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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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曹奏四季日々 18


 楽進side──


──十月十九日。


日常が日常へと戻った様に感じる今日この頃。

皆の様子も落ち着いてきました。

私達は雷華様の孫家訪問に同行していた事も有り、皆とは飢え具合(・・・・)が違いはしましたが。

それはそれ、これはこれです。

渇き(・・)というものは簡単には満たされず。

充たされた側から再び渇いてゆくもの。

つまり、終わりなど有りはしない訳です。


それでも、この十日程は皆に配慮していました。

特に流琉は気を遣っていましたね。

仕方が無い事では有りましたが、何だかんだで一番雷華様と一緒に居られた訳ですから。

流琉も、その辺りは判っていますからね。


まあ、その上で雷華様が上手く配慮して下さるので流琉も私達も皆も不満という不満は残りませんが。

思い出、という面では流琉や私達は一つ特別な事を経験した事になりますからね。

その点では、皆にも思う所が有る様です。



「私達で小旅行?」


「ああ…まあ、旅行と言うよりも旅に近いけどな」



そんな訳で雷華様が企画・提案された催し。

参加者は雷華様と妻である私達のみ。

飽く迄も、夫婦水入らずで、という事なので。

他の方々が遣りたい場合は後日、という事で。

まあ、雷華様だけは其方等にも参加せざるを得ない事は言うまでも有りませんが。


夫婦水入らずで、とは言っても一度に全員で、とは家庭内・職場的な事情から不可能なので。

数回に別れて、という形になっています。

華琳様は最初の組に、他は妊娠している者と残りを均等に分けて組を作るのだそうです。

尚、組分けは雷華様が御決めになるそうです。

ですから、華琳様を含め、全員が含まれている筈の何かしらの意図を探ってしまいました。

そうなるのも仕方が無い事でしょう。

多々、そういった経験が有りますので。

実際には、今回は意図は無いそうです。

流石に雷華様も華琳様達が妊娠中という事も有り、そういった事は遣らないと仰有いました。


そんな話を聞いてから、旅をするという説明に。

華琳様が微妙に渋い顔をされるのも当然でしょう。

安定期に入られているとは言っても大変そうです。

それで、彼方等此方等移動するとなると…。

まあ、ちょっとばかり億劫になるのでしょう。



「…旅行と何が違うのよ?」


「旅行の場合は基本的に街中だ

その地の名所や人気店等を巡ったりしての観光

一方、今回俺が言っているのは旅だ

以前、一緒に俺と一緒に旅をしていた頃の面子には懐かしい話になるだろう」



そう雷華様が言えば古参である面々が納得する様に顔を見合せ、「あー…」と声を漏らす。

私も皆さんから話を聞いて知ってはいます。

そういった旅を雷華様と出来たのは羨ましいので。

正直、私は楽しみです。

当時の皆さんは夫婦では有りませんでしたから。

そういった点での違いも大きいでしょうから。



「だったら、尚更に今の私達には微妙な話ね…」


「実際には本格的な旅をする訳じゃない

旅の野営をする様に自分達だけで過ごすんだ」


「………それ、何が楽しいの?」


「…まあ、そうなるんだろうけどな」



「そうだよなぁ…」と言いた気な雷華様の苦笑。

華琳様以外でも、私達の反応は二つに分かれます。

六割は華琳様と同じ感想の様です。


ただ、華琳様も判っていて言っています。

何しろ、雷華様が私達との新しい過ごし方として考えて下さった事ですから。

華琳様も楽しみに思っていない筈が有りません。

ですが、最初に反対意見や否定的な印象を持つ事が悪い様に思ってしまい、飲み込む事は有ります。

そうさせない為に、華琳様は敢えて自らが代表して対立意見を出す事で配慮して下さいます。


勿論、立場が逆なら雷華様が対立意見を、です。

その在り方を間近で見ていればこそ。

御二人に甘え過ぎては為らないと思います。

私達が──私が、そう出来る様に為らないくては。

御二人と同じ場所に立てはしませんので。


それは兎も角としてです。

雷華様の提案された催しですが、行き先は山と海の二ヶ所を考えていらっしゃるそうです。

何方等に行くのかは、組分けが決まった後、各組の代表者による抽選(・・)によって決めるそうで。

敢えて、思い通りにはならない要素が入る辺りに。

雷華様らしさが感じられます。


結局、反対する者も無く、決まった訳ですが。

今回の催しに関しては引き継ぎや日程の調整以外は私達は一切関わる事が出来ません。

…いえ、それはまあ?、今回に限らず、雷華様主催という場合は大半が私達にも内緒になっていますし私達が主役──私達の為に催される場合は詳細等は一切知らされませんから。

