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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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曹奏四季日々 25


 孫策side──


──十一月二十三日。


曹純との賭けの代償であり、発芽病の治療方法等の対価として、私は曹純に奉仕する事になった。

目の前に吊るされた御褒美(エサ)に目が眩んだ結果なので言い訳も出来無い。

自業自得なんだしね。

当初よりも期間が延長されたけど、御世話になった対価として安い。

破格と言ってもいい条件だと言える。

それで済むのだから拒む理由は特に無かった。


だから、それ自体には問題も文句も無いわ。


ただ、事前の準備という事で詠達から侍女としての振る舞いや作法や言葉遣いを叩き込まれた。

間違うと頭を叩かれたり、手を叩かれたり、お尻を叩かれたりした。

ペシペシと容赦が無かった。

………日頃の恨みとか込もってないわよね?。


まあ、直ぐに言い訳したり、口答えばっかりして、反省や謝罪をしない私が悪いんだけどね。

つい、昔からの癖で誤魔化そうとしちゃうのよ。

ええ、自分が悪いって自覚は有るのよ。

ただ、それを直せって言われてもねぇ…。

癖って簡単には直せないし、簡単には直らないから癖な訳でしょ?。

うん、これも言い訳だって判ってるから。

判ってるから、その竹の鞭は下ろして…ね?。

ちゃんと真面目に取り組んではいるわよ。

ちょ~っとだけ、面倒臭いけど…──って痛っ!?。

ちょっ!、わ、判ってる!、判ってるからっ!。

これが大事なんだって判ってるわよっ!。

「それじゃあ、集中して真面目に遣りなさい」って言われると……逆に遣りたくなくならない?。

──ヒィッ!?、ごごご御免なさいっ、遣ります!、本当に真面目に遣りますからっ!。

はいっ、本当の本当に本当です。

………エ?、出来るまで御酒抜き、御飯抜き?。

それは横暴──痛ァッ!?、わ、判ったわよっ!。

見てなさい!、本気になったら、これ位は楽勝よ。

私にだって出来るんだからね!。

………………………ぁ、あれ?。

お、可笑しいわね………もう一回!。

次は、ちゃんと出来るんだからっ!。




──といった事が有って。

私は期間短縮と引き替えに開始時期が早まったので曹魏に遣って来ました。

初めて王城──曹操達の住む城を見たのだけれど。

…何?、この大きさは。

高さも幅も奥行きも広さも信じられないわ。

そして、王都である晶の規模も桁違い。

漢王朝の王都だった洛陽が幾つも入る程。

…え?、こんなに凄かったの?。



「本当に自由に出来ていると思っていたんですか?

まだ当時は敵対する立場だったんですよ?

その姉様に好き勝手な行動を許すと思いますか?」


「………思わないわね」


「姉様が気付いていなかったというだけで実際には姉様の行動範囲は限定されていたんです

勿論、気付かれたら意味が有りませんから、今まで姉様が気付かなかった事は当然の結果です」



そう蓮華に言われて、納得。

よくよく考えたら、最初から捕捉されていたんだし誘導されていても可笑しくはない。

ただ、あの時は華佗も一緒だった。

でも、逆に言えば、その華佗が目眩ましだった。

華佗に親切であり、特級の待遇をしているのだから華佗に対し、ふわっとした事を言えば誘導は簡単。

時には具体的な情報を与える事でも誘導可能。


…うん、絶対に逆らっちゃ駄目よ、雪蓮(わたし)

