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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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曹奏四季日々 27


 周泰side──


短期間とは言え、雪蓮様が曹純様の侍女として奉公する事になり、その同行者になった訳ですが。

私は雪蓮様とは違い、蓮華様への来賓扱い。

その為、雪蓮様とは来賓と侍女という関係に。

……はい、物っ凄くっ!、気不味いです。

いえ、雪蓮様は何も仰有いませんし、蓮華様を始め曹家の方々も何も仰有いませんけど…。

それはそれ、これはこれ、と言いますか…。

兎に角、雪蓮様と接触すると困るので避けます。

今の私は雪蓮様の護衛という訳では有りませんし、そうする必要も有りません。

だから、雪蓮様の御側を離れても問題有りません。

………有りませんが……良いのでしょうか?。

いえ、そうしないと色々と大変なのですが…。

正直、悩ましい所です。


ですが、気にしても仕方の無い事でも有ります。

なので、今は割り切っています。



「ほら、彼処があの子達の溜まり場よ」


「はうぅうっ!?、御猫様が一杯ですっ!!」



「貴女は私の御客だもの」と、蓮華様が自ら案内をして下さり、道中の話の流れから教えて頂いたのが私達の目の前の場所。

通称、“猫広場”と呼ばれる場所なんだそうで。

その名に違わず、沢山の御猫様が居ます。



「元々は、「近所の人達の憩いの場になれば…」と設けられた公園(・・)だったのだけれど…

いつの間にか、人よりも猫の方が集まっていてね

「そういう事なら…」って子和様が猫達にも優しい造りに変えられて今の形になったのよ

結果的に、その猫達を目当てに人々も集まるから、そういう意味では憩いの場には為っているわ」


「素晴らしい御考えですっ!!」



蓮華様の仰有る通り、基本的には御猫様達は自由に行動していますが、人が近付いても逃げませんし、自分から人の傍に行く御猫様も沢山。

普通は嫌う子供が相手でも逃げませんし、幼い子の遠慮の無い行動にも怒ったりはしません。

…流石に、痛いと離れていくそうですが。

此処に御猫様達は寛容なのだそうです。


そして、何より。

物凄く愛想が良いんですっ!!。


「初めまして」の私にも擦り寄って来てくれますし抱っこしても、モフモフさせて頂いても大丈夫。

あまりにもしつこいと嫌がるそうですが。


「その辺りは人にしても同じでしょう?」と。

蓮華様の御言葉に、ハッ!とさせられました。


確かに…今までの私は御猫様に気を使っている様で実際には自分の欲求を無意識に優先していました。

だから、御猫様が逃げてしまう事も珍しくなくて。

それが悩みだったのですが…。

唐突に解決しました。

要は、御互いに尊重し合う事で生まれる距離感。

それを大事にする事が大切、というなのですね。

蓮華様、曹純様、とても勉強に為りました。



「…所で、蓮華様?