そういう意味では華琳様も含め、慣れています。

慣れていますが、先の雷華様の現場主義問題も有り華琳様を含む半数は表情が渋いのも当然。

ですが、断ったり止めさせる事も出来無い。

そのもどかしさからの渋さですから。

世の中は、儘ならない事ばかりであり。

完璧や絶対というものは無いのだと。

そう思わずには要られません。


尚、話し合いは提案──発表と、了承──参加する意思確認をしただけで終わりました。

「全ては当日の御楽しみだ」と。

そう雷華様に笑顔で言われては逆らえません。

……あの笑顔は卑怯ですから。




話し合い──というよりかは発表が終わり、解散。

私は元々雷華様と一緒に視察に出る予定でしたから雷華様と一緒に動いています。

先程の話した直後なので話題も当然の様に。



「凪は楽しみにしてくれているみたいだな」


「……顔に出ていましたか?」


「出掛けるのを楽しみにしている子供みたいな眼で話を聞いていたからな」


「~~~~~っ」



そう雷華様に言われ、急に恥ずかしくなる。

それは今までも恥ずかしい事は多々有りましたし、思い出す事すら避けたい様な事も有りました。

慣れも有り、最近は恥ずかしく思う事は余程突飛な事でもない限りは恥ずかしくは思いません。

……いえ、特定の方面では恥ずかしさに慣れる事も出来無い、という事は有りますが。

それは特殊な事ですからね。

ええ、特殊だから無理なんです。


──という話は置いておくとして。

実際、そういった事以外で恥ずかしいと感じたのは久し振りかもしれません。

勿論、雷華様に褒められたり、揶揄われたりなど。

健全な意味合いで照れたりする事は有りますが。

照れる事と恥ずかしい事というのは似てはいても、同じでは有りませんので。


その為、普通に恥ずかしくなるのは久し振りです。

しかも、これから子供を、という年齢で、です。

色んな意味で恥ずかしさが後々増してきます。


──と、思わず俯いた私の頭を雷華様が撫でる。

手を置かれただけでも反射的に意識が切り替わる。

自然と、そうなるまでに染み付いている。


それを歓喜や快楽の様に考えるのか。

或いは、惰弱や調教・支配と考えるのか。

それ次第で捉え方・感じ方は異なるのでしょう。

勿論、私にとっては前者でしか有りませんが。

無責任な発言をする無関係な他者というのは穿った見方をするのかもしれません。


まあ、そんな風に考えてしまう私自身も。

後者に対して同じ様に思っている事は否めません。

それが人の性、人間社会の負の側面なのでしょう。

どんなに好ましくはない事だとしても。

それが否定出来無い事実でも有るのですから。


──といった感じで、思考が別方向へと変わる。

変わる事で感情の起伏も変わる。

こういった精神的・思考的な切り替えを技術として身に付ける必要性を説かれたのも雷華様。

ですから、私達も嫌だと思う事では有りません。

もう、無くせる事ではなくなりましたから。



「見方によって捉え方は色々有るけどな

彼方等(・・・)では、そういう娯楽(・・)も有る」


「…信じ難い事ですが…それが娯楽なのですか?」


「まあ、社会や文化の価値観や水準が違うからな

市井の者からしたら手の届かない事は贅沢だ

逆に、それが当たり前な環境に有る者からしたら、市井の者の普通が珍しい事だったりする

それと同じ様に無い物強請り(・・・・・・)は常にある」


天の世界(彼方等)では、旅が娯楽に?」


「そうだな」


「………流石に価値観の違いを感じます」



「そうだろうな」と言われる様に雷華様は苦笑。

別に雷華様も私や皆に、その価値観を押し付けようとしている訳では有りません。

飽く迄も、説明の為に、ですから。