変に勘繰ったりしても駄目。

仕事中の事に関しての疑問は別にしても。

私自身が曹操達を絶対に信頼する事が大前提。

それを欠いたら、破滅する未来しかないわ。

此処での我が儘や甘えは即死に等しい愚行。

詠、皆…「大丈夫、任せなさい」とか簡単に言って御免なさい。

私は死ぬ気で頑張ります。

だから、帰ったら優しくして頂戴っ!。

ずっとなんて事は言わないからっ!。

一ヶ月──いや、二週間でいいからっ!。

…………え?、長い?。

………じゃ、じゃあ、十日。

……まだ?、それなら五日で。

……………グスッ……ぃ、一日で構いませんから。

……はい、はい!、宜しく御願いしますっ!。


──と、私は心の中で、凄い顔で上から睨んでいる詠の前で土下座をして頼み込んだ。

勿論、これは現実ではないんだけどね。

帰った時の交渉の予行演習(・・・・)よ。

帰るまでには、三日を勝ち取れる様にはしたいわ。



「………姉様?」


「ちゃんと聞いているわよ」


「そう言う時の姉様は一番信じられません」



──ぅぐっ…誤魔化そうとしたら、見抜かれた。

流石は我が妹ね。

伊達に姉妹じゃないわ。

はい、ちゃんと聞きますから。

だから、そんなに怒んないでっ!。




今日から生活する自室に案内され、一息吐く。

真っ先に思い返すのは蓮華の事。

妊娠している事は知っていたんだけど改めて実感。

妊娠し、身重だと言っても少し、ふっくらとした。

そんな感じだから私の出迎えに来てくれて、道中で街を軽く案内してくれた蓮華。

移動中の馬車の中で御腹を触らせて貰ったんけど。

………んー…流石に、まだ判らないわね~。

妊娠している蓮華自身も「そうだと思います」って苦笑していたしね。

本人も自覚し難いって事を知れたのは大きな発見。

私にとっても勉強になるわ。


でも、其処に新しい命が宿っているのは感じる。

それは血の繋がりなんでしょうね。

私にとっては甥か姪になる訳だし。

素直に嬉しいし、喜ばしい事。


ただ、その一方で羨ましくも有る。

愛する(ひと)の子供を身籠り、産めるのだから。

同じ女性として羨ましくない訳が無い。


……まあ、そう思えるのも今だからこそよね。

昔の自分──私自身が、今の私を見ても信じない。

だって、その私は祐哉と出逢ってはいないから。

出逢う前の私に、その願望──想いは薄い。

いいえ、殆んど無かったに等しいと言える。


祐哉に出逢い、祐哉に惹かれ、私は変わった。

でも、私が私でなくなった、という訳ではない。

…まあ、そういう自分自身の変化に戸惑う気持ちも実際には有ったんだけどね。

それも含めて、良い意味での変化だと言える。


──なんて、他所様の御城に御世話になりながら、そんな事を考えてる自分が少し恥ずかしい。

誰かに見られているという訳でもないんだけど…。

蓮華の妊娠に感化された…のかな?。

う~ん……判らないけど、否定も難しいわね。

勿論、それ以前から祐哉との子供は望んでるけど。

こればっかりは祐哉達とも話すけど授かり物だし、どうしようもないんだけどね~。


因みに、興味本位で蓮華に訊いてみた。

「貴方達の使う氣って、妊娠も可能なの?」と。

蓮華の答えとしては半々。

それが出来るのは曹純と、その妻達だけらしい。


しかし、曹純の思想──まあ、方針ね。

それによると、子作りは自然に(・・・)なんだとか。

そういう所って天の世界(彼方)の常識なのかしらね。


まあ、それはそれとして。

所謂、精力増強(・・・・)的な事は可能らしいわ。

だけど、それは曹純に限っては不要との事。

何でも、妻全員を一夜で相手する事も度々。

今は妊娠した者が外れているし、予定外(・・・)の妊娠者が出ない様に調整(・・)しているんだとか。

それでも、祐哉の倍以上の妻が居るらしいから…。

曹純、恐るべし、よね。


………私達、祐哉に無理はさせてないわよね?。

大丈夫よね?、本人も遣る気だし、元気だし。

…あ、でも、穏に関しては………うん、まあね。

穏は別枠よね、ええ、そうよね、そう。



「………明命、大丈夫かしら…」



現実逃避ではないし、忘れていた訳でもない。

今回、私に同行する者として唯一認められたのが、実は明命だったりする。

その明命は来賓扱いなので私とは別室。

曹純に侍女として仕える私とは違い、蓮華への御客という立場で扱われると教えて貰った。


だから、私は明命に対しても侍女として接する。