あの、御猫様達の寝ている柱の様な物は?」


「ああ、あれね

あれは猫塔(キャット・タワー)と言うそうよ

何でも彼方等(天の国)では普通になる物らしいわ

まあ、基本的には室内用なんだそうで、此処の物は野外用に特別に設計されているわ

そうしないと直ぐに傷むから」


「確かに…雨・風に晒されますから傷みますね」


「それに人と違って猫は自分達の匂いが縄張りの印だから頻繁に掃除するのも難しいのよ

勿論、定期的に手入れはされているけれどね

一度設置すると簡単には動かせないから、日差しで傷む事も避けられないのよ」


「だから、基本的には室内用なのですね」


「ええ、そういう事ね

でも、高い場所を好む子には評判が良いから最初の頃に比べると数は増えているわよ

それとね、地味に木陰なのも重要なのよ

普通の屋根にすると耐久性は上がるけど、通気性と放熱性が低くなるらしいわ

だから、自然の木を屋根代わりに利用しているの

そうする事で猫達は木でも寝られるし、遊べる

景観も悪くならないしね」


「物凄く考えられているのですね…」


「それだけじゃないわよ

ほら、彼方に簾の掛かった建物が有るでしょう?」


「はい、ちょっと変わっていますね」


「あの簾の向こう側は御茶屋の二階席でね

其処からだと、猫塔や木の上で寝ている子達の姿がとても見易いのよ

向こうの御店は簾を開けると飛び移れる距離だから起きた子がオヤツを強請りに来たりするわ」


「い、行ってみたいです!」


「──っていう人達が集まるから御店が繁盛する

その結果、此処の猫達の餌や広場の維持費を周辺の御店が出し合っているの

つまり、言い換えると猫達も御店の店員(・・)なのよ」


「凄い仕組みです…」


「もっと直接的に接客している子達も居るわよ」


「そうなのですかっ!?」


「直接は面していなくても決まった御店に居着いて来た御客の相手をしている子達も多いわ

人で言えば、住み込み(・・・・)という事ね

ああほら、彼処に居る子

あの子の首輪が見える?」


「え~と…黒と黄色の縞々の首輪ですか?」


「そう、それ

あの首輪は近くにある御茶屋の専住猫(・・・)の証よ

だから、同じ首輪の子が何匹も居るわ」


「…………本当です、彼方等にも此方等にも…」


「御店の中に居るだけじゃなくて、此処にも自由に行き来しているから、此処で知り合った人が御店の方に足を運ぶ事にも繋がる

新しい御客を呼び込む切っ掛けにもなるのよ

猫が好きでも飼えない人も少なくないわ

飼う以上は、一つの生命を背負う覚悟が必要…

だから、簡単には飼えないし、飼ってはいけない

そういった意識が曹魏では民の間にも根付いている

だから、猫に限らず無責任な飼い主は居ないわ

その代わりに、こういった形で繋がれる場が有る

そう遣って、人と猫が御互いに助け合っている

それが、この猫広場なのよ」



蓮華様の御話を聞きながら、心から感嘆します。


私は御猫様が好きですが、自分では飼えません。

勿論、飼いたいという気持ちは有りますが、実際に飼うとなると御世話が難しいのが実状です。

人を雇い、任せれば可能では有りますが。

それでは、御猫様は単なる愛玩物。

書画や骨董品を集める人達と同じです。

…いいえ、生命を物として見ている分、酷いです。

だから、私は自分では飼っていません。


そんな、私と同じ思いを、覚悟を持つ曹魏の人々。

私にとっては、此処は正に理想の国です。

…正直、物凄く住みたいと思っています。

住めなくても年に一ヶ月程で良いので仕事を離れて思いっきり癒されたいです。



「それと、殆どの子達が避妊と去勢をしているわ」


「………?、それは何でしょうか?」


「要は子供を増やさない為の処置よ」


「………ぇ?」


「此処に…いいえ、こういった場所に居る子達は、その殆どが元は野良猫なのよ

だから、何もせずに放置してしまうと繁殖するわ

それが自然な事だから

だけど、それは社会の中では問題になるの

「可哀想…」と言う人達も居るでしょうけど…

でも、その人達は無責任よね?

そう言うだけで何もしないわ

どんなに尤もらしく、道徳的には正しい事だろうと行動と結果が伴わなければ詐欺師と同じよ」



蓮華様の言刃(・・)が胸に刺さる。

別に、その事を批難している訳ではないし、反対を口にした訳でもない。


ただ、それでも。


私の中に有った気持ちが、独善的で無責任なのだと気付いてしまったから。

自分が何か悪事を働いた訳でもないし、罪を犯したという訳でもないのだけれど。

そうなのだと気付いた。

それ故に、自分の考え方を、価値観を恥じる。


誰しもが、そう思う訳ではないのでしょう。

そう有るべきだとも思いません。


ただ、私の場合には自分の立場が大きく関わる。

人々の、民の上に立つ立場に有る身。

その私が、背負うべき生命を軽んじる。

そんな事は許されない。

許されてはならない。

だから、私は自らを恥じ、改めなくてはならない。

そうする事が、より良い国を築く事に繋がる。

その事を、此処で学んだ。


目の前に有るのは理想であり、確かな現実。

全く同じである必要は無い。

少しでも理想に近付け、実現する事が出来る様に。

考え、動き、試し、成してゆく。

私の、私達の代だけでは不可能かもしれない。

だけど、それでも構わない。

次代に託し、未来に繋げ──軈て、成ればいい。

焦る必要など無い。

一歩ずつ前に進み。

一つずつ積み重ね。

そう遣って、皆で作ってゆく。

それこそが、本当の意味での社会なのだと。



「…まあ、子和様は滅多に来られないのだけれど」


「………え?、どうしてなのですか?

