表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫三國史  作者: 桜惡夢
885/915

曹奏四季日々 29


 曹操side──


ある程度の話を聞いたりして予想はしていたわ。

ただ、私が思っていた以上に現実は残酷な物。

…いいえ、悲惨だったと言うべきなのかしら。


兎に角、孫策の家事能力の低さには呆れるしかないというのが嘘偽り無い私の本音ね。


まあ、大体の権力者は自ら家事をする事は無いわ。

私の場合は、そういう家風だったし、雷華の存在が有ったからこそなのだけれど。

普通は、家事も使用人を雇って任せるもの。

それも一つの雇用を生む社会構造の一端。

良し悪しは有るけれど、それは個人に因るもので。

それ自体には善悪は無いわ。


宅では雷華の方針も有って夫婦で生活しているから家事は自然と出来る様になるのだけれど。

未経験者でも失敗と学習を繰り返し、遣っていれば当然の様に上達し、慣れてくるものだわ。

……まあ、料理に関しては、私の理解の範疇さえも超えた不適格者というのは存在するのよね。

アレは本当に理解が出来無いわ。


──という話は置いておくとして。

やはり、と言うべきなのかしら。

孫策も例に漏れず、一度は雷華と流琉が人並みには仕込んだ筈の料理の基礎も普段から遣ってはいない事も有って劣化(・・)しているわね。

雷華は孫策を侍女として側に置いているから料理をさせる事は無い。

御茶を淹れたり、用意したりする程度。

整理整頓や掃除等は遣っているみたいだけれど。

洗濯等もしてはいないでしょう。

…ああ、一応は遣らせたのね。

経験させるという事は、知るという事だもの。

その辺りは雷華だから忘れてはいないわね。


因みに、それを教えてくれたのは護衛中の凪。

ええ、如何に雷華の代わりに私に仕える事になったとは言っても、普段から私に護衛は付いているから居なくなったりはしないわ。

勿論、余計な心配は必要無いでしょうけど。



「料理は継続が大事よ

味の良し悪しに限らず、実際に作ってみなければ、食べてみなければ判らない事が多々有るわ

ただ、人の記憶力というものは劣化(・・)するもの

だから、日頃から積み重ねる事が求められるわ

貴女にも御気に入りの御店や料理が有るでしょう?

もし、味付けや材料、調理法を変えていたとして、偶にしか食べていないと気付かなかったり、同じと思い込んでしまう事は珍しくないものよ

逆に、何も変えてはいないのに記憶とは違う味だと感じてしまう事も有るものなのよ

その味の変化の原因が、記憶の劣化

だからこそ、料理は日々の継続が物を言うのよ」



──と、目の前の孫策に言い、指導する。

………何と言うか…奇妙な感じね。

孫策の方が歳上なのだけれど。

まるで、小さい子供に教えているみたいだわ。



(…私達も娘達に、こういった感じで料理だとかを教える日が来るのかしらね…)



