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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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刻綴三國史 38


 劉備side──


──十二月十七日。


幽州で暮らしいていた時の事を思えば、冬が来ても暖かいと言える益州。

それでも、やっぱり、冬は寒いもの。

一年を通して比べてみれば、確実に寒くなった。

幽州よりかは寒くはない、というだけでね。



「はぁ~~っ………ぅわぁ…息が真っ白だぁ~…」



吐いた息は思っていた以上に白くて。

空に浮かぶ雲の様に、溶ける様に薄れて消える。

昔だったら、大して珍しくもない事だったけど。

冬でも暖かい益州では中々に珍しい。

だから、この冬は厳しくなると思う。

まあ、私達は(・・・)温かくして過ごすから大丈夫。

本当、権力者で良かったって思うよ~。


ほら、「幽州での生活で慣れてる」って言ってても寒いものは寒いしね~。

どうしようもないんだもん。

…今晩は御肉たっぷりの御鍋が良いなぁ~。

うん、後で言っておこっと♪。



「……………また来年、かぁ…」



視界の中には薄暗い空が映る。

ぶ厚い鉛色の雲は日の光を遮って雪を降らせる。

まだ積もる程ではないにしても。

この冬、初めて見る雪。

チラホラと、花弁の様に舞っている程度だけど。

見ただけで、より一層、寒さを感じさせる。


長い様で短く、短い様で長かった一年が終わる。

色々と有った今年も、残り後僅かとなった。


本当に色んな事が有った。

…でも、それらは結局、嬉しい事ではなかった。

寧ろ、屈辱であり、苦痛であり、私を苛む。



「…………っ…………」



空から視線を落とした先。

街を、平野を、山々を、越えた、その先に。

曹操(彼女)は居る。


温かくして冬を過ごそう?。

きっと、曹操(彼女)は、それ以上だと思う。

私は惨めな思いをしてはいないけど。

それでも、敗戦の事実は覆せず──消えない。


そう、忘れたくても忘れられない。

忘れて前を向きたいのに。

頭の中に、こびりついた汚れの様に有り続けて。

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も夢に見る程に繰り返される。


夢だから、大逆転で私が勝つ。

勝った筈なのに──また窮地に私は立っている。

夢の中では、私の思うがままなのに。

何度殺しても、何れだけ辱しめても、虐げても。

夢を見る度に。

私の方が、追い詰められている。

本当に、鬱陶しい。


………でも、判ってる。

どんなに夢の中で勝とうが、夢は夢。

目が覚めれば、楽しい夢は終わる。

変わらず有るのは、苦々しい現実だけ。

だから、きっと。

私の夢の始まりは、何時も同じなんだと思う。


それを変える為には。

現実で、勝つしかない。

それ以外には無いんだって判ってる。

まあ、そう簡単には出来無いから苛つくんだけど。


苛々する理由は他にも有る。

あの大戦で、無駄に数を減らされた。

その減った分を補えてはいない。

まだまだ必要な数には程遠い。

敗残兵(捨て駒)を集める位しか出来てないしね。


本当、もっと役に立ってくれないのかな?。

折角、生かして手元に置いててあげてるんだから。

腰を振る以外にも頑張って欲しいんだけど?。

ねぇ?、聞いてる?、天の御遣い(ご主人)様?。




気分転換の散歩を済ませて部屋の中に戻ってくると朱里ちゃんが待っていた。

ちゃんと部屋を暖かくしてくれてる。

こういう気遣いが出来るから朱里ちゃんは大好き。

出来る(・・・)娘って良いよねぇ~。

じゃあ、私も御仕事頑張っちゃうよ~っ!。






「──以上になります、お疲れ様でした」


「うん、お疲れ様~」



今日の御仕事は終了~。

今日も沢山頑張っちゃいました~。

やっぱり私って、遣れば出来る娘だよね~。

ふふ~ん♪、もっと誉めていいんだよ~?