…………ま、まさか、御猫様が嫌い…とか?」



蓮華様の言葉にも吃驚ですが。

もし、そうだったとしたら…驚愕の事実です。

何しろ、嫌いな御猫様の為に、此処までされているという事になりますから。

………本当に御嫌いなのでしょうか?。



「子和様が来ると、此処の子達が集まり過ぎるの」


「………………え?」


「此処の子達は元は野良猫で、怪我をしたり、病気だったり、飢えて痩せていたり、親を亡くした仔猫だったりと訳有りが多くてね…

その子達を拾って保護して面倒を看たのが子和様

だから、此処の子達にとっては大恩人なのよ」


「それで、曹純様がいらっしゃると集まるから…」


「ええ、もう猫の軍勢が出来る程よ

まあ、「その光景を見られたら幸運」と言われる程珍しい事だし、微笑ましいのだけれどね」


「そうなのですか?」


「この辺りには今、見えている三倍は猫達が居て、その子達が群がって子和様に甘えているのよ

小さい子供達が集まっている様な感じでね

だから、ちょっとした縁起物(・・・)扱いなの」



蓮華様の話を聞きながら想像し──胸が高鳴るのを抑え切れません。

その曹純様の御姿を見たい気持ちも有りますが。

もし、私が同じ様な状況に置かれたなら…。

そのまま死んでしまっても、私は後悔しません。

ええ、本望とさえ言えます。



「ただ、そんな状況になるから護衛は大変なのよ

別に襲われる訳ではないのだけれど…

誰かが介入しないと猫達が解散してくれないから

子和様も時々、各々の御店には顔を出されるけど、広場の状態を御自身で確認されるから…

その時が大変なのよ

…どうしてなのか、必ず猫達は集まってくるしね

子和様も気配を消したり、匂いを誤魔化したり…

色々と試されているのだけれどね…

ある意味では、私達よりも手強い相手よ」



そう仰有る蓮華様の御猫様達を見る眼差しは鋭く。

何処か敵視……いえ、対峙している様に見えます。

ちょっと私には理解が出来無い事ですね。


それはそれとして。

今、蓮華様は護衛(・・)が必要だと仰有いました。

ええ、危険だから、という理由ではなくてです。

──という事はです。

その護衛、私にも可能という事ですよね?。

特に武力等が必要な訳ではない筈ですから。

取り敢えず、訊いてみましょう。

訊くだけなら、タダですから。



「あの、蓮華様、その護衛、私も出来ますか?」


「………え?」


「此処に曹純様がいらっしゃる際の護衛です

私でも遣らせて頂けますか?」


「…本気……なのよね、貴女なんだし…」


「駄目、でしょうか?」


「そうね…私の判断で許可は出せないけれど…

貴女が希望すれば出来るとは思うわよ

貴女なら猫達を傷付けたりはしないでしょうし」


「はい、大丈夫です!」



噛まれても、引っ掻かれても大丈夫です。

痛いからといって怒ったり、反撃はしません。

御猫様に会うては御猫様に従え、です。

御猫様を傷付けたりは致しません。



「ただね、一つだけ問題が有るわ」


「…っ…それは一体…」


「今の子和様の傍には姉様が居る、という事よ」


「………………」


「姉様、昔っから猫にだけは懐かれないのよね…」



…そうでした。

雪蓮様は何故か御猫様達から威嚇され、攻撃され、逃げられるのでした。

その雪蓮様が、曹純様の侍女として御側に。

その状況では流石に…。

ですが、そうなると今回の滞在中には不可能に…。

うぅっ…どうにか為りませんかね?。

その時だけ、雪蓮様には別の御仕事をして貰って、曹純様の御側を離れて頂く事が出来れば…。


──side out




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