先ずは嫡男を、とは思ってはいるのだけれど。

個人的には最低でも男女三人ずつは欲しいわ。

出来れば、一人は雷華似の娘が良いわね。

雷華で着せ替え人形(・・・・・・)は出来無いから。

絶対、美人で可愛い娘に育つから。

──という願望は即座に忘却する。

この手の事に関しての雷華の勘は未だに鋭いもの。


それはそれとして。

孤児院で女の子達に料理を教えた事は有るけれど。

子供だから、素直なのよね。

大人になると、遣る前に先ずは文句を言う。

「いいから、先ずは遣りなさい」と。

子供達を見習わせたくなるもの。

まあ、胸中では文句を言っていても、遣る事は遣る孫策は可愛いものだわ。


「屁理屈を考える暇が有るなら遣りなさい」と。

そう言いたくなる大人の多い事…。


今の曹魏には雷華の影響も有って少ないけれど。

どうしても、そういう事に抵抗感を持っている者は少なからず居るものなのよね…。

私達からすると「その抵抗感に意味は有るの?」と言いたくなってしまうもの。

どんな結果であろうと、経験したという事は決して無駄には成らないのだから。


…まあ、その経験を活かせなければ無駄ね。

そして、そう考えるから、抵抗感が生まれる。

「鶏が先か、卵が先か」という事と同じ。

違うのは、自分の意思で変えられるという事。

だから、結局は個人の遣る気の問題になるのよ。




──とまあ、そんなこんなで昼食の時間に。

孫策の作った料理は珀花が食べてくれているから、後で感想を聞くとしましょう。

私達の基準では低めでしょうけど。

料理の出来自体は悪くはなかったから。

やはり、孫策の場合は継続力が最大の課題ね。



「…それで…その……どうでしたか?」


「気になるのなら本人に聞けばいいでしょう?」


「いえ、流石にそれは…ちょっと……」



対面の席に座った、早々と昼食を食べ終えた蓮華が孫策の様子を訊いてくる。

何だかんだ言っても、気にはなるのでしょうね。

でも、素直に心配するのも()

だから、こうして私に訊いている。

雷華には訊き難いのでしょうしね。

評価(・・)に響いても困るから。


視線を外し、でも、チラチラと見てくる蓮華。

…ちょっと可愛いから、意地悪したくなるわね。

普段、生真面目で堅物っぽいから尚更にね。


………それはつまり、私も、そうなのかしら?。

………………深く考えるのは止めましょう。

何と無く、深い傷を負いそうだから。


危うい思考を破棄し、切り替える。

ええ、もう慣れたものよ。

意地悪しないで、蓮華に午前中の話をする。

別に隠す様な事ではないのだから。


ただ、話しながら蓮華の様子を見て、改めて思う

彼女達姉妹は本質的には(・・・・・)本当に似ているわ。

姉妹とは言っても年齢や立場も違う別人なのだから個性という意味では異なっていて当然。

負けず嫌いなのは姉妹だから、ではないわ。

…まあ、私達の生まれ育った時代、社会情勢というものを考えれば、そういった気質に成り易い環境の中に居た事は否めない事なのだけれど。


三人の中で、妹であり、姉でもある。

上と下に挟まれて育った蓮華は叱られる姉の様には成らない様にと学び。

姉を反面教師として妹にも厳しくしていた。

結果、今の蓮華の骨格が出来上がったのでしょう。

勿論、本人の性格的にも合っていた事も有るわ。


そんな蓮華なのだけれど。

孫策達と似ているのは、危うさを孕む甘さ。

自制心の強さが故に蓮華が付け入る隙(甘さ)を見せる事は先ず無いでしょう。

けれど、その甘さは本来は美点であり、美徳。

姉の孫策、妹の孫尚香と同じ様に。

基本的には身内には甘い。


そういう印象が強いけれど、誰にでもではない。

孫策の苛烈さが姉妹の中では際立っているけれど、蓮華達にも、そういった部分は有る。

それは“虎の血”と言うべきなのか。

護るべき存在の為には自己犠牲も厭わない一方で、敵に対しては微塵も容赦しない冷徹さ。

意識的に、倫理的に、政治的に、ではない。

本能的に、だからこそ。

その冷徹さは私達の物とは違う。

ある意味では、私よりも雷華に近い部分。

…雷華の場合は、また別格なのだけれどね。


身内に対する甘さは、本気で殺し合う事にならない限りは赦してしまう事も有る。

ただ、立場が違うが故に、蓮華には無いけれど。

孫策は時として、その苛烈さが裏目に出る。

赦された事に対する不信感や猜疑心。

其処から生じる恐怖心と不安感。

それが人を狂わせる事は珍しい話ではないわ。


だから、雷華は孫策を側に置き、見せている。

上に、先頭に立つ者が。

感情的に(・・・・)、ブレてはならない。

それは、その時は些細で小さな事に過ぎなくても。

軈て、必ず大きな歪みとなって、うねる(・・・)