私は誉められて伸びるからね~。


それはそれとして。

さてと、御昼は何を食べよっかな~?。

温まる為の御鍋は夜に取っておくとして~…。

ん~…………此処は拉麺かな~?。

でも、拉麺も御鍋も広い意味で汁物だしなぁ~…。

あー…でもでも、昼も御肉が食べたい気分かも。

野菜炒めとか…焼き肉?。

うん、焼き肉、良いかも。

──あっ!、ステーキ(・・・・)にしよっ!。

分厚く切ったのね。

よぉ~し、決まりっ!。



「…あの、桃香様、少し宜しいでしょうか?」


「ん?、どうしたの~?」



「さあ、いざ昼食っ!」──という所で躊躇う様に朱里ちゃんから声を掛けられる。

顔を向けると、何だか言い難そうだけど…。

もしかして、何か失敗したのかなぁ~?。

だったら、御仕置きしないといけないよね~。

まあ、でも先ずは話を聞かないとね~。



「はい、少々申し上げ難い御話なのですが…

実は気になる噂を耳にしました」


「気になる噂?、どんなの?」


「それが…どうやら、民の中に桃香様の下を去り(益州を出て)、孫家の領地へ移住しようとしている者が居る、と

そういった類いの噂です」



その話を聞き、昼食への楽しみは消える。

美味しく食べる筈だった気分が台無し。

沸き上がる憤怒と、苛立ち。

そして、下らない事を考える愚か者への殺意。

今、手元に御肉にが有ったら、突き刺してる所。

うん、昼食の最中じゃなくて良かったと思う。



「………へぇ……その話って本当なの?」


「──っ、あ、飽く迄も噂ですっ…」


「噂……そっか、そっか、噂かぁ~

──でも、噂になるって事は、少なからず(・・・・・)愚か者は居るって事だよね~?」


「そう、なります…」



そうだよね~、そうなるよね~。

……面倒だし、適当に殺して見せよっかな~。

真偽なんて、どうでもいいしね。

私に逆らったら、どうなるのか。

それを判らせる為。

その為になら、多少の犠牲は仕方が無いよね。

それに──その方が手っ取り早いと思うし。

うん、そうしよう。



「朱里ちゃん、適当に怪しそうな人、捕まえて

それで、「反意有り」って事で()っちゃって

そうすれば、見てる人達には伝わる(・・・)でしょ?」


「で、ですが、桃香様…

そういった噂が一度広まると、移住をしよう等とは考えてもいなかった者にまで波及するかと…

その結果、逆に強く意識させてしまいます

そうなると──」


「──本当に遣ろうとする者が出る、かぁ…」



ん~…成る程ね~。

確かに、朱里ちゃんの言う通りかも。

もっと、はっきりとした状況なら、身の程を教える(・・・・・・・)丁度良い遣り方なんだろうけど。

曖昧な状況でだと、逆に意識させちゃうか~…。

………あー…でも、どうなんだろ?。

少なくとも、噂には為ってるんだよね?。



「でも、もう、そういう噂が有るんだよね?」


「はい、ですが、どの程度まで広まっているのかも現時点では定かでは有りません

本来であれば調査してから御報告する所なのですが内容が内容の為、事前に御伺いした次第です」



それもそっか~。

朱里ちゃんなら、私の手を煩わせはしない。

でも、この噂は私の判断無しに勝手に調査をして、さっき言ってたみたいに意識させちゃったら悪手。

だから、朱里ちゃんは私に判断を仰ぐ。


………でも、朱里ちゃんの耳に入ってるだよね?。

……………ああでも、朱里ちゃんだから、かな?。

そう考えると、まだ広まってるって公言するまでは行ってないのかも。

うん、だから、朱里ちゃんは私に訊ねてる。

広まっているなら、遣るべき事は一つだしね。

そうなってはいないから、調査が必要、と。

成る程、成る程…全て判ったよ~。



「まだ手遅れって訳じゃないんだね?」


「はい、ですので調査をしたいと思います

…ですが、ただ……」


「ただ?」


「あまり表立って遣る訳にはいきません

そんな調査をしていると知られれば、実際には無い噂が現実味を帯びてしまいますので」


「あー…まあ、それはそうだよね~…

そうなると、その調査って極秘に出来そうなの?」


「その為に鈴々ちゃんと星さんを動かしたいので、許可を頂けないでしょうか?」



……え?、あの二人を?。