その辺りは、当事者と他者とでは捉え方・感じ方が異なるだろう事は仕方が有りません。


まあ、誰かに話す事では有りませんが。

話したとしても理解出来無いでしょうから。

雷華様が何故、華琳様以外には何も仰有らずに事を運んでいたのかも今なら解ります。

…話を聞いた当初は不満に思う事も有りましたが。

それはまあ…その…仕方が有りません。

ある種の嫉妬でしたから。

こればかりは自分自身でも御せませんから。



「彼方等では開発や開拓が進み過ぎた(・・・・・)結果、自然が世界規模で失われてしまっていてな

人々にとっては、限り有る自然の中で過ごすという事自体が一つの贅沢であり、娯楽にまでなった

それに世の中は仕事中心の社会でな

気儘に旅を──まあ、小旅行とかでも構わないが、そう簡単に出来無い位に人々は働いている

勿論、世の中を支える上では労働は必要不可欠で、それ自体は大事なのは言うまでもないがな

だが、人類は繁栄や発展を追い求め、成し遂げた

その先が、自分達の首を絞める事になる世の中へと向かっているとは考えもしなかったんだろう…

気付いた時には後戻りも遣り直しも出来無い

そんな世の中になってしまっていた訳だ」


「…客観的な感想ですが、皮肉な話ですね」


「ああ、本当にな、皮肉でしかない

「より良い社会を」と宣い、尽力していた筈なのに結果的には人々は生活する為の生活に囚われた

まるで、重労働を強いられる犯罪者の様にだ

そして、休めば職を失い、生活する術が無くなる

それ故に仕事は休めず、休みは休息の為に使う

娯楽等に時間を好きに使える者は限られている」


「有力者や富豪といった者達ですか…」



其処まで聞けば、私にも社会構造は想像出来る。

そういう所は、国や時代、世界が違おうとも。

人が人であり、人が築く社会であるなら。

結局は大差の無い事なのでしょう。


貧富の差は、自由の差。

それが金品なのか、時間なのか。

その違いが有るというだけで。

構図自体は何の違いも無い。

私が、私達が見て来た、生きてきた世の中と。

見た事も無い、天の世界の世の中は。

所詮、その程度でしかないのでしょう。

大した違いの無い。

人が築いた世の中なのだと。

そう感じずにはいられないのですから。



「尤も、そんな人類の歴史(失敗)を見て来ているからこそ俺や小野寺は違う未来を目指せる

どんなに想像し、備え、繋ごうとしても…

人の意志は絶対や不変ではないからな

その上で、繋ぐ事を続けなくてはならない

それが、どんなに難しく、厳しい事なのか…

それを理解しているのも俺達だろう

だから、皆にも少しでいいから知って貰いたい

異なる価値観には、必ず、其処に至る経緯が有る

それを知る事で回避出来る失敗や過ちは有る事をな

…まあ、これは飽く迄も此処だけの話だけどな」


「はい、判っています」



真面目に、真摯に、真剣に。

曹魏の、人々の、世界の行く末を。

憂い、考え──そして、実行し、成して行く。

その確固たる覚悟を、意志を垣間見せながらも。

最後は、子供が仕掛けた悪戯を隠すかの様に。

無邪気な笑顔で私に口封じを成される。


勿論、私に否は無く。

寧ろ、私一人だけが知る事を許された事に歓喜し。

ちょっとした優越感と、甘い罪悪感を懐いて。

先程よりも、その時が訪れる事を楽しみに思う。


──ですが、人は欲深い生き物です。

私も、少なからず欲深さを持っていますので。

自分の欲求に、素直になる事も有ります。

幸い、今日の視察は早く終わるでしょうから。

偶には、私も御強請りをしてみるとしましょう。

…本当に、偶には、です。



──side out



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