それが自分自身にだけ返ってくる事であるのなら、放って置いても構わない。

しかし、既に孫策は多くを背負う立場。

そう歩むと決めたのだから。

それに相応しい覚悟と意識が求められる。


彼女の気さくさや人柄は嫌いではないけれど。

事、施政者としては、まだまだ稚拙だと言わざるを得ないというのが私達の評価。

如何に小野寺や優秀な将師、人材が居ようとも。

当の主君に、責任の重さの自覚が足りない。

無いという訳ではないのだけれど。

到底、足りていない。


孫策の成長を待つ事も出来るのだけれど。

そうすると、蓮華と姉妹という事が悪影響になる。

親い者達、理解している者達は大丈夫でも。

付かず離れずで、機会を窺っている様な者達は。

その間、大人しくしていてくれる訳ではない。

大人しくさせる(・・・)のなら兎も角として。

そんな悠長に構えてはいられない。

その事を、外側から(・・・・)見せて気付かせる。

誰かに言われるよりも、自分自身で見て、考えて、気付いた事は確実に成長の糧に成るのだから。



(──というのは、孫策の(・・・)話ね

実際には、今回の件は蓮華への課題でも有るわ)



昔と比べれば、蓮華は成長しているわ。

ただ、生真面目さが本人には気付かない必要以上の自制を強要(・・)しているのよ。

今の所は。

それが悪影響を及ぼしているという事は無いわ。

雷華が上手く抑圧された欲求や本音を受け止めて、処理しているから。

…まあ、それは蓮華に限らないのだけれど。


今は大丈夫でも、将来的には必ず問題が出る。

特に子供を産み、育てる様になれば。

蓮華に限らず、今以上の自制心を必要とする。

何しろ、相手は私達の理屈や考えの通じない子供。

ある程度の年齢になれば変わってくるけれど。

幼い内は手が掛かるのが当たり前。

それを親や大人の都合で従わせる事は間違い。

「仕事だから」「忙しいから」等は言い訳以下。


抑、「そんな事も判らないのなら子供を成すな」と言いたくなるわ。

少し考えれば判る事でしょう。

大人でも、一人暮らしから二人暮らしになるだけで生活というのは大きく変わるもの。

それが子供が加わるとなれば、未知の領域。

だから、どうしても子供が生活の中心になる。

それを、無理矢理従わせたりしようとすれば子供の成長が歪む事は考えるまでも無い。

そんな事すらも判らない者が居るというのだから、天の国(彼方等)の社会も大概ね。


──といった愚痴は置いておくとして。

蓮華の様に生真面目な者は無意識に溜め込み(・・・・)過ぎて軈て破裂してしまう。

そう成らない為に今の内に自覚させ、適度に自分で息抜き(・・・)が出来る様にする。

これが、もう一つの雷華の狙い。


生真面目だからこそ、意識し過ぎると悪化する。

しかし、自覚しないと正しい自制(・・・・・)は出来無い。

指摘するのではなく、客観視させる事で導く。

その為の孫策という劇薬(・・)

こうでもしないと、改善するのは難しいもの。


まあ、孫策にとっとも良い機会なのも確か。

“一石二鳥”ではないけれど。

こうした御互いが影響し合う複合連鎖的な仕掛けは雷華が好んで用いる方法。

そういう意味では二人にとっとも気付く事の出来る取っ掛かりになっているわ。

何方等が先に気付くかしらね。


因みに、雷華は何も言わないし、説明もしない。

それでも、私の様に気付く者は少なくはないわ。

そして、こっそりと二人の成長が賭けの対象に。

私は勿論、蓮華に──と言いたい所だけれど、多少歩の悪い賭けの方が面白いもの。

だから、今回は孫策に賭けているわ。


ただ、これは飽く迄も個人の賭けだから。

これが政治的な賭けなら、賭ける事をしないわ。

民の命を、未来を。

そんな不確かな可能性に委ねる真似はしない。

それが私達の在り方だから。


…取り敢えず、今は午後の予定を考えましょうか。

私としては、今日一日を料理指導だけに費やしても良いのだけれど。

当の本人が白旗を挙げていたみたいだしね。

そうなると………ふむ、もう少し見た目(・・・)に気を使う意識を持たせましょうか。

この点に関してだけは、雷華は同類でしょうから。


小野寺も妻が身形を整えている方が喜ぶわ。

………ズレた変な趣味とかは無いわよね?。

流石に、そういう所までは私達も調べないから…。

…まあ、大丈夫でしょう。

駄目だったら、孫策自身が何とかするでしょうし、一般的な意識を身に付けさせるだけだから。



──side out



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