存在と共に孫家の様に付かず離れずでの絶妙な距離感を保てる気を抜けない(・・・・・・)隣人の存在が必要。

それらを意図的に作り上げ、維持してゆく。

言うのは簡単だが、想像を絶する難しさ。

それを遣っている雷華様は本当に凄いと思います。



「…ん?、あれ?、それだったらさ、愛紗が張飛に早めに会って遣るのも有りなんじゃないか?」


「……私がか?」


「陳宮に可能性を示して頑張らせられるだろ?」


「………成る程」


「あー…残念だけど、それは駄目だな」


「雷華様」


「──ングッ!?、ゴホッ、ゴホッ…」



油断していた所に雷華様から声を掛けられた事で、間が悪く御茶を口にした翠が噎せる。

雷華様は翠を気遣いながら空いている席に座る。

私は予備の茶杯を取り、御茶を入れて出します。

それに対して雷華様は「有難う、愛紗」と一言。

笑顔と共に向けられた、その一言が嬉しい。

「容易い女だな」と思われるかもしれない。

しかし、こういった小さな事にも幸せを感じる。

そういう日々を送る事が出来る事こそが、人として真の幸せではないのだろうか。

そう、今の私は思う。

……惚気ているだけだと言われるかもしれないが。



「あ~…久し振りに噎せたなぁ…

え~と……ああ、そうそう、それで雷華様?

どうして愛紗が張飛に会うのが駄目なんだ?」


「愛紗と張飛が会う事には問題は無い

ただ、それで陳宮が恋に会えると期待したりすると執着心が再燃する可能性が高い

そうなると──折角、薄まっていた陳宮の執着心が強まって暴走する可能性が出てくる

勿論、陳宮も馬鹿ではないが…」


「焦燥感や苛立ちが募れば手段を選ばなくなる事も十分に考えられる、という訳ですね」


「孫家の内部での話に留まるなら構わないけどな

事が此方等に及んだ場合が問題になる

陳宮は当然としても、そうなった時、俺達が責任を孫策に問わない訳にはいかないからな

そうなると色々と(・・・)予定が狂ってくる

何より、そんな状況になれば歓喜する者が居る」


「劉備ですね」


「そういう事だ」



曹魏と孫家が対立した場合。

対立まではしなくても、その関係に罅が入れば。

誰が喜ぶのかなど考えるまでも有りません。

小躍りする劉備の姿が思い浮かびますから。

…想像しただけでも殴り飛ばしたいですね。



「あの四人が孫家に加入した事は悪くない

将来的な事を考えても将師候補者が二人ずつだしな

使い物になれば、活躍も期待が出来る」


「乱世での経験と実績は有るしな~」


「だが、それはそれとして、注意も必要だ

特に張飛と陳宮は監視・管理下に置いておける方が面倒事が少なくて済むからな

その上で落ち着かせつつ教育(・・)も出来るなら…」


「私達としても手間が省けますね」



「そういう事だな」と。

口にはしませんが、雷華様は笑みを浮かべます。


ただ、同時に雷華様の慈悲も感じます。

「劉備の下で腐らせ、死なせるには惜しい」と。

少なくとも、そう評価されていればこそ。

孫家への亡命を歓迎。

そんな雷華様の慈悲を感じて欲しいものです。


そう思いながら見上げる穏やかな青空。

こういう立場ですから、色々と考える訳ですが。

そういった事を抜きでならば…。

義妹(・・)に明るい未来への可能性が生まれる事を。

心から願うばかりです。



──side out



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