そういうのは向いてなさそうだけど…。

まあ、朱里ちゃんが使いたいなら構わないかな。



「うん、了解、朱里ちゃんに任せるね」


「有難う御座います」



そう言って頭を下げると朱里ちゃんは退室。

直ぐに動くんだろうね。

うんうん、本当に頼りになるよね~。



「………それにしても、移住かぁ~…」



噂にしても、流石に無視は出来無い話だよね~。

誰に(・・)許しを得て、そんな事しようとするのかな?。

そんな悪い子には、御仕置きが必要だよね~?。

フフッ…ど~しよっかなぁ~…フフッ。




そんな風に処刑方法(罰し方)を考えながらの昼食。

ついつい、楽しくて手が動いちゃった。

手元の御肉が食べ易い大きさに為り過ぎちゃった。

う~ん…失敗。

もっと、ガッツリと食べたかったのになぁ~。

まあ、それはまた夕食の時にしよっと。

食べ易いから、パクパクいっちゃうよ~。



「──御食事中に失礼します」



扉が開いたと思ったら、星ちゃん。

こんな時間に顔を見るなんて珍しいな~。

いつもは、巡回してる頃なんだけど…。

──って、そっか、調査の件だね。

…あっ、もしかして、もう報告なのかな?。

だったら、誉めてあげないといけないよね~。



「んんっ……と、どうしたのかな~?」


「はっ、朱里に呼ばれて部屋の方に行ったのですが生憎と不在でして…

それで、食事中かと思い食堂に向かったのですが、聞けば朱里は来てはいないとの事

心当たりを回ってはみたものの姿が見えないので、もしかしたら、此方等で御一緒しているのでは、と思ったのですが…」


「朱里ちゃんなら御昼前に別れたよ?

呼ばれてるのは知ってるから…ああ、ひょっとして鈴々ちゃんと一緒に居るのかも」


「鈴々とですか?」


「うん、二人に頼みたい事が有るみたいだから」



朱里ちゃんが出した伝令の人から話を聞いてきた。

でも、鈴々ちゃんの方が先に来たか、直接会えた。

丁度、御昼時だったしね。

鈴々ちゃんと外に食べに出てるのかも。

或いは、鈴々ちゃんが外に居たから、そのまま。

だから、星ちゃんとは擦れ違っちゃった、と。

うん、私の名推理!。

私に解けない謎は無いよ!。



「成る程、そうでしたか…

では、これ以上行き違いにならない様に私は朱里の執務室で待っているとします」


「朱里ちゃんに会ったら伝えておくね~」



そう言うと一礼して退室する──所で、扉が乱暴に勢いよく開けられる。

当たらずに避けられるのは流石だよね~。



「扉を急に開けるな、危ないではないか」


「ももも申し訳有りません!

で、ですが、緊急事態なのですっ!」


「緊急事態だと?」


「はい!、信じ難い事ですが、張飛将軍が…」


「腹でも下したか?」


「背が伸びたとか?」


「ちち、違いますっ!

張飛将軍が謀反を起こされましたっ!!」



………………は?、何言ってるのかな、この人。

鈴々ちゃんが謀反?。

義姉()に対して?。



「…貴様、確か、鈴々の隊の者だったな?

如何に仲が良くとも、冗談では済まされぬぞ?」


「冗談などでは有りませんっ!

我々は張飛将軍と共に巡回を終えて、昼休憩の為に詰所に戻っていました

其処に諸葛亮様が御見えになられて…

奥に行き諸葛亮様と何かを話されていたと思ったら諸葛亮様の小さな悲鳴と物音がして…

覗いた所、張飛将軍が諸葛亮様を気絶させた後で、そのまま肩に担ぎ上げて…

静止する我々の言葉に耳を傾ける事無く攻撃!

…不甲斐無い話ですが、我々は成す術無く気絶…

気付いた時には張飛将軍の姿は…

殺された者こそ居ませんが、全員が縛られており、どうにか脱出し、遣って来た次第です

状況から、諸葛亮様を拉致し、逃亡したものだと」


「馬鹿なっ、何故、鈴々がっ…」


「星ちゃん、直ぐに追って

必ず、二人を連れて戻って来て」


「はっ!」



返事をして飛び出して行く星ちゃん。

…でも、嫌な予想が思い浮かぶ。

もし、あの噂が本当で。

その考えを持つのが鈴々ちゃんだったとしたら。


──絶対に赦さない。



──side out



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