「いいですか?、明日からは姉様は一侍女ですよ。其処を御間違え無き様に」と念押しされた。


当然、祐哉や詠達にも散々言われて来ているわ。

色々と思うけど…反発は一切しない。

蓮華にしても、本来であれば嫁いだ身。

況してや、今は曹純の子を宿している訳だしね。

本当だったら、そういった指摘もしないのが無難。

その上で、私達や孫家(実家)の事を考えての発言。

それを邪険にする程、私も馬鹿じゃないわ。


…まあ、私よりも明命の方が心配なんだけどね。

御互いの立ち位置が違い過ぎて、緊張と動揺が凄い事になっていたしね~…。

こればっかりは、頑張って貰うしかないわ。


でも、羨ましいのは此方等の鍛練への参加許可ね。

私は侍女として見学──側に控えている所まで。

実際に参加する事は出来無い。

見るだけなんて拷問にも等しいけど…仕方無いわ。

私は侍女として仕える身なんだから。

………まだ時間は有るわよね?。

今日の内なら、ギリギリ御客扱いじゃない?。

…うん、一応は、大丈夫じゃないかしら?。

屁理屈だって言われたら否定出来無いけど。


部屋を出て、適当に誰か探してみようかな?。

誰でもいいから、手合わせしてくれないかな~。

………やっぱり、駄目よね~…。

脳裏に滅茶苦茶怒ってる詠の顔が浮かんだもん。

バレたら拳骨で済むとは思えないわね…。

仕方無いわね…諦めましょう。


──って、考えていたら、扉が叩かれ(ノックされ)る。

返事をして扉を開けたら──曹純が居た。


「まだ夜の御誘いには早いわよ?」とか言いたいと思ってたら、問答無用で笑顔でデコピン(・・・・)された。

全く反応が出来無かったし、滅茶苦茶痛いっ!!。

何それっ!、半端無いんですけどっ?!。


額を押さえて踞りながら涙目で見上げて抗議。

「自業自得だ」と言いた気な曹純の眼差し。

うん、詠を始め、祐哉も時々するから判るわ。

今のは余計な事を考えた私が悪いんだって。

でも、口には出さなかったわよ?。

…それはまあ、考えただけで冗談としては笑えない事だったけど…。

…うん、そういった事を考えてたら、何かの拍子にポロッと言っちゃう可能性は否定出来無いわ。

だから、考える事自体に問題が有る。

はい、済みません、私が迂闊でした。



「はぁ……これなら来ない方が良かったか」


「え~と……どの様な御用件で?」


「明日からの御勤め(・・・)に集中して欲しいからな

これから少し手合わせでもと思ったんだが──」


「──私が愚かでした!、御許し下さいっ!!」



曹純が言い切る前に即座に土下座で謝罪。


ちゃんと祐哉から教えて貰ったわ。

手を揃え、額を地面──床に付けて、亀の如く。

低姿勢は勿論、身を縮めて小さく。

けれど、謝意は大きな声で簡潔且つ確実に。

余計な事や打算は考えず、誠心誠意に。



「…判ったから、頭を上げろ」


「はっ!、有難う御座いますっ!」



「気が変わらない内に!」とか考えない。

絶対に考えたら駄目。

だって、曹純は蓮華や詠達並みに──いいえ、多分それ以上に敏感に察する筈。

そうじゃなきゃ、あの蓮華が落ちる訳が無いわ。

それに曹操達を娶ってる上に束ねているのだもの。

その辺りの敏感さは必要不可欠でしょうからね。

ええ、私も伊達に経験(・・)は積んでいないわよ。



「…胸を張れる事ではないと思うが?」



そう言われて、サッと外方を向いた。

意識的に、と言うよりも、反射的にね。

そんな自分の反応に気付くけど、恐くて躊躇う。

だから、チラッとだけ視線を向ける。

曹純が溜め息を吐きながら説明してくれる。



「賈駆達から奉先の事は聞いていないのか?」


「…え?、呂布?………え~と…感情や表情が判り難いって話…で有ってる?」


「ああ…で、その奉先が宅には居るからな

だから、慣れてくると御前は物凄く読み易い(・・・・)

全裸(・・)で舞台に上がっている様なものだ」


「……………」



「そんな大袈裟な~…」と言いたい。

言いたいけど──冗談ではないのが判る。

判ったから、心の中で蓮華にも土下座で謝る。


「何を遣っているんですか、姉様っ!!」と。

折角、事前に忠告(・・・・・)してくれていたのに。

…コレだし。

蓮華にバレたら絶対に怒られるわ。


──side out



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